ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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戦闘描写が本当に難しくて困ります
でもここを頑張らないと…


死闘

 

 樹海の迷宮から順調に進みついにハジメとコウスケが最初にいた階層から百層目になるところまで来た。その一歩手前の部屋で装備の確認と補充点検を行っていた

 

「ついにここまで来たな」

 

「うん、ここが最後になるんだろうね…」

 

「長かった…なぁ南雲」

 

「ん?」

 

「俺この戦いが終わったらパインサラダを食べながら嵐の中田んぼを見に行ってあの娘に告白するんだ…」

 

「何で無理矢理、変なフラグを立てるの…」

 

「ほら死亡フラグを立てていけば逆に生還するって言わない?」

 

「初めて聞いたよそれ…」

 

 そんなくだらないことを話す2人。ユエはそんな2人を羨ましそうに見ながら2人の間に座り込む。最近はそれがお気に入りだ。自分を救ってくれた2人。

 ハジメは優しく、冷静に物事を判断してくれる。コウスケは、おどけながらよく気遣ってくれる。そんな2人の間にいるのは幸せで安心だった。

 

「ハジメ……いつもより慎重……」

 

「うん? ああ、次で百階だからね。もしかしたら何かあるかもしれないと思って。一般に認識されている上の迷宮も百階だと言われていたから……まぁ念のため」

 

 銃技、体術、固有魔法、兵器、そして錬成。いずれも相当磨きをかけたという自負がハジメにはあった。そうそう、簡単にやられはしないだろう。しかし、そのような実力とは関係なくあっさり致命傷を与えてくるのが迷宮の怖いところである。

 

 故に、出来る時に出来る限りの準備をしておく。コウスケにも新装備ができた。丸型の大盾だ。材料はサソリモドキの鉱石の余りを使ってあり魔法や衝撃に耐えられる一品物だ。本格的に火力が足りなく感じたコウスケがハジメに頼んで作ってもらったのである。

 

(作ってもらったのはいいけど……)

 

 この奥の敵を考え顔に緊張が走り喉がゴクリと音を出す。力不足の自分が盾となり、ハジメとユエで攻撃を担当する。それでいいはずだ。それなのに、どうしようもなく怖くなるのだ。自分は傷つくのは…怖くて嫌だが…まだ耐えられる。しかし、ハジメとユエの2人が自分がここにいるせいで、原作とは違う流れになり死んでしまうのではないかと不安になってしまうのだ。

 無論死なせるつもりなんてない。だが、考えれば考えるほど、嫌なことを思い描いてしまう、さっきのふざけたやり取りは緊張をほぐすためだったのに、手が少しづつ震えてきた。そんな時だった、震える手に小さな手がそっと重ねられる。

 

「……ん、コウスケ、大丈夫」

 

「コウスケ、僕たちがいる、だから平気だよ」

 

 ユエの手だった。不安を和らげようとしてくれているのか、手をそっと握り、無表情の顔に優しさを乗せる。ハジメも気づいたのか作業を中断しこっちを見て元気づけようとする、その眼には自分たちを頼ってくれと言う意思を言外に感じたのだ。そんな2人にコウスケは深く感謝をし自分を激励する

 

「…すまん、ちょっと緊張していたみたいだ…そうだな、俺たちがいれば何にも問題はないな!行こう!俺たちの戦いはこれからだ!」

 

「…それじゃあ、未完結になっちゃうじゃないか…」

 

 何があっても二人を守る。だから自分にできることをしよう。コウスケは強く決意した。

 

 

 その階層は、無数の強大な柱に支えられた広大な空間だった。柱の一本一本が直径五メートルはあり、一つ一つに螺旋模様と木の蔓が巻きついたような彫刻が彫られている。柱の並びは規則正しく一定間隔で並んでいる。天井までは三十メートルはありそうだ。地面も荒れたところはなく平らで綺麗なものである。どこか荘厳さを感じさせる空間だった。

 

 ハジメ達は暫く警戒していたが特に何も起こらないので先へ進むことにした。感知系の技能をフル活用しながら歩みを進める。二百メートルも進んだ頃、前方に行き止まりを見つけた。いや、行き止まりではなく、それは巨大な扉だ。全長十メートルはある巨大な両開きの扉が有り、これまた美しい彫刻が彫られている。特に、七角系の頂点に描かれた何らかの文様が印象的だ。

