ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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やっとで出来ました!
この頃どう展開すればいいのか深刻に悩みましたが全部を原作通りにする必要は無いですもんね。代わりにかなりガバガバな気がしますが…

タイトルがなかなか難しいです!


救出成功!

「で、ガイルのものまねしながら逃がしていたけど、あれでよかったの?」

 

”調子に乗った。反省はしていません”

 

「はぁー所でメルドさんは?頼むって言ったんだけど」

 

 魔人族を逃がした後ハジメと合流したコウスケ。結局逃がすか殺すか迷ったが、逃がすことを選択した。念のため洗脳魔法をかけて脅しをかけていたため大丈夫だとは思うのだが…いつかこの選択を後悔する日があるかもしれないが今はこれでよかったと思う事にする。

 それよりも今はぞろぞろ集まりだしてきたハジメのクラスメイト達、特にハジメにずっと視線を向けている白崎香織が先決だ。

 

「問題ナイ」

 

「そっか」

 

“それよりもクラスメイト達が集まってきたぞ。相手をしてやったらどうだ?”

 

「ハジメくん。メルドさんを助けてくれてありがとう。私達のことも……助けてくれてありがとう」

 

 コウスケが念話で会話したと同時に香織がハジメに対して感謝を告げる。ハジメの変わりように驚きはしたが、それでも、どうしても伝えたい事があったのだ。

 メルドの事と、自分達を救ってくれたことのお礼を言いつつハジメの目の前まで歩み寄る。

 

 そして、グッと込み上げてくる何かを堪えるように服の裾を両の手で握り締め、しかし、堪えきれずにホロホロと涙をこぼし始めた。嗚咽を漏らしながら、それでも目の前のハジメの存在が夢幻でないことを確かめるように片時も目を離さない。ハジメは、そんな香織を静かに見返した。

 

「夢で見ていだの。ハジメぐんが生きでいるって…それでもじんぱいで……生きででくれで、ぐすっ、ありがどうっ。あの時、守れなぐて……ひっく……ゴメンねっ……ぐすっ」

 

「えーっと、心配かけてごめんね、この通り怪我もなかったから…だから謝る必要なんてないからさ…その、えっと、泣かないで」

 

(ふむ美少女の泣き顔か…悪くないな。しっかしここまで可愛い女の子に一途に思われていたなんて…南雲の奴羨ましいぞ!末永く爆発しろ!)

 

 泣いてしまった香織に困惑するハジメに対して内心悪態をつくコウスケ。しかし仮面の奥の顔はにやけておりハジメと香織の甘酸っぱい再会を祝福している。そんな微笑ましく笑っているコウスケにユエから念話が届く

 

“コウスケ、あの女の子は?”

 

“白崎香織、見ての通り南雲にホの字の女の子”

 

“ん…何でハジメは何もしないの?”

 

“それは南雲がヘタレだから!普通自分の生還に喜んで号泣してくれる女の子がいたら慰める為に色々するだろうに…全くあのヘタレは”

 

“…なら協力して”

 

 見ると悪戯っ子のような笑みを浮かべるユエ。すぐに何をするか察したコウスケは音もなくハジメの後ろへ回り体制が崩れるようなけりを無防備なハジメの背中に放つ。ユエも同じように香織の背中に回り両手で香織の背中を押す。

 

「わっ!」

 

「きゃっ!」

 

 ユエとコウスケの思惑通り体制を崩れたハジメと香織はお互い支えるものを探そうとして結果目の前にいる人物に縋りつくようになってしまった。すなわち香織はハジメの胸元に飛び込む様になってしまい、ハジメは支えるように香織の背中に手を回す構図になってしまった。

 

 その光景を 見ていた女子生徒達はハジメと香織に対して生暖かい視線を送り男子生徒達は嫉妬と羨望の混じったような視線をハジメに送る

 

“ちょっ!何やってんの2人とも!”

 

“何って…ヘタレにきっかけを作ってやっただけだが?”

 

“ヘタレ鈍感むっつりハジメに天誅!”

