ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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ひっそり投稿です


ミレディちゃん

「…ほあっ!?…ん?ここどこ?」

 

薄いまどろみの中突如ビクンとしながらあたりを見回すコウスケ。確か自分の記憶では天井から降ってきた巨大ブロックを防ぎ弾き飛ばしたところまでは覚えているのだが…

 

「コウスケ気分はどうだい?」

 

「南雲?そっか俺、魔力切れで倒れたのか…うん眠ったからかな、少し怠いぐらいけど…あれからどうなったんだ?」

 

「…ねぇ、もしかして無意識で言っているの?」

 

「?何の話だ」

 

「………はぁやっぱり無意識なんだね…分かった。あの後何が起こったか説明するよ」

 

どこかあきれた様子で溜息をつくハジメに首をかしげるコウスケ。その事に増々溜息を出しながら説明するハジメ。どうやらあの後無事にミレディ・ゴーレムを倒したようだ。その後壊れ行くミレディと色々と事情を聴き感動的な別れ方をしたらしい。ミレディを倒したからだろうか壁の一角が光っておりその場所まで向かおうとしていたのである。

 

「そっかー倒せたんだな。よかったー…で、なんでシアはあんなに涙目なんだ?どっか怪我したのか?」

 

仲間たちの様子を見るとシアの目が真っ赤に晴れている。一瞬怪我をしたのかと心配になるが横でニンマリ微笑んでいるユエの様子を見る限りどうやら違うらしい。

 

「…怪我じゃない、私とハジメに褒められて嬉し泣きしていた」

 

「あ!言わないで下さいよユエさん!結構恥ずかしいですぅ!」

 

目元と顔を赤くしながら抗議するシア。ミレディにとどめを刺したのはシアでその頑張りをユエとハジメに褒められたらしい。うさ耳も恥ずかしそうにピコピコ動いている。そんな仲間たちに顔がほころぶコウスケ。迷宮を攻略していた時やミレディと対峙していた時のあの高揚感はなく今は達成感がある。その余韻につかりながら、ふらふらと立ち上がりハジメにもたれかかる。

 

「うわ、何するんだよコウスケ」

 

「うるせーこっちはへとへとで疲れてるんだ、少し肩を貸してくれ」

 

「ハイハイ」

 

そのままだらだらのんびりと浮遊ブロックに乗るハジメ達。するとそのままブロックは動き出し光る壁の前まで進むと、その手前五メートル程の場所でピタリと動きを止めた。すると、光る壁は、まるで見計らったようなタイミングで発光を薄れさせていき、スっと音も立てずに発光部分の壁だけが手前に抜き取られた。奥には光沢のある白い壁で出来た通路が続いている。

 

 ハジメ達の乗る浮遊ブロックは、そのまま通路を滑るように移動していく。どうやら、ミレディ・ライセンの住処まで乗せて行ってくれるようだ。そうして進んだ先には、オルクス大迷宮にあったオスカーの住処へと続く扉に刻まれていた七つの文様と同じものが描かれた壁があった。ハジメ達が近づくと、やはりタイミングとよく壁が横にスライドし奥へと誘う。浮遊ブロックは止まることなく壁の向こう側へと進んでいった。

 

 くぐり抜けた壁の向こうには……

 

「やっほー、さっきぶり! ミレディちゃんだよ!」

 

 ちっこいミレディ・ゴーレムがいた。

 

「「……」」

 

「ああ、やっぱり。こんなことだと思ったよ」

 

「んーちんまいとさらに可愛さが増すな」

 

 ちっこいミレディ・ゴーレムは、巨体版と異なり人間らしいデザインだ。華奢なボディに乳白色の長いローブを身に纏い、白い仮面を付けている。ニコちゃんマークなところが微妙に腹立たしい。そんなミニ・ミレディは、語尾にキラッ! と星が瞬かせながら、ハジメ達の眼前までやってくる。

 

その姿に女性陣2人は黙り込んで顔を俯かせる。

 

「南雲なんであの2人はあんなにプルプルしてんの?」

 

