ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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今日最後の投下です。

悲しいお知らせです。遂にストックが底をつきてしまいました。
これから投稿が遅くなるかもしれません。できる限り早く投稿できるように頑張ります。


防衛戦準備

 

 ウルの町に帰還する途中で愛子親衛隊がいたが華麗にスルーし何やかんやで ウルの町に着く一行。すぐさまコウスケは車内の全員に快活を使った。そのおかげで今にも吐きそうだった人たちは急に体調がよくなったことにかなり複雑そうな顔をしていた。その事に胸を張りドヤ顔をするコウスケ。

 

 ハジメは愛子の注文通りにウルの町についたので愛子たちを下ろしてウィルをフューレンへ送ろうとしたが、ウィルがすぐに町長の居る所へ飛び出していったため仕方なく後を追いかけた。

 

 町の中は、活気に満ちている。料理が多彩で豊富、近くには湖もある町だ。自然と人も集う。まさか、一日後には、魔物の大群に蹂躙されるなどは夢にも思わないだろう。ハジメ達は、そんな町中を見ながら、そう言えば昨日から飯を喰っていなかったと、屋台の串焼きやら何やらに舌鼓を打ちながら町長のいる町の役場へと向かった。

 

「……コウスケ?入らないの?」

 

「ちょっとこういうお偉いさん方がいるところは苦手でな……頼んでもいいか?」

 

「はぁ……分かったよ。そこで待ってて」

 

 愛子達の後を追うようにハジメが役場へ入る中コウスケは入り口で待っていることにした。これから愛子がウルの町に来る魔物の大軍をハジメにどうにかしてほしいと頼むことを知っているからだ。

 

 その時自分がいたらややこしいことになるかもしれない。それなら関与しないようにするのが一番と判断した。ついでにティオとイレギュラー(本来居ない筈)であるリリアーナも入らないようにしておく。2人は訝し気な顔をしたがコウスケの話したいことがあるという声で留まってくれた。

 

「コウスケさん? いったい何を考えて……」

 

「ちょっとした悪だくみ……冗談です。王女であるリリアーナさんや便宜上勇者の俺が出てくるともっと面倒になりますからね。ここにいた方が面倒が無くなって良い」

 

「しかし、今はそんなことを言っている場合では……」

 

「大丈夫ですよ。なんだかんだで南雲はこの街を救うことになります」

 

「む? 随分と確信を持った言い方をするのぅ。あの様子では町を救う為に行動するとは思えないんじゃが」

 

 ハジメがさっさと依頼を終わらせるため町から抜けようとしていたのを知っているため疑惑の目を向けるティオと不思議そうな顔をするリリアーナ。そんな2人に苦笑するコウスケ。確かに今の説明では説得力がないだろう

 

「畑中さん……先生さんが南雲を説得してくれるはずなんですよ。その時ヘンにこじれないように俺達はここにいた方が良いってことです……それよりもだ、ティオ、さっき言った何でもするって言葉は本当?」

 

「む? うむ、このティオ・クラウス約束を違える気はないのじゃ」

 

 コウスケの言葉に面食らいながらも頷くティオ。それを見たコウスケは腰にあるバックパックに入っている試験型神水……コウスケがとっておいたものだ。まだ数本残ってある……をティオに渡した。不思議そうに受け取るティオにコウスケは説明する。

 

「ふむ? これは?」

 

「魔力と体力が回復する薬……ティオ。魔力が回復すればある程度は多数の魔物の相手をできるって話だよな?」

 

「うむ。確かに魔力が回復すれば問題はない……という事は……」

 

「ああ、こいつを使って南雲達と一緒に暴れてほしいんだ。」

 

「……? ではコウスケさんはどうするんですか?」

 

 首をかしげるリリアーナ。その言い方だとコウスケは参加しないと言っているようなものだ。

 

「俺か? ……悲しいけど能力的に多数を相手にするのは向いていないんだよなーそれにちょっと試したいこともあるし……何より俺達にはちゃんと役割っていうものがあるんだ」

