ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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ひっそり投稿!
ヒャッハーー!!とテンションをあげて文章を書くのが楽しいです。
でも時間が足りぬ!もっと休日がほしいです

勢いとノリで書き上げ投稿しているので後で少しばかり修正するかもです。


黒龍の正体

“ぬ、抜いてたもぉ~、お尻のそれ抜いてたもぉ~”

 

 北の山脈地帯の中腹、薙ぎ倒された木々と荒れ果てた川原に、何とも情けない声が響いていた。声質は女だ。直接声を出しているわけではなく、広域版の念話の様に響いている。竜の声帯と口内では人間の言葉など話せないから、空気の振動以外の方法で伝達しているのは間違いない。

 

「…コウスケ、もしかしてこいつは」

 

「ああ、きっとその考えで合ってるな…お前、竜人族か?」

 

 “む? いかにも。妾は誇り高き竜人族の一人じゃ。偉いんじゃぞ? 凄いんじゃぞ?だからの、いい加減お尻のそれ抜いて欲しいんじゃが……そろそろ魔力が切れそうなのじゃ。この状態で元に戻ったら……大変なことになるのじゃ……妾のお尻が”

 

 ハジメの驚いた声に確信を持ちながらコウスケが質問するとあっさりと黒龍は自分が竜人族だと認めたのだ。コウスケのそばではユエが好奇心に満ちた目で黒龍を見ている。ユエにとっても竜人族は伝説の生き物だ。自分と同じ絶滅したはずの種族の生き残りとなれば、興味を惹かれるのだろう

 

「その杭を抜いてほしいなら質問に答えてくれるか。じゃないとその杭をさらにぶち込む羽目になる…この南雲が」

 

「なんか嫌な役を僕に押し付けようとしていないコウスケ?」

 

「あのなぁ、あんな太くて凶悪で長い杭をぶち込んだのはお前なんだぞ。自分のやったことは自分で責任を持つんだ南雲」

 

”何でも構わんから早う質問してくれないかのぅ…じゃないと妾のお尻が…大変なことに~”

 

 なんとも珍妙なことになりながらもいくつか質問するハジメとコウスケ。結果わかったことは

 

1 竜人族の仲間が、数ヶ月前に大魔力の放出と異常な何かがこの世界にやって来たことを感知した。この黒龍はその事を調べるため単身調査に乗り出した。

 

2 休憩のため山の中腹で黒龍の状態で休んでいたら黒いローブを着た少年が一日かけて闇魔法を使い洗脳されてしまった。

 

3 黒ローブの少年に従わされ魔物の洗脳の手伝いをされていたところ山の調査に来ていたウィルたち冒険者を発見、洗脳のことを知られては不味いと判断した黒ローブに差し向けられた

 

4 気が付いたらフルボッコにされて尻に異物を挿入されていた

 

 という事らしい。とそこまで話していた黒龍に激情に身を任せた声が発せられた。ウィルだ。

 

「…ふざけるなよ。洗脳されていたからってあの人たちを殺したのは仕方ないとでも言うつもりか!」

 

拳を握りしめ、怒りをを宿した声で黒龍を睨みつける。どうやら、状況的に余裕が出来たせいか恩人の冒険者達を殺されたことへの怒りが湧き上がったらしい。激昂して黒竜へ怒声を上げる

 

 

“……”

 

 対する黒竜は、反論の一切をしなかった。ただ、静かな瞳でウィルの言葉の全てを受け止めるよう真っ直ぐ見つめている。その態度に少々落ち着きを取り戻しながらも絞り出す様に声を出す

 

「…分かっていますよ…恐らくあなたの言っていることが本当だってことは…それでも、あの人たちを殺したってことは変わりないじゃないですか…」

 

 親切にしてくれた先輩冒険者達の無念を思いだし悔しそうに顔をゆがめるウィルを見て、黒竜が懺悔するように、声音に罪悪感を含ませながら己の言葉を紡ぐ。

 

“操られていたとはいえ、妾が罪なき人々の尊き命を摘み取ってしまったのは事実。償えというなら、大人しく裁きを受けよう。だが、それには今しばらく猶予をくれまいか。せめて、あの危険な男を止めるまで。あの男は、魔物の大群を作ろうとしておる。竜人族は大陸の運命に干渉せぬと掟を立てたが、今回は妾の責任もある。放置はできんのじゃ……勝手は重々承知しておる。だが、どうかこの場は見逃してくれんか”

 

 

 黒竜の言葉を聞き、その場の全員が魔物の大群という言葉に驚愕を表にする。自然と全員の視線がハジメに集まる。このメンバーの中では、自然とリーダーとして見られているようだ。実際、黒竜に止めを刺そうとしたのはハジメなので、決断を委ねるのは自然な流れとなったのだろう。

 

 そのハジメの答えは、

 

「お前の都合なんて僕が知るわけないじゃないか。運が悪かったと諦めてくれ」

 

 そういって溜息を吐きながらさらにパイルバンカーの杭をねじ込もうとする。

 

“待つのじゃー! お、お主、今の話の流れで問答無用に止めを刺すとかないじゃろ! 頼む! 詫びなら必ずする! 事が終われば好きにしてくれて構わん! だから、今しばらくの猶予を! 後生じゃ!”

