ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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遅れました!申し訳ねぇです!!
7月は仕事が楽になるはずなので更新が少し早くなるかも…
取りあえずこの話で4章は終わりです。あとは番外編を何話か書いて第5章に入る予定です


結局のところ

「いたたた…これ絶対顔歪んだよな?」

 

「別にいいじゃないか、どうせ天之河の顔なんだし」

 

「だからと言って今は俺の顔なんだけどな…」

 

 自分の顔の怪我の具合を確かめるがおそらく青あざができているだろう。時刻は夜になっており星と月が辺りを照らす。

 辺りが暗くなっても気にせず罵り合いながら殴り合いをしていたことに戦慄を覚えながらも肩の力が抜けたのを感じ、心がとても軽くなったコウスケ。

 

「で、やっぱり僕は小説の人間だと?流石にそんな自覚はないし無理がないかな」

 

「そうだよなー、どっちかっていうとよく似た世界とでも言うのかな?正直な話俺もよくわからん」

 

「なんだそれ…まぁいいか僕にとってここは現実。作られた存在じゃない。それでいいや」

 

 同じように顔を腫れ上がっているハジメはそう締めくくる。色々と衝撃はあったが、どうやらそう結論付けたらしい。腫れあがった顔で笑うその顔はコウスケが危惧した嫌悪感や怒りなどは見受けられない。気が楽になったところで、別の問題を思い出し少し顔が曇ってしまう。

 

「そんな変な顔をしてどうしたの?また悩み事?」

 

「あーユエ達にも説明しないとと考えたらなんだか気が重くて…」

 

 ハジメと同じように説明しなければと考えるとまた気が重くなる。すべての事を知りながらずっと黙っていたという事実は消すことができない。

 

「まったく…コウスケはやっぱり変な所で鈍いんだね」

 

「む?」

 

「黙っていたからって皆コウスケの事嫌うわけないだろ。そんなつまらない事悩むだけ無駄だよ。無~駄」

 

 だが、ハジメはそんなコウスケの悩みを一蹴する。ハジメからしてみればむしろ今まで体を張って守ってきてくれたコウスケを嫌う方が変だろう。

 

「…無駄か、なら信じて話してみるよ。ちゃんと本当の事を」

 

「うん」

 

 お互い無言だった、だがそれは先ほどまでの気まずく感じるものではなく軽やかな雰囲気だった。そんな中ハジメがそろそろ戻ろうと提案してきた。

 

「俺は…もうちょっとだけここにいるよ」

 

「そっか、じゃ、また明日。お休みコウスケ」

 

「ああ、お休み」

 

 そのままハジメは振り向替えらずに宿に向かって歩いていく。その姿を見ずにコウスケは海を見つめていると背後で立ち止まる音が聞こえた。

 

「…コウスケ」

 

「…なんだ」

 

「これからも、よろしく」

 

「…おう」

 

 コウスケの返答を聞いたハジメは今度こそ立ち止まらずに宿の方へ歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふっふふふ…くはははは、あっはははは!!」

 

 ハジメの気配が完全に消えた後、コウスケは一人、腹を抱え思いっきり笑った。単純にうれしくてしょうがないのだ。

 

「こ、こんなにも怪しい俺を信じてくれるなんて、ぷっくくく、あいつどんだけお人好しなんだよ」

 

 嫌われると思った。もしかしたら一人になるかもしれないとすら考えた。それなのにハジメは信じてくれたのだ。荒唐無稽な話のはずなのに、信じられる要素なんてないはずなのに。

 

「全くもう~滅茶苦茶カッコいいじゃねえか。ほんっと、マジでさ…」

 

 心は軽く、穏やかな波の音と爽やかな風が気持ち良い。仰向けに倒れ、きらきらと光る満開の星と強く淡く輝く月を見上げる。

 

「ありがとうなハジメ。こんな俺を信じて友達なんて言ってくれてさ…」

 

 本人の前にでは言いたくないとても恥ずかしい台詞を平然と口に出てしまうぐらい嬉しさがこみあげてくる。にやける顔を止めることができない。感激のあまり目じりの端から出てくる涙を止めることができない。只々嬉しさと喜びでいっぱいだった。

