ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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お待たせです。


王都防衛線 8

 

  人間予想もつかないことが起こると思考が停止するとはよく聞く話だがコウスケはまさか自分がそうなるとは思ってもいなかった。

 

「なぁにこれぇ」

 

 傷ついている生徒たちは想像通りだ。違っているのは全員が自分を見て目を見開いていることだが、いきなり天之河光輝が出てきたら驚くのは仕方ないと言えるので別段問題はなかった。

 

 同じく怪我をしている八重樫雫も香織に抱き着かれながら同じように驚いている。こちらは怪我はないが他の生徒達と同じように驚いている。コウスケとしてはさっさと立ち直ってほしいが相手は高校生だ。あんまり期待しすぎるのはどうかと思う。

 

 問題は…

 

「どうした!何とか!言ったら!どうなんだ!大介!」

 

 言葉を区切るたびに馬乗りになったメルドが檜山の顔面を殴っている光景と

 

「おいおいどうした?何をそんなに驚いているんだ」

 

 現在進行形で中村絵里を踏みつけている清水幸利だろうか。

 

 

(えぇ~)

 

 正直中々のドン引きな光景だったがすぐに頭を切り替えることにする。とりあえず檜山の方はスルーしてもいいだろう。顔の形が愉快なことになっているかもしれないがこっちには再生魔法がある。極端な話、死ななければある程度は修復可能なので後回しにしても問題はない

 

(つーかキレているメルドさんに話しかけたくねぇ…)

 

 怒りで赤くなっている顔で絶賛気絶中の相手を殴っている筋肉モリモリの成人男性と言うのは中々恐怖モノだ。進んで関わりたくなかった。檜山への黙祷を簡単に済ませると絶賛どう接すればいいのかわからない清水幸利と正直関わりたくない中村絵里に目を向ける。

 

(…あれ死んで無いか?)

 

 清水の足元で倒れている恵理を見れば、腕は変な方向に曲がっており顔面に足跡がくっきりとついていて白目をむいている姿は何処からどう見ても瀕死だった。

 

「コイツか?安心しろ魔力封じの枷を付けたから何もできねぇよ。ま、ちょっとばっかりウザかったからボコっては見たが…問題はねぇよな?」

 

「お、おう」

 

 清水は足元の恵理をゴミでも見るかのように一瞥した後コウスケに不敵な笑みを浮かべて確認してくる。コウスケは返事を戸惑いながらも清水をマジマジと見る。最初の出会いは敵対していて、その後瀕死になった清水を助け出した後は全く持って接触も情報もなかったのだ。

 だからコウスケからしてみれば敵か味方すらわからないのだ。現状敵対の意思はなさそうだがどうしても身構えてしまう。そんなコウスケの悩みに気付いた様子もなく清水は怪訝な表情を浮かべる

 

「それよりなんなんだ?オレをじろじろ見て…」

 

 今目の前にいる清水幸利はコウスケが知っている原作の清水ではない。堂々とした佇まいに不敵な笑み、ステータスを見なくてもわかる他の生徒達よりも高い内に秘める魔力量。どれもがコウスケが知っている清水幸利ではなかった。だから思わず聞いてしまった。

 

「えっと…お前本当に清水なのか?なんか性格が…」

 

「…はぁ~ どいつもこいつもオレをなんだと思って…フン無理もないか」

 

 呆れたかの様に肩をすくめると清水は改めてコウスケに向き直るとどこか含むような顔で姿勢を正した。

 

「仕方ない改めて自己紹介をしようか。…初めまして、かな?オレの名前は清水幸利。お前の知っている南雲ハジメのクラスメイトであり、アホな事をしでかそうとして死にかけた大馬鹿者であり、お前によって救われた、ただの闇術師で、お前の味方だ」

 

「…マジで本物の清水?偽物とか俺の幻覚とかじゃなくて?」

 

「ああ間違い無く本物だ。ちっと性格は変わっているが…」

 

「そっか…体の調子は良いのか?腹に大きな風穴が開いていたような気がしたけど…大丈夫?」

 

「問題ない、誰かさんが助けてくれたからな。もう…塞がったさ」

 

「そっか、うん。良かったよ」

 

「…おう」

 

 状況は分からない。なぜ清水が恵理を足蹴にしているのか、どうして清水の性格や感じる風格が全然違うものになっているのかそもそも先ほどから騎士たちがいないのも変なのだがコウスケはそれらを全部わきに置いて清水が元気で生きていることを喜んだ。