 

「……これはまた凄いな。もしかして……」

 

「……反逆者の住処?」

 

 如何にもラスボスの部屋といった感じだ。実際、感知系技能には反応がなくともハジメの本能が警鐘を鳴らしていた。この先はマズイと。それは、ユエも感じているのか、薄らと額に汗をかいている。

 

「コウスケ、ユエ、行こう。きっとこの先がゴールだ」

 

「ああ!」

 

「……んっ!」

 

 

そして、三人揃って扉の前に行こうと最後の柱の間を越えた。

 

 その瞬間、扉とハジメ達の間三十メートル程の空間に巨大な魔法陣が現れた。赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる。ハジメは、その魔法陣に見覚えがあった。忘れようもない、あの日、ハジメが奈落へと落ちた日に見た、自分達を窮地に追い込んだトラップと同じものだ。だが、ベヒモスの魔法陣が直径十メートル位だったのに対して、眼前の魔法陣は三倍の大きさがある上に構築された式もより複雑で精密なものとなっている。

 

「…これはまさしくラスボスだね」

 

「ああ、マジでそうっぽいな」

 

(最も付け加えるならプロローグのラスボスだけどな)

 

 魔法陣はより一層輝くと遂に弾けるように光を放った。光が収まった時、そこに現れたのは……体長三十メートル、六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。例えるなら、神話の怪物ヒュドラだった。

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

 

 不思議な音色の絶叫をあげながら六対の眼光がハジメ達を射貫く。身の程知らずな侵入者に裁きを与えようというのか、常人ならそれだけで心臓を止めてしまうかもしれない壮絶な殺気がハジメ達に叩きつけられた。

 

 同時に赤い紋様が刻まれた頭がガパッと口を開き火炎放射を放った。それはもう炎の壁というに相応しい規模である。ハジメとユエは同時にその場を左右に飛び退き反撃を開始する。コウスケは、左腕に盾を構えその場に防御の姿勢をとる。炎の壁がコウスケを焼き殺さんと迫ってくる。しかし、盾は難なくとその熱を防ぎきる。

 

(これなら、いける!)

 

 盾の性能に自信を持ちすぐに念話で2人に攻撃を頼む

 

”2人とも、こっちは平気だ!敵の頭には攻撃、防御、回復がいる!きっとそういう敵だ”

 

”わかった!なら、ユエ!回復する奴をを狙うぞ!”

 

”んっ!”

 

”ちなみに、回復は白色の奴だな!なぜって?俺ならそんな色にするからだ!”

 

 念のため回復役が何色か伝える。後の攻撃は2人に頼みコウスケは盾を構え敵の攻撃を耐える。赤頭が放つ炎弾の衝撃に耐え緑頭の放つ風刃の切りつけてくる音に冷や汗をかき、青頭の放つ氷弾を押し込む。隙をついては右手にかまえた地卿を振りヘイトを稼ぐ。どこか遠くで破裂のする音が聞こえた。ハジメの手榴弾だろうか。この調子なら行ける!そんな事を考えたときだった。

 

「いやぁああああ!!!」

 

 ユエの絶叫が聞こえた。あまりにも自分のうかつさにコウスケは舌打ちをした。黒頭のことを見逃していたのだ。黒頭は精神攻撃をしてくる。そのことを知っていたのに攻撃を防ぐことを、自分の役割に固執してしまった。

 

「ユエ!」

 

 視界の端に黒頭がはじけ飛ぶのが見えた、ハジメがすぐに気が付き吹き飛ばしてくれたのだろう。ユエのそばに駆け寄り、大口を開けてユエを食らおうとする青頭の前に立ちはだかる。

 

「クルルルッ!」

 

「ぐっがぁぁあああ!」

 

 盾を構えるのとかみつかれるのは同時だった。盾を使い飲み込まれないように腹から声を出し踏ん張る、すぐに青頭の上あごがふき飛んだ。

 

「コウスケ!ユエは!」

 

「怪我はねえ!この様子だと、おそらく精神攻撃を食らったんだろう!すぐにユエを連れて、ここから離れろ!」

 

「分かった!置き土産を残していくから、持ちこたえてよ!」

 

