取りあえずこんな感じになりました
シアは上機嫌だった。ユエとの特訓で約束をしたのだ。約束の内容はユエとシアが勝負しユエにわずかな傷でもつけることができたら旅の同行を許すようハジメとコウスケに口添えするというものだった。その結果、 死に物狂いでユエに挑み見事頬に傷をつけることができたのだ。本気で3人の旅に同行したい、もっと仲良くなりたい、これ以上家族に負担を掛けたくない、その執念が実を結んだのだ。
これで、ユエの口添えがあれば旅に同行できる可能性がぐっと上がる。そのことを考えると、シアは顔がにやけるのを止めることができなかった。
「ふふ~ん。これで私も旅に同行することができるですぅ!あはは~、やりましたぁ!これも私がユエさんに勝ったからですぅ努力と執念のたまものですぅ!」
「……シア、おめでとう…でも確定じゃない」
「うっ、で、でもユエさんは味方してくれんですよね!?それなら、ほぼ、決まったようなものじゃないですか!」
「…口添えはする、私からも頼み込んでみる…でも、決めるのは主にハジメ」
「うう~」
ユエは何故、シアとそのような約束を交わしたのか。
それは、ハジメとコウスケの仲の良さだろう。いつも2人で騒いでいるのを見ると羨ましくて同時にわずかな寂しさを感じるのだ。もちろん2人は何かと気遣ってくれるがユエとしては、同性の友達が欲しいというのもある。そんなときに出てきた、自分と同じ同類の女の子だ。ライセン大峡谷で初めてシアの話を聞いた時、自分とは異なり比較的に恵まれた環境にあることに複雑な感情を覚えつつも、やはり、放っておくことはできない、むしろチャンスなのではと思った。コウスケが奈落で言った友達と居場所というのもある。そんなこんなで約束をしたのである。
(でも大丈夫ですよね!ユエさんが口添えしますしコウスケさんも、きっと協力してくれる。だからきっと…)
シアとしても不安はあるが、このチャンスを逃す気はなかったそろそろ、ハジメのハウリア族への訓練も終わる頃だ。考え込むユエと上機嫌なシアは二人並んでハジメ達がいるであろう場所へ向かうのだった。
ユエとシアがハジメのもとへ到着したとき、ハジメは腕を組んで近くの樹にもたれたまま瞑目しているところだった。 二人の気配に気が付いたのか、ハジメはゆっくり目を開けると二人の姿を視界に収める
「二人共。勝負とやらは終わったのか?」
ハジメも、二人が何かを賭けて勝負していることは聞き及んでいる。シアのために超重量の大槌を用意したのは他ならぬハジメだ。シアが、真剣な表情で、ユエに勝ちたい、武器が欲しいと頼み込んできたのは記憶に新しい。ユエ自身も特に反対せずむしろ協力してほしいということから、ユエの不利になることもないだろうと作ってやったのだ。
実際、ハジメは、ユエとシアが戦っても十中八九、ユエが勝つと考えていた。奈落の底でユエの実力は十二分に把握している。いくら魔力の直接操作が出来るといっても今まで平和に浸かってきたシアとは自力が違うのだ。
だがしかし、帰ってきた二人の表情を見るに、どうも自分の予想は外れたようだと内心シアに感心するハジメ。そんなハジメにシアが上機嫌で話しかけた。
「ハジメさん! ハジメさん! 聞いて下さい! 私、遂にユエさんに勝ちましたよ!大勝利ですよ! いや~、ハジメさんにもお見せしたかったですよぉ~、私の華麗な戦いぶりを!」
「ハイハイ、凄い凄い、で? どうだったの?」
シアを適当にいなしながらユエに聞くハジメ正直、どんな方法であれユエに勝ったという称賛ものだ。ユエから見たシアはどれほどのものなのか、気にならないといえば嘘になる。ユエは素直にハジメの質問に答えた。
「……魔法の適性はハジメと変わらない」
「ありゃま、宝の持ち腐れだね……で? それだけじゃないよね? あのレベルの大槌をせがまれたとなると……」
「……ん、身体強化に特化してる。正直、化物レベル」
「……へぇ。僕達と比べると?」
ユエの評価に目を細めるハジメ。正直、想像以上の高評価だ。ユエの偽りのない目が何より雄弁に、その凄まじさを物語るユエは、ハジメの質問に少し考える素振りを見せるとハジメに視線を合わせて答えた。
「……強化してないハジメの……六割…七割くらい」
