ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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かなり遅くなった気がします。おまけに短い

この頃、気晴らしで書いている短編に浮気しています。
かなりまずい状況なのでは…


灼熱の中を大脱出

 

 

 

 フリードが撤退した後ハジメ達も撤退しようとしたがそれよりもマグマの水位が上がるのが早く一刻の猶予もなかった。そんな中ハジメはしばし何かを考えるように目を瞑り”宝物庫”を握ると黒龍状態となっているティオに近寄り始めた。

 おそらく宝物庫に入っている静因石をティオにアンカジ公国まで運んでもらうのだろう。

 

「うわ!うわわわ!マグマが迫ってくる!?」

 

 しかしコウスケにとっては大事なことだとはわかってはいてもさっさとここから脱出したくてたまらなかった。なにせ今現在上空から灰竜たちが逃すかとばかりに無数の極光を放ってきており、横を見れば煮えたぎるマグマが徐々に水かさを増し今も足場が飲み込まれそうなのだ。平然を保っていられるほどコウスケの精神は頑丈ではない。

 

(しかもよりによって魔力がもう無い!俺役立たず!)

 

 あの極光に当たる寸前恐らく無意識で守護を使い生き残ることができたのだろうが、代わりに魔力のほとんどを使ってしまい今コウスケは何もすることができないのだ。横では灰竜の極光をユエが“絶禍”を使い防いでいる。本来の自分の役目が出来ないことに歯がゆく思いつつも極光に含まれていた毒のせいで体全体がだるく、正直今すぐにでも横になりたい気分だった。

 

 そんな無力感と脱力感ついでに体の痛みでくすぶっているコウスケの横で突風が吹き荒れた。ハジメから宝物庫を託されたティオが空へは羽ばたいていったのだ。

 

「うん、これでよしっと…さぁ3人とも行こう!」

 

 ティオを見送ったハジメの声と共に唯一残る中央の島へ向かうハジメ達。中央の島には、最初に見たマグマのドームはなくなっていて、代わりに漆黒の建造物がその姿を見せていた。

 一見、扉などない唯の長方体に見えるが、壁の一部に毎度同じみの七大迷宮を示す文様が刻まれている場所があった。ハジメ達が、その前に立つと、スっと音もなく壁がスライドし、中に入ることが出来た。ハジメ達が中に入るのと、遂にマグマが中央の島をも呑み込もうと流れ込んできたのは同時だった。再び、スっと音もなく閉まる扉が、流れ込んできたマグマを間一髪でせき止める。

 

 扉はかなりの頑丈さかもしもの事を考えての事かマグマが入ってくる様子はなかった。

 

「ふぃー…間一髪かー」

 

「流石に危なかったね…それよりコウスケあれ」

 

「魔法陣か」

 

 ハジメが指さしたその先には複雑にして精緻な魔法陣があった。神代魔法の魔法陣だ。ハジメ達は互いに頷き合い、その中へ踏み込んだ。

 

(……まただ)

 

 コウスケが魔法陣に乗ると胸に何か温かいものが宿るのを感じた。それはオルクス大迷宮やライセン迷宮で感じた感覚と全く一緒なもので何か目頭が熱くなるような感じさえ覚えた

 

(何なんだろう?)

 

 胸に感じるものはよく分からないが【グリューエン大火山】における神代魔法”空間魔法”はしっかりと継承することはできたようだ。

 ハジメ達が、空間魔法を修得し、魔法陣の輝きが収まっていくと同時に、カコンと音を立てて壁の一部が開き、更に正面の壁に輝く文字が浮き出始めた。

 

“人の未来が 自由な意思のもとにあらんことを 切に願う”

                          “ナイズ・グリューエン”

 

「……シンプルだね」

 

「ああ…なんからしい気がする」

 

 この部屋には生活感がなくかなり殺風景な部屋だ。ただ魔法陣のためだけの部屋。それがこの部屋の感想だった。ユエが解放者の証を取りに行くのをぼんやりとコウスケが見ていると横で肩を貸していてくれたハジメがじっと視線を向けている。

 

「? どうかしたか」

 

「……いや、何でもないよ。それより装備のほとんどが壊れちゃったね」

 

