ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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詰め込み過ぎて長くなりました…
適度に休憩を挟みながら見るのをおススメします


ある男の結末

 

 

 歴史に残るであろう邪神と人類との戦いは人類の勝利で終わった。

 

 消えていく使徒を目にした人々は誰ともなく勝利の雄たけびをあげ自分たちが勝ったことを実感したのだった。

 

 勝利の勝鬨は大きく世界を揺るがすのではないかと思わせるものだった。何せ、それぞれ重傷などの負傷者がいるにもかかわらず人類に死傷者は一人も出なかったからだった。疲労感こそ山ほどある物の見知った顔や戦友たちが皆同じ朝日を拝めるという事実を知った人たちに喜びようはとても大きかった。それほど使徒との決戦は凄まじかったのだ。

 

 

 

 勝利の余韻に打ちひしがれそれぞれが希望を分かち合っているときに幼いながらも威厳を纏った声が戦場跡地に響き渡った。

 

 声の主はランデル=S=B=ハイリヒで、この戦いの総指揮官でもあった。何事かと顔を見合わせる人々に対してランデルは宣言した。

 

『今夜はハイリヒ王国が全力を挙げて勝利の宴をする。人類の新しい明日を祝うため種族や身分を問わず参加してほしい』

 

 と言う旨の宴の宣言だった。これにはまたもや歓声が響き渡った。皆誰かと勝利を祝い喜びを分かち合いたかったのだ。歓喜は音となって爆発し、誰もが肩を組み手を取り合って大いに笑い喜び、勝利を祝おうとするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 宴は城と城下町、平原を大勢の人が埋め尽くして皆大いに騒いだ。城には国家の重鎮や各町の代表等の主要なメンバーが集まり、街には民が盛大に歌い騒ぎ、平原では平和のために戦った戦士たちが種族を問わずして大騒ぎをしていた。

 

 ハジメ達もまた勝利に多大な貢献をした者達として城へのパーティーに誘われた。何故、戦争が終わった後にこんな大騒ぎができるのかとか、何時の間に用意をしたのだとかの疑問は招いたランデルが説明をした。

 

 料理や酒、宴を盛り上げるものはすべて神への脅威を各町へ説明をしている間に準備を進めていたと言うのだ。負けたときどうするのかと問われれば

 

『何を言っておる?そなた達が負けるはずないであろう?』

 

 と、不思議そうに言われてしまいこれにはハジメたち全員が苦笑してしまった。そのまま、疲れた体を引きずりながらもパーティに参加することとなった。準備が整うまでの間、時間がかかると聞いたハジメ達はティオの言葉で次の行き先が決まった

 

 

「寄るべき場所がある。皆着いてきて来れぬか」

 

 そうティオに言われ王城の一室に案内された。部屋は薄暗く、ランタンの光がほのかに部屋を照らしている中、ベットで寝かされている人物が居た。

 

 その人物は包帯で全身を巻かれ寝かされていた。体中に走る傷跡は包帯で隠せておらず痛々しい姿だった。胸が上下して居なければ死んでいるのではないかと疑う物であった。

 

「清水…」

 

 その顔に見覚えがあったハジメは思わずつぶやいた、寝かされていたのは清水幸利だったのだ。左目を包帯で覆われているが顔に死相は浮かんではいない。ただ今は静かに寝ているようだった。

 

「あの時、空間がひび割れてきた時にミレディがやってきての、その時に清水を連れていて…」

 

 何があったのかを説明するティオ。フリードとの戦いが終わった後空間が鳴動した時にミレディがやってきたのだ。脱出のゲートを開いてくれたミレディ、その背には負傷した清水が背負われていたのだ。

 

「エヒトを探している内に呼び寄せられるように清水を見つけたと言っておった。周りには腐乱した肉塊が転がっていて…そこで清水だけが傷を再生されながら生きておったのを見つけたのだと」

 

「清水さんの負傷は酷い物でした。体中が腐っていて…ユエさんとティオさんがミレディさんに聞いた話を纏めたらイシュタルもろとも清水さんは自爆をしたという事だったのです」

 

「でも清水は生きている。イシュタルを巻き込んでおきながら自分だけ助かる方法を選ぶ余裕はない筈。…コウスケ、清水が生きているのは貴方が手を貸した?」

 

 ティオに続けてシア、ユエが補足する。清水は決死の覚悟でイシュタルを倒したのだと。そしてその負傷はなぜか徐々に回復の兆しを見せているのだと。

 

 ユエに話を振られたコウスケは、ふっと笑った。確かにユエの言う通りコウスケは保険を作ったのだ。

 

「俺の技能『快活』体力や気力、傷の回復を早める技能。これを清水と別れる前に清水に渡した。気付かれ無い様にだけど」

 

 コウスケは清水と別れる瞬間、技能『快活』を清水に埋め込んだのだ。もしもの事を考えての事だった。使わなければそれでいいと考えていた。結果コウスケの渡した『快活』は清水を助ける事となったのだ。

 

「…やっぱりあの時皆でイシュタルをボコればよかったのでは?」

 

「それが確かに一番正解で、正しいんだけど…男の子には意地ってモンがあるんだ。それを考えると、な」

 

 ユエが後悔を滲ませながら極めて正論を言えばコウスケは難しい顔をする。選択は確かにできた。だが清水に任せたのは誰でもない自分たちで…ハジメが苦い顔をしながらもコウスケの言葉にうなずいた。

 

「分かる気がするよ。どうしても男ってのはカッコつけて意地を張りたくなる時があるからね…清水はあの時がそうだったんだよ」

 

「…私にはわからないよ」

 

 対して香織は本当に分からないのだと小さくつぶやいた。清水が無事でよかったがここまで怪我をしなくても済んだのではないか、と言う考えが皆牡頭をよぎってしまうのだ。

 

 そんなときパンパンと手を叩く音が聞こえた。誰かと思えばノインだった。

 

「ここで暗い事を考えるのはそこまでです。結果として清水様は無事だった。負傷はしましたがマスターの『快活』は呪いの様に清水様を快復させるでしょう」

 

「呪いの様にって、ひでぇ」

 

「事実です。貴方が清水様を見殺しにするはずなんてできる筈がありませんから。それよりそろそろ勝利の祝杯の時間が迫ってます。清水様はここでこのまま安静にさせるとして私達も移動しませんと」

 

 ノインはそう締めくくると移動を進めてきた。確かにこのまま負傷者の前で益のない話をしても意味が無かった。香織が清水の怪我の回復のため再生魔法を唱えようとするがノインに止められてしまう。

 

「今治しているのに下手に手を出すのはよくありません。何事も時間が必要な時があるのです。…何事にもね」

 

 と言われ、香織は渋々ながらも再生魔法を使うの止めた。代わりとしてティオが念のため清水の傍にいる事にした。

 

「傍に誰もいないと言うのは寂しいからのぅ。妾はここにいるから他の皆は行ってくると良い」

 

 後ろ髪が引かれる思いでもあるが居たところで何かが変わるわけでもない。ハジメ達はそう考え清水の部屋を後にするのだった。

 

「…お主を心配する者がいる。それは何よりの幸せな事かもしれんの」

 

 ハジメ達が去ったあとティオは眠る清水に優しく語り掛ける。

 

「今は少し休むがよい。お主は本当によく頑張った。だから少しだけ眠るが良い。…妾がそばに居るからな」

 

 眠る清水の頬をそっと撫でるティオ。その笑みと視線は慈愛に満ちたものだった。だからティオは清水の指がピクリと動くのを気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、パーティーは順調に行われた。主催のランデルは壇上に立つと改めて勝利の祝杯と戦った者達を労った。各町の代表や支援をしてくれたもの。種族の垣根を超え共闘してくれた亜人族たちや竜人族に感謝の言葉を送り今度こそ平和が続くようにと宣言をした。

 

 パーティーにはハジメのクラスメイト達もいた。場違いではなかろうかと不安そうにしている物もいたが会場にいる者達はさほど気にせず皆参加を快く祝福してくれた。

 

