ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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ひっそり投稿します


アスレチックダンジョン

 

 

 ライセンの大迷宮は想像以上に厄介な場所だった。

 

 まず、魔法がまともに使えない。谷底より遥かに強力な分解作用が働いているためだ。魔法特化のユエにとっては相当負担のかかる場所である。何せ、上級以上の魔法は使用できず、中級以下でも射程が極端に短い。五メートルも効果を出せれば御の字という状況だ。何とか、瞬間的に魔力を高めれば実戦でも使えるレベルではあるが、今までのように強力な魔法で一撃とは行かなくなった。

 

 また、魔晶石シリーズに蓄えた魔力の減りも馬鹿にできないので、考えて使わなければならない。それだけ消費が激しいのだ。魔法に関しては天才的なユエだからこそ中級魔法が放てるのであって、大抵の者は役立たずになってしまうだろう。

 

 ハジメにとっても多大な影響が出ている。“空力”や“風爪”といった体の外部に魔力を形成・放出するタイプの固有魔法は全て使用不可となっており、頼みの“纏雷”もその出力が大幅に下がってしまっている。ドンナー・シュラークは、その威力が半分以下に落ちているし、シュラーゲンも通常のドンナー・シュラークの最大威力レベルしかない。

 

 よって、この大迷宮では身体強化が何より重要になってくる。ハジメ達の中では、まさにシアと何故か技能が問題なく使え身体能力がバグってきたコウスケの出番なのだ。で、そのハジメ達の頼もしきウサミミはというと……

 

「殺ルですよぉ……絶対、住処を見つけてめちゃくちゃに荒らして殺ルですよぉ」

 

 大槌ドリュッケンを担ぎ、据わった目で獲物を探すように周囲を見渡していた。明らかにキレている。それはもう深く深~くキレている。言葉のイントネーションも所々おかしいことになっている。その理由は、ミレディ・ライセンの意地の悪さを考えれば容易に想像つくだろう。

 

 シアの気持ちはよく分かるので、何とも言えないハジメとユエ。凄まじく興奮している人が傍にいると、逆に冷静になれるということがある。ハジメとユエの現在の心理状態はまさにそんな感じだ。現在、それなりに歩みを進めてきたハジメ達だが、ここに至るまでに実に様々なトラップや例のウザイ言葉の彫刻に遭遇してきた。シアがマジギレしてなければ、ハジメとユエがキレていただろう。

 

最後のいつも頼りになる?コウスケは

 

「ドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥエ」

 

明らかにおかしくなっていた。どうやらこのダンジョンが楽しくて仕方ないようだ。トラップの一つ一つを心の底から楽しんでおりミレディ・ライセンの残した煽り言葉に喜び小刻みに動きながらカサカサとゴキ○リのように壁走りをするその姿はまごうことなき変態だった。話しかければ一応答えてはくれるが…そんな正気ではなくなったコウスケにハジメとユエは白い目で見てしまうのであった。

 

「…ハジメ、私達は正気でいよう」

 

「……うん」

 

ハジメは溜息をつきながらここに至るまでの悪質極まりない道程を思い返した。

 

 

 

 

 

 シアが、最初のウザイ石版を破壊し尽くしたあと、ハジメ達は道なりに通路を進み、とある広大な空間に出た。そこは、階段や通路、奥へと続く入口が何の規則性もなくごちゃごちゃにつながり合っており、まるでレゴブロックを無造作に組み合わせてできたような場所だった。一階から伸びる階段が三階の通路に繋がっているかと思えば、その三階の通路は緩やかなスロープとなって一階の通路に繋がっていたり、二階から伸びる階段の先が、何もない唯の壁だったり、本当にめちゃくちゃだった。

 

 

