上手く行けばいいんですけど…
「ああもう。ここはいったいどこなんだよ」
コウスケは全く見知らぬ空間に一人でぼやいていた。さっきまではリリアーナと一緒にいたはずだったのだが懐に持っていた四つ大迷宮の証からの光によって奇妙な空間にワープされてしまったのだ。
空間…と言うよりコウスケがいる部屋はそれほど大きくない。光沢のある黒塗りの部屋で、中央に魔法陣が描かれており、その傍には台座があって古びた本が置かれている。
「悪意や敵意は感じられないし…うーんやっぱりここは解放者の間なんだろうけど…」
魔法陣をしげしげと見て呟くコウスケ。おそらくここは神山にある大迷宮の最深部なのだろうと推測する。何故いきなり攻略の証が光ったのか、なぜいきなりワープしてきたのか、そもそも帰りはどうするべきなのか。考えることは山ほどあるが今は目の前にある魔法陣だ。
「これは…たしか魂魄魔法だよな…南雲達より先に乗ってみるか?」
しげしげと精緻にして芸術的な魔法陣を見て、そこで誰かにみられていることにコウスケは気付いた。
「…誰だ!?って貴方は…」
魔法陣より奥にその男はいた。白い法衣の様なものを着た禿頭が特徴的だが、何よりコウスケが目を奪われるのはその目だ。厳格と言う言葉がよく似合うその力強い目はしかしどこか優しさを感じるものだった。分かりやすいたとえで言うなれば厳格で躾けが厳しい父親だが内心は子供を甘やかしたくなる親バカな感じとでもいうべきか。今そのまなざしはコウスケに向けられている
「…貴方がラウス・バーンですね」
『………』
コウスケの質問に男は何も答えない。幽霊と同じようなものだとはわかってはいても返事が返ってくると思ってしまうのだ。それでもコウスケは話をやめることはしない。何故だか今この瞬間を逃したくないと心の奥で訴えかけるものがあるのだ。
「どうして俺はここにいきなり呼ばれたんですか?…いいえ、そんな些細な事よりあなたに聞きたいことがあるんです」
ラウスは何も話さない、何も行動しない。しかし魂のはずなのに目だけはしっかりとコウスケを見ている。
「俺は…俺はあなたたち解放者と何か関係があったんですか?」
コウスケがずっと気になっていたことだった。今まで解放者たちに出会うと何か胸が締め付けられるようなものがあった。それは今ラウスと対面している今も感じるものだった。現に今にもコウスケの目から涙があふれそうになっている。
「どうしてなんでしょうね…貴方と面と向かって話ができることが嬉しいって思うんです。面識なんてないのに…初対面のはずなのに
どうしてか嬉しくてしょうがなくて…貴方は何か知っているんですか?」
胸を押さえ懇願するようにラウスに問うコウスケ。そんなコウスケを見たラウスは静かに目を伏せるとその口を開いた。
『……すまない』
「…いったい何を」
ポツリとつぶやいた声は小さなものだったが確かにコウスケの耳に聞こえた。その謝罪の意味を聞こうとしたところでラウスの異変に気が付いた。元から幽霊の様におぼろげのようなその姿が徐々に薄くなっていくのだ。
「…そんな…待って、待ってください!俺はまだ貴方と!」
『…私の魔法はもう継承してある…全てはお前次第だ……使い道を誤るなよ…」
コウスケの言葉に耳を貸さずラウスは言うべきことは言ったと言わんばかりに姿を消してしまった。
「…ラウスさん」
がっくりとうなだれてしまうコウスケ。自分の中の奇妙な違和感を聞こうとしたのに結局なにも聞けずじまいでおまけに会話なんてものはできず一方的に喋っていただけだった。
「……はぁーどうせ照れて顔を見合わすことができなかったんだろう。そう考えれば…なんかあの人っぽいかな…?なんで俺はそう思うんだ?……ああもう!考えても仕方ない。頭を切り替えてさっさと行動しよう」
