ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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遅くなりました第3章序盤開始です。
書き為がないので投稿が遅くなりますがゆっくりとお待ちしていてください。

一応書いておきます。この章から本格的に力技と矛盾、無理やりな展開が続きます。また原作についての批判もかなり出てくることになります。第3章まで見ているという事はそれなりに受け入れてくれるとは思いますがもう一度書いておきます。

肌に合わないな、または期待していた展開とは違う面白くないと思ったらすぐにプラウザバックしてほかの小説を見ることを強くお勧めします。合わない小説を無理矢理我慢してみるより好きな小説を見ることに時間を使ってくれることを強く願っています。

取りあえず第3章は「コウスケは読者であった」という事を念願に置いてみると受け入れやすいかも…です。長々と書きましたが、今後も好き勝手書きますのでどうか生暖かい目で応援してくれるとうれしいです。

ではおそらく作者にとって大変でこの物語にとって大事な大事な第三章の始まり始まり…







第3章 運命の反逆者
旅は続く


ハジメ達は旅の準備をし、中立商業都市フォーレンへ向かうことにした。ハジメ達の次の目的地は【グリューエン大砂漠】にある七大迷宮の一つ【グリューエン大火山】である。その為、大陸の西に向かわなければならないのだが、その途中に【中立商業都市フューレン】があるので、大陸一の商業都市に一度は寄ってみようという話になったのである。

 なお、【グリューエン大火山】の次は、大砂漠を超えた更に西にある海底に沈む大迷宮【メルジーネ海底遺跡】が目的地だ。他のベテラン冒険者に冒険の心得などを聞くため、今回は急がずにブルックの町で商隊の護衛の依頼を受け、馬車に揺られゆっくりと旅をするハジメ達。

 途中、シアの料理につられてきた他の冒険者たちと夕食を共にした。最も男の冒険者たちはユエとシアにお近づきになりたくて近づいてくるのが丸わかりなので、ハジメとコウスケの2人は簡単に威圧をしてある程度の牽制をして置くことにする。

 

「うーんやっぱりシアの作る料理はうまいな、俺もある程度は出来ていたつもりだったけどまったくかなわないなぁ」

 

「えへへ~もぅそんなに褒めないでくださいですってばぁ~」

 

「…私ももっと料理が上手くなりたい」

 

「ユエさんは調理や味付けの仕方が結構大胆ですからね。もっと細かく調整できるようになればうまくできるようになりますよ」

 

「んっ頑張る」

 

「うちの女性陣は向上心が強くていいなぁ南雲」

 

「ングッ…自分ができることを増やそうと言うのは良いことだね」

 

「全くだ。そうだ、あとついでに作ってほしいものがあるんだけど…」

 

「なに?」

 

「えっと、ほらこの前シアが溺れ掛けて死にかけたじゃないか。あの時神水を飲ませることができなかっただろ?そこで思いついたんだけど飲ませる用の試験官タイプじゃなくて直接体内に打ち込むタイプ…TPSのゲームとかでよくあるピストン型?…注射型?よくわからんがそういう神水の容器を作ってほしいんだけど…」

 

「ふーむ。確かに口から直接と言うのは手間が掛かるし、いざというときに使えないかもしれないね…うん後で作ってみるよ」

 

「マジか!?サンキュー!」

 

 その後も旅は進む。道中に百体以上の魔物が出てきたがユエが重力魔法と雷魔法を複合した”雷龍”であっさりと瞬殺した。胸を張りドヤ顔をするユエに歓声を上げるコウスケ。

 

「ユエさん、さっすがー」

 

「…ん、もっと褒めて」

 

「パネェッす!ユエさん!マジリスペクトッす!」

 

「コウスケさんのあの言葉は何ですか?」

 

「シアは知らなくていい言葉だよ」

 

 

 

 

 その後、特に何事もなく一行は遂に中立商業都市フューレンに到着した。が、フューレンに入る入場受付を待っている最中、道中の護衛の依頼をした大商人モットーがハジメのアーティファクトをなんとしてでも売ってほしいとハジメに交渉しに来たのだ。

 これは、ハジメが野営中に“宝物庫”から色々取り出しているのをモットーが見ていたので、その有用性に気付いたことで何をしてでも欲しくなったのだろう。最初は理性的だったモットーが次第に狂気的な目をし始め、交渉が脅しに切り替わってきたのでコウスケが乱入した。

 

「そのアーティファクトは一個人が持つにはあまりに有用過ぎる。その価値を知った者は理性を効かせられないかもしれませんぞ? そうなれば、かなり面倒なことになるでしょうなぁ……例えば、彼女達の身にッ!?」