「…ランデルが気を回してくれたのかな?」

 

 とはハジメの推測だった。戦いは終わり戦争は無くなった。ならばせめてトータスと言う世界が恐ろしい世界では無かったという被害者に対する詫びの様なものだったかもしれないというのがハジメの考えだった。詳細は分からないがランデルが気安く畑山愛子と会話をしているところを見るとそうなのかもしれなかった。

 

 

 コウスケは一人、パーティ会場の中をうろついていた。そばには誰も居なく、それぞれ仲間達は思い思いの場所へと散っていった。

 

 ハジメと香織はクラスメイト達に囲まれていた。どうやらエヒトとの戦いの武勇伝をせがまれているらしかった。坂上龍太郎が筆頭にしてハジメに対して話しかけている。

 

「南雲、あ~その、なんだ」

「坂上君?」

「ちっと遅くなったが、あん時、しんがりをやってくれて、あんがとよ」

「……」

「お前のお陰で俺達は助かった。その事に気が付いて礼を言うのが遅れたが…まぁその、要はみんなお前に感謝しているって話だ!」

 

 そうしてハジメの背中を照れ臭そうにバンバンと叩く龍太郎にハジメも同じように照れ臭そうにされるがままになっていた。龍太郎の行動に触発されたのかクラスの男子生徒達が次々とハジメに対して話しかけている。

 

「あんとき助けてくれて本当にありがとな!」

「なぁ!南雲の錬成って何でも作れんのか!?」

「何で銃なんて作れるんだ!?おかしくない?」

「飛空艇を作るって…浪漫溢れすぎだろ…」

 

 わちゃわちゃとハジメに群がり話しかけている男子生徒達。それを、コウスケは静かに見つめていた

 

(…手の平大回転? いや僻みは止めとこう…良かったな南雲)

 

 それは一種の掌返しかもしれ無かったが、みんな笑顔でそこには下心が無い様にコウスケは感じた。少なくても召喚された最初のハジメへの無関心さや敵愾心は無かった。だからこれでよかったのだと、コウスケは納得した。…それが羨ましいという事にコウスケは気が付かないふりをした

 

 

「香織、貴方南雲君とどこまで進んでいるの?」

「雫ちゃん!? え、えっと…手をつないだくらい?」

「白崎さん、思わせぶりは凄いけど案外初心なんだね それじゃ駄目だよ?」

「園部さん?どうして貴女まで?」

「あんなカッコいい奴さっさと手籠めにしないと、他の女の子にとられちゃうかもって話!」

「確かにハジメ君素敵だし魅力的だからね。…う~んもうちょっと段階を踏みたかったけどさっさと襲っちゃおうかな?」

「……完全に藪蛇を踏んだ気がするのだけど八重樫さん?」

「香織、貴方此処まで大人になったのね…」

 

 香織の方は女子生徒達とお喋りをしているようだった。内容はハジメとどこまで進んだかと言う年頃の女の子の会話だった。照れ臭そうにしながらもどこか肉食獣の目をする香織にほかの女子たちは呆れながらも応援しているようだった。

 

(香織ちゃん… まぁいいか若いからな。事故にだけは気を付けてっと)

 

 何となくげっそりしたハジメの姿が目に浮かびながらハジメと香織に今後に笑っているとそこである人をコウスケは発見した。

 

(畑山先生さんか、 今後の為にちょっとお願いしようかな)

 

 トータスの重鎮達との会話が終わったのか、一息ついている状況だった。好都合にも周りには誰もいなく、秘密の会話をするのに絶好のチャンスだった。

 

「先生さん、ちょいとよろしいですか」

「あ、コウスケさん?…でしたよね」

「あっははは 合ってますよ。それよりもお願いしたいことがありまして」

 

 

 

 

「それは…難しい話です」

 

 愛子にある相談とお願いをしたコウスケ。その内容に複雑な顔を愛子はするのだった。

 

「勿論あなたができないとかそういうのではなくて、あの子たちの為になるんでしょうか?」

 

 内容は生徒たちにある事をしようと言う事だった。コウスケのやる事に渋い顔をするのは愛子が生徒の事を何よりも思っての事だ。それがたまらなくコウスケにとってうれしい事でまた嫉妬が湧きだしてしまう。

 

「わかりません。でも、思うんです、果たして誰が一番の被害者なのかなって。そう考えたら」

 

「それがあの子たちですか」

 

 ガヤガヤと楽しそうに騒ぐ生徒を見る愛子とコウスケ。コウスケがすることは良い事なのか悪い事なのか判別は誰にもわからない。だがコウスケの懸念と心配が心底にあるからこその話だった。

 

「主要な人以外の『記憶の改竄』 それがあの子たちに施そうとする事…」

 

「この異世界トータスにいた記憶を薄れさせます。過程を薄れさせ結果だけが残る。彼等にはトータスと言う世界にいた記憶があってもそこでどんな事をしたのかはよく覚えていないようにします」

 

 異世界トータスで起こった出来事を薄れさせる。魂魄魔法を自由自在に使えるコウスケだからこそできる事でコウスケにしか出来ない事だった。

 

「どうしてそこまであの子たちに関わろうとするのですか?」

 

「…あいつらの今後が心配だから。っていうのは建前で、都合のいい異世界っていうのは厄介です。これから先に生きて行かなければいけない辛い現実と遭遇した時に異世界での出来事を思い出すのは、どうなんだろうって思って」

 

 記憶の改竄と共に能力をも封じ込める。記憶にない事は出来なくてこの世界で培った能力も体が忘れるようにしてしまう。後に残るのは只の普通の少年少女達だ。能力の封印には愛子は賛成だが記憶まではどうにも賛成できないでいた。

 

「……現に俺もこの世界での出来事が辛い日本よりもいいと思ってさえいるんです。力さえあればある程度好きなようにできるこの世界が居心地がいいと思ってしまうんです」

 

「コウスケさん…貴方、日本では」

 

「だからまぁ、あいつらは日本で生きていくのならここでの記憶は不要じゃないのかなって…すいませんこれは完全な俺のエゴですね」

 

 俯いてしまうのは愛子の顔が見れないからだ。やろうとしていることはどんなに言い訳を重ねても自分のエゴを押し付けようとしているのだ。これから生きていく若者に対しての嫉妬が余分に含まれてしまうのだ。挫折や苦悩があっても異世界にいた時が良かったという逃げ道を作ってしまうのが嫌なだけなのだ。

 

「はぁ……不都合な部分だけ消すことは出来ますか?死にかけたこと、命の危険にさらされたこと、あの子たちにとっての辛い出来事を消すことは出来ますか」

 

「出来ます。都合のいい能力を持っていますので」

 

「なら、お願いします。 でもあの子たちの笑顔を奪う様な事だけはしないでください」

 

「約束します、必ずあいつらの笑顔を奪わないと」

 

 コウスケの顔に何かを感じ取ったのか愛子は承諾した。だからコウスケは必ずと頷いたのだった。

 

 

 

 

「貴方は、コウスケさん」

 

「谷口さん、君に会いたかったんだ」

 

 開口一番に気障ったらしい言葉を吐くがその顔は嫌に真剣だった。ついに時が来たのだと鈴は身構えた。

 

「君の返答を聞きに来た。あの娘、中村恵里をどうするのか。君の知ってる偽りの優しい女の子にするか、それともありのままのメンヘラにするか。答えを聞かせてほしんだ」

 

 以前コウスケは鈴に中村恵理の処遇について話をしたことがある。その時は待ってほしいと言われたので時間を置いたのだ。だがその時間もう随分と立った。だから処遇を聞きに来たのだ。ほかの誰でもなく中村恵里の親友だった谷口鈴に。

 

「鈴は―――――恵理とこのまま付き合っていく。だからあなたの魔法は使わなくていい」

 

「そうか、それが君の考えか」

 

 話された内容について頷くコウスケ。なんとなくこうなるだろうなと思っていた。臭い物に蓋をするのが普通と考えていたがやはり谷口鈴は苦難の道を選んだようだ。

 