 

「どうして俺がこの世界に呼ばれたのかはわからない。何故この姿なのかわからない。でもさ、お前を必ず日本へ帰らせる。きっと俺はそのために呼ばれたんだ。だから南雲…」

 

 腕をあげ手のひらを空に向ける。歓喜に打ち震える心に応えるように魔力と気力が充実していくのが分かる。今ならなんだってできそうだ。まるで自分が重しから解き放たれたような充実感と開放感さえ感じる。 

 

「必ずお前を日本へ帰らせる。何があっても必ず…」

 

 自分の身体に宿る途方もない魔力を空へ放つ。解き放たれた魔力は空へと昇りエリセンの町をドーム状に覆っていく。それは以前ウルの町を覆った魔力とは比べ物にならないほどであり、明らかにコウスケの力が桁違いになっているのを感じさせる。しかしコウスケにはどうでもよかった

 

 今はただ嬉しくて本当に仕方がなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハジメは一人静かな夜の町を歩く。足取りはしっかりとしかしその顔は思案に耽っていた。

 

(今まで僕が訪れた街では必ず騒動が起きていた。ならこれから行く場所でも?…色々やるべきことが増えたかな)

 

 コウスケの話を聞く限り、自分は主人公と言う役割を持っている。ならこれから行く場所場所でも必ず何かが起きるだろう。対処方法や必要な物、何を作りどう行動するか、考えることは多いがどこか楽しく感じるのは何故だろうか。

 

「何故だろうかって?…やっぱり話してくれたからに決まっているよ」

 

 コウスケがずっと抱えてきていた物を自分に話してくれたことが何よりもハジメには嬉しかった。今までどこか聞きづらく触れてはいけないことだと考えていた。きっと聞いてしまったらいけないのだろうと。しかしコウスケは話してくれた。動機が少し不満ではあるが、まず何よりも自分に最初に打ち明けてくれたことが嬉しいのだ。

 

 そんな事を考え歩いていると前方に人の気配を感じた。思考を中断し顔をあげて見ればそこにいたのは香織だった。

 

「ハジメ君!?どうしたのその顔!?」

 

「顔?…あ、そっか」

 

 一体何に驚いているのかと一瞬疑問に思ったが、すぐに思い出した。先ほどまでコウスケと思いっきり殴り合っていたのだ。治療もせずずっと放っておいたので今の自分の顔は腫れあがっているのだろう。自分たちの余りにも青春染みた馬鹿な行動を思い返し苦笑しながら、慌てて駆け寄って治癒魔法を使おうとする香織を止める。

 

「大丈夫?いったい何が…」

 

「大丈夫だよ香織さん。それよりもこの傷はそのままにしてくれない?」

 

「え?でもすごく痛そうだよ?」

 

「あはは…アドレナリンが出てるのかな?実はあんまり痛くないんだ」

 

「でも…」

 

「それにこの傷は青春の一ページみたいでさ、そのままにして置きたいんだ」

 

 ハジメの言い分に不満はある物の香織は渋々と治癒魔法を止める。代わりにすごく不満そうな顔でハジメを見つめてくる。その顔が今のハジメにとっては凄く子供っぽく感じつい苦笑してしまう。

 

「むぅ…分かった。ハジメ君がそれでいいっていうならやめるけど…それよりどうしてそんな傷を?それに青春って?」

 

「んーっと説明するのは難しいんだけど端的に言うとさっきまでコウスケと全力で殴り合いをしていた」

 

「コウスケさんと殴り合い!?」

 

「しー!ちょっと声が大きいってば」

 

「ふがぁ!?ふぁ、ふぁひゅへぇひゅん!?」

 

 とっさに大声を出した香織の口をふさぐ。もがもがと暴れる香織だが今の時間帯が深夜に迫るという時間で自分の声がいささか大きく響いたので気恥ずかしくなり顔が赤くなる。最もそれだけではなくハジメに口をふさがれているというのもあるが…

 

「うぅぅぅ」

 

「ごめんね。余りにも響いたから…」

 

「ううん。それよりも本当に何をしていたの?」

 