 

「ふうん。何をするのか聞かせてくださいよ。モットーさん、その言葉を言うからには、それなりの覚悟があると思われますが?」

 

 右手をモットーの肩に置き後ろから静かに威圧しながら話すコウスケ。ただし左手は愛用の山刀がモットーの腹をちょんちょんとつついてる。

 

「ち、違います。どうか……私は、ぐっ……あなた達が……あまり隠そうとしておられない……ので、そういうこともある……と。ただ、それだけで……うっ」

 

「なるほどなるほど、確かに大っぴらに使えばあなたのように力づくで来る輩が出てくるでしょうが…力づくで奪おうとする輩にはそれなりの対応をするわけでして…まぁ道中で魔物に出会ったと思ってあきらめてください」

 

 コウスケはこの商人を殺すつもりはない。後々出番があるのを知っているのだ。しかし、それでも今の言葉は非常にイラッとした。徐々に肩をつかむ力が強くなってくる。苦痛に呻き始めるモットーを見て、交渉されていたハジメが溜息をつきコウスケを止める。

 

「コウスケ」

 

「…ウェーイ」

 

 コウスケが山刀をしまい殺気を解く。モットーはその場に崩れ落ちた。大量の汗を流し、肩で息をしている。

 

「別に、お前が何をしようとお前の勝手だ。あるいは誰かに言いふらして、そいつらがどんな行動を取っても構わない。ただ、敵意をもって僕達の前に立ちはだかったなら……生き残れると思うな? 国だろうが世界だろうが関係ない。全て血の海に沈めてやる」

 

「……はぁはぁ、なるほど。割に合わない取引でしたな……」

 

「少しでもそう思うなら俺達をおだてて持ち上げてから交渉に入りましょうよーなんでいきなり脅しから入るんですかーこのアンポンタン」

 

 溜息をつきモットーをジト目で見るコウスケ。ハジメのアーティファクトに目が眩むのは分かるのだがなぜそこで脅しに入るのかが分からない。暴力をちらつかせるのではなく恩を売るようにすれば、怖い思いをせずに済んだのに。

 

「……全くですな。私も耄碌したものだ。欲に目がくらんで竜の尻を蹴り飛ばすとは……」

 

“竜の尻を蹴り飛ばす”とは、この世界の諺で、竜とは竜人族を指す。

 

 彼等はその全身を覆うウロコで鉄壁の防御力を誇るが、目や口内を除けば唯一尻穴の付近にウロコがなく弱点となっている。防御力の高さ故に、眠りが深く、一度眠ると余程のことがない限り起きないのだが、弱点の尻を刺激されると一発で目を覚まし烈火の如く怒り狂うという。昔、何を思ったのか、それを実行して叩き潰された阿呆がいたとか。そこからちなんで、手を出さなければ無害な相手にわざわざ手を出して返り討ちに合う愚か者という意味で伝わるようになったという。

 

 ちなみに、竜人族は、五百年以上前に滅びたとされている。理由は定かではないが、彼等が“竜化”という固有魔法を使えたことが魔物と人の境界線を曖昧にし、差別的排除を受けたとか、半端者として神により淘汰されたとか、色々な説がある。

 

 その後、モットーは立ち上がり普通にハジメと会話をし別れた。中々豪胆な人物で、商売たくましいのだろう先ほどコウスケの殺気におびえていたはずが自分の商会を贔屓にしてほしいと宣伝し普通に別れていった。

 

「…殺す気だったの?」

 

「いんや。これっぽっちも」

 

「はぁー」

 

 

 

 

 中立商業都市フューレン

 

 高さ二十メートル、長さ二百キロメートルの外壁で囲まれた大陸一の商業都市だ。あらゆる業種が、この都市で日々しのぎを削り合っており、夢を叶え成功を収める者もいれば、あっさり無一文となって悄然と出て行く者も多くいる。観光で訪れる者や取引に訪れる者など出入りの激しさでも大陸一と言えるだろう。

 

 その巨大さからフューレンは四つのエリアに分かれている。この都市における様々な手続関係の施設が集まっている中央区、娯楽施設が集まった観光区、武器防具はもちろん家具類などを生産、直販している職人区、あらゆる業種の店が並ぶ商業区がそれだ。東西南北にそれぞれ中央区に続くメインストリートがあり、中心部に近いほど信用のある店が多いというのが常識らしい。メインストリートからも中央区からも遠い場所は、かなりアコギでブラックな商売、言い換えれば闇市的な店が多い。その分、時々とんでもない掘り出し物が出たりするので、冒険者や傭兵のような荒事に慣れている者達が、よく出入りしているようだ。