 

 寂しげな表情を浮かべたがすぐに不敵な笑みを向けるコウスケ。と同時にハジメ達が役所の中から出てきた。

 

「お疲れ南雲。んでどうだった?」

 

「……先生に説得されてこの街を助けることになった。……コウスケもしかしてこうなることを予測していたの?」

 

「さてな。……悪かった。そんな感じがしていたんだ。だからそんなジト目で俺を見るなよ…まったくティオみたいに興奮したらどうするんだよ」

 

 くねくねしながら笑うコウスケに深く溜息を吐きながらウルの町を助ける算段を考えるハジメだった

 

 

 

 ウルの町。北に山脈地帯、西にウルディア湖を持つ資源豊富なこの町は、現在、つい昨夜までは存在しなかった“外壁”に囲まれて、異様な雰囲気に包まれていた。

 

 この“外壁”はハジメが即行で作ったものだ。魔力駆動二輪で、整地ではなく“外壁”を錬成しながら町の外周を走行して作成したのである。もっとも、壁の高さは、ハジメの錬成範囲が今現在は半径六メートル位で限界なので、思ったほど高くはない。大型の魔物なら、よじ登ることは可能だろう。一応、万一に備えてないよりはマシだろう程度の気持ちで作成したので問題はない。そもそも、壁に取り付かせるつもりなどハジメにはないのだから。

 

 

 町の住人達には、既に数万単位の魔物の大群が迫っている事が伝えられている。魔物の移動速度を考えると、夕方になる前くらいには先陣が到着するだろうと。当然、住人はパニックになった。町長を始めとする町の顔役たちに罵詈雑言を浴びせる者、泣いて崩れ落ちる者、隣にいる者と抱きしめ合う者、我先にと逃げ出そうとした者同士でぶつかり、罵り合って喧嘩を始める者。明日には、故郷が滅び、留まれば自分達の命も奪われると知って冷静でいられるものなどそうはいない。彼等の行動も仕方のないことだ。

 

 だが、そんな彼等に心を取り戻させた者がいた。愛子だ。漸く町に戻り、事情説明を受けた護衛騎士達を従えて、高台から声を張り上げる“豊穣の女神”。恐れるものなどないと言わんばかりの凛とした姿と、元から高かった知名度により、人々は一先ずの冷静さを取り戻した。畑山愛子、ある意味、勇者より勇者をしている。

 

 冷静さを取り戻した人々は、二つに分かれた。すなわち、故郷は捨てられない、場合によっては町と運命を共にするという居残り組と、当初の予定通り、救援が駆けつけるまで逃げ延びる避難組だ。居残り組の中でも女子供だけは避難させるというものも多くいる。愛子の魔物を撃退するという言葉を信じて、手伝えることは何かないだろうかと居残りを決意した男手と万一に備えて避難する妻子供などだ。深夜をとうに過ぎた時間にもかかわらず、町は煌々とした光に包まれ、いたる所で抱きしめ合い別れに涙する人々の姿が見られた。

 

 避難組は、夜が明ける前には荷物をまとめて町を出た。現在は、日も高く上がり、せっせと戦いの準備をしている者と仮眠をとっている者とに分かれている。居残り組の多くは、“豊穣の女神”一行が何とかしてくれると信じてはいるが、それでも、自分達の町は自分達で守るのだ! 出来ることをするのだ! という気概に満ちていた。

 

 

 現在コウスケはハジメと一緒に即席の城壁に腰かけぼんやりと空を眺めていた。傍らにはユエとシアも何も言わず静かに寄り添っている。

 

「なぁ南雲ー今回の防衛戦だけど俺参加できないからなー」

 

「……うん」

 

「……すまん。本当は一緒に暴れたいんだけどさ。どうしても多数を相手にするとお前たちの足を引っ張っちまう可能性があるからな……」

 

「気にしないでよ。……それより何か試したいことがあるんじゃないの?」

 