「マジで……最大値だよね?」
「ん……でも、鍛錬次第でまだ上がるかも」
「…それは確かに化物レベルだ」
シアは、ハジメが驚愕の面持ちで眺めている事に気がつくと。いそいそと姿勢を正し、急く気持ちを必死に抑えながら真剣な表情でハジメのもとへ歩み寄った。背筋を伸ばし、青みがかった白髪をなびかせ、ウサミミをピンッと立てる。これから一世一代の頼み事をするのだ。緊張に体が震え、表情が強ばるが、不退転の意志を瞳に宿し、一歩一歩、前に進む。そして、訝しむハジメの眼前にやって来るとしっかり視線を合わせて想いを告げた。
「ハジメさん。私をあなた達の旅に連れて行って下さい。お願いします!」
「断る」
「即答!?」
まさか今の雰囲気で、悩む素振りも見せず即行で断られるとは思っていなかったシアは、驚愕の面持ちで目を見開いた。
「あのなぁ、カムは、お前の家族はどうするのさ。全員連れていくって話じゃないだろうけど」
「…父様達には修行が始まる前に話をしました。一族の迷惑になるからってだけじゃ認めないけど……その……」
「その? なんだ?」
何やら急にモジモジし始めるシア。指先をツンツンしながら上目遣いでハジメをチラチラと見る。あざとい。実にあざとい仕草だ。ハジメが不審者を見る目でシアを見る。
「その……私自身が、付いて行きたいと本気で思っているなら構わないって……」
「はぁ? 何で付いて来たいんだ? 今なら一族の迷惑にもならないだろ?それだけの実力があれば大抵の敵はどうとでもなるだろうし」
「で、ですからぁ、それは、そのぉ……」
「……」
本当はシアがこれから何を言うかなんとなく察している。だから、ハジメは内心ため息をついていた。
「皆さんと友達になりたいんです!一緒に冒険して一緒に笑って泣いて怒って、苦労を分かち合って…そんな事をしたいんです!」
「……」
想像通りのセリフだった。そして、内心しょうがないとも思い始めてくるのを感じた。何度もすげなく断っているが、ユエやコウスケのことを考えると連れて行った方が良いのではないかと思い始める。この天真爛漫さや残念さはコウスケと波長が合いそうで、ユエにとっての初めての友達になる、自分もシアの打たれ強さは、気に入ってるものがある。何より『友達になりたい』その言葉がどうしても引っかかるのだ。まるで日本にいたときの自分の様な…それを考えると本当に断るべきか迷いが出てくる。
そんなハジメにユエからこっそり耳打ちが入る。
「……ハジメ、連れて行こう」
「…理由は」
「…もしかしたら…友達になれるかと思うと…断り切れない」
「…そっか。うん…そうだよね。友達が出来ると思うと嬉しいよね」
最後の方は小声になってしまったが、ユエの気持ちが何かわかる様な気がするハジメ。あの奈落にいたときもし自分一人だけだったら…
コウスケという友達のおかげで自分は生き延びることができた、その事を考えると何とも言えなくなる。
ユエ自身も、シアをとても気に入っている。元気で、へこたれず、残念という喜怒哀楽の激しいシアは一緒にいて楽しいのだ。
シアは悩むハジメにもう一度、はっきりと。シア・ハウリアの望みを言った。
「……私も連れて行って下さい」
見つめ合うハジメとシア。ハジメは真意を確認するように蒼穹の瞳を覗き込む。
「……はぁーわかったよ。全く、仕方ない…行こう、一緒に」
樹海の中に一つの歓声と祝福する声が聞こえる。その様子に、ハジメは、いろんな意味でこの先も大変そうだと苦笑いするのだった。
「えへへ、うへへへ、くふふふ~」
同行を許されて上機嫌のシアは、奇怪な笑い声を発しながら緩みっぱなしの頬に両手を当ててクネクネと身を捩らせてた。それは、ハジメと問答した時の真剣な表情が嘘のように残念な姿だった。
「……キモイ」
見かねたユエがボソリと呟く。シアの優秀なウサミミは、その呟きをしっかりと捉えた。
「……ちょっ、キモイって何ですか! キモイって! 嬉しいんだからしょうがないじゃないですかぁ。これで私も皆さんと一緒にいられるんですよぉ~喜ぶのは仕方ないんじゃないですかぁ」
「喜びすぎだよ、まったく」
「……喜びすぎて面倒」
シアの奇怪な行動に溜息を吐くハジメとユエ。気持ちは分からないでもないので仕方なく放置する。
