ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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時間がかかる―この話のため過去の話を改変します。申し訳ないです
前半より後半の方が筆が進む進む。

気が付いたら投稿してから半年もたったんですね。早いものです。
最初に始めたときのビクビクオドオドしながら投稿していた時が懐かしいです。
まさかスランプや自分の設定に疑問を感じたり上手く書けないことに苦悩するとは思ってはいてもここまでだとは感じませんでした。
今もなんとか投稿できているのは皆様のおかげです。心より感謝を


番外編 闇より深く

 

「……来たか」

 

「お待たせしました団長」

 

 深夜。王宮の外れにある場所で2人の男が向かい合っていた。一人はハイリヒ王国騎士団長メルド・ロギンス。もう一人は副長のホセ・ランカイドだ。

 

「問題はなかったか」

 

「はい。誰にも見られていません。とは言え、あまり長居はできないでしょうが」

 

「深夜に騎士団のトップがこんな場所で密会だからな。」

 

 メルド達がいる場所は王宮の敷地内にある墓所だ。ここにはよほどどのことがない限り人が来る場所ではないのだが今現在、そうも言ってられない事情があった

 

「今、兵団や貴族たち…言い方を変えよう。この虚ろになっている者はどこまでいる」

 

「…下級騎士には見当たりません、しかし貴族達や王宮内部の人間には数が見られます」

 

「そうか…やはりじわじわと増えてきているな」

 

 メルドがホセと密会している理由。それはコウスケが言っていた虚ろの調査によるものだった。虚ろとは簡単に言えば無気力な者たちの事を言う。受け答えははっきりとしているし、仕事もちゃんとこなすのだが、どこか覇気がなく笑う事が無くなり人付き合いも消極的になり部屋に引きこもってしまうのだ。

 

 魔人族との交戦から王宮に戻った後、騎士たちには姿の見えない裏切り者に警戒するよう騎士団だけが知るメッセージで拡散させ調査を進めていたのだが…警戒されているのか裏切者の正体はつかめずにいた。

 

「調査は一向に進まず数が増えていくばかりか…あれほどまでに啖呵を切ったというのになんて無様なことだ」

 

「…しかし団長。その、なんと言いますか…本当にこれは何者かの攻撃なのでしょうか。単に気が抜けているだけなのでは?」

 

 恩人から助言に上手く対応できないメルドの自虐に対してホセは遠慮がちにそうたずねてくる。副団長の立場としては団長の考えに対し別の角度からの否定的な意見を出すのは職務でもあるのだ。

 しかしメルドはその可能性を否定する。確かに虚ろと呼ばれていても問題がないように見える。しかしどうしても楽観視することはできないのだ。それに命を救ってくれた恩人の事もある

 

「ホセ、そうかもしれん、しかしだからと言ってこのままでは手遅れになってしまう気がするのだ。気を引き締めろ。お前まで虚ろになってしまったらシャレにならん」

 

「そうですね。失礼しました」

 

 メルドの言葉に改めて気を引き締め直し咳ばらいを一つ。ホセは改めて口を開く

 

「それで団長の方は?陛下に何か影響は?」

 

「陛下の方は…」

 

「どうしました?」

 

 言うべきだろうか。神に傾倒しすぎていると。メルドはコウスケから神と呼ばれているエヒトが命をもてあそぶような輩と聞いている。

 そんな神に傾倒してしまい、虚ろの本格的な調査を願い出たにも関わらず却下してしまった陛下の事を副長になんて説明すればいいのだろうか。

 

「大丈夫だ問題ない」

 

 口から出てきたのは自分と部下を無理矢理安心させるような言葉だった。今ホセに言っても余計に混乱させるだけかもしれなかった。

なら虚ろと裏切者のことを調べ終わってから話をするべきだと結論づけた。その後虚ろに対しての情報をいくつか交換していく。

 

「そういえば団長。その剣どうなされたんですか?」

 

 ホセがふとメルドの腰にさしてある剣に気が付く。いつもの持っている騎士剣とは違って真新しいものだったのだ

 

「これか? 実はある冒険者から渡されてな。直々に俺に渡す様に依頼されていたらしい」

 

「わざわざ団長にですか? それもこんな業物を?」  

 

 渡して来た冒険者はメルドの面識の無い青年だった。青年はじっとメルドの顔を見つめた後何かを納得したのか剣を渡してきたのだ。

 

「ああ、送ってきた人間には心当たりがあってな。それで受け取ったんだが…王国のアーティファクトに勝るものだな」

 

 青年に頼んだ人間はどうやらコウスケらしく、色々と手回しをしようとしてくれたらしい。その結果が武器と言うのはなんだか微笑ましいものだが…

 

「しかし、こんなはずではなかったのだがな…」

 

