ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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想像以上に遅くなりましたね…
繋ぎ繋ぎですので変ですかも
ながーいです


アフターケア 王都の人達

コンコンッ

 

「誰だ?」

 

「俺です。コウスケです」

 

「…そうか。入ってくれ」

 

「失礼します」

 

 深夜、コウスケはメルドに呼び出され、騎士団長室にいた。ノックをし、部屋に入るとそこには執務机でほのかに顔が赤いメルドが虚空を見つめながら酒を飲んでいた。

 酒瓶の中に入っている量から見るとまだ明けて間もない様子だった。ほのかに顔を赤くしながらも入ってきたコウスケにわずかな笑みを見せるメルド

 

「狭くて汚い部屋だが…まぁ適当に寛いでくれ」

 

「はい」

 

 メルドに促され部屋に入ったコウスケは適当に開いていた椅子に座る。部屋の中は酒のにおいが充満しており喉が熱く渇く気がした。

 

「…まずはこんな深夜に呼び出してすまなかった」

 

「いいえ、謝る必要なんてないですよ」

 

「そうか?まぁいい、それよりもだ。魔人族たちの対処に怪我人の治癒…言い出したらきりがないがともかく礼を言わせてくれ。ありがとう。お前たちのおかげで王都の民は救われた」

 

 深々と頭を下げるメルドにどうにも居心地が悪くなる。自分はあくまで何もしていない。魔人族を撤退させたのはハジメの力によるものだったし、怪我人の回復は香織の力によるものだ。そう主張はしたのだがメルドは薄く笑った

 

「勿論坊主にも礼を言ったんだがな。『僕に言うより王都を助けようとしたコウスケに言ってよ。コウスケが言わなかったら助ける気はなかったんだから』とそっけなく言われてしまってな…ふふ、本当にお前たちが居なければ今頃は…」

 

「…メルドさん」

 

「すまん。そうだな折角来たんだ一緒に飲むか?実はこいつは俺のとっておきでな」

 

「あー俺は体が未成年で…」

 

「?」

 

「…中身がおっさんだからいいか。有り難くいただきます」

 

 頭を払い憂鬱な表情を無理矢理消したメルドは自分が飲んでいた酒をコウスケに進めてくる。コウスケは未成年の天之河光輝の身体で酒を飲むのはどうかと考えたが中身が成人しているし、前に飲んだことがあるのでそのまま有り難く頂く事にした。

 

 

「…」

 

「…」

 

 酒をちびりちびり飲んでいるが、部屋は静かでどうにも居づらい空気が流れる。美味いはずの酒なのに味が全くしない。もったいないなと思っていたそんな時ふとメルドが小さな声で話し始めた

 

「すまん。本当なら、もっと楽しく飲める筈だったんだがな」

 

「いえ…」

 

 苦笑するメルド、しかし仕方ない事だった。何せ今はまだ死んでいった城の人たちの対応や人員の補充、兵の再配置等々どうしても死んでいった者たちの事を考えてしまう事があるのだから

 

「どうにも考えてしまう、もっといい方法があったのではないか、どうして気づかなかった、なぜこんな事になってしまったんだとな」

 

「……」

 

「死んでいった者たちに顔見知りが居たんだ。ほかにもすれ違う者や全く顔の知らないもの。色々な奴がいた」

 

「…」

 

「俺達騎士は弱者の盾になるため死を覚悟している。何時だってその心構えはあったんだ。それなのに死んでいったのは非戦闘員の…俺達が守るべきだった者達だった」

 

 メルドの悔やむ顔は晴れない。それほどまでに助けなかった事への罪悪感が酷いのか、又は自分を責めているのか…恐らく両方だろう

 

「…裏切者が誰かを言わなかった俺を恨んでいますか?」

 

 だからこそだろうか、ついコウスケはそんな事を言ってしまった。極端な話自分がすべてを打ち明けていれば死傷者の数はもっと減らせていたかもしれなかったのだ

 

「…どうだろうな。お前は俺を救ってくれたという実態がある。だから恨むというのは…正直分からん。もし言われていたとしてももっとひどい結果になってしまったいたかもしれん。だからお前を恨んでいるかと言われるとわからんと言うのが俺の答えだ」

 

「…そうですか」

 

「ふぅすまんな。どうしてもお前を前にすると口が軽くなってしまう。言った所でどうしようもないのだがな」

 

深い溜息を吐きながら苦笑するメルドにコウスケは何も言えない。ただそのままメルドの話を聞くだけだった。顔が赤くなったメルドはそのまま俯きながらも誰に聞かせるわけでもない話を続ける

 

「本当なら、お前たちと一緒に前線に立って魔人族を倒す筈だった…何処で間違えた?いやそもそも最初からか。この世界とは微塵も関係がないお前たちをこの世界の問題に首を突っ込ませたのがそもそもの原因…か。ははなんだなるべくして事が起きただけか。召喚されたお前たちに何も疑わずに訓練をさせ、一人一人の事情も考えず魔物の殺し方を覚えさせ、只戦力なるとだけしか思わず、全ては…考えなしだった俺の責任か」

 

「……せぇ」

 

 俯くメルドを見ていると拳に力が入った

 

「世界が違えば生き方も違う。お前たちの世界に魔物が居ないなんてことは訓練をする前から知っていたんだ。それを深く考えもせず武器の扱い方や魔法の使い方を教え込んだ。ただそれが人間族を救うとしか思わず。失態だ。俺は自分たちの事情しか考えなかった。だから裏切られたと思ってしまったんだ。…初めからお前達の事を考えずに」

 

「…うるせぇ」

 

 メルドの嘆きに頭の中が真っ白になっていく。

 

「神から贈られた人間族を救う勇者?その仲間たち?…何故そのまま受け入れてしまったんだ?呼ばれてしまった時点で騎士団が不要と信仰している神に言われてしまったようなもんじゃないか。何故俺は何も疑わなかった?何故俺は…神が呼んだとそれだけで異世界の人間を無条件に信じてしまったんだ?……ふっふふ…くははは…そうか俺は最初から道化だったんだ、ここにいるのが間違いぐっ!?」

 

「うるせぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

 イラつきは最高潮に達した。腐っていくメルドが見たくないただそれだけだった

 

「うぉおお!?」

 

 思わずメルドの胸ぐらを掴みあげるコウスケ。そのまま突然の事に苦しそうに顔を歪ませるメルドを壁に思いっきりたたきつける。衝撃で壁が揺れたような気がしたがそんな事はお構いなしだった。

 

「さっきから人が黙っていればべらべらと自分を卑下するような口を開きやがって!そうだよ!お前の言う通りさ!諸悪の根源はエヒトだけどよ、この事態を招いたのはお前のせいなんだよ!メルド騎士団長さんよぉ!」

 

「っ!?」

 

 もっとも言われたくない言葉を聞いてしまったのかメルドの顔が苦渋に歪む。しかしそれでもコウスケの言葉は止まらない、止めれない。事情も何も言わなかった自分にも責任があるのだと自覚しながらも、止めることができなかったのだ。

 

「そうだよ、あんたは知らず知らずのうちに自分たちを窮地に追いやる種を育ててしまったんだ。善悪の区別がつかない子供に刃物を握らせるようにさ。全てはエヒトが悪い、それだけは間違いがない。それでも召喚された人たちが何を考えどう行動するのかを何も対策もせず考えなかったのはどう考えても上に立つ立場の人間として明らかにおかしいよ」

 

 メルド・ロギンス。原作においてハジメ達召喚された者たちに訓練をさせた者。しかしてその役割は内に潜む裏切者を看破できない只の脇役の一人であり、何もできずただ無念のうちに死んでいった男。まさしくメルド自身が乏したように道化そのものであり知らなかったとはいえ王宮の人間たちが死んでいった元凶の一人だった。