「ちょっと無視しないで下さいよぉ私は本当に皆さんと…あれ?コウスケさんは?」
「気付くのが遅すぎる…ハウリア族と一緒にいるけど…ねえ、シア」
「?はい」
「…原因は恐らくコウスケだから、僕は悪くない。うん、きっとそうだ。そうだよねコウスケ」
「え?ええ?ハジメさんどうしてそんな遠い目をするんですなんでそんな頭を抱えるんです?うちの家族はいったいどうなったんですか!?」
ハジメのあまりにも遠い目を見て急に不安になる。ハジメの指さす訓練場へ急ぎ向かう。そこは広い空き地の様な開けた場所だった。
その空き地の方にちょこんとコウスケが座っている。確か事前に聞いた話ではコウスケの技能”誘光”で魔物を集めているという話だった。その技能で魔物を誘っているのは分かるだからそれはいい、いいのだが……
無数の魔物の死骸が山のように積み上げられていた。明らかに絶命しているものが多数。後は外傷もなく静かにこと切れているようなのが大半だった。
がそれより目が行くのはまだ生きていてコウスケに向かって来る魔物を間をすり抜ける無数の影だった。影が通るたびに倒れていく魔物、よく見ると急所に刺し傷や切り傷が見られる。
「…残4匹、左2匹を殺る」
「了解、頭を確認した、援護を」
「了解」
影はハウリア族だった。中年の女が向かってくる魔物の左の2匹を素早く仕留め男が魔物のリーダー格を急所を仕留めた。残った1匹はコウスケが座っている所…正確にはコウスケと一緒に座っている老夫婦から放たれたボウガンの矢によって絶命している。老夫婦はコウスケとの雑談を楽しんでいるようにみえ撃ったところが分からなかった。おまけに、顔を魔物に向けていない。
「婆さんや、魔物が弱すぎて鍛錬にならんのぅこのままでは腕が鈍りそうじゃ」
「あらやだ、おじいさん。コウスケの前で強い魔物を倒してカッコつけたいんでしょう?」
「ばれてしもうたか、婆さんにはかなわんのう」
朗らかに笑う老夫婦。その手はよどみなく、動き向かってくる魔物の数を減らしていく。たしか、あの老夫婦はハウリア族で一番温厚な人たちだったはずだ。それがいつの間にか、歴戦の老兵になっている。
遠くの方ではヒャッハァ――――という声が聞こえるおかしい、なにもかもがおかしい。シアが混乱しているときすっと影が現れた。
「ひゃっ」
影の正体は若いハウリア族達だった。中にはあの花を愛でていた少年パルもいる。しかし何やら様子がおかしい、不敵な笑みを浮かべながらその肩には大型のクロスボウが担がれており、腰には二本のナイフとスリングショットらしき武器が装着されている。随分ニヒルな笑みを見せ武器を自然と手にするその姿は余りにも違和感がない。むしろ自然だ。
「パ、パル君?一体どうしちゃったんですか」
「おっとシアの姉御お久しぶりでさぁ。申し訳ありませんがこれから狩りの成果をボスに報告しなければいけませんのでちょいとしつれいしますよ」
「へっ?ボス?い、いったい何のことなんですか!?ハ、ハジメさん!なんか皆おかしくなっていませんか!?」
シアは、未だかつて“姉御”などという呼ばれ方はしたことがない上、目の前の少年は確か自分のことを“シアお姉ちゃん”と呼んでいたことから戸惑いの表情を浮かべる。そんな困惑し混乱するシアをしり目に若いハウリア族達はハジメの前にきっちりと整列し成果を報告する。
「ボス、お題の魔物殲滅してきました!」
「……僕は1チームで一体と言ったと思うんだが…」
ハウリア族たちはこの樹海に生息する魔物の中でも最上位に位置する魔物の牙やら爪やらをバラバラと取り出した。ハジメの課した訓練卒業の課題は上位の魔物を一チーム一体狩ってくることだ。しかし、眼前の剥ぎ取られた魔物の部位を見る限り、優に十体分はある。ハジメの疑問に対し、パル少年が不敵な笑みをもって答えた。
「ええ、そうしたかったのですが… 殺っている途中でお仲間がわらわら出てきやして……生意気にも殺意を向けてきやがったので丁重にお出迎えしてやったんですよ。なぁ? みんな?」
「そうなんですよ、ボス。こいつら魔物の分際で生意気な奴らでした」
「きっちり落とし前はつけましたよ。一体たりとも逃してませんぜ?」
「ウザイ奴らだったけど……いい声で鳴いたわね、ふふ」
「見せしめに晒しとけばよかったか……」
