3月は大変仕事が忙しく投稿するのがかなり遅くなります。
おまけに第3章は展開はすぐに思いついても文章にするのがかなり大変な章なので投稿がもっと遅れるかもしれません。申し訳ないです
久しぶりすぎて最後の方は文法や会話内容が変だったりするかもです。なんとなーくで察してくれればいいのですが…
「で?何か言う事は?」
「…俺は悪くねぇー」
「……あ?」
「ひぃ!ごめんなさい!マジすんませんでした!」
目的地であるウルの町の高級宿『水妖精の宿』の一室で謝りながら土下座をするコウスケにハジメは深い溜息をつく。原因はコウスケの運転だった。最初は順調だったのだが、ウルの町の特産品である、米の話をしたら急に暴走をし始めたのだ。
そのままノンストップで直進し盛大に道を間違え、何とかハジメがナビゲートをし、ようやくウルの町について宿にチェックインできたのだ。
「はぁーーーーー」
「うぅ…すまねぇついつい運転が楽しくなって…」
申し訳なさそうに謝るコウスケをちらりと見るハジメ。本当は全く持って怒ってはいない。むしろあそこまで自分の作ったバイクを楽しそうに運転するコウスケを微笑ましく思っていた。この頃ふと目を離すと何やら難しい顔をして考え込んでいる姿を見かけているので
いい気分転換にはなったようだ。
(でも調子に乗るのは厳禁だよ)
だからと言って甘やかすのもどうかと思い少しばかり灸をすえたのだ。効果はてきめんで叱られた子供のようにしょんぼりするコウスケ。
一体何歳児だよとか、だからユエにからかわれるんだよとかそんな事と思いつつ苦笑する。結局のところハジメはコウスケにとても甘い
「全くもー次からはちゃんと気をつけてね」
「はい。以後気を付けます」
「よろしい。ならさっさとレストランに行こう。久しぶりの米料理を堪能しようか」
「わーい」
さっきまでしょんぼりしていたコウスケが嬉しそうに返事をする。やれやれと思いつつ別の部屋で休んでいたユエとシアに合流し一介のレストランへ向かうハジメ達。この高級宿 “水妖精の宿”は、一階部分がレストランになっており、ウルの町の名物である米料理が数多く揃えられている。内装は、落ち着きがあって、目立ちはしないが細部までこだわりが見て取れる装飾の施された重厚なテーブルやバーカウンターがある。
また、天井には派手すぎないシャンデリアがあり、落ち着いた空気に花を添えていた。“老舗”そんな言葉が自然と湧き上がる、歴史を感じさせる宿だった。
「しっかしよくこんな高級宿に泊まろうと思ったな南雲。お金の方は大丈夫なのか?」
「お金の方は問題ないよ。なんだかんだで結構の貯えがあるからね。それに折角の観光用の街なんだ。明日は大変だろうしある程度奮発して明日に備えようと思うんだ」
「…お前に金を預けてよかったよ。俺だったら簡単に使いこんじまうからな」
ハジメとコウスケがそんな話をしている後ろでユエとシアは店内の雰囲気を楽しんでいる。
「ほぇー綺麗な所ですねーブルックの町の宿もよかったですけど、ここは別格と言うか…凄いですぅ」
「…分かる…でもシア、キョロキョロしないで…変にみられる」
「そういわれても、故郷にはなかったものですしついつい見てしまいますぅ」
「分かるぞシア。田舎から都会に出るとついあたりを見回しちまうんだよな。俺にも何回か経験がある」
「へぇコウスケにもそんな事があったんだ」
「まぁな。そんな俺のことは置いといて、米料理だぞ。何を頼もうかなーお前らは何にする」
コウスケの言葉に自分の食べたいものを思い浮かべるハジメ。やはりここは一番人気のメニューが鉄板ではないだろうか。
「僕は…そうだね、ニルシッシルっていうカレーモドキを食べてみたいかな。ここの看板メニューらしいよ?」
「ふーむ南雲はカレーか、ユエとシアは?」
「んーおススメがよくわかりませんからハジメさんたちが決めてくれるとうれしいですぅ」
「ん、私もそれでいい」
「俺はいろんな味を楽しみたいんだが…そうなってくると一緒なのを選んだ方がハズレなしで良いのかな?どうする南雲。責任重大だな」
「やれやれ…じゃあここは皆違うものを頼んでシェアをするってのはどうかな?これならいろんな味を楽しめるし好みに合うのも見つかるかもしれない」
「おお!そりゃいいな!ナイスアイディアだ南雲!」
コウスケの言う通り我ながら良いアイディアかなと内心ハジメが自画自賛したところでそれは起きた。
シャァァァ!!
