ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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遅れました。ひっそりと投稿します


うさ耳救出

 

「うわぁああーーーーー速いですぅーーーーーー!!風がーーーーーー気持ちいぃぃぃぃ!!」

 

「分かったから暴れるな!はぁ…なんでこんなことに…」

 

「…ん、仕方ない…我慢する」

 

「あっははは、そりゃ仕方ねぇさ!急がば回れっていうだろ!寄り道して人助けした方が案外目的地に早く着くかもよ!」

 

現在、ハジメとコウスケとユエは、うさ耳少女のシアを連れ、その家族のところまで魔力駆動二輪を飛ばしているところだった。本来ならメリットがなく面倒ごとに巻き込まれるとハジメは考えていたため素気無く断ったのだが、コウスケが

 

「うさ耳がいっぱいいるんだぞ?見たくない?モフりたくない?」

 

とシアの家族を助けるように提案し、またユエの

 

「…樹海の案内に丁度いい」

 

と言われるとハジメは何も言えなくなった。確かに、樹海は亜人族以外では必ず迷うと言われているため、兎人族の案内があれば心強い。樹海を迷わず進むための対策も一応考えていたのだが、若干、乱暴なやり方であるし確実ではない。そうなると自ら進んで案内してくれる亜人がいるのは正直言って有り難い。ただ、シア達はあまりに多くの厄介事を抱えているため逡巡するハジメ。しかし身内であるユエとコウスケが助けた方が良いというのだ。身内に非常に甘いハジメは結局断ることができず樹海の案内を取り付けシアの家族を助けることになった。

 

 

そんなこんなで魔力駆動二輪に乗りながら自己紹介をし事情を話すシアの話をまとめると

 

1 温厚な兎人族の一つ、ハウリア族は静かに暮らしていた

 

2 亜人族には無いはずの魔力をもつ特異性のある女の子…シアがハウリア族に生まれた

 

3 故郷であるファベルゲンにばれると殺されるので一族全員で隠し守った

 

4 16年秘密にしたが、ばれたので処刑される前に一族総出で逃げた

 

5 帝国兵に見つかった。奴隷にされるのでライセン大峡谷へ逃げた

 

6 運悪く魔物に見つかった。ヤバイ、助けて!

 

ということだった。ちなみにシアは未来視という固有魔法がある。この力でハジメたちが助けてくれる未来を見て家族と別行動をして魔物に襲われていたのだ。

 

「未来を見れるね~その力があれば大層楽になれると思うけど」

 

「未来視って言っても選択した先が少しだけ見えるとか、危険が迫った時は勝手に見れるとかそんな感じですぅ。最も見えた未来が絶対という訳ではないですけど…」

 

そんな事をハジメの腰に抱き着きながら説明をするシア。魔力駆動二輪を運転しているのはハジメで、ハジメの前にユエ、後ろにシアという美少女のサンドイッチ状態だ。

 

ちなみにシアの容姿は少し青みがかったロングストレートの白髪に、蒼穹の瞳。眉やまつ毛まで白く、肌の白さとも相まって黙っていれば神秘的な容姿とも言えるだろう。手足もスラリと長く、ウサミミやウサ尻尾がふりふりと揺れる様は何とも愛らしい。おまけにシアは大変な巨乳の持ち主だった。ボロボロの布切れのような物を纏っているだけなので殊更強調されてしまっているそれは、

固定もされていないのだろう。彼女が動くたびにぶるんぶるんと揺れ、激しく自己を主張している。ぷるんぷるんではなくぶるんぶるんだ。念の為。

 

そんな美少女たちにサンドイッチされながらも動揺することなく運転するハジメにコウスケは感心している。とその時さっきまで楽しそうにはしゃいでいたシアがおずおずと伺うように話しかけてきた。

 

「あ、あの。助けてもらうのに必死で、つい流してしまったのですが……この乗り物?は何なのでしょう? それに、さっきコウスケさん魔法使いましたよね?ここでは使えないはずなのに……」

 

「そーだな、暇になったし、かいつまんで説明しよう!南雲、補足をお願いね」

 

「ハイハイ」

 

コウスケは、魔力駆動二輪の事やユエが魔法を使える理由、ハジメの武器がアーティファクトみたいなものだと簡潔に説明した。すると、シアは目を見開いて驚愕を表にした。

 

「え、それじゃあ、みなさんも魔力を直接操れたり、固有魔法が使えると……」

 

「ああ、そうなるな」

 

「……ん」

 

「そんな感じ」

 

 暫く呆然としていたシアだったが、突然、何かを堪える様にハジメの腰を強く握りしめ肩に顔をうずめた。そして、何故か泣きべそをかき始めた。

 