 疑問に思ったコウスケが問いかけるもハジメは何でもないという。話題をそらされたような気がしたがハジメに言われた通り自分の装備を見てみれば確かにいたるところがボロボロだった。傷がないのは風伯ぐらいだろうか。それ以外の装備品は修復をしなければ無さそうだ。

 

「あーよく生き残れたな俺…また装備を作ってもらってもいいかい」

 

「任せておいて」

 

「頼んだ。で、それより脱出はどうするんだ?外はマグマの海だぞ」

 

 今コウスケ達がいるこの部屋は扉によってマグマがせき止められているが、まさかマグマの中を進む訳ではあるまい。そんなコウスケの不安はハジメがニヤリと笑って吹き飛ばす。

 

「大丈夫。実は潜水艇を作ってあるんだ」

 

 ハジメの考える脱出方法とは、今マグマの中にある潜水艇までユエの聖絶を使い障壁に守られながら潜水艇まで行き乗り込んだら後はなるようになれという事だった。

 

「なんて雑で大胆なこと考えるんだ…」

 

「ふふ、人類で初めてマグマの中を進んでいくことになるんだよ僕達」

 

「二度と経験したくない経験だな。それよりユエ魔法の方は大丈夫か?」

 

「ん、問題ない」

 

 本来なら自分も手伝いたいのだが魔力量が安定せず、またマグマにビビって守護が解けてしまうため自分たちの安全はユエに任せっきりになってしまうのだ。その事がコウスケには悔しかった。

 

 ユエが聖絶を三重に重ね掛けをしハジメ達を包んだのを確認するとハジメが扉を開けようとする。コウスケは最後の見納めとばかりに

部屋を見回して気が付いた。

 

「………」

 

 男が部屋の中央に立っていた。髪は赤錆色の短髪で筋肉質の巨躯の男。見たこともない男だった。

 

「…ナ…イズ?」

 

 だがコウスケから口から出てきた言葉は解放者のひとりであるナイズ・グリューエンの名前だった。自分の口から出てきた言葉に驚くコウスケをよそに男は何も語らない。しかしどうしてか男の赤錆色の目は「すまない」と謝っているようだった。

 どうしてそんな目をしているのかわからない。コウスケには全く持って分からないが、大丈夫だというように口角をあげると男は少しだけ微笑む。直後男の姿はマグマの海によって掻き消えてしまった。ハジメが外に通じる扉をあけマグマが部屋に流れ込んできたのだ

 

「さぁ行こう!潜水艇はすぐそこだ!」

 

 わずか一分にも満たない一瞬の出会いだった。コウスケが先ほどの幻影に思いも馳せることもなくすぐにハジメ達が移動する。コウスケも遅れないようにユエに近づきながらもう一度部屋を振り返ったが、部屋はすべてマグマによって満たされ何も分からなくなってしまっていた。

 

 

 

 ユエの障壁に守られながら何とか潜水艇にたどり着き中に入り込むハジメ達。一安心する間もなくマグマの激流で潜水艇がグルングルンと回転する

 

「わっ!?」

「んにゃ!?」

「はぅ!? 痛いですぅ!」

 

「クソが!『安定』!」

 

 やけくそ気味になったコウスケの重力魔法で無理矢理全員が潜水艇で転げ回らないように潜水艇の床に張り付くように安定させる。体制が整っている間にハジメが操縦桿を握りしめる。

 

「さて人類初の溶岩漂流だ!」

 

 気合を叫びながらもハジメが潜水艇をコントロールするがなかなか思うようには進まないらしい。

 

「どうだ南雲!ちゃんと俺たちは進んでいるのか!?」

 

「どうかな!?段々と流されている気がするよ!」

 

「だよな!やっぱりそううまくはいかないんだよな」

 

「大丈夫なるようになるさ」

 

 ハジメは流されているこの状況でもあきらめずに操縦桿を握りしめている。ユエとシアはハジメなら問題ないとばかりにいそいそと席についている。

 マグマの中を突き進む。おそらく人類では到達できない偉業と経験にコウスケは遠い目になりそうなりながらもハジメにこの後の命運を託すのであった

 

 

 

 

 

 




やっとでグリューエン火山は終わり。
次の迷宮から物語が大きく進む予定

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