ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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遅れましたー
後半追加する予定です



交流編 闇術師

 

 

 ネタバラシ

 

「つーことで俺は天之河光輝じゃない、コウスケって言うんだ」

 

 騒動が終わった翌日、コウスケは召喚された者たちを集め、自分の素性の説明をした。元々隠していたのは中村恵理に聞かれてしまったら何をしでかすかわからなかったため話すことができなかったのである。中村絵里はこちら側の手にあり、押さえつけてあるのでもう心配するようなことはなく自分の天之河光輝としての役目が終わったと判断したのだ。

 

「…その話が本当ってのならあんたはずっと俺たちを騙していたっていうのかよ!」

「そうだ!いきなり出てきて何なんだよ!」

 

 声を荒げたのはコウスケの見覚えのない少年達だった。誰か名前を思い出せないで居ることに申し訳なく感じながらも話を続けることにする

 

「騙していたか…確かにそうだな。俺はずっと君たちに嘘をついていたんだから。でも嘘をつくのはもうおしまいだ」

 

 一度言葉を切り集まった少年少女達…自分よりも年下の子供たちの姿を順番にしっかりと見てから宣言する 

 

「俺は君たちの頼れるリーダー天之河君じゃない。いきなり言われても戸惑うだろうし理解できないことかもしれない。でもこれだけは約束するよ。もう君たちは武器を取らなくていい。戦争に参加しなくても殺し合いをしなくてもいいんだ。面倒なことは俺がどうにかする。君達が帰れる手段も探し出す。だから後は俺に任せて君たちはこの王都で待ってていてくれないか。必ず君たちを故郷まで帰らせるから」

 

 自分より年下の少年少女たちが武器を手に取るのがコウスケにとっては嫌で仕方なかった。例え偽善と言われてしまっても自分が焚き付けたようなものとしても嫌だったのだ。

 

 コウスケの言葉に集まった一同は誰も何も言わなった。勿論不満を持ち天之河光輝の姿をした怪しい男としか見えないものもいる。しかしコウスケの真摯な言葉確かに伝わり、だからこそ誰もが何も言えなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 清水と遭遇

 

 

「お疲れさん。中々の演技力だったな」

 

「清水?」

 

 召喚された者たちに対しての説明が終わり用意された部屋にて一息ついたころ、清水がコウスケを訪ねてきた。

 

「斎藤たちが何やら騒いではいたがお前の言葉に完全に沈黙しちまったぞ」

 

「そうかな?納得しててくれればいいんだけど…難しいよな」

 

「そこまで気にする必要はないだろ。みんな生きているんだから」

 

 清水は特に気にした風もなくそれが少しばかりコウスケには気が楽だった。

 

「そうだな。っとそうだ清水 ありがとうお前のおかげで凄く助かったよ」

 

「なにがだ?」

 

「檜山と中村を抑えてくれていただろ どうなるか心配だったけど上手くやってくれたおかげでこっちはだいぶ楽になったよ」

 

 清水が檜山と中村を抑えていなければ今頃は両者の首をはねていたかもしれない。物騒な結果にならずに済んだことに清水に感謝をすれば当の本人は肩を竦めている

 

「それはよかった。俺のせいで物語の流れがおかしくなるかと危惧したが、問題はなさそうだな」

 

「いやいや清水が抑えてくれ無かったら今頃檜山は魔物に食われていて中村はエヒト側に…って待った。清水今お前なんて」

 

「やっとで気付いたか。俺はその事で話をしに来たんだ」

 

 ニヤリと笑う清水はどこか悪戯が成功した様に笑っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライトノベルの世界

 

 

「どこかおかしいと思っていた。異世界召喚にクラスの中でただ独りの非戦闘職の南雲ハジメ、奈落に落ちていきそこで美少女と出会った」

 

 清水は淡々としかし目は逸らさずにコウスケを見ていた。

 

「それは…」

 

「おかしくないか?異世界なんてのもそうだがあの高さから落ちて生きているんだぞ。出来過ぎにしても都合が良すぎるだから思ったんだ。まるでライトノベルの様だって」

 

「……」

 