 

 そんな大都市フューレンの説明をカフェでこの街専用の案内人の女性から聞くハジメ達。おすすめの宿を聞き他の区の説明を聞いているのだ。

 

「そういうわけなので、一先ず宿をお取りになりたいのでしたら観光区へ行くことをオススメしますわ。中央区にも宿はありますが、やはり中央区で働く方々の仮眠場所という傾向が強いので、サービスは観光区のそれとは比べ物になりませんから」

 

「へえ~なるほど、どこにでも行ける中央が一番良いっていう訳じゃないんだ。知らなかったら中央で宿を取りそうだったよ」

 

「そうだね。なら素直に観光区の宿に泊まろうか。おススメはどこかな?」

 

「お客様のご要望次第ですわ。様々な種類の宿が数多くございますから」

 

「ふむ。みんな何か要望はある?」

 

 ハジメとしては責任の所在が明確な…つまるところ面倒どころがないところに泊まりたかった。自分の要望はひとまず置いといてほかの3人を見回す。

 

「ん~俺としては飯がうまくて夜は静かなところがいいな。寝ているときにも喧騒が聞こえると眠れなさそうだし」

 

「…私は大きなお風呂に入りたい」

 

「なら私は夜景がきれいなところがいいですぅ」

 

 思い思いの注文に案内人の女性は「うんうん」とき早速、脳内でオススメの宿をリストアップしたようだ。次にハジメの方に視線を向け要望はないかと問いかけてくる。しかし、ハジメの言葉で「ん?」と首を傾げた。

 

「そうだね、僕の方は責任の所在が明確な場所がいいな」

 

「あの~、責任の所在ですか?」

 

「うん。そうそう面倒ごとには巻き込まれないと思うけど連れがとても目立つからね。観光区なんてハメ外すヤツも多そうだし、商人根性逞しいヤツなんか強行に出ないとも限らないからね。あくまで“出来れば”で。難しければ考慮しなくていいよ」

 

 ハジメの言葉に、すぐの理解を示す案内人。先ほどから軽食を美味しそうに食べているユエとシアに視線をやる。確かに、この美少女二人は目立つ。現に今も、周囲の視線をかなり集めている。特に、シアの方は兎人族だ。他人の奴隷に手を出すのは犯罪だが、しつこい交渉を持ちかける商人やハメを外して暴走する輩がいないとは言えない。

 おまけに先ほどからワクワクを抑えきれないという様子で聞いているコウスケも見目が良く、説明の一つ一つに嬉しそうに笑う顔は愛嬌があり気付いているのかいないのか先ほどから女性からの視線を独り占めにしている。ハジメの説明に「この少年は苦労しているんだなぁ」と思いつつも“出来れば”でいいと言うハジメに、案内人根性と人の良さが疼いたようだ、やる気に満ちた表情で「お任せ下さい」と了承する。

 

「そういえばこの街闘技場があるんだったっけ?見たい!」

 

「あー確か楽しみにしていたって言ってたね。時間があるなら一緒に見に行く?」

 

「お!?良いのか?ヤッター!…あ、でもきっと俺達より弱い奴しかいないんだろうなぁー味気ないなー」

 

「そこはまぁ仕方ないってことで」

 

「闘技場制覇したらなんかもらえるかな?ほらRPGでもよくあるじゃん。隠しアイテムとか、称号とか…」

 

「無いんじゃないかな」

 

「そうなのかー」

 

 それから、雑談を交えながらも他の区について話を聞いていると粘つくような視線と共に歩くブタの様な人間がやってきた。あからさまな面倒ごとの気配にげんなりするハジメ達。

 

 ブタ男は、ハジメ達のテーブルのすぐ傍までやって来ると、ニヤついた目でユエとシアをジロジロと見やり、シアの首輪を見て不快そうに目を細めた。そして、今まで一度も目を向けなかったハジメに、さも今気がついたような素振りを見せると、これまた随分と傲慢な態度で一方的な要求をした。

 

「お、おい、ガキ。ひゃ、百万ルタやる。この兎を、わ、渡せ。それとそっちの金髪はわ、私の妾にしてやる。い、一緒に来い」

 

「あ?ブタはブタ小屋に行け。…全く太った男ならハート様に会いたかったな」

 

「何でハート様?あんなのどこが良いの?」

 

「性格」

 

「あ、ユエさん持ち帰りのデザート何にしますか?」

 

「んーおススメは何?」

 