 そのまま進み通路に入ると、左右の壁のブロックとブロックの隙間から高速回転・振動する円形でノコギリ状の巨大な刃が飛び出してきた。右の壁からは首の高さで、左の壁からは腰の高さで前方から薙ぐように迫ってくる。難なくハジメは回避しユエはしゃがみコウスケはとっさのことで反応が遅れたシアを引きずり回避に成功した。が、続く悪寒を感じてハジメたちは直ぐに前方に転がり込んだ。

 

 直後、今の今までハジメ達がいた場所に、頭上からギロチンの如く無数の刃が射出され、まるでバターの如く床にスっと食い込んだ。やはり、先程の刃と同じく高速振動している。どうやらトラップは魔法で利用したものではなく物理的なものだったようだ。

オルクスの迷宮は魔法トラップなどがあったので先入観に殺されそうだったのだ。

 

 

 あまりの迷宮のいやらしさにムッキーと怒るシア。この迷宮に入ってから、この短時間で既に二度も死にかけたというのに意外に元気だ。やはり、シアの最大の強みは打たれ強さなのだろう。本人は断固として認めないだろうが。

 

 その後もいきなり階段がスロープになる罠があり下には無数のムカデが待ち構えているというトラップがあった。落ちながらハジメがユエを背負いコウスケがシアを抱きかかえ、ハジメはワイヤーガンを使いコウスケは壁走りを使って回避する。壁にぴったりと張り付くコウスケと天井に打ち込んだワイヤーからつるされたハジメは下にいるムカデから目をそらそうと天井を見上げたら煽ってくる文字があった。

 

“彼等に致死性の毒はありません”

“でも麻痺はします”

“存分に可愛いこの子達との添い寝を堪能して下さい、プギャー!!”

 

「…フヒ…フヒヒ…フヒッヒイィィィィ!!」

 

その煽る文字を見たあたりからコウスケがおかしくなってきた。その後ゆっくりと落とし穴の近くにあった横穴に入るハジメたちその次の部屋は広い部屋だった。警戒するハジメ達。

 

「絶対罠があるよねこれ…」

 

「罠があるだって!ならワザと発動させて漢式解除としゃれこむか!」

 

「コウスケさん戻ってきてください!罠なんて掛からない方がいいんですよ!!」

 

「…コウスケはもう手遅れ」

 

そんな風に騒いでいると急にガコンッと音が鳴り響く周りを見渡すが何の変化もない。その時シアの耳がぴくっと動き慌てて叫んだ。

 

「ハジメさん!コウスケさん!上です!」

 

見ると天井が猛スピードで迫ってくる。すぐにコウスケが反応し迫ってくる天井を馬鹿力で受け止める。ハジメとシアも続いて天井を抑える。

 

「ハッハァーいいねぇこの天井落とし!だが!減点だ!トゲが付いていない!やり直し!」

 

「笑っていないで打開策を考えてくださーい!!このままじゃ、ぺちゃんこですぅー!」

 

「…ん、潰れるのは嫌」

 

「あっははははは、なんだお前らも結構余裕そうだなぁ!!だけどまだまだスリルが足りねぇしな!南雲!お前の分まで支えとく!錬成を頼む!」

 

「分かった!すぐに穴をあけるよ!」

 

コウスケとシアが踏ん張っている間に落ちてきた天井に錬成をし穴をあける。もっとも、強力な魔法分解作用のせいで錬成がやりにくい事この上なく、錬成速度は普段の四分の一、範囲は一メートル強で、数十倍の魔力をごっそりと持っていかれることになった。何とか小さな空間を作り出し四人で密着しながらハジメの錬成で穴を掘りつつ、出口に向かったのである。

 

「くそ、“高速魔力回復”も役に立たないな。回復が全然進まない」

 

「……取り敢えず回復薬…いっとく?」

 

「ささっ、一杯どうぞぉ~」

 

「2人とも、何だかんだで余裕だね……」

 

「ふー楽しかった。次は何かなー」

 

「コウスケは余裕すぎる…」

 

