ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

48 / 126
久しぶり投稿するような気がします
見直すとこいつこんな性格だったけと思います。
いつもの如く展開が無理矢理な気がしますがそれでもよければどうぞです


戦略的行動?

 

「さてと…で?さっさと降伏したらどうだい。どうやらあんた達2人がが一番この状況をよく理解しているようだけど」

 

 襲撃してきた魔人族の女に降伏勧告を告げられている中、香織は周りの状況を確認していた。周りはまさしく死屍累々と言う惨状だろうか。事の始まりは70層についてから何かがおかしかった。本来現れるはずの魔物が姿を現さず異様に静かだったのだ。すぐに異変を察知し、撤退しようと香織が宣言するのもつかの間魔人族に襲撃されたのだ。

 

 すぐさま伝令として遠藤を何とか撤退させるもそこからは逃げるにも逃げられず、じわじわといたぶられ全員が圧倒的な実力差と死への恐怖によって抵抗虚しく地に伏してしまったのだ。頼みの綱であり経験豊富なメルドは瀕死になっており今もまだ生きているのが不思議なほどだ。

 

「…… 私達に何を望んでいるの? わざわざ生かして、こんな会話にまで応じている以上、何かあるんでしょう?」

「ああ、やっぱり、あんたが一番状況判断出来るようだね。なに、特別な話じゃないあたしらの側に来ないかい?」

「今だけ従ったふりをして…後で裏切るとは思わないのかしら?」

「それも、もちろん思っている。だから、首輪くらいは付けさせてもらうさ。ああ、安心していい。反逆できないようにするだけで、自律性まで奪うものじゃないから」

「自由度の高い、奴隷って感じかしら。自由意思は認められるけど、主人を害することは出来ないっていう」

「そうそう。理解が早くて助かるね。」

 

 雫が魔人族の女と交渉している間に香織は必死に考えを巡らせる。どうすればこの窮地を逃れるのか、考えるている間にも会話は進む

 

「わ、私、あの人の誘いに乗るべきだと思う!」

 

 中村恵理が魔人族に降伏しようと声をあげる。確かに魔人族に従えば生きていられる可能性は大きいだろう。しかしそれは実質魔人族の奴隷になるという事である。奴隷になってしまったらもうハジメとは出会えないかもしれない。香織の思いとは裏腹に場の雰囲気が恵理のその一言で徐々に降伏するべきではないかと変わってきてしまっている。

 

「まぁどうすればいいのか考えるの構わないんだけどさぁ、そこのあんた」

 

 いきなり呼ばれ顔をあげる香織。そんな香織に何故かイラつくような目を向け吐き捨てるような表情を浮かべる魔人族の女

 

「あんたさぁ今の状況分かっているのかい?なんでそんな目をしてるのさ」

 

 魔人族の女がイラついたのは訳があった。圧倒的な優位な状況であるはずなのに何故かただ独りだけ絶望もせず只々決意に満ちた目をしているのだ。その目は自分はここで死なない。負けるつもりもないとギラギラとしていてまるでお前は眼中にはないと言われているようで無性に癇に障るのだ。

 

「…!……私」

 

「あん?」

 

「…私、どうしても会いたい…好きな人がいるの」

 

 香織の突然の告白に面食らう魔人族の女。周りの皆も驚いているようだ。だが香織は気にせず言葉を続ける

 

「…離れ離れになっちゃって…今はどこにいるかわからないけど、もう一度…ううん。会って自分のこの思いを伝えたいの。」

 

「こんな時に随分とおかしいことを言うんだねぇ」

 

「そうかな?好きな人に会いたい。それってそんなにおかしいことなのかな?貴方にも好きな人がいるんでしょ?死ぬ前には会いたくなるんじゃないの?…私は死ぬつもりもなければ降伏するつもりもないけど」

 

「そうかい、恐怖でおかしくなっちまったんだね…可哀想だから一瞬で殺して愛しの男もすぐに送ってやるよ!」

 

 首を傾げ不思議そうに尋ねてくる香織に何故だか不気味さを感じ、魔人族の女は馬頭の魔物…アハトドに痛めつけて殺すように命じる。

 動けない状況なのに明らかに他の魔物とは一線を越えたアハトドが向かってくる状況に雫は死ぬ覚悟を決めてしまった。ただでさえ手元には折れた剣しかなく全員が満身創痍の状況なのだ。もう抵抗する手段がない。それなのにどうしてか隣にいる親友は全く諦めてはいなかった。

 

「雫ちゃん大丈夫だよ。だからそんな泣きそうな顔をしないで」

 

