ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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眠たい目をこすり何とか投稿します
勢いとノリでできたものなのでいろいろと足りないところがあるような…

もっと時間さえあれば…


生きろ

 ハジメにとってコウスケはかけがえのない親友で恩人で自分を助けてくれて傍にいてくれている大切な存在である。その大切な存在が目の前の敵を庇い助けるという事は表情には出さないが、かなりの衝撃だった。

 

(どうして?なんでそいつを助けようとするの?)

 

 頭の中は疑問だらけで、しかし心のどこかではさっさと清水を殺せと叫ぶ。だからそこをどくように子供のように親友に反発する。

 

「どうしてって…そいつは生きていたところで僕たちの敵だ。さっさとケリをつける必要がある。だからいい加減」

 

「ケリ?それは殺すってことか?まったく。本当にいったいどこでどうなったらクラスメイトを殺すなんて言葉が出てきてしまうようになっちまったのか…あー確実に俺のせいだよな。あの時奈落に落ちずちゃんとお前を助けていればこんな物騒なことをいう子にはならなかったよな。ごめんな」

 

 おどけたように軽くしかし悲しそうに言うコウスケ。目は全く笑わずむしろ守護の光がさらに強く輝き始めた。口では何も言わないが絶対に退く気はないというコウスケの意思表示だった。その事がハジメの心を強くかき乱す。謝ってほしくはなかった。この性格になってしまったのは自分の意思だ。

 

「ふざけないでよ…ねぇどうして…どうして僕の邪魔をするの?敵は殺さなくちゃダメなんだ…じゃないと僕は…」

 

 自分の意思とは無関係に呟かれる声にハジメはどうしていいかわからない。ただドンナ―を構える腕が勝手に震え出す。まるで親友に武器を向けたくないというかのように。

 

「…なぁハジメ」

 

 聞きたくないとハジメは思った。コウスケは気付いているのかどうかは分からないが真剣な時、又は無意識だろうか、何か心の底から伝えたいというときコウスケは自分の名字(南雲)ではなく名前(ハジメ)で呼ぶのだ。

 最初は奈落の底でお互い生きて帰ろうと誓い合ったときその次は自分がヒュドラに殺されそうなとき、何かと重要な場面で名前で呼んでいたのだ。だから今から言う事はコウスケの心の底から思う事だ。

 その言葉を聞いたとき、きっと清水を殺そうと思う気持ちはなくなってしまうかもしれない。でもどこかで聞きたいという気持ちもあった。

 

「お前は…日本に帰るんだろう?この世界から脱出して日本に…いつもの日常に学校生活に帰っていくんだろ?なら人を殺しちゃいけない」

 

 その言葉がずきりとハジメの心に傷をつける。しかしショックはなかった。何故だかこの世界に染まっていないコウスケならそんな事を言いだすのではないかと思ったからだ。

 

「人を殺した人間が日本で平和に暮らせると思うか?…答えは否だ。一線を越えてしまった人間はどこかでまた同じ過ちを繰り返す。もし日本に帰ってもちょっとしたことで人を殺すかもしれない…俺はハジメにそんな人間になってほしくない。人を殺しても当たり前だという考えを持つ人間にもなってほしくない。そもそもあんなハーレムチンピラ野郎(魔王様)に…ああもう自分で何を言っているのかわかんなくなっちまったじゃねえかこの野郎」

 

 自虐するように一人愚痴るコウスケ。しかしハジメには確かに見えた。一瞬今にも泣きそうなコウスケの目を。コウスケは知ってか知らずかハジメに対して優しく諭す様に言葉を掛ける。

 

「ともかくだ。俺が言いたいことはたった一つだけ。人を殺さないで。きっと人を殺してしまったら君は手遅れに…不幸になる。だから…お願いだから人を殺さないでくれ」

 

 もはや懇願にも聞こえそうな声だった。だからだろうかハジメは顔を俯くとドンナ―を構えていた腕を力なくおろしてしまった。何も言えなかった。それでも敵は殺せと思う気持ちもありコウスケが自分の今後の事を心配してくれているのを嬉しく思う気持ちもあり、また、庇われている清水に対してわずかな嫉妬を感じさせる気持ちもあった。だから、今は何もする気にもなれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハジメが銃を下ろしてくれたことに内心ホっと息を吐くコウスケ。これでもし後ろから銃撃されてはたまったものではなかったがその心配は必要なさそうだ。…ハジメがそんな事をしないとは無論思っている。しかし念には念を入れた。