「まぁ、バラバラに刻んでやったんだ、それで良しとしとこうぜ?」
不穏な発言のオンパレードだった。全員、元の温和で平和的な兎人族の面影が微塵もない。ギラついた目と不敵な笑みを浮かべたままハジメに物騒な戦闘報告をする。それを呆然と見ていたシアは正気に戻り慌ててハジメに詰め寄る。
「……誰?…じゃなくて!ど、どういうことですか!? ハジメさん! 皆に一体何がっ!?」
「僕は悪くない…原因は恐らくコウスケ…そういう事にしておこう…彼らは頑張った…その訓練の賜物だ……」
「いやいや、何をどうすればこんな有様になるんですかっ!? 完全に別人じゃないですかっ!ちょっと、目を逸らさないで下さい! こっちを見て!」
「シア…現実を受け止めるんだ」
「何を言っているんですかっ!見て下さい。彼なんて、さっきからナイフを見つめたままウットリしているじゃないですか! あっ、今、ナイフに“ジュリア”って呼びかけた! ナイフに名前つけて愛でてますよっ! 普通に怖いですぅ~」
混乱するシアにハジメとしても説明ができないのだ。訓練の最初の頃はハートマン式訓練で鍛えていたはずが日がたつにつれどんどん異様な速度で成長していったのだ。自衛できるようとそのつもりだったのがどうしてここまでなってしまったのか。コウスケにも相談してみたが心当たりはないらしい。ハジメもよくわからない状況だ。とりあえず混乱しているシアを放っておいて先ほどから気になっていたことを聞くことにする。
「えーっと、そういえばカムはどうしたんだ?お前たちと一緒にいるはずじゃなかったか?」
「ああ!?そういえば父様はどうしたんですか!?みんなの豹変ぶりに驚いて忘れて居たですぅ!」
確かカムはこの若いハウリア族達と一緒に行動していたはずだが、姿が見えない。詳細を聞こうとするとなぜか目をそらすハウリア族達。
「あ、あー長についてなんですが、その…おいお前が言え」
「お、俺!?やだよボスに何か言われたら…」
「アニキ達…仕方ありません。自分が説明します。ボス、長は狩りをしている最中に途中で単独行動をしました」
「単独行動?」
訝しむハジメにばつが悪そうに説明するパル少年
「はい、狩りの途中で『ふむ…存外早かったな。お前たちは先にボスのところに戻れ』と言われまして付いて行こうとしたのですが戻れとの一点張りで」
ふむと考え込むハジメ。なんとなくその言葉でカムが何をしようとしているのか考えはつく。…考え付くのだが、できるのだろうか?そこまで強くなったのだろうか。考え込むほど顔が険しくなっていく。至急カムを探す様にと言いかけたところで奥から人影が見えた。が、何かおかしい。右手で何か大きいものを引きずりながら歩いているのだ。
「おや、どうやら遅れてしまったようですね。申し訳ありませんボス」
「父様!って…あ…と、父様その引きずっているのは…」
「ん?シア?ユエ殿との訓練は終わったのか」
人影はカムだった。シアは久しぶりに再会した家族に頬を綻ばせる。本格的に修行が始まる前、気持ちを打ち明けたときを最後として会っていなかったのだ。たった十日間とはいえ、文字通り死に物狂いで行った修行は、日々の密度を途轍もなく濃いものとした。そのため、シアの体感的には、もう何ヶ月も会っていないような気がしたのだ。早速、父親であるカムに話しかけようとするシア。が気付いてしまった。顔は温厚ないつものカムだ。しかしカムの全身からにじみ出る威圧感が尋常ではない、気のせいか体つきも何やらマッシブになっている。何よりも目を引くのはカムがさっきからゴミの様に引きずっていた物…それは熊人族次期頭領と名高いレギン・バントンだった。
「カム、そいつは…」
「ボス報告であります。熊人族の集団が我々に対する待ち伏せをしていたのを発見しましたので、単独で撃退しリーダーであるコイツを捕獲してきました。事後報告になってしまい申し訳ありません。」
「た、単独で熊人族を撃退した…?」
シアは開いた口が塞がらない。いくら訓練をしたとしても兎人族のカムが単独で熊人族に集団に敵うことはまずないだろう。それなのにやってのけたという。おまけに怪我らしい怪我もなくリーダーを捕まえて…シアは頭の中が真っ白になってしまった。