「さっきミレディと感動的な別れをしていたのが全部茶番だと気付いたから」

 

「なるほど、純粋な2人にはミレディちゃんの性格までは読めなかったかー」

 

ケラケラと笑うコウスケと溜息を吐くハジメ。そんな男2人を放っておいてミレディは非常に軽い感じで女性2人に話しかける。

 

「あれぇ? あれぇ? テンション低いよぉ~? もっと驚いてもいいんだよぉ~? あっ、それとも驚きすぎても言葉が出ないとか? だったら、ドッキリ大成功ぉ~だね☆」

 

 ユエがシアがぼそりと呟くように質問する。未だ、ユエとシアの表情は俯き、垂れ下がった髪に隠れてわからない。もっとも、先の展開は読めるので、ハジメは一歩距離をとった。

 

「……さっきのは?」

「ん~? さっき? あぁ、もしかして消えちゃったと思った? ないな~い! 

そんなことあるわけないよぉ~!」

「でも、光が登って消えていきましたよね?」

「ふふふ、中々よかったでしょう? あの“演出”! やだ、ミレディちゃん役者の才能まであるなんて! 恐ろしい子!」

 

「なんかミレディが可愛くて仕方ないんだけど?」

 

「コウスケ、君は疲れておかしくなっているんだ。取り返しのつかないことになる前にさっさと正気に戻ってきてくれ」

 

こんな時でも真顔でふざけるコウスケに呆れるハジメ。そんな2人をよそにテンション上がりまくりのミニ・ミレディ。比例してウザさまでうなぎ上りだ。ユエは手を前に突き出し、シアはドリュッケンを構えた。流石に、あれ? やりすぎた? と動きを止めるミニ・ミレディ。

 

「え、え~と……」

 

 ゆらゆら揺れながら迫ってくるユエとシアに、ミニ・ミレディは頭をカクカクと動かし言葉に迷う素振りを見せると意を決したように言った。

 

「テヘ、ペロ☆」

「……死ね」

「死んで下さい」

「ま、待って! ちょっと待って! このボディは貧弱なのぉ! これ壊れたら本気でマズイからぁ! 落ち着いてぇ! 謝るからぁ!」

 

 暫くの間、ドタバタ、ドカンバキッ、いやぁーなど悲鳴やら破壊音が聞こえていたが、ハジメは一切を無視して、部屋の観察に努めた。部屋自体は全てが白く、中央の床に刻まれた魔法陣以外には何もなかった。唯一、壁の一部に扉らしきものがあり、おそらくそこがミニ・ミレディの住処になっているのだろうとハジメは推測する。

 

 ハジメは、おもむろに魔法陣に歩み寄ると勝手に調べ始めた。それを見たミニ・ミレディが慌ててハジメのもとへやって来る。後ろからは、無表情の吸血姫とウサミミがドドドドッと音を立てながら迫って来ている。

 

「君ぃ~勝手にいじっちゃダメよぉ。ていうか、お仲間でしょ! 無視してないで止めようよぉ!」

 

 そんな文句を言いながらミニ・ミレディはハジメの背後に回り、二人の悪鬼に対する盾にしようとする。

 

「……ハジメどいて、そいつ殺せない」

 

「退いて下さい。ハジメさん。そいつは殺ります。今、ここで」

 

「まさか、そのネタをこのタイミングで聞くとは思わなかったよ。っていうかいい加減遊んでないでやる事やろうよ。おい、ミレディ、ちゃんと試練はクリアしたんだからさっさとお前の神代魔法をよこせよ」

 

「うーん、まさかのあっさりとした対応にミレディちゃんびっくり。なんか遊びがないね~」

 

ハジメの塩対応に呆れた声を出しながら魔法陣を起動するミニ・ミレディ。流石に神代魔法を手に入れ得る前に壊すのは不味いと思ったのかユエとシアも落ち着きを取り戻す。魔法陣の中に入るハジメ達。直接、脳に神代魔法の知識や使用方法が刻まれていく。ハジメとユエは経験済みなので無反応だったが、シアは初めての経験にビクンッと体を跳ねさせた。

 