「極めつけに顔が天之河でもな中身が全く別の奴が『原作レイプ』なんて話すんだから何となく察したよ。もしかして俺達のこの状況は物語なんじゃないかって」

 

 話す清水の様子はどこか達観していて皮肉るようにも嘲笑うようにも見えない。だからコウスケは清水に話すことにしたこの世界はライトノベルが元の世界だと。きっと彼なら受け入れるのではないかと思ったのだ

 

「あ~そういえばそんな事を言っていたような…はぁご名答だ清水。察しの通りこの世界は、南雲ハジメを主人公とした『ありふれた職業で世界最強』ってタイトルのライトノベルの世界なんだ」

 

「…そうか やっぱり俺達は作りもんだったのか」

 

「って言ってもライトノベルが元になっただけで生きているお前たちは二次元ていう訳じゃ…すまん上手く説明できないけど作りもんじゃないってことだけは分かってくれ」

 

「いいさ、大体のことは理解しているつもりだからな。…そっかなら俺のやったことは本当に良かったんだな…」

 

「そうだ。だからありがとう清水。君のおかげで皆が助かったんだ」

 

 深く息を吐き目を瞑る清水にコウスケはもう一度礼を言う事にした。清水のおかげで大勢の人間が救われたのは事実なのだから

 

 

 

 

 

 

 

 何で気付かなかったんだろう?

 

 これまでの旅の事や事情を清水に説明していた時だった

 

「しかしまぁ別人だったとはな、見れば見るほど天之河だとは別人にしか見えないのになんで俺達は誰も気づかなかったんだ?最初のころから怪しかったのに」

 

「怪しいって…いきなり天之河になれるかっての」

 

「ははは違いない」

 

 しげしげとコウスケの顔を見ながらも不思議そうに話す清水にコウスケはステータスプレートを出しながらも誰も気づかなかった原因を思い出す

 

「取りあえずこいつを見てくれ清水。ステータスオープン…相変わらずなんでこれを言わなきゃならないんだ?」

 

 そんな不満を言いながらも自分のステータスプレートを清水に渡す。渡されたステータスプレートを見た清水は眉をひそめた

 

 

「あ、取り合えず能力値?の方はスっ飛ばしてくれ。見るべきところは技能欄だからな」

 

 

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技能:我流闘技・魔力操作・全属性適正・悪食・守護・快活・誘光・『魂魄魔法』・他多数

 

 

 

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「……悪いがオレは初めてお前のステータスを見たから何を言いたいのかよくわからん」

 

「あーそうだな、なぁ清水俺が天之河光輝のふりをしていた時のステータス覚えているか?」

 

「…それなら覚えている。他の奴より明らかに上だったからな」

 

「その技能欄に--魔法ってのがあったんだ。特に気にはしていなかったけどその魔法こそが魂魄魔法…つまり人の精神、魂に干渉できる魔法だったんだ」

 

「なるほど、その魂魄魔法を使って皆が気付かないようにしていたわけだな」

 

「そういう事、あの時は皆にばれない様に願いながら天之河のふりをしていたからな。無自覚に魔法を使っていたんだと思う」

 

(…ならなぜ召喚された直後に魂魄魔法っていうのを使えていたのかが気になるがな…おまけに天職欄の方も。まぁオレが言うべきことではないか)

 

「しかし良かったよ~おかげで何とかなったんだから。アレ?なら何で南雲はすぐに気づいたんだ?」

 

「…主人公にだけは気付いてほしかった とか」

 

「……てへ」

 

「照れんなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうして気付いたの?

 

「清水、檜山はともかくとして何故中村が裏切者だって気づいたんだ?」

 

「あ?天職を見たら一発じゃねぇか」

 

「あー降霊術師だったっけ」

 

「怪しいにもほどがあるだろ。知っているか?アイツ大人しそうに振舞っているけどオレからしてみれば策士気取りの腹黒女にしか見えなかったぞ」

 

「うーんお前のクラスの事をよく知らないから何とも言えんが…天職で気付いたってのは盲点だったな」

 

「天職ってのは言い換えれば人の才能だからな、王道的な天職の中一人だけ異端すぎるんだよ

 

「そういうもんかー ん?なら遠藤君のことは疑わなかったの?確か彼の天職は暗殺者だったんじゃ…」

 

