ところで女の子のセリフって難しいですね!無理矢理頭を捻って考えるのはきついっす。そのうち慣れるんでしょうかね…
「………」
「どうかしましたか?リリアーナさん」
「愛子さん?いえ何でもないですよ」
ウルの町からハイリヒ王国に戻るまでの馬車の中でリリア―ナはずっと考え事をしていた。その事に心配をしたのか愛子が気遣ってくれたがリリアーナは笑って誤魔化した。不思議そうにしながらも納得してくれたのか、自分の席に戻る愛子に内心感謝するリリアーナ。今は考えていることを悟られてたくはなかった
(……勇者召喚は本当に正しかったの?)
実はコウスケが清水を助けようとしたあの時からずっと考えていたのだ。人間族を救うために異世界の住人に協力を求める。異世界の住人は通常の人より何倍も強く必ず戦力になり、魔人族に打ち勝つと言われてきた。
しかし蓋を開ければ召喚されたのはリリアーナよりわずかに年上の少年少女達であり、戦士とは到底見られない人たちだとリリアーナは感じた。
その予感に狂いはなく実戦の訓練場所の迷宮では生徒の一人の軽率な行動が破滅を呼び、希望と呼ばれる勇者と非戦闘職の生徒が犠牲となった。次に行方不明の生徒が出てしまい捜索したら、現状に不満を持ち魔人族側に寝返ってしまったという散々な結果だった。
(もしコウスケさんが居なければ…)
結果的には犠牲となったはずのハジメと天之河光輝…コウスケは無事に生きており凄まじい強さになっていた。そしてその力で裏切った清水を止め救ったのだ。結果論で言えば犠牲となった者は誰もいないが、だからと言ってこのままで良いとは言えないのだ。
神であるエヒトが人間族を救わせるために遣わせた神々の使徒。そのありようにリリアーナは疑問を浮かばせていた。
(本当に彼らが必要だったんでしょうか。人間族を救うという建前で私たちは取り返しのつかないことをしているのでは…)
どう見ても戦う人物達ではない。これではまるで異世界の人々を自分たちが誘拐し洗脳させ捨て駒にしているに過ぎない。
余りにも不自然だった。これではまるで創造神エヒトは人のことが全く分かっていない無能ではないか。リリアーナは考えれば考えるほど神と言う物に対して疑念を感じていた。
(私たちが意識を向けなければいけないのは魔人族ではなくてこの国に根付いている神への妄信では…)
そこまで考えると一息をつくリリアーナ。神への不信感を募らせるが、今はほかのことも考えなければいけない。すなわち今も迷宮で訓練をしている異世界の友人香織達のことだ。彼女たちをこのまま戦力として組み込むのは間違いだ。彼女たちは彼女たちの人生がある。
生徒たち全員をできれば戦場から遠ざけたい。だから自分の父親である国王…エリヒド・S・B・ハイリヒを説得し戦いから遠ざけた方が良いのだろう
きっと良い顔はされず、却下されるかもしれないが言わないよりはましかもしれない。今後の王国内で自分がどう行動すべきかを
考えつつ場所の中を見回しある人物をさがすリリア―ナ。
すぐに目当ての人物…清水は見つかった。
清水は席に座り静かに目を閉じている。どうやら寝ているわけではなそうだが…。清水の周りには人はいない様で皆距離を取っている、どうやら清水に対して負い目や距離の測り方が分からないのだろう。本人は本人でクラスメイト達に興味はない様で一向に身じろぎしていない。
(……コウスケさんが居なければ彼は死んでいたんでしょうね)
清水を見ながらもコウスケを思い出すリリアーナ。清水が魔人族により胸を撃たれ死にかけていたとき助けに入り顔を泣きはらしながらも必死で魔力を使い助け出そうとしていた姿。その顔が、必死さがどうしても忘れられない
(私、男の人が泣く姿を初めて見ました…)
リリアーナには同世代の異性が周りにはいない。いたとしても弟のランデルだけだ。まだやんちゃさが抜けない弟のランデルが涙を流す姿とは違いコウスケの涙は衝撃的だった。
