世間一般の連休なんて嫌になります
かなり久しぶりなので所々不安です
【グリューエン大火山】
それは、アンカジ公国より北方に進んだ先、約百キロメートルの位置に存在している。見た目は、直径約五キロメートル、標高三千メートル程の巨石だ。普通の成層火山のような円錐状の山ではなく、いわゆる溶岩円頂丘のように平べったい形をしており、山というより巨大な丘と表現するほうが相応しい。ただ、その標高と規模が並外れているだけで。
この【グリューエン大火山】は、七大迷宮の一つとして周知されているが、【オルクス大迷宮】のように、冒険者が頻繁に訪れるということはない。それは、内部の危険性と厄介さ、そして【オルクス大迷宮】の魔物のように魔石回収のうまみが少ないから……というのもあるが、一番の理由は、まず入口にたどり着ける者が少ないからである。
その原因が、
「……まるでラピュ○だね」
「…龍の巣じゃーって叫べばいいのか?」
「そういう訳じゃないけど…なんだか懐かしいね」
「なんかまた見たくなってきたなラピュ○」
【グリューエン大火山】は、かの天空の城を包み込む巨大積乱雲のように、巨大な渦巻く砂嵐に包まれているのだ。その規模は、【グリューエン大火山】をすっぽりと覆って完全に姿を隠すほどで、砂嵐の竜巻というより流動する壁と行ったほうがしっくりくる。
しかも、この砂嵐の中にはサンドワームや他の魔物も多数潜んでおり、視界すら確保が難しい中で容赦なく奇襲を仕掛けてくるというのだ。並みの実力では、【グリューエン大火山】を包む砂嵐すら突破できないというのも頷ける話である。
「つくづく、徒歩でなくて良かったですぅ」
「流石の妾も、生身でここは入りたくないのぉ」
「そもそもな話あれを普通の冒険者がどうにか潜り抜けることができるのか?」
「…風魔法とアーティファクトでどうにかする?」
「それはいくらなんでも脳筋過ぎないか?ただの冒険者でもユエと同じような魔力量を持っているわけでもないしアーティファクトなんて滅多にお目に掛かれるもんじゃなさそうだし」
ハジメと同じく窓から巨大砂嵐を眺めるシアとティオも、四輪に感謝感謝と拝んでいる。ハジメは、苦笑いしながら、それじゃあ行くかと四輪を一気に加速させた。今回は、悠長な攻略をしていられない。表層部分では、静因石はそれ程とれないため、手付かずの深部まで行き大量に手に入れなければならない。深部まで行ってしまえば、おそらく今までと同じように外へのショートカットがあるはずだ。それで一気に脱出してアンカジに戻るのだ。
砂嵐の内部は、まさしく赤銅一色に塗りつぶされた閉じた世界だった。【ハルツィナ樹海】の霧のように、ほとんど先が見えない。物理的影響力がある分、霧より厄介かもしれない。ここを魔法なり、体を覆う布なりで魔物を警戒しながら突破するのは、確かに至難の業だろう。
途中サンドワームなどの魔物の襲撃があったがティオとユエの魔法で難なく切り抜け、ボバッ! と、そんな音を立てて砂嵐を抜け出たハジメ達の目に、まるでエアーズロックを何倍にも巨大化させたような岩山が飛び込んできた。砂嵐を抜けた先は静かなもので、周囲は砂嵐の壁で囲まれており、直上には青空が見える。竜巻の目にいるようだ。
【グリューエン大火山】の入口は、頂上にあるとの事だったので、進める所まで四輪で坂道を上がっていく。露出した岩肌は赤黒い色をしており、あちこちから蒸気が噴出していた。活火山であるにも関わらず、一度も噴火したことがないという点も、大迷宮らしい不思議さだ。
やがて傾斜角的に四輪では厳しくなってきたところで、ハジメ達は四輪を降りて徒歩で山頂を目指すことになった。
「うわぅ……あ、あついですぅ」
「ん~……」
「あ、汗が止まらねぇ…」
「ここは砂漠の日照の暑さとは全く違う暑さだね…さっさと攻略しよう」
「ふむ、妾は、むしろ適温なのじゃが」
「マジかよ…竜人族ってのは暑さに強いのか?流石は火を吐く竜だ、普通の人間とは違うんだな」
