ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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第1章が終わるまであと少しです。
拙い文章ですがよろしくお願いします


存在意義

 

「だぁー、ちくしょぉおおー!」

 

「がんばれ南雲! このくらいで、ばてるなよ!」

 

「…ハジメ、ファイト…」

 

「2人とも気楽だね!」

 

 現在、ハジメはユエを背負いながら猛然と草むらを逃走していた。コウスケは地卿を背負い後に続く。周りはハジメの肩辺りまでの雑草が生い茂っている。ユエなら完全に姿が見えなくなっているだろう。そんな生い茂る雑草を鬱陶しそうに払い除けながら、ハジメ達が逃走している理由は、

 

「「「「「「「「「「「「シャァアア!!」」」」」」」」」」」」

 

 二百体近い魔物に追われているからである。

 

ハジメ達が準備を終えて迷宮攻略に動き出したあと、十階層ほどは順調に降りることが出来た。2人の装備や技量が充実し、かつ熟練してきたからというのもあるが、ユエの魔法が凄まじい活躍を見せたというのも大きな要因だ。

全属性の魔法を何でもござれとノータイムで使用し的確に2人を援護する。

 ただ、回復系や結界系の魔法はあまり得意ではないらしい。“自動再生”があるからか無意識に不要と判断しているのかもしれない。もっとも、ハジメには神水があるし、ある程度の傷なら治癒魔法を持つコウスケがいるので、何の問題もなかったが。

 そんな3人が降り立ったのが現在の階層だ。まず見えたのは樹海だった。十メートルを超える木々が鬱蒼と茂っており、空気はどこか湿っぽい。しかし、以前通った熱帯林の階層と違ってそれほど暑くはないのが救いだろう。

 3人で階下への階段を探して探索していると、突然、ズズンッという地響きが響き渡った。何事かと身構える三人の前に現れたのは、巨大な爬虫類を思わせる魔物だ。見た目は完全にティラノサウルスである。

 

 但し、なぜか頭に一輪の可憐な花を生やしていたが……。

 

鋭い牙と迸る殺気が議論の余地なくこの魔物の強力さを示していたが、ついっと視線を上に向けると向日葵に似た花がふりふりと動く。かつてないシュールさだった。すぐさまユエが魔法を放つ。

 

「“緋槍”」

 

 ユエの手元に現れた炎は渦を巻いて円錐状の槍の形をとり、一直線にティラノの口内目掛けて飛翔し、あっさり突き刺さって、そのまま貫通。周囲の肉を容赦なく溶かして一瞬で絶命させた。地響きを立てながら横倒しになるティラノ。そして、頭の花がポトリと地面に落ちた。

 

「「……」」

 

 いろんな意味で思わず押し黙る2人。

 

 最近、ユエ無双が激しい。最初はコウスケとハジメの援護に徹していたはずだが、何故か途中から2人に対抗するように先制攻撃を仕掛け魔物を殲滅するのだ。そのせいで、ハジメと特にコウスケは、最近出番がめっきり減ってしまい、自分達が役立たずな気がしてならなかった。まさか、自分が足手まといだから即行で終わらせているとかでは?と特にコウスケは内心苦々しい思いだった。

 

「あのーユエさん?張り切るのはいいんですけど…ちょっと前衛である俺の存在意義がなくなってきた様な気がするんですけど…」

 

「……私、役に立つ、…チームだから」

 

どうやらただの後衛では我慢できないらしい。確かに少し前に魔力枯渇するまで魔法を使い戦闘中にぶっ倒れてちょっとした窮地に落ち入っててしまい、その時に慰めるように自分たちはチームだ。だから大丈夫、短所を補って行こう。…そんなことをハジメが話したような気がするが、まさかここまで張り切るとは。

 

「はは、いや、もう十分に役立ってるって。ユエは魔法が強力な分、接近戦は苦手なんだから後衛を頼むよ。前衛はコウスケ、中衛が僕が担当するから」

 

(その前衛も存在意義が、感じられなくなってきたんですけどね…)