 

 ハジメは冷めた目で黒竜の言葉を無視し杭をねじ込もうとするだがそれはかなわなかった。ユエがハジメの腰にしがみついたのだ

 

「……殺しちゃうの?」

「え? いや、そりゃあ殺し合いしたわけだし……」

「……でも、敵じゃない。殺意も悪意も、一度も向けなかった。意志を奪われてた」

 

 どうやら、ユエ的には黒竜を死なせたくないらしい。ユエにとっては、竜人族というのは憧れの強いものらしく、一定の敬意も払っているようだ。

 

 そのままユエとハジメが話し続けるのを眺めていたコウスケは黒龍に近づいていく。ユエが説得をしている時点でこの黒龍を助けることは確定になる。そもそもコウスケはこの黒龍を殺す気はない。

 それならばさっさと助けた方が良い、とそこまで考えたときふいに視線を感じた。視線の正体はハジメだった。その目はどこか迷っているように見えた。やれやれと肩をすくめながら苦笑しハジメと2人その場にいる全員の死角へ歩き出す。

 

「どうした南雲」

 

「うん…正直迷っているんだ。アイツは僕たちを襲ってきた敵だ。でもユエは生かしてほしいって言ってる。…コウスケは?」

 

「…俺としては助けるべきだ。……操られていたからって敵とは言えないしな。それに何でもすると言ってるし」

 

「そうかな…敵は殺さないと…」

 

「やれやれ、いつからそんな物騒な考えを持つようになっちまったのかね?何でも殺していたらいつかお前は手遅れになっちまうぞ?」

 

「……」

 

「はぁー今は説教は無しだ。…なんかあっても俺がいる。だから、大丈夫だよ()()()

 

「…うん」

 

 ハジメの背中をバシバシと叩きケラケラと笑う。そんなコウスケにハジメは複雑そうな顔をしてそれでも数秒後にはいつもの顔になり黒龍に助けるという事を伝える。すると黒龍は嬉しそうに声をあげた

 

”それはよかった。このままだと妾、どっちにしろ死んでおったのじゃ”

 

「ん? どういうことだ?」

 

“竜化状態で受けた外的要因は、元に戻ったとき、そのまま肉体に反映されるのじゃ。想像してみるのじゃ。女の尻にその杭が刺さっている光景を……妾が生きていられると思うかの?”

 

 その場の全員が、黒竜のいう光景を想像してしまい「うわ~」と表情を引き攣らせた。特に女性陣はお尻を押さえて青ざめている。

 

“でじゃ、その竜化は魔力で維持しておるんじゃが、もう魔力が尽きる。あと一分ももたないのじゃだから済まぬ…早く抜いてたもぉ”

 

 その弱弱しい声音から本当に限界が近いようなので、コウスケが力を込めて杭を抜こうとするが深く刺さっているのかなかなか抜けない

 

「ぐっ!?これ抜けないな…おい南雲!お前どんだけ深く刺したんだよ!」

 

”あひんっあっぅう”

 

「あ~ごめん実はこれ…先端がドリル状になっているんだ」

 

”ひゃう…そんなに力強くしないでほしぃのじゃ”

 

「はぁ!?お、お前なんて恐ろしいもんをぶち込んだんだ!?」

 

「仕方ないじゃないか!パイルバンカーにドリルの組み合わせはロマンだってコウスケ言っていたでしょ!」

 

「確かに言っていたかもしれないが…だからと言ってこれは…」

 

”はあん!そんなにぐりぐりしないで~…もうだめ…変身が…解ける”

 

「わ!わわ!!待て、待ってくれ!流石に女の尻から杭の生えた死体なんて俺は見たくねえぞ!南雲手伝え!刺したお前が何でやらねえんだ!」

 

「だってさっきから変な喘ぎ声が聞こえるし…あんまりかかわりたくない」

 

「そうなった原因はお前だっての!ああもう!”快活”これで少しはもってくれるよな!」

 

”おお~なんか気持ちが落ち着くのじゃ~体力や魔力が回復する~あぁ~~癒されるぅ~”

 

「はぁーわかった手伝うよ…そらっ」

 

”はぁーん!さっきと違ってなんて遠慮のない力の入れ方じゃ…アメとムチ…これはこれで…”

 

「まだ半分しか抜けてねぇ…ドリルってここまで抜けない構造してたっけ?」

 

「…コウスケ、僕達のドリルは天元突破するんだ!」

 

ズドムッ!