「どったの?あんまりその凶悪なものを押し付けると、南雲平静を保てなくて事故っちまうからやめてほしいんだけど」

 

「……ハジメはおっきいのが好き…」

 

「そ、そんな事じゃ事故らないよ!ユエもそんな目で見ないで!」

 

「お、押し付けてません!そういうことじゃなくて…ただ、一人じゃなかったんだなっと思ったら……何だか嬉しくなってしまって……」

 

「「「……」」

 

 どうやら魔物と同じ性質や能力を有するという事、この世界で自分があまりに特異な存在である事に孤独を感じていたようだ。家族だと言って十六年もの間危険を背負ってくれた一族、シアのために故郷である樹海までも捨てて共にいてくれる家族、きっと多くの愛情を感じていたはずだ。それでも、いや、だからこそ、“他とは異なる自分”に余計孤独を感じていたのかもしれない。

 

 シアの言葉に、ユエは思うところがあるのか考え込むように押し黙ってしまった。いつもの無表情がより色を失っている様に見える。ハジメには何となく、今ユエが感じているものが分かった。おそらく、ユエは自分とシアの境遇を重ねているのではないだろうか。共に、魔力の直接操作や固有魔法という異質な力を持ち、その時代において“同胞”というべき存在は居なかった。

 

 だが、ユエとシアでは決定的な違いがある。ユエには愛してくれる家族が居なかったのに対して、シアにはいるということだ。それがユエに、嫉妬とまではいかないまでも複雑な心情を抱かせているのだろう。しかも、シアから見れば、結局、その“同胞”とすら出会うことができたのだ。中々に恵まれた境遇とも言える。

 

ハジメはそっとユエの頭をなでる。ユエはハジメが撫でてくれていることに安心したのかハジメに体を預ける。コウスケはそんなユエを見ながらユエにどう言えばいいのかわからなくなっていた。外で友達ができるなんて言ってしまった手前、同じ異端の力をを持つユエとシアはできるだけ仲良くなってもらいたいところだが、今のシアにそこまで求めるのは難しい。シリアスは苦手なのである。色々考えていたが面倒になったのでハジメに丸投げしようかと考えたとき、いきなりシアが不満そうに騒ぎ始めた

 

「あの~、私のこと忘れてませんか? ここは『大変だったね。もう一人じゃないよ。傍にいてあげるから』とか言って慰めるところでは? 私、コロっと堕ちゃいますよ? チョロインですよ? なのに、せっかくのチャンスをスルーして、何で皆さんいきなり無視をするんですか! 寂しいです! 私も仲間に入れて下さい! 」

 

「「黙れ残念ウサギ」」

 

「……はい……ぐすっ……」

 

シリアスの雰囲気がコミカルに変わったので内心グッジョブとシアをほめるコウスケ。取りあえずその場の空気に乗ってみる。

 

「大変だったねーもう一人じゃないよー俺達がいるからーよかったねー」

 

「……コウスケさん。…言ってくれるのは嬉しいんですけど…全然気持ちが込められていないですぅ…」

 

がっくりとした様子で落ち込むシア。最も内心では「コウスケさんは中々乗ってくれますねぇ~この調子で他2人の好感度を稼ぎますよぉ~せっかく見つけたお仲間です。逃しませんからねぇ~!」と新たな目標に向けて闘志を燃やしていた。

 

 

 暫く、シアが騒いでハジメに怒鳴られるという事を繰り返していると、遠くで魔物の咆哮が聞こえた。どうやら相当な数の魔物が騒いでいるようだ。

 

「! ハジメさん! もう直ぐ皆がいる場所です! あの魔物の声……ち、近いです!父様達がいる場所に近いです!」

 

「うさ耳!子供も大人もゲットだぜ!南雲ぶっ飛ばせ!うさ耳が俺たちを待っている!」

 

「分かったから騒ぐな!コウスケもはしゃぐな!小学生か!」

 

 ハジメは、魔力を更に注ぎ、二輪を一気に加速させた。壁や地面が物凄い勢いで後ろへ流れていく。そうして走ること二分。ドリフトしながら最後の大岩を迂回した先には、今まさに飛行型の魔物に襲われようとしている数十人の兎人族達がいた。

 

すぐに敵の数をハジメに伝えるコウスケ。運転はハジメに任せている以上索敵に精を出す。

 

「敵の数は6!南雲‼行けるか!?」

 

「冗談!数秒で終わらせる!!」

 

遠距離でしかも運転中だというのに、正確に魔物の頭部を狙い撃ち抜くハジメ。それを見てシアはきゃっきゃっと騒ぐ。

 