深い溜息を一つつくとすぐに頭の中を切り替える。なぜ?どうして?疑問は深まるばかりで仕方がないが今はほかにするべきことがある。
軽く頭を振り思考をリセットすると魔法陣の上に移動する。なぜここに来たのかは分からないがせっかくここまで来たのだ。ここで習得できる魂魄魔法をさっさと覚えていた方が良いだろうと判断した。
「………あれ?」
しかしいつものように魔法陣が光るわけでもなく胸に温かいものが宿る様子もなかった。首をかしげてしばし、ジャンプしてみたり魔法陣の中に出たり入ったりしてみるも反応は全くしない。
「えぇー壊れているのかコレ…ちょっとー欠陥品を残さないでくださいよーラウスさーん」
魔法陣をつつきながら居なくなったラウスに愚痴ることしばしば、しょんぼりした気持ちでわらにもすがるような複雑な気分で自分のステータスプレート見て気が付いた。
「んん?あれコレって…え?もしかしてそういう事なの?…でも…まぁいいか」
自分のステータスプレートに書いてあることに目をぱちくりさせるもすぐに考えないことにする。魂魄魔法に関しては南雲と相談しよう。コウスケはすぐにここからの脱出に考えを切り替える。そうでもしなければやっていけないほど混乱していたのだ。
「えーっと出る方法は…魔法陣はなぜか使えないみたいだから…徒歩で帰るべきなのか」
しかし周りを見回しても出口は無い。壁を見つめ事の状況に冷や汗をかきぽつりと一言
「…詰んだ?はははそんな馬鹿な……マジ?」
隠し扉がないかと壁をコンコンと叩いてみるもののそれらしき反応はせず。今更ながらにコウスケはいかに現状がまずいのかを悟った
「マジかよ!?緊急用の通路でも作っておけよあんの禿げ頭!なんで密室なんかつくんのかな!?どうやって脱出すれば…そりゃ脱出ゲームは好きだけどあくまでゲームの中だけだからな!」
愚痴を言いつつしばし考えるコウスケ。そこでやっとでティンと来た。
「そうだ…空間魔法を使えばいいんだ!ワープできたんならこちらもワープで帰る。そんな簡単なことに気付かないとは…てへぺろ☆」
おどけて見せるが勿論周りの反応はなく、物悲しさを感じながら、座標を決める。
「えっと、こういう時は誰かの魔力を感知してから空間移動すればよかったよな。そうすれば壁の中にいるってことはなさそうだし…さっきから独り言多いな俺。本当に虚しくなってきたぞ」
人恋しさを感じながらも仲間の中の誰の元に飛ぶべきか考えるコウスケ
「南雲は…今頃空中戦だから俺が行っても足手まといで、ティオも同じ理由で邪魔になっちまうな。ユエとシアは…王都の正門近くだろうから、ちょっと遠すぎるな。俺じゃ無理かもしれないやめておこう。ってことはさっきまでいた香織とリリアーナがベストだよな」
座標を香織のそばに決定し魔力を練り上げるコウスケ。
(香織のそばってことは…あ~嫌だなぁメルヘンと対峙するの…どうせ頭パッパラパ―になっているだろうし遭遇したら速攻で黙らせるとしようかな。檜山も同じ理由でサクッと沈める。……最悪殺っておく覚悟もしておいた方が良いな。面倒な連中だし)
これからすべきことにげんなりしながらコウスケは空間魔法を使いで一瞬で香織とリリアーナの傍に移動する
そこで香織たちと合流したコウスケが見たものは……
「なぁにこれ」
「よう、意外と遅かったな勇者」
何故かメンヘラこと中村絵里を足で踏みつけている清水幸利と
「さっさと目を覚まさんか!この馬鹿者!」
騎士団長メルド・ロギンスによって思いっきり殴られている檜山大介の姿だった
ストックが切れていくー
ヤベェよやべぇよ
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