ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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遅くなっても申し訳ありません。
短いです。なんかバランスがおかしいです。力不足をとても感じます


王都防衛線 ⑤

 

 

兎人族は亜人族の中で一番弱く貧弱だとシアはカムから教えられてきた。事実兎人族は戦う力を持たず、隠れる事と逃げることに特化した身体能力を磨いてきた。だからこそ今まで兎人族は生き延びてきたとシアは考えていた。

 

 ハジメ達について行くようになり様々なことを学び時には戦い成長していきながらシアの視野は広がっていた。その旅の中でシアは

どうしてもよくわからないことがあった。

 

 

 ユエと分断され多数の魔人族や魔物に囲まれながらもシアは余裕だった。相対する敵のすべてが自分より格下で、脅威と言っても大迷宮の魔物たちに比べれば拙いもので、仲間内での訓練の方がよっぽど手厳しかった。

 

 そんな中、怒りに燃えた目でさっきからシアに向かって風の刃を飛ばしてくる魔人族の男を軽くあしらいながらシアはふと思ったことを尋ねた。

 

「カトレアの仇だ…貴様だけは…貴様だけは絶対に殺す!」

 

「う~ん。さっきからカトレアカトレアと言ってますけどその人が何なんですか?」

 

「俺の婚約者で貴様らがオルクス迷宮で打ち負かした相手だ!」

 

「あ~なんかコウスケさんが言ってましたね。故郷へ帰らせたとか何とか…で?死んでもいないのに仇ってなんなんですか?」

 

 純粋に疑問を聞いてみれば相手は顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。

 

「アイツは…アイツはもう戦士として戦えなくなったんだ!国に帰ってからずっと何かにおびえているように震えて…優しく聡明で、いつも国を思っていたアイツを…よくも!」

 

 血走った目で、恨みを吐く魔人族の男に、シアは実にあっさりした言葉で返した。

 

「…それを私に言われてもだから何?としか言えないんですけどーそもそも死んでいないのならいいじゃないですか。怖いと言うのなら恋人である貴方が傍にいなければいけないのに…よくもまぁ恋人を放っておいてこんなところまで来たものですね」

 

「う、うるさい!うるさい、うるさい! カトレアの仇だ! 苦痛に狂うまでいたぶってから殺してやる!」

 

 正論を言ったシアに対して魔人族の男は喚きながら竜巻を生み出し無数の風の刃をシアに放ってくる。無数に放たれた刃をこれまたぴょんぴょんと軽やかに飛び跳ねながら回避するシアは呆れながらちょうど近くにいた黒鷲の魔物の頭を蹴り砕きながら話し始める

 

「クソが!接近させるな!距離取って遠距離から魔法と石針で波状攻撃しろ!」

 

「そうはいってもあなたたちの速度ではたぶん無理だと…」

 

 離れようとする魔物に向かって切り揉み回転をしながらドリュッケンを振り回すシア。その高速の動きに構える暇も、逃げ出すこともできずに魔人族が乗っている黒鷲が次々と砕かれていく。

 

「何なんだこの化け物は!」

 

 魔人族の男が驚愕している間に次々と魔物の頭を砕き落としていくシア。絶命していく魔物の体液を浴びたシアはうへぇとした顔で血まみれになったを顔をぬぐうとさっきから疑問に思っていたことを魔人族の男に聞いてみることにした。 

 

「…さっきからずっと思っていたことなんですけど…なんであなたたち逃げないんですか?」

 

「なにを…何を言っているこの獣風情が!」

 

「化け物の次は獣ですか…まぁいいです。だから何で逃げないんですか。もうわかっていますよね?私と貴方達では絶対的に差があると」

 

「ぐっ…」

 

「他の有象無象はともかく自分と相手の力が分からないほど弱くはないんでしょう貴方は。なのにどうしてわざわざ自分から死にに来るんですか?恋人のため?国のため?上司のため?それとも魔王と言う存在のため?…うーんよくわかんないですぅ」

 

 シアはずっとわからなかった。何故力の差が分からずにこちらを見下せるのか。なぜ相手の実力を図ろうとしないのか。なぜ?どうして?最も弱いと言われていた種族のシアだからこそ疑問を浮かばずにはいられなかった。

 

「…別にあなたたちがどうなろうとかまわないんですが…ほんっとこんな人たちにも手を差し伸べようとするコウスケさんは人がいいのか甘すぎるのか…まぁそこがいいんですけどね」

 

「さっきから何をブツブツ言っているこの獣が!」

 