「おうよ!任せな!」

 

 ユエを抱え柱の方に向かいながら、しっかりと“閃光手榴弾”と“音響手榴弾”ついでに”焼夷手榴弾”をヒュドラに向かって投げつけるハジメ

 

「全く、中々気が利くなぁ南雲は…だから白崎に惚れられたのか?全く羨ましいなオイ、まぁいいや…さあ、クソ蛇どもかかってこいや!」

 

 

 

「ユエ!」

 

 柱の陰に隠れながらハジメはユエに呼びかけた。しかしユエは反応せず青ざめた表情でガタガタと震えている。コウスケの言葉から、ユエは恐慌状態になったと判断したハジメは、ペシペシとユエの頬を叩く。念のため神水も飲ませる。しかし、反応は帰ってこない。何かを求めるようにユエの手が虚空に伸びる。その手を優しく握りハジメはユエに呼びかける

 

「ユエ…どんな悪夢を見ているかはわからないけど、僕はここにいるよ」

 

「…ハ…ジ…メ…」

 

「うん。僕もコウスケも一緒だから…だから戻ってくるんだユエ」

 

 ハジメの言葉に虚ろだったユエの瞳に光が宿り始めた。パチパチと瞬きしながらユエはハジメの存在を確認するように、その小さな手を伸ばしハジメの顔に触れる。それで漸くハジメが其処にいると実感したのか安堵の吐息を漏らし目の端に涙を溜め始めた。

 

「ハジメ…私…暗闇で一人だった…ハジメもコウスケも……いなくて…見捨てられたと思った」

 

 泣きそうな不安そうな表情で震えるユエ。ハジメはそんなユエを見て…むぎゅっとユエのほっぺたを軽く指で押し込んだ。

 

「!?」

 

 驚くユエにハジメはユエの不安を吹き飛ばす様に明るく言い放つ。

 

「まったく…ユエは僕とコウスケのことを信じていないの?見捨てる?そんなことするはずないじゃないか。特にコウスケなんて可愛い女の子に目がなさそうだしね。見捨ててしまうなんて、ないないあり得ない」

 

「むぅ~」

 

 頬っぺたから指を話すとそこには先ほどまでの今にも泣きそうな顔ではなく拗ねたように怒ったような顔をするユエがいた。どうやら自分が思いついた荒療治が効いてくれたみたいだ。その事に内心ほっとして今も耐えているであろうコウスケの加勢に行くようにする

 

「もう大丈夫かい、ユエ?」

 

「んっ!」

 

 気合を入れるユエに続くようにドンナ―を構え飛び出してくハジメ。

 

 

 

 

 

「ぬぉおおお!!」

 

 比較的、無事だったのか黄頭と緑頭が攻撃を仕掛けて来る。幸い黄頭の方は防御の方が得意なのか攻撃はそこまで激しくはないが、緑頭の風刃が少しずつ盾を削っていくような音で冷や汗が吹き出てくる。それでも盾を持ちある程度持ちこたえたところで

 

「“緋槍”! “砲皇”! “凍雨”!」

 

 と矢継ぎ早に魔法が飛んでくる。どうやらユエは恐慌から回復したようだ。その声は覇気に満ち溢れていたどんなことをしたのか後でハジメに聞こうか考えながらもホッとするコウスケ。

 

「ユエ!平気か!」

 

「んっ!もう負けない!」

 

「よし!防御は任せろ!デカいの一発かましたれ!」

 

 ユエの魔法をサポートするように盾になるコウスケ。次々とこちらに向かって放たれる魔法を防ぐ。視界の端で黒頭がまたハジメによって吹き飛ぶ。

 

ドガンッ!!

 

 続けて大砲でも撃ったかのような凄まじい炸裂音をがした。ハジメの必殺兵器シュラーゲンが炸裂した音だった。思わずといった様子でハジメを見る三つの頭。その隙にユエが最上級魔法を放つ。

 

「“天灼”」

 

 かつての吸血姫。その天性の才能に同族までもが恐れをなし奈落に封印した存在。その力が、己と敵対した事への天罰だとでも言うかのように降り注ぐ。三つの頭の周囲に六つの放電する雷球が取り囲む様に空中を漂ったかと思うと、次の瞬間、それぞれの球体が結びつくように放電を互いに伸ばしてつながり、その中央に巨大な雷球を作り出した。

 

ズガガガガガガガガガッ!!

