ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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少し書いては投稿することにします

GWが忙しいのでこれから投稿ができなくなるかも…です

たま―に息抜きで別の設定のありふれ短編を書きたくなります。でも書いてしまったこちらがおざなりになってしまうんでしょうね…


第4章
赤銅色の砂漠で


 

 

 

 赤銅色の世界。

 

 【グリューエン大砂漠】は、まさにそう表現する以外にない場所だった。砂の色が赤銅色なのはもちろんだが、砂自体が微細なのだろう。常に一定方向から吹く風により易々と舞い上げられた砂が大気の色をも赤銅色に染め上げ、三百六十度、見渡す限り一色となっているのだ。

 

 また、大小様々な砂丘が無数に存在しており、その表面は風に煽られて常に波立っている。刻一刻と表面の模様や砂丘の形を変えていく様は、砂丘全体が“生きている”と表現したくなる程だ。照りつける太陽と、その太陽からの熱を余さず溜め込む砂の大地が強烈な熱気を放っており、四十度は軽く超えているだろう。舞う砂と合わせて、旅の道としては最悪の環境だ。

 

 もっとも、それは“普通の”旅人の場合である。

 

 現在、そんな過酷な環境を、知ったことではないと突き進む黒い箱型の乗り物、魔力駆動四輪が砂埃を後方に巻き上げながら爆走していた。道なき道だが、それは車内に設置した方位磁石が解決してくれている。

 

 

 

 

「……外、すごいですね……普通の馬車とかじゃなくて本当に良かったです」

「全くじゃ。この環境でどうこうなるわけではないが……流石に、積極的に進みたい場所ではないのぉ」

 

 車内の後部座席で窓にビシバシ当たる砂と赤銅色の外世界を眺めながらシアとティオがしみじみした様子でそんなことを呟いた。

 

 

 

「砂漠の荒れ地を進む…か。砂嵐じゃあなかったら俺が運転したいんだけどな」

 

「まぁまぁここは我慢して、僕に任せておいてよ」

 

 助手席で外の景色を退屈そうに眺めながらぼやくコウスケとなだめるハジメ。外が快晴ならコウスケが運転する予定だったがあいにく砂嵐でテンションが下がってしまったのだ。荒れ地を颯爽と運転するのが楽しみだったため、いつになくやる気が起きないコウスケ。

 

「はぁーまぁ桃色お花畑な空間じゃないからそれだけでもマシとするかねぇ」

 

「…それ、もしかして僕と白崎さんの事を言っているの?」

 

「んー南雲の事じゃあなくて別の誰かの事…と言いたいんだけど、なんだまだ返事を悩んでいるのか?あんな可愛い女の子に告白されたのにー」

 

 面倒そうに運転しているハジメを見ると、その顔は複雑そうにバックミラーでミュウをあやしている香織をちらりと見ていた

 

「そりゃ告白されたことは嬉しいよ?でもさだからと言って反射的にすぐに返事をするのは違う気がするんだ」

 

「ふーむ?」

 

「なんていうのかな。好きになってくれたから好きになるのは違うような…相手のことをよく知らずに返事をするのは失礼な気がして…もっと簡単に言うと、どうして僕なんかを好きになったのかななんて思ってさ。色々考えてしまうんだよ」

 

 悩みを明かすハジメの苦悩はコウスケにはわからない。出てきた言葉は多少の呆れが混じったものだ

 

「普通の男だったら、あんな可愛い子に告白されたら舞い上がってすぐオッケーするのに、南雲はまじめだなぁ」

 

「真面目なのかなぁ…それよりコウスケの方はどうなのさ」

 

「どうって?」

 

「好きな女の子はいないの?顔は…ともかくコウスケは性格が良いんだから、誰か気になる女の子がいたら協力するよ?」

 

「むむむ…女の子か」

 

 ハジメの言葉に黙り込んでしまうコウスケ。思えばそんな事を考えたこともなかった。最も考えたところで誰かを好きになる事なんて想像することさえ難しいが。

 

「考えたこともないな。そもそも俺は女の子に一途に惚れられたりするような奴じゃありませんので~」

 

「なにそれ、言外に僕のことを言っているの」

 

 

 そんな風に男同士で雑談をしているとティオから外で何か起こっていると注意を促された。窓の外に何かを発見したらしい。

 

 言われるままにそちらを見ると、どうやら右手にある大きな砂丘の向こう側に、いわゆるサンドワームと呼ばれるミミズ型の魔物が相当数集まっているようだった。砂丘の頂上から無数の頭が見えている。

 