 怒声に対してシアははぁと溜息をつくとドリュッケンを軽く振り方に担ぎ不敵な笑みを浮かべる。

 

「別に何でもありませんよ。それはともかくとして実力の差だが分かっていても向かってくるんです。それ相応の覚悟はできているとみていいですね」

 

「総員この畜生をなぶり殺しにしろ!」

 

「あらら、もはや話す言葉さえなくなりましたか。まぁ構いません。それじゃ皆さん。命は取りませんが全部まとめて叩き潰してあげます!」

 

 笑顔で宣言したシアは詠唱する魔人族たちに向かって飛び跳ねていくのだった

 

 

 

 

 

 

 

「やはり生きていたか…末恐ろしい化け物だ。いったいどうやってあのような状況で…」

 

「…少しは考えろ道化」

 

 シアと分断されたユエは魔人族の総司令官フリードとにらみ合っていた。正確に言えばフリードが警戒するようにユエを睨んでいるだけでユエは全く気にも留めていなかったのだが…

 

「道化だと?貴様、私弄するのか!?」

 

「神の言いなりで自分の意思も無い。そんな奴はただの道化に過ぎない」

 

「フン!アルブ様は絶対のお方だ。あの人の言う事に間違いはない…そう間違いなど」

 

 ユエの言葉にはっきりと答えたはずのフリードだが徐々に声が小さくなっていく。怪訝そうなユエに気付くこともなくフリードは

うわごとのように何かを言い続ける

 

「アルブ様は我々のためを思って…だが何故だ?何故あの男を?…我ら魔人族以外の者は不必要なのに()()()()()()()を…こんな防壁など我らと魔物さえいればどうしてあんな下賤な()()()()()など…」

 

 ひとしきり何かを呟いた後フリードは頭を振ってユエを睨みつける。その眼には強い敵意と共にわずかな困惑な感情が見て取れた。

 

「奴だ…」

 

「…奴?」

 

「コウスケと呼ばれていたあの男の言葉が頭から離れない。『真の敵』とは?『魔人族が全滅』するとは?お前たちは何を知っている?どうして敵である私に声をかける?どうしてあの言葉を思い出すたびにアルブ様への信仰が消えていくのだ…分からない…分からないことだらけだ!」

 

 フリードが叫ぶ怒りの声と合わせるように白竜ウラノスがブレスをユエに向かって放つ。

 

「キュアアアアア!!」

 

 ウラノスのブレスを難なく避けるユエに対して手で頭を押さえ苛立つような表情をしたフリードが声高々に宣言する

 

「貴様を殺せば!貴様たちを殺せばこの疑問もアルブ様への疑惑も全てが消える!貴様らはここで消え失せろぉおお!」

 

 絶叫と共に魔法の詠唱に入るフリード。そんなフリードをユエはただ黙ってみているだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユエさーん! すいません遅くなって…って、うわぁ~何ですか、ここ? 天変地異でもあったんですか?」

 

 シアの声が聞こえてきたのはフリードが逃げてから数分後の事だった。シアは呆れた様子で周囲を見渡し尋ねるとと、

ユエは何でもない様子で答える。

 

「ん、逃げられた」

 

「ありゃ、意外と賢明な判断ができたんですねアレ」

 

 そんな感じで暫く情報交換していると王宮の一角で爆発が起き、次いで、雨が降ってきた。

 

「?これは…」

 

「雨?」

 

 空を見上げる2人の上からだんだん勢いが増してくる雨。しかしその雨は普通とは違っていた。雨の一つ一つが紅く光っており、なおかつ液体ではなく体に触れても一つ一つがふっと消えて行くのだ。どう考えても普通ではない。

 

「なんか…紅くありません?この雨」

 

「…きっとハジメが何かした。」

 

 何やら妙な確信を持ったユエの視線につられてみると、そこには外壁の外で待機していた数万からなる魔物の大軍がもだえ苦しみながら息絶えていく姿があった。誰の仕業かすぐに検討が付きシアは軽く溜息をつく。

 

「もぅ…本当にハジメさんは私たちの想像できないものを作り出すんですからぁ~事前に説明してほしいですよですぅ~」

 

「きっとコウスケをびっくりさせるための物、致し方無し」

 

 ユエはふっと微笑むと王宮に向かって歩き出す。シアも遠目に見える死骸となった魔物の大軍を一瞥すると王宮に向かって歩きだすのだった

 

 

 

 

 

 




原作と同じようにしようとすると表現をどうしようかと頭を悩ませます。
だからと言ってオリジナルになると矛盾がないかビクビクします。
二次創作のくせにして余計な事ばっかり考えてしまいます

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