 

 清水は清水で会いたかった人に自分の生存を喜ばれると気恥ずかしさを感じてしまう。言いたいことも聞きたいこともあるし何よりも伝えたいことがあるのだがどうすればいいかどう伝えればいいか対人経験が人より少ない清水は少し戸惑ってしまった。

 

「あーなんだ取りあえず色々情報交換しねぇか?薄々南雲達が来るだろうなってことは分かっていたんだが、こっから先どうなるかまではわかんなくてな」

 

「そうだなこっちも色々聞きたいし…って来るのを分かっていた?」

 

「それについては後にするぞ。また時間ができたら話をするから今は現状の確認の方が先だ」

 

 お互い少々気まずいような雰囲気になる物の取りあえずは情報交換をするべきだという清水の言葉に同意するコウスケ。途中の気になる発言は清水から後でと言われてしまったので今はわきに置いておくことにする。

 

 

 

 

 

 

 

「……つーことで取りあえず中村と檜山は無力化した。おそらくこれでいいと思ったんだが」

 

「いやいや十分だ。寧ろ物凄く有り難い。あのメンヘラを相手にしなくていいってのはデカい。ものすごく助かる。第3部完!って言いたくなるぐらいにめっちゃ嬉しい!」

 

「あ、ああそいつは良かった。中村がお前を見たら何をしでかすかはわからなかったからな。気絶させて正解だったか」

(…なんかフラグっぽいぞ今の言葉)

 

「はぁー結構身構えていたからね~一気に肩の力が抜けたよ。…んで詳細は分かんないから憶測だけど清水が暗躍して動いてたってことでいいの?」

 

「そういう事だコウスケ」

 

「メルドさん。そっちも無事だったんですね」

 

「ああ、清水が動いていなければ俺達騎士団は何も知らずに壊滅していたかもしれん」

 

「そうだったんですか…お手柄だな清水!」

 

「…止めてくれオレは別に…」

 

 コウスケと清水、途中からメルドを交えながらも話を進めていく。清水とメルド曰く、騎士団たちは町の方へ向かっていったらしい。

その事がコウスケにはうれしくて仕方がない。明らかに原作とは違った展開であり、何より騎士団を救ったのは清水であるというのが

自分の事のように誇らしかった。当の清水は照れているのかそっぽを向いてしまっているが…

 

 その3人とは別に香織、リリアーナは生徒たちの怪我の手当てをしている。最も傷は治療されている物の心の方が疲弊してしまっているらしく何人もの生徒は地面にへたり込んでしまったり俯いてしまっている。

 

「これで皆は大丈夫。雫ちゃんは?怪我はない?」

 

「私は大丈夫よ香織。それにしてもどうしてここに?」

 

「私がコウスケさんたちに救援をお願いしたんです。それで南雲さんは愛子先生を助けに行って私と香織はあなたたちの救出に来たのですが…」

 

「なんだかコウスケさんから聞いた話とは違う事になっているね。いったいどうなっているの香織ちゃん」

 

「それこそ私が聞きたいわよ…パリンって音が鳴ったから嫌な予感を感じて皆を叩き起こしてどうすればって考え込んでいたら恵理が騎士団と合流した方が良いっていうから合流したら何故か襲われて、恵理がいきなり豹変して殺されるって思ったら清水君がいきなり恵理をフルボッコにして…何が何だかわからないうちに騎士団の人たちはさっさといなくなってしまって次は貴方達が来て…何故か檜山君がメルドさんにボコボコにされてていきなり光輝が空から現れて…本当に何が起きているの?どうなっているの?そもそもなんで光輝はあんなに清水君と仲良くなっているの?それにさっきから香織たちが言っているコウスケって人は誰?」

 

 心労が限界に来たのか矢継ぎ早に香織に問い詰める雫に香織とリリアーナはどう説明するべきものかと顔を見合わせた。

 

(どうするのリリィ?コウスケさんのこと説明する?)

