前と同じく時間軸は適当です。
会話内容に矛盾や同じことを繰り返して言っていないかすごく心配になります
あとキャラが物凄くブレブレになっていないか。会話させるのは楽しいんですが色々大変ですね。
コミュ編 コミカル
ハジメとコミュ
ハジメの銃火器2
「なあ南雲ドンナ―貸してくれ」
「いいよ、また練習?」
「おう、やっぱり銃はかっこいいだろ!俺もカッコつけたいんだよ」
「だからと言ってできるかどうかは…
まぁどうぞ」
「サンキュ―なら遠慮なくんっんー銃は剣より強し!」
パキュン
「お!うまくいった!」
「やればできるんだね…」
魔物の素材
「ああ、分かっているんだ。俺しかいないって」
「…うん」
「ユエとシアは女の子だ、そりゃあ出来ないといけない日もいつか来るとは思うけど、なるべくこんな事はさせたくないじゃん」
「うん、そうだね」
「南雲は、ドンナ―で警戒する必要があるし…まぁ、雑魚戦ではあんまり役に立たない俺がやるのは分かっている」
「うん、ごめんね」
「別に不満があるわけじゃないんだ。ただ……素材の剥ぎ取りが下手でいつも魔物の体液で服が汚れる俺の愚痴を聞いてほしかっただけなんだよー」
「後で手袋とか買ってこようね」
お金を稼ぐ
「なぁ南雲。今俺たちの所持金はどうなっているんだ」
「色々そろえたからね。うーんと大体40万ルタぐらい残ってるかな」
「…ルタって日本円と同じくらいの金額だっけ?」
「多少のずれはあるかもしれないけどそんな感じだね。物の物価も大体日本と同じぐらいだし、分かり易くてよかったよ」
「…確か樹海の魔物の素材を全部売ったんだっけ」
「うん。ギルドの受付のおばちゃんに買取をお願いしたんだけど…どうしたの?」
「…たかだか3から4時間素材の剥ぎ取り込みで暴れたとして40万…ハハッなんて高給料取りなんだ…日本で働いているのが馬鹿になっちまう」
「えーっとコウスケ?」
「しかも怒られることもなく、気楽に作業ができてそばには頼りになる親友とかわいい女の子付き…命の危険があるって言っても……フヒ、フヒヒヒッヒイィィィィ!!」
「うわっ!?コウスケが壊れた!」
「あああああああ!なんで!俺は!楽な稼ぎを知ってしまったんだぁあああ!!」
本当にうさ耳が好きなのは…
「コウスケさん!私のおやつ知りませんか!?」
シャキーン!
「……」
「んん?知らないぞ。どこかに落としたんじゃないの?」
「ええー楽しみに取っておいたのにー」
へにょん
「……」
「仕方ないなー俺のを分けてあげるよ」
「え!?ありがとうございますぅコウスケさん!」
パタパタ
「……」
「…ハジメ?シアのうさ耳を見てどうしたの?」
「!?」
「…ハジメはむっつりのうさ耳好き」
RPGの楽しみの一つ武器屋
「南雲、俺さ、武器を見るのが好きなんだ」
「うん」
「色々な剣や斧、槍などを見てこれはどんな風に使うのかとか考えるのが好きなんだ。楽しみともいえるのかな」
「うん、分かるよ。平和な日本にいたからね興味をそそられるのはしょうがないし何より武器は男の浪漫だからね」
「そうなんだよ!だから見に行ったんだけど…あそこに並べられているのすべて南雲の作ったものより劣ると思うとなんだかなぁって」
「…うーんこればっかりはね。そうだ、錬成でいろんなものを作ったんだ。見る?」
「お!?何々見せて見せて!」
(店売りより自作した方が質が良い…か、楽だと思うけど店売り物の楽しみが減るのはしょうがないよね)
便利すぎるのは?
「南雲、あのキャンプセットなんだけど…便利すぎねぇ?」
「そうかな?僕たち日本人ならならあの位は必要でしょ」
「うーん悪いといってるわけじゃないんだただ…冒険者っていう風勢を感じるのが難しくて…」
「言いたいことは分からないでもないけど…僕たちは強いだけで冒険のイロハは分からないんだから、自分たちで備えようとするのはおかしいことじゃないと思う」
「だよなぁすまんファンタジーと言って少し夢を見すぎたみたいだ」
「良いんだよコウスケ。僕達にとって冒険者の生活というのは憧れがあるからね」
コウスケの覗きに対するスタンスと本音
「南雲、ファンタジー物には銭湯があったら覗きイベントがあるだろ」
「真顔で何馬鹿なこと言ってんの」
「いいから聞け南雲。あれは身内の女性陣と交友を深める大事なイベントだと思う」
「実際やったらただの犯罪で嫌われるよね。でシアとユエが入っている今行くの?」
「行かない!なぜならほかの客が入っているかもしれないからだ。混浴だったら行けるかもしれないけど…流石にあれは身内でやってボコられて終わりにするものであって他人に迷惑をかけるのはただの犯罪なんだ!」
「なんだちゃんと物事の分別はわかっているんじゃない…で?この馬鹿話をした本当の理由は?」
「ラッキースケベはまだですか」
「あるわけ無いでしょ」
「えー」
シアって…
「シアは可愛いよな」
「そうだね、うさ耳いいよね」
「あの表情がころころ変わるところなんて見てて楽しいしお調子者のところも愛嬌があっていい」
「うん、うさ耳もよく動いている」
「でも黙っているとこれがまた良いんだ。神秘的な美少女って感じで」
「でも、うさ耳はついていてなんかシュールになる時があるね」
「おまけに、家事、炊事、掃除など中々セールスポイントも多い」
「あと、うさ耳はとてもふさふさしている」
「…完璧じゃね?」
「…うさ耳サイコー」