「……あ」

 

(…忘れられたのか、不憫な少年だ)

 

 

 

 

 

 裏工作

 

「でもさ、中村が企んでいたのが分かっていたんならどこかで止めようとは思わなかったのか?」

 

「無論考えたさ、だけどよあの銀髪の女…確かノイントって言ったかアイツのがいたから迂闊に行動できなかったんだ」

 

「あーなるほど確かに気取られたら一発でアウトか。おまけにノイントが国王とかをおかしくさせていたんだっけ?」

 

「そうだ。オレが奴らの計画に入り込んだ時にはほとんどが手遅れだった。奴に気取られないように誤魔化すしかなくてなだから後手後手だった」

 

「アイツは南雲ぐらいじゃないと勝てない強さだから。な変に行動しないでよかったかも」

 

「最初アイツを見かけたときは寒気がしたぞ。こんな化け物に勝てるのかってな。だからメルド団長やホセ副長と裏でやり取りをしていたんだ。『下手に動くとあのバケモノに排除される。期を見て行動するべきだ』ってな」

 

「なるほどなるほどねー」

 

「中村の茶番劇に合わせて動くのはストレスがたまったよ。騎士の連中も相当鬱憤がたまっているはずだ。なんせずっとコケにされていたんだからな。ホセ副長なんていつキレててもおかしくなかったぜ」

 

(……後で中村たちの処遇についてメルド団長と話をしておくべき…か)

 

「ん?でもあの場には騎士の人たちはいなかったけど?途中で茶番劇をやめたの?」

 

「ああ、そのまま茶番劇に付き合う筈だったんだが、谷口に対してあ~だこーだ言い始めた時点でもういいかと思って攻撃した。クラスの奴らが多少怪我したが誰も死んでいないし怪我しても治癒魔法があるんだ。どうにでもなると思った…何も考えていなかったとも言うがな」

 

「ふーん まぁ近藤君も生きていたことだし問題なかったのかな」

 

(…近藤 生き残れてよかったな)

 

 

 

 

 

 

 

 

清水の決意

 

 

「で、ここからが本題だ」

 

「おう?改まってどしたの」

 

「オレもあんたたちの旅に同行させてほしい」

 

「…どうしてかな?」

 

「オレを助けてくれた事と馬鹿な事を止めてくれた事。そのためにオレは」

 

「恩返しって奴か、でもそれだけじゃ同行を認めることはできないよ?戦力は十分でアイツらが居れば並大抵のことはどうにでもなる。

同行したところで実力の差が開き過ぎているんだ。今の君ではとてもじゃないけど」

 

「…確かに今更、オレが戦力になるとは思えない、寧ろあんたの言う通り実力の差は天と地ほど差がある。それでも!」

 

「分かっているのなら別に良いじゃないか。寧ろ折角助かった命なんだ、むやみに危険にさらす必要はない。中村と檜山を止めてくれた

それだけで十分俺達は…いいや俺は助かったんだ。だから安全なここにいて、故郷に帰る日を待って」

 

「それじゃ駄目なんだ!」

 

「……」

 

「…地球にいたときから俺の事を見てくれる奴なんて誰もいなかった。諦めていた、だから馬鹿な事をしでかそうとした。でも馬鹿な事をしたせいでに死にかけて…結局俺の人生は何だったんだって諦めていた時にあんたは…俺に手を指し伸ばしてくれたんだ…泣いてくれたんだ」

 

「嬉しかったんだ…本当にうれしかったんだよ。こんな誰にでも忘れてしまうような何でもない俺のために泣いてくれる…そんな奴がいることに、だから少しでも何かを返せればと考えた。…檜山と中村はただのついでだ。本当はあんたの力になりたい、ただそれだけなんだ」

 

「…そっか。だからこそ俺としては君に傷ついてほしくないんだけどね…」

 

「オレの方だってそうだ、命を助けてくれた恩人が死ぬかもしれないのをを見て見ぬふりなんてできないし最初から最後まで頼りきりなんて納得ができない」

 

「そういわれると弱いな はぁ分かった。そこまで言うのならよろしく頼むよ清水」

 

「勿論だ。こっちこそ不慣れだが頼む」

 