「……ばれてたかーまぁいいや、そこで俺の代わりにあの竜人族……ティオに参戦するように言っておいたからこき使ってくれ」

 

「一体いつの間に……まぁ戦力が増えるのはいいことか」

 

 そんなこんなで話しているうちに愛子と生徒達、リリアーナ、ティオ、ウィル、デビッド達数人の護衛騎士がやって来た。愛子は黒ローブの人物を殺さないで連れてきてほしいとハジメに頼み込む。その様子をぼんやりと見つめるコウスケにティオがこそこそと近づいてくる。

 

「ティオ? 何やってんの?」

 

「うむ。実はお主たちの旅に同行したいと思ってな……その、すまぬがハジメの許可を取るのに協力してほしいのじゃ……おそらく彼がこの一行のリーダーなのじゃろう?」

 

「ああそうだよ。……そっかついてくるんだな。これからよろしくティオ」

 

 コウスケが快く了承するのを満足気で頷き、愛子の話が終わったのを見計らって、今度は、ティオが前に進み出てハジメに声をかけた。

 

「ふむ。よいかな。妾もお主に頼みがあるのじゃが。聞いてもらえるかの?」

 

「……ティオか。何?」

 

 聞き覚えなのない声に、思わず肩越しに振り返ったハジメは、黒地にさりげなく金の刺繍が入っている着物に酷似した衣服を大きく着崩して、白く滑らかな肩と魅惑的な双丘の谷間、そして膝上まで捲れた裾から覗く脚線美を惜しげもなく晒した黒髪金眼の美女に、一瞬、訝しそうな目を向けて、「ああそういえば」と思い出したように名前を呼んだ。

 

「うむ。この戦いが終わったらウィル坊を送り届けて、また旅に出るのじゃろ?」

 

「ああ、そうだ」

 

「うむ、それで頼みというのは、妾も同行させてほしいのじゃ」

 

「……なんで?調査のために里を出てきたって言ってたよね?それはどうするんだ」

 

「その事についてなのじゃが、お主のそばにいた方が何かと効率がいいのじゃ。見たところやたらと騒動に巻き込まれているし、妾の女の勘が同行した方が良いと訴えるのじゃ」

 

「好きで騒動に巻き込まれているんじゃないんだけど…断る自分一人でやってくれ」

 

「何! むむむ……ならばただとは言わん! 妾のすべてを捧げよう! 身も心も全てじゃ! これならどうじゃ!」

 

「いらない。お前とはこの戦いが終わったらサヨナラだ」

 

「そんなバッサリと……仕方あるまい、コウスケ、援護を頼む!」

 

 ティオの言葉にハジメは親友を見る。まさかコウスケまで何を面倒なことを言うんだと若干とげのある言い方になる

 

「…コウスケ? 一体何を考えているの? 正気か?」

 

「南雲別にいいんじゃないか? ティオがそこら辺の魔物より強いのはこれから証明できるし役に立つと思うぞ」

 

「そういう問題じゃ…」

 

「よく言うだろ? 旅は道連れ世は情けってさ。多少のことは何とかなる。それに……竜人族ってなんかかっこいいじゃないか。龍なんてファンタジーの醍醐味だぞ!」

 

カラカラと笑うコウスケにハジメは言葉に詰まる。確かに龍という存在は胸が躍る。しかも仲間になるというのは魅力的かもしれない。がそれとして面倒ごとになりそうな予感がするのだ。

 

「俺のわがままだってのは分かるけどさ、連れて行こうよ。旅は楽しくなるぞ。確実に」

 

「……………………はぁ……分かったよ」

 

 

 長い沈黙の後息を吐き出すハジメ。薄々こうなる予感はしていたのだ。それにコウスケの頼み事は断れない自分がいる。仕方ないとばかりに苦笑しチラリとティオを見ると何やら顔を赤くしもじもじしていた。

 

「ティオ? 何やってんの?」

 