 

(…いえ今は説明しなくてもいいでしょう。彼女たちをこれ以上混乱させるのは気の毒です)

 

「えーっと後で説明するから今は取りあえず休んでいて」

 

「後でって…はぁ分かったわよ。とりあえずみんなの様子でも見てくるわ」

 

 少々苦しい形になるが問題を後回しにする香織とリリアーナ。その2人の態度に雫は問い詰めたくなるのを我慢してクラスメイト達のもとへ足を運ぶ。ちなみにだが気絶している恵理と檜山の双方は魔力封じの枷を何重にも巻き付けられおまけに荒縄で体を縛られている。体の怪我は回復させてもらえずまとめて雑に捨て置かれているが誰も反論はなかった。

 

 

 

 

 

(でも本当によかった。南雲のクラスメイト達はみんな無事だし厄介な奴も抑えられているし…後は南雲待ちか)

 

 最も一番の懸念事項が無くなったせいだろうか、コウスケの肩や心がとても軽くなっているのを感じていた。後はハジメの錬成兵器(ハジメ曰くとっておきの秘密兵器らしい)を使ってくれればこの騒動はすぐに終わるだろう。そう思った時だった。

 

「皆伏せろ!」

 

 声をあげながら守護を展開するコウスケ。いきなりコウスケに向かって極光が襲い掛かってきたのだ。

 

「おおおおお!!!」

 

 声を張り上げながら蒼の盾を展開し極光に真っ向から立ち向かう。前回はハジメをかばう事を優先して意識がそれていたがが今回は自分狙いだったのが幸いだったのか、集中できるので負担は少なく、むしろ余裕さえ感じられた。

 

 やがて、極光が収まり空から白竜に騎乗したフリードが降りてきた。

 

「…そこまでだ。異世界の勇者よ。大切な同胞達と王都の民達を、これ以上失いたくなければ大人しくすることだ」

 

「ほほぉう。人質作戦を取りますかぁー魔人族の最高司令官とあろうものが進んで小物っぽいことをするとは、中々卑劣なことをしてくださるようで」

 

「何とでも言え。そうでもしなければお前を封じることなどできぬからな」

 

 フリードと会話する中周囲の気配を探ればいつの間にか大勢の魔物が辺りを囲んでいた。大半が生徒たちを狙っており、フリードの合図一つで一斉攻撃が始まりそうだった。生徒達にとっては絶体絶命、しかしコウスケにとっては何も問題などなかった。

 

「…何を笑っている。そこにいる者たちは貴様の同胞だろう。貴様の行動一つで無残に朽ち果てるのだぞ。どうしてそこまで余裕でいられる?」

 

「何故って?そりゃ何とかなるに決まっているからだろ?」

 

 言葉と同時に自分の前に展開していた守護をいったん消すと固まっていた生徒たちの前にドーム状の結界を作り出す。蒼く光り出す結界は生徒たちを覆うように展開され絶対の防御の結界と化す。さらに誘光を使い魔物たちの攻撃対象を無理やり自分にさせる。これでたとえ攻撃されたとしても生徒たちに被害はなく自分の周りに守護を展開すれば何も問題はない

 

「さて?どうするねフリード君。今の俺は非常に気分が良いんでな。これぐらいの魔物どもじゃあ俺の防壁を突破することはできねぇぞ。それとも我慢比べをやってみるか?」

 

 不敵な笑みを浮かべながら笑いかければ、苦虫を潰したような表情でコウスケを見るフリード。

 

「フン。確かに貴様の防壁を突破するのは骨が折れそうだが王都の民までは守れまい。貴様のその力は確かに厄介だが外壁の外にいる十万の魔物たちやゲートの向こうで控えている百万の魔物を防ぐことはできまい」

 

「…あ、そういえばそうだった。王都の人たちのこと完璧に忘れていた!」

 

「おい、駄目駄目じゃねぇか」

 

 生徒たちの事ならいざ知らず王都にいる人間たちの事を完ぺきに忘れていたコウスケ。フリードの言葉でやっとで存在を思い出し声をあげれば隣にいた清水に突っ込まれてしまった。

 

「たとえ十万の魔物たちがいたとしても我らが騎士団をなめるなよフリードとやら!」

 

「……ああ、貴様がこの国の騎士団長か。…なんとも貧弱だな。そこにいる男と比べると相手にもならん」

 

「ほざいたな…ならば試してみるか!今ここで!」

 

 メルドが剣を構え気勢を上げればフリードは無表情で淡々と返す。王都の外にいる魔物の大軍をどうするか考えていたコウスケは2人の様子…正確にはフリードの姿に違和感を覚える。

 

 コウスケが知っているフリードはもっと傲慢で相手を徹底的に見下しもっと神を!神を!と叫ぶような小物のような男だったはずだった。それが今目の前にいるメルドと相対するフリードはどこか淡々として必要以上の敵意を向けているような感じはしないのだ。