 

コウスケは、その言葉にあまりいい顔ができない。実際、前衛として前に出ているのだがハジメの銃火器とユエの魔法の前では、正直あまり役に立てないのだ。

 

そもそもの話自分の力が不足してきたように感じてくるのだ。自分が一匹すりつぶしている間にハジメの精密射撃で3,4匹がはじけ飛んでいく。ドンナーの火力もそうだが恐ろしいのはハジメの急所狙いの的確さだ。頭を正確無比に狙っていく技術はもはやドンナ―を作り出したときとは比べ物にならない。

 

ユエの魔法もかなりのものだ。特に相手が複数で出てきた場合、ユエの魔法ですぐに消し炭になる。前衛には当たらないよう範囲も制御も完璧だ。

おまけに、自分の魔力を調整出来てきて来たのか枯渇して倒れることも少なくなった。

 前衛は、後衛を守る盾としての役割もある。後ろにいる2人に魔物が行かないようにしなければいけない。しかし自分が相手をするはずの敵が後衛の2人を狙っていき盾としての役割すら持つことができないのだ。そのたびにハジメのフォローで事なきを得るのだが…

 

(なぁ…南雲、ユエ…俺は役に立っているのか?ちゃんと戦えているのか?お前たちを守れているのか?チームなんて言ってたけど…本当は俺がいない方がよかったんじゃ…)

 

そこまで考え頭を振るう、己の弱さについて考えていると自分の大切な、根幹となる部分が悲鳴を上げそうだったのだ。だが、このままではそう遠くないうちに、足手まといになりそうな気がする。

 

「コウスケ!ボーっとしているとこけるよ!速く走って!」

 

「…コウスケ?」

 

「あ、ああ、すまんあいつらの花のことを考えていたんだがな!あれは、寄生されているんじゃないか!?」

 

深く考え込みすぎたのだろう、気が付いたら300はあろうかという数の頭に花をつけた恐竜に追われていた。危険な場所で深く考え込みすぎた、自分に思わず舌打ちが出そうになる。気を取り直し今の状況を突破しようと考える。

 

「ってことは本体がどこかにいるはず!」

 

「ああ!その通りだ南雲!奴らの行かせたくない場所にいるはずだ!」

 

「随分と具体的だね!」

 

「ハッ、そういうゲームとか小説とか読んでばっかりだからな!オタクの知識舐めんな!」

 

 ハジメ達が睨んだのは樹海を抜けた先、今通っている草むらの向こう側にみえる迷宮の壁、その中央付近にある縦割れの洞窟らしき場所だ。すぐにハジメ達は三百体以上の魔物を引き連れたまま縦割れに飛び込んだ。

 

 

 縦割れの洞窟は大の大人が二人並べば窮屈さを感じる狭さだ。ティラノは当然通れず、ラプトルでも一体ずつしか侵入できない。何とかハジメ達を引き裂こうと侵入してきたラプトルの一体がカギ爪を伸ばすが、その前にハジメのドンナーが火を噴き吹き飛ばした。そして、すかさず錬成し割れ目を塞ぐ。

 

「ふぅ~、これで取り敢えず大丈夫だろう」

 

「……お疲れさま」

 

「そう思うなら、そろそろ降りてくれない?」

 

「……むぅ……仕方ない」

 

ハジメの言葉に渋々、ほんと~に渋々といった様子でハジメの背から降りるユエ。余程、ハジメの背中は居心地がいいらしい。

そのやり取りにホッコリするコウスケ。さっきまでの迷いは心の底にしまって置く。

 

 

 

 

 

 しばらく道なりに進んでいると、やがて大きな広間に出た。広間の奥には更に縦割れの道が続いている。もしかすると階下への階段かもしれない。ハジメは辺りを探る。“気配感知”には何も反応はないがなんとなく嫌な予感がするので警戒は怠らない。気配感知を誤魔化す魔物など、この迷宮にはわんさかいるのだ。ハジメ達が部屋の中央までやってきたとき、それは起きた。