「ぬぬぬ……ハジメとコウスケがそろっているとあの強烈な快感を思い出して凄くお尻がムズムズするのじゃ……その悪いとは思うのじゃが思いっきり2人で妾をイジメてくれぬかのぉ」

 

「……は?」

 

「その、ほら、妾強いじゃろ?里でも、妾は一、二を争うくらいでな、特に耐久力は群を抜いておった。じゃから、他者に組み伏せられることも、痛みらしい痛みを感じることも、今の今までなかったのじゃそれがじゃ2人ににボコボコにされたじゃろ?おまけに尻に打ち込まれた杭をコウスケは優しくじっくりとハジメは荒々しく乱暴に……あの飴と鞭の使いように妾はぞっこんになったのじゃ!」

 

 一人盛り上がるティオだったが、彼女を竜人族と知らない騎士達は、一様に犯罪者でも見るかのような視線をハジメとコウスケに向けている。客観的に聞けば、完全に婦女暴行である。「こんな可憐なご婦人に暴行を働いたのか!」とざわつく騎士達。あからさまに糾弾しないのは、被害者たるティオの様子に悲痛さがないからだろう。むしろ、嬉しそうなので正義感の強い騎士達もどうしたものかと困惑している。

 

「……つまりハジメとコウスケのせいで新しい扉が開いちゃった?」

 

「その通りじゃ! さあ早く2人とも‼ その内に眠る暴力を妾に対して遠慮なく放つのじゃ!」

 

「はぁ……」

 

 ユエが、嫌なものを見たと表情を歪ませながら、既に尊敬の欠片もない声音で要約すると、ティオが同意の声を張り上げる。その嬉しそうな様子に若干引き始めるコウスケ。気のせいかティオは内股になりとろんとした目をハジメとコウスケに向けてくる。

 

「コウスケ出番だ。僕がピンチな時は助けてくれるって言ってたよね」

 

「それとこれとは話が違うぞ南雲! そもそもこれはお前のせいだろうが! 調子に乗ってティオの尻に杭をぶち込んだお前が絶対的に悪い!」

 

「こんなことになるなんて予測できるはずないじゃないか! 大体コウスケだって杭を抜くとき楽しそうにしていただろ!」

 

「それはお前だろうが! いきなり尻の穴の開発を始めたお前にこっちはただ慌てるしかなかったわ!」

 

「2人とも責任のなすりつけ合いをしていますけど、ティオさんを目覚めさせたのは間違いなくお2人のせいだと思いますぅ」

 

「……ハジメはむっつり。コウスケはスケベ」

 

 ティオの尻の開発という言葉に。騎士達が、「こいつらやっぱり唯の犯罪者だ!」という目を向けつつも、戦慄の表情を浮かべる。愛子達は事の真相を知っているにもかかわらず、責めるような目でハジメを睨んでいた。両隣のユエとシアですら、「あれはちょっと」という表情で視線を逸している。

 

「ふふふ…そんなに嫌がることはないのじゃ…ただ妾に対してねっとりと罵詈雑言を浴びせ苛烈に暴力をふるってくれればそれでいいのじゃ…」

 

「うわわわ、そんなとろんとした顔でこっちに来ないで!南雲助けてくれ!俺はどうすればいいのかさっぱりわからん!」

 

「だからって僕の後ろに隠れようとしないでよ!って、ちょっと押さないでコウスケ!こっちに来るなティオ!」

 

 ティオが縋り、コウスケが怯え、ハジメがけん制する。それに護衛隊の騎士達が憤り、女子生徒達が蛆虫を見る目を2人に向け、男子生徒は複雑ながら嫉妬し、愛子が不純異性交遊について滔滔と説教を始め、何故かウィルが尊敬の眼差しをハジメとコウスケに向け、リリアーナは凄く不満そうにコウスケを見るそんなカオスな状況が、大群が迫っているにもかかわらず繰り広げられ、ハジメがウンザリし始めたとき、遂にそれは来た。

 

「! ……来たか」

 

