どうしても原作のようにうまくいきませーん
チクショー!うまくなりたいですぅ!
もっと他の場面で頑張るようにします
その竜の体長は七メートル程。漆黒の鱗に全身を覆われ、長い前足には五本の鋭い爪がある。背中からは大きな翼が生えており、薄らと輝いて見えることから魔力で纏われているようだ。
空中で翼をはためかせる度に、翼の大きさからは考えられない程の風が渦巻く。だが、何より印象的なのは、夜闇に浮かぶ月の如き黄金の瞳だろう。爬虫類らしく縦に割れた瞳孔は、剣呑に細められていながら、なお美しさを感じさせる光を放っている。
その圧倒的な威圧感に蛇に睨まれた蛙のごとく、愛子達は硬直してしまっている。特に、ウィルは真っ青な顔でガタガタと震えて今にも崩れ落ちそうだ。脳裏に、襲われた時の事がフラッシュバックしているのだろう。
その黒竜は、ウィルの姿を確認するとギロリとその鋭い視線を向けた。そして、硬直する人間達を前に、おもむろに頭部を持ち上げ仰け反ると、鋭い牙の並ぶ顎門をガパッと開けてそこに魔力を集束しだした。
キュゥワァアアア!!
「ッ! 退避しろ!」
不思議な音色が夕焼けに染まり始めた山間に響き渡る。その音にハジメは危機感を覚えすぐに一足飛びで退避し、ユエとシアも続く。だがそのハジメの警告に反応できないものが多数、救出対象のウィルとハジメ達についてきた愛子たちだ。コウスケはそんな彼女たちに前に進み出た。
彼女たちは驚きの余り逃げることができない。なら盾である自分が守り切ればいい。幸いにも全員が突然のことに硬直しひとまとめになっているので守るのはたやすい。
「下手に動かないでそこでじっとしていて」
「え…コウスケさん?」
驚いたようなリリアーナが呟くも言葉は返さず腕を前に出し守護を展開する。今まで数々の攻撃を防いできたのだ。だから、この程度の攻撃など問題ない
”南雲、先生たちは俺がどうにかする。ブレスが終わった後は頼んだぞ”
”コウスケ!正気!?”
”俺がやらなかったらこの人たち消し炭になるだろ?…なんだ南雲もしかして俺がたかだか龍のブレスに負けると思ってんじゃないだろうな?”
不敵な笑みを浮かべるコウスケ。守護がさらに青く輝く光の壁が愛子たちを守るように覆っていく。その直後に竜からレーザーの如き黒色のブレスが一直線に放たれた。音すら置き去りにして一瞬でコウスケの”守護”に直撃する
「ぬぅ!うぉおおおお!!」
気合の雄たけびをあげ踏ん張るコウスケ。予想以上のブレスの威力に一瞬驚くが負けじと”守護”の硬度をあげるよう魔力を注ぎ込む。その魔力に応えるように”守護”はさらに光を放ち始める。
「おおおおお!!舐めるなぁ!こっちはディフェンスに定評のあるコウスケさんだぞ!!」
(ははっ!全く盾役っていうのも大変だなこりゃ!)
吠えるように気勢をあげ内心では悪態をつきながらも黒龍のブレスを防ぐコウスケ。光の壁は壊れる気配はないがじりじりとコウスケが後退していく。ブレスの威力に押し出されつつあるのだ。地面には、コウスケの踏ん張る足で抉られた跡がある。
(クッソ!断続的な攻撃にも耐えるような訓練をしておけばよかったな!)