 

「でも、過ちは取り消すことはできるんだ。だってあなたはまだ生きているんですから、だからそんな自分を乏しめて腐っていくのはやめてください。悔やむのは良い。誰かって間違いを起こすんですから。でもそこで腐らないでください、そのまま立ち止まらないで今自分ができることを探してください。貴方は生きて今ここにいるんですから」

 

「…コウスケ」

 

 死んでいたはずの男は今ここに生きている。清水の助力があったにせよ、メルド・ロギンスはちゃんと生きているのだ。しかし助けられなかったと悔やみ腐っていくメルドを見るのはコウスケにはつらかった。おおざっぱだが活力に満ちた男としてメルドには居てほしかったのだ。たとえそれがコウスケの理想を押し付けるものだとしても

 

「これから世界は変わっていきます。エヒトの玩具箱だった世界から人が自由に生きられる世界として時代は変化していきます。その時にこのハイリヒ王国は様々な苦難が待っているかもしれません。それでもあなたならどうにか出来るって信じているんです」

 

 コウスケの言葉にメルドはしばし呆然とし、ふっと息を吐くとニヤリと笑った。

 

「……フフッ そうだな、お前の言う通りだ。時代は変わっていく。そんな時にくよくよするのは俺らしくない。ふぅーどうにも悩みを抱え込みすぎたようだ。感謝するコウスケ。お前のおかげでやっとで肩の荷が軽くなったような気がする…本当だぞ?」

 

 その顔はコウスケが依然見たメルドの顔であり、表情からは負の感情が消えていた。目の下にはかすかに隈があるがそんな物は微塵も感じさせない力強さがメルドの目に宿ってくる

 

「ならいいんです。でもだからと言って無茶をしては駄目ですよ?色々大変そうですけど、倒れたら元も子もないんですから」

 

「その時はいつものようにホセに丸投げするさ。アイツなんだかんだ言いつつも事務処理能力は俺よりも高いからな。寧ろ今すぐ騎士団長権限で放り投げてみるか?」

 

(…パワハラを垣間見ている気が…)

 

「ふむ、確かニートの奴もなんだかんだで有能だったからな。物は試しで任せてみるとするか」

 

 笑いながらも恐らく冗談を口にするメルドは、先ほどまでの憂鬱さを感じさせず、その目は生き生きとしているのだった

 

 

 

 

 

 

 

副長たちは?

 

「そういえばメルドさん」

 

「ん?」

 

「ホセさんたちはどこへ行ったんですか?ほんの数人ぐらいしか騎士団の人たちを見かけていませんけど」

 

「アイツらなら町の復興を手分けしてやっているさ」

 

「へー…?でも、それにしては王宮で見かけないほどの人数は数が多いような?」

 

「そうかもしれんがな、なにせ魔物が襲撃してきた時騎士団は後手後手だったからな。その埋め合わせてして王都の人たちには働きをアピールする必要があるんだよ。」

 

「そうだったんですか…」

 

 

 

 

拭えぬ不信感

 

「だが、ホセたちが城下に行っているのは良かった事かもしれん」

 

「と言うと?」

 

「…一部の騎士たちがまだ裏切者がいるのではないかと疑っているんだ」

 

「あー」

 

「ホセも誰を恨めばいいのかわからず何もわからなかった自分を責めてイラつきが相当溜まっているようでな、…生徒達と顔を見合せたら衝突が起こるかもしれん」

 

「同じクラスだったのに誰もが気付けなかったですもんね。そりゃ恨んでもおかしくはないかな。でもホセさんたちは凄いですね生徒たちに怨みをぶつけていないんですから」

 

「ああ、お陰で普段より眉間のしわが増えているがな。諍いが起きないように今後はなるべく顔を見合わせない様に畑中先生と話し合っていくつもりだ」

 

「気苦労を掛けます」

 

「仕方のない事だ。…悲しいが以前の様に気楽な関係を気付くことは不可能になってしまったがな」

 

 

 

 

 

これからのハイリヒ王国は?

 

「ぶっちゃけどうなるんですかこの国」

 

「今はまだ復興に手がかかり切る状態だな」

 

「むむむオレも何か手伝えればいいんですけど…」

 

「その気持ちだけで十分だ。今後どうなるかと言えば…まずは落ち着いたらランデル殿下が即位するだろうな。その後は各周辺の諸侯と

話し合いを進めて…頭が痛くなるな」

 

「お疲れ様です…それしてもランデル?誰でしたっけ?」

 

「おいおい…エリヒド国王の息子ランデル王子の事をもう忘れてしまったのか?」

 

「ああ!リリアーナ姫の弟さん!いやぁリリアーナ姫のオマケ見たいなもんですっかり忘れていましたよ」

 

(…ひどい言われようだ)

 

 

 

 

 

 

 

お酒は進む

 

 

「しかしさっきから遠慮なくもらっていますけどこのお酒お高いんでしょ?」

 

「ん?…あぁちょっとばかり値が張る奴でな。団長権限を駆使してこっそり手に入れたんだ」

 

「ほぇーそんな高価物を飲んでもいいんですか。返せって言われても返せませんよ?」

 

「気にするな。色々助けられたからな。そのわずかな返しになればそれでいい」

 

「ふーん。気にしなくてもいいのにねー…ウィック」

 

 

 

 

綺麗どころに囲まれて…

 

「話は変わるがコウスケお前かなりの綺麗どころと旅をしているな。誰か良い人はいるのか?」

 

「あー?な―に行っているんすかー。俺がユエ達と?ないないありえませんよー」

 

「(顔が赤くなっている。酔いが回ったか?)そうか?聞いた話によるとかなり仲がよさそうだが…それにあれだけの美人ぞろいだ。手を出さないのは男としてどうかと思うぞ。」

 

「そりゃ美人美少女ばっかりですけど、なんていうのかな綺麗だとは思うけど恋愛感情は難しいと言いますか……美女に囲まれるって役得に見えるかもしれませんが実際は気を遣うしどう見られているかって思うと変な行動できませんし中々疲れるもんです。だからかな?南雲と話しているときが本当に気が楽で…」

 

「ふむ…美女に囲まれるというのは中々大変だな。お疲れ様」

 

「ですです。あーやっぱりメルドさんと話せてよかったですよ。こんな誰にも聞かせられない話を言えるんですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

年長者の自覚

 

「そもそもの話。俺あのメンバーの中で一番年上なんですよ」

 

「なに?見かけは…っと確かその体は違う人間の体だった…んだよな」

 

「そーです。天之河光輝16?17?才のピチピチな少年の体でーす」

 

(ピチピチ?)

 

「…本当は種族的な違いでユエやティオの方が歳は上なんんですが…中身は本当に若いですからね。知ってます?実は俺貴方より少しだけ下ぐらいの年齢なんですよ」

 

「…そんな風には見えんが」

 

「でしょう!?でもマジな話なんですよ。アイツ等といると中身が若返っていくような…欲しかったものが手に入っていくような…」

 

「欲しかったもの?」

 

「いえ…何でもないです。ともかく年齢的には上なんですけど…年長者ってどうすればいいんですかね?」

 

「???いきなりどうした」

 

「皆より歳が上だから…なんかこう…貫禄?見たいな感じを?…うーん」

 

「何を悩んでいるのかは知らんが、やめといた方が良いぞ」

 

「んー?何故ですかー」

 

「見たところお前たちは今の状態でうまくやっているのだろう?今更年上ぶって行動するよりも仲間たちと同じ目線で今の状態を維持した方が良い」

 

「むむむ」

 

「俺は団長として部下と接するときは上の立場の者として話さなければならん。それは当然のことだ。しかしだ。コウスケお前は仲間と一緒にいるんだ。仕事仲間でもましてや上司部下の関係でもない。もっと気楽に考えろ」

 

「気楽にですかーでも年齢が—」

 

「恐らくだがお前の仲間たちはきっとお前の歳の事なぞ考えてすらいないぞ」

 

「えー」

 

「尊敬されたいのか?気遣われたいのか?今のお前のその年功序列の考え方だと逆に仲間との距離が離れていくぞ」

 

「そーですよね。すいませんいきなりこんな話をしてしまって」

 

「いいさ。ずっと誰にも言えなかったんだろう?」

 

「です。あーなんか気が楽になった。…あれ?なんでこんな話になったんだ?」

 

「…さぁ?」

 

 

 

 

性欲を持て余す!