 

 ハジメの焦った念話をどこ吹く風の様にスルーする2人。悪気は全くない。寧ろやり遂げたような達成感さえ感じた。しかしハジメからしてはたまったものではない。今も自分の胸元ですすり泣く香織の体温を全身で感じ取ってしまっているのだ。

 おまけになにやら甘くいい匂いがして心臓の鼓動が大きくなった気がする。早く離れてほしいのだが香織は両腕をハジメの背中に回し離れる気は全く無いようでさらに困惑するハジメ。

 

 女の子に力強く抱きしめられるという未知の体験を実感しているハジメに救いの手が差し伸べられた。先ほどまで負傷していたメルドだ。立てるようになったのかふらつきながらも立ち上がり驚きながらもしっかりとハジメを見ている

 

「坊主…お前も生きていたのか」

 

「メルドさん…この通りですよ」

 

「そうか…お前が生きていて本当に…本当によかった。そしてすまなかった。絶対に助けると言いながら私はお前を助けることができなかった。許してくれとは言わん。だが謝らせてくれ、本当にすまなかった」

 

 メルドはハジメが生きていたことに心底喜びまた、あの時、助けられなかった事を土下座する勢いで謝罪した。

 

「メルドさん顔をあげてください。僕は生きている。それでいいじゃないですか」

 

 頭を深く下げたメルドにハジメは居心地悪そうにして謝罪を受け取った。

 

 ハジメとしては、全く気にしていなかったというか、メルドが言った「絶対助けてやる」という言葉自体忘却の彼方だったのだが……深々と頭を下げて謝罪するメルドを前に空気を読んだのだ。

 

「それに僕が生き残れたのは彼のおかげですよ」

 

 メルドの謝罪と共に抱き着いていた香織を自然と離れさせ…香織は離れさせるときに若干不満げそうだった…コウスケに視線を向けるハジメ。つられてコウスケを見たメルドは深々と頭を下げる。

 

「光輝…お前もすまなかった。そして私たちを助けてくれてありがとう」

 

(やば!名前を言わないでって言うの忘れてた!)

 

「「「「光輝?」」」」

 

 メルドの発した名前にオウム返しのように名前を言うクラスメイト達。自然とコウスケに注目が集まる。

 

(やべぇ…どうする?どうしよう。誤魔化すか?でも名前を言っちゃったしなーあ~糞、もういいか!臨機応変その場その場で考えて激流に身を任せれば、後はどうにでもなるだろ!)

 

 一瞬で判断したコウスケは観念したように仮面を外す。

 

「「「「「「「天之河(君)!!」」」」」」

 

 露わになった顔に息をのむ声と驚きに満ちた声が聞こえた、がコウスケはあえてそれを無視してメルドに話しかける

 

「…謝らないでくださいメルドさん。あれは俺の責任でもあるんです。(分かっていたはずなのに)突然のことで何もできなくて…だから、そんなに自分を責めないでください。折角の男前な顔が台無しですよ」

 

 目を伏せ、あの時のことを思い出す。自分が何もしなければ問題ないと油断していたのが全ての原因だった。だからメルドが謝る必要ではないと自分たちは生きていたから問題はないとおどけながら明るく言い放つ。

 明るく言い放ったコウスケに思う事があるのかもう一度だけすまんとメルドは言うと立つのに疲れたのか座り込んでしまった。

 

「光輝!お前生きてやがったのか!」

 

 メルドとの会話が終わったのを察してか顔を喜びを露わにしながら坂上龍太郎が駆け寄ってくる。その姿にコウスケは内心ビビってしまう。何せ190㎝の巨体が自分めがけて突っ込んでくるのだ。いくら魔物を片手間に処理出来るコウスケと言えども巨人のような人間は竦んでしまうのだった。

 

「あ、ああ、龍太郎。俺が死ぬわけないだろ。だから離れてくれないか。男に抱き着かれて喜ぶ趣味はないんだ」

 

