ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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これで帝国編は終わりです。
グロ注意。でも今更ですね


殺戮と終焉

 

 

 

 

 

『…マスター、ハウリア族の方々が強いというのは知ってはいましたが…ここまでだったのですか?』

 

『俺…全く知らないんだけど…』

 

 全てが暗闇の中コウスケはノインと念話で目の前の惨状について話をしていた。

 

 リリアーナとのダンスが終わったその後、多少帝国の人たちからにらまれるやら皇帝から面白そうに笑われるなどがあったが筒なく祝杯の声が上がる予定だった。カムたちの作戦ではその瞬間に会場内の電気を消し帝国を驕るという作戦内容だった。

 

 祝杯は行われ、電気は消されすべてはカムたちの作戦道理だった。だがその先からコウスケにとっては予想できない事態になっていた。

 

「やめっやめてくッッがばっ!!!ごべっごぶぶっべべべべごぼごぼごぼごぼっっ」

 

「あぎっ!ぎぃぃぃいぃいい!!」

 

 帝国の軍人たちが一人一人と体を引きちぎられているのだ。比較的冷静だったものは魔法で明かりをつけようとしたが口の中に手を突っ込まれそのまま上下に分断された。ある者は胸から生えてきた腕にぽかんとした表情で見つめたまま絶命した。

 

「な、なんなんだぁぁぁああああ、ぐぺっ」

 

 恐怖の叫びはそのまま最後の遺言になった。四肢をねじ切られたからだ。会場内の様々な場所から肉の砕ける音やちぎれる音が聞こえる。

 

「これは…一体なにっむぐ!?」

 

「静かにしていてくださいリリアーナ様。今この場は何も動かない方が良いです」

 

 暗闇なった瞬間、コウスケはノインに頼み込んでリリアーナを回収してもらった。暗闇に戸惑うリリアーナだったがノインにいとも簡単に引っ張り上げられ、そのままノインに抱きしめられている。暗闇なので凄惨な会場は見れないが音をが聞こえるので辺りの様子をうかがうが魔法により音をふさがれ口はノインの手によってふさがれる。

 

『ふむ。甘い少女の匂いに僅かなこの膨らみかけの胸…中々最高ですね』

 

『どさくさに紛れてセクハラすんなっ!』

 

『…喪服でよかったですね。マスター。葬式の手間が省けます』

 

『……はぁ』

 

 ノインのどさくさに紛れたセクハラを窘めながらコウスケは目を逸らしたくなるのは必然ともいうべきか。コウスケの予想では首がコロコロと転がる程度だと考えていたのだ。

 ここまで肉片や腸が飛び散る屠殺場になるとは考えてもいない。

 

 

 

 

 さっきまで華やかな会場は一瞬のうちに血と臓物溢れかえる凄惨な会場と化している。

 

(道具は必要最低限って言ってたけど…こういう事か)

 

 目の前でまた一人の男が物言わぬ肉塊になりながらもハジメはカムとの会話を思い返す。

 

 最初カムたちが武器を持っていないことに気付き、錬成して作り上げた自慢の武器たちを提供しようとしたのだ。しかしカムたちはこれを拒否。

理由として『戦う力を授けられた、これ以上貴方達に甘えていられない』と言う理由だった。ならば連携が上手く行けるようにと通信装置も提供しようとしたがこれも拒否『我らがうさ耳は仲間の声を正確に聞き取ります。この国ぐらいの距離なら全く問題ありません』と言うのだった。

 

 結局渡したのは自分たちに連絡する用の通信装置だけで後はほとんど必要なかった。出来たことと言えば帝国を制圧した後の段取りと契約などの相談ぐらいだろうか。そしてその宣言通りハジメ達の助力は必要ないほどハウリア族たちは戦闘にこなれていた。

 

(…なんか僕の知らないところで強くなりすぎていない?)

 

 戦い方を性根にしみこませたのはハジメ自身だ。しかしここまで特化してしまったのだろうか。今度は殺さずに四肢をねじり切る作業に取り掛かり始めたハウリア族を見てハジメは複雑な気持ちになった。

 

 

 

 

 

「ここまでする必要あるのか…?」

 

 思わず声に出てしまうのは仕方ないとも言えた。清水にとってハウリア族とはうさ耳が付いている美男美女の仲の良いシアの家族と言う認識位しかなかった。

 

 薄々予感はあった。老人の俊敏な動き、カムと出会う前の威圧。自分より強いのは明白でこの帝国の人間だれもが敵わない強さだと肌で感じ取った。

 だからこそ身動きできないぐらいに痛めつけるだけでよかったのではないかと考えてしまう。

 

(別に…こいつらに同情する訳じゃないけどっ!)

