ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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人殺しに酔う

「ところでカムさん、助けた礼としてそのうさ耳を触りたいんだが?」

 

うさ耳たちを引き連れながらコウスケはカムに話しかける。実はさっきから我慢していたのだ。ここはファンタジーならばこそ、生のうさ耳を触りたい気持がついに出てきた。最も本当は美少女であるシアのうさ耳を滅茶苦茶に触りたいのだが…童貞ヘタレのコウスケには無理だった。それならば、そのシアの父親である、カムに標的を定めたのだ。実際現代にはうさ耳のおっさんはいない…ならば、その触り心地はどうなのかと気になってしょうがないのだ。

 

「ふむ、別にかまわないのですが…しかし、私でよろしいのですかな?あなたの年代だとシアやほかの娘たちの方が良いのでは?」

 

思いっきり自分の好みがばれていた。動揺するコウスケ。しかし、そんな様子はおくびにも出さずはっきりと宣言する。

 

「確かに、ハウリア族の女性は綺麗どころだ。そのうさ耳に飛びつきたい。思う存分モフモフしたい。だがそれじゃあダメなんだ。

それでは、ただの女性に興奮している変態だ。俺は違う、断じてそんな変態ではない。俺はうさ耳を触りたい、ただそれだけなんだ。そこに老若男女関係がないそのためにも、まず族長であるあなたのうさ耳の触り心地を確認したいんだ」

 

「ハジメさん、あの人は真顔で父様に何を言っているんですか?」

 

「知らん、あれはただの病気だ」

 

「……コウスケは変態…ただそれだけ」

 

コウスケの変態性に他人のふりをしたいハジメ。訳知り顔で頷くユエそんなところにコウスケがニヤニヤと意地の悪い顔をしながら爆弾発言をする。

 

「おいおい南雲く~ん、な~に自分は興味ありませんって顔をしてんだ?俺は知っているぞ、本当は触りたくてうずうずして仕方ないって」

 

「まったく、馬鹿を言わないでよコウスケ。僕はうさ耳が触りたいなんて一言も」

 

「ふ、語るに落ちたな。俺は何もうさ耳なんて言ってないぞ」

 

「!?」

 

「ふふ、間抜けは見つかったようだ…あおん!」

 

額に青筋を浮かべコウスケの股間にゴム弾を撃つハジメ。ゴム弾を食らったコウスケはいつものようにビクンビクンしている。そんなハジメにシアは含み笑いをしながら話しかける。

 

「もぅ~そんなに照れなくてもいいですよぉ~ハジメさん正直にうさ耳が触りたいといえばいつでも触ってくれて…あわわわわわわっ!?」

 

取りあえずシアの足元にゴム弾を撃つハジメ。 ゴム弾が足元を連続して通過し、奇怪なタップダンスのようにワタワタと回避するシア。そんな光景を見て周りのハウリア族たちは楽しそうに笑っている。

 

「こいつら…なんか調子が狂う」

 

「……ズレてる」

 

ユエの言う通り、どうやら兎人族は少し常識的にズレているというか、天然が入っていた温厚種族らしい。それが兎人族全体なのかハウリアの一族だけなのかは分からないが。

 

 そうこうしている内に、一行は遂にライセン大峡谷から脱出できる場所にたどり着いた。ハジメが“遠見”で見る限り、中々に立派な階段がある。岸壁に沿って壁を削って作ったのであろう階段は、五十メートルほど進む度に反対側に折り返すタイプのようだ。階段のある岸壁の先には樹海も薄らと見える。ライセン大峡谷の出口から、徒歩で半日くらいの場所が樹海になっているようだ。

 

 ハジメとコウスケが何となしに遠くを見ていると、シアが不安そうに話しかけてきた。

 

「帝国兵はまだいるでしょうか?」

 

「ん? どうだろうな。もう全滅したと諦めて帰ってる可能性も高いが……」

 

