ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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ひっそり投稿!

シリアスは苦手なんです。登場人物が真剣な顔で会話しているはずなのに話している内容が頓珍漢を言っていたら凄く興覚めするのです。
一応見直してはいるのですが…正直怖くて仕方がないです。

お目汚し失礼いたします


自分がやりたい事、すべき事

 その光景はまさしく蹂躙劇だった。

 

 

 ハジメに向かってくる魔物は、二門のメツェライによって毎分一万二千発の死が無慈悲な“壁”となって迫り、一発で一体など生温いと云わんばかりに目標を貫通し、背後の数十匹をまとめて貫いていく。“弾幕”は、まるでそこに難攻不落の城壁でもあるかのように魔物達を一切寄せ付けず、瞬く間に屍山血河を築き上げた。

 

 そのハジメの左手にはオルカンを担いだシアがてロケットランチャーをぶっ放し周囲数十メートルの魔物達をまとめて吹き飛ばした。爆心地に近い場所にいた魔物達は、その肉体を粉微塵にされ、離れていた魔物も衝撃波で骨や内臓を激しく損傷しのたうち回る。そして、立ち上がれないまま後続の魔物達に踏み潰されて息絶えていった。

 

 シアの左に陣取るのはティオだ。その突き出された両手の先からは周囲の空気すら焦がしながら黒い極光が放たれる。あの竜化状態で放たれたブレスだ。どうやら人間形態でも放てるらしい。殲滅の黒き炎は射線上の一切を刹那の間に消滅させ大群の後方にまで貫通した。ティオは、そのまま腕を水平に薙ぎ払っていき、それに合わせて真横へ移動する黒い砲撃は触れるものの一切を消滅させていく。

 

 

 ハジメの右に陣取るユエの殲滅力は飛び抜けていた。ハジメ達が攻撃を開始しても、瞑目したまま静かに佇むユエ。右側の攻撃が薄いと悟った魔物達が、破壊の嵐から逃れるように集まり、右翼から攻め込もうと流れ出す。しかしそれは悪手だった。

 

「“壊劫”」

 

 ユエの詠唱と同時に迫る魔物の頭上に、渦巻く闇色の球体が出現する。薄く薄く引き伸ばされていく球体は魔物達の頭上で四方五百メートルの正四角形を形作る。そして、太陽の光を遮る闇色の天井は、一瞬の間のあと眼下の魔物達目掛けて一気に落下した。次の瞬間、。闇色の天井が魔物の群れに落下し、そのまま魔物ごと大地を陥没させて、四方五百メートル深さ十メートルのクレーターを作り上げたのだ。

 

 

 

 

 

「…………」

 

 町の至るところからワァアアアーーーと現実とは思えない“圧倒的な力”と“蹂躙劇”に人々は湧き上がっていた。町の重鎮や護衛騎士はただ唖然とし、生徒たちは自分たちとの差を痛感し複雑な表情をしている。愛子は大事な生徒であるハジメの無事を祈っていた。

 

 コウスケはそれらのことを気にするわけでもなく城壁の上でただ魔物をせん滅していくハジメ達を静かに眺めていた。本来なら町の人たちと同じように歓声を上げハジメたちの強さを自慢したかった。『俺の仲間はこんなにも強いんだぞ!』と訴えたかった。しかし実際は今目の前で行われている蹂躙劇を静かにしかしどこか複雑な表情で眺めていることしかできなかった。

 

(…遠いなぁ…)

 

 ハジメ達が羨ましかった、同時に妬ましかった、そして悲しかった。魔物を苦も無く殲滅していくその力に強い憧れと粘つくような嫉妬が混ざる。自分の役割を理解はしている。もし、自分がいるせいで万が一のことが起こらないようにと町を守ると決めたのは自分だ。

 だから仕方のないことでもあるし、己の能力が守ることに特化しているのも理解はしている。だから嫉妬するのは間違いだとは気づいていてもくすぶる気持ちを抑えることはコウスケには難しく、また明るく優しい仲間たちがこんな血みどろの戦場に立つのが悲しかった。本当なら戦いなどせず町で遊んで楽しく旅をしてほしいとも考えてしまう。

 