「正直に言えば、目を覚ました恵理に何を言われるのか考えると怖い。でも友達だったのは間違いないから、だから『私』は、恵理から逃げずに向き合うよ」

 

「…そうだな。それがいい」

 

 多くを語るにはコウスケ自身人生経験が未熟だ。別に付き合わなくてもいいのではないか、友達は恵理以外にもいるのだろう。そう言いたくなったがコウスケは鈴の道を尊重することにした。

 

(さっきと違って今度は相手の意思を尊重する、か。随分と意思がぶれていくな俺)

 

 自虐する様に笑うが溜息が出てきそうだった。コウスケには鈴のような辛い道を選ぶような度胸が無い。ただ場の状況に流されるのみだった。

 

「頑張れよ谷口さん。相談するのなら畑山先生さんに言えよ。君が全部背負わなきゃ行けない道理はないんだから」

 

「うん。…ふふっ変な所で心配するんだね」

 

「色々友達って事に思うところがあるからねー」

 

 不思議そうな顔をする鈴に手をひらつかせ何でもないと言うとコウスケはその場から去っていった。

 

 

 

 

 

 

「ははっ!かかってこいやカムゥ!酒はまだまだいくらでも飲めらぁ!」

 

「吐いたなメルドォ!漢カム・ハウリア!樽ごと飲み干してくれるわ!」

 

 パーティーではいつの間にかメルドとカムの酒飲み合戦が始まっていた。主要な人物として騎士団は勿論の事ハウリア族も招待されたのだ。仲良く談笑をしていた二人は部下達に煽られて酒飲み合戦を開始しているようだった

 

「族長!負けたらあの漢女達に紹介しますよ!」

「長っ!さっきから筋肉モリモリの漢女が熱い視線を送ってやすぜ!」

 

「団長っ!負けたら今までの醜態を全世界に公表しますよ!」

「メルド団長!無様な真似を晒したらそのお酒の負担額!全額貴方の給料から差っ引きしますよ!」

 

 周りでは熱い飲み合いをしているそれぞれの長を応援している騎士たちやハウリア族が居る。歓声が聞こえる中どうしてか嫌にはっきりと聞こえたその応援は両者の顔を青ざめさせた。

 

「ただ今の所倍率はメルド・ロギンスが優勢だ! ほかに掛けるやつはいるか!?」

「では、カム・ハウリアに全額賭けます」

「おーっと!なんとフューレンギルド支部長イルワ・チャングが勝負に出てきた!こいつは面白くなってきたぜ!」

 

 何故か二人の前では帝国皇帝ガハルドが賭けの司会進行をしていた。その周りでは様々な町の代表者たちが掛けに白熱していた。知っている顔が複数名存在することに絶妙に微妙な表情をするコウスケ。

 

「んふっ いいわぁ~熱い戦いを繰り広げる男達ってどうしてこう股間に響くのかしらぁ~ちょいと味見を」

「駄目よぉマリアちゃん。今はまだ手を出しちゃだーめ。酔いつぶれたときがチャンスよぉ~」

「なるほどお姉様ったら天才!酔いつぶれて介抱するところを…」

「パクリとイクのよ。ふふっその時が楽しみだわぁ あんないい男達とくんずほぐれつ絡み合うなんて…ゴクリ」

 

 さらにその場を眺めている巨漢の漢女たちに何とも言えない気分になるコウスケ。凄く会話に混ざりたいのだが邪魔をするのはいささか気が引けたのだ。取りあえずクリスの横顔をガン見する。依然と変わらず下劣さを感じられない綺麗な化粧だった。滅多にお目に掛かれない顔をひとしきり堪能するとコウスケは目当ての人物へと会いに行った。

 

 

 

 

「んふっ!」

「どうしたのお姉様?」

「今何かイイ男から視姦されちゃった!」

「ああんっ お姉様だけずっる~い!」

 

 

 

 

 

 

 

 目当ての人物ランデルは意外とすぐに見つかった。メルドとカムの戦いを観戦しているのかしきりに笑っていた。

 

「む?そこにいるのはコウスケか。どうしたそんなところで突っ立って。こっちに来るがよい」

 

 言葉に甘えランデルの傍に歩み寄るコウスケ。それとなく護衛がいたが談笑の邪魔をしない様にか距離を取ってくれた。内心で感謝するコウスケどうしても人に聞かせれる話ではなかったのだ。

 

「楽しそうですね陛下」

 

「うむ。あ奴らの戦いは面白い。やはり偏見で見るのは良くないな、何事も」

 

 その言葉に何が含まれているのか、なんとなくコウスケは感じ取った。ランデルを見ればニヤリと笑った。

 

「そなたの考える通りだ。亜人だからと言って忌諱するのは良くないと思ってな。…騒動が落ちついたら亜人族たちへの対応を変えていくつもりだ」

 

 それは意識の改革の一歩だった。亜人の差別意識を変えていくという困難な道をランデルはしっかりと発言したのだ。

 

「ま、難しい事ではあるがな、人はそう簡単に変わらぬ。それでもやるのだ。幸いにも先の決戦では亜人族は勇敢に戦ったのを目にしたものが大勢いるからな」

 

 はにかむランデルはやはり以前と比べて精神的に大きく成長していた。だからコウスケは自分が先の決戦で行ったことを話すことにした。自分が仕出かした罪を、許されない所業を一切嘘偽りなく話すことにしたのだ。

 

 

 

 

「ふむ。…兵士たちの心と身体を改造し不死の戦士に仕立て上げ、死んでいった者達を使いエヒトを倒した、か」

 

「この世界の問題はこの世界の人間がするべきだと考え、計画を立て暗躍しました。それが俺の先の戦争でしたことです」

 

 コウスケの自白を聞いてランデルはふむと顎に手をやるとしばらく考え込んだ。その目線はコウスケには向けられずなお騒いで好き勝手暴れているメルド達に注がれていた。

 

「確かに、余に一言の相談なく兵士たちを酷使させたのは余もどうかと思う。それに我らの祖を武器のように振舞い己が力のように使役したのも安易に頷けるものではない」

 

 はっきりとした口調だった。コウスケの行為は褒められるものではないとランデルは言ったのだ。

 

「そう、ですよね。俺は勝手に貴方達を」

 

「だが、あの光景を見よ」

 

 ランデルに指さされた光景を見るコウスケ。そこには酒を飲み過ぎて顔を真っ赤にしたメルドが我慢できなくなったのか舌なめずりをしながら襲い掛かってくるクリスタベルから逃げる光景だった。隣のカムはガハルドと共にマリアベルに抱きしめられて熱いべーゼを堪能されている。

 それを見た周りの者は大いに笑っていた。

 

「お前が施した結果があれだ。ちゃんと決戦の記憶は改竄されて、あれは人類の生死をかけた戦いだとそう記憶が残っていれば余は何も言うまい」

 

 目を細めながらランデルはそれでいいとコウスケに伝えたのだ。実際に帝国の兵士たちは自身らが狂戦士のように振舞っていた事を覚えておらずガハルドも獣の様になり果てていたことを忘れていた。残った記憶には死力を尽くして戦ったとしか記憶されていなかったのだ。

 

「………」

 

「そう難しい顔するなコウスケよ。我らの祖を使役したことはどうかとは思うが…父上は納得したのだろう。出なければお前に伝言など残さない。…しかしいつまでも見守っているときたか、なら無様な事は出来んな」

 

 ランデルはそう言って笑った。父親の伝言を伝えたときも、少し悲しい顔をするだけでそれで終わってしまったのだ。

 

「…人が良い人ばっかりなんですね貴方の国の人たちは」

 

「それをお前が言うのか? ともかくこの話は終いだ。ほかの誰にも話すなよ。話をしたところで信じる者がいるとは思えまいがな」

 

