ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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ステータスプレート

 

 翌日から早速訓練と座学が始まった。

 

訓練場に集まったハジメ達に手渡されたのは銀色のプレート状の名刺の様な物だった。不思議そうに配られたプレートを見るハジメ達に騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。

 

「皆、手渡されたプレートを見てくれ。コイツはステータスプレートと呼ばれるものであってお前たちの強さを客観的な数字として表すもんだ。ほかにも自身の身分証としての意味を持つ。失くすなよ?発行するには面倒な手続きが必要だからな」

 

 非常に気楽な喋る方をしてくるメルド。騎士団長が素人の訓練に付き合っていいのだろうかと思ったのだが、メルド曰く『これから戦友になる奴らの相手をして何が悪い!面倒な仕事は副長に押し付けてきたから問題ない!』との事だった。

 

 そんな豪放磊落なメルドの説明は続く。曰くステータスプレートはアーティファクトの一種でアーティファクトとは現代では再現できない強力な力を持った魔法道具の事を言うらしい。ステータスプレートを複製するアーティファクトと一緒に見つかって以来一般市民にも流通を始めたとか何とか。

 

 そんなこんなで各自自分のステータスを確認すると

 

 

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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1

天職:錬成師

筋力:10

体力:10

耐性:10

敏捷:10

魔力:10

魔耐:10

技能:錬成・言語理解

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(うわ…僕のステータス低すぎ?)

 

 現れたステータスにはレベルと各ステータスの数値が表示された。何だか嫌な予感を感じながらも説明を聞くにレベルは人間の到達できる領域の現在地を示し、ステータスは日々の鍛錬や魔法などで上昇する仕組みらしい。

 

 そして、天職。これは才能と呼ばれるもので技能と大きく関わるもので、その職業内においては無類の才能を誇るらしい。

 

 天職持ちは希少で何でも戦闘系は千人に一人、場合によっては万人に一人もあるらしい。所変わってハジメのような錬成師と呼ばれる非戦闘系の天職持ちは百人に一人、十人に一人はいてもおかしくないというのも結構あるらしかった。

 

 なんとも、希少性のないの天職だなとハジメがぼんやりと感じていたところでメルドの次の説明を聞いて一気に冷や汗が飛び出してきた。

 

 何とステータスは見たままでこの世界の平均は10だと言うのだ。しかも神から選ばれた自分たちはその平均より10倍は固いとメルドが嬉しそうに笑っている中改めて自身のステータスを確認するハジメ。

 

 だが何度見てもステータスは10のまま変わらず、上位世界から呼び出されたはずの自分は何故かこの世界の平均と言う事実は変わらなかった。

 

(な、なんでぇ~僕達って強いってのが普通じゃないの?見事なぐらい平均値なんですけど?ほ、ほかの皆は…もしかして僕のステータスプレートが壊れているだけって話じゃ…)

 

 キョロキョロと辺りを見回しながら自分と同じようなものはいないか探すが、誰もハジメの様に冷や汗をかくものはいない。

 

 メルド団長の呼び掛けに、早速、難しい顔をした光輝がステータスの報告をしに前へ出た。

 

 そのステータスは……

 

============================

天之河光輝 17歳 男 レベル:1

天職:勇者  ---

筋力:100

体力:100

耐性:100

敏捷:100

魔力:100

魔耐:100

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・

高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解  --魔法

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 まさにチートの権化だった。

 

「ほお~、流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か……技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め! 頼もしい限りだ!」

 

「…だったら本当によかったんですけど……」

 

「?なんか言ったか、今?」

 

「いえ、何でもないですよメルドさん」

 

 団長の称賛に光輝は一瞬複雑そうな顔をしたが、すぐに、にこやかな顔になった

 

 光輝だけが特別かと思ったら他の連中も、光輝に及ばないながら十分チートだった。それにどいつもこいつも戦闘系天職ばかりなのだが……

 

 自分の報告の番が巡りステータスプレートを見せると規格外の戦力にホクホク顔だったメルドの顔がピシリと固まる。そして物凄く、見ているハジメがげんなりするほど微妙そうな表情で苦笑いをした。

 

「ああ、その、何だ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか……」

 

 歯切れ悪くハジメの天職を説明するメルド団長。その対応で目ざとく檜山達が一気にハジメに絡みついてきた。

 

「おいおい、南雲。もしかしてお前、非戦系か? 鍛治職でどうやって戦うんだよ? メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」

 

「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな」

 

「おいおい、南雲~。お前、そんなんで戦えるわけ?」

 

 そこから始まったのはハジメの低ステータスと非戦闘職業を嘲笑う檜山達の騒ぎ立てるような嘲笑だった。

 

(なんでこんなことするんだろう…僕だって好きでこんな低ステータスになったわけじゃないのに)

 

 同じ状況と場所で呼び出されたはずなのに『何故か」ほかの皆は違う低ステータスに非戦闘職業。なりたくてなったわけではないのにそれを嘲笑う檜山達に、ハジメも表情には出さないが暗い気持ちが募ってくる。 

 

 その状況に香織が憤然と動き出す。しかし、その前に動きメルドに質問をするものがいた。光輝だ

 

「あれ?メルドさん南雲は非戦闘職ですけど別に戦う必要はないんじゃないですか?」

 

「いや、光輝そう言うわけにはいかないんだ。神々の使徒として戦えないものはいないと証明しなければいけないんだ」

 

「…ふーん、だったら俺が南雲の分まで戦いますよ。なにせ、俺はここにいる誰よりも強いんですから皆も納得してくれますよ。檜山もそれでいいだろ?」

 

「あ、ああ」

 

 メルドの声に不思議そうな顔をするもさわやかなスマイルを見せながら檜山たちに話しかける光輝檜山達としてはあまり光輝ともめ事を起こしたくないのかすごすごと引き下がっていったそれを確認した後、光輝は皆に聞こえるようにハジメに話しかけてきた。

 

「安心してくれ、南雲! 非戦闘職業の錬成師が前に出ないように俺はお前の分まで頑張るからさ!」

 

「あ、ありがとう天之河くん…」

 

 無駄にキラキラした顔で宣言する光輝に周りのクラスメイトは「やっぱり勇者はすげぇ!」「流石、天之河君優しぃ~」ともてはやし一種のお祭り騒ぎと化す訓練場。

 

(あれ、天之河君ってこんな感じの人だったっけ?)

 

 ハジメとしては少しの疑問を抱き首をひねるのだった。

 

 

 

 

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 …うまくいっただろうか?流石にあの光景を無視するのは気が引ける。しかし、なぜ彼だけが非戦闘職なんだろう。…わからない、ほかの奴は戦闘職、それも性格にあっているようなものばかり

 …そう考えると彼はどこにでもいる少年として、ありふれた職業…非戦闘職の錬成師なのだろうか?

 

 


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