(これも全部仕方ないのかねぇ?それになぁーなんで清水はあんな馬鹿なこと…いや、そんなにおかしいことでもないか)

 

 ハジメ達に対して複雑な感情をもつも、コウスケが浮かれない本当の理由、それは清水の事だった。コウスケは清水の境遇を知っている。だからこそ、どうにも憎めない。それどころか心情を理解してしまいそうだった。

 

「だって俺も似たような…」

 

 そこまで呟いた時だった。誰かがこちらに歩いてくる気配を感じ取ったのだ。胡乱な目を向けるとそこにいたのは愛子についてきた女子生徒のうちの一人だった。名前は何だっただろうか?一瞬考えるもすぐに興味をなくすコウスケ。

 

「……」

 

「…はぁ、どうかしたの?」

 

 何かを言おうとしているのか複雑な表情をし、口を開くも、何も言わず口を真一文字にする女子生徒に溜息をつき話を促すコウスケ。正直に言えば、いなくなり豹変した天之河光輝に対してどう話しかければいいかわからないのだろうと察することはできたのだが今はいろいろと立て込んでいるのだ。少々態度がおざなりになる。

 

「あ、天之河君。南雲の奴は…いったいどうしちゃったの?」

 

「んー話せば色々と長くなるんだけど…君たちが知らなくてもいいことだよ。そんな無駄なことを考えるよりもっと他の事…日本に帰った後の事でも考えたら?受験とかテストとかいろいろあるんだろ?」

 

「そ、そんな言い方って…」

 

「あー勘違いしないでくれ、別に嫌味で言ってるわけでもなくてさ、君たちが何にもしなくても無事に日本に帰ることができるんだ。だからこんな血なまぐさいことはかかわらない方が良いよ?」

 

「っ!」

 

 コウスケの発言に苛立ったのかそれとも別の何かを感じたのかそのまま走り去ってしまう女子生徒。結局誰だったかわからなかったがどうでもよかった。

 

 今はそんな事よりも考えることがあるのだ。それなのにさっきから横にいる人物はその横暴な発言を咎める声を出す

 

「コウスケさん、もっと優しく正直に言えばよかったんじゃないですか?『危険なことに巻き込みたくない』ってそうすれば彼女、園部さんは分かってくれたはずですよ?」

 

 隣にいた人物…リリアーナは被ったフードの隙間から除く目でコウスケを非難する。実はハジメ達が戦闘に向かった後からフードをかぶりコウスケの横にいたのだ。フードをかぶるのは町の人たちに知られないためとはいえ、なぜ自分のそばにいるのか。考えたところでコウスケにはわからなかったが害はなく邪魔もせず傍にいたので気にしなかったのだ。

 

「んなこと言ってもー俺は天之河光輝じゃありませんからねー正直な話あんまりかかわらない方がお互いのためなんですよ」

 

「そうですか」

 

 コウスケの話を軽く流すとそのままハジメたちの蹂躙劇を眺めるリリアーナ。コウスケも同じように眺める。なんだか、無理やりでもハジメ達に付いていけばよかったかなとコウスケが思い始めたとき、リリアーナの口からポツリと声が聞こえた。

 

「どうして彼は…」

 

「ん?」

 

「どうして清水さんはこのようなことを行ったのでしょうか?王宮では不満が出ないようしていたはずなんですが」

 

 それはリリアーナがずっと浮かんで疑問に思っていたことだった。王宮では決して不自由のない生活だったはずなのにどうしてこのような町一つを壊滅させてしまうようなことをしでかしてしまうのか。リリアーナにはわからなかった。

 

「それは…きっと何不自由のない暮らしをしたところでいつかアイツは不満を爆発させていたんじゃないですかね」

 

「不満ですか?」

 

「です。異世界に召喚され自分が特別になれると思っていたのに現状は何も変わらなかったから少しづつ不満がたまっていくんだと思います…不満を吐き出すことのできる友達の一人でもいればまた違ったんでしょうけどね」

 

 原作の清水の不満を思い出し溜息を一つ。恐らくこの騒動を起こした彼も同じような不満を持っているのだろうか。やはり彼を憐れむことも馬鹿にすることもできない。そんな事を考えながら殺戮劇を見ているとどうやらハジメのメツェライの弾が切れたようでドンナー・シュラークを撃ち続けているのが分かる。そろそろこの蹂躙劇の幕が終わりそうだ。