ハジメが少し疲れた様子で壁にもたれて座ると、ユエが手でおチョコを使って飲むジェスチャーを、シアがポーチから魔力回復薬を取り出す。魔晶石から蓄えた分の魔力を補給してもいいのだが、意思一つで魔力を取り出せる便利な魔晶石は温存し、服用の必要がある回復薬の方が確かにこの場合は妥当だ。

 

 ハジメは、どこぞのサラリーマンみたいな小芝居をするユエとシアに「つっこまないからね」と言いながら回復薬を受け取り一気に飲み干した。味は、まさしくリ○ビタンDである。魔晶石から魔力を取り出すのに比べれば回復速度も回復量も微々たるものだが随分活力が戻ったような気がするハジメ。「よし!」と気合を入れ直し立ち上がった前には再び、というか何時ものウザイ文を発見した。

 

“ぷぷー、焦ってやんの~、ダサ~い”

 

どうやらこのウザイ文は、全てのトラップの場所に設置されているらしい。ミレディ・ライセン……嫌がらせに努力を惜しまないヤツである。

 

「あ、焦ってませんよ! 断じて焦ってなどいません! ださくないですぅ!」

 

 ハジメの視線を辿り、ウザイ文を見つけたシアが「ガルルゥ!」という唸り声が聞こえそうな様子で文字に向かって反論する。シアのミレディに対する敵愾心は天元突破しているらしい。ウザイ文が見つかる度にいちいち反応している。もし、ミレディが生きていたら「いいカモが来た!」とほくそ笑んでいることだろう。

 

「いいから、行こう。いちいち気にしないで」

 

「……思うツボ」

 

「楽しまないと人生損するぞシア」

 

「うぅ、はいですぅ」

 

 

 その後も、進む通路、たどり着く部屋の尽くで罠が待ち受けていた。突如、全方位から飛来する毒矢、

 

「ハッハァー!俺の防御能力は無敵ぃ!」

 

「コウスケさんの守護って物理も魔法も大丈夫なんですね」

 

「一応、コウスケの精神状況に左右されるらしいけど…今の状況なら大丈夫そう」

 

「…ハイになったコウスケはすごく硬い」

 

硫酸らしき、物を溶かす液体がたっぷり入った落とし穴、

 

「服だけを溶かすんじゃないのかよ!しけてんなぁー」

 

「そんな都合のいいの無いでしょ…」

 

アリジゴクのように床が砂状化し、その中央にワーム型の魔物が待ち受ける部屋、

 

「遠距離武器があれば、なんてことはないな」

 

「撃つのは僕なんだけどね!」

 

燃え上がる大玉が転がり落ちる急なスロープ状の通路、

 

「これぞまさしく定番だな!!」

 

「いいから走って!」

 

そしてウザイ文。ハジメ達のストレスはマッハだった。そして、騎士の像が並び立つ部屋。奥には荘厳な扉があった部屋の中央まで来たときガコンッと音が鳴り騎士がハジメたちを包囲する。

 

「中ボス戦?…そろそろ終わりかな?」

 

「マジかよ、もったいねぇ。まぁいい、準備はいいかい?」

 

「…んっ」

 

「か、掛かってきやがれですぅ!」

 

 

 ハジメはドンナーとシュラークを抜く。数には機関砲のメツェライが有効だが、この部屋にどれだけのトラップが仕掛けられているかわからない。無差別にバラまいた弾丸がそれらを尽く作動させてしまっては目も当てられない。従って、今回は二丁のレールガンを選択する。

 

 ユエは、コウスケの言葉に気合に満ちた返事を返した。この迷宮内では、自分が一番火力不足であることを理解している。だが足でまといになるつもりは毛頭ない。

 

 一方でシアは、少しやけくそ気味だ。このメンバーで一番影響なく力を発揮できるとは言え、実質的な戦闘経験はかなり不足している。まともな魔物戦は谷底の魔物だけで、僅か五日程度のことだ。ユエとの模擬戦を合わせても二週間ちょっとの戦闘経験しかない。

