ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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遅れて申し訳ないです。一応骨組がある程度完成しているので肉付きをしながら投稿することにします。
何分久しぶりなので変な所がありますがご了承お願いします


第5章
再会と理由


 

「ぐぅ…ここで…こんなところで倒れる訳には…」

 

 40人と言おう男たちに囲まれながらリリアーナは結界魔法『聖絶』を維持しながら歯を食いしばっていた。

 

 コウスケ達と別れ王宮に戻ったリリアーナは召喚された者たちの支援をしながら国王に戦争に参加させるのをやめさせようと準備しているときだった。

 

 王宮の空気はどこかおかしく違和感があったのだ。 父親であるエリヒド国王は、今まで以上に聖教教会に傾倒し、時折、熱に浮かされたように“エヒト様”を崇め、それに感化されたのか宰相や他の重鎮達も巻き込まれるように信仰心を強めていった。それだけではない

 

 妙に覇気がない、もっと言えば生気のない騎士や兵士達が増えていったのだ。顔なじみの騎士に具合でも悪いのかと尋ねても、受け答えはきちんとするものの、どこか機械的というか、以前のような快活さが感じられず、まるで病気でも患っているかのようだった。

 

 そのことを、騎士の中でもっとも信頼を寄せるメルドに相談しようにも、少し前から姿が見えず、時折、龍太郎達の訓練に顔を見せては忙しそうにして直ぐに何処かへ行ってしまう。結局、リリアーナは一度もメルドを捕まえることが出来なかった

 

 そしてついにはハジメ達の異端者認定が行われてしまったのだ。異端者とはこの国にとって最も重罪の一つである神の敵という事になる。それは国が全力をもってハジメ達を敵とみなすという事だった

 ウルの街を救った英雄のはずなのにあまりの強硬策にリリアーナが抗議するも父親であるエリヒドは全く持って聞き入れてはくれなかった。

 むしろ、抗議するリリアーナに対して、信仰心が足りない等と言い始め、次第に、娘ではなく敵を見るような目で見始めたのだ。

 

 何時にもなく恐ろしくなり素直に聞き入れたように見せかけリリアーナはその場から逃げ出しこの異常な状況を愛子に相談をしたのだ。

 愛子も思うところがあり生徒たちにハジメから聞いた話を話そうとしていたようなので、準備をしていたところ愛子が銀髪の修道女に

誘拐されてしまったのだ。

 

 リリアーナは隠し通路に逃げ込んだため難を逃れたが余りにも運がないというような状況だった。現状王宮内部には頼れる人間はどこにもいない。家族である弟のランデルに母親のルルアリアなら信じてくれるかもしれない。しかしそれは大切な家族を危険に巻き込む可能性がある。むしろもう手遅れに近いかもしれない。

 

 悩むリリアーナはすぐに即決した。すなわち今、王宮外部にいる人間に助けを求めようとすることにした。候補として真っ先に上がったのが召喚されてきた人たちの中で親友と呼べるほど仲が良くなった香織だった。彼女ならきっと事情を聞いたらすぐに力になってくれるはず。

 そして香織のそばには…

 

(本当ならこの世界の事情になんて巻き込みたくなんてないんですけど…)

 

 リリアーナに脳裏に映るのはよく笑いよく悩む、見ていて飽きないしかしどこかお人好しなコウスケの顔があったのだ。きっと彼も事情を知ったら力を貸してくれるかもしれない。でも巻き込みたくはない。相反する感情を持ちながらも会えたらいいという気持ちもあった。

 

(でも、こんな状況では…)

 

 国を出る時ユンケルと言う商人の隊商があったので便上させてもらったのはよかったのだが、そこで賊の襲撃にあったのだ。

 一応武術や魔法の訓練はしているとはいえあくまでもリリアーナはこの世界において一般的な力しか持たない。聖絶の力で結界を作り時間を稼いでいるがいつまで持つかはわからない。

 

 なんとしてでもこの窮地を脱し生きて香織と会わなければと思うが体はその思いについて行かない。

 

(駄目…!もう魔力が…)

 

 リリアーナの願いもむなしく結界が切れてしまった。結界が消えたことを確信した賊達は一斉に襲い掛かってくるリリアーナのほかにも護衛はいるが十五人と賊に比べて明らかに数が少なく全滅は時間の問題だった。

 そしてついに魔力切れでふらつくリリアーナの目の前に下卑た笑みを浮かべた男が剣を近づいてくる。

 

「ヒャハハ!久しぶりの女だぁ!いっただきま~っす!!」

 

 男が剣を振り上げ襲い掛かってくるがもう避けるほどの力は残されておらずリリアーナは立っているのが精一杯だった。見ている景色がスローになっていく中リリアーナは無意識に助けを求めていた。

 

 ここにいる筈なんていないのに、それでもリリアーナはどこか縋るように。

 

「……コウスケさん…助けてください」

 

 リリアーナの小さな、されど願いを込めた呟きは風に流されるように消えていく筈だった。

 

 

 

 

 

「ヒィィィイイイイヤッホゥゥウウウウウウウ!!!!!!」 

 

「ぐべぇあ!」

 

「え?」

 

 しかしその願いは確かに届いたのだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハローリリアーナ王女無事だった?大丈夫?怪我していない?」

 

 

 エリセンの町を出発してからサクッとアンカジ公国のオアシスを再生させ異端者扱いしてきた教会連中を歯牙にもかけず割と順調にハジメ達は王宮を目指していた。コウスケが王宮で事件が起きるとハジメ達に説明しまた、神代魔法の一つが神山にあるという事なので移動している最中だったのだ。

 