「だな!…なんで南雲はそんなに距離をとるの?あれ?なんか前にもあったような…ブゲラァ!」
「コウスケさんもハジメさんも恥ずかしいことを真顔で言わないでほしいですぅ!」
ユエとコミュ
中毒症状
「なぁユエ…もういいんじゃないのか俺もう我慢できなくなった」
「…ん、私も我慢の限界」
「だから南雲」
「…だからハジメ」
「ユエに血を吸われたい!」
「…コウスケの血を吸いたい」
「駄目!完全に中毒に陥ってるじゃないか!」
「「えー」」
「何がえ~だよ!そんな不満そうな顔をしない!駄目ったら駄目!」
「ハジメさんってなんだか2人の保護者さんですね…」
ご機嫌なユエ
「ユエ―なんかこの頃、機嫌がいいなーなんかあったの?」
「…ん、シアと友達になった」
「そっか。よかったなユエ」
「ん! これから…」
「これから?」
「…ハジメとコウスケに負けないぐらいシアと仲良くする」
「…その言葉だけ聞くとなんかBL臭い…まさか、誤解されてないよな?」
「???」
ユエの吸血
「ユエ疑問があるんだけど?」
「…ん?」
「シアの血は飲まないのか、結構おいしそう?に見えるんだが…」
「…コウスケの変態」
「何ゆえ!?」
「…女の子を傷物にしろなんて…コウスケは鬼畜」
「あれれ~」
(ハジメとコウスケの血だけでいい…なんて恥ずかしくて言えない)
シアとコミュ
うさぎの好きなもの
「「……」」
「あのコウスケさん?ハジメさん?」
「「……」」
「何で黙って私の前にニンジンを置くんですか?なんでそんなに期待した目をするんですか?」
「「……」」
「???取りあえずありがたくもらいます」
「「イエ~イ」」
「???」
ハウリア族の耳
「なぁシア」
「どうしましたコウスケさん?」
「ハウリア族のうさ耳を触るのを忘れた」
「…そういえば父様のうさ耳を触りたいといってましたね」
「惜しいことをしてしまった…だからシアのうさ耳を触らせてほしい!」
「何でそんなに必死になるんですかーまったくもー良いですよ。でも優しくお願いします」
「わーい」
(いいなぁコウスケ…僕も思いっきりモフモフしたいなぁ…ハッ!?僕はいったい何を!?)
「…ハジメがさっきから変な顔している…」
「シア大事な話があるんだ」
「はい?」
宿の一室4人でまったりと雑談しているとき唐突にコウスケはシアを見て言い放った。あまりにも急だったのでハジメとユエも首をかしげているがコウスケはそんな2人を気にする様子もなくシアに提案した。
「お前の服装なんだけどもっと露出を抑える服に着替えてくれないか」
「えーっと…服ですか?」
「そう、服」
初めて出会った時からコウスケは考えていた。シアの服装はあまりにも露出が激しすぎると。まるで水着の様な薄着で胸元が大きく見える大胆な上半身と短すぎることで太ももがあらわになるスカートが原因だった。樹海にいたころはほかのハウリア族の女性も似たような格好だったのであまり気にしないようにしていたのだが、流石に町に入ったのならば服屋があるのでもっと露出の控えた服装にしてほしかったのだ。
「あの、コウスケさんこれでも服装はしっかりと替えたんですよ?」
「ファック。何も変わっていない。着替えを要求する」
確かにシアの服装は服屋に寄ってから変わってはいた。しかし着ているのは樹海にいたころとあまり変わらないビキニアーマーみたいな防具兼水着みたいなものでたわわな胸はしっかりと強調されておりくびれのあるお腹の方も丸出しだ。
スカートの方もホットパンツにはなってはいるのだが健康的で白く艶かしい太ももは惜しげもなくさらされている。その上からユエお手製の外套を羽織っていて、つまりコウスケの目からは何も変わってはいなかった。
「えぇ~他の服じゃあ動きにくいんですよ~」
「知らん。自分で服のセンスはないって断言できるが、さすがにお前の格好には口を出させてもらう。もっと露出を押さえろこの露出狂」
シアの抗議も聞く耳持たないコウスケ。本当なら本人の好きなようにさせてあげたいのだが露出過剰な服装に関しては妥協することができないのだ。
「ユエさーんコウスケさんがひどいですぅ」
「…コウスケ、シアの好きなようにさせたら?」
「駄目です。このことに関しては譲る気がありません」
「本人が良いっていうのなら好きにさせたら?よく動くことになるシアにとって窮屈な服装なのはつらいみたいだし」
「黙れ小僧。お前ならわかってくれると思ったのに…このうさ耳好きのむっつり変態め」
「…辛辣ぅ!」
ユエの頼みもハジメの説得もきっぱりと断るコウスケ。そろいもそろってなぜこの3人は気付かないのだろうか。溜息が出てくる。本当なら自分が言うべきなのだろうが…
「なーんで気付いてくれないのかねぇこの残念兎さんは」
「ぷひゅぅ!?ほぉうしゅへぇさーん。ふぁにしゅるんですかぁー」
シアの頬を両手で抑えぷにぷに遊ぶコウスケ。すべすべもっちりとしたシアの頬の感触は大変気持ちがいい。もう少し堪能したいのだが、また街に行っていろいろやりたいことがあるのだ。この空気の中自分がいるのは少し気恥しい。
「全く…なぁこの残念を通り越して可愛くなってきたシアちゃんよぉ」
「うううー顔がー もうなんなんですかコウスケさん!はっきり言ってくれないとわからないですよ」
「あんまり言いたくないんだよ…シア一度冷静に鏡で自分の容姿を確認してくれ。自覚しているんだかしてないんだかわからないけど