「凄い!凄いですよ‼ハジメさん!あのハイベリアを簡単に倒すなんて!」

 

どうやら飛行型の魔物の名前はハイベリアというらしい。が、ハジメはそんな事よりも、魔力駆動二輪を高速で走らせながらイラッとした表情をしていた。仲間の無事を確認した直後、シアは喜びのあまり後部座席に立ち上がりブンブンと手を振りだした。それ自体は別にいいのだが、高速で走る二輪から転落しないように、シアは全体重をハジメに預けて体を固定しており、小刻みに飛び跳ねる度に頭上から重量級の凶器巨乳がのっしのっしとハジメの頭部に衝撃を与えているのである。そのせいで、照準がずれ、二匹目のハイベリアを一撃で仕留められなかった。

 

 ハジメは、未だぴょこぴょこと飛び跳ね地味に妨害してくるシアの服を鷲掴みにする。それに気がついたシアが疑問顔でハジメを見た。ハジメは前方を向いているため表情は見えないが、何となく不穏な空気を察したシアが恐る恐る尋ねた。

 

「あ、あの、ハジメさん? どうしました? なぜ、服を掴むのです?」

 

「…戦闘を妨害するくらい元気なら働かせてやろうと思ってな」

 

「は、働くって……な、何をするのです?」

 

「なに、ちょっと飢えた魔物の前にカッ飛ぶだけの簡単なお仕事だ」

 

「!? ちょ、何言って、あっ、持ち上げないでぇ~、振りかぶらないでぇ~」

 

 焦りの表情を表にしてジタバタもがくシアだが、筋力一万超のハジメに叶うはずもなくあっさり持ち上げられる。

 

ハジメは片手でハンドルを操作すると二輪をドリフトさせ、その遠心力も利用して問答無用に、上空を旋回するハイベリア達へ向けてシアをぶん投げた。

 

「逝ってこい! 残念ウサギ!」

 

「いやぁあああーー!!」

 

「美少女を躊躇なく魔物に向かって放り投げるとは…南雲さんは鬼畜やで~」

 

 物凄い勢いで空を飛ぶウサミミ少女。シアの悲鳴が峡谷に木霊する。有り得ない光景に兎人族達が「シア~!」と叫び声を上げながら目を剥き、ハイベリアも自分達に向かって泣きながらぶっ飛んでくる獲物に度肝を抜かれているのか、シアが眼前を通り過ぎても硬直したまま上空を見上げているだけだった。

 

 そして、その隙を逃すハジメではない。滞空するハイベリア等いい的である。銃声が四発鳴り響き、放たれた弾丸が寸分のズレもなくハイベリア達の顎を砕き貫通して、そのまま頭部を粉砕した。

 

 断末魔の悲鳴を上げる暇すらなく、力を失って地に落ちていくハイベリア。この谷底では危険で厄介な魔物として知られている彼等が、何の抵抗もできずに瞬殺された。有り得べからざる光景に、硬直する兎人族達。

 

 そんな彼等の耳に上空から聞きなれた少女の悲鳴が降ってくる。

 

「あぁあああ~、たずけでぇ~、ハジメさぁ~ん!ゴウズゲざぁ~ん!」

 

 慌ててシアの落下地点に駆けつけようとする兎人族達を追い抜いたハジメが、ちょうど落下してきたシアをコウスケがキャッチできるように二輪をドリフトさせる。

 

「親方!空からうさ耳の生えた残念美少女が‼」

 

「捨てろ!パズー!」

 

難なくとキャッチするコウスケ。しかしユエとはまた違った美少女の肉体の触り心地に慌ててシアをぺいっと捨ててしまう。

 

(うぉ!や、柔らかい!何という肌触り!女の子の肌って触り心地が良いんだな…って何やっとんじゃい己は!)

 

「あふんっ! うぅ~、私の扱いがあんまりですぅ。待遇の改善を要求しますぅ~。私もユエさんみたいに大事にされたいですよぉ~」

 

しくしくと泣きながら抗議の声を上げるシア。どうやら自分が触ったことに関しては全然気にしてはいないらしい。ホッと息を吐くコウスケ。

 

 投擲とキャッチの衝撃でボロボロになった衣服を申し訳程度に纏い、足を崩してシクシク泣くシアの姿は実に哀れを誘った。流石に、やり過ぎた……かな?と思うハジメは宝物庫から予備のコートを取り出し、シアの頭からかけてやった。これ以上、傍でめそめそされたくなかったのだ。正直めんどくさいしかなり鬱陶しい。

 

しかし、それでもシアは嬉しかったようである。突然に頭からかけられたものにキョトンとするものの、それがコートだとわかるとにへらっと笑い、いそいそとコートを着込む。ユエとお揃いの白を基調とした青みがかったコートだ。