「ええ、魔人族の事に集中したかったのですが…まさか内部がこんなことになるなんて」

 

 メルドの言葉にホセが相槌を打つ。それもそうだとメルドは思う。本来なら魔人族に対して何か有効な手段はないかと検討し作戦や準備をするべきなのだが、裏切者や虚ろなどに注意を向けなければいけなかった。

 

(本当なら、魔人族に対して共に戦えると思っていたんだが…)

 

 召喚された少年少女に対して言いようのない気持ちになってしまう。どうしてこんなことになってしまったのか。悩むメルドはついポツリと漏らしてしまう

 

「…俺達はいったいどこで間違えてしまったんだろうな」

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()

 

 その声が聞こえた瞬間メルドはすぐさま臨戦対応を取った。しかしあまりにもすべてが遅すぎた。一瞬黒い影に覆われたかと思うと体に力が入らなくなり崩れ落ちてしまったのだ。

 

「ぐっ…誰だ!」

 

 声からして相手は若い。気力を振り絞り剣に手をかけ、辺りを見回す。隣にいた腹心の部下であるホセはうつ伏せに倒れてある事と詠唱がほとんど聞こえなかった事から相手の力が自分より上だと認識してしまう。

 

「へぇ、流石は騎士団団長。そこら辺にいるモブ共とは格が違うってか。 最も無駄で無意味で無価値なことなんだけどな」

 

「お、お前は…」

 

 暗く近づいてきた相手にメルドは驚愕した。何故ならその人物は…

 

「どういうつもりだ!清水!」

 

 畑山愛子と共に帰ってきた清水だったのだ。 清水は一度行方をくらませたことを謝りに来たことがあったがそこからずっと顔を合わせていなかったのだ。

 行方不明になっていた理由は魔人族がかかわっておりその事に罪悪感を感じているのだろうとそっとして置いたのだが、その気遣いが裏目に出てしまった。 

 

「どうって…見て分から無いのか?あんまりオレを失望させないでくれよ」

 

 その時メルドは清水の目を見た。見てしまった。自分を人間として見ていない道端に転がる石を見るような無感動さを持つ目。闇と言う闇をもっと深くしたような黒く染まり切った眼。人間はここまで変わってしまうのかと錯覚するほどまでに変貌した顔つき。臓腑が抉られ心臓を握りしめられているような殺気どれもがメルドが知る清水幸利ではなかった。

 

「が…ぐぅうう!!」

 

「やれやれ意地の悪い奴だ。さっさとくたばれよ。堕落し、崩れるように堕ちていけ『冥土』」

 

 立ち上がろうとするも清水の容赦のない蹴りがメルドを襲う。抵抗ができず仰向けに転がってしまう。それでもなお動こうと一矢報いようとするも清水の詠唱によって出来た影がズルズルとメルドの前にいるホセを覆っていく。

 

「や…めろ!何故だ!何故こんな事を!?」

 

 何らかの対策でもされているのか魔法を唱えようにも魔力が集まらず、肝心の力も入らない。それでもなお心までは屈さない様清水に怒鳴るメルド。

 

「…はぁ 自分の目的をべらべらと喋る馬鹿がどこにいるっていうんだよ。頭沸いているんじゃねえのか」

 

 心底馬鹿にした言葉と共に影がズルズルとメルドを覆っていく。もう口さえも覆われてしまった。視界のすべてが影に覆われ、意識が奈落に落ちるように転がり落ちていく寸前

 

(すまないコウスケ…お前は信じてくれていたというのに俺は…何もできなかった…)

 

 自分の命を救ってくれた恩人に謝るしかできなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやはや素晴らしいお手並みだったねぇ~あの騎士団長を僅かひと手間で行動不能にさせるなんて~」

 

 メルドが倒れ静寂となった墓地にねばりつくような声が響く、清水が面倒そうに声がした方向に振り向くとそこには裏切者と檜山がにやにやと笑っていた。

 

「…事前に魔法陣を引いていたからな。あとは大量のスクロールを用意すれば事足りることだ」

 

「それにしたって僕ではこうも鮮やかにやる事はできなかったよぉ~流石は闇術師、君を仲間に引き入れて正解だった」

 

 クスクスといやらしく笑う裏切者に清水は興味をなくしたように視線を外し倒れ伏したメルドとホセに近づく。

 

「んで、こいつらどうするんだ。貴族共と同じようにサクッと殺っちまうか?」

 

 檜山は王国騎士団最強であるはずのメルドが手も足も出ずに倒れたことに愉快なのか嬉しそうにメルドの頭を足で小突く。

 

「いや、このまま俺の闇で洗脳し、駒にする」

 