 ハジメが突然、北の山脈地帯の方角へ視線を向ける。眼を細めて遠くを見る素振りを見せた肉眼で捉えられる位置にはまだ来ていないが、ハジメの“魔眼”には無人偵察機からの映像がはっきりと見えていた。

 

 

 それは、大地を埋め尽くす魔物の群れだ。ブルタールのような人型の魔物の他に、体長三、四メートルはありそうな黒い狼型の魔物、足が六本生えているトカゲ型の魔物、背中に剣山を生やしたパイソン型の魔物、四本の鎌をもったカマキリ型の魔物、体のいたるところから無数の触手を生やした巨大な蜘蛛型の魔物、二本角を生やした真っ白な大蛇など実にバリエーション豊かな魔物が、大地を鳴動させ土埃を巻き上げながら猛烈な勢いで進軍している。その数は、山で確認した時よりも更に増えているようだ。五万あるいは六万に届こうかという大群である。

 

 更に、大群の上空には飛行型の魔物もいる。敢えて例えるならプテラノドンだろうか。何十体というプテラノドンモドキの中に一際大きな個体がいる、その個体の上には薄らと人影のようなものも見えた。おそらく、黒ローブの男。愛子は信じたくないという風だったが、十中八九、清水幸利だ。

 

「来たぞ。予定よりかなり早いが、到達まで三十分ってところだ。数は五万強。複数の魔物の混成だ」

 

 魔物の数を聞き、更に増加していることに顔を青ざめさせる愛子達。不安そうに顔を見合わせる彼女達に、ハジメは壁の上に飛び上がりながら肩越しに不敵な笑みを見せた。

 

「そんな顔をしないでよ、先生。たかだか数万増えたくらい何の問題もない。予定通り、万一に備えて戦える者は“壁際”で待機させてくれ。まぁ、出番はないけどね」

 

「そういう事です。先生さんはこの後のことだけを考えてください……貴女の役割はそこにあります」

 

「わかりました……君達をここに立たせた先生が言う事ではないかもしれませんが……どうか無事で……」

 

 愛子はそう言うと、護衛騎士達が「ハジメに任せていいのか」「今からでもやはり避難すべきだ」という言葉に応対しながら、町中に知らせを運ぶべく駆け戻っていった。生徒達も、一度ハジメを複雑そうな目で見ると愛子を追いかけて走っていく。残ったのは、ハジメ達以外には、ウィルとティオ、リリアーナだけだ。

 

 ウィルは、ティオに何かを語りかけると、ハジメ達に頭を下げて愛子達を追いかけていった。疑問顔を向けるハジメにティオが苦笑いしながら答える。

 

「今回の出来事を妾が力を尽くして見事乗り切ったのなら、冒険者達の事、少なくともウィル坊は許すという話じゃ……そういうわけで助太刀させてもらうからの。魔力はコウスケのおかげでほぼ満タンじゃし妾の炎と風は中々のものじゃぞ?」

 

 竜人族は、教会などから半端者と呼ばれるように、亜人族に分類されながらも、魔物と同様に魔力を直接操ることができる。その為、天才であるユエのように全属性無詠唱無魔法陣というわけにはいかないが、適性のある属性に関しては、ユエと同様に無詠唱で行使できるらしい。

 

 自己主張の激しい胸を殊更強調しながら胸を張るティオに、ハジメは無言で魔晶石の指輪を投げてよこした。疑問顔のティオだったが、それが神結晶を加工した魔力タンクと理解する

 

「コレは……」

 

「念のために渡して置く……僕達と一緒に戦場に出るんだ。足手まといになってほしくないからね」

 

「うむ。心遣い感謝する。全力をかけて力になる事を約束しよう」

 

 そんな風に戦闘の準備をしていると遂に、肉眼でも魔物の大群を捉えることができるようになった。“壁際”に続々と弓や魔法陣を携えた者達が集まってくる。大地が地響きを伝え始め、遠くに砂埃と魔物の咆哮が聞こえ始めると、そこかしこで神に祈りを捧げる者や、今にも死にそうな顔で生唾を飲み込む者が増え始めた。