 嬉しさの余り抱きしめようとする龍太郎に距離を取り困ってしまうコウスケ。どうせ抱き着かれるなら美少女が良いと雫を見ると目の端に涙を浮かべている姿が見えギョッとしてしまう

 

「光輝…生きていたのね…よかった…」

 

 目をこすりながら嬉し泣きをする雫に対して申し訳なさがいっぱいになるコウスケ。ほかのクラスメイトを見ると皆同じように喜んでいる者やら涙ぐんでいる者安堵している者など『天之河光輝』が生きていることに誰もが歓喜していた。

 

(天之河光輝が生きていて皆嬉しそうだね~でも残念!ここにいるのは天之河光輝の皮をかぶったただの別人です!ごめんね皆。天之河光輝じゃなくてさ…っとそれよりメンヘラは…)

 

 なるべく不自然にならないようにクラスメイト達の中からメンヘラ少女を探し出すと、その顔は驚愕に満ち溢れていた。そしてコウスケと目が合うと一瞬ドン引きするぐらい悦楽に満ちた狂気的な目の色をし、すぐに顔を俯き再び顔をあげると他のクラスメイト達と同じように嬉しそうに眼に涙を止めていた。

 

(……こ、怖い。凄く怖い。あれはヤバイ。なんか一番怖いのは魔物で神でもなく人間でしたってぐらい怖い。…今のうちに殺っておくか?でも、南雲達にどう説明を……うん。関わらないようにしよう。俺は天之河光輝じゃないんだ。ああなったのは天之河のせいなんだから俺は関係ない。臭い物には関わらない蓋をする。生きる上での教訓ですな)

 

 内心かなりビビり恐怖し、今のうちに処理をすべきかと考えるも結局コウスケはかかわらない事を選択した。本来なら自分がどうにかするべきなのだろう。しかし、面倒な他人の事情をわざわざかかわるのは嫌でしょうがないのだ。

 

 そんな事を考えているとわらわらとコウスケの周りに人が集まってき始めた。中にはコウスケの横に立つ絶世の美少女ユエのことを聞き出そうとする者もいる。めんどくさくてしょうがないと頭をポリポリと掻いているとユエが小さくも明瞭に響く声でこの場所から離れるようにコウスケとハジメに話し始めた。

 

「ん、2人とも行こう?」

 

「そうだね。用はすんだし行こうか。みんなが待ってるからね」

 

「だな。っとそうだ。南雲、ユエ、悪いけど先導してくれるか?殿は俺がするからさ」

 

 疑問そうにコウスケを見るもすぐに快く先に歩いていくハジメとユエ。クラスメイト達は仲の良さそうなハジメとコウスケに疑問そうな顔をし、説明してほしそうにコウスケを見るが、

 

「ほら、行った行った。ただでさえ皆疲労しているんだろ?今魔物に襲われたら対処できるのか?あの2人の邪魔をせずについていけば安全に脱出できるぞ」

 

 と言うコウスケの言葉に慌ててハジメの後を追っていった。香織だけは一瞬コウスケに視線を向けるもおとなしくほかの皆と同じようにハジメの後についていく。あとに残されたのはコウスケといつの間にかコウスケに肩を持たれているメルドだけだった。

 

「気配感知に問題はなし。迷わないように後をついていくようにして…さてメルドさん。俺達も行きましょうか」

 

「あ、ああ。しかし光輝。いったい何があったんだ。どうして2人だけに…」

 

「それについては、移動しながら話します」

 

 メルドの肩を持つと有無を言わさずそのまま歩き始めるコウスケだった。

 

 

 

 

 

 

 

『まさか…神が遊戯のように我らの命をもてあそぶとは…』

 

『信じられませんか?しかしそれが事実です。あなた達トータスの人間が信じてきた神は色々をこじらせすぎて自分以外のすべてを玩具だと考えているただの阿保です』

 

 ダンジョンを歩きながらメルドに自分たちの事とこの世界の真実をいくらかの説明をしたコウスケ。ちなみに盗聴の可能性を考えてハジメが生成魔法で作った、念話の技能が使えないものでも使えるようになる携帯型念話石を使って会話をしている。