そろそろ周りの人間からどう見られているのか気付いてくれよ」
「…あぁなるほどね。そういう事か。全くもうコウスケは心配症というか独占欲が強いっていうのかな」
「…コウスケはむっつりスケベ」
シアに捨て台詞を吐いてそのまま部屋から出ていくコウスケ。その捨て台詞で言いたいことが分かったのかハジメは苦笑しユエはニマニマと笑う。シアだけは頭に疑問マークを浮かべている
「ハジメさんもユエさんも分かったんですか?」
「うん。なんとなくだけどわかったよ。コウスケはね、シアの体を町の男たちに無遠慮に見られるのが許せないんだって」
「そ、そうなんですか?」
「うん。だってシアはすごく可愛いから。だから自分の仲間であるシアがそういう目で見られるのがすごく嫌なんだ」
シアはとてつもない美少女であり亜人族で隷属として人気の高い兎人族である。今のところ撃退し続けているおかげか乱暴な輩は見受けられないが、コウスケにとってはそういう目的で見られるのがたまらなく嫌なのだろう。なんとも心配性な彼らしかった。
「えへへ~大切に思われていると思うと照れちゃいますね~」
ハジメの言葉に上機嫌になるシア。服装に不満があると言われたときはどうしてと考えていたが、自分のことを気遣ってくれての発言なら頬が緩んでしまう。
「…付け加えるとコウスケ自身もシアをあんまり直視できていない」
「へっ!?コウスケさんとは普通に会話できていますけど?」
「…コウスケはシアの顔しか見ていない…素肌を見るとシアに失礼だと思っている」
ユエにも経験がある。自身が封印されていた時なにも着ていなかったのでコウスケの視線がとてもよそよそしかったのだ。顔を合わせて会話はしてくれるのだがどこかぎこちなく、目が泳いでいるときが多々あった。
見ないように意識してでも気になって視線が下に行きそうになりでも理性で押しとどめる。何とも愉快なそんなコウスケを見ていた経験がユエにはあったのだ。
「うぅーん、そういわれると結構気を使わせちゃっているんですねぇ…服変えた方が良いでしょうか?」
「僕の方からは何とも、ただ言えるのはこれからも旅するにあたって薄着はよくないかなと僕は思う。小さな傷が何か大きな事態を引き起こすことってよくあると思うし、何よりいくらシアが身体能力が異常に強い化け物ウサギといっても怪我はするからね。防げることは防いだ方が良いかな」
なんともハジメらしい実用性を訴えたコメントだ。しかしそれもそうかと思うシア。仲間として行動している以上どこかで彼らに合わせる必要がある。それがたまたま服装なのかもしれない。
「…動きづらくてもシアならすぐになれる。…それに」
「それに?」
「もしピンチになっても私とハジメ…コウスケがちゃんと守るから」
「そうですか…そうですね!ならクリスタベルさんのお店に行っていろいろ注文して来ます!」
優しく微笑むユエ。皆が自分のことを気遣ってくれていることにシアは嬉しくなる。なら少しは服装を変えてみようかと服屋に行く準備を始めるシア。クリスタベルの名前を聞いてハジメの顔が硬直するがシアは気にせず服屋に向かって走り出した。その後ろをユエが難なくついていく。
こうしてコウスケが危惧していたシアの服装はちゃんと素肌を隠す様に改善されコウスケは一安心と胸をなでおろすことになった。
「ところで南雲」
「なんだい」
「お前はどうしてシアのあの露出の多さに何も思わなかったんだ?絶世の美少女だろ。なんていうか…こない?」
「特に思わなかったかな」
「えぇーまさかシアの身体よりうさ耳の方に目が行ったとかか?」
「……何のことかさっぱりだね」
「なんで目を合わせないんだ?…マジで?シアの身体よりうさ耳しか目がいかなかったの?……うわぁ」
現在ブルック郊外にてシアとコウスケは対峙するように正面から向き合っていた。訓練でやりたいことがあるとコウスケがシアを誘い連れてきたのだ。
「それでコウスケさん私に頼み事とは?」
ドリュッケンを担ぎながら真剣な表情で尋ねるシア。先ほどから考え事をしながら歩いていたコウスケに感化されたのだ。シアとしても訓練は望むところだ。ミレディ戦においてとどめを刺したのは間違いなく自分だが、うぬぼれる気は全く持ってなかった。
「大したことじゃないよ。俺は守護を使って防御するからそのドリュッケンを俺に向かって殺す気で当ててほしいんだ」
コウスケの発言に驚き口を開きかけるがすんでのところで噤んだ。いつものシアならば「コウスケさんてどМ何ですか!?」と騒ぎ立てるかもしれないが今の余りにも真剣な表情のコウスケに茶化すのは憚れた。むしろコウスケから殺気がにじみ出ている。
「…本気ですか?コウスケさんの力を侮っているわけじゃないんですが、危険が伴うのでは?」
シアの言い分はもっともだ。ユエと協力してドリュッケンを振るうときに少しづつ重力魔法を合わせて使うようにしているので本気のシアの打撃力はとんでもない威力になっている。過信する気はないがもしコウスケに当たってしまったら大惨事になってしまう。そんなシアの気遣いにコウスケは嬉しそうに笑いながら首を横に振った。
「問題ないよ。寧ろ俺たちの中で最も力の強いシアの攻撃を受けきれないんじゃ色々と話にならないんだ。という訳でカモン、シア」
指を挑発するようにクイクイとするコウスケ。同時に守護を展開し青い光はコウスケを守るように光っている。
「むぅ!怪我しないでくださいね!コウスケさん!」
ドゴンッ!