「そ、その、もし、まだ帝国兵がいたら……ハジメさん、コウスケさん……どうするのですか?」

 

「どうするも何も、敵対するだろうなー」

 

「まぁそうなるだろうね」

 

のんびりとした様子のハジメとコウスケに意を決したようにシアが尋ねる。周囲の兎人族も聞きウサミミ耳を立てているようだ。

 

「…今まで倒した魔物と違って、相手は帝国兵……人間族です。お二人と同じ。……敵対できますか?」

 

「? 未来が見えていたんじゃないのか?」

 

「はい、見ました。帝国兵と相対するお二人を……」

 

「ふーん……で?何が疑問なんだ?」

 

「疑問というより確認です。帝国兵から私達を守るということは、人間族と敵対することと言っても過言じゃありません。同族と敵対しても本当にいいのかと……」

 

 

 シアの言葉に周りの兎人族達も神妙な顔付きで2人を見ている。小さな子供達はよく分からないとった顔をしながらも不穏な空気を察してか大人達とハジメとコウスケを交互に忙しなく見ている。

 

「ふむ?国に喧嘩を売れるかってことか。なら全く問題ないな」

 

「だね。…コウスケの言うことを補足すると、僕たちは樹海探索のためにあんたたちを助けたんだ。それまでに死なれたら困るから守っているんだ。決して同情も義侠心でもない。今後を守る気もない」

 

「だから、樹海の案内の仕事が終えるまでは守る。何があっても絶対守る。だから邪魔するものは容赦しない、それが人間だろうと国だろうと、すべては俺たちのために…お分かり?」

 

(最も俺は助けたくて助けるんですけどねーうん、そうだ。こんな優しく良い人たちを見捨てるなんて…俺には…)

 

「な、なるほど……」

 

なんともハジメたちらしい考えに何も言えないシア。未来視では助けてくれる光景を見たといってもといっても未来は絶対ではない。見えた未来の確度は高いが、万一、帝国側につかれては今度こそ死より辛い奴隷生活が待っている。表には出さないが“自分のせいで”という負い目があるシアは、どうしても確認せずにはいられなかったのだ。

 

「はっはっは、分かりやすくていいですな。樹海の案内はお任せくだされ」

 

 カムが快活に笑う。下手に正義感を持ち出されるよりもギブ&テイクな関係の方が信用に値したのだろう。その表情に含むところは全くなかった。

 

 一行は、階段に差し掛かった。ハジメとコウスケを先頭に順調に登っていく。帝国兵からの逃亡を含めて、ほとんど飲まず食わずだったはずの兎人族だが、その足取りは軽かった。亜人族が魔力を持たない代わりに身体能力が高いというのは嘘ではないようだ。

 

 そして、遂に階段を上りきり、ハジメ達はライセン大峡谷からの脱出を果たす。

 

 登りきった崖の上、そこには……

 

「おいおい、マジかよ。生き残ってやがったのか。隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁ~こりゃあ、いい土産ができそうだ」

 

 三十人の帝国兵がたむろしていた。周りには大型の馬車数台と、野営跡が残っている。全員がカーキ色の軍服らしき衣服を纏っており、剣や槍、盾を携えており、ハジメ達を見るなり驚いた表情を見せた。

 

だが、それも一瞬のこと。直ぐに喜色を浮かべ、品定めでもするように兎人族を見渡した。

 

「小隊長! 白髪の兎人もいますよ! 隊長が欲しがってましたよね?」

 

「おお、ますますツイテルな。年寄りは別にいいが、あれは絶対殺すなよ?」

 

「小隊長ぉ~、女も結構いますし、ちょっとくらい味見してもいいっすよねぇ? こちとら、何もないとこで三日も待たされたんだ。役得の一つや二つ大目に見てくださいよぉ~」

 

「ったく。全部はやめとけ。二、三人なら好きにしろ」

 

「ひゃっほ~、流石は小隊長! 話がわかる!」

 