 

『信じられんが…しかし俺を助けてくれたお前が嘘を言ってるとは到底思えん。信じるぞコウスケ』

 

『ありがとうございます…よかった。あなたに信じてもらえるのがこんなに嬉しいとは…』

 

 メルドの信じるという言葉に顔がほころぶコウスケ。実は自分が天之河光輝ではないという事はすでに伝えてある。余りにもいきなりなカミングアウトだったがメルドは素直に信じてくれた。どうやら命を救われたという事がメルドの信用に値するという結果につながったのだろう。

 

『ふふ、そんな気弱なことを言うな。戦っているお前はかなり勇敢だったぞ。ぜひ騎士団にスカウトしたいくらいだ』

 

『かなり嬉しいけど謹んでお断りさせてもらいます。…貴方と一緒の職場で働けたらなとは思いますけど…ってそうだ!』

 

『なんだ?いきなり大声を出して、この石、かなり通話性が良くてお前の声が頭によく響いてくるんだが』

 

 コウスケの突然の声に顔を竦めるメルド。しかしコウスケはお構いなしにメルドに説明をした。

 

『騎士団で思い出しました。メルド団長!実は召喚された人間たちの中に裏切者が居ます』

 

『なんだと!?一体誰だ!』

 

 コウスケに負け劣らず大きな声を出すメルドだが、言った瞬間コウスケはぐっと躊躇してしまった。今裏切者は誰かを言うべきなのか。もし言った所でさらに途方もなくメルドが危険になってしまうのではないか。不安の種は尽きることはなくメルドを支える腕に力が張ってしまう。

 

『それは、すみません言えません。本当なら俺が対処すべきなんでしょうが…どうすればいいのかわからないんです。もし言ったら、貴方は徹底的にマークされてしまうのではないかと…でも言わないとあなたは死んでしまう…どうすればいい?どうすればあなたを助けることができるんだ!?あなたは惜しい人間じゃない!()()()()()()()()!』

 

『コウスケ…お前』

 

 どうすればいいのか、激高し悩むコウスケに打開策は思いつかない。一番は首謀者を無理矢理捕まえるべきだがそのせいでしわ寄せに何が起こるかわからない、2番目に自分がメルドのそばにいて危険から守ればいいのだが、その場合ハジメ達から離れてしまう。あくまでも優先はハジメ達だ。自分が離れてしまう事でどんなイレギュラーが襲い掛かってくるか分からない。だから自分がそばにいるのは却下だ。

 

 そんな悩み堂々巡りをするコウスケに低く力強い言葉が聞こえてきた。

 

『コウスケ。話せないという事は何かおまえにも事情があるのだろう。それが何なのか俺は問わん。むしろ危険を知らせようとするのはよく伝わっている。だから大丈夫だ。今お前の隣にいる男が誰なのか知っているか?このハイリヒ王国最強の男メルド・ロギンスだ。いきなり襲われるならともかく、危険が迫っているのなら十分に対処できる』

 

 任せろと男くさい顔をするメルドにコウスケは何も言えなくなってしまった。このままメルドに甘えていて大丈夫なのか不安は尽きないがせめて助言だけはしておこうと情報を伝える

 

『…ありがとうございます。俺を信じてくれて…これから先もしかしたら王国の主要な人間たちや貴族、騎士団の中からうつろな表情をして生気のない者たちが出てくるかもしれません。気を付けてください』

 

『ふむ…なるほど、それだけ分かれば後は大丈夫だ』

 

 コウスケの言葉にすぐに対処法を思いついたのか頷くメルドはコウスケにはとても頼もしかった。

 

『さぁそろそろ出口だ。しゃんとしろコウスケ。折角のハンサム顔が台無しだぞ。今はまだ天之河光輝の演技をしなければいけないんだろう?』

 

『…はい。どうか生きてまた会いましょうメルドさん』

 

『ああ、その時は俺のとっておきの店を紹介してやる』

 

 