「おう!…でも他のメンツにもちゃんと説得できないと駄目だぞ。特に南雲」

 

「分かっている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ずっと気になっていたんだけど…

 

「ところで話はがらりと変わるんだけど」

 

「なんだ?」

 

「口調ってか性格変わりすぎじゃない?清水ってもっとこう」

 

「ネクラで無口な奴ってか?」

 

「そこまでは言わないけど!なーんか堂々としてるなって」

 

「一度死にかけたんだ。性格や死生観が変わるなんてよくあるだろ」

 

「うーんそう言われると(まるで原作の誰かさんみたいの様な…)」

 

「まぁ一番の大きな理由として理想の自分を演じているんだけなんだが…」

 

「理想の自分か、どんな感じの奴?」

 

「真正面から聞くかそれ…まぁいいやクールに気取ってるような奴だ」

 

「ふーん?そんな感じかー」

 

(付け加えるならお前に釣り合うような男になってみたいってのがあるが…言わないでおこう)

 

「クール系ねぇ 後でやれやれっていうのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

南雲と清水

 

 

「話は聞いたよ。清水僕たちに着いて来たいんだって?」

 

「ああそうだ。お前らの旅に同行したい」

 

「へぇ… どういう心境の変化があるのかぜひ聞いてみたいんだけど?」

 

「アイツに感化された、だから恩を返したいと思った」

 

「コウスケに?まぁ自分を助けてくれた人に恩返しをするっていうのはそんなに変じゃないよね」

 

「……」

 

「まぁ僕としても同じような境遇をたどってきたからね、分からないでもないけど」

 

「なら」

 

「でも理由はそれだけじゃないよね」

 

「……ああ」

 

「やっぱり、なら教えてくれる?コウスケは気付かなかったのその本当の理由」

 

「アイツの…」

 

「コウスケの?」

 

「アイツの行く末を見届けてみたい」

 

「コウスケの…行く末…」

 

「南雲、お前の旅路が物語だというのならその物語が終わった時コウスケはどうなるんだ?オレはアイツの終わりを見届けたいと思った。それがアイツには言えなかった理由だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

イレギュラー

 

「そもそもコウスケは何なんだ?コウスケから聞いたライトノベルではアイツの存在は居ない筈だ」

 

「本来想定された居ないイレギュラーってことだね」

 

「そうだ、何故アイツは…コウスケは天之河に憑依したのか、どうして魂魄魔法とやらをはじめから使えていたのか、召喚された経緯も理由も不明慮何だろ?」

 

「本人は覚えていない、さっぱり思いつかないって言ってるけど」

 

「だから謎が多い、俺達はエヒトに召喚された。だがコウスケは?同じ時間に別の世界人間も同時に召喚したと思うか?」

 

「考えられないね。あの時教室に現れた魔法陣は天之河を中心に表れた。同時にほかの場所からもするとはエヒトって奴がどんなに馬鹿でもそんな無駄なことはしない。きっと僕達…正確には天之河(勇者)を呼び出すつもりだったんだろう」

 

「ならだれがコウスケを呼んだんだ?…南雲お前は見当がついているんじゃないのか」

 

「…さてね」

 

「まぁいい、ありきたりな世界だ、ならアイツの事情だって最後までついて行けばきっと分かる。オレは最後まで見届けたい。アイツに助けられ救われ深くかかわった者として」

 

「それは…僕も同じだ。コウスケと最後まで旅をして…そして」

 

「…南雲」

 

「やめよう、先の話をするのは後からでもいい。ともかくそれが理由なら僕からは拒む理由にはならないかな」

 

「いいのか?足手まといだぞ?」

 

「自覚があるのなら問題ないよ。自分の事が弱いって客観的に理解している奴は伸びる。僕の持論だ」

 

「お前が言うと説得力があるな」

 

「無能だったからね。ステータスやらなにやらは僕が装備を整えれば問題ない。寧ろ得意分野だ」

 

(錬成師ってこう考えるとかなり頼もしいな)

 

「でも他の皆をちゃんと説得できる材料はあるんだろうね?何もなかったじゃ話にならないよ」

 