 

 その前に決断をしなければいけないだろう。このまま静観するべきか、それとも介入をするべきか。コウスケにはどうすればいいかわからない

 だから隣にいるリリアーナに聞いてみることにした。本当は自分が何をしたいのか、どう行動したいのかを知っている。ただ誰かの後押しがほしかったのだ。

 

「リリアーナさん少し聞いてもいいですか?」

 

「どうしました?」

 

「実は少し迷っているんです。この後自分がどう動くべきか。本当なら自分のやりたいようにするべきなんですが…」

 

「ならやりたいようにしてしまえばいいのではないでしょうか」

 

「その事が皆に迷惑がかかるものであっても?」

 

「…私はコウスケさんが何をしたいかはよくわかりません。でもあなたが決して皆に不幸をもたらすようなことをしないと確信できます」

 

 チラリと横にいるリリアーナを盗み見るコウスケ。フードをかぶっていて表情は分からないが優しい声で話すその姿に目を奪われる。

 

「だってあなたはあの時動けなかった私たちを全力で守ってくれたでしょう?命を懸けて全力で助けてくれたあなたが皆を不幸にするなんてありえませんよ」

 

 その言葉と共にコウスケを見つめるリリアーナ。その真剣さと柔らかい微笑が混じったような顔にコウスケは思わず照れてしまってそっぽを向いてしまった。

 

「そ、そうですか…そっかなら俺は俺の思うようにしてみよう。あんな茶番劇(原作通り)なんて納得がいかないからな」

 

 少し照れが残りつつも、自分のやりたいことを声に出し決意するコウスケ。そのための必要な魔力は十分にある。後は気力だけだったが、それはリリアーナと話をしたことによって悩みは吹っ切れた。

 

 これから自分が起こす行動について準備と対策をするためハジメたちの戦いを祈っていた畑中愛子を手招きで呼び寄せる。

 

「えーっと、天之河君じゃなくて…コウスケ君?さん?どうかしたのですか?」

 

「あーそういえば事情を説明していませんでしたね…まぁいいや。俺のことは置いといて。先生さん…いいえ()()()()

 

「は、はい!」

 

「貴方は何があってもアイツらの先生ですか?物事を教え、導く先生でいることはできますか?」

 

 コウスケの言葉に少々面食らうも真剣な顔できっぱりと断言する愛子。

 

「はい。私は何があってもあの子たちの先生です。迷う事があったら話を聞き一緒に考えて幸せを手助けできるようなそんな先生であり続けます」

 

「そっか。知ってはいたけどやっぱりあなたはいい先生だ。全く本当に南雲や清水たちが羨ましくて仕方ないなぁ」

 

 愛子の言葉を聞きカラカラと笑うコウスケ。話していて安心する。この人なら後のことを託してもなんとかしてくれそうだと。そんなコウスケに愛子は不思議そうに質問する。

 

「?一体何をしようとするんですか?」

 

「んーーー悪だくみ?ちょっと違うかな…原作ブレイク?原作レイプ?アンチ・ヘイト?…まぁなんにせよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人殺しはよくないって話ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蹂躙劇が終わって清水を愛子のところまで連れてきたハジメは、ただただ冷めた目で死にかけている清水を見ていた。戦闘はなんてことのなく

一方的な展開で終わることができ、愛子との約束通りに清水を連れてきたのだ。その清水は自分が負けて敗北者になっていたことに気付くと

辺りにいる人たちにみっともなく当たり散らしていた。

 

 話していた内容は何だったかハジメは覚えていない。興味もなければどうでも良かったからだ。ただ所々に卑屈さと自分以外のすべてを恨んでいるような感じだったかもしれない。途中で魔人族がどうとか話もしていたがハジメの琴線に触れるものはなかった。自分の邪魔をするものは容赦なく殺すそれだけだった。

 