コウスケの特訓もあるのかこなれてきてはいるが…もともとハウリア族という温厚な部族出身だったことからも、戦闘に対して及び腰になるのも無理はない。むしろ、気丈にドリュッケンを構えて立ち向かおうと踏ん張っている時点でかなり根性があると言えるだろう。

 

「シア」

 

「は、はいぃ! な、何でしょう、ハジメさん」

 

「君は強い。僕達が保障する。こんなゴーレム如きに負けはしないさ。だから、下手なこと考えず好きに暴れて。ヤバイ時は必ず助けるからさ」

 

「そうだ!俺と南雲とユエがいる。命の危険なんてこれっぽっちも無いさ!」

 

「…ん、自信をもってシア」

 

 シアは、3人の言葉に思わず涙目になった。単純に嬉しかったのだ。旅に同行しているが本当は迷惑だったんじゃないかとちょっぴり不安になったりもしたのだが……杞憂だったようだ。ならば、未熟者は未熟者なりに出来ることを精一杯やらねばならない。シアは、全身に身体強化を施し、力強く地面を踏みしめた。

 

「かかってこいやぁ! ですぅ!」

 

「いや、だから、何でそのネタ知ってるの……」

 

「……だぁ~」

 

「……つっこまないぞ。絶対つっこまないからね」

 

コウスケはその光景を見て“守護”“快活”“誘光”を問題なく使いながら微笑んでいた。この迷宮に入ってから自分の気分がやたらとハイになっている。オルクス迷宮の時はそうではなかった。ライセン迷宮の効果とも思えないが…おまけに自分の固有技能も問題なく使えていることも変だ。魔法はこの迷宮の分解作用で何も使えなかったのに…明らかにおかしいがコウスケには正直どうでもよかった。

 

オルクス迷宮の時とは違って自分が役に立てないなんて思ってもいないし、隣にはハジメにユエ、そしてシアもいる。だから、楽しい、彼らと肩を並べ共にいるというのは幸せだった。それに呼応するように魔力が溢れていくのを感じる。コウスケは…本当に楽しくて幸せで仕方なかった。

 

戦闘は順調だったがあまりにも騎士ゴーレムの数が減らないので逃げることを選択するハジメたち、扉は封印がかかってあったがユエが解除し、すべるように奥の部屋に逃げ込んだ。部屋の中は、何もない四角い部屋だった。てっきり、ミレディ・ライセンの部屋とまではいかなくとも、何かしらの手掛かりがあるのでは? と考えていたので少し拍子抜けする。

 

「これは、あれか? これみよがしに封印しておいて、実は何もありませんでしたっていうオチ?」

「……ありえる」

「うぅ、ミレディめぇ。何処までもバカにしてぇ!」

「さーてなにがおこるかなぁ」

 

 三人が、一番あり得る可能性にガックリし一人がワクワクしていると、突如、もううんざりする程聞いているあの音が響き渡った。

 

ガコン!

 

「「「!?」」」

 

 仕掛けが作動する音と共に部屋全体がガタンッと揺れ動いた。そして、ハジメ達の体に横向きのGがかかる。

 

「っ!? 何だ!? この部屋自体が移動してるのか!?」

「……そうみたッ!?」

「うきゃ!?」

「あっははっ上へまいりまーす。下へまいりまーす。いったいどこへ連れてってくれるんだろうなー」

 

 

 ハジメが推測を口にすると同時に、今度は真上からGがかる。急激な変化に、ユエが舌を噛んだのか涙目で口を抑えてぷるぷるしている。シアは、転倒してカエルのようなポーズで這いつくばっている。コウスケは楽しそうに重力に身を任せゴロゴロ転がっている。

 