大きな音を立ててドリュッケンが青い光に当たるがひび割れる様子はない。威力が足りなかったかとシアは先ほどよりさらに勢いよくドリュッケンを振り回す。その様子にコウスケは気合を入れなおす。
コウスケはシアが仲間になってからずっと考えていた。魔法は防ぐことができるが物理攻撃はしっかりと防ぐことができるか不安に思うときがあった。だが魔力操作で身体能力を上げることができるシアなら物理攻撃を防ぐいい練習相手になるのだ。ミレディと戦ったときコウスケは巨大ブロックを防いだ実績がある。しかし今になって思うとあの時の桁違いな魔力はミレディと戦えていたから出てきたのではないかと思うのだ。あの時の力が今出せるかと言うと…きっと出せないかもしれない。
(それじゃあダメだ。いつでもあの力を出せるように…もっと鍛錬をしなければ)
最大の力が肝心な時に出せないのでは意味がない。だからシアに手伝ってもらっていつでも全力が出せるように訓練をするのだ。
「とりゃですぅ!」
「ふん!」
(しかし、それにしては威力が低いような…やっぱり仲間を攻撃するってのはシアには難しいよな)
どうにも攻めあぐねているシアに少しばかり罪悪感がわく。元々温厚な女の子だ。流石に無理な注文だったかもしれない。だからといって加減をしても自分とシアのためにもならない気がする。申し訳ないと思いつつシアがもっと力を出せるようにエールを送る
「なぁシア」
「っぐ!か、硬いですぅ…どうしたんですかコウスケさん」
「最近少し太った?」
「!?」
「何かお腹周りの肉付きがよくなったような…」
(そんなことまったくもって無いんですけどね!めっちゃスタイルよくてくびれが物凄いですよシアさん!)
「…ふっふふふ…分かっていますよ。きっと私に全力になってもらいたいっていうのは分かるんですよ。でもだからって人が気にしていることを平然と言うんですねコウスケさんは…」
「サテ、ナンノコトヤラー」
(こ、怖ぇー自分で煽っておいてなんだけどやっぱり女の子にその話題は禁句だよなぁ!)
「どうやらそんなに押しつぶされるのがお好みのようでしたら…望み通りにしてあげるですぅ!コウスケさんの馬鹿ぁーーーーー!!」
「う、うぉぉおおおおお!!」
(ごめんねシア!!)
その後すさまじい衝撃音とコウスケの絶叫が辺り一帯に響くことになった。
宿の一室でコウスケはコップの中に入っている水を思案顔で見ていた。
「うーん。どうやったらうまくいくのかなー」
このコップに入っている水はコウスケの水魔法でできたものだ。この水を生成魔法で傷薬に変えることはできないかと試していたのだ
コウスケは無機物を何か別の物に変化させるぐらいにしか覚えていないが、それでも何か役に立つだろうと想像しやすい水で魔法の実験をしていたのだ。無論ハジメにそのことを教えたらなんで知っているのかとそこから自分の正体などでマズくなりそうなので黙っているのだが......。
(まったくもって傷が治る気配がない…南雲が使いこなしている以上俺もなにかできると考えたんだけど…難しい)
自分の指に小さな傷をつけ水を塗り込んだが…全く持って治る気配がない何か間違えたかと頭を悩ます…そもそも傷薬など町で大量に買えてしまいおまけに自分たちがそんなに傷を負うとは思えない。つまり無意味のなことなのだ
(意味はなくても南雲のようになにかつくってみたくなるんだよなー)
ハジメへのちょっとした嫉妬と羨望がコウスケの実験を諦めさせない。コップに目を向け考え込む。…なんだか美味しそうに見えてきた。奈落ではハジメと一緒にコウスケの水魔法で喉の渇きを潤し不味い魔物肉を無理矢理喉に押し込むために使い続けたものである。何かとお世話になった魔法だ。
コップの水はひんやりとちょうど飲みやすい冷たさになっている。奈落で培った経験のたまものだ。
(しょうがねえ、とりあえず飲んで、そこからまた考えるか)
コップの水でも飲んでまた新しく実験をしようかと思った時だった
「ふぃーコウスケさん何か飲み物ありませんかーなんか喉が渇いちゃって」
シアが突然部屋に入ってきた。おそらく郊外での重力魔法の鍛錬の帰りなのだろう。多少驚きつつもシアの訪問を歓迎する
「おーう、シアお疲れ、水ならそこにあるけど…味の保証は期待できないぞ?」
「そうですか?なんか美味しそうですけど…ありがたくもらいますぅ」
訝し気ながらもコップの水をグイッと飲むシア。そんなシアに苦笑するコウスケ
「!?」
しかし、シアが突然目をクワッと見開き一気に飲み干した。何かまずかったと慌ててシアに駆け寄るコウスケ。がシアは逆にコウスケに詰め寄る
「コウスケさんあの水はいったい何なんですか!?」
「お、落ち着けシア何があった。というより大丈夫!?」
「落ち着いてますよ!あの水は……すごく美味しかったんですぅ‼」
「は?」
思わず何言ってんのこの兎とシアを残念なもので見るコウスケそんな事にも気付かずシアは興奮した様子でうさ耳バタバタと動かしながらで水の感想を言う
「なんというか、飲みやすいんです、味はさっぱりとしてしつこくなく喉にスッと入って、清涼感がイイというか…それも冷たさもちょうどよくて疲れた体にとてもよく効くんです!だから、あの水はどこで手に入れたんですか!」
「…俺の水魔法だけど…」
「あの水がタダで飲み放題!ハジメさんとユエさんに伝えてきます!」
そのままダッシュでどこかへ行くシア。ポツーンと残されるコウスケ
「……マジか」
後日ハジメとユエにも美味と言われ、スポーツ飲料水のように疲れたら飲むようになった。その事に何とも複雑な顔をするコウスケだった。
宿の一室でコウスケとシアは向かい合っていた。コウスケが真剣な話があるとシアに言い、宿で話し合うことにしたのだ。
「それでコウスケさん…話とは…」