 

 改めて清水に向き直るコウスケ。清水は息も絶え絶えでそれでも死にたくないのか生きようと足掻いている。その姿に言い様のない感情が出てくる。だからコウスケはたった一つの質問をした。初めて出会っとき、いや、原作で清水が出てきた時からだろうか?ずっと聞きたかった事があったのだ。

 

「なぁ清水、聞こえるか」

 

「うぐっ……お、お前は…」

 

「よう。あのパーティーの時以来だな。本来なら自己紹介でもしたいところだが時間がない。たった一つで言い答えてくれ」

 

 しゃがみ込み清水の目をのぞき込む。そして洗脳魔法をかけるコウスケ。必要ないかもしれないがどうしても聞きたかったのだ

 

「な…にを…」

 

「お前は勇者になって…いやこの世界で何がしたかったんだ。ずっと気になっていたんだ。魔人族に手を貸し、クラスメイトを裏切ってそこまでして何が欲しかったんだ。何を求めていたんだ…君の本当の望みを教えてくれ」

 

 コウスケの目を見ていた清水は一瞬顔を竦めるもすぐに絞り出すように叫んだ。

 

「……ったんだ……俺は…誰かに!…認められたかったんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 清水はこの異世界なら自分が特別な存在になれると思っていた。しかし現実は非情で都合がいいものではなく異世界に召喚されても特別になることはなかった。虚しかった。悲しかった。この異世界でも日本にいたときのようにただのモブの様な、いなくてもかまわないような奴なのかと悲観した。

 

 もし自分が勇者だったら…何度もそう思った。勇者であるのならば誰かに必要とされ誰かの特別になる事ができるのではないかと考えていた。勿論自分の好きなWeb小説やライトノベルのようにハーレムを築き上げ女の子からモテたいという思いもあるしチートを使い無双したいというのもある。しかし本当の心の奥底では誰かに必要とされていたかったのだ。

 

 清水には居場所がなかった。自分の逃げ場であるはずの家では親から心配され兄弟は侮蔑の目線を向けてくる。学校では仲のいい友達もおらず元々が引っ込み思案の自分では誰かと打ち明けることもできなかった。

 

「この世界なら俺は!ぐっ…特別になれると信じていたのに!…結局日本にいたときと変わらなかった…ぐぼっ」

 

 血を吐き出しながらも自分の思いのたけを吐き出す清水。もう自分に残された時間は少ないと感じるがそれでもかまわず叫ぶ。そうするしか心の奥底にたまっていたものを吐き出すことができないからだ

 

「なんで…なんで俺は特別になれなかったんだよ…どうして認められないんだよ…俺は“その他大勢の一人”じゃないのに…誰か…俺を見てくれよ…」

 

 呻くように言葉を吐きながら清水は自然と涙があふれていた。あまりにも悲しかった。待望の異世界は日本と何も変わらず挙句の果てにはごみの様に死んでいくことが只々悲しく目から悔し涙が出てきてしまった。

 

「…馬っ鹿だなぁ。別に異世界でなくてもちょっとの勇気さえ持てば友達だって作れただろうに…ほら其処にいる南雲ならどうだ?アイツはゲーマーでうさ耳狂のむっつり野郎だぞ?案外話が合いそうだと思うんだけどなぁ」

 

 いつからだろうか気が付けば清水はいつの間にか誰かに抱き寄せられ蒼い光に包まれていた。しかし目の前にいるのが誰かわからなくなるほど目の前が暗くなっていく。それでも今自分を抱き寄せる人物と会話を続ける。何故だか今自分が生きているという実感がわくのだ。

 

「はは…できるわけねぇだろ…あのクラスはオタクの…人権がねぇんだよ…どいつもこいつも…頭の沸いた連中ばっかりだ…白崎がオタクに話しかけただけで…あんなに敵意を出すなんて…」

 