 

”あひぃーーーー!そんなに突き刺さないでほしいのじゃ!気持ちよすぎて…意識が…”

 

「ば、馬鹿野郎!お前なんでまた突き刺してんだ!?え?ええ!?南雲、お前ア○ル趣味だったの!?」

 

「突き刺して思いっきり引き抜いたらスポって抜けるかなって…」

(…あとちょっとした八つ当たり)

 

「んなわけねぇだろうが!…尻の穴に挿入なんて2次元だけでやってくれよ…あれは2次元だから許されるんだろうが…俺はノーマルなんだぞ…」

 

何やかんやと騒ぎながら少しづつ杭を抜く2人。最後は2人で力を合わせ一気に引き抜く。

 

「ファイト―!」

 

「いっぱーーーつ!」

 

ズボッ!!

 

“あひぃいーーー!! す、すごいのじゃ……こんなに気持イイのは…生まれて初めて……”

 

 そんな訳のわからないことを呟く黒竜は、直後、その体を黒色の魔力で繭のように包み完全に体を覆うと、その大きさをスルスルと小さくしていく。そして、ちょうど人が一人入るくらいの大きさになると、一気に魔力が霧散した。

 

 黒き魔力が晴れたその場には、両足を揃えて崩れ落ち、片手で体を支えながら、もう片手でお尻を押さえて、うっとりと頬を染める黒髪金眼の美女がいた。

 腰まである長く艶やかなストレートの黒髪が薄らと紅く染まった頬に張り付き、ハァハァと荒い息を吐いて恍惚の表情を浮かべている。

 

 見た目は二十代前半くらいで、身長は百七十センチ近くあるだろう。見事なプロポーションを誇っており、息をする度に、乱れて肩口まで垂れ下がった衣服から覗く二つの双丘が激しく自己主張し、今にもこぼれ落ちそうになっている。シアがメロンなら、黒竜はスイカでry……

 

 黒竜の正体が、やたらと艶かしい美女だったことに特に男子が盛大に反応している。思春期真っ只中の男子生徒三人は、若干前屈みになってしまった。こまま行けば四つん這い状態になるかもしれない。女子生徒の彼等を見る目は既にゴキブリを見る目と大差がない。

 

「ハァハァ、うむぅ、助かったのじゃ……まだお尻に違和感があるが……それより全身あちこち痛いのじゃ……ハァハァ……痛みというものがここまで甘美なものとは……」

 

 何やら危ない表情で危ない発言をしている黒竜は、気を取り直して座り直し背筋をまっすぐに伸ばすと凛とした雰囲気で自己紹介を始めた。まだ、若干、ハァハァしているので色々台無しだったが……

 

「面倒をかけた。本当に、申し訳ない。妾の名はティオ・クラルス。最後の竜人族クラルス族の一人じゃ」

 

 ティオ・クラルスと名乗った黒竜は、次いで、黒ローブの男が、魔物を洗脳して大群を作り出し町を襲う気であると語った。その数は、既に三千から四千に届く程の数だという。何でも、二つ目の山脈の向こう側から、魔物の群れの主にのみ洗脳を施すことで、効率よく群れを配下に置いているのだとか。

 

 魔物を操ると言えば、そもそもハジメ達がこの世界に呼ばれる建前となった魔人族の新たな力が思い浮かぶ。それは愛子達も一緒だったのか、黒ローブの男の正体は魔人族なのではと推測したようだ。

 

 しかし、その推測は、ティオによってあっさり否定される。何でも黒ローブの男は、黒髪黒目の人間族で、まだ少年くらいの年齢だったというのだ。それに、黒竜たるティオを配下にして浮かれていたのか、仕切りに「これで俺は…やっとで…」等と口にし、随分と焦っているようだったという。

 

 黒髪黒目の人間族の少年で、闇系統魔法に天賦の才がある者。ここまでヒントが出れば、流石に脳裏にとある人物が浮かび上がる。愛子達は一様に「そんな、まさか……」と呟きながら困惑と疑惑が混ざった複雑な表情をした。限りなく黒に近いが、信じたくないと言ったところだろう。

 

 とそこでハジメが突然声をあげた。どうやらティオの話を聞いてから無人偵察機を出し魔物の群れを探していたらしい。そこで無人探査機の一機がとある場所に集合する魔物の大群を発見した。その数は…

 