(男の人だったから?ううん違う。誰かを思って泣くのが綺麗だと感じたから)
コウスケの涙は清水を思う気持ちの表れだった。それが綺麗で衝撃的で…目が離せなかった。思えば再会してからコロコロとよく表情を変える人だった。嬉しいときは朗らかに笑い、悩むときは眉間にしわを寄せうんうん唸り、悲しいときは唇をかみしめ泣きそうな表情していた。
(ふふ…子供みたいで変な人)
コウスケのことを思い出しわずかに口角が上がるリリアーナ。もしまた会うことができるのならば落ち着いたところで話をしてみたいと考えながら無自覚に機嫌がよくなるリリアーナだった。
「…雫ちゃん待って」
「香織?いきなりどうしたの」
ホルアドの町にていきなり自分を呼び止める親友に雫は困惑した。それまでは迷宮探索の準備を進めいざ行こうとしたときに突然止められたのだ。訝しむ雫をよそに香織はしばし胸に手を合わせ目を瞑っていたか思うと呟くように雫へ忠告した。
「なんだか分からないけど凄い嫌な予感と良い予感が混ざり合った変な感じがするの」
「変な感じ?」
「そうなの。根拠はないけど…いきなり変だよね。でも何か感じるの」
目の前で悩む親友に疑問を一瞬抱くもすぐに頭を切り替えどうするべきかを香織と話し合う雫。みんなのリーダーである光輝が居なくなってからは自分と香織が探索組のリーダーになっているのだ。
その香織が嫌な予感がすると言う。ならもう一度入念に準備をするべきだ。
「そう。ならもう一度同行する騎士団の人たちや永山君たちに装備の点検をさせるわね」
「ありがとう雫ちゃん。皆に持たせている回復薬や魔力回復薬は普段よりもっと多めに準備をさせて、特に騎士団の人たちは入念に」
「ええわかったわ。そういう香織も忘れ物が無いよう気を付けてね」
香織の忠告を聞き探索へ向かう人たちにテキパキと準備させる雫に感謝をする香織。実は雫には伝えていないことがあるのだ
(なんだろう…肌が泡立つ感じがするのに心は嬉しそうにしている?)
今までも危険な予感はあったが今日の予感はそれ以上だ。それと同時にどうしても心臓が高鳴る。
(…南雲君)
居なくなった
「…会いたいなぁ」
思わず出てきてしまった言葉が偽らざる香織の本音だ。ただ無性に会いたい。それだけのため訓練をして強くなってきたのだ。今から挑むオルクス迷宮は七十層目。皆をまとめあげる光輝は不在のまま、それでも慎重に慎重を重ね到達した階層なのだ。
それでもまだハジメ達の痕跡は発見できなかった。もしかしたらもう別のルートから脱出できているのかもしれない。そんなの思いが日々募っていくが、それでも探索をやめる気はしなかった。
(今どこにいるの南雲君…きっと無事だよね。ううん無事に決まっている。だって南雲君の隣にはあの人がいるんだから)
ハジメの姿を思い出し、そしてその隣で天之河光輝の姿で朗らかに笑っていた人のことを思い出す。彼がそばにいるのならハジメは大丈夫だという信頼が香織にはあった。きっとそばで笑っているその姿があまりにも自然だったからだろうと香織は思う。
(でもどうしてあの人は天之河君の姿を?それにどうして…あの人は…天之河君の事を…ううん、今はそんな事を考えちゃダメ!目の前のことに集中しないと…)
人の良さそうな笑みを浮かべていた彼は信用できるし信頼できるが疑問があった、どうしてその姿なのか、何よりどうして天之河光輝の…
心に湧き出て来た疑問を頭を振りかぶることで打ち消す。今は迷宮探索に集中しなければいけない。
遠くから準備ができたと声をあげる雫の声に返事を返すと香織はハジメに絶対に会うという決意を固め迷宮に乗り出していくのだった。
見直すと色々と前話で同じこと言っているような気がするのです。しつこいかなと思いつつ投稿します
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