 ケラケラ笑うランデルの視線の先では何故かイオとリキの二人の兎人族のマッスルポーズを披露していた。対抗心を燃やされたのか騎士たちもそれぞれが服を脱ぎだし肉体美を見せつけてくる。男くさい会場なのになぜか歓声が上がる。

 

「それよりもだ、姉上への伝言はちゃんと伝えたのか」

 

「あーまだです。…すみませんが貴方から伝えてくれませんか?」

 

「む?いきなりヘタレおって、それはお前が」

 

 ランデルがコウスケの顔を見上げて、そして口を何度か閉口させた。その横顔を見たランデルは何も言えなかったのだ。

 

「そうか。……寂しくなるものだ。てっきりお前の事を義兄と呼ぶことになると腹をくくっていたのだが」

 

「面倒をお掛けします」

 

「よい。国の前に家族を支えるのもまた家長の役目だ。…此度の事まことよくやってくれた。褒めて遣わすぞ勇者よ」

 

「有り難き幸せです。ハイリヒ国王様」

 

 遊ぶような言葉で笑う二人。しかしその笑みはどこか悲しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 会場内を気ままに歩くコウスケ。いつの間にか男たちにむさい肉体美祭りは何故か女性の歌声披露場へと変わっていた。中心にいるのはこれまたなぜか酔っているのか頬を赤くしたユエであり、そばに居るシアは機嫌良さそうに踊っておりバックダンサーとして兎人族の女性陣もまた躍っている。

 

 周囲に転がる酒臭い男たちの骸に心の中で合掌し、会場を見渡すコウスケ。その中で気になる組み合わせを見つけたので邪魔をしないように音と気配を消して近づくことにした。片方にはばれてしまうがそれはそれでよかった。

 

 

「…そうでしたか、それがあの戦場の」

 

「他人任せの作戦は結果として上手く貴方達を動かした。まさしく盤上で踊る駒ですね」

 

 壁を背にして話しているのは金髪の青年ウィル・クデタとコウスケの従者ノインだった。組み合わせが意外だったが元々ノインにはあの戦いでウィルを守る様に頼み込んでいたのだ。

 

(…珍しいな。ノインがあそこまで他人と話すのは)

 

 ノインは身内としか喋らない印象があるコウスケにはいささか意外な光景だった。そんなコウスケが見ているのも気づかずウィルの話題は変わっていく

 

「所でノインさん。聞きたいことがあるのですが」

 

「何でしょうか?」

 

「コウスケさんの今までの冒険を教えてもらっていいでしょうか」

 

(…ええ)

 

 なにやら真剣な様子でコウスケにとっては恥ずかしい事を聞いてくるウィル。今までの冒険と言っても恥ずかしい出来事も確かにあるのだ。決してウィルが求めるような冒険譚ではない。

 

「良いですよ。元も話せるのはマスターの主観が多分に含まれたものですが」

 

「構いません。あの人がどんな事をしたのかどんな事を体験したのか。私は知りたいのです」

 

 憧れの人を見るような目で話すウィルの顔はとてもコウスケには見れた物では無かった。背中がむずがゆくなりそそくさとその場を離れるコウスケ。ノインが笑った気がしたが気にしないでおくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 会場内は盛り上がり騒ぎはいつまでも楽しそうに響いていた。それは城外でも同じだった。街は明かりが消えず歓声が聞こえ平原では大きな笑い声が絶えまなく響く。

 

 皆勝利を祝い神から解放された新しい時代が来るのを楽しんでいるのだ。

 

「………」

 

 コウスケはその様子をテラスで眺めていた。やるべきことやり会場から一人離れ、外の景色がよく見えるこの場所からずっと眺めていた。 

 

 

 

 そろそろ夜が明けるかのように薄明るい青色に変わってきた。夜明けが迫ってきたのだ。昼夜を問わず響いた歓声は流石に疲れたのか今では静かなものだった。

 

 

「ここにいたんだ」

 

 静かなその声は背後から聞こえてきた。声の主は誰かなど考えるまでもなかった。ただその人がそばまでやってくるのをコウスケは複雑な気持ちで待った。本当は来ないでほしかったのに着てくれてとても嬉しいと言う気持ちが混ざり合ったからだ。

 

「良い眺めだな」

 

「そうだね…徹夜明けを思い出させるよ」

 

 隣の声は穏やかなものだった。だからコウスケは相手が何を考えているのかがわからなかった。話し方はいつも通りで、声の口調も何もかもいつも通りに接してきてくれたのだ。

 

「自分達の手で世界を平和にした気分はどうだいコウスケ?」

 

「実感が無い。これに尽きるな、お前はどうだ南雲。物語の主人公さんはどんな気分だい」

 

「徹夜明けの程よい気分かな。少しだけ高揚しているのかも」

 

「若いなぁ。俺もそんな年だったらなー」

 

「なんだかおっさん臭いよ。もっと気持ちを若返えらせて、ほら」

 

 そう言ってハジメは微笑み、コウスケもまた笑う。穏やかな時間だった。いつも通りの時間だった。

 

 

 

 

「…それで、あとどれくらいこの世界に残っていられるの」

 

 でも時間はあんまり残されていなかった。ハジメの言葉は確信に満ちていて、穏やかな笑みなのに目は真剣だった。

 

「朝日が昇ったら、だな」

 

 だからまた、コウスケもちゃんと話すことにした。決して茶化さず、ありのままに後自分がどれくらいの時間トータスに居れるのかを話たのだ。

 

 コウスケの言葉にハジメは驚かなかった。小さく「そう」と呟くと空を見た。あとどれくらいコウスケが居れるのかを計算しているのかもしれないし又は、別の事を考えているのかコウスケにはわからない。

 

「驚かないんだな」

「なんとなくそうなるだろうなって思っていたから」

「ライトノベルの読みすぎだな。もっと驚いてくれないと隠していた意味が無い」

「ライトノベルをもっと読んでよ。これこそ良くある話じゃないか。…自分が経験するとは思わなかったけど」

 

 話は雑談の様に、いつもの様に。そうでもしなければコウスケ自身何も言葉が出てきそうにない。胸に来る痛みを抑え会話を続ける

 

「しかしまぁなんだな。実際俺がこういう立場になると、カッコいい台詞が浮かばないもんだな」

「……しょうがないんじゃない、まさかアニメやゲームのをパクろうとしないでよね?」

「マジか!?クッソ~エミヤのカッコいい台詞言おうと思っていたのに!」

「リスペクトが足りないんだよリスペクトが。やるのなら止めないけどもっとカッコよくなってから言って」

「くそぅ!あのカッコよさに到達できるかっての!中々辛辣だなぁ!」

 

 くすくすと笑いあう、でも顔を見合わせない。コウスケは外を眺めるように向いていてハジメは手すりに体を預け空に顔を向いている。傍に相手がいるのは分かっているのにどうしても顔を向き合う事がコウスケにはできなかった。

 

「あ、やべ」

「どうしたの?」

「体から光が出てきた!」

 

 自身の身体を見れば少しずつだが光が溢れだしてき始めた。白い光の粒が一つまた一つとコウスケの身体からあふれ空へと昇っていく。

 

「うーんこのベッタベッタ感。テンプレって奴だな」

「……そう、だね」

 

 ハジメの返事が少し鈍い。ハジメの方へ目を向けようとしたが突如バタバタと言う複数の足音と大声が飛んできた

 

「あ!こんな所に居やがったですぅ!ってええええ!!コウスケさんその体!」

「ん、やっとで見つけっっ!?」

「コウスケさん!?その体は…」

 

 声の主はシアとユエと香織だった。コウスケの身体を見て驚いて声を上げているシアと珍しく目を見開かんばかりに驚くユエ。そして口元を手で覆う香織だった。

 

「いったい何が!?どうなって!?!?何があったんですか!」

 

「落ち着けよシア。別れの時がやってきたんだ」

 

 落ち着くように自身に何が起きているのかを説明するコウスケ。エヒトを倒したことで役目を果たした事、トータスから消える事、残された時間はあとわずかだという事、すべてを包み隠さず話した。

 