 帝国兵は、兎人族達を完全に獲物としてしか見ていないのか戦闘態勢をとる事もなく、下卑た笑みを浮かべ舐めるような視線を兎人族の女性達に向けている。兎人族は、その視線にただ怯えて震えるばかりだ。

 

 帝国兵達が好き勝手に騒いでいると、兎人族にニヤついた笑みを浮かべていた小隊長と呼ばれた男が、漸くハジメとコウスケの存在に気がついた。

 

「あぁ? お前誰だ? 兎人族……じゃあねぇよな?」

 

ハジメは、帝国兵の態度から素通りは無理だろうなと思いながら、一応会話に応じる。

 

「ああ、人間だ」

 

「はぁ~? なんで人間が兎人族と一緒にいるんだ? しかも峡谷から。あぁ、もしかして奴隷商か?情報掴んで追っかけたとか? そいつぁまた商売魂がたくましいねぇ。まぁ、いいや。そいつら皆、国で引き取るから置いていけ」

 

 勝手に推測し、勝手に結論づけた小隊長は、さも自分の言う事を聞いて当たり前、断られることなど有り得ないと信じきった様子で、そうハジメに命令した。当然、ハジメが従うはずもない。

 

「断る」

 

「……今、何て言った?」

 

「断ると言ったんだ。こいつらは今は僕達のもの。あんたらには一人として渡すつもりはない。諦めてさっさと国に帰ることをオススメする」

 

「もっともそれができるほどお利口ではなさそうだけど」

 

 聞き間違いかと問い返し、返って来たのは不遜な物言い。小隊長の額に青筋が浮かぶ。

 

「……小僧共、口の利き方には気をつけろ。俺達が誰かわからないほど頭が悪いのか?」

 

「理解しているさ、最も俺には魔物以下の畜生に見えるんだが…違うのか?」

 

 コウスケの言葉にスッと表情を消す小隊長。周囲の兵士達も剣呑な雰囲気でコウスケを睨んでいる。その時、小隊長が、剣呑な雰囲気に背中を押されたのか、ハジメの後ろから出てきたユエに気がついた。幼い容姿でありながら纏う雰囲気に艶があり、そのギャップからか、えもいわれぬ魅力を放っている美貌の少女に一瞬呆けるものの、ハジメの服の裾をギュッと握っていることからよほど近しい存在なのだろうと当たりをつけ、再び下碑た笑みを浮かべた。

なのだろうと当たりをつけ、再び下碑た笑みを浮かべた。

 

「あぁ~なるほど、よぉ~くわかった。てめぇが唯の世間知らず糞ガキだってことがな。ちょいと世の中の厳しさってヤツを教えてやる。くっくっく、そっちの嬢ちゃんえらい別嬪じゃねぇか。てめぇの四肢を切り落とした後、目の前で犯して、奴隷商に売っぱらってやるよ」

 

 その言葉にハジメは眉をピクリと動かし、ユエは無表情でありながら誰でも分かるほど嫌悪感を丸出しにしている。目の前の男が存在すること自体が許せないと言わんばかり、ユエが右手を掲げようとした。だが、それを制止するハジメ。訝しそうなユエを尻目にハジメが最後の言葉をかける。

 

「つまり敵ってことでいいよな?」

 

「あぁ!? まだ状況が理解できてねぇのか! てめぇは、震えッ!?」

 

ズザンッ!!