ハジメの真横にある仕切りのためのカーテンがいきなり開いたのだ。いきなりのことにギョッと驚く4人。
「南雲君!天之河君!」
「ん?」
「?」
いきなり自分の名前を呼ばれたハジメ。そして気がついた。自分の名前を呼んだ人間を。ハジメの目の前にいたのは百五十センチ程の低身長に童顔、ボブカットの髪でこちらを大きく目を見開き見つめるその人物は
「…先生?」
ハジメ達と一緒にトータスに召喚されたただ一人の大人。畑中愛子だった。
(やべぇ…ど、どないしよ!)
畑中愛子とハジメが思わぬ再会をしている中でコウスケはひたすら混乱していた。実は、フューレンを出るまではこの再会が起こることをしっかりと覚えていたのだが、道中で魔力駆動二輪を思いっきり切り動かすことの気持ちよさと待ちに待った待望の米料理を食べれるという事ですっかり忘れていてしまったのだ。おかげで先ほどまでの楽し気な気持ちは一気に吹っ飛んでしまった。
「何があったんですか? こんなところで何をしているんですか? 何故、直ぐに皆のところへ戻らなかったんですか? 南雲君! 答えなさい!後さっきから何も答えない天之河君も一体どうしたんですか!ちゃんと先生の話を聞いているんですか!」
(怒った顔は中々プリチー、ハイエースで…じゃなくって!どうする!どうするよ俺!ここは確か素数を数えれば…2,4、6…偶数じゃねえかボケ!)
コウスケが慌てている間もハジメと愛子の話は進んでいく。打開策を考えるのだが混乱をして変なことを考える始めるコウスケ。そんな混乱真っただ中のコウスケとあまりにも突然の再会で困惑しているハジメを救ったのはユエだった。
ユエは、ツカツカとハジメとコウスケと愛子の傍に歩み寄ると、二人の腕を掴む愛子の手をそっと握った。
「……離れて、2人が困ってる」
「な、何ですか、あなたは? 今、先生は南雲君と天之河君に大事な話を……」
「……なら、少しは落ち着いて」
ユエの声で幾分か落ち着いたのだろう。彼女の言葉に自分が暴走気味だった事を自覚し頬を赤らめてハジメとコウスケからそっと距離をとり、遅まきながら背筋を正す愛子。
「すいません、取り乱しました。改めて、南雲君ですよね?」
静かな、しかし確信をもった声音で、真っ直ぐに視線を合わせる愛子にコウスケは目を合わせることができない。自分は天之河ではない、その気持ちがわずかながら出てきてしまう。しかし今は演技をしなければいけない。
「久しぶりですね、先生」
「………です」
「やっぱり、やっぱり南雲君と天之河君なんですね……生きていたんですね……」
溜息をつきながら肯定するハジメに合わせるコウスケ。死んだと思っていた教え子に再会できて涙目になる愛子に
「まぁ、色々あったけど、何とか生き残ってるよ」
「よかった。本当によかったです」
それ以上言葉が出ない様子の愛子を一瞥すると、ハジメは近くのテーブルに歩み寄りそのまま座席に付こうとする。それを見て、ユエとシアも困惑しながら後をついていこうとする。やはりハジメは原作と同じようにクラスメイトや先生に関心がないらしい。
(ここで先生を無視すると…後々面倒ごとになるよな)
もしここで自分もついて行ったら…原作通り騒動が起きる。そのせいで楽しみにしていた料理をおいしく食べることができなくなるのは非常に困る
料理を楽しむのは味はもちろんだが雰囲気も大切だとコウスケは考えている。ごたごたが起こった後の気まずい雰囲気でご飯を食べるのはゴメンだ。
(はぁぁぁぁーーー仕方ねぇここは俺が一丁即席でアドリブをかますか!鍛え上げた洗脳魔法と俺の演技力をもってすればこいつらなんてチョロイもんよ!)