 それにいくらコウスケの守護が強固でもなにもしないでいるというのが変だった。いくらでも攻撃できるはずなのに何もしないで只淡々と会話をしているだけ。明らかに不思議だった。

 

 そんなコウスケの疑問を感じ取ったのかメルドから視線を外したフリードはどこか奇妙な視線でコウスケを見る

 

「弱者なぞどうでもいい。それより貴様だ。勇者と呼ばれている男よ」

 

「勇者になったつもりは全く持ってないんだけどな…それよりなんぞ?」

 

「貴様は言ったな『真の敵は別にいる』と、そして『魔人族は全滅する』と…いったい何の事を言っているんだ」

 

 フリードのその言葉に内心驚くコウスケ。確かにグリューエン火山でそんな事を言ったような気はしたがまさかフリードが覚えているとは思わなかったのだ。

 

「確かに言った覚えはあるけど…よく覚えていたな。てっきり一蹴されるかと思った」

 

「ああ私もそう思った。だがなあの日からずっと貴様の言葉が頭から離れないのだ、私は間違ってはいない。アルブ様のいう事は間違っていないと。人間族を根絶やしにすればこの戦争は終わるだと。そう思えば思うほど貴様の言葉が引っかかるのだ。何か私は重大な間違いをしでかそうとしているような…」

 

 コウスケはフリードの奇妙な視線とさっきから攻撃してこないことの意味がようやく分かった。フリードは迷っているのだ。

 以前何かが起こればと願い言った自分の言葉が確かにフリードに響いたのだ。最もその葛藤や迷いはコウスケが産み付けさせたものかもしれないが、それでもとまいた種が少しづつでも孵化しようとしていることにコウスケは内心で笑っていた。

 

「聞かせろ貴様の言葉の意味を。殺すのはそれからでも遅くはあるまい」

 

「…分かった。それじゃあ耳を閉じて頭と心でよく聞けよ。この世界の真実と長きにわたる魔人族と人間族の戦争の真相を」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…『エヒト』それが真の敵。魔人族と人間族の戦争を長きにわたって続けさせた張本人であり、人の生死を娯楽としている者」

 

「おう、そしてお前の所の魔王とはつながっており今も魔人族や人間族が必死で戦い死んでいく姿をニヤニヤと笑っている不愉快な糞野郎だ」

 

 説明を聞き終えたフリードは眉間にしわを寄せ何かを考え込んでいる。どこか緊迫したような雰囲気でありながらコウスケは今こそが

好機だと判断した。今ここでフリードを説得しアルブに疑惑を向けさせればこのトータスの…この世界を生きる人間たちの無意味な戦争が終わるかもしれないのだ。

 

(後、個人的に絶滅寸前まで死にまくる魔人族が可哀想ってのもあるけどな…物語に踊らされるのは主要人物である俺達だけで十分だろ?何も関係のないただ生きている人たちまでが犠牲になるのは…よろしくはないな)

 

「…貴様はどうしてそこまでする?どうして私との会話を試みようとする?なぜ戦争を止めようとする?異世界の住人である貴様には何も関係のない事だ」

 

「…確かにそうだな。例えお前たち魔人族が滅びようとも人間族が死にかけようとしてもいつか故郷へ帰る俺には関係のない話だよな」

 

 少しばかり息をつき自分の気持ちを整理する。言葉は慎重に選ぶべきだが、思いは言葉に込め真っ直ぐフリードの目を見る。

 

「でもな。だからと言って死ぬかもしれない人達を放っておくほど人間を捨てているわけじゃねぇんだ。ほんの些細なおせっかいで救える連中を助けることができたら嬉しいじゃないか」

 

 フリードは何も言わない。ただコウスケの言葉を聞いているのだけは分かる。だからこそコウスケは原作のを知っている自分しかできない切り札と自分が体験したことを交えながら説得を試みる。

 

「なぁフリード。お前は必死な思いで神代魔法を手に入れたんだろ。何で死に物狂いで神代魔法を手に入れようとしたんだ」

 

「…それは」

 

「解放者たちが残した大迷宮ってのは半端な強さで攻略できるようなものじゃない。死に物狂いで決死の覚悟を持たないと突破することのできない試練を持った迷宮なんだ。俺は…がむしゃらで必死でくじけそうになってもダチを…ハジメを助けようとしてボロボロになってでも迷宮を突破することができたんだ」

 

 思い返すのはハジメと共に文字通り死に物狂いで踏破していったオルクス大迷宮。あの時の感じた事、生き抜いたこと、そのすべてを思い出しながら言葉に『魂』を乗せる

 