割と平然としているティオに全身から汗を拭きだしながら悪態をつきそうになるコウスケ。全身から噴き出る汗に不快感が強くなってきて歩くのが億劫になってくる。汗をタオルでふき取りながらも懸命に足を動かし上っていく一行は一時間もかからずに山頂にたどり着いた。
たどり着いた頂上は、無造作に乱立した大小様々な岩石で埋め尽くされた煩雑な場所だった。尖った岩肌や逆につるりとした光沢のある表面の岩もあり、奇怪なオブジェの展示場のような有様だ。砂嵐の頂上がとても近くに感じる。
そんな奇怪な形の岩石群の中でも群を抜いて大きな岩石があった。歪にアーチを形作る全長十メートルほどの岩石である。
ハジメ達は、その場所にたどり着くと、アーチ状の岩石の下に【グリューエン大火山】内部へと続く大きな階段を発見した。
「それじゃあ、迷宮攻略、開始しようか」
「…ああ」
「んっ!」
「はいです!」
「うむっ!」
ハジメの号令と共に一行は【グリューエン大火山】の攻略を開始するのだった。
【グリューエン大火山】の内部は、【オルクス大迷宮】や【ライセン大迷宮】以上に、とんでもない場所だった。
難易度の話ではなく、内部の構造が、だ。
まず、マグマが宙を流れている。亜人族の国フェアベルゲンのように空中に水路を作って水を流しているのではなく、マグマが宙に浮いて、そのまま川のような流れを作っているのだ。空中をうねりながら真っ赤に赤熱化したマグマが流れていく様は、まるで巨大な龍が飛び交っているようだ。
また、当然、通路や広間のいたるところにマグマが流れており、迷宮に挑む者は地面のマグマと、頭上のマグマの両方に注意する必要があった。
しかも、
「ひょわ!」
「大丈夫?」
「お、おう問題ない…それにしたってゲームだと単純なトラップが現実だと致命的なトラップになるなんてな…赤い配管工のおっさんは凄げぇや」
壁のいたるところから唐突にマグマが噴き出してくるのである。本当に突然な上に、事前の兆候もないので察知が難しい。まさに天然のブービートラップだった。ハジメが“熱源感知”を持っていたのは幸いだ。それが無ければ、警戒のため慎重に進まざるを得ず攻略スピードが相当落ちているところだった。
そして、なにより厳しいのが、茹だるような暑さ――もとい熱さだ。通路や広間のいたるところにマグマが流れているのだから当たり前ではあるのだが、まるでサウナの中にでもいるような、あるいは熱したフライパンの上にでもいるような気分である。【グリューエン大火山】の最大限に厄介な要素だった。
「……うぅ」
唸るような熱気、体中から出てくる不快な汗、いたるところが白熱し埋め尽くされた視界。入るまでは元気だったコウスケの精神は
じりじりと削られていく。一行から離れないように歩いてはいるものの次第に気力が下がっていくのが分かる。幸いマグマを纏った魔物たちはシアやユエ、ハジメが次々と殲滅して行くのでコウスケが戦闘することはなかったがそれでも暑さには耐えるのは辛い
「…ふむ。コウスケ肩を貸すがよい」
「……?」
「歩くだけでも辛いのじゃろう?妾が支えてやる」
朦朧としているコウスケに気が付いたのかティオがそばに近寄り肩を貸しコウスケの消耗が幾分か楽になる。
「……」
「うむ。言いたいことはちゃんと伝わっておる。だからそんな顔をするではない。妾達は仲間じゃろう」
言葉にする元気も出ず、礼と謝罪を言おうと顔をあげたが言いたいことはちゃんと伝わっているのかティオは気にするなと顔を横に振った。そんなティオにコウスケは感謝しつつ少しずつ迷宮を進んでいく。
途中で薄い桃色の鉱石…静因石を見つけたが小さく使い物にならずやはり深部に行かなければアンカジ公国の病を止めるだけの量は取れないという事だった。
「はぁはぁ……暑いですぅ」
「……シア、暑いと思うから暑い。流れているのは唯の水……ほら、涼しい、ふふ」
「ユエ…それはただの幻覚だよ…」
その後も暑さに辟易しながら進み次第に熱気でユエとシアがおかしくなってきたところでいったん休憩をとることになった