必死で自分を鼓舞し愛子たちを騙すことにする。要はこれまでのことをうまくぼかして説明し納得させることができればできればいいのだ。まずはハジメに飯の邪魔をされないために愛子たちにこれまでのことをボカシながら説明することを念話で伝える
”こちらコウスケどうぞ”
”?コウスケ何やっているの?早く料理を注文しようよ。2人とも席についているよ”
”あーそれなんだが…飯を食っているときに邪魔されるとかなり腹立つだろ?だからこの合法ロリ先生にうまいこと説明をしようと思ってな。
”合法ロリって…まぁいいや。確かに畑中先生って諦めが悪くてかなりの行動力があるからね。説明するまでは付きまとうだろうしなぁ”
”だから邪魔される前にいろいろ説明しとこうと思う訳。取りあえず先に注文しておいてくれ、もちろん俺の分もな…という訳でここは俺に任せて先に食え!”
”…本当はそれを言いたかっただけなんじゃ…”
「えっと、天之河君?」
ハジメとの念話を切り上げ改めて畑中愛子を見つめる。ハジメ達が席に着きコウスケ一人だけが立っていることに困惑しているようだ。本当はしたくないのだが致し方ない。溜息を抑え込み出来るだけ柔らかい表情を浮かべる。
「あぁすみません、あの時の事…みんなとはぐれた後俺達が何をどうしていたかを説明をしようと思いますので…えーっと、どこか他のお客さんの迷惑が掛からないような場所はありませんか?」
「天之河君が?…それなら私たちの席ならほかのお客さんたちの目も届かないですし…って南雲君はどうするんですか!席に座ってしまいましたよ!」
「まあまあ、そこら辺もちゃんと説明しますから…さぁ行きましょう」
ウガ―と叫びそうな愛子をなだめながらVIP席へ移動するコウスケ。そのあとに続く生徒達はチラリとこちらに興味のない様子のハジメを見て複雑そうな表情を浮かべるのだった
「さてと、何から説明をしましょうか」
VIP席に着き、関係者たちの顔を見ながら話すコウスケ。内心の緊張を悟られないように注意しつつ、『奈落に落ち性格が変わった天之河光輝』を演じることにする。正直な話、中身は別人だと気付かれるとは思えない。
せいぜいが性格が激変したと思われるだろう。しかし、自分のうっかりな発言でボロを出す可能性はある。油断はできない。気付かれないように深呼吸を一つ
「それじゃあ…橋から落ちた後どうしていたんですか?皆からはとても助かる事の出来ない高さから落ちたとしか聞いていなくて…」
「あの後ですか…運よく助かって南雲と協力して死に物狂いで頑張ってあの地獄から脱出しましたよ」
微笑みを絶やさずに話す。その表情に何を思ったか男子生徒の一人は興奮したように話し始める
「やっぱりそうだと思ったよ!天之河がそう簡単に死ぬはずないって!」
「…死ぬはずがない、か…実際は何度も死にかけたんだけどね。まさか、自分の内臓をじかに触れることができるなんて思いもしなかったよ。知ってる?思ったよりも暖かくてさ、ぬるっとしているんだ。」
遠い目で爪熊に襲われていた時のことを思いだすコウスケ。傷口を抑えていたはずがまさか自分の内臓を腹から飛び出ないようにしていたとは
思いもしなかった。コウスケの実感のある言葉に驚いたのかまたは想像以上の体験をしていたことに驚いたのか話しかけてきた男子生徒やほかの人たちも黙り込んでしまった。
「?みんなどうしたんだ。そんなに驚くようなこと言ったかな?」
心底不思議そうな顔をする『天之河光輝』に愛子は、ただただ驚くしかなかった。いったい自分の知らないところで何があったのか、召喚される前とは雰囲気が違う天之河光輝に困惑するばかりだ
「…天之河君…いったい本当に何があったんですか?…何か人が変わったように感じます…」
「あははは…言ったじゃないですか、死に物狂いだって…何度も死にかけました。左腕はぐちゃぐちゃの滅茶苦茶になったり、わき腹を食いちぎられたり、…そんなところを南雲と一緒に必死で生き延びました」
「そんな…そんなことがあったなんて…」
困ったような笑顔で話すコウスケに愛子は口を押え愕然とする。自分たちが絶望に打ちのめされていたとはいえ平穏に生きている間に自分の生徒である2人は壮絶な状況だったのだ。目に涙を貯め、何もできなかった自分に腹を立てながら誠心誠意コウスケに謝罪をする。
「ごめんなさい天之河君…2人がそんな状況だったのに先生は何もしてあげられなくて…」