妙に緊張しているシアに苦笑しコウスケは自分の身体について話をすることにした考えてみたらシアにまったく話していなかったのだ。流石に仲間外れはよくない
「うーん、コウスケさんは本当はもっと別の姿であり、コウスケさんの魂が天之河光輝という人の体に入っているという事ですか…」
「そういう事なんだけど…信じてくれる?」
頭をひねらせ考え込むシア。流石に信じられないのだろうかと心配するコウスケとシアがガバリと顔をあげコウスケの目を真っ直ぐ見た
「はい、もちろん信じますよ。深く考える事じゃないです。コウスケさんはコウスケさん。ただそれだけですよ」
あっけらかんと言うシア。その目は信頼に満ち溢れていた。そのことに感謝しだからこそシアに頼みごとをした
「そっか…ありがとうシア」
「いえいえ、どういたしましてですぅ」
「といわけでシアに頼みがあるんだ」
「頼みですか?」
「おう…髪を切ってほしいんだ」
というわけで、コウスケは椅子に腰かけ布をかぶり頭だけ出している状態だったシアはその後ろに立ち、ハサミを持っている。
「まさか、コウスケさんが髪を切ってくれなんて頼むとは思いませんでしたよ」
「あはは、いい加減、髪が邪魔になってきたし俺は天之河光輝じゃないという印にもなりそうだからね。本当は、南雲やユエに頼もうと思ったんだけど…なんか大惨事がおきそうで…」
「うーん、ユエさんはコウスケさんで遊ぶでしょうけどハジメさんは大丈夫だと思いますよ」
「俺で遊ぶって…まぁユエは置いといて、南雲に頼むのはなんかなーあまりそういうのは見せたくないというか男が髪を切ってと男に言うのなんて恥ずかしくないか?」
「私にはよくわからないですぅ」
雑談をしながらもハサミを動かし髪を切っていくシア。意外にも手馴れているのかスムーズだ。だんだん気持ちよくなりコウスケは瞼が重くなり眠くなってきた。その事に気づいたのかシアは微笑みを浮かべる
「コウスケさん、眠くなったら寝てもいいんですよ後はちゃんとやっておきますので…」
「ああ…そうする……シア…」
「はい?なんですか」
「…ありがとう…俺たちに…ついてきてくれて…」
「…こちらこそ、私を受け入れてくれてありがとうございます」
半分寝言なのだろう。静かな寝息と共に聞こえた声にシアは嬉しそうに笑うのだった。
町にて休息をとるハジメ達。ハジメとユエは買い物に出かけて行ったのでコウスケはシアを連れスイーツを食べに甘味処へ来ていた。ミレディ戦のMVPとしてハジメからお小遣いはたんまりともらっているのでシアとの約束を果たしに来たのだった。
「コウスケさん?なにボーっとしているんですか?食べないのなら私が食べちゃいますよ?」
「うん?…中々食い意地が張ってるねーんなことせずに遠慮なく頼めばいいのに」
「女の子に食い意地が張ってるとは失礼ですぅ罰としてコウスケさんのも食べちゃいます」
「結局食べるんかい…まぁいいか遠慮せずにどうぞ。シアのおかげで助かっているしねー」
美味しそうに自分の食べかけのフルーツパフェ?らしき物をほおばるシアに苦笑する。実はさっきまでミレディのことについて考えていたのだが…さっぱりわからなかった。
(うーんあのミレディの様子は一体…まぁいいか後で考えよう、ん?今この状況って完璧に女の子とデートじゃね?それもとびっきりの可愛い女の子うっひょう勝ち組じゃねぇか!)
頭が痛くなるようなことは後で考えるようにして今目の前にいる美少女をガン見する。幸せ一杯にほおばるシアはかなりの愛嬌をしている。これが黙って静かにしていると神秘的な感じになるので1粒で2つの味があるのだ。その遠慮のない視線に何を思ったのかシアはからかうような表情を浮かべる。
「…コウスケさん本当は欲しくてたまらないんですねぇー うーん私の食べかけなら、ちょっとだけいいですよ。はいどうぞ」
「だから、それ俺の食いかけって、え?なにそれ?」
「?だから物欲しそうにしていたからちょっと分けてあげるんですけど?」
スプーンにさっきまで幸せそうに食べていたフルーツパフェ?を乗せてこちらに差し出すシア。俗にいうアーンというやつである。想像できなかったシチュエーションに固まるコウスケ。…ちなみに周りの客はこちらに視線を向けていない。
コウスケが店に座るなり、好奇な視線や羨望、熱い視線を受けたので加減をして威圧をしたのだ。効果はてきめんでこちらに耳を傾けているような気配はするが、ぶしつけにこちらに目を向けるのはいない…そんな事は置いといてシアは不思議そうにコウスケを見る。
(え?なにこれ?この娘分かってやってるの!?それとも天然!?え?こんな女の子だったか?原作じゃ…あれ?チョロイン!?南雲に惚れている所しかねぇ!?分からん…調子に乗りやすい天真爛漫な子だとは思ってたけどしかしこれは絶好の機会…この先俺に彼女ができるはずがない!なら今がアーンのチャンスではないのか!?…言ってて悲しくなってきた)
「で、ではいただきますぅ…」
「どうぞですぅ」
おかしな語尾になりながらスプーンをパクリ、味は…正直理解できない。コウスケは緊張と羞恥心で顔を真っ赤にしながらもぐもぐする。恥ずかしさのあまり両手で顔を覆いたくなり、この天然兎とジト目でシアを見ると、なんとシアも顔を真っ赤にしプルプルしていた。うさ耳もへにゃりと垂れ下がっている
(えっ?さっきまでなんともなかったのに何で赤くなっているの?ヘルプミー南雲、女の子って訳が分からないよ)
今ここにいない親友に助けを求めるコウスケ。そのことを知ってか知らずかシアは恥ずかしそうに小さな声で理由を話した
「…コウスケさん、溺れて死にかけていた私を助けてくれたじゃないですかぁ、それなのに私コウスケさんをビンタしちゃって…」
「お、おう」
(あれは、胸を鷲掴みしていた俺が悪いんですけど!)