ハジメは、広間に出ると、マグマから比較的に離れている壁に“錬成”を行い横穴を空けた。そこへユエ達を招き入れると、マグマの熱気が直接届かないよう入口を最小限まで閉じた。更に、部屋の壁を“鉱物分離”と“圧縮錬成”を使って表面だけ硬い金属でコーティングし、ウツボモドキやマグマの噴射に襲われないよう安全を確保する。
「…『冷風』」
部屋に入るとすぐにコウスケが氷と風の複合魔法を使い部屋の温度を下げる。途端に熱気のこもった部屋はすぐに涼しくなり、全員の顔がほころぶ。その後続けてユエが部屋の真ん中に氷塊を作りティオが風を使い部屋の温度を調整させる
「はぅあ~~、涼しいですぅ~、生き返りますぅ~」
「……ふみゅ~」
女の子座りで崩れ落ちたユエとシアが、目を細めてふにゃりとする。タレユエとタレシアの誕生だ。ハジメはそんな2人に内心萌えていると袖をクイクイと引っ張られた。見ると汗だくになったコウスケがタオルとコップを要求しているのが分かりすぐに宝物庫から人数分のタオルとコップを取り出す。
タオルを受け取ったコウスケは汗を拭いつつコップに水の魔法で飲料水を作って皆に配っていく。その間ずっと無表情で何もしゃべらないのがハジメには薄気味悪かった
「コウスケ…大丈夫?」
「…」
ユエとシアから離れて水を飲みつつひたすら汗をぬぐっているコウスケは手をひらひらさせ返事をする。どうやら喋る余裕すら無い様だ。少し心配になったハジメにティオが話掛けてくる
「ふむ…コウスケはだいぶ参っているようじゃの…どうやらこの暑さがこの大迷宮のコンセプトなのじゃろうな」
参るほどではないとは言え、暑いものは暑いので同じく汗をかいているティオがタオルで汗を拭いながら言った言葉に、ハジメが首をかしげる。
「コンセプト?」
「うむ。ハジメから色々話を聞いて思ったのじゃが、大迷宮は試練なんじゃろ? 神に挑むための……なら、それぞれに何らかのコンセプトでもあるのかと思ったのじゃよ。例えば、ハジメやコウスケが話してくれた【オルクス大迷宮】は、数多の魔物とのバリエーション豊かな戦闘を経て経験を積むこと。【ライセン大迷宮】は、魔法という強力な力を抜きに、あらゆる攻撃への対応力を磨くこと。この【グリューエン大火山】は、暑さによる集中力の阻害と、その状況下での奇襲への対応といったところではないかのぉ?」
「……なるほど……攻略することに変わりはないから特に考えたことなかったけど……試練そのものが解放者達の“教え”になっているってことか」
ティオの考察に、「なるほど」と頷くハジメ。ならほかの大迷宮は何のコンセプトがあるのかと思った所でさっきから汗をぬぐっているユエとシアからさらに距離を取ったコウスケがべちゃりと突っ伏しているのが見えた。流石にそろそろ心配になったので声をかけることにする
「本当に平気なの?」
「俺さ…」
「ん?」
「俺、日本に帰ったらゲームのキャラ達に優しくすることにする…こんなにもマグマが熱いなんて…ごめんねマ○オ、リン○、いつもいつもショートカットとか何とかでマグマの中に突っ込ませて本当にごめんね」
暑さが随分と応えたらしい。有名な赤い配管工と緑の勇者にうつぶせになりながら謝っているコウスケ。どうやら余計なことを言う体力は戻っているらしい。ハジメも近くの壁に寄りかかりながら座ることにした。
「ハイハイ、変なこと言ってないでもっと汗を拭かないと風邪をひくよ」
「ウィ」
短く答えた返事と共にずるずると起き上がるとハジメと一緒になってのろのろと汗を拭き始めるコウスケ。見ればまだ頭が茹だっているのか、目はうつろで氷塊をぼんやりと見つめている。
「……こんなことを言うのもなんだけどさ」
「なに?」
「ここに香織が居なくて本当によかった」
「…そうだね。確かにこの暑さは白崎さんにはつらいだろうね」
アンカジ公国にいる自分に告白しついてきた香織の事を思い出すハジメ。ステータスが変化しやたらと強くなった自分たちに対して香織はあくまでも常識的な強さだ。みんなでフォローするとしてもこの暑さの中ではそれも難しい。結果的にアンカジ公国に残ることになったが危険なことに合わせずに済むためハジメとしてはホッと安堵していた。しかしコウスケにとってはどうも違う事を考えているようだ