「ぐっ…貴様…いったいハウリア族に何をしたのだ…おかしいだろ…正面から…誰も殺さず…ただ一撃で我らを打ち倒すなんて…」
ボロボロになりながらなんとかと言った様子で声を出す熊人族をスルーしつつハジメは表情には出さないが困惑していた。ここまでハウリア族は強くなれるのだろうか。確か兎人族は他の亜人族に比べて低スペックだったはずだが…いい加減考えると頭が痛くなりそうなので溜息を吐きながらこの熊人族の処遇を決めることにした。
(うわーカムさんなんか強くなってるーかっこいいー)
一方カムたちのやり取りを遠くから聞いてるコウスケ。ドン引きのあまり現実逃避していた。ハウリア族がヒャッハーしているのは原作通りだ。それは問題ないのだが…なんかカムやカムと同年代以上のハウリア族たち…特にこのそばにいる老夫婦…が想像以上に強くなっているような気がするのだ。自分は何もしていないはずなのだが…
戦闘訓練がないときはいい。この前は「コウスケさん何か食べたいものはあるかしら。何でも言ってね」と優しく笑うカムと同年代と思われる女性や「コウスケ君何か訓練している最中気付いたことがあったら何でも言ってくれ」と微笑みながら話しかける中年男、など優しく温厚で付き合いやすいのだが…訓練が始まると能面のような顔になり静かに手早く魔物を始末していくのだ。正直ドン引きだ。特にこの老夫婦は一歩抜き進んでいる。
「コウスケこれ食うか、うんめぇぞ」
「ア、ハイいただきます…あっ…美味しい」
「そうかそうか、いっぱいあるからたんと食え」
「ふふふ、コウスケが気に入ってくれて良かったですねおじいさん」
「うむ、摘んできたかいがあったのぉ婆さんや」
「あっと…えーとできれば…」
「ふふ、わかっていますよ。ちゃんとボスやユエちゃんの分もありますから心配しなくていいのよ」
「…あ、ありがとうございます」
老夫婦から木苺?みたいなものをもらい食べるコウスケに幸せそうにに微笑む老夫婦。これだけ見れば孫との会話を楽しむ老夫婦のようだが実際は、ボウガンを手早く動かし顔をこちらに向けながら魔物を殺している。ちなみにすべて目や関節、急所に当たっている。
(えぇー後ろに目でもついてんの!?というか凄すぎない?何でそんなにボウガンの使い方上手いの?あっちの人たちは何でナイフをそんなに巧みに扱えるの?急所を当てれるの?いくら南雲の錬成ナイフでも技量がなければただのよく切れるナイフだぞ!俺や南雲でも結構苦労したんだぞ!?おかしい、ハウリア族はチートやったんや…それはそれとして木苺ウメェな…南雲とユエも喜びそうだ)
あんまりの手際の良さ、熟練の技、すべてにおいてすさまじかった。本当に温厚種族だったの?実は先祖が戦闘民族じゃないの?何でファンタジーのウサギは滅茶苦茶強くなるの?と聞きたくなるほどだ。が、なんだかんだで温厚なハウリア族は大好きなのでこれはこれでいいかと思うコウスケだった。
結局熊人達はフェアベルゲンの長老たちに“貸一つ”という名目で返されたのだ。そんなこんなで、大樹へ向かう一行、その間にシアはコウスケにひそひそと話しかける。
「あのコウスケさん?いったいうちの家族に何をやったんですか?なんかみんなおかしくなっているというか一部の人たちは変わらずにやたらと強くなっているというか…本当に何をしたんですか」
「…俺は何もしていないはずなんだけど、つーか南雲が主に何かやったせいじゃねえの?」
「僕に振らないでよ、なんか気が付いたらこうなっていたんだ」
「訓練で温厚種族を変えた奴が自覚なしとは…ユエさんこの人怖いですぅ」
「…コウスケ、シアのまねは流石に気持ち悪い」
「うん、自分でも気持ち悪いと思った。そういえばユエとシアの訓練はどうだったの?うまくいった?」
「あ!ふっふーん聞いてくださいコウスケさん!ユエさんとの賭け事に勝って私シア・ハウリアは貴方達の旅についていくことになりました!これからよろしくですぅ!」
「お!やったじゃねえかシア!そーかそーか旅についてくるのか…へぇーなるほどなるほど」
「…あのユエさんハジメさん?なんかコウスケさんが企んでいるような悪い顔になって私を見ているのですが…」
「あーうんきっと平気だよシア。コウスケの事だから、どうせ訓練の事しか考えていないはずだよ」