「…先生が謝る事じゃありませんよ、なんだかんだで俺も南雲も生き延びることができたんですから…あぁそうだ、南雲のことですけどあの地獄の様な環境のせいなのか、性格が少し変わってしまいまして…皆のことに興味を失っていますので…その、失礼な態度をとっても悪く思わないでください。…ほんと五体満足で生きているだけでも奇跡的な所を生き延びたんですから」
ハジメの態度に余計な不信感を持たれないように念のため忠告を出すコウスケ。まるでハジメが危険人物の様な言い方になってしまうが、自分たちにかかわらないようにするためあえて危険という事にする。
「…なぁ天之河…説明している所悪いんだけど…あの女の子達はいったい?…」
さっきとは別の男子生徒がちらちらとユエとシアの方を見ながらコウスケに聞いてきた。聞きにくいことであるだろうに度胸があるというか好奇心旺盛だというか…それともシアとユエの美貌がすさまじいのか…
「あの2人は、まぁ色々あって俺たちの旅についてきてくれているんだ。あー間違っても手を出そうとは考えないでくれよ?俺はお前らを嫌いになりたくはないしな」
ちょっぴり威圧をして宣告する。男子生徒達ががっくりとしているのを尻目に今度は女子生徒が疑問を投げつけてきた。
「天之河君、事情は分かったけど…それなら何で戻ってこなかったの?皆心配していたの。特に白崎さんや八重樫さん、坂上君が…」
「それは…」
遂にこの質問かとコウスケは考えを巡らせる。正直に奈落に落ちてから生き残ることに必死で君たちのことを忘れていました。とは言えない。だからと言って、解放者の迷宮に行けば帰れる方法が分かるとも言えない。数秒の間にコウスケはある作戦を思いついた。
(よし!全部魔人族のせいにしよう!そうしよう!)
「皆さん…これから言う事は絶対に漏らさないようにお願いします…」
周りを伺うように声を潜めるコウスケ。周りは自然と顔を寄せ合い始めた。
その事に苦笑いがでそうなコウスケ。今から言う事はすべてアドリブだ。本当のことを言いつつも嘘をさらりと混ぜるようにする。動揺は見せない。堂々と言い切るのだ。
「実は…あの迷宮から脱出するときに、この戦争に勝つ重要なことが分かったんです」
「そ、そうなのか!」
畑中愛子に同行していた豊穣の女神の護衛騎士隊筆頭のデビットが驚愕の表情を浮かべる。こんな嘘やでたらめを信じる頭の緩い人だったかと
首をかしげそうになるが、勇者である天之河光輝の言葉なら信じやすいのだろうと考え付く。念のため、精神魔法を使い、”説得”をしやすくする
「声を抑えてください…迷宮から出るとき、魔人族の秘密が…この戦争を終結させ、世界を救う方法が分かったんです。俺と南雲はそのために皆に合流せず旅に出たんです」
「そうなのですか!?それはいったい!?」
護衛騎士副隊長チェイスでさえも顔を乗り出し聞いてくる。「お前は冷静なキャラじゃなかったんかい」と心の中で突っ込みつつ騎士団、クラスメイト一人一人の目を見て話す。コウスケが思うに精神魔法は相手の目を見ながら使うと効果が出やすい。そのために全員の顔を見回したのだがそこで気付いた。
「………」
(…誰だ?あのローブの奴)
騎士団に紛れ込む様にローブを羽織った小柄な人物がこちらを注視していることに気付く。フードを目深にかぶり表情はうかがい知れないが悪意や敵意は感じられない。むしろこちらの話を聞こうと耳を傍立てているような気配さえ感じる。
「…天之河君?」
見るからに怪しいフードの人物に疑問を抱くも今は嘘を交えた説明をする方が先決だ。今コウスケの話を聞こうとしているこの瞬間が一番精神魔法を掛けやすいのだ構わず続きをいう事にする。
「それは…言えません」
「何故!?」
「そのことを話すと…聞いてしまった皆の命が危ないからなんです。…俺は死にかけたときやっとで気付いたんだ。俺は召喚されたときなんて馬鹿なことを言ったんだろうかと。みんなが手を貸してくれれば勝てると…世界を人を救うことができると思ったんだ。でも違った。あの死ぬかもしれないという寒気と恐怖、自分の命が零れ落ちていくという感覚、死にかけたことで本当に…やっとで気付いたんだ。戦争というものが何なのか、命を奪うという事、殺されるという事、…皆が背負うものではないという事を…先生!」
「は、はい!」
「召喚されたあの時、俺はバカでした。誰かの力になれると思って舞い上がってしまって…それなのに先生の言葉を…俺たちを気遣ってくれたことを蔑ろにしてすみませんでした!」
(ふむ…自分で言っててなんだが結構それっぽく言えてないか?助演男優賞はいただきやな!)