 部屋は、その後も何度か方向を変えて移動しているようで、約四十秒程してから慣性の法則を完全に無視するようにピタリと止まった。ハジメは途中から錬成ブーツのスパイクを地面に立てて体を固定していたので急停止による衝撃にも耐えたが、コウスケはシアを途中から抱きかかえ踏ん張っていたが耐えられずゴロゴロと転がり部屋の壁に後頭部を強打した。シアは方向転換する度に、あっちへゴロゴロ、そっちへゴロゴロと悲鳴を上げながら転がり続けていたので顔色が悪い。相当酔ったようで完全にダウンしている。ちなみに、ユエは、最初の方でハジメの体に抱きついていたので問題ない。

 

「ふぅ~、漸く止まったか……ユエ、大丈夫?」

 

「……ん、平気」

 

 ハジメはスパイクを解除して立ち上がった。周囲を観察するが特に変化はない。先ほどの移動を考えると、入ってきた時の扉を開ければ別の場所ということだろう。

 

「コ、コウスケさん、衝撃から守ってくれるのは嬉しいんですが、離れてくれないとリバースを掛けちゃいそうですぅ」

 

「魔物の体液まみれから、今度は美少女のゲロまみれになるのか…我ながらレベルが高いな…」

 

「変なこと言わないで…ううっぷ」

 

「ごめんごめん、ほら、ゆっくり行こう。迷宮はまだまだ続くんだから」

 

顔を青くしているシアの背中をさすりハジメたちへ近づくコウスケ。ハジメ達は周囲を確認していくがやっぱり何もないようなので扉へと向かった。

 

「さて、何が出るかな?」

「……操ってたヤツ?」

「その可能性もあるね。ミレディは死んでいるはずだし……一体誰が、あのゴーレム騎士を動かしていたんだか」

「……何が出ても大丈夫。皆いるから」

「……約一名は吐きそうで、もう一名はおかしくなっているけどね」

「好きで吐きそうじゃ…うぷ」

「おかしいって俺のことかい…やべぇまったくもって否定できない!」

 

 

 扉の先は、ミレディの住処か、ゴーレム操者か、あるいは別の罠か……ハジメは「何でも来い」と不敵な笑みを浮かべて扉を開いた。

そこには……

 

「……何か見覚えないか? この部屋。」

「……物凄くある。特にあの石版」

 

 扉を開けた先は、別の部屋に繋がっていた。その部屋は中央に石版が立っており左側に通路がある。見覚えがあるはずだ。なぜなら、その部屋は、

 

「最初の部屋……みたいですね?」

 

 シアが、思っていても口に出したくなかった事を言ってしまう。だが、確かに、シアの言う通り一番最初に入ったウザイ文が彫り込まれた石版のある部屋だった。よく似た部屋ではない。それは、扉を開いて数秒後に元の部屋の床に浮き出た文字が証明していた。

 

“ねぇ、今、どんな気持ち?”

“苦労して進んだのに、行き着いた先がスタート地点と知った時って、どんな気持ち?”

“ねぇ、ねぇ、どんな気持ち? どんな気持ちなの? ねぇ、ねぇ”

 

「「「……」」」

 

 ハジメ達の顔から表情がストンと抜け落ちる。能面という言葉がピッタリと当てはまる表情だ。三人とも、微動だにせず無言で文字を見つめている。すると、更に文字が浮き出始めた。

 

“あっ、言い忘れてたけど、この迷宮は一定時間ごとに変化します”

“いつでも、新鮮な気持ちで迷宮を楽しんでもらおうというミレディちゃんの心遣いです”

“嬉しい? 嬉しいよね? お礼なんていいよぉ! 好きでやってるだけだからぁ!”