「…コウスケは純情ヘタレだからシアに何もできない」
そんな和やかな明るい雰囲気?で一行は遂に大樹の下へたどり着いた。ハジメが大迷宮だと思っていた大樹は……見事に枯れていた。
大きさに関しては想像通り途轍もない。直径は目算では測りづらいほど大きいが直径五十メートルはあるのではないだろうか。明らかに周囲の木々とは異なる異様だ。周りの木々が青々とした葉を盛大に広げているのにもかかわらず、大樹だけが枯れ木となっているのである。
「こりゃまた…かれてますなぁ」
「大樹は、フェアベルゲン建国前から枯れているそうです。しかし、朽ちることはない。枯れたまま変化なく、ずっとあるそうです。周囲の霧の性質と大樹の枯れながらも朽ちないという点からいつしか神聖視されるようになりました。まぁ、それだけなので、言ってみれば観光名所みたいなものですが……」
ハジメとユエの疑問顔にカムが解説を入れる。それを聞きながらハジメは大樹の根元まで歩み寄った。そこには、アルフレリックが言っていた通り石版が建てられていた。
「これは……オルクスの扉の……」
「……ん、同じ文様」
石版には七角系とその頂点の位置に七つの文様が刻まれていた。オルクスの部屋の扉に刻まれていたものと全く同じものだ。ハジメは確認のため、オルクスの指輪を取り出す。指輪の文様と石版に刻まれた文様の一つはやはり同じものだった。
「やっぱり、ここが大迷宮の入口みたいかな……だけど……こっからどうすればいいんだ?」
「何か仕掛けがあるってことだろ。RPGのお約束だ」
その時、石版を観察していたユエが声を上げる。
「ハジメ、コウスケ……これ見て」
「ん? 何かあったか?」
ユエが注目していたのは石版の裏側だった。そこには、表の七つの文様に対応する様に小さな窪みが空いていた。
「これは……」
ハジメが、手に持っているオルクスの指輪を表のオルクスの文様に対応している窪みに嵌めてみる。すると……石版が淡く輝きだした。
何事かと、周囲を見張っていたハウリア族も集まってきた。暫く、輝く石版を見ていると、次第に光が収まり、代わりに何やら文字が浮き出始める。そこにはこう書かれていた。
“四つの証”
“再生の力”
“紡がれた絆の道標”
“全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう”
「おっ謎解きか!解読、解読~」
「……四つの証は……たぶん、他の迷宮の証?」
「……再生の力と紡がれた絆の道標は?」
頭を捻るハジメにシアが答える。
「う~ん、紡がれた絆の道標は、あれじゃないですか? 亜人の案内人を得られるかどうか。亜人は基本的に樹海から出ませんし、ハジメさん達みたいに、亜人に樹海を案内して貰える事なんて例外中の例外ですし」
「ふーむそうだとして、再生か…再生?うーん
(…ん?あれ?何か今おかしかったような…?)
「…再生……私?」
「……ユエの自動再生?それは違うんじゃないかな」
ふと、奇妙な違和感を覚えコウスケに視線を向けていたハジメだが、自分の手を切って自動再生を発動しようとするユエを止める。流石にそれではないと思う。
「枯れ木に再生ねぇ…南雲、再生に関する神代魔法があってそれを使ってこの大樹をどうにかするってことじゃね?」
「それが一番らしいね…ほかの迷宮を回って来いってことかぁつくづくゲームっぽい世界」
「RPGだったら面白そうなんだが実際にやると面倒でしかないな…」
ここで愚痴を言っても仕方がない、気持ちを切り替えて先に三つの証を手に入れることにする。
ハジメはハウリア族に集合をかけた。
「いま聞いた通り、僕達は、先に他の大迷宮の攻略を目指すことにする。大樹の下へ案内するまで守るという約束もこれで完了した。お前達なら、もうフェアベルゲンの庇護がなくても、この樹海で十分に生きていけるだろう。そういうわけで、ここでお別れだ」
そして、チラリとシアを見る。その瞳には、別れの言葉を残すなら、今しておけという意図が含まれているのをシアは正確に読み取った。いずれ戻ってくるとしても、三つもの大迷宮の攻略となれば、それなりに時間がかかるだろう。当分は家族とも会えなくなる。
シアは頷き、カム達に話しかけようと一歩前に出た。がその前にカムが一歩前に出た。