「…それもあるけどさ、正直な話あの子がなんか怖いんだ」
「怖い?」
コウスケから出てきた言葉はハジメにとっては意外な言葉だった。
「…出会ってから、なんだろうな?ずっと警戒されているんだ。そりゃ俺は傍から見ればただの不審者かもしれないけど…どうしてかな、あの子と顔合わせない方が良かったとすら思っている」
おそらく本音だとハジメは確信する。暑さで精神的に疲労している今つい口から出てしまっているのだろう。
「………俺は何かミスったか?それともバレちまったのか?……あぁもう嫌だ。一体いつまで隠せば…」
「…コウスケ?」
「っ!?……すまん何でもない。ちょっと暑くて変なことを口走っちまった」
『バレた』『隠す』コウスケの口から出る不穏な発言がハジメの耳に届く。聞き返す様に名前を呼べばしまったという顔をして話を逸らす。
「…それにしても暑い。ゴロンの服とか持ってないの?」
「なにそれ?一応冷却用のアーティファクトは作ってはあるから何とか我慢しよう」
「ですよねー…おのれナイズどうしてこう面倒な場所に迷宮を作るのかな!?いくら自分が暑さに強いからって他の人もそうだとは
限らないんだぞ!?はぁー仕方ない何とか頑張りますか。」
愚痴るような話題そらしに乗ってあげながらもハジメは少しばかり悲しかった。いったい何を考えているのか、どうして思い悩むのか
少しでも力になれればと思うのに話してはくれないし、聞くのはコウスケの事を思うとどうしても憚れる。いつか思いを打ち明けてくれることを願うばかりだった。
【グリューエン大火山】たぶん、きっと五十層くらい。
それが、現在、ハジメ達のいる階層だ。なぜ“たぶん”なのか。それは、ハジメ達の置かれた状況が少々特異なので、はっきりと現在の階層がわからないからである。
具体的には、ハジメ達は宙を流れる大河の如きマグマの上を赤銅色の岩石で出来た小舟のようなものに乗ってどんぶらこと流されているのだ。
「気分は、ハードモードのインディさん……」
「馬っ鹿!お、お前この馬鹿野郎!何がインディさんだ!これはどちらかっていうとネイトさんやララさん案件だろうが!」
「コウスケさん騒がないで下さい!暴れないで下さい!船が転覆しちゃいますぅ!」
「…流水に身を任せる」
「…ユエよこれは水じゃなくてマグマじゃぞ」
なぜ、こんな状況になっているかというと……端的に言えばハジメのミスである。というのも、かなり簡潔に説明するとハジメが“静因石”が大量にある壁を宝物庫に回収した時、“静因石”によってせき止められていたマグマが噴出してきたのだ。
咄嗟に飛び退いたハジメだったが、噴き出すマグマの勢いは激しく、まるで亀裂の入ったダムから水が噴出し決壊するように、穴を押し広げて一気になだれ込んできた。
あまりの勢いに一瞬で周囲をマグマで取り囲まれたハジメ達は、ユエが、障壁を張って凌いでいる間に、ハジメが錬成で小舟を作り出しそれに乗って事なきを得たのである。小舟は、直ぐに灼熱のマグマに熱せられたが、ハジメが“金剛”の派生“付与強化”により小舟に金剛をかけたので問題はなかった。
そして、流されるままにマグマの上を漂っていると、いつの間にか宙を流れるマグマに乗って、階段とは異なるルートで【グリューエン大火山】の深部へと、時に灼熱の急流滑りを味わいながら流されていき、現在に至るというわけだ。
ちなみに、マグマの空中ロードに乗ったとき、普通に川底を抜けそうになったのだが、シアが咄嗟に重力魔法“付与効果”で小舟の重さを軽減したのでマグマに乗ることができた。“付与効果”は、シアが触れているものの重量を、自身の体重と同じように調整出来るというものだ。
「はわ!はわわわわ!」
小舟に乗っているためマグマがすぐ目の前にあるという恐怖にコウスケは気が気ではない。へたり込む様に…実際腰が抜けている…何か掴まれるものは無いかと手が宙をさまよう。
ボチャン!