“ちなみに、常に変化するのでマッピングは無駄です”

“ひょっとして作っちゃった? 苦労しちゃった? 残念! プギャァー”

 

「は、ははは」

「フフフフ」

「フヒ、フヒヒヒ」

「やっぱミレディちゃんは最高だな!」

 

 三者三様の壊れた笑い声とコウスケの歓声が辺りに響く。その後、迷宮全体に届けと言わんばかりの絶叫が響き渡ったのは言うまでもない。最初の通路を抜けて、ミレディの言葉通り、前に見たのとは大幅に変わった階段や回廊の位置、構造に更に怨嗟の声を上げたのも言うまでもないことだ。

 

 何とか精神を立て直し、再び迷宮攻略に乗り出したハジメ達。最もやはり順風満帆とは行かず、特にシアが地味なトラップ(金たらい、トリモチ、変な匂いのする液体ぶっかけetc)の尽くにはまり、精神的にヤバくない? というほどキレッキレになったり、コウスケがトラップに掛かるごとにテンションをあげついにはヘンな言葉を言いながらカサカサと変態的な動き方をし始めた。

 

 

 

 

 そうして、冒頭の光景に繋がるわけである。

 

その間も数々のトラップとウザイ文に体よりも精神を削られ続けた。スタート地点に戻されること七回、致死性のトラップに襲われること四十八回、全く意味のない唯の嫌がらせ百六十九回。最初こそ、心の内をミレディ・ライセンへの怒りで満たしていたハジメ達だが、余りにもトラップに引っかかり何かもうどうでもいいやぁ~みたいな投げやりな心境になっていた。

 

その後ハジメたちの精神的な疲労を顧みてコウスケの提案で一度迷宮を出て休むことになった。

 

「まだ行けるはもう危ないってね…ダンジョン探索の基本だろ」

 

「あの~コウスケさんはいったいどこに向かってドヤ顔をしているんですか?」

 

「シアそこの変態は放っておいてさっさと引き上げよう」

 

「…まともなことを言ったはずなのに放置されている…あれれ~」

 

 

 

 

 

 

 夜ベースキャンプでハジメとコウスケは毛布にくるまっていた。今夜はシアとユエが見張りだ。毛布の暖かさに頬が緩むハジメ。今回の迷宮も一筋縄ではいかない。精神を休めるためにも一度戻るのは正解だったなとコウスケの提案に感心する。このまま精神的に疲労したまま進んでは取り返しのつかないことになるかもしれないからだ。

 

横目でコウスケを見ると何やら悩んでいる様子だった。

 

「コウスケ、考え事?」

 

「南雲、起きてたのか、そうだな…聞いてもらってもいいか?」

 

「うん、いいよ」

 

「途中からは気にしないようにしていたんだけどさ、あのダンジョンにいると…凄く、すっごく楽しいんだ。我を忘れるぐらいに…南雲はそんな気分にはなっていないんだろ?」

 

「僕はイラつきしかなかったんだけど、確かにコウスケはおかしくなっていたよね、うん、あれはまごうことなく変態になっていた」

 

「お前、本人が目の前にいるってのに変態変態って…まぁいいや。となるとあの迷宮には精神的なトラップはない訳だ…うーん。なんなんだろうあの高揚感。さっぱりわからん」

 

「…本当になんでだろうね。ゲーマーとしてあのアスレチックなダンジョンを見ると興奮するとか」

 

冗談めかして言うもののハジメとしてもコウスケのあの迷宮内でのテンションの上りぶりは異様だった。

たまに落ち着こうとして深呼吸しているのは見てているのだが、トラップにひっかりあのうざい文を見ると嬉しそうに笑うのだ。

 

「確かにゲーマーとしてあの迷宮は楽しいと思ったりするけど…あれか?俺のオタク心が歓喜しているのか?」

 

「相当ねじ曲がったオタク心だ…」

 

「まったくだ。…実はほかにもあるんだけどさーライセン迷宮は魔力が分解される場所だってのに俺の3つの技能は問題なくできるんだ。無理矢理魔力を注げば使えるのは分かるとしても…流石にいくらなんでも変じゃないか?あのユエが魔法を使うのに結構苦労しているってのにさ」

 