コウスケにはオスカーの魔法陣と同じように何か温かいものが胸の中に溢れるのを感じた。他の3人とは何か違うような感覚に頭を捻っているとどこか視線を感じそこでようやく先ほどからジッとミニ・ミレディが自分の顔を見ているのに気付いた

 

「ん?なに俺の顔に何かついている?」

 

「…ううん、なんでもない」

 

どこか変なミニ・ミレディに疑問を抱くも3人がちゃんと神代魔法を習得したかを確認するコウスケ。

 

「3人ともどうだ?問題なさそうか」

 

「うん平気だよ。やっぱり重力操作の魔法みたいだね」

 

「そうだよ~ん。ミレディちゃんの魔法は重力魔法。上手く使ってね…って言いたいところだけど、君とウサギちゃんは適性ないねぇ~もうびっくりするレベルでないね!」

 

「知ってる。それくらい想定済みだ」

 

ミニ・ミレディの言う通り、ハジメとシアは重力魔法の知識等を刻まれてもまともに使える気がしなかった。ユエが、生成魔法をきちんと使えないのと同じく、適性がないのだろう。

 

「まぁ、ウサギちゃんは体重の増減くらいなら使えるんじゃないかな。君は……生成魔法使えるんだから、それで何とかしなよ。金髪ちゃんは適性ばっちりだね。修練すれば十全に使いこなせるようになるよ」

 

 ミニ・ミレディの幾分真面目な解説にハジメは肩を竦め、ユエは頷き、シアは打ちひしがれた。せっかくの神代魔法を適性なしと断じられ、使えたとしても体重を増減出来るだけ。ガッカリ感が凄まじい。また。重くするなど論外だが、軽くできるのも問題だ。油断すると体型がやばい事になりそうである。むしろデメリットを背負ったんじゃ……とシアは意気消沈した。

 

「さて、最後の変態君は…君次第だね!」

 

「やけに適当だな、おい」

 

3人とは打って変わってあからさまに適当なミレディの説明にげんなりするコウスケ。もっと重力魔法の使い方などをレクチャーしてもらいたいところだが、コウスケが項垂れている間にハジメが迷宮攻略の証を要求する。遠慮、容赦は一切ない。

 

 

「さてと、ミレディ。さっさと攻略の証を渡せ。それから、お前が持っている便利そうなアーティファクト類と感応石みたいな珍しい鉱物類も全部。お前の迷宮を攻略したんだ、それぐらい当然あるよね」

 

「……君、セリフが完全に強盗と同じだからね? 自覚ある?」

 

ニコちゃんマークの仮面が、どことなくジト目をしている気がするが、ハジメは気にしない。ミニ・ミレディは、ごそごそと懐を探ると一つの指輪を取り出し、それをハジメに向かって放り投げた。パシッと音をさせて受け取るハジメ。ライセンの指輪は、上下の楕円を一本の杭が貫いているデザインだ。

 

 ミニ・ミレディは、更に虚空に大量の鉱石類を出現させる。おそらく“宝物庫”を持っているのだろう。そこから保管していた鉱石類を取り出したようだ。やけに素直に取り出したところを見ると、元々渡す気だったのかもしれない。何故か、ミレディはハジメが狂った神連中と戦うことを確信しているようであるし、このくらいの協力は惜しまないつもりだったのだろう。

 

若干口角をあげていそいそと鉱石を回収していくハジメに苦い笑いを浮かべるコウスケ。強盗のような物言いだが錬成師として嬉しそうに鉱石を回収してく姿を見ると何とも言えない気持ちになる。そんなコウスケにそばにミニ・ミレディが近づいてくる。

 

「はぁ~あの言い方じゃただの強盗だよ~」

 

「あっははは。すまん許してくれ、本来は優しい奴なんだけどオーくんの迷宮で色々あったんだよ」

 

「…ふーん、オー君の迷宮でね~まぁそんな事はどうでもいいとして」

 

「?」

 

「あの子はあなたにとっての…何なの?」

 

隣にいるミレディの声は何故か真剣な声だ。疑問に思いながらも心の内を正直に話す。

 

