ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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もっと文章力がうまくなりたいです


災難

 

 

 服を乾かした2人は恐る恐る慎重に進みだす。先に進むのがステータスが高く一応勇者としての能力を持っているコウスケでハジメはそのあとを離れないようについていく。

 

 そうやってどれくらい歩いただろうか

 

「…っ!南雲隠れろ!」

 

 コウスケはとっさにハジメを連れて岩陰に身を隠す。ハジメはすぐにその理由が分かった。前方に動く影を見つけたのだ

 

「なんだろうあれ?…ウサギ?」

 

 岩陰からそっと顔だけ出して様子を窺うと、ハジメのいる通路から直進方向の道に白い毛玉がピョンピョンと跳ねているのがわかった。長い耳もある。見た目はまんまウサギだった。但し、大きさが中型犬くらいあり、後ろ足がやたらと大きく発達している。そして何より赤黒い線がまるで血管のように幾本も体を走り、ドクンドクンと心臓のように脈打っていた。物凄く不気味である。

 

「あれは絶対やばい奴だ…見つからないように逃げるぞ」

 

「うん。…ひっそりとだね…」

 

 コウスケが息をひそめながら囁くように撤退の準備をする。ハジメも合わせるように少しづつ後退するその時ウサギがピクッと反応したかと思うとスっと背筋を伸ばし立ち上がった。警戒するように耳が忙しなくあちこちに向いている。

 

(やばい! み、見つかった? だ、大丈夫だよね?)

 

(大丈夫…ここで慌てたら見つかる、だから落ち着いていけば問題ない!)

 

 ハジメの不安な声をコウスケが一蹴する。だがその声は震えており、自分に言い聞かせているようだ。

そんな2人をよそに目の前では状況が変わっていく。

 

「グルゥア!!」

 

 白く狼の様な魔物が岩陰から飛び出しウサギに攻撃を仕掛けたのだ。 その白い狼は大型犬くらいの大きさで尻尾が二本あり、ウサギと同じように赤黒い線が体に走って脈打っている。一体何処から現れたのか一体目が飛びかかった瞬間、別の岩陰から更に二体の二尾狼が飛び出す。

 

 今のうちに逃げるために後退する2人だが目の前には壮絶な展開になった。ウサギが後ろ足で瞬く間に3体の二尾狼の首の骨を粉砕していたのだ。

 あまりの早業に硬直するハジメ。コウスケに至っては絶句し目を見開いている。

 

(な、南雲…逃げるぞ…)

 

 硬直から解け震える声でコウスケがその場から離れるようにハジメに声をかける。その声で我に返ったハジメは「気がつかれたら絶対に死ぬ」と、表情に焦燥を浮かべながら無意識に後退る。

 

 それが間違いだった。

 

 カラン

 

 その音は洞窟内にやたらと大きく響いた。

 

 

 下がった拍子に足元の小石を蹴ってしまったのだ。あまりにベタで痛恨のミスである。ハジメの額から冷や汗が噴き出る。小石に向けていた顔をギギギと油を差し忘れた機械のように回して蹴りウサギを確認する。

 

 蹴りウサギは、ばっちりハジメを見ていた。

 

 赤黒いルビーのような瞳がハジメを捉え細められている。ハジメは蛇に睨まれたカエルの如く硬直した。魂が全力で逃げろと警鐘をガンガン鳴らしているが体は神経が切れたように動かない。

 

 やがて、首だけで振り返っていた蹴りウサギは体ごとハジメの方を向き、足をたわめグッと力を溜める。

 

「来るぞ!」

 

 蹴りウサギの足元が爆発した瞬間、コウスケの叫び声が聞こえ本能的に全力で横飛びをするハジメ。直後、一瞬前までハジメのいた場所に砲弾のような蹴りが突き刺ささり、地面が爆発したように抉られた。硬い地面をゴロゴロと転がりながら、尻餅をつく形で停止するハジメ。陥没した地面に青褪めながら後退る。蹴りウサギは余裕の態度でゆらりと立ち上がり、再度、地面を爆発させながらハジメに突撃する。

 

(錬成をっ…駄目だ間に合わない!)