「香織…貴方…どうして?」

 

「…説明するのは難しいんだけど…さっき感じたの。もしかして女の感かな?」

 

 そばにいる雫を抱きしめ困ったかのように眉を八の字にして微笑む香織は可笑しくなっているわけではなさそうで流石の雫でも困惑してしまう。そんな二人の前に影が差す。アハトドだ。血走った眼で、寄り添う香織と雫を見下ろし、「ルゥオオオ!!」と独特の咆哮を上げながら、その極太の腕を振りかぶっていた。

 

 今、まさに放たれようとしている死の鉄槌を目の前にしても香織の心は穏やかなままだ。そこでふと思い出した。それは、月下のお茶会。二人っきりの語らいの思い出。自ら誓いを立てた夜のこと。困ったような笑みを浮かべる今はいない彼。いなくなって始めて“好き”だったのだと自覚した。

 

そんな香織の微笑ましい記憶も無残に砕け散ろと言わんばかりの剛腕が迫ってくる。が

 

 

ガキンッ!!

 

 

 当たる瞬間、蒼く光る光の壁が現れアハトドの攻撃はあっさりとふさがれてしまう。驚く雫をしり目に今度は蒼く淡く輝く光が雫と香織を包み込む。その光に包まれている間。2人の怪我や魔力が急速に回復していくのが分かり雫はあまりにも突然のことで混乱していた。結界師である谷口鈴の力かとみれば鈴も困惑しているようで口を大きく開いている。

 

 あまりも突然のことで雫が口を開こうとしたとき、今度はさらに理解不可能なことが起こった。

 

ドォゴオオン!!

 

 体制を整えもう一度攻撃をして来ようとするアハトドに向かって 轟音と共に頭上にある天井が崩落し、同時に紅い雷を纏った巨大な漆黒の杭が凄絶な威力を以て飛び出したのだ

 スパークする漆黒の杭は、そのまま眼下のアハトドを、まるで豆腐のように貫きひしゃげさせ、そのまま地面に突き刺さった。

 

 

 全長百二十センチのほとんどを地中に埋め紅いスパークを放っている巨杭と、それを中心に血肉を撒き散らして原型を留めていないほど破壊され尽くしたアハトドの残骸に、眼前にいた雫はもちろんのこと、生徒達や彼等を襲っていた魔物達、そして魔人族の女までもが硬直する。

 

 戦場には似つかわしくない静寂が辺りを支配し、誰もが訳も分からず呆然と立ち尽くしていると、崩落した天井から二つの人影が飛び降りてきた。その人物達は、香織達に背を向ける形でスタッと軽やかにアハトドの残骸を踏みつけながら降り立つと、周囲を睥睨する。

 

 そして、肩越しに振り返り背後で寄り添い合う香織と雫を見やった。

 

「…相変わらず仲がいいね2人とも」

 

 苦笑しながら振り返った顔は、香織がずっと焦がれてきた思い人、南雲ハジメだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(…キマシタワー…じゃなくて間に合ったか。よかった)

 

 ハジメの後ろで抱き合う2人の美少女を見て一瞬百合かな?と思ったがすぐに無事だと気付きホッとするコウスケ。遠藤に案内されながら感知能力を全力で使い弱っていた気配に対して守護を展開したのがうまくいったようだ。そのあとはハジメの錬成とパイルバンカーで大幅なショートカットをし間に合ったという訳だった。

 

(状況は…ふむふむ原作と大幅な違いは無そうかな)

 

 いきなり乱入してきたこちらを見て固まっている生徒達と魔人族を見るコウスケ。驚愕した雫が困惑し、遅れてやってきた遠藤が友人たちに助けが来たと喜びをあらわにしている。やはりと言うか大幅な流れは変わらないようだ。

 

「ユエ、悪いけどあそこで固まっている奴らの護衛をお願い。…言わなくてもわかるよね?頼んだ」

 

「ん、任せて」

 

「アァ、了解ダ」

 

 少しばかり周りの視線に面倒な表情をしたハジメがユエとコウスケに指示を出してくる。ユエは周囲の魔物をまるで気にした様子もなく悠然と歩みを進めコウスケは風伯を構え倒れ伏し、瀕死になっているメルドの所まで駆け寄っていく。

 

「フン!」

 

 触手をはやした黒猫が向かいかかってくるが力を込めた風伯の前にあっさりと真っ二つになった。その後ろで控えていた四つ目狼は風伯から飛ばされた斬撃風によって同じく両断されている。

 