 ブタ男がドモリ気味のきぃきぃ声でそう告げるがハジメたちは全く相手にしない。むしろ見ないようにしたようだ。その事に腹を立てたブタ男は喚きながらブタ男はユエに触れようとする。その瞬間、その場に凄絶な威圧が降り注いだ。周囲のテーブルにいた者達ですら顔を青ざめさせて椅子からひっくり返り、後退りしながら必死にハジメから距離をとり始めた。

 

 ならば、直接その殺気を受けたブタ男はというと……「ひぃ!?」と情けない悲鳴を上げると尻餅をつき、後退ることも出来ずにその場で股間を濡らし始めた。

 

「コウスケ、ユエ、シア、行こう。場所を変えよう」

 

 ハジメはユエとシアに声をかけて席を立つ。本当は、即射殺したかったのだが、流石に声を掛けただけで殺されたとあっては、ハジメの方が加害者だ。殺人犯を放置するほど都市の警備は甘くないだろう。基本的に、正当防衛という言い訳が通りそうにない限り、都市内においては半殺し程度を限度にしようとハジメは考えていた。

 

 席を立つハジメ達に、案内人の女性が「えっ? えっ?」と混乱気味に目を瞬かせた。彼女がハジメの殺気の効果範囲にいても平気そうなのは、単純に“威圧”の対象外にしたからだ。鍛錬のたまものだ。彼女からすれば、ブタ男が勝手なことを言い出したと思ったら、いきなり尻餅をついて股間を漏らし始めたのだから混乱するのは当然だろう。

 

 ちなみに、周囲にまで“威圧”の効果が出ているのはわざとである。周囲の連中もそれなりに鬱陶しい視線を向けていたので、序でに理解させておいたのだ。“手を出すなよ?”と。周囲の男連中の青ざめた表情から判断するに、これ以上ないほど伝わったようだ。

 

 だが、“威圧”を解きギルドを出ようとした直後、大男がハジメ達の進路を塞ぐような位置取りに移動し仁王立ちした。ブタ男とは違う意味で百キロはありそうな巨体である。全身筋肉の塊で腰に長剣を差しており、歴戦の戦士といった風貌だ。どうやらこの巨漢はブタ男の雇われ護衛らしい。周囲がハジメたちの前に立つ巨漢を見て騒ぎ始める。

 

「お、おい、あの男って“黒”のレガニドか?」

「“暴風”のレガニド!? 何で、あんなヤツの護衛なんて……」

「金払いじゃないか?“金好き”のレガニドだろ?」

 

 

「……2つ名か…いいなぁ俺もなんかかっこいいのつけてもらえないかな」

 

 周囲の声を聴き思わずコウスケの口から巨漢への羨望の声が漏れる。やはりファンタジー世界に来たからには2つ名には憧れるものがある。たとえ中二だとか邪気眼とか言われようとも憧れるものがコウスケにはあったのだ。そのつぶやきを聞いていたのか目の前の巨漢を気にすることもなくハジメたち3人が勝手に話し始める。

 

「コウスケさんの2つ名ですか…“うさ耳好き”?」

 

「ん、それはハジメ。…“ヘタレ”?」

 

「僕は別にうさ耳好きじゃ…えーっと、『ヒー』…」

 

「ヒー?」

 

「…なんか恥ずかしいから今の無し!うん“守護者”でどうかな?」

 

「ん、なんか…かっこいいからダメ。“実は照れ屋”で」

 

「かっこいいの駄目なの!?えっと“快男児”で」

 

「なんか違う気がしますねぇ…“物凄い奥手”」

 

「おーい、本人の目の前で何を話し取るんですかー…え?なにこれ野外羞恥プレイ?流石の俺もそこまではちょっと気が進まないかな」

 

「「「やっぱり変態?」」」

 

「だから本人を目の前にして何をおっしゃっているのかな君たちは…」

 

仲間の忌憚のない意見に遠い目になるコウスケ。取りあえず現在進行形で相手にされていない巨漢をさっさと半殺しにしようとすると女性陣2人から制止の声がかかった。

 

「ん、コウスケの2つ名は取りあえず保留。これは私たちが片づける」

 

「そうですね。私達が守られるだけのお姫様じゃないことを周知させましょうか。取りあえず股間を潰しておけば良いでしょうかね」

 

「ん、後はみせしめとして血祭りにする」

 

 そんな物騒なことを話しながら守られているだけのお姫様扱いは嫌とユエとシアは巨漢と対峙する。その姿を一歩下がりながら見守るハジメとコウスケ。ハジメは全くもって心配していないがコウスケは何やら悩んでいる。

 

「どうしたのコウスケ。ユエ達なら問題ないと思うけど?」

 

「そりゃそうだけどさ、やっぱりユエとシアもある程度の体術を学んだ方が良いかなって」

 