そう言いつつコウスケは天井に手を伸ばし蒼い光の盾を出す。盾は優しく光り始める。その気になれば部分的に硬くすることも大きくすることも可能だ。この盾も使い続ければ成長するという確信があった。実際やろうと思えばこのベースキャンプを覆うように盾を展開することだってできる。そんな悩むコウスケをハジメは苦笑いする。

 

「確かにへんだね…でもそれで僕たちは助かっているそれでいいんじゃない?」

 

「問題の先送りかよ…でもまぁ考えても仕方ないのかねぇ」

 

盾を消しハジメを見る。ハジメは隻眼ではない、右目はしっかりとある隻腕ではない、左腕はあり時たまユエやシアをなでている。白髪ではない黒髪でどう見ても日本人の配色だ。そのことを確認しクスリと笑う。

 

「…何笑っているの?」

 

「いんや、何でもないよ…お休み、南雲」

 

そのまま顔を背けると寝息を立てるコウスケ。ハジメは呆れたように笑い、そのまま眠りに入った。

 

 

 

 

 

 

 

ハジメとコウスケが寝息を立て始めるころ、見張りのユエとシアはお互い向かい合いながら話をしていた。

 

「ぅうライセン大迷宮は中々きついですぅー」

 

「…ん、シアはよく頑張っている…私が保証する」

 

「ユエさん…ありがとうですぅ!」

 

「…静かにハジメたちが起きる」

 

「うっしゅいませーん」

 

張り切ったかと思えばシュンとするシア。忙しくころころ変わる表情にユエは優しく笑う。女性同士で話し合うのはいいものだ。月が優しく照らしてたときシアがユエにずっと思っていたことを質問する。

 

「ユエさん、聞きたいことがあるんです」

 

「?…何」

 

「あの時…私を助けてくれたとき、どうして樹海の案内人と言って助け船を出したんですか」

 

シアが初めてハジメ達と出会たときは家族のことを考えるばかりで気が回らなかったが今、冷静に考えるとユエにとって自分と家族を助ける義理はなかったのではないかと思うようになったのだ。

 

「…ん、もちろん樹海の案内人としてと思ったけど…」

 

「けど?」

 

「……んぅ」

 

珍しくもじもじと言い澱むユエ。気のせいか頬がうっすらと赤くなっている気がする。いつもならはっきりというユエがこんなに言いよどむのは珍しい。不思議に思いながらシアは首をかしげる。

 

「…シアの事情を聞いて…もしかしたら…友達になれると思った」

 

小さな声でぽそりというユエ。ハジメとコウスケに助けてもらったあの時から2人がずっと羨ましかった。いつもあの2人は楽しそうに笑っている。あの遠慮のなく笑いあえる人がユエにはずっといなかった。封印される前は王女として政治に奔走し、同年代との交流はなかった。封印が解かれた後2人のやり取りを見ていると同性の友人がほしくなった。しかし自分は異端の能力を持っている。そう簡単にできるとは思っていなかった。

 

そんなときにシアが出てきた。自分との境遇は違うが、それでも同性で同類だ。その事を無意識に理解していたのかもしれない。だから、今ここで言うのだ。友達になりたいと。その言葉を聞きシアのうさ耳がピーンと立つ。

 

「ユ、ユエさーん!」

 

いきなりガバリとユエを抱きしめるシア。ユエはシアの強力な2つの兵器を顔に押し付けられ顔を竦め苦しそうだ。

 

「私も…ユエさんと友達になりたかったんですぅ!修行をしていた時からずっと!でもどういえばいいのか分からなくて…」

 

「うぐっ…シア…苦しい」

 

「だから今ここで言います!私とユエさんは友達…いえ親友です何があっても絶対に!」

 

「……シア」

 

「はいですぅ!」

 

「…ありがとう…“嵐帝”」

 

「ア~~~~~~~!!」

 

上空へきりもみしながら飛んでいくシア。それを見ながらユエはシアの言葉にニマニマと嬉しく笑うのだった。

 

 

 

 

 




面倒な所は端折ってほしいところは追加する
2次創作の醍醐味ですな

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