「そ、そんな事って…急に消えるってそんなのあんまりじゃないですか!」

 

「仕方ないんだよ。やるべきことはやった。役割を果たした後は、退去するだけ。それだけの話だ」

 

「…どうしようもできないの?」

 

「出来ない。…やろうとも思わないんだ」

 

 コウスケのきっぱりとした言葉に歯噛みするシアと、眉根に皺を寄せるユエ。明らかに不満を持っているのは明白だったがコウスケ自身もどうする気もない事だった。

 

「やろうとも思わないって何?どういうつもりなのコウスケさん」

 

 ユエとシアに対して香織は明らかに怒りを顔に出していた。言葉は冷たく怒気が存分に込められている。

 

「…言葉通りだ。全力を出したら、俺はエヒトの様になっちまう。そうはなりたくない。なろうと思わない。だからこれでいいんだ。…このまま消えるのが一番いいんだ」

 

 もし全力を出してこの自身の消滅に抗ったのなら、もしかしたら上手く行くのかもしれない。この世界に残れてハジメ達の日本へ行けるかもしれない、だがそれをやった後に残るのは人間を超え人の形をした正真正銘の化け物だ。倫理観や道徳観を自分本位に解釈しあらゆる物事を意のままに操ろうとする醜い化け物になってしまうのだ。

 

「だから俺は「待ってください。マスター」   

 

 その説明をした時だった。次に現れた乱入者達にコウスケは言葉を詰まらせた。会いたくなかった人だった、会えずに済めばと考えていた。だから会場では意図的に歩き回ったのだ、見つからない様に魔法を使ってまで。

 

 だが連れてきた自身の従者はその『逃げ』を許さず中々手厳しかった。ある程度の事象を把握しているであろうノインが連れてきたのは情けない自分を好いてくれた女の子だった。

 

「消える…って何なんですか?コウスケさんの身体はどうなってるんですか?どうして…コウスケさんはそんな顔をしているんですか?」

 

 現れたのはリリアーナだった。今目の前で起きている現象とコウスケが消えるという事実に混乱しているようだった。もしくは理解したとしても心が拒否を起こしたのか…コウスケにはわからない。ただ泣きそうな顔なのは分かってしまった。

 

「ごめんねリリィ。俺もうすぐこの世界から消えるんだ。…だからさよならだ」

 

「…どうして、どうしてなの?」

 

 出来る限り優しい言葉で伝えたがそれは逆効果だった。泣き笑う様な顔のリリアーナの顔がコウスケには辛い。どう言葉を掛ければいいのか分からず、どう慰めればいのか分からず、目を瞑り心の中で大きな息を吐いた。

 

 そしてコウスケはリリアーナを言葉のナイフで切る事にした

 

「与えられた役割を果たし勇者は御用になった。それだけの話だ、それ以上に何かあるのかリリアーナ王女」

 

「…っ!」

 

「前にも言っただろう。俺に惚れると後悔するって。こういう事だったんだよ。ったくどうせ消える奴に何血迷ったことを言ってるんだか」

 

 言い方をきつく拒絶する様に、自身の事を忘れる様に、それでも消えない傷として深く心に残る様に。自分の善性と悪性を織り交ぜ合わせ本心も入れて。

 

「そう言えば、君に告白の返事を返すのが遅れたな。答えは『ノー』だ。確かに君のような女の子に好かれるのは嬉しいさ。でもな、こびりついた様に離れないんだ」

 

「何を…ですか」

 

「君が好いたのは『俺が原作で南雲と同じことをしていたからなのか』ってな。オマケに何度も俺の事が好きって言ってくれたよな。アレ、正直重い」

 

「っ!」

 

 わざとらしく溜息を吐き、肩をすくめる。リリアーナの息が詰まったような呼吸音と同時に周りの女性陣の怒気が膨れ上がった。それでも爆発しないであろうとするのはコウスケ自身手のひらを血が食い込むほど握りしめていることに気付いたからか、リリアーナを正面から見据えるコウスケにはわからない。

 

「自分の事で精一杯なのに好き勝手言いやがって。俺がどんな気持ちで聞いていたか分かるか?人の人生まで背負えないんだよ俺は。だから、俺の事はさっさと忘れてとっとと」

 

「出来ません!貴方の事を忘れる事なんて私には出来ません!諦めることも!」

 

 コウスケの言葉に重なる様にリリアーナの声が響く。決意を秘めたようなその目がコウスケの心を揺さぶる。

 

「好き勝手言ったのは謝ります。貴方の気持ちを考えずに言ったのは許されない事かもしれません。それでも…貴方の事を愛しているんです」

 

 耳をふさぎたくなるような言葉だった。リリアーナの決意がコウスケの心を痛みつける。言えば言うほどコウスケの中でリリアーナへの嫌悪感と執着心と愛情が溢れてくる。

 

「傍に居させてください…貴方の負担にならない様にします。支えれるように頑張ります。だから…」

 

(……はぁ)

 

 縋りつくような声が痛い。リリアーナの泣きじゃくる声が痛い。誰よりも痛みになれていたはずなのにたった一人の女の子の声がとても痛かった。

 

「……なら君は、全てを捨てて俺と来れるのか?」

 

「…え?」

 

「世界を、国を…家族さえも捨てて俺の所へ来れるのか?何もかもを捨てて、あるゆる責務から逃げて、一個人として辛い俺の世界へ逃げて来れるのか?」

 

 泣きはらした顔を見せるリリアーナへ手を差し伸べる。それは精一杯のコウスケの言葉だった。ありとあらゆるものを捨てありとあらゆる責務から逃げてそれでも自分と一緒に添い遂げることが出来るのかと言う妥協案だった。

 

「言っておくが、俺はこの世界に残る気はない。こんな都合のいい世界に居たらそれこそ俺自身が俺を見捨てちまう。だから俺は日本へ帰る。それについてくる勇気はお前にあるのかリリィ?」

 

 コウスケが言った言葉を反復しているのか何度もコウスケの顔と手を泣きはらした顔で交互に見つめるリリアーナ。そして歯を食いしばるようにして…コウスケの手を握ろうとして

 

 ギュッ!

 

「え?」

 

 コウスケはリリアーナの手を引き寄せ思いっきり抱きしめた。壊れ物を扱うような力加減でそれでもリリアーナの暖かい体温を忘れない様に。驚くリリアーナの耳元へそっと口を近づけさせ囁いた。

 

「ごめんね。そして…さようなら。君の事俺、凄く好きだったんだ」

 

 左腕でリリアーナを抱きしめ、右手で頭を撫でる。リリアーナの金糸の様な髪はとても滑らかで手触りが良くずっと触っていたくなるようなものだった。その触感を名残惜しむようして、魔法を掛けて行く。

 

「待って……まだ…私は…」 

 

「悪い男に騙されたもんだとでも思ってくれ。王女を誑かす悪い…意気地のない男に」

 

 ずるずるとリリアーナの身体から力が抜けていく。リリアーナの瞼が目を閉じようとする。必死に抗うがコウスケの魔法の威力はリリアーナの意思を抑え込んでいく。

 

「大体男に向かって何度も隙を見せすぎなんだよバーカ。…ほんと、そういうところ可愛くてしょうがなかった」

 

「コウ…ス……さん」

 

「さようならリリィ。どうか幸せに」

 

 そうしてリリアーナは完全に深い眠りへと落ちて行った。コウスケが消えていく場面を見れないような深い眠りへと落ちて行くのだった。

 

 

 

「どんな気分ですか。()()()()の女の子に今生の別れを告げるのは」

 

「最っ高の気分だよ。お陰で滅茶苦茶自分を殺したくなった」

 

 安らかな寝息を立てるリリアーナをコウスケから丁重に受け取ったノインは口角を上げた。嫌な所が似たもんだと思いつつ手の平に残るリリアーナの感触を握りしめ忘れようとするコウスケ。リリアーナとの最後の会話中周りの仲間達は何も口を出さなかったのが僅かな救いだった。

 