 

 その緊張している町の人たちの姿を見てハジメはふと思いついた。コウスケを念話で近くに呼び寄せる。

 

”コウスケちょっとこっちに来てくれないか”

 

”? 南雲何を考えているんだ”

 

”ちょっとしたお遊びだよ……勿論コウスケも付き合ってよね”

 

”……あーそういう事か……セリフは任せたぞ”

 

 ハジメは錬成で地面を盛り上げながら即席の演説台を作成する。人々の不安を和らげようと思ったわけではなく、単純にパニックになってフレンドリーファイアなんてされたら堪ったものではないからだ。

 

 突然、壁の外で土台の上に登り、迫り来る魔物に背を向けて自分達を睥睨する少年達に困惑したような視線が集まる。

 

 ハジメは、全員の視線が自分とコウスケに集まったことを確認すると、すぅと息を吸い天まで届けと言わんばかりに声を張り上げた。

 

「聞け! ウルの町の勇敢なる者達よ! 私達の勝利は既に確定している!」

 

 いきなり何を言い出すのだと、隣り合う者同士で顔を見合わせる住人達。ハジメは、彼等の混乱を尻目に念話でコウスケにセリフを伝える。

 

「なぜなら、私達には女神が付いているからだ! そう、皆も知っている“豊穣の女神”愛子様だ!」

 

 その言葉に、皆が口々に愛子様? 豊穣の女神様? とざわつき始めた。護衛騎士達を従えて後方で人々の誘導を手伝っていた愛子がギョッとしたようにハジメとコウスケを見た。

 

「我らの傍に愛子様がいる限り、敗北はありえない! 愛子様こそ! 我ら人類の味方にして“豊穣”と“勝利”をもたらす、天が遣わした現人神である! 私は、愛子様の剣だ! 見よ! これが、愛子様により教え導かれた私の力である!」

 

 

 ハジメはそう言うと、虚空にシュラーゲンを取り出し、銃身からアンカーを地面に打ち込んで固定した。そして膝立ちになって構えると、町の人々が注目する中、些か先行しているプテラノドンモドキの魔物に照準を合わせ……引き金を引いた。

 

 紅いスパークを放っていたシュラーゲンから、極大の閃光が撃ち手の殺意と共に一瞬で空を駆け抜け、数キロ離れたプテラノドンモドキの一体を木っ端微塵に撃ち砕き、余波だけで周囲の数体の翼を粉砕して地へと堕とした。ハジメは、そのまま第二射三射と発砲を続け、空の魔物を駆逐していく。

 

 そして、わざと狙いを外して、慌てたように後方に下がろうとしている比較的巨大なプテラノドンモドキを、その上に乗っている黒ローブごと余波で吹き飛ばした。黒ローブは宙に吹き飛ばされて、ジタバタしながら落ちていった。

 

 魔物をどうにかするまで、黒ローブに愛子を引き合わせる暇はないので、取り敢えず一番早い逃げ足を奪っておこうという腹だ。撃ち落としたと聞いたら愛子が怒りそうだが、流石に、怪我をしないように気を遣うつもりなど毛頭ない。なるべく、離れている内に撃ち落としたので愛子は気がついていないだろう。

 

 空の魔物を駆逐し終わったハジメは、悠然と振り返った。そこには、唖然として口を開きっぱなしにしている人々の姿があった。そこにコウスケのセリフが続く。

 

「そして私は、愛子様の盾なり! 見るがいい! 彼女の皆を守りたいという思いを! その慈愛を!」

 

 コウスケはそういうと両手を天にかざした。すると青い光が町を覆うようにドーム状に展開されていく。その光は爛々と輝くと遂には町一つを飲み込んだ。コウスケの技能”守護”を改良したもので自分ではなく町を守るように調整したのだ。しかし今はまだ貧弱で強度は低く中級魔法ぐらいしか防げないものだ。