「そうかな?2人とも魔力操作ができるから必要なさそうだけど」

 

「でもこの世界何でもありだし、『変な薬で魔力操作ができない!』になって薄い本案件になったら嫌だしなーうん後で簡単な護身術でも教えよう」

 

「エロゲーとエロ本の見すぎだよ…コウスケ」

 

 そんな馬鹿な話をしている間に巨漢の護衛は瞬く間にシアとユエによってぼこぼこにされた。無論股間はぐちゃぐちゃになっている。

そんな惨状を眺めながらコウスケがハジメに愚痴を言う。

 

「なあ南雲、前から思っていたんだけどさ、なんで俺たちにかまう奴らは実力の差が分からないのかなーいくらユエとシアに見惚れていても、「隣にいる男たちはヤバイ」とか思うじゃん、普通。」

 

「実力差に気付くほど強くないからだよ大体気付いていたなら、喧嘩を売るようなことしてこないし」

 

「あー“お前に足りないのは危機感だ”って奴かー…凄い面倒だな」

 

(本当はハジメに絡んでくることが今後の展開につながるわけで…あー俺tueeと敵yoeeはあんまり好きじゃないんだけどなー)

 

 そんな事を話しながらブタ男に制裁を加えるハジメとコウスケ。何もしないでおいて“喉元過ぎれば熱さを忘れる”をされては困るのだ。

殺さないように痛みつけていたら、ギルド職員に事情聴取を協力してほしいと要請された。被害者、加害者両方から調書を取りたいとの事だった。

 ハジメがあまりの面倒ごとに職員に対してクレームを出しているのでコウスケが職員に助け舟を出すことにした。

 

「なんで僕たちがあんな奴らのせいで足止めをされる訳?僕たちの連れ奪おうとして、それを断ったら逆上して襲ってきたから返り討ちにしただけなのに?周りの奴らも見ていたんだ。僕たちが被害者でアイツらが加害者ってわかりきっているのに…めんどくさい…いっそ都市外に拉致って殺そうそうしよう」

 

「やめろ南雲、職員にクレームを言うんじゃない。そんな事ぐらいギルド職員もわかっているんだって。だから…クレームを言うのは…」

 

「…コウスケ?」

 

「クレームを言わないでくれよ…そりゃあミスをしたこっちが悪いのは分かっているよ」

 

「コウスケ?どこを見て言ってるの?」

 

「怒鳴らないでくれよ…嫌なんだ電話に出るの…いつもいつもクレームの電話かとびくびくして怖いんだ…どこのどいつだよ…お客様は神様ですなんて言うのふざけんなよ…」

 

「その…なんかごめん」

 

 何か良くないスイッチを入れてしまったのか遠い目でブツブツ言い始めるコウスケ。場がカオスになり始めたとき、幹部の男が出てきたのでハジメはブルック支部の受付のおばちゃんに出発前に渡された手紙を渡した。手紙を読んだ男はギルドの応接間へついてくるよう言いハジメは素直に従うことにした。…コウスケはユエとシアに慰められている真っ最中である。

 

「えーっと…コウスケさんファイトですぅ!何の話かは分かりませんがきっとコウスケさんのせいじゃありませんよ!」

 

「…コウスケが壊れた」

 

「…これ僕が悪いのかな…」

 

 応接間に案内されてから十分後、フューレン支部支部長イルワ・チャングがやってきた。話し合いの結果、身分証明はされた。用が終わった以上長居は無用とするハジメ達だったがイルワは、ハジメ達に依頼を頼んだのだ。断るハジメだが、聞いてくれるなら今回の件は不問とすると言うのだ。

考え込むハジメ、今後のことを考え結果話を聞くことにした。

 

「聞いてくれるようだね。ありがとう…ところで向こうの彼はどうしたんだい。その…酷く落ち込んでいるように見えるのだが…」

 

「気にするな、嫌なことを思い出して錯乱しているだけだ」

 

「うぅううクレームだけは嫌だー」

 

「そ、そうか…さて、今回の依頼内容だが、そこに書いてある通り、行方不明者の捜索だ。北の山脈地帯の調査依頼を受けた冒険者一行が予定を過ぎても戻ってこなかったため、冒険者の一人の実家が捜索願を出した、というものだ」

 

要約すると北の山脈地帯の調査に出かけた冒険者パーティーに本来のメンバー以外の人物がいささか強引に入り込みその後冒険者パーティーは消息が不明となったらしい。

 