 

 中央の雷球は弾けると六つの雷球で囲まれた範囲内に絶大な威力の雷撃を撒き散らした。三つの頭が逃げ出そうとするが、まるで壁でもあるかのように雷球で囲まれた範囲を抜け出せない。天より降り注ぐ神の怒りの如く、轟音と閃光が広大な空間を満たす。

 

そして、十秒以上続いた最上級魔法に為すすべもなく、三つの頭は断末魔の悲鳴を上げながら遂に消し炭となった。

 

 何時もの如くユエがペタリと座り込む。魔力枯渇で荒い息を吐きながら、無表情ではあるが満足気な光を瞳に宿し、ハジメに向けてサムズアップした。ハジメも頬を緩めながらサムズアップで返す。

 

その直後、ハジメの後ろで七つ目の銀色の頭が胴体部分からせり上がり、ハジメを睥睨していた。

 

「ハジメ!」

 

「南雲油断するな!後ろだ!」

 

 思わずユエが切羽詰まった声を出す。コウスケも焦った声を出す…しかしハジメには近づかない。なぜならコウスケは知っているからだ。銀頭が誰を狙うかを。だから動かない。案の定、銀頭はハジメから視線を外し、魔力枯渇で動けないユエに狙いを定め極光を放った。

 

 極光が届く前にユエの前に立ち盾を構え…視界の端にハジメがこちらに向かってくるのが見え、それでも極光の方が早いのが分かり…ハジメが傷つかないと安堵して、余りにも原作通りに事が進んで視界がすべてが白くなる中少し笑ってしまった。

 

(そう、これでいいんだ…ハジメの身代わりに…そうだ、そのためについてき…)

 

そこまで考え、コウスケの意識は闇に沈んでいった…

 

 

 

 

 

 

 極光が収まり、ユエが吹き飛ばされたことによる全身に走る痛みに呻き声を上げながら体を起こす。極光に飲まれる前にコウスケが自分をかばったこと思い出しその姿を探す。コウスケはその場から動いてなかった。盾はすべて融解したのか、何も持っておらず全身から煙をあげぐらりと倒れこんだ。

 

「コウスケ!」

 

 すぐにハジメが駆けつけ、倒れ掛かったコウスケを支え、魔力の底をついたユエを背負い柱の影へ離脱した。コウスケの容体は酷いもので、上半身が焼けただれていた。顔のやけどは、上半身に比べると比較的ましだ、おそらく本能的に盾で防いだのだろう。下半身の方も角度的に被害が少なかったのか軽症だった

 

「…私をかばってコウスケが…」

 

「ユエ、大丈夫。コウスケはこんなことで死んだりしない…そうだよね、コウスケ」

 

 ユエは目に涙を貯めていた。動けない自分をとっさにかっばたせいで自分を救ってくれた恩人が、こんなに痛々しい姿になるのがつらかった。

 

 ハジメは自分のうかつさを悔やんだ。油断しないと決めたのにボスを倒せたと舞い上がってしまった。そのせいで親友が死にかけるなんて…爪熊から逃げ出したあの時を思い出しそうになり怒りで我を見失いそうになる。自分はあの時弱かったせいでコウスケが死にかけたのだ。それが嫌で強くなったはずなのにそれなのに目の前にいるのは、また死にかけている親友だった。必死の理性でユエにコウスケを託す。

 

「ユエ、神水をありったけ使ってコウスケを助けて」

 

「ハジメはどうするの?…」

 

「僕は…僕はアイツに用がある。コウスケがやられて…このままでいいはずがない!」

 

 ハジメは言い切るとヒュドラに向かっていった。ユエはすぐに神水をコウスケの傷口に振りかけもう一本も無理矢理口にねじ込み、飲ませる。しかし、神水は止血の効果はあったものの、中々傷を修復してくれない。何時もなら直ぐに修復が始まるのに、何かに阻害されているかの様に遅々としている。

 

「どうして!?」

 

 ユエは半ばパニックになりながら、手持ちの神水をありったけ取り出した。

 