その言葉とともにガバリと頭を下げるコウスケ。自分の言葉に矛盾やおかしいところがあるかもしれないが勢いとノリでうやむやにすることにした。内心は結構調子に乗っている。
「天之河君…そこまで皆のことを思ってくれていたなんて…でも、その秘密は先生には言えませんか?」
「それは…言えません…何があっても」
「しかし、魔人族の秘密が分かれば人間族の有利にもなるが…」
デビットは難しい顔をしている。しかし愛子専用の護衛騎士の筆頭である彼だからこそ対策は簡単だ
「確かにいえば、多くの命が救われるかもしれません…しかし、言ってしまえば皆の…先生の命が危なくなるんです!あなたならどうしますか!?、大切な人の命が危なくなるようなことをしてまで話そうと思いますか!」
「それは無理だ」
「「「「隊長!?」」」」
「お前たち、愛子に傷つくようなことがあってみろ。そのようなことを起こさないのが我々じゃあないのか」
「「「なるほど…」」」
愛子にすべてをかける護衛騎士に呆れながらも話を終わらせようとするコウスケ。そろそろ閉めに入らなければ楽しみにしている米料理が食べれなくなる。このまま勢いとノリですべてを突破する。
「だから、俺はあなたたちのもとに戻ることはできません…これは、俺のわがままだとわかっている、けど俺は選んだんだ、皆を傷つけさせたくないって。そのためにも、みんなごめん、戦うことは俺が何とかする。もうみんなが武器を手に取って命の奪いあいをする必要なんてないんだ…だからこれでさよならだ…」
「天之河君…」
背をむきハジメたちのもとへ向かうコウスケ。その背中に声がかかるも歩みを止める気配はない。愛子とクラスメイト、護衛騎士たちはその何も言わず世界の命運を背負おうとする背中を見つめることしかできなかった。
「………」
ただ独りフード人物を除いて…
「ふぃーこんなもんかな」
深く息を吐きながら首をコキコキ鳴らすコウスケ。やはり嘘をつくのはいささか罪悪感が沸く。先ほどまで内心調子に乗っていたことをきれいさっぱり忘れハジメたちの席へ向かうと
そこにはお腹いっぱいなのかとても幸せそうなハジメ達と綺麗になっている皿があった。幸せそうなハジメ達を見て頬が緩むも自分の席にあるはずの料理の皿が綺麗なことに固まるコウスケ。
「…ん、お帰り」
「ただいま、…なぁ俺の米は?飯は?どこいったの?ねぇ?」
「…ハジメが食べた」
「南雲…お前…俺が楽しみにしていたものを…」
「ち、違うよ!ユエもシアも食べてなくなったんだ!」
「あ、ハジメさん自分も食べていたのに私たちを売りましたね!ひどいですぅ!」
「し、仕方ないじゃないか!久しぶりのごはんだったんだし…それにシアだって豪快に食べていたじゃないか!」
「…シアはがっつり食べた」
「そういうユエさんも幸せそうに食べていたじゃないですか!」
「…私は少しだけ食べた…あとは全部ハジメとシアが食べた。私は悪くない」
「…俺頑張っていたのに…グスッ…お腹空いたなぁ」
そこから誰が食べたかとギャーギャー騒ぐ仲間たちに一人涙が出るコウスケだった。
コウスケはその後お仕置きとして、、シアはうさ耳を思う存分モフモフして、ユエには頬っぺたをビヨーンと引っ張りハジメには、『黒の双銃士』、『錬成兵器』など中2病的なあだ名をつけ散々いじり倒し鬱憤を晴らした。