 

 想像した通りにハジメ達が怯えないことに苛立ちを表にして怒鳴る小隊長だったが、その言葉が最後まで言い切られることはなかった。なぜなら、コウスケが一瞬で距離を摘め風伯を振りぬき小隊長を縦に真っ二つに断ち切ったのだ。

 

「コウスケ…ちょっと気が早くないかな?」

 

「あ~ユエをそう言う目で見られると凄く嫌で嫌でしょうがないんだ…だから、ここは俺が殺る」

 

ドンナーを抜き撃つ手前だったハジメだったが目の前にいる、嫌悪感と不快感を全身であらわにする親友に任せることにする。ユエのことを言われて殺意がにじみ出ているのは自分も同じなのだが、どうやら親友はそれ以上にプッツンしているようだ。

 

「んじゃ始めるか…ああ、お前ら逃げるなよ?」

 

言葉と同時に武器を構える帝国兵に躍りかかるコウスケ。

 

 突然、小隊長を両断されたことに兵士達が半ばパニックになりながらも、武器をハジメ達に向ける。中々に迅速な行動だ。人格面は褒められたものではないが、流石は帝国兵。実力は本物らしい。しかしコウスケが振り回す風伯は、身構える帝国兵たちを物ともせず切り裂いていく。

 

「……は」

 

人を切った感触に思わず声が漏れた。人を切って恐怖心が出たのではない。心の底からの歓喜の声が出てしまったのだ。そのわずかな隙をついて槍をついてくる帝国兵。それをくるくると回りながら回避しすれ違いざまに胴体を真っ二つにする。驚愕に見開かれて絶命した帝国兵を一瞥してコウスケは目の前にいる標的を確認する。

 

(……ああ、これは)

 

後衛の帝国兵が詠唱をしているのを見て斬撃を放つ。前にいて盾を構えていた帝国兵を巻き込みながら、詠唱中の帝国兵もろとも首や手足を切り刻まれながら細切れになっていく。

 

(……檜山達の…南雲をリンチしようとしていたあの気持が少しわかる)

 

風伯を振り回すごとに手足を吹き飛ばし胴体が割れ首が飛ぶ、それでも驚愕と恐怖を向けながらこちらに向かってくる帝国兵。

それが、コウスケにはおかしかった。さっきまで優位に立ってこちらを侮蔑の表情で見ていたのに今は目の前の圧倒的な暴力に恐怖におびえる帝国兵たち。その姿が面白くて滑稽で仕方がないのだ。

 

(…暴力を振るうのは気持ちいい。ははっ…これはおかしくなるのもしょうがないな)

 

血肉を浴びながら考えにふけるコウスケ。コウスケにとって帝国兵は脅威でも何でもなかった。魔物と違って泣き叫び怒りに震え死におびえる人間は、痛めつけると、とても面白い反応を返すのだ…その事に自分の中のドス黒い感情が歓喜の声をあげている。

 

「た、頼む! 殺さないでくれ! な、何でもするから! 頼む!」

 

「そう?ならほかの他の兎人族は?もう帝国にいるのかな?」

 

目の前で必死に命乞いをするコレは非常に滑稽だ。少しだけ希望をぶらつかせる。

 

「……は、話せば殺さないか?」

 

「?別にそこまで聞きたいことじゃないし…じゃあ、さよなら」

 

「ま、待ってくれ! 話す! 話すから! ……多分、全部移送済みだと思う。人数は絞ったから……」

 

 “人数を絞った”それは、つまり老人など売れそうにない兎人族は殺したということだろう。兵士の言葉に、悲痛な表情を浮かべる兎人族達。コウスケは、その様子をチラッとだけ見る。直ぐに視線を兵士に戻すともう用はないとゆっくりと風伯を振りかぶった…本当はそんなことをする必要はない。すぐに殺せる…ただコレの必死な姿が見たいのだ。

 

「待て! 待ってくれ! 他にも何でも話すから! 帝国のでも何でも! だかっ!」

 

ザシュッ!