「ひぃ!お、俺はまだサムズアップしながらマグマに入浴なんてしたくないぞ!」
へたり込んでいる姿がなんとも情けなく感じるがコウスケは必死だった。何が悲しくてマグマの近くにいなければいけないのか、日本にいたときは噴火などのニュースが流れても『怖いなー家が近くじゃなくてよかった』ぐらいにしか思わなかったのだ。
「…大丈夫。私がいる」
「…ユエ」
コウスケを安心させようとしたのかユエが手を握ってくる。その気持ちが気遣いがとても嬉しい、嬉しいのだが
「ユエさん俺を見ていないであのファイアキースを何とかしてくださいよ!」
絶賛小舟は大量のマグマコウモリによって襲撃を受けている真っ最中なのだ。前方はハジメがメツェライとオルカンを使い銃撃し後方はユエとティオが担当しているのだ。万が一はないとはいえできればしっかりと相手取ってほしい
「むー」
「ごめんってば!」
情けない自分が悪いといえ申し訳なさでいっぱいになるコウスケ。一応なんだかんだで小舟を守るように守護は展開はしてある。…コウスケの精神的な影響を受けてかいつもと比べればだいぶ脆そうだが…
その後も激流に上手く乗りながらもマグマの空中ロードは続いていく。気分はまるで夢の国のジェットコースターだ。
「ジェットコースターっていう割には危険度が高すぎませんかね!」
「そんなに慌てて興奮していたら振り落とされるよ!」
「だからって割と平然としているお前が怖ぇよ!なんでそんな平然としてんだ!」
「心頭滅却すれば火もまた涼し!」
「できるか!」
そんな風に騒いでいるとその先に光が見えた。洞窟の出口だ。だが、問題なのは、今度こそ本当にマグマが途切れていることである。
「掴まれ!」
ハジメの号令に、再び、小舟にしがみつく一行。小舟は、激流を下ってきた勢いそのままに猛烈な勢いで洞窟の外へと放り出された。
ハジメ達が飛び出した空間はかつて見た【ライセン大迷宮】の最終試練の部屋よりも尚、広大な空間だった。
地面はほとんどマグマで満たされており、所々に岩石が飛び出していて僅かな足場を提供していた。周囲の壁も大きくせり出している場所もあれば、逆に削れているところもある。空中には、やはり無数のマグマの川が交差していて、そのほとんどは下方のマグマの海へと消えていっている。
だが、なにより目に付いたのは、マグマの海の中央にある小さな島だ。海面から十メートル程の高さにせり出ている岩石の島。それだけなら、ほかの足場より大きいというだけなのだが、その上をマグマのドームが覆っているのである。まるで小型の太陽のような球体のマグマが、島の中央に存在している異様はハジメ達の視線を奪うには十分だった。
ティオの風魔法で無事にマグマの海に着陸した一行は小舟の上で、明らかに今までと雰囲気の異なる場所に、警戒を最大にするハジメ達。
「……あそこが住処?」
ユエが、チラリとマグマドームのある中央の島に視線をやりながら呟く。
「当たりだな。深さ的にも場所的にもいかにもって感じだ」
「ふむ。そうなると…最奥のガーディアンがいる訳じゃな」
コウスケの言葉にティオが確認をとる。その確認は正しかったようでマグマの海から炎塊がマシンガンのように小舟に撃ち放たれた。
「散開!」
そのままそれぞれが別の足場に着地する。
「っとああ怖かった」
しっかりと自分の足が地面?についたことでホッとするコウスケ。すぐに思考をこのグリューエン火山の攻略方法について切り替える。
このグリューエン火山の試練の突破方法は一つ『大量に現れるマグマの蛇を規定数倒せ』だ。そのためにどう行動するべきか判断していると丁度ハジメが突如出たマグマ蛇の攻撃を回避しているところだった。近くによるコウスケ。ほかの仲間たちもハジメのもとに集まる
「……ハジメ、無事?」
「問題ないよ。それより、ようやく本命が現れたようだ」
「やはり、中央の島が終着点のようじゃの。通りたければ我らを倒していけと言わんばかりじゃ」