 

「話はさっきの事になるんですけど!」

 

「む?」

 

「俺に良い人いないかって話!」

 

「ああ、その話か、しかしいないのだろう?俺の見立てでは何人でも作れそうに見えるんだが」

 

「んな簡単にできれば苦労はしませんよ!それよりも折角なのでメルドさん!連れて行ってほしいところがあるんです!」

 

「何だ急に改まって…何処だ?」

 

「風俗でっす!」

 

「ぶほぁっ!?い、いきなり何を言い出すんだお前は!?」

 

「えーそんなにおかしいこと言いましたかぁー?俺かって男ですよ?そりゃ溜まりますってば―」

 

「それは…そうかもしれんがいきなりだな!?ほかの町による時もあったんだろ?その時に行けば」

 

「行けば十中八九女性陣にばれます。南雲からなんとも言えない目で見られます。結果俺の社会的地位が死にます。ご臨終です」

 

「確かに女の感は鋭いとよく聞くからな…」

 

「生暖かい目で見られるのは勘弁してほしんですよ。その点メルドさんと一緒なら連れられたとかお礼だとか何とか言い訳できるんです!」

 

「力説して話すことじゃない。しかし風俗か…うぅむ」

 

「え…もしかしてないんですか?王都なのに?男ならだれもが御用になる風俗店が!?」

 

「話を聞け!…あるにはあるんだが、今復興中だからな営業はしていないだろな。諦めろ」

 

「そんにゃ~ この世界の女性は綺麗な人がいっぱいなのに~ちょっと楽しみにしていたのに~魔人族の馬鹿!」

 

(とは言った物の営業している店はあるだろうがな。勇者のお前を連れていくのは対外的にマズいんだよコウスケ)

 

 

 

 

 

 

 

 

恋愛したい!

 

「女の子といちゃいちゃがしたいですー」

 

「俺に言ってどうするんだ…」

 

「なんかいい娘知りませんか?こう…優しくて気遣いができて、可愛くて美少女で」

 

「注文が多いな。そんな都合のいい娘なぞ…いや、あの人なら」

 

「いるんですか!?そんなファンタジーにしかいないような女の子が!?」

 

「いる。身分が高いが今のお前なら国を救ったという功績があるから問題はないだろう。俺から話をしてこようか?」

 

「あ、やっぱりやめます。この話は無かったことにしてください」

 

「オイオイ自分から言ったのに諦めるのが早いな!?どうしたんだ」

 

「よくよく考えたら誰かが俺の事を好きになるなんてありえませんよ。はぁー変な夢を見ちゃったな。ほんとも~いきなりすいませんメルドさん」

 

「いや…ならいいんだ」

 

(コウスケお前どうしてそこまで悲しそうな顔をする?自分に自信がないのか…お前なら…)

 

「そうだよ…俺には恋人なんてできる資格何て無いんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 無自覚な男

 

「…コウスケ?」

 

「…zzz…」

 

「やれやれ、寝てしまったか」

 

 雑談をしながら酒を飲んでいたらコウスケはいつの間にか机に突っ伏し寝てしまっていた。外はいつの間にか微かに白く明るくなってき始めているのを見るとどうやらかなりの時間話し込んでいたらしい。

 

「ふぅ…長い事話し込んでしまったな」

 

 息を吐き体を伸ばすと体中からペキポキと小気味良い音が聞こえる。徹夜をしてしまったせいか身体の調子はそこまでよくはない

 

「よくもまぁ、随分と好き勝手言ってくれたものだな」

 

「……うぅぅ」

 

 しかし心の方はぐっと楽になっているのが分かる。机に突っ伏しグースか寝ているコウスケの頭を乱雑に触りながらも メルドの顔は憑き物が落ちたように落ち着いていた。

 

 騎士として民を守っていくつもりだった。魔人族との戦争に人間族がジリジリと目に見えないような真綿で攻められているその時に神からの使者として若き少年少女たちがこの世界にやってきた。

 チャンスだとメルドは考えていた。この長きにわたる戦争を終わらせることができると対して召喚された者たちの事情など考えもせず神から与えられた才能のある者達に飛びつき戦力になるように育て上げた。

 

「それこそが間違いだった。俺は何も見ていなかった。考えもしなかった」

 

 結果、招いたことは王宮で働く何も罪もない者たちの死だった。もし、召喚された者たちの事をちゃんと考え戦えるものを選別することができたのなら、もっと歩み寄り誰がどう動くのかを把握できたのなら、もっと一人一人性格や個性の事を思考することができたのなら

 

「…全ては終わったことだ。神に妄信し縋って呼び出されてしまった者達を何も見ていなかった俺の責任だ」

 

 後悔は止まらない。騎士団長としての責務を果たせず無能もいいところだ。だがもうすべては終わったことだ

 

「ありがとうコウスケ。お前が生み出した小さな波紋は大きな波となって俺達を救ってくれた」

 

 目の前で呑気に寝ているコウスケの頭を先ほどとは打って変わって優しく撫でる。 

 

 清水から事の顛末は聞いていた。魔人族に晒され又自分から過ちをしでかそうとしたときにハジメに止められ死にかけていた時にコウスケによって救われたのだと。

 

 その清水が恩義を感じ裏切者たちに接近し腹芸をして…そうして騎士たちは全員無事だった。清水に礼を言った。『清水、お前が居なければ我々は全滅だった、感謝する』と、しかしそっけなく言われてしまった。

 

 『礼はコウスケ達に言え、オレはアイツへの恩返しでやっているだけだ、お前たちのためじゃない』と。

 

 一人の少年を助けたその優しさが騎士たちを助けていった。その事にコウスケは気付いているのだろうか。

 コウスケが何を考え何を隠しているのかはメルドには、もはやどうでもいい事だ。

 

「お前は言ったよな。時代は変わっていくと」

 

 朝焼けが騎士団長室に入り込んでいく。眩しさに目を細めながらも太陽を見つめるメルド。人間族に信仰されるエヒトの真実を知る者は少ない。だが、これからこの世界は少しづつ信仰からの脱却を図っていくのだろう。

 

 神に支配されてきた闇の時代は終わりを告げ新しい『人』の時代が間もなくやってくる。

 

「ふん、やって見せるさ。『人』が自由に生きていく。そんな世界にするために俺は生きているのだから」

 

 生き残った責任と罪悪感はある。しかしこれからの世界に対しての希望がメルドの目に宿るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁーー」

 

 王宮の廊下をのんびり歩きながら呑気に欠伸を出すコウスケ。時間帯は大体昼近くだろうか。

 昨夜メルドと一緒に酒を飲んでいたことまでは覚えているのだがいつの間にか与えられていた客室で寝てしまっていたのだ。おまけに酒を飲んだ後の記憶はあやふやになってしまっている。

 

「なんか変なこと言ってなければいいんだけど…まいっかメルドさんだし誰にも話さないだろ」

 