 

命乞いは最後まで出なかった。コウスケの風伯は慈悲なく命乞いをする帝国兵を両断した。

 

「まぁこんなもんか…げ、血を浴びすぎた。南雲、すまん宝物庫からタオルを出してくれ」

 

コウスケはふと今の自分の状態を確認し顔をしかめる。血肉が体に掛かり服が点々と赤黒くなっている。さっきまでの帝国兵達は頭になく、今は服に付いた血が取れるか今の自分が臭っていないかそれが心配だった。ハジメは呆れた顔でタオルをコウスケに放り投げる。

 

その何でもない様子に息を呑む兎人族達。あまりに容赦のないコウスケの行動に完全に引いているようである。その瞳には若干の恐怖が宿っていた。それはシアも同じだったのか、おずおずとハジメに尋ねた。

 

「あ、あのさっきの人は見逃してあげても良かったのでは……」

 

 はぁという呆れを多分に含んだ溜息を吐くハジメに「うっ」と唸るシア。自分達の同胞を殺し、奴隷にしようとした相手にも慈悲を持つようで、兎人族とはとことん温厚というか平和主義らしい。ハジメが言葉を発しようとしたが、その機先を制するようにユエが反論した。

 

「……一度、剣を抜いた者が、結果、相手の方が強かったからと言って見逃してもらおうなんて都合が良すぎ。……そもそも、守られているだけのあなた達がそんな目をハジメとコウスケに向けるのはお門違い」

 

ユエは静かに怒っているようだ。守られておきながら、ハジメとコウスケに向ける視線に負の感情を宿すなど許さないと言わんばかりである。その事にコウスケは何とも言えないむずがゆい顔になりながら少しだけユエを窘める。

 

「ユエ、ちょっと言いすぎだ。今まで暴力沙汰とは無縁な人たちだったんだから、ドン引きしてそんな目で見てしまうのはしょうがないだろう」

 

「…むぅ」

 

「ふむ、ハジメ殿、コウスケ殿、申し訳ない。別に、貴方に含むところがあるわけではないのだ。ただ、こういう争いに我らは慣れておらんのでな……少々、驚いただけなのだ」

 

カムが代表として謝罪する。ほかの兎人族達もバツが悪そうな表情をしている。

 

「良いってことですよ、あまり気にしないでください」

 

「そういう事、それよりこの馬車とかを再利用しよう。もう使う人たちはこの世にいないからね」

 

コウスケは気にしていないという風に手のひらを軽く振り ハジメは、無傷の馬車や馬のところへ行き、兎人族達を手招きする。

 

樹海まで徒歩で半日くらいかかりそうなので、せっかくの馬と馬車を有効活用しようというわけだ。魔力駆動二輪を“宝物庫”から取り出し馬車に連結させる。馬に乗る者と分けて一行は樹海へと進路をとった。

 

 

 

 

 

 

 七大迷宮の一つにして、深部に亜人族の国フェアベルゲンを抱える【ハルツィナ樹海】を前方に見据えて、ハジメが魔力駆動二輪で牽引する大型馬車二台と数十頭の馬が、それなりに早いペースで平原を進んでいた。

 

二輪には、ハジメ以外にも前にユエが、後ろにシアが乗っている。当初、シアには馬車に乗るように言ったのだが、断固として二輪に乗る旨を主張し言う事を聞かなかった。そんな中、シアは突然話しかけてきた。シアとしては、初めて出会った“同類”である三人と、もっと色々話がしたいようだが聞こうか聞くまいか悩んでいたらしい。

 

「あ、あの皆さんのことを、教えてくれませんか?」

 

「?僕達のことは話したけど?」

 

「いえ、能力とかそいうことではなくて、なぜ、奈落? という場所にいたのかとか、旅の目的って何なのかとか、今まで何をしていたのかとか、あなた方のことが知りたいです」

 

「……聞いてどうするの?」

 

「どうするというわけではなく、ただ知りたいだけです。……私、この体質のせいで家族には沢山迷惑をかけました。小さい時はそれがすごく嫌で……もちろん、皆はそんな事ないって言ってくれましたし、今は、自分を嫌ってはいませんが……それでも、やっぱり、この世界のはみだし者のような気がして……だから、私、嬉しかったのです。みなさんに出会って、私みたいな存在は他にもいるのだと知って、一人じゃない、はみだし者なんかじゃないって思えて……勝手ながら、そ、その、な、仲間みたいに思えて……だから、その、もっとみなさんのことを知りたいといいますか……何といいますか……」