「ボス! お話があります!」
「父様?ここは私の旅立ちのシーンでは?」
「あ~、何だ?」
なんだか面倒な気がする。そばにいるコウスケがニヤニヤし始めた。こんな時は大体面倒ごとが起こる前触れだ。
「ボス、我々もボスのお供に付いていかせて下さい!」
「えっ! 父様達もハジメさんに付いて行くんですか!?」
カムの言葉に驚愕を表にするシア。十日前の話し合いでは、自分を送り出す雰囲気だったのにどうしたのです!? と声を上げる。
「我々はもはやハウリアであってハウリアでなし! ボスの部下であります! 是非、お供に! これは一族の総意であります!」
「ちょっと、父様! 私、そんなの聞いてませんよ! ていうか、これで許可されちゃったら私の苦労は何だったのかと……」
「ぶっちゃけ、シアが羨ましいであります!!」
「ぶっちゃけちゃった! ぶっちゃけちゃいましたよ! ホント、この十日間の間に何があったんですかっ!」
カムが一族の総意を声高に叫び、シアがツッコミつつ話しかけるが無視される。何だ、この状況? と思いつつ、ハジメはきっちり返答した。
「却下」
「なぜです!?」
「足でまといだからに決まってんだろ、バカヤロー」
それでもついていきたさそうなハウリア族にじりにじりとハジメとユエとコウスケにと近寄ってくる。仕方なく代案を出すハジメ。
「じゃあ、あれだ。お前等はここで鍛錬してろ。次に樹海に来た時に、使えるようだったら部下として考えなくもない」
「……そのお言葉に偽りはありませんか?」
「ない」
「…分かりました、ではせめて別れの挨拶を…総員シアとボスとコウスケ殿とユエ殿に飛びつけぇ―――別れの挨拶をするのだ!」
わっと群がるハウリア族に四人は一緒になってもみくちゃにされた。目の前には楽しそうに笑うハウリア族が群がっており。
ハジメは嫌そうな顔で、でもちょっぴり口角をあげて、コウスケは笑いながら、ユエは若干引き気味に、シアはなんだかんだで楽しそうに。ハウリア族の別れをそれぞれ受ける。
「シア気を付けていくのよ!」
「シア!ボスと一緒に行くなんて羨ましいぞ!」
「シアの姉御!俺達の代表なんだから油断したらいけませんぜ!」
「ボス!俺たちは待っていますからね!」
「ボスーーーーーーーーーーーーー!!」
「ボス!期待しててください!俺たち強くなりますから!」
「コウスケさんユエちゃんいつでも帰っておいで私たちはいつでも歓迎するから!」
「ユエさんあなたのお仕置きをいつでも待ってます!」
「ユエちゃん泣きたいことや辛いことがあったらいつでも来てね。待ってるから」
「婆さんやコウスケと…孫と離れるのは寂しいのぅ」
「大丈夫ですよおじいさん、今度はひ孫が見れるかもしれませんよ」
「!?さえてるな婆さん!ふふ次に会えるのが楽しみじゃわい」
「…ハァハァコウスケさんいい匂い…ボスとどっちが…!?両方一緒に嗅げばいいじゃない…私ったら天才ね!」
「シアいってらっしゃい…ハジメ殿達と一緒に世界を楽しんできなさい。我らのことは心配しなくていいから」
騒ぎながらも樹海の境界でカム達の見送りを受けたハジメ、ユエ、シアは再び魔力駆動二輪に乗り込んで平原を疾走していた。位置取りは、ユエ、ハジメ、シアの順番である。サイドカーにはコウスケが乗っている。ハジメの肩越しにシアが質問する
「ハジメさん。そう言えば聞いていませんでしたが目的地は何処ですか?」
「ん? 言ってなかった?」
「聞いてませんよ!」
「……私は知っている」
「あ、俺は聞いてない!」
「そういうのはちゃんと聞いてね、コウスケ。シア、次の目的地はライセン大峡谷だ」
「ライセン大峡谷?」
ハジメの告げた目的地に疑問の表情を浮かべるシア。現在、確認されている七大迷宮は、【ハルツィナ樹海】を除けば、【グリューエン大砂漠の大火山】と【シュネー雪原の氷雪洞窟】である。確実を期すなら、次の目的地はそのどちらかにするべきでは?と思ったのだ。その疑問を察したのかハジメが意図を話す。
「一応、ライセンも七大迷宮があると言われているからね。シュネー雪原は魔人国の領土だから面倒な事になりそうだし、取り敢えず大火山を目指すのがベターなんだけど、どうせ西大陸に行くなら東西に伸びるライセンを通りながら行けば、途中で迷宮が見つかるかもしれない」