「でも、さっきハジメさんが撃った相手、普通に再生してますよ? 倒せるんでしょうか?」
先ほど回避のついでにハジメから銃撃を食らったマグマ蛇はすでに再生を終え何事もなかったように元通りの姿をしている
「シアそりゃ大丈夫だ。倒せなかったらそれは試練になりえない。必ず倒せるようにはできている。倒せない敵を用意するなんてナイズはそんな性根が曲がったような奴じゃないからな」
汗を拭い自分が知っている情報をうまく伝えるように口を出すコウスケ。ハジメは一瞬訝し気な顔をするもコウスケの言葉をもとに考察する
「…なら一定数倒すってことかな」
「多分それで正解だ。あそこ中央の島見てみろ」
言われた通り中央の島に視線をやると、確かに、岩壁の一部が拳大の光を放っていた。オレンジ色の光は、先程までは気がつかなかったが、岩壁に埋め込まれている何らかの鉱石から放たれているようだ。
ハジメが“遠見”で確認すると、保護色になっていてわかりづらいが、どうやら、かなりの数の鉱石が規則正しく中央の島の岩壁に埋め込まれているようだとわかった。中央の島は円柱形なので、鉱石が並ぶ間隔と島の外周から考えると、ざっと百個の鉱石が埋め込まれている事になる
「なるほど……このマグマ蛇を百体倒すってのがクリア条件ってところか」
「……この暑さで、あれを百体相手にする……迷宮のコンセプトにも合ってる」
ただでさえ暑さと奇襲により疲弊しているであろう挑戦者を、最後の最後で一番長く深く集中しなければならない状況に追い込む。大迷宮に相応しい嫌らしさと言えるだろう。
「そういう事だ。じゃ規定通りに俺が囮をするから撃墜頼んだぞ」
「あんなに一杯の炎塊を食らったら流石に死ぬよ」
「まぁ大やけどは確実だろうな…でもこれが多分一番早いと思います」
ニヤリとコウスケが笑うとハジメは苦笑で返す。ほかの仲間たちも少々心配そうだが異論は出さない。
「それじゃ行ってきます!」
言葉と同時に誘光を使いヘイトを稼ぎ足場を乗り継いでいく。途端に始まる後方からの爆音。作戦通りマグマ蛇はコウスケを狙い始めた。
「ほっと!わっと!ジャンプ!っとなぁ!」
次から次へと足場を乗り継いでいき炎弾を躱す。当たりそうにになるものは守護を使い無理矢理防ぐ
「あつ!あつつつ!」
そばを通り過ぎる熱風がコウスケの肌を焼きそうになる。しかし脚は止まらない。むしろ加速しているような気さえした。
チラリと中央の島にある数を示す鉱石を見れば残りは八個と言うところまで来ていた。ハジメの銃撃がユエとティオの魔法がシアの鉄槌が瞬く間にマグマ蛇を粉砕していく。
「全く本当に頼りになる奴らだ!」
堪えきれず笑いそうになる中でふとコウスケは何かを忘れているような気がした
(あれ?この試練ってこんなに簡単なものだったっけ?何か忘れているような…)
マグマ蛇が確実に減っていく中、何か嫌な予感がするコウスケ。
(えーと?なんだったっけ…なんか南雲が危険な目に遭っていたような?)
チラリとハジメを見れば残りの2体に空中で銃を向けているところだった。そのはるか上で何か魔力が集まっているような気配が感じ取れた
「!」
気がついたのは一瞬、思い出したのも一瞬。すぐにコウスケは足に力を籠め爆発するような脚力を使いハジメのところまで突進する。ハジメが2体を仕留めたのとそばに近寄れたのはほぼ同時だった
「最後まで気をぬくな、勝利によいしれた時こそスキが生じる…なーんてな」
驚くハジメを蹴り飛ばしながら笑うコウスケ。
――その瞬間
ズドォオオオオオオオオ!!!!
頭上より、極光が降り注いだ。
まるで天より放たれた神罰の如きそれは、ハジメを蹴り飛ばしたコウスケに容赦なく降り注ぐのであった。
ささっとグリューエン火山は終わらせます。
それにしてもなんだかご都合主義もここまでくると大概なような気がします。
しかもこれからどんどん多くなるかもしれませんし…
少し思う事があるので活動報告更新するかもしれません