この飛び入りが、クデタ伯爵家の三男ウィル・クデタという人物らしい。クデタ伯爵は、家出同然に冒険者になると飛び出していった息子の動向を密かに追っていたそうなのだが、今回の調査依頼に出た後、息子に付けていた連絡員も消息が不明となり、これはただ事ではないと慌てて捜索願を出したそうだ。

 

この伯爵家とイルワは個人的な友人でイルワは懇願するようにハジメ達に依頼を申し込む。ここらへんでやっとでコウスケが戻ってきた。目を袖でこすり会話に参加する。

 

「ふーむ、報酬はどのぐらいできます?」

 

「依頼書の金額はもちろんだが、私からも色をつけよう。ギルドランクの昇格もする」

 

「ランクはどうでもいいんですけどね……」

 

 

「なら、今後、ギルド関連で揉め事が起きたときは私が直接、君達の後ろ盾になるというのはどうかな? フューレンのギルド支部長の後ろ盾だ、ギルド内でも相当の影響力はあると自負しているよ? 君達は揉め事とは仲が良さそうだからね。悪くない報酬ではないかな?」

 

「大盤振る舞いだな。友人の息子相手にしては入れ込み過ぎじゃないか?」

 

「彼に……ウィルにあの依頼を勧めたのは私なんだ。調査依頼を引き受けたパーティーにも私が話を通した。異変の調査といっても、確かな実力のあるパーティーが一緒なら問題ないと思った。実害もまだ出ていなかったしね。ウィルは、貴族は肌に合わないと、昔から冒険者に憧れていてね……資質は中々あったので近くまでの同行ならと判断したのがまずかった…昔から私には懐いてくれていて……だから私は判断を誤ってしまったのだ…」

 

ハジメはイルワの独白を聞きながら、僅かに思案する。ハジメが思っていた以上に、イルワとウィルの繋がりは濃いらしい。すまし顔で話していたが、イルワの内心はまさに藁にもすがる思いなのだろう。生存の可能性は、時間が経てば経つほどゼロに近づいていく。無茶な報酬を提案したのも、イルワが相当焦っている証拠なのだろう。

 

 ハジメとしても、町に寄り付く度に、ユエとシアの身分証明について言い訳するのは、いい加減うんざりしてきたところであるし、この先、お偉いさんに対する伝手があるのは、町の施設利用という点で便利だ。

なにせ、聖教教会や王国に迎合する気がゼロである以上、いつ、異端のそしりを受けるかわからない。その場合、町では極めて過ごしにくくなるだろう。個人的な繋がりで、その辺をクリア出来るなら嬉しいことだ。

 

 なので、大都市のギルド支部長が後ろ盾になってくれるというなら、この際、自分達の事情を教えて口止めしつつ、不都合が生じたときに利用させてもらおうとハジメは考えた。ウィル某とは、随分懇意にしていたようだから、仮に生きて連れて帰れば、そうそう不義理な事もできないだろう。

 

「そこまで言うなら考えなくもないが……二つ条件がある」

「条件?」

「ああ、そんなに難しいことじゃない。ユエとシアにステータスプレートを作って欲しい。そして、そこに表記された内容について他言無用を確約すること、更に、ギルド関連に関わらず、アンタの持つコネクションの全てを使って、僕達の要望に応え便宜を図ること。この二つだな」

 

「それはあまりに……」

 

「出来ないなら、この話はなしだ。もう行かせてもらう」

 

 ハジメの言葉にイルワはすぐさま頭を回転させ、一つの結論を出した

 

「犯罪に加担するような倫理にもとる行為・要望には絶対に応えられない。君達が要望を伝える度に詳細を聞かせてもらい、私自身が判断する。だが、できる限り君達の味方になることは約束しよう……これ以上は譲歩できない。どうかな」

 

「まぁ、そんなところだろうな……それでいい。あと報酬は依頼が達成されてからでいい。そいつ自身か遺品あたりでも持って帰ればいいだろう?」

 

 ハジメとしては、ユエとシアのステータスプレートを手に入れるのが一番の目的だ。この世界では何かと提示を求められるステータスプレートは持っていない方が不自然であり、この先、町による度に言い訳するのは面倒なことこの上ない。

 

 問題は、最初にステータスプレートを作成した者に騒がれないようにするにはどうすればいいかという事だったのだが、イルワの存在がその問題を解決した。ただ、条件として口約束をしても、やはり密告の疑いはある。いずれ、ハジメ達の特異性はばれるだろうが、積極的に手を回されるのは好ましくない。なので、ハジメは、ステータスプレートの作成を依頼完了後にした。どんな形であれ、心を苛む出来事に答えをもたらしたハジメを、イルワも悪いようにはしないだろうという打算だ。

 