 実は、ヒュドラのあの極光には肉体を溶かしていく一種の毒の効果も含まれていたのだ。普通は為す術もなく溶かされて終わりである。しかし、神水の回復力が凄まじく、溶解速度を上回って修復しており、速度は遅いものの、コウスケの魔物の血肉を取り込んだ強靭な肉体とも相まって時間をかければ治りそうである。しかしこのままグズグズしていては、ハジメの消耗がひどくなり死んでしまうユエは、コウスケの手を取りただ涙を流していた。

 

「コウスケ……」

 

 

 コウスケは、微睡む様に夢を見ていた。『ありふれた職業で世界最強』の世界にいるそんな胸が躍るような夢だった。幸せだった。原作の主人公ハジメと出会い仲良くなることができた。ヒロインであるユエに懐かれることができた。本当に幸せだった。辛く苦い現実をわずかでも忘れることができそうで…

 

 そこで急に夢に痛みが走る…ハジメは一人で戦っている、その表情は怒りに満ちていた。いったい何をそんなに怒り狂っているのだろうか?

 

誰のために?

 

 ユエは泣いていた、誰かの手を取りいつもの無表情ではなく、悲痛に満ち溢れていた。何でそんなに悲しんでいるんだろう?

 

誰のせい?

 

 痛みが徐々に現実になってくる。その痛みに呼応するかのように次々ハジメとユエの映像が流れる。ハジメと自己紹介をし笑いあったこと、死に物狂いで魔物から逃げたこと、お互いに生きて帰ろうと誓い合ったこと、ユエと初めて出会ったこと、戦闘中に血を吸われて情けない姿をハジメに見られたこと、自分の実力不足に悩んだこと、ユエに八つ当たりで吸血されたこと、様々な思い出が流れていく、そして最後に、自分の根幹である、ベヒーモスに立ち向かうハジメの光景が残る。

 

 そうだ自分は…あの姿を見て守りたいと、そばに立ちたいと願ったのだ。

 

 だからこんなところで寝ていられない!あの姿に!

 

「憧れたんだ!」

 

「コウスケ!?」

 

 瞬間目が覚めた。隣では信じられないような顔をしてユエが手を握っている。突如、体に激痛が走る。これまでの味わったことのない痛みに呻き声が出そうだが、それすらもはねのけるほど気分が高揚している。

 自分の根幹を、ハジメの…2人のそばにいる理由を思い出した、だからだろうか。気力と魔力が湧き上がってくる。と同時に自分の身体から蒼い光が出てきており漂うように纏わりついて来る。その光はコウスケの傷を治していき、また魔力や気力を回復させていく。

 

「なんじゃこりゃ!?ってそんな事はどうでもいいか。ユエ!今何がどうなっている!?」

 

「…ん、コウスケが倒れて、ハジメが怒って戦いに行って、私がコウスケに神水を飲ませた。」

 

「ハハッ…アイツ、ユエに自分の血を飲ませて2人で戦うってのが選択に入らなかったのか?」

 

「…ハジメはとてもコウスケを心配していたから…たぶん思いつかない」

 

「……仕方のない奴」

 

 ハジメの思わぬキレ方に苦笑が出る。何とも迂闊だが、心配してくれたことには嬉しくなる。この青い光が何なのか直感的に理解し、どう使うのかが分かってきた。だからハジメを守るためにユエに頼みごとをする。

 

「…これは…なるほど瀕死になったからって奴か…、ユエ頼みがある」

 

「?」

 

「俺の血を吸ってくれ、加減はいらねぇ思いっきりな」

 

「…平気?」

 

「ああ、南雲を助けたい、そのためにはユエ、お前の魔法が必要なんだ。頼む!」

 

「……んっ!」

 

 コウスケの強烈な意思の宿った言葉にユエもまた力強く頷いた。

 

 

 

 ハジメはただ一人戦っていた。脳裏に浮かぶのは傷だらけになった親友の姿。最初にその姿を見たときは自分の無力感が強かった。自分がもっと強ければもっと賢ければとそこから敵を殺すことに躊躇もしなくなった。事実自分は強くなった。それなのに親友はまた瀕死になった。もうあの光景を見たくなかったのにハジメは怒りで戦っていた。それには自分の怒りもあった。だからだろうか、さっきからドンナ―の銃弾がうまく当たらない。いつもなら当たるはずなのに…