「貴方の世界へ連れて行けばよかったのに」

 

「出来るかよ。常識的に考えろよ。おっさんが戸籍のない美少女を連れているなんてどんな警察沙汰だっての」

 

「さて?案外うまくいくかもですよ?恋する乙女は常識を打ち破りますから」

 

「恋は現実の前に砕け散るのが相場と決まってるんだ。…あんまりイジメないでくれ。後悔しか残らないんだ」

 

 リリアーナに対する言葉全てが本当で本心で、コウスケ自身余りにも持て余す感情だった。本当は彼女が自分を好いてくれていることが何よりも嬉しいのに

現実を前にすると急にその好意がコウスケの重荷になってしまうのだ。だから自分の事を嫌いになってほしくて、でも自分の事を忘れないでほしいからワザと傷つけるような言葉を言って…人を愛したことが無いコウスケには余りにも持て余すほどのリリアーナに対する好意は強烈だったのだ。

 

 

 言葉通り後悔に歪むコウスケの顔を見るとノインは大きな溜息をついた。

 

「人間関係が未熟なマスターですね。この先ちゃんと生きて行けるのですか?」

 

「分からん。そう言うお前こそどうなんだ。俺が居なくなったら…かなりマズいんじゃ?」

 

 話をしてノインの現状に気付いたコウスケはハッとノインを見た。ノインはクスリと笑うと首を横に振った。

 

「マスター。私は貴方の魔力を元にして生きています。今までは貴方の魔力を直接頂いて稼働していきました。ですが今、人の枠を超えつつある貴方の魔力は私にも逆流して流れてくるのです」

 

「…つまり?」

 

「貴方が居なくても大丈夫な位魔力をいただいているのです。だからそれが尽きるまでは私は稼働し続けます」

 

 コウスケの使えば使うほどあふれる規格外の魔力がノインにも通っていったというのだ。その言葉通りならノインもまた規格外の力を得る。そう考えたコウスケだったがこれもまたノインに否定された。

 

「貴方という器だったから規格外になるのです。私の場合は少々強い小娘ぐらいにしかなりません」

 

「そっか…なら良かった。てっきり朽ち果てていくのだとばっかり」

 

「オブラートに包まない辺りがマスターですね。あんまり深く考えないでください、いつ死ぬのかなんて人間誰しも分からないのと一緒のようなものですから」

 

 クスリと笑うノイン。出会た時とは比べ物にならないぐらいに感傷を表に出すように感じるコウスケ。そんなコウスケにノインはリリアーナをお姫様抱っこしたまま丁寧なお辞儀をした。

 

「マスターこれでさよならです。貴方と出会えたこと何よりの幸福でした」

 

「俺もだノイン。俺の代わりに色々と吐き出してくれたこと、感謝している」

 

「ふふっそう言ってくれると嬉しい物です。…最後に一つだけいいですか?」

 

「なんだ?」

 

「自分を愛してください。貴方に足りない物は自分への愛だけです。それが貴方の欠点」

 

「…善処するよ。死なないと治りそうにないけどな」

 

「全くです」

 

 苦い顔をするコウスケにノインはうっすらとした、しかしとびっきりの笑顔を見せたのだった。

 

 

 

 

「コウスケさんの馬鹿っーーー!!」

 

「うおっととと」

 

 ノインとの会話が終わり続けてきたのはシアの鉄拳だった。恐らく全力で振るわれたであろう鉄拳はコウスケの掌に鈍い音を立てて収まる。

 

「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿っ!何なんですかリリアーナさんに対するアレは!女の子を舐めているんですか!」

 

「舐めていないよ。迷った結果があれだ。ほかにどうすればよかったの俺にはわからなかったんだ」

 

「そういうところが駄目だって言ってるんですよ!私達にも相談してくれればよかったじゃないですか!なんで自分一人で勝手に決めるんですか!何で何もかも悟ったような顔しているんですか!」

 

 シアの鉄拳は何どもコウスケに繰り出される。その重く鋭い鉄拳を難なくと防御しながらコウスケは笑った。

 

「何を笑っているんですか!?こっちは真剣なのにぃ!!」

 

「いやはや、出会った時と比べて随分と強く逞しくなったなぁーって思ってさ」

 

 出会った当初は逃げ腰でそれでも必死に食らいついてきた女の子は今では誰よりも凶悪な鉄拳を放つまでに成長した。それが嬉しく、何よりその真っ直ぐな性根がコウスケには心地よかった。

 

「話をはぐらかせばいいってもんじゃねぇんですよ!大体私かってまだまだ言いたいこと伝えたいこと一杯あるんですぅ!!」

 

「例えば?」

 

「家族を救ってくれたこと!家族を強くしてくれたこと!旅に同行させてくれたこと!いつもみんなを守ってくれたこと!そして何より!ユエさんとティオさんに引き合わせてくれたことですぅ!」

 

 腰の入った全力の回し蹴りがコウスケの顔に迫る。がこれもまた腕で塞がれてしまった。そんな事はお構いなくシアは言葉を続ける。

 

「一杯一杯感謝しているんです!受けた恩を返せないんじゃないかって思うぐらいに!それなのに…それなのに消えるってあんまりですぅ …酷いですよぅ」

 

 力なく降ろしていく足と一緒にシアの言葉は弱弱しくなっていく。俯くシアの顔から涙がポツリポツリと落ちてきた。鼻を啜る音が聞こえる、泣いているのが嫌になるほどよく分かった。

 

「父様たちと一緒に何をしようかって話をしていました。皆コウスケさんの事を家族のように思っていたから…だから皆で決めてって…それなのに」

 

「…ごめん」

 

「聞きたいのは謝罪の言葉じゃないですよぉ…もっと一緒に遊びたかった…もっと一緒にはしゃいで…う、うううぅぅう!」

 

「シア、君と一緒に居れたのは本当に楽しかった。今までありがとう。家族を大切に思う気持ち、絶対に忘れるなよ」

 

「うわぁぁああんんん!!!!」

 

 涙を流し泣き崩れてしまったシア。ユエが抱きしめると縋りつくようにユエの胸の中で泣きじゃくる。シアをあやしながらユエはコウスケに尋ねる。その目には寂しさと悲しさが多分に含まれていた。

 

「コウスケ、本当に消えてしまうの?」

 

「…ああ」

 

「それでいいの?貴方はそれで幸せになるの?」

 

 普段とは違って流暢なその声がユエの本心だった。透き通った紅い目がコウスケを映し通す。その目から逃げて顔をそむきたいのに逃れられない。腹をくくりコウスケは正直に答えるしかなかった。

 

「分からない。いいや、正直辛い。帰ったところで俺は…」

 

「私は貴方に幸せになってほしかった。誰よりも。…私が貴方達に助け出された時のこと覚えている?」

 

 封印の間でユエを助けようとしたあの時、原作の流れではあったもののコウスケは助けようとした。下心と善意を混ぜ合わせて。

 

「覚えているよ」

 

「あの時助けられた私は、貴方達のために戦うと決めた。暗い牢獄から連れ出したハジメとコウスケを…私は私の全力を掛けて力になると誓った」

 

 ユエの澄み切った目はハジメを見て、次に香織を見た。保護者のかのような慈愛に満ちた目だった。

 

「ハジメにはハジメを大切に思う人がいると聞いた。香織はハジメの事を幸せにしてくれる人だと私は思った。だからハジメは心配いらない。でもあなたは違う。…あなたを幸せにしてくれる人はいないの?」

 

「……」

 

「私は貴方達が笑ってくれるのならそれでよかった。それが私にとって何より優先することで…私の願いだった」

 

 初めて聞くユエの本音。それはどこまでもハジメとコウスケの事を想って言葉だった。

 

「貴方は私に様々な物をくれた。体験させてくれた。私はいっぱい貴方から大切な物をもらったのに、貴方は…」

 

「いいんだ。…俺も君からちゃんと貰った。思い出を作ってくれた。ありがとなユエ。君にはずっと助けられた」

 

「コウスケ…」

 