「つ、ついででライセン大峡谷を渡るのですか……」
思わず、頬が引き攣るシア。ライセン大峡谷は地獄にして処刑場というのが一般的な認識であり、つい最近、一族が全滅しかけた場所でもあるため、そんな場所を唯の街道と一緒くたに考えている事に内心動揺する。ハジメは、密着しているせいかシアの動揺が手に取るようにわかり、呆れた表情をした。
「シア、自分の実力を自覚してよ。今の君なら谷底の魔物もその辺の魔物も何も変わらないよ。ライセンは放出した魔力を分解する場所だよ、身体強化に特化した君なら何の影響も受けずに十全に動けるんだ。むしろ独壇場じゃないか」
「……師として情けない」
「うぅ~、面目ないですぅ」
「うーんなら俺と一緒に特訓でもするかシア?色々確認したいことがあるからな」
コウスケとしては同じ前衛だ。連携やお互いの間合いなどいろいろ気になる事がある。それにシアと肩を並べるのは中々楽しそうだ。
「その時はぜひお願いしますぅ…コウスケさん」
「はっはっは任せなさい!ユエではできなかったことを特訓しような!」
ケラケラと自信をもって笑うコウスケにシアもつられるように明るくなる。
「では、ライセン大峡谷に行くとして、今日は野営ですか? それともこのまま、近場の村か町に行きますか?」
「出来れば、食料とか調味料関係を揃えたいし、今後のためにも素材を換金しておきたいから町がいいな。前に見た地図通りなら、この方角に町があったと思うんだよ」
ハジメとしてはいい加減、まともな料理・・を食べたいと思っていたところだ。それに、今後、町で買い物なり宿泊なりするなら金銭が必要になる。素材だけなら腐る程持っているので換金してお金に替えておきたかった。それにもう一つ、ライセン大峡谷に入る前に落ち着いた場所で、やっておきたいこともあったのだ。
「はぁ~そうですか……よかったです」
ハジメの言葉に、何故か安堵の表情を見せるシア。ハジメが訝しそうに「どうしたの?」と聞き返す。
「いやぁ~、ハジメさんやコウスケさんのことだから、ライセン大峡谷でも魔物の肉をバリボリ食べて満足しちゃうんじゃないかと思ってまして……ユエさんはハジメさんとコウスケさんの血があれば問題ありませんし……どうやって私用の食料を調達してもらえるように説得するか考えていたんですよぉ~、杞憂でよかったです。ハジメさん達もまともな料理食べるんですね!」
「……なぁシア」
「?はい、どうしましたコウスケさん」
「迷宮には魔物しかいなかったんだ、魔物を解体して肉を焼いて食って水で何とか流し込んで…何とか食えるように散々苦労して…それでも不味くって、本当にまずかったんだ。南雲とお互い励ましあいながら生きてたんだ…誰が!好き好んで!魔物なんか喰うか!南雲!!飛ばせぇ!俺は腹いっぱい野菜を食うぞ!!」
「あの苦痛を思い出した…シア、町に着くまで車体に括りつけて引きずってやる」
「ちょ、やめぇ、どっから出したんですかっ、その首輪!ホントやめてぇ~そんなの付けないでぇ~、ユエさん見てないで助けてぇ!」
「……自業自得」
ある意味、非常に仲の良い様子で騒ぎながら草原を進む四人。
数時間ほど走り、そろそろ日が暮れるという頃、前方に町が見えてきた。ハジメの頬が綻ぶ、奈落から出て空を見上げた時のような、“戻ってきた”という気持ちが湧き出したからだ。懐のユエもどこかワクワクした様子。きっと、ハジメと同じ気持ちなのだろう。僅かに振り返ったユエと目が合い、お互いに微笑みを浮かべた。
「あのぉ~、和やかないい雰囲気のところ申し訳ないですが、この首輪、取ってくれませんか? 何故か、自分では外せないのですが……あの、聞いてます? ハジメさん? ユエさん? ちょっと、無視しないで下さいよぉ~、泣きますよ! それは、もう鬱陶しいくらい泣きますよぉ!」
「あ~後でその首輪の説明してあげるから今は好きなようにさせてやってくれシア」
ハジメとユエは微笑みあった。
これにて大変だったハウリア族編終了!
次回から好きなように書けると思うと気が楽になります
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