今までの訓練では瞬間的な攻撃を防ぐようなものばかりだったので、自分の修行不足に思わず悪態をつく。とその時不意に背中に柔らかな感触が伝わった。チラリと肩越しに振り返れば、何と、愛子ががコウスケの背中に飛びついて必死に支えているのだどうやらコウスケがブレスを抑え込んでいる間に正気に戻り支えになろうと飛び込んできたらしい。それを見て、愛子や生徒達やウィルもコウスケを支えるため慌てて飛び出してきた。
その行動に合わせるかのように耳に心地よい声がコウスケに聞こえてきた。
「ここは聖域なりて 神敵を通さず! “聖絶”!」
「…へ?」
毅然とした詠唱と共に輝く障壁がドーム状となってコウスケの達全員を包み込んだ。そのおかげか押し出されていくのが止まる。いきなりのことで気の抜けるような声を出した。コウスケが肩越しに後ろを振り向くと、そこには冷や汗を流しながらも魔法を維持しているリリアーナの姿があった。
「コウスケさんだけにっ…無理を…させる訳には…」
轟音にかき消されながらも聞こえたのは、コウスケを助力しようとする声だった。その声に心遣いにコウスケのテンションが上がっていく。
「はっ!ははは!あっはははははははは!!オイオイ皆頑張っているんだったら、俺も踏ん張らないとなぁ!!!」
豪快に笑いながらブレスを抑え込むコウスケ、そこに待望の赤黒い光が黒龍に直撃する。ハジメのシュラ―ゲンだ。コウスケにとっては長い時間だったがどうやらあまり時間は過ぎていないようである。ブレスをやめ攻撃してきたものを探す黒龍に今度はユエの重力魔法が炸裂する。
「グルァアア!!」
もがき咆哮をあげる黒龍を確認したコウスケは、”守護”を解き後ろにいた者たちに声をあげる。
「よし!南雲達が相手をしている間に退避をするぞ!」
しかし……生徒達が怒涛の展開にようやく我を取り戻したのか魔法の詠唱を始めた。加勢しようというのだろう。早々に発動した炎弾や風刃は弧を描いて黒竜に殺到する。
「ゴォアアア!!」
体制を整えた黒竜の咆哮による衝撃だけであっさり吹き散らされてしまった。しかも、その咆哮の凄まじさと黄金の瞳に睨まれて、ウィル同様に「ひっ」と悲鳴を漏らして後退りし、女子生徒達に至っては尻餅までついている。
「おい!なにヘイト稼いでんだよ!自分たちの実力差ぐらい把握してくれよ!」
混乱している生徒たちがまさか実力差が分からず応戦するとは思わず舌打ちをするコウスケ。しかしそれも仕方ないかとすぐに頭を切り替える。ただでさえ実戦の経験が少ないうえに圧倒的な威圧感を放つ敵が現れたのだ。パニックになった人間が予想もつかないことをするのは仕方のないことだった。
案の定ウィルに向かって先ほどからハジメ達に攻撃されているのにもかかわらず火炎弾を撃ち放つ黒龍。
「ああもう!本当に仕方ねえな!」
”誘光”を使い火炎弾を自分の方に飛来させ”守護”を使いかき消す。その後すぐにリリアーナと愛子にこの場から離れるように声を張り上げる。愛子は逡巡するもリリアーナはすぐに生徒たちに声をかけ離れるように促す。自分たちはここにいてはコウスケたちの邪魔になるとすぐに理解したのだ。
その様子にやれやれと思いつつも戦えない者たちから離れさっきからウィルに向かって放たれる火炎弾を自分に引き寄せるコウスケ。その時ハジメから念話が届いた
”コウスケ忙しい所悪いけど頼んでもいいかい”
”なんじゃらほい?”