 面倒事の予感はするものの取りあえず後回しにするコウスケ。身支度を整えると王宮の中をふらふらと歩きまわる。

 王宮にいたときの記憶はほとんどなくましてや自由に歩き回る暇すら無かった。一応客人と言う名目があるので咎められはしないだろうという腹積もりもあった

 

 ふらふら歩きながらも小腹がすいたので厨房で朝飯兼昼食の簡単な食べ物をもらい(なぜか厨房にいる人たちからは生暖かい目線をもらっていた)さてどこで食べようかなと考えていた時だった。

 

「ぬ!?貴様は香織の仲間の勇者か!」

 

「んー?」

 

 どこか甲高い声が聞こえ振り向いたらそこには十歳ぐらいの金髪の美少年がなぜか怒っていますと言わんばかりの顔でコウスケを見上げていた。

 

「えっと…誰だ君?」

 

「な…余の顔を忘れた…だと 勇者の癖に余の顔を知らぬと言うか!」

 

 驚愕の表情の金髪美少年をマジマジと見つめるコウスケ。しばし考え込むがやはり誰か思い出せない

 

「うーん誰かわからないってことは…初対面だな!始めまして何故か勇者をやっているコウスケだ。よろしくショタな美少年君」

 

「初対面ではない!それになんだその名前は!お前の名は天之河ナントやらではないのか!あとショタとは何なのだ!?」

 

 コウスケの言葉にムキになって反応する少年。本人は怒っているのだろうがなんともコ気味良い反応を返してくるのでコウスケはこの少年を気に入り始めてきた

 

「初対面ではなく天之河をやっていた時を知っている少年か…む?もしや君は…」

 

「ふん!やっとで分かったかこの能天気な馬鹿者は」

 

「リリアーナの弟君か!」

 

「そこは名前で呼ぶのではないのか!?」

 

 金髪で美少年と言う分かりやすい要素を頭の中で思い出そうとした結果目の前で何故か敵愾心をむき出しにしている少年がランデル王子だったのを思い出したコウスケ

 

「いやー俺ってば影の薄い人間は都合よく忘れる癖がありましてー」

 

「貴様!余の事を影が薄いといったな!」

 

「で、何か用?俺これから昼飯のつもりだったんだけど」

 

「話を聞かないな!?」

 

「もしよかったら一緒に食べる?上手そうな食い物を貰ったんだ。これがなかなか俺の好みでさ」

 

「ええい!余の話を聞けこのポンコツ勇者!」

 

 ぎゃぎゃー喚くランデルを片手であやしながら昼ご飯をどこで食べるべきか思案するコウスケ。折角の中所なのだからとランデルを誘ってみるがどうやらそんな気分ではないらしい

 

「貴様なら香織がどこにいるかわかるだろう 案内しろ」

 

「香織ちゃん?あってどうするの?」

 

「それは…余があいたいからだ!なんだ文句でもあるのか」

 

「別にないけど…」

 

 ランデルがコウスケに頼んだことは香織と会わせろという事だった。確かにコウスケなら香織がどこにいるのかはすぐに把握し出来るしおおよその見当はついている。だからこそ今ランデルが合いに行くのは駄目だと思うのだが

 

「…まぁいいか、変にこじれるのもなんだし、いいよランデル王子。ついておいで」

 

「ふん!そうだ貴様はそうやって余の言う事をさっさと聞いてればよかったのだ」

 

 どうしてか偉そうに命令するランデルだがコウスケは気にした風でもなくランデルを香織にいる場所まで案内することにした

 

 

 

 

 ランデル・S・B・ハイリヒとはどんな人物であったか。残念ながらコウスケは原作の登場人物であるランデルをさっぱり覚えていなかった。ただ一つ覚えているのは香織に恋をしているというただそれだけぐらいか。

 

(こうやって見ると…なんだか可哀想だな。最初から初恋?が破られているんだから)

 

「なんだ?さっさと歩かぬか」

 

「へーい」

 

 知ってか知らずか香織の心は完全にハジメに対して向けられている。ランデルのほのかな恋心はどれほど絶望に彩られてしまうのか。

そんな事を考えてしまうとどうしても可哀想な者を見る目になってしまう。コウスケは哀れな道化のランデルに同情してしまった。

 

「さて、そろそろ部屋に着くっ!?」

 

「む?どうしたのだそんな変な顔をして」

 

 もう少しで香織がいるであろう部屋にたどり着く時だった。コウスケは感じてしまった。

 

「…ラブコメの波動を感じる」

 

 なぜか部屋から甘い青春の匂い感じてしまったのだ。しかも極上の甘さで胸がむかむかするほどの奴を。コウスケがふいに止まった理由をランデルは分からずキョトンと見上げている。

 

「む?どうしたのだ。さっさと」

 

「口を慎みな。…死にたくなかったらな」

 

「!?!??」

 

「ごめん嘘だ。正確に言えば静かにしてくれ。まだ気づかれたくない」

 

 コウスケの先ほどまでの能天気さが消え険しい顔になったのを傍で見ていたランデルは驚愕し止まってしまう。

そんなランデルにかまわず、部屋の雰囲気を探ると香織とやはり近くにいたであろうハジメが随分と近い距離にいるのが分かってしまった。

 

(ぬぅ…恋人同士だから近くにいるのは仕方ないとしても今邪魔をしてしまうと間違いなく…殺られる!)

 

 折角の雰囲気な所に邪魔をしてしまったら自分とランデルはどうなってしまうのだろうか。考えるまでもない。香織は許してくれるだろうが、ハジメは照れ隠しに銃撃をしてくるに違いなかった。自分は大丈夫だ、体は頑丈だしやられ慣れている。

 しかしランデルは堪え切れるのだろうか?心配になり目でランデルにどうする?と聞いてみれば驚愕から回復したランデルはキッとコウスケを見返すと首を縦に頷いた

 

「余は…香織に会いに来たのだ。この先何が待っていようと諦めるものか」

 

(ほぉ…流石は恋する男の子。誰かさんとは違って肝が据わっているなぁ)

 

 コウスケの雰囲気の変化でただならぬ事情だと察したランデルだったがそれでも香織に会いに行くその気概に感心する  

 

 しなりしなりと音を立てないようにそっと扉に近づくコウスケ。ランデルも後に続く。そうして男二人がそっと扉を開き目にした光景にコウスケはふっと微笑みランデルは硬直してしまった。

 

 

 

 

「ハジメ君…どう、かな?変じゃない?」

 

「……ダイジョウブデス」

 

「えっと…本当に?」

 

「ハイ、キモチイイデス」

 

「そう、良かった」

 

 香織がベットに腰を掛けているのはまだいい。しかしその香織の膝の上にハジメが頭をのせていたのだ。俗に言う膝枕である。

香織は顔を赤くしながらも優しい手つきでハジメの頭を撫でている。その微笑はまるで聖母の様でうっかり見惚れてしまいそうなほどに綺麗なものだった

 

 対する香織の膝に頭をのせているハジメは顔が破裂するのでは居ないかと思うぐらいに真っ赤になり明らかに恥ずかしがっていた。

しかし香織にはされるがままで、出来る限り香織の好きなようにさせているようにコウスケは見て取れた。

 

(こ、これは…流石の俺でもなんかこっ恥ずかしいな!)