「あーなるほどなるほど…確かにそれは自分がオタクだって言いづらいよな。…これだからアイツらは嫌いなんだ。オタクが何をしたっていうんだっての。人がゲームやアニメが好きなだけでゴミを見るような目で見やがって…人の趣味に口出せるほどてめーは偉いんかっての」

 

「ははは…だよな…だから人のことを良く知らないで騒ぐ奴らが嫌…ぐぼっ!」

 

 同じような不満を聞きわずかに清水の顔に笑みが出る。がすぐに血を吐きせき込む。しかし清水は苦悶の表情を浮かべない。段々痛みが薄れてきたのだ。それに反応してかさらに青い光が輝き清水の空いた胸に吸い込まれていくが清水は気付かない。

 

「おいおい大丈夫か清水…それにしてもお前本当に馬鹿だよな。普通に考えたら主人公と敵対する魔人族に付いちまったら破滅フラグしかあり得ないだろうが」

 

「…ああ。言われてみれば確かに…でも仕方ないだろう…必要だって言われたんだから…」

 

「チョロイなーお前は頭の悪そうなナデポ、ニコポの頭お花畑型ヒロインかよ」

 

「なんだ…そ…れ…失礼な…奴……?」

 

 段々と言葉が出てこなくなるがそれに比例するかのように光が強くなってくる。そして清水は気付いた。自分の顔に先ほどから水滴が当たっているのを。開けにくくなった瞼を必死の力で開けるとそこには目に涙を貯め泣いている天之河光輝の姿があった。

 

「お前…泣いて?…」

 

「あ?泣いてねぇよ…これはあれだ、目にゴミがはいって…だから泣いてねぇグスッ……悲しくって泣いているんじゃねんだぞ?」

 

 鼻を赤くし先ほどから涙をこぼしているのに何とも滑稽なことを言う「天之河光輝」の顔をした誰かに清水は力なく微笑む。もう先ほどまでの不満も妬みもなかった。ただ自分のために誰かが泣いていてくれるというのが清水の心を温かくさせるのだ。

 

「そっか…俺のために…泣いてくれる奴が…い…る…か…よか…た」

 

「何変なこと言ってんだよ、俺はもっと一杯話したいことが……だから『生きろ』清水」

 

 自分のために泣いてくれる人がいることに安堵する清水。誰かの特別になる事が出来たのかと思いそのまま暗い闇の中へ静かに意識が落ちていく。その中で誰かの優しい声が聞こえたような気がした。

 

 

 

 

 

『どうか…君の第2の人生が自由で…素晴らしいものになりますように』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 清水を抱きかかえたまま”快活”を清水に使い果たしたコウスケ。温存していた魔力はとうに空になったがそれでも気力を振り絞りずっと使い続けていたのだ。自分が清水を治している間周りが何も手を出さなかったことには少々疑問が出たが気にすることなくまた、最後に自分が清水に言った言葉は何だったか思い出すこともなく清水をそのまま呆然としている愛子のもとへふらつきながらも運んでいく。

 

「あ…清水君は無事なんですか!?」

 

「自分のすべての魔力を使って治したんですが…すいません…後のことはお願いします」

 

 慌てている愛子のそばに丁寧に清水を下ろすとふらつきながらも仲間たちに呼びかけるコウスケ。もうこの街ですべきことは終わった。後はウィルをフューレンまで送り届けるだけだ。

 

「ユエ、シア、ティオ…行こう。もうこの街に用はない。ウィルもボーっとしていないで」

 

 未だ自分を見て呆然としていた仲間たちはハッとした顔をするといそいそと集まってくる。しかしハジメだけはずっと俯いたままで立っている。ふらつく身体を何とか動かしハジメにフューレンへ行くように促すとたった一言「うん」と頷いてハジメは4輪駆動を出した。

 

 最後に振り返った光景は愛子が清水を抱きしめ安堵した顔をしており周りの連中は只々複雑そうな顔をしていた。その光景を眺めながら原作とは違った結末を迎えたことに対する不安と清水を助けたという達成感を感じつつそのまま助手席にもたれ掛かるように座るコウスケ。

 

 一行はいろいろと複雑そうな顔をしながらもフューレンへ帰っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 真エンディングの条件の一つ『清水の生還と共感』のロックが解除されました

 ハードモードからノーマルモードへ難易度が変更されました。




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