 イルワもハジメの意図は察しているのだろう。苦笑いしながら、それでも捜索依頼の引き受け手が見つかったことに安堵しているようだ。

 

「本当に、君達の秘密が気になってきたが……それは、依頼達成後の楽しみにしておこう。ハジメ君の言う通り、どんな形であれ、ウィル達の痕跡を見つけてもらいたい……ハジメ君、ユエ君、シア君コウスケ君……宜しく頼む」

 

 イルワは最後に真剣な眼差しでハジメ達を見つめた後、ゆっくり頭を下げた。大都市のギルド支部長が一冒険者に頭を下げる。そうそう出来ることではない。それだけウィルが大事なのだろう。

 

 そんなイルワの様子を見て、ハジメ達は立ち上がると気負いなく実に軽い調子で答えた。

 

「あいよ」

「……ん」

「はいっ」

 

「任せてください」

 

 コウスケはイルワの顔を見ながら安心しろと言外に込めながら返事をした。意味が伝わったのか安堵した様子のイルワ。その後、支度金や北の山脈地帯の麓にある湖畔の町への紹介状、件の冒険者達が引き受けた調査依頼の資料を受け取り、ハジメ達は部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 広大な平原のど真ん中に、北へ向けて真っ直ぐに伸びる街道がある。街道と言っても、何度も踏みしめられることで自然と雑草が禿げて道となっただけのものだ。この世界の馬車にはサスペンションなどというものはないので、きっとこの道を通る馬車の乗員は、目的地に着いた途端、自らの尻を慰めることになるのだろう。

 

 そんな、整備されていない道を有り得ない速度で爆走する影がある。黒塗りの車体に二つの車輪だけで凸凹の道を苦もせず突き進むそれの上には、四人の人影があった。

 

 ハジメ、コウスケ、ユエ、シアだ。かつてライセン大峡谷の谷底で走らせた時とは比べものにならないほどの速度で街道を疾走している。時速八十キロは出ているだろう。魔力を阻害するものがないので、魔力駆動二輪も本来のスペックを十全に発揮している。

 

 今回の座席順は、運転しているのがコウスケ、その後ろにシア、サイドカーにはハジメが乗っておりその膝の上にユエがしがみつくように乗っている。

 天気は快晴で暖かな日差しが降り注ぎ、ユエの魔法で風圧も調整されているので絶好のツーリング日和と言える。実際、ユエもシアも、ポカポカの日差しと心地よい風を全身に感じて、実に気持ちよさそうに目を細めていた。

 

 

「ヒャッハー!コレだよコレ!この風を切って走るこの感覚!あ~気持ちイイー!」

 

「はぅ~、気持ちいいですぅ~、ハジメさんの背中もいいけどコウスケさんの背中もまた格別ですぅ~ユエさんもどうですかぁ~」

 

「…今はハジメの腕の中が良い」

 

「ほほーん南雲君!中々モテますなーヒューヒュー」

 

バイクの運転ができコウスケのテンションは爆上がりだ。その背中で気持ちよさそうに目を細めるシア。対照的にユエはハジメの背中に手を回ししっかりとしがみついている。サイドカーにある程度の余裕があるとはいえ若干窮屈さを感じるハジメ。

 

「…ユエ、なんでこっちに来たの?」

 

「…ん、コウスケの運転は不安」

 

「あ~確かに…」

 

ユエとしては、コウスケの運転に不満はないのだが今のテンションを見ていると少し不安になるのだ。…最もハジメの腕の中に入りたくなったというのもありハジメに見えないように若干にやけているが…

 

 

「まぁ、このペースなら後一日ってところかな。ノンストップで行くし、コウスケの好きなようにさせよう」

 

 ハジメの言葉通り、ハジメ達は、ウィル一行が引き受けた調査依頼の範囲である北の山脈地帯に一番近い町まで後一日ほどの場所まで来ていた。このまま休憩を挟まず一気に進み、おそらく日が沈む頃に到着するだろうから、町で一泊して明朝から捜索を始めるつもりだ。急ぐ理由はもちろん、時間が経てば経つほど、ウィル一行の生存率が下がっていくからだ。しかし、いつになく他人のためなのに積極的なハジメに、ユエが、上目遣いで疑問顔をする。

 

「……積極的?」

「まぁ、生きているに越したことはないからね。その方が、感じる恩はでかい。これから先、国やら教会やらとの面倒事は嫌ってくらい待ってそうだからね。盾は多いほうがいいだろう? いちいちまともに相手なんかしたくないし」

 

「……なるほど」

 

「流石南雲だ。そんな細かいことまで考えてなかった」

 