ったコートだ。

 

「も、もう! ハジメさんったら素直じゃないですねぇ~、ユエさんとお揃いだなんて……もぅ~、 ダメですよぉ~、ユエさんと同じように大切だなんて~私、そんなチョロイ女じゃないですから、もっと、優しくしてくれないと~~」

 

 モジモジしながらコートの端を掴みイヤンイヤンしているシア。それに再びイラッと来たハジメは無言でドンナーを抜き、シアの額目掛けて発砲した。

 

「はきゅん!」

 

 弾丸は炸薬量を減らし先端をゴム状の柔らかい魔物の革でコーティングしてある非致死性弾だ。ただ、それなりの威力はあるので、衝撃で仰け反り仰向けに倒れると、地面をゴロゴロとのたうち回るシア。「頭がぁ~頭がぁ~」と悲鳴を上げている。だが、流石の耐久力で直ぐに起き上がると猛然と抗議を始めた。きゃんきゃん吠えるシアを適当にあしらっていると兎人族がわらわらと集まってきた。

 

「シア! 無事だったのか!」

 

「父様!」

 

「!?男のうさ耳!…ふむ、悪くない、いやむしろそれがイイ!」

 

「流石にドン引きだよ…」

 

「……変態コウスケ」

 

 真っ先に声をかけてきたのは、濃紺の短髪にウサミミを生やした初老の男性だった。はっきりいってウサミミのおっさんとか誰得である。しかしコウスケは、妙に興奮している。シュールな光景と親友の謎の興奮状態に微妙な気分になっていると、その間に、シアと父様と呼ばれた兎人族は話が終わったようで、互の無事を喜んだ後、ハジメの方へ向き直った。

 

「ハジメ殿とコウスケ殿で宜しいですか? 私は、カム。シアの父にしてハウリアの族長をしております。この度はシアのみならず我が一族の窮地をお助け頂き、何とお礼を言えばいいか。しかも、脱出まで助力くださるとか……父として、族長として深く感謝致します」

 

 そう言って、カムと名乗ったハウリア族の族長は深々と頭を下げた。後ろには同じように頭を下げるハウリア族一同がいる。

 

「別に大した労力では…それより助けた礼として樹海を案内し、その間の危険は俺たちが引き受ける。で、いいんだよな?南雲」

 

「ああ、それであってるよ。だから、助けたのは樹海の案内と引き換えなんだ。それは忘れるなよ?それより、随分あっさり信用するんだな。亜人は人間族にはいい感情を持っていないだろうに……」

 

念のため契約の確認をするコウスケそれにこたえながらハジメはカムの態度に疑問を抱いた。シアの存在で忘れそうになるが、亜人族は被差別種族である。実際、峡谷に追い詰められたのも人間族のせいだ。にもかかわらず、同じ人間族であるハジメ達に頭を下げ、しかもハジメ達の助力を受け入れるという。それしか方法がないとは言え、あまりにあっさりしているというか、嫌悪感のようなものが全く見えないことに疑問を抱くハジメ。

 

カムは、それに苦笑いで返した。

 

「シアが信頼する相手です。ならば我らも信頼しなくてどうします。我らは家族なのですから……」

 

 その言葉にハジメは感心半分呆れ半分だった。一人の女の子のために一族ごと故郷を出て行くくらいだから情の深い一族だとは思っていたが、初対面の人間族相手にあっさり信頼を向けるとは警戒心が薄すぎる。というか人がいいにも程があるというものだろう。

 

「えへへ、大丈夫ですよ、父様。ハジメさんは、女の子に対して容赦ないし、対価がないと動かないし、人を平気で囮にするような酷い人ですけど、ただ照れてしまってそんな事をしているだけですから!」

 

「はっはっは、そうかそうか。つまり照れ屋な人なんだな。それなら安心だ」

 

 シアとカムの言葉に周りの兎人族達も「なるほど、照れ屋なのか」と生暖かい眼差しでハジメを見ながら、うんうんと頷いている。

 

ハジメが額に青筋を浮かべドンナーを抜きかけている横でコウスケは朗らかに笑うハウリア族を感心しながら見ている。

 

(…いい人たちだ…なんか暖かいというかホッコリするというか…情の深い一族、か…)

 

コウスケにとって家族愛の強いハウリア族はとても心が温まるものだった。人がよさそうなカムも非常に好感が持てる。だから、ハウリア族がひとまず助かってホッとする。

 

そんなことを考えながら、ライセン大峡谷の出口目指して歩を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いつも誤字脱字報告ありがとうございます

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