 

 だがコウスケとしてはこれでいいと思っている。あくまでこの光の壁は町を守るということを知らしめて町の人達を安心させ恐慌に陥らせないためのものだからだ。

 

「優しき愛子様! 我々をお救いくださる愛子様! この光は愛子様が我々のことを思う心の表れだ!」

 

 コウスケはチラリとハジメを見る。その顔は一瞬、驚きに満ちていたがすぐに顔を引き締める。自分の特訓の成果に驚いたようでどや顔になるコウスケ。ハジメはコウスケにジト目を向けるもすぐに声を張り上げた

 

「愛子様、万歳!」

 

 ハジメが、最後の締めに愛子を讃える言葉を張り上げた。すると、次の瞬間……

 

「「「「「「愛子様、万歳! 愛子様、万歳! 愛子様、万歳! 愛子様、万歳!」」」」」」

「「「「「「女神様、万歳! 女神様、万歳! 女神様、万歳! 女神様、万歳!」」」」」」

 

 ウルの町に、今までの様な二つ名としてではない、本当の女神が誕生した。どうやら、不安や恐怖も吹き飛んだようで、町の人々は皆一様に、希望に目を輝かせ愛子を女神として讃える雄叫びを上げた。遠くで、愛子が顔を真っ赤にしてぷるぷると震えている。その瞳は真っ直ぐにハジメとコウスケに向けられており、小さな口が「ど・う・い・う・こ・と・で・す・か!」と動いている。

 

 コウスケがその愛子の様子ににやにやと笑っていると、ハジメから念話が届いた

 

”お疲れコウスケ。中々堂に入った立ち振る舞いだったよ”

 

”ハジメこそどこからそんな言葉が浮かんでくるんだ?もしかして、本当は詐欺師が天職だったんじゃないか?”

 

”さてね、自然と言葉が浮かんできたんだ。それよりもこの光は?守護の応用?”

 

”ふふん、いいだろーこれでも結構頑張ってできたんだぞ。もっと褒めろ”

 

”ハイハイ。すごいね”

 

”お前な~もっとさー…まぁいいや、しかしあの先生さんの顔を見たか?顔を真っ赤にして滅茶苦茶かわいいな。あれで25歳なんて…合法ロリとは恐ろしいな!ハイエースでダンケダンケ!”

 

”……コウスケ流石にその言葉はドン引きだよ。……先生にはいろいろ迷惑かけるけどこれぐらいは許してほしいよね”

 

 コウスケのふざけたやり取りを呆れながら、目の前の魔物の大軍に気を向けると“宝物庫”からメツェライを二門取り出し両肩に担いで、前に進み出た。右にはいつも通りユエが、左にはハジメが貸与えたオルカンを担ぐシアが、更にその隣には、優雅に佇むティオがいた。

 

 最後に町に残るコウスケに視線を移すと、顔は笑っているのに何故か寂しそうな眼をしているコウスケがそこにいた。思えばそれはあの奈落にいたころから時折向けていた事をハジメは思い出した。

 なぜそんなに寂しそうなのか、どうしてその理由を自分に言わないのか疑問は尽きない。無理矢理聞こうとすればはぐらかせられるのは目に見えている。

 だがらハジメはいつかコウスケが話してくれるのを信じるしかない。悩みを打ち明けてくれない寂しさを心にしまい何の気負いもなく魔物の群れに向かった。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

「おう、思いっきり暴れてこい!」

 

 コウスケの声はいつもの調子なのに、やはりどこか寂しそうに聞こえるのだった。

 

 

 

 




実はこの小説を書いたのは去年の11月ごろなのです。それを少しづつ修正して投稿しているのです。
若干おかしなことがあるかもです。最近少しでも見やすくなるように文章を整理するように心がけています

作中ティオは変態っぷりが遺憾無く?発揮されていますが徐々に薄くなっていくかもしれません。そして思い出したかのように変態になるかも…
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