「…だからお礼と謝りたくて…ユエさんに相談したんですそれで、お礼や謝るより、喜ばせた方がコウスケさんは嬉しがるといってこの方法が良いって言ったんですぅ…」
「そ、そっか、ありがとうシア…」
(あんの吸血ロリッ娘が!絶対シアと俺で遊んでいる!)
仲間である吸血姫のニンマリとした顔を想像し後で往復すると心に決めるコウスケ、しかし今はこの甘酸っぱい空間をどうにかしなければ…シアはさっきから落ち着きなくうさ耳をピコピコしている。もちろん自分もきょろきょろとせわしなく目線を動かすことしかできない。そんな2人にコウスケにとっては助けと元凶がやってきた
「コウスケ、シア、食べてるーってなんで2人ともそんなに顔が赤いの…」
「…青春真っただ中…」
買い物袋を持ったハジメとユエだ。これでどうにかできるとコウスケは安心し、ユエをジト目で睨んだ後、ハジメ達に絡む
「気にすんな、そんな事よりハジメもユエも一緒に食べよう結構おいしいぞ」
「分かった聞かないでおくよ、…ユエも食べる?」
「…ん」
席に着き店員を呼び甘味物を注文するハジメ。この頃になるとシアも落ち着きを取り戻しユエと会話をしている
「ユエさん、言った通りコウスケさん真っ赤になって喜んでくれたですぅ…私も恥ずかしかったですけどね」
「…ん、シアよくやった」
女性陣の会話は華麗にスルーしつつコウスケはハジメに買い物の成果を聞いた。旅は長くなるので色々頼んでおいたのだ
「で、いいもんあった?」
「調味料とか、食料品とか…あとコウスケが頼んでいたお菓子類も少し買ってきたよ」
「ありがてぇ…体を酷使していると無性に甘いものが食べたくなるんだよ。もしかして太るかな?」
「コウスケは僕達より体を動かすからね大丈夫なんじゃない」
太るの辺りを女性陣に聞こえるように話すと甘そうな和菓子?を食べていたユエがぴたりと止まった。そのことにざまぁと内心ニヤ付きハジメと雑談する。その時、野太く癖のある声が聞こえてきた
「あら~ん、そこにいるのはシアちゃんとユエちゃんじゃな~いおねぇさんまた会えて嬉しいぃわぁ~、んん、あらやだぁ私好みの男の子が2人もいるわぁ~ん」
化け物がいた。身長二メートル強、全身に筋肉という天然の鎧を纏い、劇画かと思うほど濃ゆい顔、禿頭の天辺にはチョコンと一房の長い髪が生えており三つ編みに結われて先端をピンクのリボンで纏めている。動く度に全身の筋肉がピクピクと動きギシミシと音を立て、両手を頬の隣で組み、くねくねと動いている。服装は……いや、言うべきではないだろう。少なくとも、ゴン太の腕と足、そして腹筋が丸見えの服装とだけ言っておこう。
「!?」
ハジメは思わず腰にあるドンナ―を抜きそうになった。明らかにヤバイ本能が全力で危険だと叫ぶ。奈落のヒュドラ以上の化け物だと確信したというより視線がまずい、獲物を狙う目だ。
おまけに舌なめずりをしている。隣にいるコウスケは…口をぽかんと開き硬直していた
「あ、店長さん、こんにちは」
「…ん、久しぶり」
シアとユエはハジメの心境を知ってか知らずか普通に挨拶する。話に聞いた服飾店の店長だろう逃げだしたくてこのまま女性陣に相手を任せ逃走するかとハジメが脳内で計画を立てていたらコウスケがやっとで動き出した…爆弾発言をしながら
「………凄い綺麗だ」
「「「「「!?」」」」」
あまりの言葉にコウスケと言われた化け物…もといクリスタベル以外のその場にいた全員が驚愕の表情をしてコウスケを見る。言った本人は正気に戻ったのか慌てて話し始める
「あっと…あまりにも綺麗なんで思わずじろじろ見てしまいました。気に障ったらすみません」
「いいのよぉ~ん。そんなに熱い視線で見られるなんておねぇさんうれしいわ~」
くねくねする化け物と気恥ずかしそうに会話をするコウスケ。ハジメは頭が痛くなってきた。さっきまではまともだったはずなのに親友はいつの間におかしくなったのだろう。宿に戻り神水を無理矢理飲ませるべきかそんな事に頭を悩ませながらも会話が続く
「あの、お名前をお聞きしてもよろしいですか?自分はコウスケと言います」
「あらぁん、私としたことが自己紹介を忘れるなんてぇ~クリスタベルよぉん、気軽にクリスって呼んでぇ~」
「クリスタベル…ああシアとユエが言ってた服屋の店長さんですか!あの服凄く着心地がいいしデザインも素敵なんですよねーなるほど、店長さんの腕が素晴らしいんですね!」
「もぉ~そんなに褒めると照れちゃうわ~」
「いえ、事実を言ったまでですけど」
逃げよう。ハジメは決意した。おかしくなっている親友を見捨てるのは胸が痛むがくねくねして頬染める化け物のそばにこれ以上いたくなかった。がハジメの判断はあまりにも遅かった。
「それでぇ~ん、隣にいる子はどうしたのかしらぁ~ん私を見て固まっているけどぉ」
「隣にいるのは親友の南雲ハジメです。おい、南雲、自己紹介」
小声で話しかけてくるも答えられない、明らかにこの化け物は自分を狙っている。現に、コウスケと話していた時とは打って変わって穏やかな目が急にぎらついた眼をしている。そのぎらついた眼を見ると本能がささやくのだ『今背中を見せたら喰われる」と
「うーん、すみません。どうやら緊張しちゃっているみたいです。分かった!クリスさんが美人すぎるからですね!」