「何って…友達で親友で相棒のような…あ、これ言葉に出すと物凄く恥ずかしいな!」

 

若干顔を赤らめながら正直に話すコウスケ。今まであまり意識したことはないが改めて言葉に出すと途方もなく恥ずかしくなる。

 

「…そっか。大切な存在なんだね」

 

「お、おうそんなもんだ」

 

茶化すこともなくうんうんと頷くミレディに若干気恥ずかしさで焦るコウスケ。話を変えるようにあたふたしながら話題を探し早口で話し始めるコウスケ。

 

「あ~っとえ~っと、そうだ。さっきの戦う前の会話なんだけど、そのごめんな、いろいろヘンなこと言ってしまって」

 

「分かっているよ。今更な話だし。それよりも人のコンプレックスをずけずけというのは直して欲しいかな~私じゃなかったら嫌われているよ~」

 

「す、すまん…あれ?ってことはミレディちゃんは貧乳なのか?」

 

「…いい加減に怒るよ」

 

「図星ってこと?なら何であの時俺は堂々と確信をもって…?」

 

コウスケは原作である「ありふれた職業で世界最強」を読んでいるがミレディの容姿がどんなものであるかは知らないのだ。それなのになぜかミレディの一部分である身体的特徴になぜか自信を持って言える気がする。増々首をひねって考えようとするが何故か頭がズキリと痛む。変な違和感に顔を顰めるコウスケ。

 

その時ミレディの出した鉱石を回収し終えたのかハジメ達がミレディににじり寄ってくる。

 

「ねぇ、それ“宝物庫”だろう? だったら、それごと渡せよ。どうせ中にアーティファクト入ってんだろう」

 

「あ、あのねぇ~。これ以上渡すものはないよ。“宝物庫”も他のアーティファクトも迷宮の修繕とか維持管理とかに必要なものなんだから」

 

「知らないよ。寄越せ」

 

「あっ、こらダメだったら!」

 

本当に根こそぎ奪っていこうとするハジメに焦った様子で後退るミニ・ミレディ。彼女が所有しているアーティファクト類は全て迷宮のために必要なものばかりだ。むしろ、それ以外には役に立たないものばかりなので、ハジメが持っていても仕方がない。その辺りのことを掻い摘んで説明するが、ハジメは「ほぅほぅ、よくわかった。じゃあ寄越せ」と容赦なく引渡しを要求する。どこからどう見ても、唯の強盗だった。

 

「ええ~い、あげないって言ってるでしょ! もう、帰れ!」

 

「え?うわっ!?」

 

なお、ジリジリと迫ってくるハジメに、ミニ・ミレディは勢いよくコウスケの襟首をつかみ踵を返すと壁際まで走り寄り、浮遊ブロックを浮かせると天井付近まで移動する。そのまま素早い動作でミニ・ミレディは、いつの間にか天井からぶら下がっていた紐を掴みグイっと下に引っ張った。

 

「「「「?」」」」

 

 一瞬、何してんだ? という表情をするハジメ達。だが、その耳に嫌というほど聞いてきたあの音が再び聞こえた。

 

ガコン!!

 

「「「「!?」」」」

 

 そう、トラップの作動音だ。その音が響き渡った瞬間、轟音と共に四方の壁から途轍もない勢いで水が流れ込んできた。正面ではなく斜め方向へ鉄砲水の様に吹き出す大量の水は、瞬く間に部屋の中を激流で満たす。同時に、部屋の中央にある魔法陣を中心にアリジゴクのように床が沈み、中央にぽっかりと穴が空いた。激流はその穴に向かって一気に流れ込む。

 

「てめぇ! これはっ!」

 

 ハジメは何かに気がついたように一瞬硬直すると、直ぐに屈辱に顔を歪めた。

 

 白い部屋、窪んだ中央の穴、そこに流れ込む渦巻く大量の水……そう、これではまるで“便所”である!