 

 石壁を作ろうとする間もなく蹴りウサギが突っ込んでくる。蹴りウサギの足がハジメに炸裂する瞬間目の前に影が割り込んできた。

 

「…え?」

 

 その影が誰かを理解する間もなく影に巻き込まれるように衝撃で吹き飛び地面を転がるハジメ。慌てて横に目を向けるとそこにいたのは左腕を抑え悶えているコウスケがいた

 

「…コウスケ?僕をかばって…」

 

「あ……あああぁぁあ!痛い!痛い!何でだ!俺は!俺は南雲の20倍のステータスがあるっていうのに!痛い!あああぁあぁあぁ!」

 

「コウスケ一体どうし…っ!?」

 

 その絶叫にただ事ではないと慌てて見るとコウスケの左腕はおかしな方へ曲がりプラプラとしている。完全に粉砕されたようだ。

 

「ぐうっ痛ぇ…痛ぇよ…」

 

 蹲り脂汗を出しながら痛みに耐えているコウスケにハジメは何もすることができない。この状況をどうするべきかと蹴りウサギの方を見ると今度はあの猛烈な踏み込みはなく余裕の態度でゆったりと歩いてくる。

 

 ハジメの気のせいでなければ、蹴りウサギの目には見下すような、あるいは嘲笑うかのような色が見える。完全に遊ばれているようだ。

 

「あ…あ…っ!コウスケ逃げるんだ!早く!」

 

 一刻も早くこの場から逃げようと必死にコウスケを引きずろうとするが恐怖心のせいか立ち上がることができずもたついてしまうそうしているうちにやがて、蹴りウサギがハジメ達の目の前で止まった。地べたを這いずる虫けらを見るように見下ろす蹴りウサギ。そして、見せつけるかのように片足を大きく振りかぶった。

 

(せめて…せめてコウスケだけでも…)

 

 精一杯の抵抗のつもりでコウスケをかばうよう覆いかぶさる。あの蹴りの前では何の意味もなさないがそれでも、友達を見捨てることはハジメにはできないのだ。ハジメは恐怖でギュッと目をつぶる。

 

 

 しかし、何時まで経っても予想していた衝撃は来なかった。

 

 

 ハジメが、恐る恐る目を開けると眼前に蹴りウサギの足があった。振り下ろされたまま寸止めされているのだ。まさか、まだ遊ぶつもりなのかと更に絶望的な気分に襲われていると、奇妙なことに気がついた。よく見れば蹴りウサギがふるふると震えているのだ。

 

(な、何? 何を震えて……これじゃまるで怯えているみたいな……)

 

 “まるで”ではなく、事実、蹴りウサギは怯えていた。ハジメ達が逃げようとしていた右の通路から現れた新たな魔物の存在に。

その魔物は巨体だった。二メートルはあるだろう巨躯に白い毛皮。例に漏れず赤黒い線が幾本も体を走っている。その姿は例えるなら熊だった。但し、足元まで伸びた太く長い腕に、三十センチはありそうな鋭い爪が三本生えているが。

 

 その爪熊が、いつの間にか接近しており、蹴りウサギとハジメを睥睨していた。辺りを静寂が包む。ハジメは元より蹴りウサギも硬直したまま動かない。いや、動けないのだろう。まるで、先程のハジメだ。爪熊を凝視したまま凍りついている。

 

「……グルルル」

 

と、この状況に飽きたとでも言うように、突然、爪熊が低く唸り出した。

 

「ッ!?」

 

 蹴りウサギが夢から覚めたように、ビクッと一瞬震えると踵を返し脱兎の如く逃走を開始した。今まで敵を殲滅するために使用していたあの踏み込みを逃走のために全力使用する。しかし、その試みは成功しなかった。爪熊が、その巨体に似合わない素早さで蹴りウサギに迫り、その長い腕を使って鋭い爪を振るったからだ。

 

 蹴りウサギは流石の俊敏さでその豪風を伴う強烈な一撃を、体を捻ってかわす。ハジメの目にも確かに爪熊の爪は掠りもせず、蹴りウサギはかわしきったように見えた。しかし……着地した蹴りウサギの体はズルと斜めにずれると、そのまま噴水のように血を吹き出しながら別々の方向へドサリと倒れた。

 

 その音に我に変えるハジメ。あれはマズい。先ほどまでの蹴りウサギとは別次元の化け物だ。本能に従うようにハジメは右手を背後の壁に押し当て錬成を行った。

 

「あ、あ、ぐぅうう、れ、“錬成ぇ”!」

 

 幸いにも体は動き壁に穴が開き始める。しかし2人分の穴が開き始める前に爪熊が悠然とハジメに歩み寄るその目には蹴りウサギのような見下しの色はなく、唯ひたすら食料という認識しかないように見えた。その事がハジメの恐怖心を煽る

 眼前に迫り爪熊が爪を振り上げる

 

(駄目だ!殺される!)