「おや良いのかい?僕の魔法で傀儡にした方が手間が無くて楽だよ?」

 

 裏切者の提案に一瞬何か考えるもすぐに清水は否定した。

 

「確かにお前の魔法なら死んだ人間に対して絶対的だ、その方が手間が無くてすぐに終わる。だがなそれじゃあ駄目なんだよ」

 

 清水が吐き捨てるように言うと、裏切者は目を細める。どうやら自分の魔法が馬鹿にされたと感じたらしい。清水は気分を害した裏切者に謝ることもなく淡々と事実を述べる

 

「どうしてだい?僕の魔法に何か不満でもあるの?」

 

「不満だらけだ。何だあの覇気のない顔をした死体共は?いくらなんでも不自然すぎるだろ。こいつらがいくら考えなしの頭がパーでも疑問に思うってことは他の奴が気付いても可笑しくねぇんだよ」

 

「あ~確かにそうだねぇ でも考えすぎじゃないかい?現に気付いたのはこいつ等だけで後の皆は疑ってすらいない」

 

「そうだぜ、こいつの言う通りだ。まさか死体が動くなんて考える奴なんて此処にいる訳ねぇだろ」

 

 檜山も裏切者に同調するようにはやし立てるが清水は全く持って動じない。むしろ視線が馬鹿を見るような目つきに変わっていく。

 

「…はぁ馬鹿だ馬鹿だと思っていたがここまでだったとは…」

 

「あぁん!?なにを言ってんだ!」

 

「問題大有りだろ。八重樫にでも気づかれてみろ。勘の良いアイツが一声周りに言えばすぐに他の奴も疑問に思っちまう。その中身のない頭ではそれぐらい分かんねぇのか?」

 

「言わせておけばテメェ!!」

 

 日本にいたときは大人しかった清水にここまで馬鹿にされたことが檜山の癪に障ったのか胸ぐらをつかみ上げ怒鳴りあげる。まさしく一触即発の雰囲気だった。そこにパンパンと手のなる音がする。2人の諍いを面白そうに見ていた裏切者だ。

 

「はいはい、熱くなるのはそこまでだよぉ~それほど言うのなら清水君に任せようかなぁ随分と自分の魔法に自信があるみたいだし~ …それにしても随分と性格も変わっているね。行方不明になっていた間一体何があったのかな」

 

「…ご想像にお任せする。後、オレは失敗して惨めな思いをしたくないからこんな手間をしているんだ」

 

 檜山の手を乱暴に振り払うとメルドのそばにしゃがみ込み詠唱を唱え始める清水。檜山は舌打ち一つするとその場から離れる。なんだかんだともめてはいたが清水の魔法の凶悪さは認めざるを得なかったからだ。

 

「ッチ。オイこいつを本当に引き入れてよかったのかよ。そりゃコイツの魔法のおかげで上手く行ってるけどよ」

 

「なら問題ないじゃないか。本当はもっと時間をかけて進めるつもりだったんだけど、彼のおかげで計画が早急に進んでいるんだから。

しっかしメルド団長ったら本当にお馬鹿さんなんだねぇ~ まさか騎士の殆どが清水君の魔法にかかっているなんて思いもし無かっただろうね」

 

「お前が死んだ人間に対して一番効力のある天職なら、オレの天職は()()()()()に対して絶対的だからな」

 

 洗脳を終えてしまったのか清水が立ち上がり不敵な笑みを浮かべる。その後ろではメルドとホセが黙ったままその場に直立していた。

 

「もう終えたのかい」

 

「ああ。これで最大の障害はクリアした」

 

「へへっなら後は八重樫に気付かれないように行動すればどうってことはないな」

 

「その通り。あの銀髪の女のおかげで国王は頭がぶっ飛び中だし、教会は最初から障害ですらない。団長さんを落とした今もう、僕達を止める存在はいない」

 

 裏切り者の声音に狂気があふれだす。これから先の未来に思いをはせ、哄笑しながら愉悦とそれ以上の狂気をにじませながら宣言する

 

「さぁ、加速して行こう。坂道を転がり落ちる石の様に。終わりに向かって僕の望んだ未来に向かって」

 

 清廉さがあったはずの墓地は、その瞬間、悪意と敵意でべっとりとコーティングされた哄笑が響いていたのだった。

 

 

 

 

 




書籍版のあの場面を借りていろいろしています

しっかし清水が出てくると台詞が浮かんで仕方ないし筆がスラスラ進むのです。
とても助かっています。

あともう一つ番外編をやるつもりなのですが…さっさと第5章に入ってしまいたいとも思っています。(無理に入れなくても問題ない個所ですし色々終わった後でも大丈夫な場面ですので)

後で活動報告更新しておきます 気が向いたら感想お願いします

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