 清水が近寄って説得をしていた愛子を人質にし毒針を刺そうとヒステリックになっていた時もこんな時でも自分の生徒を気遣う愛子が少々痛い目を見ればいいのではないかと考えていた。どうやら清水は魔人族に愛子を殺せと言われていたらしい。溜息をつくハジメ。清水はどうでもよかったが愛子は無論助けるつもりではあるのだが…

 

その後事態は急速に動いた

 

 愛子を人質にしていた清水に向かって蒼色の水流が向かってきたのだ。襲撃してきた黒い服を来た耳の尖ったオールバックの男はすぐにドンナ―で攻撃したが大型の鳥の魔物に乗って逃げられてしまった。襲撃され口封じをされた清水は胸に直撃し、倒れ伏していた。おそらくまだ息はあるだろう。

 

 人質になっていた愛子はシアが間一髪で助け出していた。愛子は毒針がかすかに当たってしまったのか瀕死の状態になっていたが、すぐに飲ませる試験管型の神水ではなくピストン型の神水で迅速に治療する事ができた。シアもわき腹を直径三センチ程の穴が空いていた。だがすぐにユエが神水を飲ませたことによって容体は安定していた。その事に安堵の息を出すハジメ。

 

 そしてこの騒動の原因の倒れ伏し今にも死にそうなでそれでも命にしがみついている清水をハジメは冷めた目で見ていた。愛子は死にかけの清水を助けるように周囲を見渡しているが誰もが目をそらしていた。もうどうしようもないという事、清水を助けたいと誰もは思わないでいることがよくわかる光景だった。

 

 わらにもすがる気持ちで清水を助けてほしいと愛子が言ったときも全ての原因は自業自得であり只々哀れな清水をハジメは見ていた。愛子が自分を殺そうとしていた清水の延命を願うのは予想通りだったと思う。しかしだからと言って清水を「はい、そうですか」と助けるかと言うと…そんな考えには全くもってならなかった。

 

 ハジメは一瞬考えるように天を仰ぐと、一度目をつぶり深呼吸し、決然とした表情で清水の傍に歩み寄った。

 

「清水。聞こえているな? 僕にはお前を救う手立てがある」

「!」

「だが、その前に聞いておきたい」

「……」

 

 救えるという言葉に、反応して清水の呟きが止まりギョロ目がピタリとハジメを見据えた。ハジメは一拍おき、簡潔な質問をする。

 

「……お前は……敵か?」

 

 清水は、その質問に一瞬の躊躇いもなく首を振った。そして、卑屈な笑みを浮かべて、命乞いを始めた。

 

「て、敵じゃない……お、俺、どうかしてた……もう、しない…………助けて……何でもするから……だから…助けてくれ……まだ俺は…俺は…」

 

 

 ハジメは、命を絞り出すようなその言葉に無表情となる。そして、真意を確認するようにジッと清水の目を覗き込むように見つめた。覗き込むようなハジメの目に清水は思わず目を逸らす。だが、ハジメはしっかりと確認していた。清水の目が、今まで以上に暗く濁っていたことに。憎しみと怒りと嫉妬と欲望とその他の様々な負の感情が飽和して、まるで光の届かない深海でも見ているかのようだった。

 

 ハジメは確信した。愛子の言葉は、もう決して清水の心には届かないといことを。そして、清水は必ず自分達の敵になると。故に決断した。一瞬、愛子に視線を合わせる。愛子もハジメを見ていたようで目が合う。そして、その一瞬で、愛子はハジメが何をするつもりなのか察したようだ。血相を変えてハジメを止めようと飛び出した。

 

「ダメェ!」

 

 が、ハジメの方が圧倒的に早かった。

 

 

ドパンッ! ドパンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがハジメの銃撃よりもさらに圧倒的な速さでまるで予知していたかのように動く人影がいた。

 

 

 

 

 

「…なんで……どうしてそいつを庇うんだ?そいつは僕たちの敵だよ?…ねぇ教えてよ…()()()()

 

 

 

 

 

 

「さぁ?どうしてなんだろうな?なぁハジメ」

 

 

 ハジメの目の前で清水を守るように守護を展開しているコウスケがそこにいたのだった。

 

 

 

 




シリアスなんてやりたくねーです。
でももうちょっとだけ続くんじゃよ。

気が向いたらでいいので感想お願いします。(土下座)

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