「あらぁ私ってば罪な女。こんなかわいい子を魅了するなんてぇ~」
穏やかに笑いあう化け物と狂人。ハジメはこの地獄が早く終わるのを待つしかなかった…。
「そういえばコウスケ」
「んー」
「あの化け物もといクリスタベルなんだけど…どうして綺麗だと思ったの?」
「南雲…人を外見でしか判断できないとは、やれやれだぜ。そうだなーあの人一つも不潔なところがなくてな」
「清潔?」
「ああ、顔は濃いが髭はちゃんと剃ってあった。化粧も薄すぎずまた濃すぎずだ、顔によく合っている。
髪はべたついた感じがしないサラサラとしていそうだ。体もすね毛や腕の毛も剃ってある。香水もキツイ臭いじゃなくて香りがいいものだ。おそらく容姿に関する努力のたまものだろう。外見に不潔さは感じられない。
おまけにあの筋肉、実戦でできたのかな、無駄なく鍛え上げた歴戦の戦士という風格がある。以上かな?オカマだけど俺には汚い物には見えなかった」
(なるほど…じゃなくてなんでそんなに冷静にみられるの!?)
「あ、それと南雲はクリスさんのどストライクらしい。良かったな綺麗なお姉さんから惚れられているぞ」
「!?」
ギルドのそれなりに広い部屋でハジメは錬成に明け暮れていた。この広い部屋はギルドの受付のおばちゃんに重力魔法と生成魔法の組み合わせを試行錯誤するのに、それなりに広い部屋が欲しかったので心当たりを聞いたところ、それならギルドの部屋を使っていいと無償で提供してくれたのだ。
「さてっと経過は順調で構成も問題なし…後はうまく起動できるかどうか」
ハジメは目の前にある自分で錬成をした縦六十センチ横四十センチ、中心部分にラウンドシールドの様なものが取り付けられている金属製の十字架の様なものを前にしてうんうん頷いていた。そこに背後から声がかかる。
「…ハジメ、順調?」
すぐそばまでやってきてぺたりと座り込むのはユエだった。そのまま腰にぶら下げた水筒をハジメに渡そうとする。どうやらずっと集中して錬成をしていた自分を心配してくれていたようだ。気遣うような声と表情にハジメはふっと微笑む。
「うん、問題ないよ。あとはこれがうまく動くかどうかだけ」
ユエから受け取った水筒の水(なぜかやたらと美味い)をゴクリと飲み朗らかに答える。何度か試行錯誤は繰り返していたので後は広くて人のいないところで実験をするだけだ。しかし、ハジメの返答を受けてもユエのはまだ心配そうだ。首をかしげるハジメ
「ん、ハジメがとても焦っているような気がした」
ユエは心配だった。ライセン大迷宮を突破したあたりから気のせいか、ハジメが錬成に力を注ぎすぎているような気がするのだ。何度か夢中で錬成をしているのは見たことがあるが、今回は焦っているような気がした。実際今のハジメはあまり睡眠がとれていないのかハジメの目にはうっすらと隈がある。本人は何でもないとシアとコウスケを説得していたがユエは聞き入れるつもりはなかった。
「そう…かな。うん。そうかもしれない」
ユエの言われたことで少々自分を顧みるハジメ。確かに焦りはあるかもしれないしかしそれ以上にある気持ちが出てきたのだ。この気持ちを曲げるつもりはない、だからユエに話すことにするハジメ。
「どうして?」
「そうだね。…ねぇユエ。ミレディが岩を降らせたときのことを覚えている?」
「ん」
まだ記憶に新しいことだ。岩が降ってくる絶体絶命の危機にコウスケが死力を尽くしてバリアーを張り自分たちを守ってくれたのだ。コウスケならば問題ないとできると信じていた。もしあの光がコウスケが死力を尽くしていなかったら今頃自分たちは死んでいただろう。
「あの時のコウスケの放った光、すごく綺麗で絶対に壊れないって思ってそれから、ううんもっと前からかな?思ったんだ」
「何を?」
尋ねるユエにハジメはちょっと困ったような笑みを見せる。
「今まであんまり考えたことなかったんだけど…『負けたくない』って思ったんだ」
助けられたあの時は隣に立とうと思った。しかしミレディ戦の時みたあの光を見て負けたくないとハジメは思ったのだ。コウスケは日々訓練をし努力をしている。なら自分もと錬成をしているうちにどうしてもコウスケに負けたくないと思い始めてきたのだ。
「無論コウスケと僕じゃ役割とか能力が違うけどそれでもなんていうか…ライバル?と言うか…なんなんだろう?うまく言葉にできないけどコウスケに負けたくないって思ったんだ」
言葉にするのは難しい。しかし溢れる思いは気持ちのいいものだ、だから自分の取柄でありコウスケにはないもので勝ちたいというちょっとした男の意地みたいなものが出てきたのだ。
「ん、分かった。なら私も応援する」
「ありがとうユエ」
クスクス微笑みながら応援してくれるユエに感謝をし、またハジメの意識は錬成に戻る。コウスケに負けたくない。これほどまでに対抗意識を燃やすのは人生で初めてで、中々悪くないものだった。
夜、一人ベットの上でぼんやりと天井を見つめ考え込むコウスケ。隣のベットではハジメが寝息を立てて寝ている。訓練と錬成で疲れ果てているのだろうか、ちょっとの物音でも起きる気配はなさそうだ。
(取りあえず、ハウリア族もライセン大迷宮もなんとかなったか)