”この黒龍さっきからウィル・クデタを狙っているみたいなんだ。だからユエと一緒に守りを頼む。こいつは僕一人でも問題ない。教会や国に強硬策をとれないように先生に僕の実力を見せつけたいんだ”
”……確かにあの図体ならさほど問題なさそうだが…まったく…了解”
ハジメの願い通りウィルの前に移動するコウスケ。先に氷の城壁を作っていたユエと合流し”守護”を展開する。2重構造になった壁に安堵の息を吐く生徒達。取りあえずこれで問題ないかと息をつき先ほどから一人で戦っているハジメに注視する。
ハジメは空を”空力”で駆りながら銃撃で黒龍を追いつめている。黒龍の攻撃を鮮やかに回避し、わずかな隙を狙って反撃する。ある時は接近して蹴りをたたき込み、またある時は手榴弾を使い一気に叩き込む。黒龍の反撃の火炎弾を縫うように回避し縦横無尽に空を駆けるハジメは、いつしか残像すら背後に引き連れながら、ヒット&アウェイの要領で黒竜をフルボッコにしていく。
「…羨ましい…」
そのあまりにもかっこいい姿にコウスケは自分の戦意が高まっていくのを感じた。正直竜と戦うその姿はあまりにもかっこよく羨ましいのだ。いつしか無意識のうちに声が漏れていた。
「…コウスケ」
「ユエ?」
「ここは任せて」
どこか胸を張るようなユエ。ここの生徒たちは任せろとユエは言う。それはつまり、ハジメと一緒に黒龍と戦っておいでと言っているのだ。ユエはハジメが負けるとは微塵にも思っていない。だが隣に目を輝かせ参戦したさそうにしているコウスケが微笑ましくなったのだ。
「それは…嬉しいけど、もし何かあったら」
「コウスケさんここは私もいるから大丈夫ですよ」
いつの間にかシアが隣でコウスケの後押しをしている。実は最初の方でハジメと一緒に黒龍と戦っていたのだが黒龍に遠く吹き飛ばされていたのだ。幸いドリュッケンを盾にしたので傷もなかったのだが、慌てて戻ってき時ユエからハジメの意図を聞き一緒に護衛と観戦をするようだ。
「2人がいるのなら大丈夫か…うん。ありがとう2人とも」
2人に感謝をし風伯を構えさて突撃しようか足に力を入れたとき声がかけられる。
「コウスケさん…貴方が負けるとは思いませんけど、どうか、気を付けてください」
「…リリアーナさん。ははっ大丈夫ですよ。これでも結構鍛えていますから」
リリアーナはどこか心配するようにコウスケを見つめてくる。先ほど黒龍のブレスを防いで強さを見せたのに心配してくるとは変わっていると思いつつも誰かに見送られのはそれもそれでいいかと苦笑するコウスケ。リリアーナの不安を明るく吹き飛ばす様に返事をし、黒龍の方へ突撃する。その背中をリリアーナは静かに見つめていた
「ヒャッハーーー!」
奇声を上げながらハジメのいる上空に注意を向けていた黒龍の前足辺りを風伯を大きく振りかぶり切り付ける。コウスケのテンションが高いためか又は風伯に乗せている風の力が強力になったのか、黒龍の鱗ごと大きく切り裂かれていき、血が出てくる
「ゴォアアア!!」
(あ!やべぇ!!)
風伯の余りにも切れ味のよさにビビり一瞬硬直するコウスケ。流石に操られているとはいえ”彼女”に傷をつけるのはマズい。その隙を狙うかのように黒龍の爪が襲い掛かってくる。何とか動揺を振り払い、守護を出し爪を防ぐ。安堵した瞬間ハジメからの念話が届いてくる。
”ちょっと!なんで参戦するの!さっき僕一人で戦う説明したはずだよね!?”