 そのまま2人はオルクス大迷宮の入場ゲートのある広場へ向かっていった。外のよく晴れた日差しはまるでコウスケの不安を消し飛ばすかの様であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅かったね」

 

「悪い、迷った」

 

「なんだそれ」

 

 

 ハジメと軽口を言いながら仲間全員と合流してギルド支部長のもとへ依頼達成報告をし、早々に町を出ようとするコウスケ。元々、イルワからの手紙を届ける為だけに寄った様なものなので、旅用品で補充すべきものもなく、直ぐに出ても問題はなかった。

 

 そんなハジメ達の後ろをぞろぞろと集団でついてくるクラスメイト達。

 理由としては香織がハジメの後ろで考え事をしながらついてきているのと天之河光輝に何があったのかの説明を待っているからだ。

 途中で変な集団が因縁を付けてきたがあっさりと撃退。その後、さて町を出ようとしたところで雫に背中を押された香織がハジメの前に一歩出てくる。

 

 

「ハジメくん、私もハジメくんに付いて行かせてくれないかな? ……ううん、絶対、付いて行くから、よろしくね?」

 

「………………へ?」

 

 第一声から、前振りなく挨拶でも願望でもなく、ただ決定事項を伝えるという展開にハジメの目が点になる。思わず、間抜けな声で問い返してしまった。直ぐに理解が及ばずポカンとするハジメに代わって、ユエが進み出た。

 

「…貴女では足手まとい、ハジメの迷惑になる」

 

「…確かに今の私は足手まといだけど、これから強くなる、ううん強くなって見せる!だから何があってもついていきたいの」

 

 香織の決意を聞いたユエは変わらず無表情だがコウスケの目には何故だかとても楽しそうに見えた。

 

「ここで友達と一緒にいた方が良い」

 

「私は好きな人と一緒にいたい」

 

「大怪我を負って後悔する」

 

「ハジメ君のそばにいない方が後悔する」

 

「…どうしてもついてくる?」

 

「うん。どうしてもハジメ君と一緒にいたい」

 

 そこまで香織の決意を聞いたユエはとても珍しく誰が見ても分かるくらい微笑みを浮かべるとそっと香織の前に手を差し出した。

 

「そう。なら貴方がハジメの横に並べれるように私が強くする」

 

「…いいの?」

 

「ん。私の名前はユエ。これからよろしく」

 

「私は白崎香織…ありがとうユエ」

 

 2人は手を取り合いしっかりと握手をする。美少女2人が手を取り合って笑いあうそんな美しく微笑ましい光景にコウスケが目を奪われているとやっとでショックから立ち直ったハジメが抗議した

 

「ええ!?そんな駄目だよユエ!危険すぎる!それに白崎さんもなんでついてくるの!?僕達の旅についてくるって物凄く危険なんだよ?分かっているの?」

 

 混乱しているハジメの前に香織は少しだけ微笑むとしっかりと顔を引き締めて、両手を胸の前で組み頬を真っ赤に染めて、深呼吸を一回すると、震えそうになる声を必死に抑えながらはっきりと……告げた。

 

「貴方が好きです」

 

「……白崎さん」

 

 香織の表情には、羞恥と想いを告げることが出来た喜びの全てが詰まっていた。そして、その全てをひっくるめた上で、一歩も引かないという不退転の決意が宿っていた。ハジメはその覚悟と誠意の込められた眼差しに何も言えず困ってしまった。

 

 何故自分のことが好きなのか理由がわからない。もしや日本にいたときいつも嬉しそうに話しかけていたのは好意を持っていたからなのか、そんなの気付くはずがないだろ、そこまでうぬぼれてなんていない、いなかったはずなのに好かれていたなんて!等々関係のないことばかり頭に浮かんできて断る口実が見つけられなかった。そんなハジメに何時だって声をかけるのはコウスケだった。

 

「連れて行こうよ。南雲」

 

「でも!」

 

「俺がいる。ユエがいる。シアがいる。ティオがいる。俺達はみんな強い。だからさ、大丈夫」

 

「……」

 

「それにいつだって言っているだろ。俺に任せておけば万事オッケーだってさ」

 

“あと付け加えるなら女の子に告白されているのに返事を蔑ろにする子に育てた覚えはありません!”