深く息を吐き奈落から出た後の前半の出来事を思い返す。シアとの出会い、ハウリア族の救出と初めての人殺し、人を殺したことによって自覚した暴力性、そしてカムに心情を吐露した後のハウリアの原作とは違う強化のされ方。
(やっぱり俺がいることによって少し違う結果になるのかな)
シアとの救出はちゃんと出会えるかどうか不安だったが何事もなかった。あの時自分が助け無くてもハジメが結局助けることになるのだが手を出さずにはいられなかった。シアの家族であるハウリア族も想像より温厚で気のいい人たちだった。だから助けようとしたのだが…
(魔物相手だと特に感じないけど人間相手だとまさかあそこまで異様に殺意がたぎるなんて…。やっぱり色々ため込んでいたってことだよな…はぁ…)
驚きはしたが今になって考えてみるとどこか吐き出すことのできないストレスを我慢していたのだろう。思い当たることは多々ある。原作を知るものが自分だけしかいない不安と寂しさ、これから起こるであろう出来事に対する訓練と対策の模索。自分の身体のこと。自分がいることでこれからたどる旅に悪影響を与えないかという不安。そして旅が終わり日本に帰ったとしても必ずしも今以上に楽しくなれるかという疑問
(駄目だなぁ…相談できる相手が一人もいないや…仕方ないよな…そうだよ、誰にも言えない。言ってはいけない)
このまま考えていると思考が暗くなる。自分の悪い癖だ、頭を振り無理やり別のことを考える。
(なんにせよシアもハウリア族も助かって良かった。それにしてもシアのあの明るさは良いな。南雲もユエも笑顔が増えて楽しそうだ)
実際ハジメは溜息が多くなっているような気がしたが嫌がっている様子はなく楽しそうだ。寧ろたまにシアのうさ耳をじっと見つめている時さえある。ユエに関しては言わずもがな、友達ができて喜んでいる。やはり元気で天真爛漫なシアがいると雰囲気が明るくなる。
そこまで考えてふと気づいた。
「あれ?シアって南雲に惚れていたっけ?」
思わず声に出てしまったがハジメは起きる気配はない。ほっと息を吐き、今までのシアの行動と言動を思い出す。ハジメといると楽しそうにはしている物のどう見ても恋する少女の顔ではない。信頼や親しさと気安さがあるが恋をしているというと…どうにも違う。
(やっぱ俺がいたから違う結果になったのかな?…そういえばユエも南雲に惚れていないし)
今の今まで気付いてはいなかった。または無意識のうちに考えないようにしていたのかもしれない。ユエもハジメに惚れている様子はなかった。寧ろあのハジメに甘えているような態度は親しそうな兄妹にすら見えそうだ。そんな2人を微笑ましく眺めているときがコウスケにはよくあった。
(これに関しては…俺にはとてもよかった)
これがもし原作通りユエがハジメに惚れて関係を持ち、シアがハジメに一目ぼれをして今もアプローチを続けていたのなら…
(絶対に嫉妬するだろうな、何でお前だけ!ってさ)
シアとユエ2人の美少女にアプローチされているハジメを見たとして自分は微笑ましく見ていることができるだろうか?答えはは考えるまでもない。絶対に無理だ。最初は祝福はするだろうが、段々と疎ましく思い必ずハジメに対して悪感情を浮かべるだろう。
コウスケは自分が器が大きくないというのをよく知っている。人並みに気遣う事も出来れば人並みに悪態や不満も妬みもある。そんな自分が友達だと思っている少年が、美少女2人に好かれていたら…良い気持ちなんてするわけがない。
寧ろハーレムなんてもの築き上げようとしていたら…自分はきっと…
「やめよう…そんなことを考えていたってしょうがないんだ。南雲は…
(なんでライセン大迷宮の時あんなに俺は興奮していたんだ?おまけに…)
脳裏に浮かぶのは自分に飛びかかるように抱き着いてきたミレディ・ライセン。あまりにも突然のことで訳が分からなくて混乱しているだけだった。一瞬天之河光輝の顔に惚れたか!?っと思いはしたがあり得ないと即断。寧ろあの飛びつき方は感情をこらえきれず飛びついてきたという感じだった。
(解放者のだれかに似ていた?でもそんな感じはしないし…うーん)
胸に残るあのざわつきからして誰かに似ているという線はあり得ないとなぜか確信を持つ。原作の解放者の情報は驚くほど少ない。だからコウスケが頭を捻っても分からないことだらけだ。当然といえば当然である。
(確か南雲がオスカーの手記を宝物庫にぶち込んでいたような?…やめとこう人の日記を見るのはよくない。特にオー君のは見たら怒られそうだ)
結局のところミレディの言ってたように迷宮を攻略していくしかこの疑問は解けることはないだろう。考えることは多く困難しかない。抱える悩みは自分一人でどうにかしていくしかない。抱える事情は重く、一人で抱え込むには苦しく辛いものだ。いつかぽっきりと心が折れるかもしれない。それでも隣で眠る少年のことを思えばしょうがないと思うコウスケだった。
これにて第2章は終了です。取りあえずこんな感じになりました
次の第3章はまだまだ執筆途中でおまけに色々見直すところがるので時間がかかるかもしれません。
気長に待ってくれるとうれしいです。
気が向いたら感想お待ちしております。とても励みになります。やる気が出ます。
活動報告の方も更新する予定です