 

 シアは話の途中で恥ずかしくなってきたのか、次第に小声になってハジメの背に隠れるように身を縮こまらせた。出会った当初も、そう言えば随分嬉しそうにしていたと、ハジメとユエは思い出し、シアの様子に何とも言えない表情をする。あの時は、ユエの複雑な心情により有耶無耶になった挙句、すぐハウリア達を襲う魔物と戦闘になったので、谷底でも魔法が使える理由など簡単なことしか話していなかった。きっと、シアは、ずっと気になっていたのだろう。

 

「…はぁ、いいよ。あんまり楽しくはないけどね」

 

道中ずっと無言での移動にもつまらなくなったのでハジメは渋々と自分たちのことを話した

 

 結果……

 

 

「うぇ、ぐすっ……ひどい、ひどすぎまずぅ~、ハジメさんもユエさんもがわいぞうですぅ~。そ、それ比べたら、私はなんでめぐまれて……うぅ~、自分がなざけないですぅ~」

 

「…あれ?俺の名前が入っていない?」

 

「事情を説明していないからじゃない?」

 

「うーん、別に話すことでもないし、どうでもいいか」

 

号泣した。滂沱の涙を流しながら「私は、甘ちゃんですぅ」とか「もう、弱音は吐かないでぅ」と呟いている。そして、さり気なく、ハジメの外套で顔を拭いている。どうやら、自分は大変な境遇だと思っていたら、ハジメとユエが自分以上に大変な思いをしていたことを知り、不幸顔していた自分が情けなくなったらしい。

 

コウスケとしては自分の名前が入っていないことに寂しさを覚えそうだが自分の体が違うなんて言っても伝わりにくそうだし、不幸自慢がしたいわけでもないのでだまっていた。…自分の体が天之河光輝という他人のものだとはまだユエには伝えていない…伝えたところでどうなるとも思っていた。

 

暫くメソメソしていたシアだが、突如、決然とした表情でガバッと顔を上げると拳を握り元気よく宣言した。

 

「ハジメさん! ユエさん! コウスケさん!私、決めました! みなさんの旅に着いていきます!これからは、このシア・ハウリアが陰に日向にみなさんを助けて差し上げます!遠慮なんて必要ありませんよ。私達はたった四人の仲間。共に苦難を乗り越え、望みを果たしましょう!」

 

 勝手に盛り上がっているシアに、ハジメが実に冷めた視線を送る。

 

「現在進行形で守られている脆弱ウサギが何言ってんの? 完全に足でまといしかならないって理解している?」

 

「な、何て冷たい目で見るんですか……心にヒビが入りそう……というかいい加減、ちゃんと名前を呼んで下さいよぉ」

 

意気込みに反して、冷めた反応を返され若干動揺するシア。そんな彼女に追い討ちがかかる。

 

「それは…旅の仲間がほしいから、だからついてきたいってこと?」

 

「!?」

 

ハジメの言葉にシアの体がビクッと跳ねる。

 

「ああ、なるほど一族の安全が一先ず確保できたら、家族から離れる気なんだろ?そこにうまい具合に“同類”の僕達が現れたから、これ幸いに一緒に行くってこと?そんな珍しい髪色の兎人族なんて、一人旅出来るとは思えないしね」

 

「……あの、それは、それだけでは……私は本当にみなさんを……」

 

図星だったのか、しどろもどろになるシア。実は、シアは既に決意していた。何としてでもハジメ達の協力を得て一族の安全を確保したら、自らは家族の元を離れると。自分がいる限り、一族は常に危険にさらされる。今回も多くの家族を失った。次は、本当に全滅するかもしれない。それだけは、シアには耐えられそうになかった。もちろん、その考えが一族の意に反する、ある意味裏切りとも言える行為だとは分かっている。だが“それでも”と決めたのだ。