 このサンドワームは、平均二十メートル、大きいものでは百メートルにもなる大型の魔物だ。この【グリューエン大砂漠】にのみ生息し、普段は地中を潜行していて、獲物が近くを通ると真下から三重構造のずらりと牙が並んだ大口を開けて襲いかかる。察知が難しく奇襲に優れているので、大砂漠を横断する者には死神のごとく恐れられている。

 

 幸い、サンドワーム自身も察知能力は低いので、偶然近くを通るなど不運に見舞われない限り、遠くから発見され狙われるということはない。なので、砂丘の向こう側には運のなかった者がいるという事なのだが……

 

「? なんで、アイツ等あんなとこでグルグル回ってんだ?」

 

 そう、ただ、サンドワームが出現しているだけならティオも疑問顔をしてハジメに注視させる事はなかった。ハジメの感知系スキルなら、サンドワームの奇襲にも気がつけるし、四輪の速度なら直前でも十分攻撃範囲から抜け出せるからだ。異常だったのは、サンドワームに襲われている者がいるとして、何故かサンドワームがそれに襲いかからずに、様子を伺うようにして周囲を旋回しているからなのである。

 

「…騒動の気配がする。全員シートベルトを着用しろ。香織、ミュウの事を頼んだぞ」

 

「は、はい!」

 

「南雲、武装の用意だ。こんな時のためにいろいろ仕込んで置いたんだろ。絶好のチャンスだ」

 

「了解!ふふ、ほんといろいろ備えておいてよかった!」

 

 コウスケの警戒の声に全員がいそいそとシートベルトを着用しハジメが魔力4輪駆動を変形させロケット弾がセットされたアームをサンドワームに向ける。そのまま迫り来るサンドワームの方へ砲身を向けると、バシュ! という音をさせて、火花散らす死の弾頭を吐き出した。

 

 オレンジの輝く尾を引きながら、大口を開けるサンドワームの、まさにその口内に飛び込んだロケット弾は、一瞬の間の後、盛大に爆発し内部からサンドワームを盛大に破壊した。サンドワームの真っ赤な血肉がシャワーのように降り注ぎ、バックで走る四輪のフロントガラスにもベチャベチャとへばりついた。

 

「うーん、汚ねぇ花火だ」

 

「うわぁ…と、とりあえず移動しながら攻撃していくよ!」

 

 その後シュラーゲンに酷似したライフル銃を撃ちまくりながら移動していたハジメ達は白い衣服に身を包んだ人が倒れ伏していたのを発見した

おそらく、先程のサンドワーム達は、あの人物を狙っていたのだろう。しかし、なぜ食われなかったのかは、この距離からでは分からず謎だ。

 

 香織が倒れている人を助けたいと懇願し、すぐにコウスケが了承。ハジメも襲われなかった理由が気になったので助けることにした。

 

 

 倒れていた人物を介抱し治療を始める香織を見つめるコウスケ。そんなコウスケにシアが声をかける

 

「今香織さんが頑張って治療しようとしていますけど…コウスケさんの快活ならすぐに治るんじゃないですか?」

 

「あーどうだろ?試してみないと分かんないけど…俺参加する気ねぇからなー」

 

 気の抜けたようなコウスケの声にシアが非難するように目を向ける。

 

「コウスケさん…」

 

「そんな顔すんなって、そりゃ俺がやれば解決するかもしれないけどさ。それじゃあの子が付いてきた意味も能力も台無しだろ?(タンク)香織(ヒーラー)の役割を奪ってどうするんだよ。それにあれぐらいどうにかしてくれなきゃな」

 

 魔法を唱え倒れていた青年に向かって治療を続ける香織を見て肩をすくめるコウスケ。香織が参入してから考えていたことだった。今までは自分の快活と神水が有れば事足りた。しかし増々これから何が起きるか分からない。そんなときに彼女の能力は文字通り死活問題になるかもしれないのだ。

 

(原作での彼女の治癒は出番がなかった。もしかしたら今後も出番はないかもしれない。でも、それじゃあダメだ。香織には申し訳ないけどもっともっと強くなってほしい。)

 

 今現在ハジメ達が怪我をする可能性はかなり低い。ハジメとシアは攻撃が来る前に回避できる。ティオとユエは魔法で被害を減らすことができる。何より盾として自分が居るので攻撃が通用するとは考えにくい。しかしもしもの事を考えてしまうと香織には治癒術師としてさらなる成長をしてほしいのだ。

 

(頑張ってくれよ…もし俺が居なくなっても、何とかなるようにさ)

 

 いつの間にか晴れていた空を見ながら、そんな事を考えるコウスケだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




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