「そこら辺は抜かりない。…ユエさんと比べると見劣りするかもしれないがな」

 

「?まぁ楽しみにしているよ」

 

 

 

 

 

 

 

自己紹介と切り札

 

 

「という訳で俺達に同行したいと願い出てきた清水だ」

 

 場所は王都にある訓練所にてコウスケは清水のことを改めて仲間たちに紹介をしていた。場所を指定したのは清水本人であり自分の実力を発揮できる場所という事である。少々期待しながらもコウスケはほかの仲間たちに声をかけ集まってもらった。

 

「うーん?この人どこかで見たような…どこでしたっけ?」

 

「…ん、ウルの町を魔物を使って襲撃した人」

 

「あ!思い出しました!あの時コウスケさんに助けてもらった人ですね!」

 

「町を襲撃?助けてもらった?ハジメ君一体何の話?」

 

「後で説明するから今は静かにしていようね。香織さん」

 

 仲間たちの反応は様々でシアは記憶から抜けていたようでユエに教えてもらい誰かを思い出したようである。ユエはシアにどこで出会ったかを教えながらも視線は清水から離さなかった。香織は清水の事情を知らないため困惑をしており、ハジメに説明を求めている。

 

 清水はそんなコウスケ達にどう説明するべきかを考え、結局自分の言いたいことを言う事にした

 

「もう知っている奴が大半だとは思うが改めて名乗らせてもらおう。オレの名は清水幸利、天職は闇術師だ。色々あってあんた達に同行したい。どうか俺も仲間に入れてくれないだろうか」

 

 言葉を言いきったと同時に頭を下げる清水。他にも言うべきことがあるはずなのだが今はどうしても自分の気持ちを先に出してしまった。内心冷や汗をかいている中聞こえてきたのは何とも気の抜けた会話だった。

 

「ええ!?清水君私たちについてくるの!?危険だし危ないよ?絶対騒動に巻き込まれるから気苦労が多くなるよ?」

 

「あの…好き好んで騒動を起こしているわけでは無いんだけど…」

 

「ハジメ君そう言っても聞いた話だと町に着くたびに何かしらの騒動が起きたってシアやユエが言ってたよ」

 

「…ん、間違いなく何かが起こる」

 

「ですねぇ」

 

「騒動の元凶は大変ですなぁ♪」

 

「うっさいコウスケ!好きでもめ事を起こしているわけじゃない!」

 

 自分のこれからに対する話のはずなのに何故かギャーギャー騒ぐ一行に一株の不安を抱く清水。そんな清水に助け舟を出したのは現状最も清水が目を合わせづらいティオだった

 

「まぁ落ち着くのじゃ、今は仲間入りの事を優先するべきじゃろ」

 

「は!?そうだったゴメンね清水君」

 

「いや…良いんだ白崎」

 

 慌てて謝ってくる香織に対し多少疲れながらも今後はどうなるんだとやっぱり不安になる清水。そんな清水に今度はユエが訪ねてきた

 

「…ん、清水あなたは私達の仲間になりたいと言ったけど香織が言ったように危ないのは本当の事。それでも加わりたいの」

 

「覚悟なんざとっくにしている、それでも行くと決めたんだ」

 

「うーん 私としてはハジメさんとコウスケさんが許可を出したのならば異論は無いんですけど…一応聞きますけど同郷の人たちと一緒にいることはしないんですか?皆が不安になっているときに危機を救った貴方がいた方が皆安心すると思いますよ?」

 

「確かにそうかもしれないな。でもアイツ等には先生が付いているんだ。何も心配はいらないさ、」

 

「そうだね。畑中先生が居れば皆大丈夫だよね…うん。力になりたいっていうその気持ち私は歓迎するよ清水君」

 

「ありがとう白崎。でもあんた達皆から賛同を得たいんだ」

 

 ユエは改めて覚悟を問いかけ、シアは同郷の者の力になるべきではないかと確認し香織は清水が同行する事を喜んだ。そのどれもを清水は嘘のない本心で答えた。そんな中やはりティオだけは少々考え込んでいた

 

「ふむ…なら清水よ、妾はお主の実力が見たいのじゃが…頼めるかの?」

 