 目を涙で滲ませるユエの顔を見てコウスケはそう言った。それしか言えなかった。ほかにどんな事を言えばいいのか、どうすればいいのか分からない。

 

「……最っ低だよコウスケさん」

 

 低く怒りを滲ませた声を出したのは香織だった。発せられる怒気がどれほど香織が怒っているのかがコウスケにはよく分かった。

 

「そうだな女の子を泣かせるなんて最低だな」

 

「違うそういう事じゃない。…それもあるけど、何もかも分かったふりをして諦めて、逃げ出そうとしているのは最低って事だよコウスケさん」

 

 怒気が殺気に変わりコウスケの肌をピリピリと刺す。本当は掴みかかりたいのだろうが理性で我慢をしているのが香織の握り込むその拳が表している。

 

「残された人たちがどう思うのか、そんな事に気付けない貴方じゃないのに」 

 

「……まぁな。だから、君に後の事を頼んでもいいかな」

 

 香織からガリッとした歯軋りの音が聞こえる。イラつき、不快、怒りそのどれもが込められていて、目がつり上がっていく。

 

「やれることやった、やるべき事をやった。でもここから先は俺がすることじゃない、俺はここまでだから」

 

「だから皆の事…ううん、違うあなたが言いたいのはハジメ君の事を頼むって?」

 

「ああ、お願いだ。…日本に帰ってからは君がそばにいてくれ」

 

「貴方の代わりに?貴方の空いた隙間を埋めるようにしろって?」

 

 香織に詰問にコウスケは答えられなかった。事実であり、本心でもあったからだ。自分が居なくなった後でどうなるかはわからなくても香織になら後を託せると考えたのだ。

 

「……どうして男の子ってカッコつけて意地を張って馬鹿になるんだろう。本当に私には理解できない」

 

 睨んでいた香織はそう言うと大きな溜息をついた。同時に放たれていた怒気や殺気も収まり渋々と言った表情をコウスケに見せる。

 

「コウスケさんの事嫌いじゃないけど私そう言う無責任な所、大っ嫌い」

 

「はは、ありがとう。…どうか南雲と幸せに」

 

 香織とはっきりしたもの言いは幾分かコウスケの心を楽にさせる。香織の言ってることは当たっている、無責任に逃げようとしているのもまた本当の事なのだから。 

 

 自身の身体から出てくる光の量が増えてくる。夜明けも近い、そんな時開け放たれる扉の音がその場によく響いた。

 

 

「待てよ!待ってくれ!」

 

 少年の声だった。酷く懐かしさを感じるその声の主は包帯を体中に巻いていて一緒に来たティオに肩を支えてもらいながらあらん限りの声で叫んだ

 

「お前はそれでいいのかよ!折角異世界に来たっていうのに全部手放してENDってか!?ふざけんなよ!」

 

「清水…」

 

 やってきたのは清水だった。唯一包帯が巻かれていない左目は涙を流していた。一瞬でも気を抜いたら倒れそうになる体を食いしばって動かしながらも、コウスケの傍までやってくる。 

 

「世界を助けて!ラスボスぶった倒して!それでお前には何もないってのは駄目だろ!良いじゃねぇか最強になってチートを使いまくっても!良いじゃねぇか可愛い女の子を侍らせてもよ!だってお前それほどの事をやってきたんだから!」

 

 コウスケの胸元に掴みかかりゆさゆさと力の出ない腕でコウスケを揺さぶる。左目からは涙があふれたのか頬に流れていた。

 

「うーん。無理だな、やめとくよ」

 

「何で!」

 

「カッコ悪いじゃん」

 

 ふざけた様にしかし本気で答えれば一瞬清水はポカンとした顔を見せ、そして顔を項垂れせた。

 

「なんだよそれ…」

 

「なろう主人公の様にチーレムしろってか?勘弁してくれ、あれ、客観的に見れば屑にもほどがあるからな。そんなんなりたくねーし、なろうとも思わない」

 

 ケラケラと笑うように言えば泣きはらす清水が顔を上げた。震える口で言うその言葉は消え入りそうな声で…ひどくコウスケの胸に痛みが走る。

 

「嫌だ…それでもいいじゃん…居てくれよ…俺はお前のお陰で…楽しかったんだ」

 

 消え入りそうな声には寂しさが込められていた。縋りつくようなその手は震えていて、コウスケはふっと微笑んだ。泣き崩れて足元に座り込んでしまった清水の頭を撫でる。

 

「なぁ清水 お前に埋め込んだ俺の技能の名前を知ってるか?」

 

「……『快活』」

 

「意味は、明るく元気っていう意味だ。…そんな奴になりたかった俺の願望でもある」

 

 涙でぐしゃぐしゃとした顔を上げればそこにはコウスケの笑みがある。微笑んでいた、誰よりも清水の幸せを願うように。

 

「お前は俺の生き写しだ。俺もお前とよく似た過去、考え方だった。ちょっと蹴躓いたぐらいで僻んで恨んで、結局何も出来ず流されるように生きていくしかできなかったがな。…でもお前は違う、これからがある」

 

「…何だよそれ、説教かよ」

 

「そうだよ主人公特有のお説教だ。だから、太陽を見ろ、空を見ろ、外の光を浴びてちょっと深呼吸をしてみろ。世界は広くて厳しいが辛いかどうかを決めるのはお前自身だ」

 

 自身の過去を思い出しながらコウスケは清水に語る。清水はまだ手遅れではない、自身はやり直せないほどひねくれてしまったが清水は気付いていないだけで可能性が広がっているのだ。 

 

「俺…自身」

 

「アニメやゲームにはまるのは構わない、寧ろ遊べって俺は思う。だけど現実と空想の境界を間違えるなよ。ちゃんと折り合いをつけて…なんかブーメランをしているけどともかく、思いっきり伸びをして、自分を卑下させず甘やかさず…労われ」

 

 ぐしゃぐしゃと少々乱暴に頭を掻きまわし肩をバンバンと叩く。励ましたかったがどうにも言葉が思いつかないのは別れるのが寂しいからだ。コウスケもまた涙が出てきそうになるが気合で凌ぎきる。

 

「お前が生きていてくれて嬉しかった。元気でな…ダチ公」

 

「俺も…お前と…会えて」

 

 最後にくしゃりと頭を撫でると清水の傍に控えていたティオに向き合う。その顔は困った感じで笑っていた。

 

「これでお別れとは辛いもんじゃの、コウスケよ」

 

「仕方ないさ。…あー結局竜人族の里に行けなかったな」

 

「むぅ里の者達にお主を紹介したかったのじゃったがな…残念じゃ」

 

「…参考までにどういう風に紹介されるの俺?」 

 

「世界を救った大馬鹿者でどうしようもないほどお人好しの…妾の仲間じゃと」

 

 にこやかに苦笑していたティオは只住まいを治しスッと手を差し出してきた。威厳あるその姿はとても美しく一瞬コウスケは見惚れてしまった。

 

「お主と共に歩んだ道のりは真に痛快愉快じゃった。感謝するコウスケ、そしてさらばじゃ、どうか息災でな」

 

「…ああこっちもだ。色々助けてくれて有難う。本当に、ありがとう」

 

 差し出された手を握りしっかりと握手をする。強い感謝を込めて笑顔は崩れていないだろうか。凛としたティオの姿はやはり美しくカッコよかった。

 

 

「あー そろそろ時間か」

 

 漏れ出す光は溢れていて足元がみえなくなっていた。このままゆっくりと上半身までくるのだろうかと無理矢理ふざけたことを考えて…最後の1人に向き合った。

 

「つーわけで、最後に残った南雲君。言いたいことがあるのならどうぞ」

 

 向けられたハジメはそれまで仲間達とコウスケのやり取りから一歩引いた様子だった。気を使って影に徹してくれていたのだろう。コウスケに笑いかけられたハジメは…やはりいつも通り苦笑していた。

 

「やれやれ、と言われても…と言うかなんで僕最後なんだろう」

 