「うるせぇ!お前ひとりだけモンスターハンター(リアル)を楽しんでいるんじゃねぇよ!」
「えぇー」
なにやら呆れたような声が聞こえたが結局の理由は龍と戦うハジメが羨ましくかっこいいからだったのだ。そのまま爪を防いでいると黒龍の背中にハジメのレールガンが容赦なく当たる。くぐもった唸り声を上げる黒龍に今度はコウスケが地卿を思いっきり振り上げ前足の先端つまるところ爪付近に地卿を振り下ろす。
「ハッハー!足の小指の先を殴られるのはどうだ!痛いだろう!」
「性格悪!」
コウスケの宣言通り痛みに呻く黒龍。その隙を逃さずハジメがドンナー・シュラークで爪、歯茎、眼、尻尾の付け根、尻という実に嫌らしい場所を中距離から銃撃する。切れた黒龍がハジメに火炎弾を放つが、不規則な軌道をしすべてコウスケの方へ向かっていく
「オイオイ!南雲ばっかり構ってないで俺にも構ってくれよ!」
コウスケの誘光が全ての火炎弾を引き寄せていく。すかさず守護でかき消しまた地卿を振り上げ黒龍へ突貫する。コウスケのあらん限りの力で振るわれる地卿はすさまじい音を立て黒龍の脚にダメージを与える。地卿の打撃力があるのだろうか黒龍の鱗は徐々にボロボロになっていく。
「クルゥ、グワッン!」
コウスケの遠慮のない打撃とハジメの隙をつくような銃撃に確実に黒竜の声に泣きが入り始めている。鱗のあちこちがひび割れ、口元からは大量の血が滴り落ちている。
「凄い……」
2人の戦闘を見ていたリリアーナが思わずと言った感じで呟く。言葉はなくても、他の生徒達や愛子も同意見のようで無言でコクコクと頷き、その圧倒的な戦闘から目を逸らせずにいた。ウィルに至っては、先程まで黒竜の偉容にガクブルしていたとは思えないほど目を輝かせて食い入るようにハジメとコウスケを見つめている
「この調子なら問題なさそうですぅ」
「…シア、念のためいつでも動けるようにして」
「?分かりました」
シアの胸を張るような言葉に少しばかり考えたユエはいつでも戦闘ができるようにシアに頼み込む。何故だか嫌な予感がしたのだ。
「グゥガァアアアア!!!」
「うぉおおお!!」
それは偶然か必然かユエがシアに頼み込んだ直後になんと黒龍によってコウスケは思いっきり吹き飛ばされてしまった。順調に打ちのめしていると気が緩んだ瞬間だった。“窮鼠猫を噛む”という諺があるように、黒龍の咆哮と共に凄絶な爆風と尻尾による体全体のあらん限りの力を持った強力な一撃で木をなぎ倒しながら吹き飛ばされていくコウスケ。
ドゴンッ!!
「ぐっ……ふぅーちっと油断しちまったか」
大きな巨木に当たりやっとで止まったコウスケ。すごい音がしたが、多少打撲痕があるだけで体は問題ない。つくづく異様に強くなったなと自分の身体に感心しているとハジメから焦ったような念話が届いた。
”コウスケ平気!?”
”平気だ!あーこういう時は流石コウスケさんだ。問題ないぜ!っていうべきか?”
”どうやらそんな阿保なことを言えるってことは平気みたいだね…全く心配させないでよ”
”はっはっは、メンゴメンゴ”
”はぁー…こっちはさっさと終わらせるから早く戻ってきてね”
”ウェーイ”
立ち上がり体のあちこちを見るがやはり問題はなさそうだ。なぎ倒されている木々を見ながら戻ろうかとするコウスケ。しかし、先ほどのハジメとの会話が何か引っかかったのだ。なんだろうと首をかしげてすぐに気づいた
(終わらせる…終わらせるってつまりとどめを刺すってことで…あ。ヤベェ!)
この次に起こる悲劇?に気付き急いで戦闘場所へ戻るコウスケ。しかしすべては手遅れだった。
“アッーーーーーなのじゃああああーーーーー!!!”
“お尻がぁ~、妾のお尻がぁ~”
倒れ伏す黒龍、その後ろでパイルバンカーを黒竜の“ピッー”に突き刺しているハジメ(顔は驚愕の表情を浮かべている)そんなハジメにジト目な視線を投げるユエとシア。顔を青ざめている非戦闘者たち。そして悲しげで、切なげで、それでいて何処か興奮したような声。
「はぁーーーーやりやがったなアイツ」
どこか遠くを眺めたくなるようなそんな光景にコウスケは深い溜息を吐くのだった。
取り合ずこんな感じです
感想お待ちしております