 

“うるさい!育てられた覚えなんてないよ!”

 

”んま!反抗期なのね!シアちゃん!ハジメちゃんが可愛い女の子に告白されたのに何にも返事をしないのよ!”

 

“女の子に恥を掻かせるダメダメですよハジメさん!”

 

「…はぁ…」

 

 コウスケの説得?を受けたハジメは深い溜息を吐いた後香織に真っ直ぐ向き合う。ちなみに香織の後ろでは何やらクラスメイト達が騒いでいるが全部無視だ

 

「正直に言えばいきなりすぎて返事を返すことはできない。好きと言われてもどうすればいいのか僕にはよくわからない。それでも…それでもいいのなら、一緒に、行こう」

 

「うん!ありがとうハジメ君!」

 

 最後の言葉はもごもごと呟くような声だったが、ハジメの返事を聞いた香織は花が開いたような満開の笑顔になったのだった。

 

 

 

 

「みんな、ごめんね。自分勝手だってわかってるけど……私、どうしてもハジメくんと行きたいの。だから、パーティーは抜ける。本当にごめんなさい」

 

 香織はハジメの同行の許可が出るとすぐにクラスメイト達に深々と頭を下げ自分勝手な行動を詫びた。

 そんな申し訳なさそうな香織を、鈴や恵里、綾子や真央など女性陣はキャーキャーと騒ぎながらエールを贈った。永山、遠藤、野村の三人も、香織の心情は察していたので、気にするなと苦笑いしながら手を振った。

 

 檜山達は香織の抜ける穴が大きすぎると香織に説得を続けたが香織の決意が固く説得が困難だと知ると次は天之河光輝であるコウスケに詰め寄ってきた

 

「天之河待ってくれ!お前ならわかるだろう!?俺達には香織が必要なんだ。このままいなくなっちまったら死人が出ちまう!それはお前の望むことじゃないだろう!?」

 

 コウスケに詰め寄ってくる檜山の目は狂気的な色をしていた。まるで自分のものが手元から離れてしまうのではないかとでも言いたげなようで。

 

「諦めるんだ。香織は物じゃない。自分で選び自分で判断したんだ。なら俺たちはそれを祝福するのが普通なんじゃないか」

 

 檜山に無駄だとは思いつつも説得するコウスケ。天之河光輝の様に言えているか不安ではあるがばれないように必死で祈る。そして祈りながら思い人を取られて嫉妬に狂っている檜山を哀れに思う。いったい何が切っ掛けでそんなに香織に好意を持つようになってしまったかのか。

 コウスケの至極全うな正論に何も言えなくなったのかすごすごと引き下がる檜山。やれやれと思った瞬間今度は女子生徒から話しかけられ表情に出さないが心の中で絶叫をあげるコウスケ

 

「光輝君は…?もしかして私達を置いて行っちゃうの?そんなの寂しいよ」

 

「恵理…」

 

 コウスケに話しかけてきたのは中村恵理だった。その目は折角会えたのにまた離れることを寂しがっているようで周囲の者も恵理に同調していた

 

「その通りだ光輝!俺たちはお前が死んだって思わなくてずっと探していたんだ!なぁ行っちまうのかよ」

 

 龍太郎が代表して光輝であるコウスケを引き留める。だがコウスケはハジメと離れる気は毛頭ない。すぐに言い訳を思いつき堂々と話し始める。…ちなみに心の中は絶叫中なのでほぼ反射で物事を言っている

 

「そうだな。俺もみんなとまた離れるのは寂しい。でもこれは仕方がないんだ」

 

「仕方ないって…」

 