「そりゃ好感度が一番高いからな。最後のトリは主人公がバシッと決めてくれないと」

 

 親友であり相棒であり…かけがえのない友達。茶化して笑えばハジメはコウスケが気付か無いほどほんの一瞬だけクシャリと顔ゆがめるとうーんと悩んでいた。

 

「そもそもコウスケ、消えるのは分かるけどもう会えなくなるのかな?同じ日本に住んでいるんだし」

 

「無理だな、同じ日本でも俺とお前が住む世界は次元が違う。世界は一緒でも異なる世界なんだ」

 

「…そっか」

 

 溜息を一つ漏らすとハジメはコウスケに向き直る。その笑みはどこか悪戯っぽくどこか嫌な予感がした。

 

「さっき別れのセリフがどうこう言ってたじゃん」

 

「あ、ああ。色々考えていたんだけど結局思いつかなかったんだ。滅茶苦茶カッコよく決めるつもりだったんだけど」

 

「それで僕ゲームやアニメキャラの様にカッコよくはなれないって言ったよね」

 

「そうそうリスペクトが足りないって。確かに言われてみれば」

 

 うんうん頷くコウスケ、色々思いつくのだがどうにも自分らしくない。そんなつもりだったのだがハジメは違った。

 

 

 

 

「そりゃそうだよ。コウスケはそこら辺のキャラより最高に()()()()()から」

 

「…は?」

 

 呆気に取られてポカンとしてハジメを見つめればやはり笑っていた。

 

 

 

  

「ずっとずっと思ってたんだ。あの日あの時からずっと…君は最高にカッコよかったんだ」

 

 

 あの日あの時、ハジメが何時の事を言ってるのかコウスケにはわかった。奈落での神結晶の前でのことだ。そこからずっとだというのだ。

 

「僕とユエを守るために、盾になろうとして…どんな時でも君は僕の前にいた。ずっと笑顔だった。支えていてくれた、他の誰がどう言おうと最高にカッコよかったんだ」

 

 吐き出す意気は感激深いように、見つめる目は遠くを見つめるようでしっかりとコウスケを見ていた。

 

「いつも僕に向かって笑っていた、慣れないことをして悩んで苦しんでも君は何時だって僕と対等に接して少しだけ大人ぶって…ありがとうコウスケ。君のお陰だ、何もかも君と一緒にいたからこの世界は楽しかったんだ」

 

「え、…あ」

 

 真っ直ぐなハジメの言葉にふと気づけばコウスケは自分が涙を流していたことに気付いた。ぽろぽろと流れる涙は地面に着くことなく光となって消えていく。

 

「お前…もしかして俺を泣かせるためにっ」

 

「君が居てくれたから僕は驕るなんてことをせずに済んだ。何もかもに牙をむくことになんかならずに済んだ。君がそばにいてくれたから、…ずっと守っていてくれたから」

 

 微笑みながら感謝を述べてくるハジメを見てふと、今までの旅を思い出すコウスケ。今まですべてハジメと共にあった。

 

 悩んだことがあった。何時まで原作の事を隠さないといけないのかと。

 

 苦悩を抱えていた。原作の事を話したのはいいけれども今度は原作を思い出して嫉妬が混じって見てしまうと。

 

 辛いときがあった。ハジメ達は未来があるのに自分はまた辛い現実に戻らなければいけないのかと

 

 でもここまで来れたのだ。ほかならぬハジメのお陰で、ハジメは助けられたと言うがコウスケもまた救われていたのだ。

 

「クッソ…思い出して来たら泣けてきたじゃねえか…」

 

「そりゃ君を泣かせるためにそう言ったもん。皆を悲しませといて自分だけノーカンってのは駄目だよ」

 

 苦笑するハジメはやはり悪戯が成功した様に笑っていた。そのいつもの様なやり取りが…コウスケの涙腺を直撃した。

 

「テメェ…涙っが、止まっらっねぇじゃっねぇか」

 

 ぼたぼたと溢れる涙を無理矢理袖で拭っても一向に泊まる気配はない。下半身は何時しか消え、この世界から消えてしまうのも時間の問題だった。

 

 

「クッソっ イイ性格になっちまったなお前!…っ」

 

「君のお陰でね。何度だっていうよ。ありがとう。…悪いけど、それしか言えないや」

 

「ちく…しょう。 ああ、俺もだ!お前に感謝しているよ!」

 

 籍を切ったように吐き出す。時間が残されてはいない、でも言うと惨めになる。そんな感傷を振り切ってコウスケは叫ぶ

 

「お前と会えてよかった! 楽しかった!一緒に馬鹿をやってふざけ合うのがこんなに楽しいだなんてやっとで分かったんだ!ああもう!お前といるとマジで人生楽しくて仕方ねぇんだよ!」

 

 くだらない錬成品で遊んだ記憶がよみがえる。フャンタジーの世界について大いに盛り上がったことがある。日本のゲームで漫画で

くだらない雑談をした。

 

 よくある何でもない会話をした。それが何より楽しかったのだ。今まで生きてきた人生で一番楽しい時間だった。

 

「お前とくっだらねぇことしてるのマジ楽しかった!暴れ回った時も何もかも!お前と話していると俺は…普通の高校生になっているみたいで…嬉しかったんだ」

 

(ああ、未練が残っちまう…縋りつきたくなる)

 

 涙を流す目を腕で隠し嗚咽を漏らしながら思い出してしまうのはハルツィナ迷宮でみた理想の世界だった。 

 何でもない高校生活を過ごす自分はとても幸せで…羨ましかった。ハジメと清水と一緒に遊んでふざけ合って、コウスケが送りたかった青春そのものだった。

 

(…手に入らない物を欲しがった。だから俺は)

 

 現実は寂しい高校生活だった。だからコウスケはワザとふざけてその青春を塗り替える様に笑った。笑ってふざけて…そうしてトータスで過ごしてきた。

 

 だが、その時間も間もなく終わりを告げる。胸まで消えていく自分の身体、恐怖は無いのに未練は残る。

 

「コウスケさん!」

「コウスケ!」

「……っ」

 

 シアが泣き叫び、ユエが涙で濡らした目を向け香織が歯痒そうにコウスケを見る。

 

「…さらばじゃ」

「…あっばよ、ダチッ公!」

「おやすみなさいマスター」

「…ケ……さん」

 

 ティオが別れを告げ清水がしゃくり上げながらさよならを言い、ノインは恭しく一礼をした。ノインに抱き掛かられているリリアーナは意識が無いのに目から涙を流していた。

 

 

「…お別れ、だね」

 

 親友が別れの言葉を言う。ぼやけた視界を乱暴にぬぐい、無理矢理表情筋を動かす。笑顔になる様に、今生の別れが美しい物になるように願いを込めて皆の姿を心に刻み込む。これからどんな事があっても忘れない様に。

 

 

 

 

「さよならだ、皆 …ハジメ」

 

 

 

 

 流した涙は落ちる前に顔をのぞかせた太陽の光が反射してきらりと光り、そして消えていく。

 

 

 そうして偶然と奇跡のように現れた一人の男は淡く光り

  

 

 

 

 

 

 

 消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--------------------------------------------------------------------------------------------

 

 こうして俺の物語は終わった。皆と一緒にいたのは嬉しくて…楽しくて、かけがえのない物だった。

 

 本当はまだ一緒に居たかった、まだ触れ合っていたかった。

 

 ユエ シア ティオ 香織ちゃん 清水 ノイン リリィ 本当は君たちと一緒に居たかったんだ。

 

 そしてハジメ…最高の俺の親友。お前ともっと一緒に…

 

 

 ああ、…どうやら時間が来たようだ。思考が白く塗りつぶされる感触がする。

 

 

 楽しかった。…どうか皆の事を忘れない様に

 

 

 

 だけど もう何も     考えられなく     

 

 

 

 全ては    白い光の中へ…。

 

 

 

 

 

 

 




次はエピローグになります。

恐らく前編、後編になると思うのですが…できてから考えます。
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