 

 最悪、一人でも旅に出るつもりだったが、それでは心配性の家族は追ってくる可能性が高い。しかし、圧倒的強者であるハジメ達に恩返しも含めて着いて行くと言えば、割りかし容易に一族を説得できて離れられると考えたのだ。見た目の言動に反してシアは、今この瞬間も“必死”なのである。

 

 もちろん、シア自身がハジメとユエとコウスケに強い興味を惹かれているというのも事実だ。ハジメの言う通り“同類”であるハジメ達に、シアは理屈を超えた強い仲間意識を感じていた。一族のことも考えると、まさに、シアにとってハジメ達との出会いは“運命的”だったのだ。

 

「悪いけど今のお前じゃ瞬殺されて終わりだよ。だから、同行を許すつもりは毛頭ない。…そんな無駄な事を考えるより君のことを大切にしている家族と一緒にいろ」

 

ハジメの言葉にシアは落ち込んだように黙り込んでしまった。隣のサイドカーで話を聞いていたコウスケとしては旅に同行してほしいという思いもある。無論原作ではついてきたからというのもあるが、それ以上に、天真爛漫な彼女がいると楽しいのだ。そんな気持ちもあるし逆に、危険すぎるというのもある、今の彼女は、ついてきても、どこかで命を落としてしまうのではないかと思ってしまう…要するに、生きている彼女を見ていると心配になってしまうのだ。

 

 シアは、それからの道中、大人しく二輪の座席に座りながら、何かを考え込むように難しい表情をしていた。

 

そのあと、数時間で一行は【ハルツィナ樹海】の中に入ることができた。一行は樹海の中にある大樹へ目指すことになった。そこには大迷宮があるかもしれないとハジメは考えハウリア族に案内してもらっていたのだ。そんな中コウスケはずっと思案にふけっていた。

 

(うーん何だろう…なんか物足りないっていうか…暴れたりないな…)

 

実は帝国兵を皆殺しにしてから何か心がざわつくのだ。ハジメとユエはシアがまとわりついているのでコウスケの異変に気付いていないみたいだが…このままでは、原作通りフェアベルンに行く事になっても、自分がなにかやらかしてしまうかもしれないそれでは、ハウリア族とシアを本当の意味で助けることができないかもしれない。そのことでずっと人知れず悩んでいたのだ。

 

 そんな、うんうん考えるコウスケにハジメは気遣うようにひっそりと話しかける

 

「コウスケ?何か悩み事?」

 

「…南雲か、そーだな。ちょっと思う事があって…すまん。わがままを言ってもいいか?」

 

「わがままを言うなんて珍しいね。なに?」

 

「しばらく別行動をしたい…だめか?」

 

「…いきなり突拍子もないことを言うね」

 

ハジメはコウスケの提案に悩み始める。このまま順調行けば大樹につくはずだそのはずなのにコウスケは別行動をしたいという。ここは霧が深く迷いやすい。いったん別れたら容易ではないと思うが…しかし、コウスケのことだ、何か考えがあるのかもしれないし彼からのわがままは非常に珍しい。この辺の魔物にコウスケが後れを取るとは思えない。一応ユエにも意見を求める

 

「ユエ、どう思う」

 

「…コウスケ、迷子にならない?」

 

「何歳児だよ俺は…まぁ何とかなるでしょここらの魔物は弱いし、目的地ははっきりしているし会えるだろ」

 

「…一人でも平気?」

 

「だから俺は何歳児って、ユエからすれば俺はただの子供か…まぁ一人になりたいが正しいかな…」

 

ユエの言葉に苦笑するコウスケ。ユエの年齢を考えれば自分は年下に見られても仕方がない。だから心配されているのだろうかそんな気遣いに嬉しく思うが、今も心の中はざわついて仕方がない。2人に迷惑をかけたくないし今の自分が何をやらかすかわかったものではない。だから今ここから離れたいのだ。