「だからこそ、俺は神代魔法を手に入れたお前が並大抵な覚悟と願いをもっていることを知っている。教えてくれフリード・バクアー

『お前は何のために神代魔法を手に入れた』」

 

 コウスケの言葉…魂魄魔法を使い自分の言葉を相手の魂に直接伝える『言霊』を聞いたフリードは絞り出すように言葉を出す

 

「…私は…そう、あの時只の魔人族だった私は…『同胞たちが何にも脅かされることのない安心できる国がほしかったのだ』」

 

『それは、お前の本心か?』

 

「そうだ、だから力を求めたのだ。この力があれば誰も傷つかないと…魔物どもを従えて戦えさせれば…戦友たちが傷つくことも…帰りを待っている者たちが涙を流すこともなくなると思ったのだ」

 

 言い終えたフリードは『言霊』の効果が切れたのか頭を振ると手で眉間を抑える。効果が思ったよりも短時間であることに内心舌打ちするコウスケだが、フリードの本心が聞けたのでよしとすることにする

 

「今のは…貴様いったい私に何を」

 

「お前の本心が出てくるように魔法をかけたのさ。効き目抜群だっただろう?」

 

「…交渉に魔法を使って戦いをやめさせようとする馬鹿がいたとな。正気か?」

 

「正気で人を救えるかっての。だけど俺の偽らざる本心もお前に聞こえたはずだ。違うか?」

 

 コウスケの言葉通りフリードには確かにこの馬鹿気た戦争を止めたいというコウスケの心が伝わっていた。

 

「…ああ確かに偽らざる本心だった。そして同時に戦いを終えさせた後は干渉する気がない事もな」

 

「げ!?そこまで伝わっちまうとは…要練習だな。まぁ別に良いだろ?俺は戦争終結のきっかけを作るだけ。後は話の分かる頭の柔らかい人たちが決めればいい」

 

「フン。 …確かに少しばかり考える必要があるな。アルブ様は我らの救いの光だ。しかしその光こそが私の目をくらませているのかもしれない」

 

 朗らかに笑うコウスケにつられたのかフリードはわずかに口角をあげる。周りは魔物の大軍が包囲している中での明らかに異様な雰囲気だった。だがそこにはが誰も口を挟む者はいない。ずっと続いていた戦いの終結が始まるのかもしれない。

 

 

 そんな雰囲気の中それは突然起こった。

 

「っ!?うぉぉおおおおおおお!!」

 

 ズドドドドドドォオ!!!!

 

 その場にいたフリードを除いた全員に降り注ぐ上級魔法の数々。その地獄の様に降り注ぐ魔法の数々をコウスケは自分に向かわせ、すべてを守護で防いでいく。

 

(何だ!?いきなり何なんだ!?あともう少しで和解が成立しようってのに!)

 

 荒ぶる感情を守護に回すことで何とか心の動揺を抑え込もうとするコウスケ。なにせ今全力で防いでいる魔法の一発一発はフリード

の乗っているウラノスの極光に引けを取らない威力なのだ。もし今ここで自分の守護が途切れてしまったら、辺りは地獄絵図と化してしまう。

 

 長いようで一瞬の魔法の数々を何とか抑えきったコウスケが辺りを見回しせば、広場はクレーターでぼこぼこになっていた。生徒達や仲間は無事だったようでひとまず安心するコウスケ。誰の差し金かとフリード見ればフリードは空を見上げとびきり苦い表情を浮かべている。

 

 コウスケや他の者たちも同じように攻撃してきた方向を見て全員が目を見開いた。特にリリアーナとメルドの驚愕は群を抜いていた。

 

「なぜ貴方が…何をしているのですか!」

 

「あんた…自分が一体何をしでかしているのかわかっているのか!」

 

 メルドとリリアーナの怒声と驚愕の声が響く中、原作を知っているコウスケだけは目の前の光景が理解できず唖然としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで…何でお前が生きているんだ…()()()()()()()…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、魔人族最高司令官フリード・バクアー殿とあろうものが己の神を疑うとは…アルブ様がお聞きになられたら嘆きますぞ」

 

 

 そう言うとコウスケたちを攻撃してきた人物…原作では死んでこの場にいないはずの聖教協会最高権力者『教皇』()()()()()()()()()()()()は溜息をついたのだった。

 

 

 

 

 

 

 




次で長かった王都編も終わりですね

気が向いたら感想お願いします

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