 

 まるで付き合立ての恋人同士がやってみたいシチュエーションをするかの如く甘酸っぱくまたドギマギした空間が広がっている。

 

(でも今まで恋人同士らしいことあんまりしていなかったからな。)

 

 勝手なことを考えながらもハジメに対して何故の感激をするコウスケ。何故今膝枕をしているのか何故こうなったのか想像するしかできないが、要は恋人同士?の時間を作ろうとした香織がユエ達にアドバイスを求めて膝枕と言う結論に至ったのだろう。

 

(しっかしあそこまで真っ赤になるとはなぁ。香織ちゃんはそうだとしても南雲までとは…アイツいつもは澄ましているけど意外に年相応なんだな)

 

 うんうん頷きながらも未だに顔の紅潮が晴れず香織と何事かと話をしているハジメを見るコウスケ。2人は会話に神経を使っているのかこちらに気付づいた様子はない。このままこっそりと離れようとしたところでやっとでコウスケは隣のランデルが口を開いたまま硬直している事に気付いた

 

(おーいランデル君や。さっさと引き上げるぞ)

 

(や、やはり…間違い…なかったのか)

 

(っておいおい、大丈夫かよ…)

 

 口をあんぐり開いたまま動かないランデルにコウスケは溜息を吐くと物音を立てないようにランデルを担ぎ上げそのままこっそり後ずさりをしていく。コウスケ達がその場を離れても部屋の中にいる青春真っ盛りの2人は最後まで気付かなかったのだ。

 

 

 

 

「おーい 生きてるかー傷は深いぞー」

 

「ふふふ…余はやはり…道化だったのだ…余の女神はあんなにも遠くに…」

 

「駄目だこりゃ」

 

 がっくりと肩を落とし何やらブツブツと呟くランデルに困ってしまう。面倒なことになるだろうなとは覚悟はしていたのだが自暴自棄になるとは思わなかったコウスケ。このまま放っておいてもいいのだが流石に哀れだと感じさてどうするべきかとしばし悩むこと数分

 

「しょうがない。やっぱ失恋のショックを吹き飛ばすにはこれしかないだろう」

 

「うぅー香織ー」

 

 項垂れるランデルの手を引き外に出て準備を始めるコウスケ。言葉で慰める手段があるかもしれないが流石にまどろっこしく感じてしまったのだ。

 いそいそと用意を始めたところでランデルが我を取り戻した。

 

「…ッは!?ここは外か?何故余は…む?勇者貴様何をしているのだ?そもそもそれは一体?」

 

「ふっふっふ さてランデル君、君は生命保険には入っているかな?入ってなくても結構。俺の運転は安全安心で通っているからな!」

 

「何か嫌な予感が…余はこれで失礼す!?」

 

 何やらテンションが上がっているコウスケに後ずさりをするが時すでに遅し、ガシッと胴体をつかまれてしまったランデル。

 

「へっへっへまぁそう言いなさんなや。勇者からは逃げられないってよく聞くでしょ?さ、ちゃんとヘルメットをかぶってロープで体を縛って…レッツゴー!」

 

「待て!離せ!余は…うわぁ!」

 

 じたばた暴れて逃げ出そうにも体格と筋力の差から逃げられない。ランデルの制止も聞かないコウスケの顔は実に楽しそうであった

 

 

 

 

 

 

 

ブォオオオオオオオオ!!

 

 

「うわぁああああああああ!!!!」

 

「ヒャッホゥーーーーーーー!!!!風が気持ちいいぃぃいいいい!!!」

 

「やめろ!余は降りる!さっさと止めんかこの馬鹿者!」

 

「あ!?なんだって!?もっとスピードを上げろ?さっすが殿下!ならウィリーも一緒にやりますか!」

 

「あぁあああああああああ!!」

 

 王都の外、澄み渡るような空と広々とした草原が広がる中一台のバイクが爆音をあげ爆走していた。

 バイクに乗っているのは先ほどまで項垂れていたランデルと異様にテンションが高いコウスケだった。

 

「やっぱバイクは良いですなぁ!知ってます!?この爆音南雲が作って出せるようになったんですよ!」

 

「知らぬ!余の意思を無視して連れ出すとは貴様事の重大さを知っておるのか!?」

 

「ほぉ…まだ喋れるとは余裕があるな。ならきりもみ回転逝ってみようか!?」

 

「ぎゃあああああああ!!!!」

 

 丁度良く高台を見つけたので一気にバイクを唸らせジャンプする。空中で器用に回転をしながらも着地は華麗に決める。敵が居なくて比較的平和な場所だからこそできる遊びだった。無論ランデルが落っこちない様に安全はしっかり対策をしている。

 

 ヘルメットは着用させてあるし、体はロープで自分と固定させてある。それに飛び出さないように重力魔法を使ってバイクと密着させる様にもしてある。…精神面での考慮はされてはいないが

 

「はぁーすっきりした。そろそろ昼飯にしますか」

 

「……」

 

「ありゃ?グロッキーですか?」

 

 今度こそ沈黙してしまったランデルを心配はしてみるものの生きてはいるので放置することにしたコウスケは丁度良く湖畔が見える高台を見つけたのでそこに魔力駆動二輪を止める。

 

 ちょうどよく昼時であり、またお腹が空いていたので簡易宝物庫からシートを取り出しテキパキと昼食の準備をするコウスケ。その間ランデルはまだ車体に乗ったまま動かなかった。

 

「さてと、景色良し、天候良し、周囲に魔物の気配は無し!それじゃ飯にしますか!」

 

「……」

 

「まーだへばっているんですか。しょうがないな『快活』!これで少しは楽になったかな?」

 

「…先ほどよりはマシになったな」

 

「これで良し。なら飯にしようよランデル君」

 

 シートに座ったコウスケは隣をバンバンと叩きランデルを誘う。先ほどまで危険案目に遭わせていた男に従うのは嫌なのかむすっとした顔だったがお腹から虫の音が鳴ったため仕方なくシートに座るランデル。

 

「今日の昼飯はっと、お!?なんかハンバーガーっぽいのがある!他にもハムサンドにタマゴサンドか」

 

 城で渡された昼食は色とりどりのパンだった。これがまた実に焼き立ての様な匂いを出しふっくらとした触感が実に食欲を掻き立てる。

 簡易宝物庫でさらに肉やら魚、シアが作ってくれた携帯型の食糧に店で売っていた果実ジュースも取り出してなどもコウスケは遠慮なくかぶりついていく。

 

「うむ!バカ美味!」

 

「…はぁ、ここまで自分勝手で能天気な奴だとは…こんな奴に余の国は守られたのか?」

 

 コウスケの隣でブツブツ何やら言っているランデルだがやはりお腹は空いていたようでコウスケと同じようにパンを食べていく

 

「うむ、美味いな」

 

「でしょ?景色が良くて天気がいい所で食う飯は格別ってもんだからな」

 

 穏やかな陽気と時折頬を撫でる風が気持ち良いまさしくピクニック日和だった。そんな陽気なものだからコウスケはパクパクとパンや干し肉などにかぶりついていく。

 

 干し肉を食べきった時だろうか。隣にいたランデルが果汁ジュースをちびりちびりと飲みながら話し始めた。

 

「余はな」

 

「ん?」

 

「余は香織が好きだったのだ。一瞬だった、ほかにも顔の良い女子が居ながらも一目で目を奪われた。まさしく一目ぼれという奴だったのだ」

 

 ランデルは香織に見惚れたその瞬間を思い出しているのか顔が綻んでいる。しかしそれは一瞬の事でどこか遠くを見つめる目になった。

 

「どうにかして気を引こうと必死だった。専属の侍女や治癒院に入ってはどうかと進めてはいたのだがすべては失敗した。どうしてだとその時は考えていたが…あの男を助ける為に頑張っていたのだな香織は」

 

 ハジメと一緒に奈落に落ちていた時の香織たち生徒の話はコウスケはあまりよくは知らない。特に気にしたこともなかった。

 

「どうして余に振り向いてくれないと考えていたが…そうかあの男が香織がずっと好いていた男だったのか」

 

「そうですよ。南雲ハジメ、香織ちゃんがこの世界に来る前から好きだった少年です」

 