 

「…理由は言えないの?」

 

「すまん、それは…2人ともやっぱり…だめか?」

 

「…はぁ~分かったよ。コウスケ、合流場所は分かっているよね」

 

ハジメの言葉に笑顔が咲くコウスケ。明らかにうれしそうだ。

 

「南雲…すまんこの埋め合わせはいつかまた…じゃあ後で……っとその前に」

 

その場から離れようとしたコウスケだが、ふと思いつき呆然とやり取りを聞いていた、シアのもとに近寄る

 

「コウスケさん!?あの、この森は霧が深くて亜人族である私たちがいないと迷ってしまいますよ!」

 

「大丈夫!鍛えてますから…じゃなくてシア、大丈夫だから、君も君の家族も南雲が助けてくれるからだから、大丈夫だ」

 

シアの頭をポンポンと優しく撫でるコウスケ。今後何が起きるかは言えない。それでもできる限りシアの不安が消えるように出来る限り優しく笑いかける。

 

「コウスケさんそれってどういう…」

 

困惑したシアが理由を尋ねることもなく、コウスケの姿は霧の中へ消えていった。シアとコウスケのやり取りを見ていたユエは隣にいるハジメにこれでよかったのかを聞く

 

「…ハジメ、良かったの?」

 

「…正直、不安はあるけど、きっと大丈夫だよ…」

 

無論これでよかったかと聞けば首を振る。しかしコウスケの頼みは断れなかった。そんなハジメをよそにコウスケの気配は完全に消えた。おそらく技能を使ったのだろう。その数十分後入れ替わるようにハジメたちの周りを無数の気配が囲んだのだった。

 

 

 

 

 

 

ハジメたちと別れてしばらく、コウスケは技能を使い潜伏していた。これから自分がすることを冷静にに考えたいからだ。はやる気持ちを抑え物事を順序だてて行動する。

 

(これからハジメたちは、警備の亜人に見つかりフェアベルゲンに行くその邪魔をするわけにはいかない。だから音を立てる行動は禁止。魔法も使えない。亜人に見つからないようにする。それから、それから…なんだったっけ、あぁもうどうでもいいか今はただ、魔物を狩りたい、狩りつくしたい!)

 

唐突に物陰からでて魔物を探す、霧が濃く足場も悪いが、オルクス大迷宮には樹海型の階層もあった。だから問題はない。すぐに4匹の腕を4本はやした猿が襲って来た。

 

「「「「「キィイイイ!」」」」

 

風伯を振りぬき襲い掛かる3匹をまとめて両断する。分が悪いと判断したのか慌てて逃げる1匹を腰につけた山刀…ハジメに錬成で作ってもらった愛用品…を猿の頭に投げつけ絶命させる。

 

(あ~たまらねぇ、コレだよコレ、楽しくって仕方がない)

 

山刀を回収しながら満足してにやけてしまう。魔物を殺している間は不思議と気持ちが落ち着く事にコウスケは気がつき、次の獲物を探すため技能”誘光”を使い始める。これから襲ってくる魔物のことを考えながらのその足取りは軽くまるで散歩をしているようだった。

 

(まだだ、まだ足りない!もっとだ。もっと存分に力を使いたい。何も考えず思うがまま、暴れたい!命を奪いたい!理不尽な暴力を振るいたい!だから早く!早く来てくれ!)

 

誘われるように…実際”誘光”によって魔物たちは次々と現れる。中にはコウスケとの実力差を理解して、逃げようとしている魔物もいたが、誘われる力が強いのか、抗うこともできずコウスケに向かってくる。それを見てコウスケは嬉しそうに風伯を振るうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回から無理矢理感がが…
感想お待ちしております
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文章を追加しました。こんなことをしないよう注意します

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