 

 全方位から緑色のピンポン玉のようなものが無数に飛んできたのだ。その数は優に百を超え、尚、激しく撃ち込まれるのでハジメとコウスケは錬成と土魔法で石壁を作り出し防ぐことに決めた。石壁に阻まれ貫くこともできずに潰れていく緑の球。大した威力もなさそうである。ユエの方も問題なく、速度と手数に優れる風系の魔法で迎撃している。

 

「ユエ、おそらく本体の攻撃だ。どこにいるかわかる?」

 

「……」

 

「ユエ?」

 

「ユエさん?」

 

 ユエに本体の位置を把握できるか聞いてみるハジメ。ユエは“気配感知”など索敵系の技能は持っていないが、吸血鬼の鋭い五感はハジメ達とは異なる観点で有用な索敵となることがあるのだ。

 

しかし、ハジメの質問にユエは答えない。訝しみ、ユエの名を呼ぶハジメだが、その返答は……

 

「……にげて……ハジメ!コウスケ!」

 

 いつの間にかユエの手がハジメに向いていた。ユエの手に風が集束する。本能が激しく警鐘を鳴らし、ハジメは、その場を全力で飛び退いた。刹那、ハジメのいた場所を強力な風の刃が通り過ぎ、背後の石壁を綺麗に両断する。

 

「ユエ!?」

 

 まさかの攻撃にハジメは驚愕の声を上げるが、ユエの頭の上にあるものを見て事態を理解する。そう、ユエの頭の上にも花が咲いていたのだ。それも、ユエに合わせたのか? と疑いたくなるぐらいよく似合う真っ赤な薔薇が。

 

「ハジメ、コウスケ……うぅ……」

 

「意識があるまま、操るとは性格悪いな此処の親玉…」

 

 ユエが無表情を崩し悲痛な表情をする。コウスケは何がいるか知っている。知っているからハジメに無意識のうちに頼ってしまう。案の定、操りを解除する花に向かって照準を向けるハジメ。しかし相手はそれを妨害するようにユエを操り、花を庇うような動きをし出したのだ。上下の運動を多用しており、外せばユエの顔面を吹き飛ばしてしまうだろう。ならばと、接近し切り落とそうとすると、突然ユエが片方の手を自分の頭に当てるという行動に出た。接近したらユエの頭を切り飛ばすつもりだ。

 

「……そうきたか……」

 

「増々、いやらしい相手だな。どうする南雲?」

 

 ハジメとコウスケの逡巡を察したのか、それは奥の縦割れの暗がりから現れた。

見た目は人間の女性しかし、ゲーム漫画と違って醜い顔をしておりその口元は何が楽しいのかニタニタと笑っている。ハジメはすかさずエセアルラウネに銃口を向けた。しかし、ハジメが発砲する前にユエが射線に入って妨害する。

 

「2人とも……ごめんなさい……」

 

悔しそうな表情で歯を食いしばっているユエ。自分が足手まといになっていることが耐え難いのだろう。今も必死に抵抗しているはずだ。口は動くようで、謝罪しながらも引き結ばれた口元からは血が滴り落ちている。鋭い犬歯が唇を傷つけているのだ。悔しいためか、呪縛を解くためか、あるいはその両方か。ユエを盾にしながらエセアルラウネは緑の球を2人に打ち込む。

 

 ハジメは、それをドンナーで打ち払い。コウスケは地卿でまとめて球を潰す。目に見えないがおそらく花を咲かせる胞子が飛び散っているのだろう。しかし、2人には花は咲かない。

 

(耐性系の技能のおかげか…)

 

2人が平気なのは毒耐性により効果がないのだ。つまり。ユエが悲痛を感じる必要はないのだ。

 

「さて、俺たちは問題ないことが証明されたが…どうする俺が突っ込んでユエを取り押さえるか?その間にハジメが親玉を撃つって感じで」

 

「…どうだろうコウスケの足の速さと相手がユエの頭を切り飛ばすのと、どっちが早いかという話になるけど…」

 