「始める前から終わっていたとは余の初恋は随分と滑稽だな。ふふ、香織の気持ちを感上げず自分の気持ちを相手に受け入れさせることしか考えぬとは余はなんと子供か」

 

 自嘲するランデルにコウスケは何も言わない。今は黙って話を聞いていた方が良いと思うからだ。

 

「本当はな」

 

「?」

 

「余は…自暴自棄になっていたのかもしれぬ」

 

「…国王の事ですか」

 

「そうだ、余の父は…死んでしまった」

 

 自分の父親の死を語るランデルは静かにどこか遠くを見詰めている。悲しみを我慢しているその顔はとても十歳の少年が見せる顔ではなかった。

 

「父は、何故死んでしまったのだ?まだまだ教わりたい事があったのに…戦争はしていると余は分かっていた。でもそれはどこか遠くでしている物だと…父が…死ぬことなんて考えてすらいなかった」

 

 涙をこらえているのかきゅっと口を噛みしめながら離すランデル。コウスケは隣で父親のこと想う少年の頭を優しく撫でる。泣いている少年にどう声を掛ければいいのかわからない。でもきっと何か伝わってくれると信じて

 

「最後に何を話したかなんて余は覚えておらぬ…ウグッ…確かに父は最近少し様子がおかしかった…聖教協会に入り他のことを蔑ろに

していた……」

 

 ついにはグズグズと嗚咽を漏らし始めたが構わずコウスケは頭を撫でていく。少しでも気持ちが落ち着くように魂魄魔法を使いながら。

 

「それでも余にとっては偉大な父上だったのだ…もっと構ってほしかったいっぱい話したかった!教えてくれ勇者よ!どうして父上は死ななければいけなかったのだ!」

 

 コウスケの手を振り払い涙でくしゃくしゃになった顔を向け問い詰める。答えを求めて聞いているのではない。只父親が死んだことが悲しかったのだ。

 

「俺は…」

 

 エリヒド国王が死んだ理由は中村絵里が裏切ったから。なんて真実をコウスケに言えるわけでもなく、かと言って嘘を言う訳にもいかずコウスケはただ自分が感じたエリヒド国王と言う人物の所感を伝えることにした

 

「俺はエリヒド国王がどんな人かは分かりません。でもわかる事はあります」

 

「…なんだ」

 

「立派な国王で尊敬出来るお父さんだってことです。この場所に来るまでに見た人たちは皆生き生きした顔で復興を進めています。俺が知っている戦争中の国の人々は皆死んだ顔で俯いているんですけどこの国の人たちは気力に満ち溢れているじゃありませんか。これはエリヒド国王がいかに民の事を考え治世を施してきたかってことなんです」

 

 城下の人々は皆復興へ向けて奮闘している。それは無き国王が残した民の強さであり治世の賜物だった。

 コウスケの言葉にランデルは城下の人たちの顔を思い出していた。その顔は悲痛さは残るものの確かに前を見ていた。

 

「…そうだ、父上がどんな王だったかはあの者達を見ればわかる。父上は偉大な人だったのだ…」

 

「はい、それにエリヒド国王は尊敬できる優しくて良いお父さんですよ」

 

「…何故そう言い切るのだ」

 

「だってランデル君やリリアーナ姫を見ていれば分かります。君たち姉弟は優しい子達じゃないですか。リリアーナ姫は優しくて聡明で

王女なのに気さくな女の子で、君はちょっとやんちゃ坊主だけど自分の行いを反省することができる男の子じゃないですか。大抵親ってのは子供がどんな子か見ればわかるもんなんですよ」

 

 リリアーナもランデルもコウスケにとっては好感の持てる姉弟だった。自分の立場で驕ることを良しとしない、次に向けて考えることのできるそんな子供達だった。だから執務にかまけているような父親ではないというのがコウスケにとってのエリヒト国王と言う人間だった。

 

「…ふふ、そうか異世界の者でも父上は立派な人に見えたのか」

 

「です」

 

「そうか…なら余は尊敬する父上を超えるような男にならなければな!」

 

 がばっと立ち上がったランデルは空を見上げた。その顔は先ほどまで泣いていた少年の顔ではない、尊敬し目指していた父親を超えようとする 若き王の姿だった。

 

「父よ!聞こえているか!余は立派な王になって平和を築き上げて見せる!必ずだ!!!」

 

 ランデルの声は空に響ていく。コウスケは風が若き王の誕生を福するかのように吹き荒れるのを感じたのだった。 

 

 

 

 

 

 

 

ちょっと恥ずかしい

 

「うむ!気のせいか何かすっきりしたぞ」

 

「そりゃ一杯泣きましたからね。すっきりするもんですよ」

 

「うぐっ」

 

「?」

 

「…その、すまぬが」

 

「…! 分かってます。泣いていたって事は誰にも言いませんよ」

 

「…うむ」

 

 

 

 

 

 

庶民の食事

 

「さぁさぁランデル君、一杯泣いたんなら一杯食べましょう。育ち盛りなのに食べない何て駄目ですよ」

 

「う、うむ。しかし庶民の食事と言うのは中々うまいな。このパンにはさんだ…これはイケるな」

 

「それ、俺の国ではハンバーガーっていうんです、手軽に食べられる食い物で…」

 

「むむむ、やはり王宮にいるだけではいかんな」

 

 

 

 

 

 

今後どうするべきか

 

「…むぅ」

 

「どーしました?そんな難しい顔して」

 

「父上より良い王になると誓ったもののどうすればよいかと考えて居たところだ」

 

「ふーむ。良い王様ですか」

 

「そうだ、決めたのは良いがまずは何をするべきかと思ってな」

 

「…無責任な事なら言えますけど聞きます?」

 

「聞こう。余はまだ何も知らぬからな。きっと為になる」

 

「了解。含みを持つような言い方をしましたけど要は簡単です目標を決め、どうすればいいかだれかと相談して話し合うんです」

 

「それだけでいいのか?」

 

「それだけかもしれませんけど、漠然としてただ無益に日々を過ごすよりよっぽどいいのです。ランデル君。君は一人じゃない。君の周りには君を支えようとする人が一杯いるはずだ。その人たちの話を聞き自分で考えまた分からなかったら相談するんです」

 

「支えようとする人間…」

 

「例えばメルド団長とかリリアーナ姫とかですね。君はまだ何もできないもしれないけど心構えができていれば案外物事はうまくいくものなんですよ」

 

「そういうものか…」

 

(まぁ俺は上手く行かなかったけど君ならできるさ)

 

 

 

 

 遅くなった礼

 

「む!」

 

「?どうしました」

 

「そういえば勇者よ。竜から余の姉を助けてくれたようだな!礼を言うぞ」

 

「あーあんときか。その話ほかの誰かにしました?」

 

「いや?しておらぬが」

 

「そうですか。なら良かった」

 

「???ともかく家族を救ってくれたのだ。礼は返しきれんな」

 

 

姉が言っていた人物

 

「戻ってきた姉上から勇者の話をよく聞かされたのだが…」

 

「え!?リリアーナ姫俺のこと喋っていたんですか?」

 

「うむ。よく話してくれた。そしてまさしく姉上の言う通りの人物だったな」

 

「…なんて言ってたんですか、リリアーナ姫」

 

「変人」

 

「ふぉ!?」

 

(他にも優しいとかよく笑うとか、子供っぽくて見ていて飽きないとか、良い事しか言っておらぬかったのだが…流石に余の口から言うのはな)

 

 

 

 

 

連れ出してきた本当の理由

 

「しかしまぁまさか見ず知らず?のお前にまさか余の情けない姿を見せることになるとはな」

 

「気にしていないんですけどね~俺は偶々ランデル君にあって偶々昼飯を一緒にしているわけですから」

 