「へぇ、これは三、四千ってレベルじゃないね。桁がもう一つ追加されるレベルだ」

 

 ハジメの報告に全員が目を見開く。しかも、どうやら既に進軍を開始しているようだ。方角は間違いなくウルの町がある方向。このまま行けば、半日もしない内に山を下り、一日あれば町に到達するだろう。

 

「は、早く町に知らせないと!」

 

「愛子さん落ち着いてください!まずは人を避難させて、それから王都から救援を呼んで……」

 

 事態の深刻さにリリアーナと愛子が必死に考えを巡らせ慌てている中ハジメたちは下山の準備をしていた。今は、慌ててもどうにもならないのだ。案の定、パニックになった生徒たちがハジメ達ならどうにかできるのではないかと騒ぎ始めたので一言

 

「何でもいいけどまずは町についてからでは?」

 

 とコウスケが威圧を振りつつ話しかけたら騒いでいた連中は何も言えなくなった。そこで比較的冷静なリリアーナが何にせよ町に戻ることを提案したので、下山することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒャッハハァァアアーーーーーー!!!!バイクもいいが!四輪駆動も中々乙って奴だな!!さぁ飛ばすぜ!!」

 

「ま、町に急いでと言ったのは私ですけどぉぉぉ!こんな速度で運転しないでくださいぃぃぃぃい!!!」

 

「あんだって!もっとスピードを出せってか!?ウッヒョウ!!流石先生さんだ!行くぜ行くぜ!」

 

「ちょっと先生!コウスケを焚き付けないでくださいよ!ああもうさらに速度が上がったじゃないですか!」

 

「そ、そんな事言ったって!!!ひゃぁぁあああ!!!」

 

「~~~♪」

 

「ユエさん…どうして貴女はそんなに平気…うぷっ」

 

「だ、駄目ですぅ!リリアーナさん吐かないでくださいですぅ!ここで吐いちゃったら女の子として大事なものがなくなりますぅ!!」

 

「…私はここで…死ぬのだろうか…父さん、母さん…先立つ不孝をお許しください…私はどうやら…ここまでです…ガクッ」

 

 魔力駆動四輪が、異常な速度で帰り道を爆走し、整地機能が追いつかないために、席に座っている人たちは飛び上がるような揺れを、天井に磔にしたティオには引切り無い衝撃を、荷台の生徒達はミキサーの如きグチャグチャになっていた。

 

 原因は言わずもがなコウスケである。さっさと下山した一行は、すぐにウルの町へ向かうため急いで四輪駆動に乗ったのだ。ここまではよかった。しかしいざ運転をハジメがしようとすると即座にコウスケが運転席に乗り込んでしまったのだ。

 そのままニヤけるコウスケに嫌な予感がするも、自分では止められないと判断、案の定全員が乗り込んで席に着いた人たちがシートベルトを着用したのを確認するといきなり全力で爆走したのだった。

 

「クッソーー!!ここで音楽が鳴っていれば完ぺきだったのに!南雲!なんかCDはないのか!」

 

「あるわけないでしょ!」

 

「だよな!仕方ねぇ!アカペラで歌おうかな!?」

 

「やめろ!」

 

「うぅ…南雲君。あ、天之河…君?…それとも…コウスケさん?なんかもうどうでもいいです…とにかく彼の運転を止めてくださいぃぃ…このままでは吐きそ…うぇ」

 

「んもぉー急いでって言ったのは先生さんじゃないですかぁー注文通りにしたのにぃー」

 

「…コウスケこのままだと車内がゲロまみれになりそうなんだけど」

 

「ふっふっふ大丈夫だって。私にいい考えがある!」

 

「はぁーーー」

 

溜息を吐きながらも揺れる車内を見回すハジメ。愛子は顔が青くなりリリアーナも同様だ。シアは吐きそうなリリアーナの背中をさすり天井にはりつけにされているティオは…あんまり見たくはない。救助者のウィルはどうやら気絶したようだ。……なぜかユエ一人だけがかなり楽しんでいるようで上機嫌で鼻歌を歌っている。荷台の方は…興味なし。汚れているようだったらあとで徹底的に掃除をさせるつもりだ。

 

 悲惨な状況になっている車内でハジメは一人深い溜息をついたのだった。

 

 




取りあえずにぎやかなコメディはここら辺までかもです
次はいよいよシリアスで真剣な話になるかも…おまけにストックが底を付きました。ヤバイ!

所で荒野を駆ける車というのはなんであんなにテンションが上がるのでしょうか?
北斗が如くのバギーを運転しているとテンションが上がって仕方ないのです。

いつも誤字脱字ありがとうございます

感想お待ちしています…本当に感想クレクレ厨になってしまった…ort

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