「セァッ!」

 

 続けて襲いかかてくるブルタールモドキを地卿で上半身を吹き飛ばしながら姿を消し隙を狙っていたキメラを問答無用で叩き潰す。哀れなキメラは頭部を潰され力なく倒れ伏す。その姿を横目でチラリと確認し、ふっと息を吐く。余りに歯ごたえが無く一瞬失望してしまったのだ。しかしすぐに思考を切り替えメルドの駆け寄る。今は暴れ回っている場合ではない

 

「メルドサン…」

 

「…ぅ」

 

 小さくうめくメルドはまさしく満身創痍だった。恐らく王国が誇る最高性能の鎧の大半はボロボロになっており役目を終えている。太く逞しい腕は裂傷が大きく、腹部は黒猫の触手に貫かれたのか、穴がそこら中にあり耐性がないものが見たら失神するレベルだった。

 それでもまだ生きているのは日ごろの訓練のたまものか、本人の強い精神力なのか、どちらにせよ神水をメルドに打ち込むコウスケ

 

「…私…は」

 

「モウ大丈夫デス」

 

 うっすらと目を開け徐々に傷が治っていくメルドの安堵するコウスケ。念のため快活を使い後遺症がないようにしておく。過剰な回復かもしれなかったが、コウスケにとってはそれでもよかった。

 何故ならコウスケが本当に助けたかったのは生徒ではなくメルドだったからだ。

 

「お前は…いったい…?」

 

 自分を助けた仮面の人物が誰かわからなかったのか呻くようにつぶやくメルドに顔を見せるか躊躇するコウスケ。周りの状況を確認するとハジメが魔物相手に無双をしており、ユエは生徒たちの前に立っている。守られている生徒たちは驚愕に満ちた表情で全員がハジメにくぎ付けになっている。魔人族の女は逃げるにも逃げれないのか、歯がゆい表情でハジメを睨んでいた。この状況なら仮面を外しても問題はなさそうだ。

 

「よっと、…やっぱり仮面をつけるのはやめておいたほうが良かったかな?まぁいいや、お久しぶりですねメルドさん」

 

「!?生きて…いたのか」

 

「ええ、御覧の通り生きていますよ。それより申し訳ないんですが色々理由があるんでしばらくの間は負傷しているように演技をしてもらっていいですかね?」

 

 訝しみながらも体は本調子ではないのか、ふらついているメルドにそっと耳打ちをする。後で誰にも気づかれずにいろいろ話したいことがあるのだ。仮面をつけ無理矢理メルドに肩を貸すとユエの方へ歩いていくコウスケ。メルドは何か言いたそうではあるもコウスケの指示通りおとなしくしている

 

”ユエ―護衛任務お疲れさまー”

 

”ん、問題ない…そっちは?”

 

”こっちも問題ないよ。それよりこのおっちゃんの面倒もしばらく見てもらってもいいか?

 

”?コウスケはどうするの”

 

”…南雲が無双しているから混ざってくる!”

 

 

 

 メルドをユエに任せるとそのまま一気に跳躍しハジメに向かって口を大きく開いている六足亀を真上から垂直に蹴りをたたき込みクレーターを作りながら着地するコウスケ。

 

「…何やってんの」

 

「混ゼロ!」

 

「はぁ」

 

 呆れた目を向けてきたハジメに簡潔に理由を話すとそのまま背中合わせになる。ハジメはガンスピンをしてリロードしコウスケは救出に向かう途中でハジメに渡されたコウスケ専用の『単発式グレネードランチャー』をおもむろに魔物の集団に向けて発砲する。

 

 

キュポン   ドゴンッ!!

 

 

 あまりにも軽く気が抜けるような音は着弾と同時にすぐに凄まじい音を立て魔物たちを跡形もなくミンチ状になった。ハジメにねだった銃?の威力に満喫するコウスケ。本当ならミニガンも持って映画で見たタフガイのように無表情で撃ちまくりたいのだが、重量や武器がかさばるため取りあえずこのグレネードランチャーで我慢しているのだ。

 

(ウホッ!良い火力、ビンビンするね~)

 

「お願いだからフレンドリーファイア―だけは勘弁してよね」

 

「ウィ」

 

 後ろで恐らく苦笑しているハジメに適当に返事をしながらリロードをするコウスケ。自分が思ったより火力や使いやすさがかなりいいのだ。やはり武器はロマンをよくわかってくれるハジメが作ったものに限る。仮面の奥でだらしなく顔をにやけながらもう一度適当に魔物の集団へ発砲するコウスケ。