「…それなんだが」

 

「はい?」

 

「合ったのは偶然でも、余の気持ちを吐露するように何か仕向けたのではないのか?どうしてだが近くにいたら気持ちが軽くなって色々と吐き出したくなったのだが…」

 

「はて?何の事やら」

 

「…まぁいい 余の心が軽くなったのは事実だからな」

 

 

 

 

 

「ではそろそろ帰りましょうかランデル君」

 

「う、うむ。そうだな戻らなければならぬな」

 

 日が暮れそうな時間になり、コウスケとランデルは帰り支度を始める。といっても簡易宝物庫にゴミやシートをまとめて放り込み魔力二輪駆動を取り出したらすぐに終わった。つくづく物を自由に出し入れできる宝物庫は便利だと再確認したところでランデルを駆動二輪に乗せ自分もまたがる。

 

「一応ロープも付けて…あ、ランデル君今回はちゃんとゆっくり走るからそんなにしがみ掴まなくてもいいよ」

 

「そ、そうか。てっきりあの速さで行くのだと腹を決めていたのだが」

 

「あはは、それじゃ出発進行っと」

 

 ゆっくり進むという発言通り行きとは違って帰りはのんびりと二輪駆動を動かしていく。背中にしがみついていたランデルも速度がゆっくりだと感じたのかコウスケをつかむ手の力は緩やかになっていく。

 

「ほぉ…何だ本当にゆっくりと走れるのではないか」

 

「ですです。色々魔法も使ってあるんで風も穏やかで気持ちいいでしょ?俺のお気に入りの乗り物なんです」

 

「うむ。静かで見渡す風景もよい。お前の世界の乗り物は中々面白いものだな」

 

 背中から聞こえる声は穏やかだ。最初からゆっくり移動すれば良かったかと少し反省しつつ、でも荒療治も必要だろうと言い訳しながらもコウスケは草原を移動する。

 

 日が沈もうとしている夕暮れは美しく、このまま眺めてみたい景色だった。いつもはみんなで移動しているがたまには誰かと2人で移動するの悪くないなとコウスケが思い始めたころ。後ろから声が聞こえてきた。

 

「…ありがとう…コウスケ」

 

「んーどうしたんですか急に」

 

「…言える時に…言っておかないとな」

 

 気のせいか後ろのランデルの声は徐々に小さくなっていく。少しだけ後ろを振り向けばどうやらランデルは眠くなっているようだ。ベルトの調整を確認しスピードと風圧をランデルが起きないように弱めていく

 

「…お前の…背中は…広いな……」

 

「そーかな?普通だと思うけど」

 

「…広い…ぞ…まるで…父上の様な…」

 

 そう言い残すとランデルは寝息を立ててしまった。魔力二輪駆動は音を出すこともなく、周囲の風の音もかき消し徐々に目的地へ近づいていく。王都に付いたとき辺りは薄暗くなっていた。ランデルをそっと抱きかかえ、宝物庫に魔力二輪駆動を片づける。眠るランデルの頭を軽く撫で王宮に歩いていくコウスケ

 

「……ごめんね。俺は君のお父さんを…」

 

 そろそろ別れの時間が迫るときコウスケはランデルの目の端に光るものを見ないようにしながらポツリと呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王宮につくとすぐにランデルの側近らしき男たちや子守の様な老人が皆必死の形相で駆け寄ってきた。コウスケが誰かわかると一瞬声を詰まらせるものの何をしていたのかを問い詰められたのでコウスケが説明をするとほっと息の吐き安堵したような表情になった。

 

「心配していたのです。エリヒド国王が無くなって、殿下はずっとふさぎ込んでいたものですから」

 

 愛しそうに語る老人の表情は慈愛に満ちておりいかにランデルが愛されているかが伝わってきた。老人はコウスケに礼を言うとランデルをそっと抱きしめ側近の男たちを連れ、去っていった。

 

 そのままコウスケは自室へ戻り特に何をするわけでもなくボーっとしていた。何となく夕食を食べる気も起きず仲間たちに会う気も起きず只々無益に時間を過ごしていた。

 

 窓の外が暗くなり、そろそろ深夜とでも呼べそうな時間の時扉からノックの音が聞こえてきた。不用心に開けるとそこには僅かに驚いた表情をした女騎士が居た。

 

「勇者殿、夜分遅くに申し訳ない、姫様がお呼びなのだ。 …来れるだろうか」

 

 表情を引き締めた女騎士の言葉にコウスケは了承の返事をした。

 コウスケの返事を聞くと女騎士は僅かに顔を歪ませた後リリアーナの部屋まで案内してくれると言い出した。

 

 夜になり静かな王宮の廊下を歩く。無音だった。前を歩く女騎士がコウスケの挙動を伺っているのがわかったが何をするのでもなく歩き続けた。

 

 部屋の近くまで着くと女騎士は立ち止まった。ここから先は一人で行ってほしいとの事だった。女騎士の傍を通るときほんの僅かだが殺気を感じた。しかしコウスケはどうすることもしなかった。当たり前だ、あの女騎士はリリアーナの近衛騎士であり夜中に男が女の部屋に入るというのだから警戒するのは当然だった。

 

 扉に付きノックをすると部屋からリリアーナの入ってもいいと言う声が聞こえたので無作法にならない様に部屋に入るコウスケ

 

「お待ちしていましたコウスケさん」

 

「お邪魔しまーす」

 

 リリアーナの部屋はランプが灯され想像以上に明るかった。部屋の中を見回せば中々高級そうな調度品があり、しかしどこか女の子っぽさを感じる部屋だった。

 

「すみません夜分に呼び出してしまって」

 

「別にいいよ。それよりどったの?」

 

「要件については説明しますのでどうぞお掛けになってください」

 

 リリアーナに言われるがまま部屋に備え付けてあった椅子に座る。リリアーナは何やら部屋の隅でカチャカチャしていたのでコウスケは何げなく部屋の中を見回す。そこで机の上にかなりの量の書類が無造作に置かれているのを発見した。

 

「お待たせしました。ちょっと自信がないのですが…どうぞ」

 

「ありがとう」

 

 リリアーナから手渡されたお茶を受け取るコウスケ。リリアーナは受け取った事に微笑むとコウスケの視線の先にあった自身の机の惨状に気づき慌てて片づけをし始める

 

「わ、私ったら、すいませんすぐに片付けますね」

 

「…別に気にしなくていいんだけど、それにしても随分と多いね」

 

 机の上に広がる無数の書類。そしてその書類を片付けるリリアーナの目の隈。明らかに一国の王女がするべき受け持つ執務の量には見えなかった。それも十四歳の少女が受け持つような…。コウスケの視線の意味に気が付いたのかリリアーナは苦笑いを浮かべた

 

「…えぇ でもいいんです。私には寝ている暇がありませんからね。……死傷者、遺族への対応、倒壊した建物の処理、行方不明者の確認、外壁と大結界の補修、各方面への連絡と対応、周辺の調査と兵の配備、再編成……大変ですが、やらねばならないことばかりです。泣き言を言っても仕方ありません。お母様やメルドも分担して下さってますし、まだまだ大丈夫ですよ。……本当に辛いのは大切な人や財産を失った民なのですから……」

 

(…でも君だって…)

 

「私はいいんですよコウスケさん」

 

 苦笑しているリリアーナにコウスケは何も言わないでいた。その方が良いのだろうと思う事にした。納得できるかは置いといて

 

「それで用事って?」

 

「そうでしたね。実は貴方の名前…いいえ勇者の名を使わせてほしいんです」

 

「『勇者』を?それまたどうして」

 

「聖教協会の顛末に関する噂の配布に豊穣の女神である愛子さんの名声を使う事を南雲さんと相談して決めたんです」

 