「あ、ああそうだよな、やっぱ実力を見せないとな。制御はできるけど…ちょっと距離をとるぞ」

 

 ティオの言葉に動揺するもすぐに立て直した清水は皆から距離を取りそのまま詠唱を始めた。

 

「ティオさんや、やっぱ賛同できないの?」

 

「いいや、そういう訳ではないのじゃが…」

 

 清水が距離を取っている間にこっそりとコウスケはティオに耳打ちをした。ティオは清水に操られ暴走させられた経緯がある。そのため含むものがあるのではないかとコウスケは思ったのだが…どうやら違ったようだ。

 

「清水が妾を見る時、どうにも言い切れぬ恐怖が目に宿っているような気がするのじゃ」

 

「アイツが?…言われてみれば清水ティオとは目を合わせていないよな」

 

「恐らく妾を操った時のことを悔やんでいるじゃと思うのだが…ふぅむ妾は気にしてはおらんのだがのぅ」

 

「そーなの?」

 

「うむ、アレは妾の不覚、そうとしか言えぬのじゃが…む?どうやらそろそろ詠唱が終わるぞ」

 

 コウスケとティオが話している間に清水の詠唱は完成したようだ。高密度の魔力が清水に集まり一気に解き離れようとしている

 

「…闇の力を!我が力を喰らいて滅せよ!『闇龍』!」

 

 清水の叫びにより魔法の発動が終わった瞬間、清水の頭上に突如暗い穴がいきなり出てきた。その穴はまるで深淵を思わせる様に黒く暗く今にも瘴気が出てくるかと思わせるほど悪寒がするものだった。

 

 次にその穴から低く唸り声の様なものが聞こえてきたかと思った瞬間ずぶずぶと音を立て出てきたのはユエが使う『雷龍』や『蒼龍』と同じ姿の漆黒の東洋の龍だった。しかし構成されているものが違った。

 

 纏うものは黒い靄でありしかしてその靄を見ると悪寒が走るのをコウスケは感じた。隣にいる仲間たちも同じようでティオは険しい顔をしユエは目を見開きシアは無意識なのだろうかドリュッケンに手をかけている。香織はハジメの服の裾をつかみ、ハジメは…なぜかフルフルと震えていた。

 

「これが…俺の切り札『闇龍』ずっと闇術を鍛錬をしてできた結果だ。ちと魔力を大幅に使うのが玉に瑕だが…ほら、ご挨拶だ」

 

グゥゥウウ

 

 清水は魔力の消費が激しいのか大量の汗をかきながらもしかししっかりと両足で立ち不敵な笑みを見せる。出てきた闇の龍は攻撃するべき対象が居ないのが不満なのか聞くものが正気を削るような低い唸り声を出しながらも大人しく術者である清水に纏わりついている。

 

「清水…それ」

 

「どうだ南雲。オレは…お前の様に兵器を作ることはできないが…こうやって魔法で龍を作り出すことはできるんだ…」

 

 どこ自嘲する様に言いながらも清水の顔色は青くなっていることに気が付くコウスケ。その闇の龍がどんなものかではわからないが危険を感じ取りすぐにやめるように叫ぶ

 

「清水お前が凄いのは分かったからすぐにその魔法を引っ込めろ!顔色がやべぇぞ!」

 

「そう…怒鳴んなよ…あんまり維持できるものじゃねぇ…のは…知っているから…さ」

 

 清水が、がくりと膝ををついたと同じ様に闇龍も黒い靄となってしまった。慌てて駆け寄り快活を清水にかけるコウスケと我に返った香織も同じように治癒魔法をかけるとすぐに清水の顔色が元の色に戻っていった。

 

「はぁびっくりした。あんまり無茶すんなよ」

 

「そうだよ清水君。心配を掛けさせないで」

 

「すまんかった。でもどうしても見せたくってさ」

 

 体力が回復したのか以外にもケロッとした顔をして謝る清水。一息をついたコウスケは改めて今の魔法の詳細を聞き出す

 

「で今のは?」

 

「…実は使ったオレ自身も上手く説明できる気がしないんだが…闇の力を纏め上げて、そこに相手の精神を削るような作用を施して作り上げたんだ。卓上の空論って奴だったんだが、一度思いついたらやってみたくて仕方なくってさ」