 

 諦めかけたその時

 

「糞が!!吹っ飛べ!」

 

「グゥルアアア!?」

 

 咆哮と共に爪熊が後方に吹っ飛ばされた。声の聞こえた方にハジメが顔を向けるとそこには右手を爪熊に突き出し風魔法を放っていたコウスケがいた。顔は苦痛で歪み、使い物にならなくなった左腕をかばうようにしているため変な体勢になっている。

 

「南雲!ボーっとすんな!今のうちに錬成で穴を作るんだ!」

 

「う、うん!」

 

 コウスケの叫び声にはじかれるように錬成で2人分の穴を作り込むがそこに先ほど吹き飛んだはずの爪熊がハジメとコウスケに襲い掛かる

 

「しつけぇんだよ!」

 

「グゥルルルルアアアアア!!」

 

 コウスケの罵倒と爪熊の唸り声が聞こえる中何とか穴を作る事に成功したハジメ。コウスケに知らせようと振り返るのと自分の方に何かが倒れ掛かってきたのはほぼ同時だった。

 

「うわっ…コウスケ?」

 

 倒れ掛かってきたのはコウスケだった。慌てて受け止めるハジメ。すぐに倒れ掛かってきた意味が分かったコウスケが右手で抑えている腹が赤黒くなっているのだ。今も血があふれコウスケの右手は真っ赤に染まっている

 

「…南雲…すまねぇ…しくじった…」

 

 弱弱しい声で謝るコウスケ。風魔法を撃って爪熊を吹き飛ばしたのと同時に爪熊の技能”風爪”を食らってしまったのだ

 

「ガァアアアアアアアア!!」

 

「っ!!」

 

 先ほどから邪魔されて怒り狂った爪熊の咆哮がすぐそばまで聞こえてきた。ハジメは持てるすべての力を使い重傷を負ったコウスケを引きずりながら穴へ入り込む。穴に入り込んだと同時にガリガリと凄まじい音が聞こえてきた爪熊がハジメたちのいる穴に向かって爪を振るっているのだ

 

「うぁあああーー! “錬成”! “錬成”!」

 

 爪熊の咆哮と壁が削られる破壊音に半ばパニックになりながら少しでもあの化け物から離れようと連続して練成を行い、どんどん奥へ進んでいく。左腕一本でコウスケを引きずり右手で錬成を使い穴を広げ少しでも奥へと進んでいく。火事場の馬鹿力という奴だろうか、コウスケの重みを全く感じずに何とか音の聞こえなくなるところまで奥へと進むことができた。

 

 

 

 

 

 

「きっとここまで来れば…ってコウスケ大丈夫!」

 

「…はは…なんか…痛みを感じなく…なって…」

 

 ハジメは慌てて傷口を抑えて止めようとするがコウスケの出血は止まらない。コウスケの傷口を抑えながら涙と鼻水が出てくるハジメ

 

「うぐ、ひっく、うぅ ごめんなさい、ごめんなさい…僕の…僕のせいだ」

 

 自分があの時小石を蹴ってしまったから…あの時もっと気を付けていればコウスケは傷だらけになっていないというのに…強い後悔と今自分は苦しんでいる友達に対して何もできないことによる無力感がハジメの心を抉っていく

 

「………」

 

 コウスケは何も言わずただ首を横に振る、がそれで力を使い果たしたのか呼吸がどんどん弱くなっていく

 

「嫌だ!死なないでコウスケ!ダメだよ…諦め…な…いで…」

 

 言い終わると同時にハジメの意識が朦朧としてきた。ただでさえベヒモスを足止めして魔力が尽きそうだったのに無理やり錬成を使ったからだ。何とか意識を保とうとするも体力魔力どちらも使い果たしたのだ。次第にハジメの意識が強い無力感と友達を失う恐怖感を抱きながら闇の中に落ちていく。

 

「……コウ…ス…ケ」

 

 意識が完全に落ちる寸前、仰向けになったコウスケに何か光るものが落ちるのが見えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




何かおかしい所があってもこまけぇことはいいんだよ!の精神で見てくれると嬉しいです
それはそれとして読みにくくはなかったでしょうか?心配です

感想お待ちしています

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