 

「クソッなんで、当たらないんだ!」

 

頭の片隅に冷静になれと、コウスケは死ぬはずがないと叫んでいる。しかし、体は焦りを浮かべ思うように動かず、早く奴を殺せと心が憎悪で埋まる。ついには、銀頭の光弾を避けるのに精いっぱいになっていた。遂に体力がなくなり光弾が当たりそうになる。

 それでも、心は負けることを選ばず頭の片隅で冷静になれと、コウスケは死ぬはずがないと叫んでいる。しかし、体は焦りを浮かべ思うように動かず、早く奴を殺せと心が憎悪で埋まる。ついには、銀頭の光弾を避けるのに精いっぱいになっていた。遂に体力がなくなり光弾が当たりそうになる。

 

(ごめん…コウスケ)

 

親友に仇を撃てないこと謝るその刹那

 

 

 

 

 

 

 

 

見慣れた背中が目の前に立っていた

 

「!?」

 

「よう、なーにカッコつけてんだ?俺も混ぜてくれよ!なあ、()()()!」

 

 目の前にはコウスケが満身創痍でしかし、しっかりと立っていた。わずかに蒼い光が体から出ている見れば、コウスケの前には蒼く輝く光の盾があった。あれで光弾を防いだのか、気が付くと自分の周りにも薄い青の膜の様なものが覆っており体力と気力と魔力が回復していくのが分かる。

 

「…コウスケ…まったく…遅いよ…ヒーロー…」

 

「そりゃヒーローは遅れてくるからな。…ハジメ、アイツは任せろ。ユエと一緒に攻撃を頼む。作戦名は…『ロードローラーだ!!』で行こう!」

 

「はは、なんだよそれ…分かった!任された!」

 

 見れば、銀頭は、コウスケにくぎ付けになっており、こちらに見向きもしない。今が好機と作戦名を実行しに天井へ仕掛けを設置しにハジメは『天歩』を使い飛び上がった。さっきまでの怒りは綺麗に霧散していた。

 

 

ハジメが飛びあがったのを確認しコウスケは、ひたすらヒュドラを挑発していた

 

「へいへい!なーにビビってんだこら!!ああん!やる気出せよてめーそのデカい図体は何のためについてんだ!というより、自分一匹だけ生き残って恥ずかしくねーのかてめーはよ!お前自分が最後の切り札だと思ってんだか知らねーけどよ!どっからどう見たってただハブられてるようにしか見えねーんだよ!このボッチ野郎が!」

 

「グルゥゥウウアアアアアアアア!!」

 

「マジか!?図星なのか!?」

 

 多少主観的なのはあるが、挑発は効果的だったらしく銀頭は、すさまじい光弾を吐き出してきた、しかし蒼の盾はすべてを受け止め霧散させる。実はコウスケに新しい技能ができたのだ。さっきから銀頭がコウスケしか狙わないのは”誘光”という技能でありコウスケが敵だと認識したものは状態にかかわらず狙ってくるという盾として役割を持ちたかったコウスケには嬉しい技能である

 

 ハジメにかかっている薄い青い膜は”快活”であり対象者の体力と気力と魔力を回復し続けるものである。何気にしっかりと先ほどから魔力を練っているユエにもかかってありユエの魔力を回復している。

 

 最後の蒼い盾は”守護”誰かを守りたいと思えば思うほど固くなっていく。この3つの技能をコウスケは無意識に全力で活用しているのだ。すべては、ハジメをユエを守りたい、一緒にいたいというコウスケの願いがかなったものだ。

 

「ああ、いいなこれ、これなら一緒にいることができる。これならハジメたちについていける…感謝する、ヒュドラ。お前たちのおかげで俺は、やりたかったことが出来たんだ」

 

 光弾をはじきながら感謝を告げるコウスケ。その眼には迷いがなく吹っ切れた晴れ晴れとした快活さがあった。

 

 めきめきと天井が音を立てていく、ハジメが作戦を決行したのを実感しながら、コウスケは満足げにぶっ倒れるのだった

 

 

 

 

 




ようやくコウスケの役割とオリジナルの技能を出すことができました…
何か矛盾しているところがあったら嫌だなー

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