「南雲についていけばこの戦争を終わらせることができるかもしれない。俺…皆には戦争なんか参加してほしくない。皆には笑って生きていてほしいんだ。…痛いことも辛いことも全部俺が引き受ける。だからみんなもう戦わなくていいんだ。手が血に汚れることもなく。魔物に命をかけて戦う事もなく。命の奪い合いなんて知らずに幸せに生きていてほしい」

 

「天之河君…」

 

 うつむきながらも声を絞り出す悲痛なその姿にクラスメイト達は言葉を失う。いったい奈落に落ちてから何があったのか想像するしかできないがそれはとても凄惨なことだったんだろう。俯いた顔をあげたその顔はそれでも明るく務めるように見えて誰も何も言えなかった

 

「だから皆。いったんここでさよならだ。また会う日にはきっと状況はよくなっているはずだから…そうだな、それまでは自主学習でもしていてくれ。そろそろテストが近かったしさ、ほら日本に帰ってから学力が落ちていると面倒だろ?それで俺が帰ってからは一緒にテスト勉強でもしようよ」

 

「光輝くん…うん!鈴達帰りを待っているからね!気を付けてね!カオリンをちゃんと守るんだよ!」

 

 コウスケの言葉に谷口鈴がはにかみながら胸を張る。その姿に自分がうまく天之河光輝を演じられたこと知ることができた。コウスケは感動を覚え思わず目の前の鈴の頭を撫でてしまう。

 

「わわわっ!」

 

「あ、ごめん。なんか触り心地良さそうだから、つい」

 

 恥ずかしそう顔を赤くしながら後ずさる鈴にハッと正気に戻り素直に謝るコウスケ。周りを見回すと自分の言い訳に納得したのか誰もがコウスケを見送るつもりのようだ。

 

 その後ようやく出発まで行ける状態になったハジメ達。香織が宿で自分の手荷物をシアと一緒に取りに行ってる間(念のためコウスケがシアについていくように頼んだ)ハジメはこれからいろいろ苦労するかもしれない雫に黒刀を渡していた。

 ちなみにコウスケはメルドにハジメが遊びで作った錬成鎧(本当に遊びで作ったので特殊な効果はない)を渡していた。本来は自分が着る筈だったがそのままお蔵入りになっていたものだった。

 

「これは?」

 

「八重樫さん、剣折れてたよね? あげる。唯でさえ苦労人なのに、白崎さんが抜けたら“癒し(精神的な)”もなくなるからね。まぁ、日本にいたとき色々世話になったお礼」

 

「…女の子に武器を渡すなんてよく考えれば変じゃないか?」

 

「そうかな?」

 

「そうだよ南雲。だから俺からは、ハイこれ」

 

 メルドに鎧を渡し終えたコウスケが雫に渡したのは勾玉を模したアクセサリーだった。目を白黒する雫に簡単にどんなものか説明するコウスケ

 

「南雲のとは違ってそんなに強力じゃないけど一応体が少し頑丈になって小さな傷なら回復するように魔法が込められている。今後もし何かあった時身に着けているといいかもね」

 

「光輝…貴方本当に性格が変わっちゃったのね。女の子にそんな気遣いができるなんて…ありがとう2人とも大事にするわ」

 

 2人からの贈り物に素直に嬉しく、自然笑みも可憐なものになる雫。そんな雫をなんだかなーと思い始めるコウスケ。

 

(うーんここまで()()()()()()()()()()()?そりゃさっきから気付かれないようにって祈りまくっているけどさ…一応幼馴染なんだし…ハッ!?もしかして八重樫雫にとって天之河光輝とは忘れられる人間だった!?…哀れなり光輝。南無)

 

 なんとも言えない気持ちになりながらもハジメ達はホルアドの町を後にした。

 天気は快晴。目指すは【グリューエン大砂漠】にある七大迷宮の一つ【グリューエン大火山】。新たな仲間を加え賑やかさを増しながら、ハジメの旅は続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(………うん。やっぱりこの人は色々と変な所が多すぎる。…どうしてハジメ君は気付かないの?)

 

 

 香織の疑問を残しながら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次の話で第三章は終わりかもです。

はぁー長かった。

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