 

「だからってあんなもんが作れるのか?」

 

「さぁ?…だけどできるって変な確信があった。コウスケお前に助けられてからかな、異様に魔力が上がったんだ。んで試してみたら御覧の通りって奴さ」

 

「それが君の力か…うん分かったこれで皆も異論はないよね」

 

 ハジメが仲間たちを見回せばだれもが反対するもはいなかった。その事を確認するとハジメは清水に向かって手を刺し伸ばす

 

「僕達の旅は危険で滅茶苦茶だけど…それでもっていうのならこれからよろしく」

 

「ああ、こっちこそ頼む」

 

 ハジメから差し出された手をがっちりと掴む清水。こうして清水幸利はハジメ達に加わることになったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日の過ちを

 

 

 ハジメとの握手をが終わった清水はふぅと息を吐くとティオに向き直った。その瞳は先ほどと比べると不安げに揺らいでいたが一度だけキッと瞼を閉じ目を開いた瞬間清水はティオに向かって土下座をしていた。

 

「ティオさん!あの時貴方を洗脳してやりたくもない事をさせてしまい本当に申し訳ありませんでした!」

 

 ティオに対する謝罪。清水はどうしてもこれだけはしておきたかったのだ。魔人族に晒されたとはいえティオに洗脳を施したのは間違いなく自分でありずっと心の隅に罪悪感があったのだ。

 

 地面に額を合わせ謝罪をする清水に向かって清水の頭上から淡白言葉が降ってきたのは意外とすぐだった

  

「…それがお主の故郷での謝罪の仕方なのじゃろうが…まずは顔をあげてはくれぬかの?」

 

 声に従って顔をあげればそこには、跪いている清水と同じ目線のティオがどこかほんの少し笑っていた。

 

「やはり人と人は目線を合わせて会話をせねばのぅ それよりも清水」

 

「あ、ああ」

 

「お主は妾に対して謝罪をしておるがそもそも謝る相手自体を間違っているぞ」

 

「え?」

 

「お主が本当に謝るべき相手はウィルと言う青年じゃ、あ奴こそが本当にお主が謝るべき相手で妾はではないのじゃ」

 

 ティオはそこでウィルとのやり取りを清水に説明した。自分が洗脳されたのは慢心や迂闊さが原因であり悔やむことではないと今もなお罪悪感で縛られている清水に優しく説明した

 

「…オレは…あんたの尊厳を奪ったんだ、決して許されることじゃない」

 

「中々頑固な奴じゃのう、アレは妾の驕りじゃ、竜人族である妾はそう簡単にやられないと高をくくった慢心と迂闊さがその証拠。お主は妾に対して何も気後れすることはないのじゃぞ?」

 

「……でもそれじゃ自分を許せねぇよ」

 

「そこまで申し訳なく感じておるのならが許されてもいいとは思うじゃが…それにあの魔法は己が命を蝕むものじゃろ?」

 

「っ!?」

 

「図星か… そこまで覚悟を持った男は初めてじゃの。全く困った者じゃ」

 

 苦笑され本当に困った笑みを見せるティオに清水はどこか自分の心を縛る鎖が薄れていくのを感じた。それほどまでにティオの笑みは暖かいものだった。

 

「なら、これからの旅でお主は妾達を助けてはくれぬか?その強き意思がその覚悟がきっと妾達を救ってくれるはずじゃ、

それチャラにしよう。どうかな?」

 

「それでいいのなら…分かったオレは必ずあんたたちの力になる。今度こそ大切なものを見失わないように必死に足掻いて見せる」

 

「うむ、それでこそ男子と言う物じゃな」

 

 清水の力強い言葉にティオは眩し気に笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で南雲すごい勢いで仲間入りの断言したけど…どったの?」

 

「あの闇龍…」

 

「?」

 

「浪漫に溢れていたんだ…闇の龍、黒の瘴気、聞いた者の正気を削る声…ああ清水は浪漫をちゃんとわかっているんだ…」

 

(…なんか変なスイッチ入ってんなこりゃ)

 

「良いなぁ…カッコイイなぁ…羨ましいなぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




清水幸利パーティーインッ!!

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