 

「じゃあ迷宮苦略頑張ってね~」

 

ウインクするミニ・ミレディ。ユエが咄嗟に魔法で全員を飛び上がらせようとする。この部屋の中は神代魔法の陣があるせいか分解作用がない。そのため、ユエに残された魔力は少ないが全員を激流から脱出させる程度のことは可能だった。

 

「“来…”」

「させない!」

 

が、ユエのその行動を見越したように素早くミニ・ミレディが右手を突き出し、重力魔法で上から数倍の重力を掛けた。

 

「ああ!南雲達が汚物のように!」

 

コウスケの場違いな悲鳴をよそに瞬く間にハジメ達が抵抗する間もなく穴に流されると、ハジメ達が流れ込んだときと同じくらいの速度であっという間に水が引き、床も戻って元の部屋の様相を取り戻した。

 

 

 

 

「ふぅ~やっとで邪魔者が居なくなった~」

 

「いや邪魔者って…」

 

ミレディと残されたコウスケ。さっきからコウスケは混乱の極みだった。いったいなぜ自分は襟首をつかまれて残されたのか、邪魔者とは、いったい自分はどうされるのか。さっぱりわからなかった。

 

「なぁミレディ俺に一体何の用事がっ!?」

 

疑問は最後まで言い終えることはできなかった。何故ならミレディが勢い良くコウスケの胸に飛び込んできたのだ。たたらを踏みそうになるが何とか踏ん張り体制を整えるコウスケ。いきなり何をするんだと言おうとして、口を噤んでしまった。

 

コウスケの胸に飛び込んできたミレディは仮面をコウスケの胸に当てわずかに震えていた。その姿になぜか強い罪悪感と申し訳なさが出てきて、胸が痛くなる。

自分の身長より低いミレディを引きはがせることもできず、どうすればいいかもわからず取りあえず頭を優しくなでることにする。するといつの間にか背中に回された腕の力がさらに強くなる。

 

(うぉぉ…痛ぇ…でもガマン…しなければ)

 

気のせいか背中からミチミチと嫌な音が鳴っている気がするが振りほどくことはできない。どうすることもできず取りあえず会話をしてみようと冷や汗をかきながら口を開くコウスケ。

 

「あの…どなたか…間違えておりませんか?…うぎっ!」

 

言葉を掛けたがいいがさらに強くなる腕の拘束。同時に背中から鳴り響くペキペキという音。どうやら説得の仕方を間違えてしまったようだ。冷や汗が脂汗に代わるころやっとのことで拘束から解放される。

 

「フヒュー…フヒュー」

 

やっとのことで息を整えるコウスケにミレディは顔を俯かせながら話しかけてくる。俯いた表情からは何も読み取れずさっきまでのハジメ達をあおっていた雰囲気とはあまりにも違いすぎてコウスケの混乱と戸惑いは頂点に達しそうだ。

 

「ねぇ…他の迷宮にもいくの?」

 

「ふぅー…ああ、勿論行くよ」

 

「そう」

 

何故だかわからないが声はどことなく嬉しそうででも悲しそうにも聞こえるようで、どうにも居心地が悪い。そんな油断していたコウスケをミレディは力いっぱい突き飛ばす。

 

「うぉ!もぉーさっきから何なんだよ!」

 

不満をあげるコウスケをよそにミレディは先ほどと同じように天井からぶら下がっていた紐をグイッと掴んだ。身構える間もなく水に足を捕らわれ穴に向かって流れていく。何とかもがきながら抵抗するも力及ばず少しづつ流されていく

 

「さっきからなんか俺の扱い酷くね!」

 

「あっはは日ごろの行いが悪いんだぞ☆それじゃあ解放者に…ううん、みんなにあったらまた会いに来てね♪」

 

「ごぼっ、言われなくでぼぉ!うぼぼぼぼぉぉぉお」

 

流されていく中コウスケはミレディにダブるように映った金髪の少女がとても楽しそうに笑っているようなそんな幻覚を見たような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライセン迷宮から大量の水に流されていたコウスケはどこかの泉に打ち上げられていた。すぐに水面に上がり息を整えるコウスケ。

 

「ゲホッ、ガホッ、~~ったくいったい何だってんだミレディちゃんの奴…んな事より南雲達はっと、ん?ありゃ南雲とユエ?なにしてんだ」

 