そのあとの深夜、コウスケはトイレに行ったついでに折角の高級宿なので少し散策をし一階の中庭が目に入ったので気分転換に中庭にあった高級そうなベンチに座ることにした。息をつきぼんやりと月を見る
「ふー」
月は綺麗な光を放っている。その光を浴びるようにベンチでグーッと体を伸ばす。今頃ハジメは畑中愛子の部屋に行ってるのだろうか。傍から見たら完全に夜這いだろうなと思い自然とほほが緩む。親友の行動に笑っているとふと人に気配を感じ振り向いた。
そこには、先ほど愛子たちと一緒にいたフードの人物がコウスケに歩み寄ってきた。警戒はするも敵意や悪意は感じられず少し戸惑うコウスケ。
「……天之河さん、少しお話をしてもよろしいでしょうか」
「…それは構いませんが…」
声からして若い女性で警戒心が一段階上がるコウスケ。しかし相手はコウスケの返事に気を良くしたようで、隣に座り込んできた。天之河と呼んだ時点で、王宮にいた人物かと考察するも相手はそんなコウスケに気付いた様子はなく月を眺めている
「月が綺麗ですね」
「えぇ…死んでもいいわ」
「え?」
「あ…何でもないですよ。えっとそれよりいったい話とは何でしょうか」
相手の話をついノリで返してしまったコウスケ。ここにいるのがハジメだったら突っ込んでくれているのにと内心愚痴るフードの人物はそんな頓珍漢な返答をしたコウスケに気を悪くした様子もなく真剣みを帯びた声で話し始める。
「実は…先ほどの話なんですが…この世界を救う秘密と言う物を教えてもらうことはできませんか?」
「……何故」
「もしその秘密が本当なら人々の犠牲を最小限にできると思ったんです。それに…」
言い澱むフードの人物に悩むコウスケ。声からして悪意はなく必死さがうかがえる。どうやら先ほどの嘘と本当を織り交ぜた話を信じてくれているようだ。しかし原作にはいなかったはずのこの人物が何者かは分からないのがコウスケを悩ませる。
「それに?」
「…貴方達召喚された人たちの犠牲が出ないようにって思ったのです。天之河さんと南雲さんが死んだと聞いたときにもうこれ以上自分たちの都合で死なせたくないと…」
「……そうでしたか」
どうやらこのフードの人物はかなり人が良いらしい。王宮では召喚された神の使徒は戦うのが当然と考えている人たちが多い中で心配などをしてくれている人たちは少なかったのだ。責任を感じているらしい発言に少しばかり好感を持つコウスケ。
「分かりました。秘密を教えてもいいでしょう」
「本当ですか!?」
「でもその前にあなたはいったい誰なんですか?」
「あ」
どうやらフードの人物は素で自分が顔を隠していたことに気付いていなかったようだ。少しばかり気恥ずかしそうな声を出し、キョロキョロと辺りを見ます。そうして人影がないことを確認するとゆっくりとフードを外す、
まずあらわになったのは美しく煌く金色の髪の毛だった。次に意志が強そうなエメラルドの様な輝きを放つ碧眼。そしてかなり整った美貌があらわになる。コウスケは一瞬時を忘れるほどその顔立ちが非常に整った少女を見つめていた。
「ふぅ、立場上顔を隠さなければいけないというのは大変ですね。…それよりお久しぶりです天之河さん」
コウスケを見てにこやかにほほ笑む少女。しかしコウスケはハッと正気に戻るとたった一言呟き少女は驚愕するのだった。
「…誰?」
「え!?」
取りあえずこんな感じで
さて次が大変そう…簡単に略すかも?難しいと感じたら好き勝手書きます。
きっと第3章まで見てくれた人なら許してくれるはず(チラッ)