 コウスケとしては胸中面倒なことは避けたくなるも仕方なしと考え気分転換に2輪駆動をハジメから借り移動していたのだ。

 シアとの操縦席を掛けた熾烈なじゃんけん勝負に勝利をおさめ風を気持ちよく浴びているときに賊を発見しリリアーナとの再会を思い出したのだ。

 

 リリアーナが襲われる前に賊を二輪駆動で跳ね飛ばしさっぷうと登場しいかにも窮地を救ったかのように表れたコウスケ。実際は襲撃を忘れていて割と慌てているのは内緒だ。

 

「ごめんね。ちょっと道に迷ってさ。。白馬でもなければイケメンでもなく…あ、顔は一応イケメンの部類に入るのか、王子でもないけど助けに来たから、えーっとまぁゆるしてくださいな」

 

「……」

 

「?リリアーナ姫?もしかしてどっか怪我したの?」

 

「いえ…まさか本当に助けに来てくれるなんて」

 

「???」

 

 ペタンと座り込んだリリアーナに首をかしげるコウスケ。取りあえず大丈夫そうだと見切りをつけ、後ろの方の賊たちはどうなったかと見ればハジメが四輪駆動のボンネットの上でオサレポーズを取りながら賊の股間に銃撃をすると言う地獄絵図を生み出しているところだった。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで賊を蹴散らし護衛達の傷を治し、ユンケル商人との会話を終わらせ4輪駆動の中に全員が入り多少の手狭さを感じながらもリリアーナの話を聞く一行。その話はやはりコウスケが知っている物で、王宮が危機的状況にあると言う物だった。

 

「あ~やっぱりそうなるんだよねぇ」

 

「やっぱりとはどういうことですかコウスケさん」

 

「んーいろいろ事情がありまして…なぁ南雲、事情を知っている俺ってリリアーナ姫から見たら敵っつーか変人に見えないかな」

 

「?何を今更」

「…今更」

「今更ですぅ」

「今更じゃな」

 

「お前ら…」

 

 仲間たちの容赦ない変人扱いにがっくりと肩を落とすコウスケ。そんな中一人だけフォローが入る

 

「えーっと事情をちゃんと話せばリリィは分かってくれるよコウスケさん」

 

「…香織ちゃんマジ天使」

 

 唯一苦笑しながらもフォローを入れてくれる香織に感謝しながらコウスケは今後の対策を考える。とそこでリリアーナが皆の顔を見ながらも話しかけてきた

 

「それでこの国とは関係がない皆さんにはとても頼み辛いことなんですが…」

 

 リリアーナの顔は暗い。この場にいる全員が入り王国を助ける義理は無いのだ。それでもなおすがってしまう事に罪悪感を感じながらこの国を助けてほしいと頼んでしまうのだ。

 

「その事についてなんだけどちょっと待ってリリアーナ姫」

 

「南雲さん?」

 

 リリアーナの声をさえぎりどこか含み笑いするハジメは、話を聞いて考え込んでいたコウスケに向かって口を開く

 

「さてコウスケ聞いた通りだけどハイリヒ王国がどうやら危機の様だ」

 

「んん?そりゃ聞いていれば分かるけど?」

 

「でも僕達には関係がないことで無視をしても問題ない話だ」

 

「いやいや待て待て先生が誘拐されているぞ。助けに行かんと」

 

「確かに愛子先生は助けないといけない。でもそれは僕や香織の問題だ。そもそもの話コウスケにとってこの世界の住人を助ける義理も責任もないんだよ」

 

 コウスケはハジメの顔を見る。その顔はどうしてか少し笑っている

 

「…何が言いたいんだ」

 

「さっきからコウスケは助けることを前提で考え事をしているよね。それはどうしてなの?」

 

「どうしてってそうしないと原作通りに」

 

「そういう話じゃないよ。ねぇコウスケ、どうして君は放っておけばいいことなのに人を助けようとするの?自分が手を差し伸べたら傷つくかもしれないのにどうしてなんだい」

 

 ハジメの顔は薄く笑っているが目は真剣で、他の者は誰も口を開かない。

 

「どうしてって…」

 

「僕が落ちた時を覚えている?あのまま放っておいても君はそれでよかったんだ。それなのに手をさしのべて結果痛い目を見ることになった。どうして放っておかなかったの?」

 

「…放っておけるわけがない。お前は小説のキャラクターじゃない。笑って泣いて怒って普通に生きている人間だ。だから助けようと思った。…ああそうか単純なことだ」

 

「何がだい」

 

「俺は人を助けたい、ただ生きて普通に生活している人たちを助けたい。いや、理由なんてない。人が人を助けるのに理由はないんだ。

だから南雲」

 

 呼吸を一つしてしっかりとハジメに向き直り自分の願いを口にする

 

「俺はハイリヒ王国の人たちを助けたい、手を貸してくれ」

 

「勿論。皆も協力してくれる。そうだよね皆」

 

 ハジメの言葉に仲間たちが微笑ましそうにうなずく。その事にハジメが満足げにうなずくと改めて状況を見守ってきたリリアーナに向き合った。

 

「そういう事で随分と遠回りになったけど良かったねリリアーナ姫。コウスケが君たちを助けたいみたいだから、僕達も協力するよ」

 

「なんかそういう言い方すると嫌な奴に聞こえるぞ南雲」

 

「いいえ…いいえそんな事はありません。コウスケさん貴方のその思い本当に感謝します。色々と聞きたいこともありますけど、どうかよろしくお願いします」

 

深々と頭を下げるリリアーナとどこか満足げなハジメに奇妙な物を覚えるコウスケだった

 

 

 

 

 

 


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