「その事はまた明日話すよ。ちょっと長くなりそうだし。そういえば香織さんはどうしてここに?」

 

「私?私はハジメ君たちが心配になって…ユエ達は心配いらないって言ってたけど。どうしても我慢できなくて」

 

「そっか。ありがとう香織さん。僕達を心配してくれて」

 

「あぅ…」

 

 流石に夜まで何も連絡をしなかったのはマズかったかと少し反省し、自分たちのことを心配してくれた香織に心の底から礼を言うハジメ。香織は香織で不意打ちにの微笑みで礼をいうハジメにあたふたするも顔が凄くすっきりしていているのが気になったが後で説明してくれると思い聞かずにしておく。

 

 そのまま香織を送るためミュウの住む家まで2人で歩いていく。両者に会話はないがハジメは上機嫌で、香織はそんなハジメと一緒にいるのが嬉しくて足取りはお互い軽かった。そんな折にハジメはたまらず上機嫌で香織に話しかける。

 

「香織さん」

 

「なにハジメ君?」

 

「僕さ、今まで友達がいなかったんだ」

 

「うん…」

 

「憧れていたんだ。友達とくだらない会話で盛り上がって、馬鹿な話をして楽しんで。そんな事にずっと憧れていたんだ」

 

「…ハジメ君ずっと一人だったもんね」

 

「うん。だからずっと羨ましかった。本当にずっとずっと…僕にはできないのかなって思ってたんだ。でもね」

 

「でも?」

 

「僕にも友達ができたんだ。くだらないことを言い合って本気で喧嘩ができるような友達が、それが嬉しくて…ごめんちょっと自慢したかった」

 

 ハジメの顔はとても明るい。きっと本気で言ってるのだろう。心の底から喜んでいるハジメに香織は嬉しくなり、しかしその顔を作ったのは

自分以外の人だと気付きちょっとしたやきもちも出てくる。

 

「むぅーそれってコウスケさんの事だよね。ハジメ君をそんな顔にするなんて…ちょっとずるい」

 

「あははは、まぁまぁこればっかりは仕方のないことだから」

 

 唇を尖らせ不満をあらわにする香織に苦笑するハジメ。そこでふとコウスケの言っていたことを思い出した。原作と呼ばれる世界では『南雲ハジメ』はハーレムを作るのだという。今この目の前にいる不満げに焼きもちを焼いている女の子もハーレムの一員になっていたのだろうか。もし自分がハーレムを作っていたのならこの子はどんな行動を起こすのか。

 

 自分に明確な恋心を持ったこの子は不憫な目に遭ってしまうのだろうか。こんなにもかわいい女の子が辛い目に遭うのか。天然だけど優しく思いやりのあるこの子が突拍子もないことをしでかすけど、嫉妬し焼きもちを焼くごくごく普通の女の子が。

 

 そんな事を考えていたせいだろうか。気が付けばハジメは香織の頭を撫でていた。

 

「ふぇ!?ハ、ハジメ君!?」

 

「…あ」

 

 不満を漏らしていたら好きな人に突然頭を撫でられ顔が赤くなる香織に、いきなりの無意識の自分の行動に目を白黒させるハジメ。両者が突然の行動に固まり硬直する。唯一動いているのは香織の頭を撫で続けるハジメの手だけだった。

 

(え?ええ!?いきなり何?なんなの!?…でも、なんかとっても気持ちいい~)

 

 香織は羞恥心で顔がゆでだこの様に真っ赤になるが、頭を撫でてくるハジメの手がとても優しく目が蕩けてくる。

 

(あれ?なんで僕はいきなり女の子の頭を撫で続けているの?スタンド?スタンド攻撃なのコレ?…でも香織さんの髪の毛って凄く肌触りが良い…)

 

 いきなりの行動に混乱するも手触りの良さから中々手を離せないでいるハジメ。

 

 結局のところミュウの家から物音がするまで両者は赤くなりながらずっとハジメは香織を撫で続け、香織はされるがままになっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







 真エンディングの条件の一つ『南雲ハジメにすべての事を話す』のロックが解除されました

 真エンディングの条件がすべて解放されました

 真エンディング「ーーーーーーー」のルートに入ります

 難易度が消失しました


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