その視界に岸のそばで何やらハジメが慌てているのが見える。ハジメがあれほど慌てるなんて珍しいと思いつつ近づくコウスケ。

 

「おーい、南雲どうした、ってシアが死んでる!」

 

「死んでない!溺れて死にかけているだけだ!そんな阿呆なこと言ってないで手伝って!」

 

そばに駆け寄るとシアが、顔面蒼白で白目をむいていた。よほど嫌なものでも見たのか、意識を失いながらも微妙に表情が引き攣っている。

 

「溺れていたやつには…人工呼吸だ!ユエ!やっちまえ!」

 

「???」

 

「この世界には心肺蘇生がないみたいなんだ!」

 

「え?マジで!?じゃあ俺たちのどっちかがまうすとぅーまうすして胸をわしづかみにするの?」

 

童貞であるコウスケには若干尻込みしてしまう。死にかけているとはいえシアは美人なのだ。流石に怖気ついてしまうが…とはいえシアは命には代えられない。覚悟を決めハジメと頷きあう。

 

「や、やったろうじゃねえか、よし、俺が心臓マッサージをする!南雲!お前は気道を確保して思いっきりまうすとぅーまうすをかましてやれ!遠慮すんな!これはチッスに入らん!」

 

「ふざけてないで行くよ!」

 

シアに覆いかぶさり慣れない手つきで心臓マッサージをするコウスケ。シアの柔らかいものがふにゅふにゅと形を変える。

 

(ああくそっ滅茶苦茶柔らかーい、じゃなくてこんなことなら教習所で応急処置のやり方もっと真剣に聞いておくべきだった!)

 

コウスケとハジメの必死の応急処置が功をなしたのか何度目かの人工呼吸のあと、遂にシアが水を吐き出した。水が気管を塞がないように顔を横に向けてやるハジメ。

 

「ケホッケホッ……ハジメさん?」

「ふ―そうだよ、ハジメさんだよ…なんでこんなとこで死にかけるのかな…」

「よかったシア気付いたのか…」

 

ホッと息を吐くコウスケとハジメ、しかしシアの様子がなにやらおかしい。顔を赤くしてプルプルしている。首をかしげる2人にシアは震えながら言った

 

「ハ、ハジメさんにキスされた…コウスケさんに胸をもまれた…というか今も鷲掴みにされている…」

 

コウスケはふと自分の手を見る。気が付くと両手はしっかりとシアの左胸を鷲掴みにしている。すごく柔らかく暖かいその感触に本能が手を離すことを許さなかったのだ。

自分がとんでもないことをしていることに気が付き硬直するコウスケ。

ハジメは…さっさと退避していた。親友のあまりの行動の速さに感心するのもつかの間ガバリと立ち上がったシアに思いっきりビンタされ泉に吹っ飛ばされるコウスケ。

 

「コ、コウスケさんのばかーーー!!」

 

「俺は悪くブゲラっ!!」

 

音を立てて泉に叩き落とされるコウスケ。シアはその様子を見ることなくユエに縋りつく。

 

「ユエさん!ハジメさんと…コウスケさんが…私に無理矢理!」

 

「…シア、分かっている。仇は私が討つ…“嵐帝”」

 

退避していたハジメにシアをなでながら容赦なく魔法を打つユエ。溜息をつきながらそれを甘んじて受けるハジメ。

 

(まぁ救命措置とはいっても無理矢理キスをしたようなものか。流石にこれぐらいは受けてもしょうがないよね…どうやらユエも分かってやっているみたいだし…)

 

ハジメは飛ばされる瞬間ユエの口角がニンマリと吊り上がっているのを見た。からかっているのだろう。それを見ていると何とも言えなくなる。新たな仲間と共に、二つ目の大迷宮の攻略を成し遂げたハジメ。これからも色々あるだろう旅を思い薄らと口元に笑みを浮かべながら泉へ飛ばされるのだった。

 

 




後で修正が入るかも…です
次のコミュ編で第2章は終わりになりますね

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