「ふむふむ」

 

 確かに教会の総本山は崩壊しており(ティオが愛子の力を使わずに消滅させたらしい)いつまでも王国の民に隠すことは不可能だった。その事について愛子の豊饒の女神の名を使うという話だった。それについては分かるが何故勇者の名が必要なのか。

 

「勇者は神山で修業をしていたという事が今の民たちの認識です。そこで神山から修行を終え戻ってきた勇者が王都の惨状を憂い 豊穣の女神の使徒として目覚め蒼き光によって救済をしたというバックボーンを作ろうと思いまして」

 

「……なんだそれ」

 

「要は使えるものは全部使ってしまおうという話です。ちなみに南雲さんがこの話を考えました」

 

 なぜだかニヤニヤと笑っているハジメの顔が浮かび上がり少しイラッとするコウスケ。すぐに仕返しをしようと決心した。

 

「それ追加のストーリー作っても良いかな、てーか追加しよう」

 

「どうするんですか?」

 

「俺だけ使われるってのは癪だから南雲も絡めよう。無能だった神の使徒の一人が豊穣の女神の天命と慈愛を受け王都にいる人々を救うため奈落から死に物狂いで強くなり英雄となって紅い光を使い助けに来たとか何とかって話でもくっつけよう」

 

「なるほど…豊穣の女神に二枚看板を作るという事ですか」

 

「そういう事、現にアイツ豊穣の女神の剣だって宣言したことがあるからな。一緒に巻き込んじまっても問題ないさ」

 

「ウルの町の時ですね」

 

 ハジメの大立ち回りを思い出したのかくすくすと笑うリリアーナ。その表情を見ているとコウスケの心が少しだけ軽くなった気がした

 

「では、そういう事で話を進めていきます」

 

「ん、じゃそろそろ」

 

「あっ」

 

 話が終わり椅子から立ち上がろうとしたとき僅かにリリアーナの口から寂しげな音が漏れた。それにはリリアーナ自身も驚いているようで思わずと言う表情で口元を抑えていた。気恥ずかしそうにするリリアーナを見ていると何とも言えず椅子にまた座り込むコウスケ。

 

「「……」」

 

 お互い話題が見つからず何とも変な沈黙が部屋を流れる。何か話題がないか頭を働かせるコウスケより先に声を出したのは対面に座っている少女だった。

 

「あ!そういえば昼間ランデルが迷惑をかけた様ですね」

 

「いやいや迷惑なんかじゃなかったよ。実際楽しかったし」

 

「そうでしたか?なら良かったです。ふふ、ランデルったら起き上がってくるなり『余は立派な男になって良き王になる!見ていろ姉上!余はやってやるぞ!』なんて息巻いていましたから」

 

 ランデルの事を思い出したのかリリアーナの表情は穏やかだ。

 

「いつの間にかあんなに逞しくなって…びっくりしました」

 

「男の子の成長は早いからね。今後が楽しみだよ」

 

「ふふそうですね」

 

 微笑み合いそして又話が途切れてしまった。どうしてだかコウスケはリリアーナとの会話が楽しいと思う反面緊張するときがある。

今もどうすればいいのか視線が彷徨う。年頃の女の子とどうやって会話をすればいいのかわからない。仲間内なら問題無いのだが…だからつい口から出てしまった 

 

「ねぇリリアーナ姫。聞きたかったんだけどさ」

 

「何でしょうか」

 

「…俺を恨んでいないの?」

 

 窓から見える月を眺めながらついコウスケは口走ってしまったのだ。昨夜メルドに活を入れランデルの誓いを聞きながらずっと心に筆禍っていたことだった。全てを知っている自分が居たのなら…その考えがコウスケの頭から離れない。

 

「貴方を…ですか」

 

「そう、誰が裏切るかを知っていて何が起きるのかも知りながら全部見過ごしていた俺を、君は恨んでいないの?」

 

 リリアーナには王宮に潜入するときに話していたのだ。今までに何が起きるか、これから先の事も知っていると説明をした。 普通に考えれば恨まれるのが筋合いだ。話していればもっと多くの人を救え、国王を助けることができたはずだと。

 

 リリアーナの息を吸う呼吸音が妙に大きく聞こえ、そして確かに聞こえた

 

「………そう…ですね。私はあなたを恨んでいるのかもしれません」

 

「そっか…」

 

 胸に飛来するのは意外にも安堵感だった。やっぱり自分は間違えていたのだと。悲しさはあるがどこかすっきりしたような妙な気持だった。腹を決め真っ直ぐリリアーナに向き直る。謝罪をするべきだと思った。ほかにもすべきことがあるのかもしれない。

それでも謝りたかった。

 

「ごめん、俺は」

 

「申し訳ないと、そう思っているのならまずは私の話を聞いてくれませんかコウスケさん」

 

 口に出た言葉をさえぎられ、リリアーナが話しかけてくる。不思議なことにその眼には攻めるような感情は見受けられなかった。

 

「…もしあなたが言ってくればと言う感情はもちろんあります。あの時…ウルの町で出会ったときや別れる時に少しでも話をしてくれればと思いました。でも仕方のない話なんです」

 

「仕方ないって…あの時少しでも君に話していれば」

 

「確かに話をしていてくれれば信じるか信じないかは別として被害を防ぐ為に行動はできたかもしれません。でもそれは無理なんです」

 

「無理?」

 

「はい。だってあの銀髪の修道女…確かノイントと言いましたね。エヒトの目がある以上何が起きても不思議ではありません。迂闊に行動すればもっと大きな被害があったのかもしれません」

 

 確かにノイントより強い存在が居ない以上変に行動してしまったらさらに厄介なことになってしまうかもしれない、

 

「でも俺がその場にいれば…」

 

「いいえ、それは絶対にあり得ないことです」

 

「…どうしてそう言い切れるの」

 

「だってあなたはハイリヒ王国より南雲ハジメさんを優先したからです」

 

「それは…」

 

「責めているわけではないんですよ。ただあなたは赤の他人の国よりもっと大切な人その場にいることを選んだ。ただそれだけなんですよ。どうなるか知ったところで、あんなに南雲さんと楽しそうにしているのに図々しくも私達を優先してだなんてあなたに言えるわけないじゃないですか…」

 

 南雲ハジメとハイリヒ王国どちらを優先すると言われれば南雲ハジメだとコウスケは即答する。確かにその通りだ。

自分がそばにいると助けると決めたのは南雲ハジメでありハイリヒ王国…エリヒド国王や名前も知らぬ人たち優先順位は著しく低かった。

 

「それにあなたは助けに来てくれた。町の人を助けてくれました。…だからいいんです。私のわがままなんて…」

 

「…それでもゴメン。俺は君のお父さんを助けなかった」

 

「…もう何も言わないでください。父の事は今は思い出したくありません。…私はランデルのようには切り替えられない…」

 

 それきりリリアーナは目を閉じてしまった。父親の事を思い出しているのか溢れる感情を抑えているのかコウスケには判断できなかったがこれ以上いるとリリアーナの負担になると思い入れてくれたお茶…紅茶を一息に飲み干すとそのまま扉へ向かった。

 

「お休みリリアーナ姫」

 

「はい、夜分遅くにお呼び出しして申し訳ありませんでした。…おやすみなさい」

 

 振り向かえったが依然としてリリアーナはこちらを見ておらず目をつぶったままだ。少し悲しくなりながらも自分の部屋に向かうコウスケ

 背後からリリアーナの小さな声が聞こえてくるのを気付かないようにしながら…

 

 

 

 

 

 

「…父はいったい何を考えながら死んだのでしょうね…」

 

 

 

 

 

 




さて次はっと…

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