「…そっか…」

 

「…一応即行で片づける方法もあるんだけど…」

 

 

ユエの風魔法をよけながら打開策を相談する2人。どうすべきか思案しているとユエが悲痛な叫びを上げる。

 

「ハジメ! ……私はいいから……撃って!」

 

 何やら覚悟を決めた様子でハジメに撃てと叫ぶユエ。攻撃してしまうぐらいなら自分ごと撃って欲しい、そんな意志を込めた紅い瞳が真っ直ぐハジメを見つめる。

 

「ん、了解」

 

「え?…あ!ちょっ待!」

 

ドパンッ!!

 

コウスケの止める声も待たず広間に銃声が響き渡る。

 

 ユエの言葉を聞いた瞬間、何の躊躇いもなく引き金を引いたハジメ。広間を冷たい空気が満たし静寂が支配する。そんな中、くるくると宙を舞っていたバラの花がパサリと地面に落ちた。ユエが目をパチクリとする。エセアルラウネもパチクリとする。コウスケは…非常に複雑そうだ。ユエがそっと両手で頭の上を確認するとそこに花はなく、代わりに縮れたり千切れている自身の金髪があった。エセアルラウネも事態を把握したのか、どこか非難するような目でハジメを睨む。

 

ドパンッ!!

 

 何のリアクションをとることもなくハジメが発砲。エセアルラウネの頭部が緑色の液体を撒き散らしながら爆砕した。そのまま、グラリと傾くと手足をビクンビクンと痙攣させながら地面に倒れ伏した。

 

「で、ユエ、大丈夫?体に違和感はない?」

 

「コイツ本当に撃っちまった…」

 

 気軽な感じでユエの安否を確認するハジメ。コウスケはその事にドン引きであるだが、ユエは未だに頭をさすりながらジトっとした目でハジメを睨む。

 

「……撃った」

 

「ん? そりゃあ撃っていいって言うから」

 

「……躊躇わなかった……」

 

「そりゃあ、最終的には撃つ気だったし。狙い撃つ自信はあったんだけどね、流石に問答無用で撃ったらユエがヘソ曲げそうだし、今後のためにはならないと配慮したんだよ?」

 

「……ちょっと頭皮、削れた……かも……」

 

「まぁ、それくらいすぐ再生するよね? うん大丈夫」

 

「馬鹿!問題大有りじゃあねえか…ユエ平気か?今魔法で治すからな」

 

「うぅ~……う!」

 

「って俺に飛びつくなよ!やった南雲に文句を言ってくれ!って、ちょっ、ま、また血を吸うの…あひぃいいいいん」

 

 

ユエは心配して近寄ってきたコウスケに飛びかかり目いっぱい血を吸うことにした。確かに撃てといったのは自分であり、足手まといになるぐらいならと覚悟を決めたのも事実だ。だが、ユエとて女。多少の夢は見る。せめてちょっとくらい躊躇って欲しかったのだ。いくらなんでも、あの反応は軽すぎると不満全開でコウスケに八つ当たりする。ハジメにはせずコウスケにしているのは…なぜだろうか自分でもわからないが、コウスケならなんだかんだで許してくれそうとユエは解釈して好物の血を吸うのだった。

 

 ハジメとしては、操られた状態では上級魔法を使用される恐れが低いとわかった時点でユエに対する心配はほとんどしていなかった。ユエの不死性を超える攻撃などそうそうないからだ。しかし、躊躇い無く撃ってギクシャクするのも嫌だったので戦闘中に躊躇うという最大の禁忌まで犯して堪えたのに、そんなに不服だったのかと思案する。やはり味方に銃を向けるべきではなかったか。取りあえずコウスケには八つ当たりを受けてもらってからユエの機嫌を直そうかと考えていた。

 

(……結局…俺は…役に立てないのか……)

 

コウスケは血を吸われ恍惚になりながらどこか、心の底が冷えていくのを感じていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次はヒュドラ戦ですね
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