 

 そんな親友に呆れながらもハジメは次々とドンナーとシュラークを使い急所を狙いながら魔物を殲滅していく。コウスケが誘光を使い魔物を絶え間なく引き寄せるので片手間に魔物を減らしながらハジメは魔人族の女に目を向ける。出口はクロスビットで完全に封鎖をしており魔人族の女は完全詰みにはいっている

 南雲ハジメは人を殺さない。人を殺すなと親友は願った。なら自分は人を殺さない。それは人間族だろうと亜人族だろうと魔人族でも変わらない。だから自分たちに敵対してしまったあの魔人族の女をコウスケにゆだねることにしたのだ。一体どうするんだろうと考えて、溜息をついた。なんとなく分かってしまったのだ。

 

「ォォォオオオオオオ!!!」

 

 咆哮がする方へ視線を向けると風伯を右手に地卿を左手に魔物の集団へ突貫しているコウスケがいた。かなりハイになっているのだろう。魔物を集め次々と蹴散らしていくその姿は完全に狂戦士だ。溜息一つをつきながら援護をするように魔物へ容赦なく発砲するハジメだった。

 

 

 

 

 

 「ホントに……なんなのさ」

 

 力なく、そんなことを呟いたのは魔人族の女だ。何をしようとも全てを力でねじ伏せられ粉砕される。そんな理不尽に、諦観の念が胸中を侵食していく。もはや、魔物の数もほとんど残っておらず、誰の目から見ても勝敗は明らかだ。出口から逃げようとするも十字架によって自分が完全に逃げられないと知ると力なく座り込んでしまった。

 余りにも不条理だった。楽な任務だとは思ってはいなかった。このオルクス迷宮の真の階層を調査するように言われ神々の使途とやらを見つけたときは駒の一つぐらいにはなると思っていた。

 順調だった。そのはずが、すべて目の前の男2人によって破綻した。男のうちの一人は神々の使途と同じような外見だから、同郷の者だろう、明らかに異常な強さだった。しかしそれはまだ納得はできる。

 問題はもう一人だった。仮面をつけフードをかぶったおかしな人間。立ち会うまでもなく悪寒がするのだ。アレにかかわってはいけないと。まるで自分を生きている物とは見ていないような目で時たまこちらを見るその目が見るもおぞましく感じるのだ。

 

「…ミハイル」

 

 気付けばロケットペンダントを握りしめて愛しい恋人の名を呟いていた。戦士として戦場で死ぬ覚悟はできている。しかしこのような理不尽な死に方は納得できなかった。だからだろうか、今はどうしても無性に恋人に会いたくなった。生きたいと願ってしまった。しかしいつの間にか目の前に不気味に立つ仮面の男を前にしてその思いも打ち砕けてしまった。

 

「…この化け物め」

 

 悪態をつくが目の前の男は微動だにしない。気が付けば男は武器をしまっていた。訝しむも一瞬で殺すつもりはないのかと想像し顔が引きつってしまう。何も言わずただ突っ立ているこの男が怖くて仕方がなかったのだ。特にこちらを見ている目が。

 

「ここであたしを殺しても、いつかあたしの恋人があんたを殺すよ」

 

 男の目を睨み返しながらわずかに震える声で負け惜しみを言い放つ。その言葉に何を思ったのか、男は何故か血まみれになっている手を自分の頭に向けてきた。血まみれになっている理由は知っている。途中でこの男は魔物を素手で撲殺し始めたからだ。言いようのない震えが最高潮に達し、男の手が自分の頭の乗せられたとき声が聞こえてきた。

 

「…オ前ハ、伝言者ニナッテモラウ。敬愛スル上司ニ伝エロ『魔人族の生存を願うのならトップを疑え、このまま神の駒になっていたら滅ぶぞ』トナ」

 

「……へ」

 

 思わず間抜けな声になってしまった自分を誰が責められようか。明らかな人間の皮をかぶった化け物が意外にも優しい声で自分の上司に伝言をしろと言うのだ。それはつまり…

 

「国へ帰るんだな。お前には恋人がいるのだろう」

 

 何故か遠くから「ぶふぉっ!」と変な声がしたが、気にせず男の手を振り払いすぐさま出口へ向かう。なぜか出口にあった十字架はなくなっており、そのまま後ろから警戒していた襲撃もなく自分でも驚くほど迷宮から脱出することができたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




短いし進んでなーい
またこつこつ書いてきます

気が向いたら感想お願いします
返信には時間がかかってしまいますが、あると励みになってうれしいのです

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。