 実際、イルワという盾が、どの程度機能するかはわからないし、どちらかといえば役に立たない可能性の方が大きいが保険は多いほうがいい。まして、ほんの少しの労力で獲得できるなら、その労力は惜しむべきではないだろう。

 

「面倒ごとを避けたいだけだよ…それよりコウスケ!これから行く街は湖畔の町で水源が豊かで近郊は大陸一の稲作地帯だって!」

 

「稲作?…おいマジかよ!それって…」

 

「そう米だよ米!僕たちの日本人のソウルフード!」

 

 普段からは考えられないようなテンションでハジメが騒ぐ。召喚されてからずっと食べたかったものが食べられるかもしれないのだ。いつになく嬉しそうに喜ぶハジメにユエとシアの顔もほころぶ。

 

「…ハジメたちの故郷の食べ物?」

 

「どんな食べ物ですか?」

 

「米っていうのはね。僕たちの故郷で毎日食べていたものなんだ。この世界に来てからは食べることができなくって…ああ!あの白米をお腹いっぱい食べたい!暖かいお茶とみそ汁があればもっと最高なんだけどね!」

 

 興奮しているのかはハジメは大声で叫ぶ。その顔にはこらえきれない楽しみと高揚感がありとても幸せそうだ。しかしそこでふと、違和感を覚えるハジメ。いつもならここで会話に入り込んでくるコウスケがずっと前を見つめたまま微動だにしない。

 何故か嫌な予感がするハジメ。ユエも気づいたのかハジメを握る腕の力が強くなる。

 

「ええっと…コウスケさん?」

 

 コウスケの背中にしがみついているシアが恐る恐る話しかける。さっきから密着しているコウスケの背中が震えているような気がするのだ。

 

「……カレー」

 

「え?」

 

「カレー、牛丼、チャーハン牛丼焼き飯!カツ丼に天丼中華丼!お茶漬けに納豆ご飯、卵かけごはんもありか!あああこの際おにぎりでも構わねえ!」

 

 コウスケが叫び出した瞬間、魔力駆動二輪がいきなりスピードを上げる。慌ててサイドカーにつかまるハジメとそのハジメにこれでもかと引っ付くユエ。シアに至っては一瞬体が浮きかけた。

 

「うわ!ちょっとコウスケ!いきなりスピードを上げないでよ!」

 

「んーーーーー!!!」

 

「はわわわわわ!絶好のお昼寝時間がいきなり地獄の真っただ中に!?」

 

「ウッヒョーーーーーーー!!行くぞ南雲!あのピリオドの向こうへ!」

 

 待望の米料理が食べれると思い爆走を始めるコウスケ。ずっと召喚されてから食べたかったのだ。最初の数日間は異世界料理って美味しいなとは思っていたのだが、やはり毎日食べていた米が食べられないことは中々の苦痛だった。

 

(それにこの世界だったら渋滞も車両事故も法律もないからな!)

 

 コウスケが運転する魔力駆動二輪は広大な平原を走っており見渡しもいい。対面から走る車もなければ前をトロトロ走る遅い車もない。止まらなければいけない赤信号もなければ赤いランプを光らせる警察車両もない。故にコウスケはいつになく心からくる興奮をそのままに爆走をした。気のせいか魔力駆動二輪からならないはずの爆音が聞こえる。

 

「コウスケ!道!目的地から外れているってば!」

 

「ふはははは!!俺を止めたければ赤信号と警察でも持ってくるがよい!ユエ!シア!しっかりつかまれ!この黒王号は前しか見ておらぬ!!」

 

「んん!!」

 

「えーいこうなったらコウスケさん全力で行くんですぅ!あの風の向こう側へ!」

 

「このバイクの名前はそんな名前じゃない!阿呆な事を言っていないでスピードを落とせコウスケ!焚き付けるなシア!あとユエは嬉しそうに笑っていないでコウスケを止めるのを手伝って!」

 

 楽しそうに笑いながら運転するコウスケに腹を決めたのかなぜか焚き付けるシア。ユエに至ってはさっきから嬉しそうに笑ってばっかりだ。ハジメはさっきからコウスケを止めようとしている。

 

 4人はぎゃーぎゃーと騒ぎながらもウルの町へと進んでいくのだった。

 

 

 

 

 

「全速前進DA☆」

 

 

「うるせぇ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




取りあえず出だしはこんな感じです。方言が入ってないか心配ですー
誤字脱字報告いつもありがとうございます。

さて次の話はどうなる事やら…
所でヒロインってなんなんでしょうね?自分が好きな作品は「主人公を救い、導き、救われ、そして共に歩む」と書いてありますが…そんな人をうまく書けるか心配になります。

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