 

 帝国の人間たちが可哀想だと考えたのではない、まして助けようなどとは思わない。しかしそれでもこれほどまでにやるのはマズいのではないか。奈落の底に落ちるように暴力に酔いしれてしまうのではないか。そこまで考えてしまう。だからスッと音もなく隣に忍び寄った気配に気付かなかった。

 

「無論、ここまでする気は自分達もありやせんでした」

 

「お前は…確かパルだったっけ」

 

 隣に現れた影…パルは頷くと静かに会場を見つめる。虐殺は終わり、皇帝が最後一人虚しく奮闘を続けているが相手が自分たちの長カムである以上決着は目の前だろう。現に皇帝の攻撃はすべてがむなしく空振り避けているカムは感情を移さない目で皇帝を見ている

 

「長が言ってたんです。帝国に侵入してから聞こえてしまったのだと」

 

「聞こえて?…何を」

 

「同族たちの怨嗟の声です。…この国で故郷へ帰れず玩具の様にして殺された同胞たちの声が聞こえてしまったんです」

 

 カムもまた手早く終わらせるつもりだった。だがこの帝国に来た時から、牢に捕らわれてから強く死んでいった同族たちの声が聞こえ始めたというのだ。

 

「玩具の様になぶり痛みつけ飽きたらあっさり殺し、また新しい亜人を捕まえて痛みつける。この国の人間たちにとっては自分達亜人族は同じように考え笑いあうような人ではありません。ただの奴隷…いやそれ以下です」

 

 ぞっとするような声だった。自分より何歳も年下の少年が出すような物ではない冷たい声。パルを見て見ればその小さな両手から赤い雫がこぼれている。パルもまた先ほどまで人の臓物を抜き取っていたのだ。

 

「だから惨たらしく殺さなければ同胞たちの恨みは晴れない、晴れる訳なんてない。…つっても自分たちはコイツらではありません。女子供までは手を出さないつもりです。…どいつもこいつも同じ罪人だとは思うんですが、まぁそこは飲み込みましょうか」

 

 はぁとあくまで仕方なくと言ったパル少年の声が怨みの深さを感じる。会場にいるハウリア族の人たちは全員無表情だ。パルの話が本当なら激情を押しとどめ殺戮しているのかそれとももはや何も感じなくなっているのか、清水には判断できない。

 

 そうこうしているうちにカムに応戦していた皇帝の足首が抉り取られていた。背後にはあの老人。カムの威圧感のせいで判断がつかなくなっていたのかそれとも老人の気配の隠し方が巧かったのか。…恐らく両方だろうと清水は冷や汗をたらしながら判断していた。

 

 帝国最強と呼ばれた男が地に伏した。それがどういう意味なのか分からないものはいない。

 

「さて、これでこの帝国も終わりですね」

 

 淡々と告げたパル少年の声がこの帝国の末路を感じさせるのだった。

 

 

 

 

 その後の話をしよう。帝国最強の男皇帝ガハルドが地に扮した時点で勝敗は決まった。後は流れ作業の様に契約として『現奴隷の解放』『樹海への不可侵・不干渉の確約』『亜人族の奴隷化・迫害の禁止』『その法定化と法の遵守』これらを守らせることにした。

 一度ガハルドが断るモノの、皇太子バイアスがライトで周りからよく見えるように引きずり出されると悪態を喚き散らしているうちに内側から爆発。

 それでもガハルドが頷かなかったためカムが会場の壁に手をかざし蒼い光を纏ったかと思うと極太のレーザーを射出。会場の部屋を破壊し道筋にあるすべてを一瞬のうちに消し去る光景を見て唖然とする皇帝たちに優しく頭の髄にまで響くように伝えた

 

『さて、私一人ではこの国を潰すのに夜明けまでかかりそうだが…今我が同族たちはこの帝国内いたるところに待機している。…この言葉が分からぬ貴様ではあるまい」

 

 この言葉が決定的だった。カムと同じような異常な力を持つものが国のいたるところにいると判断した皇帝は全面降伏を宣言。数々の契約を守る旨をつげ、ここにハウリア族の勝利が確定した。

 

 

 

 

 

 

 その後、帝国の後始末を終えたハジメ達は解放された亜人たちを再生魔法やら魂魄魔法やらを香織が使い治療を施した後飛空艇に急遽取り付けられた籠で運ぶことになった。無理矢理大きな籠のような乗り物で運び出される亜人族たちだったが少しの間我慢すれば故郷に帰れるので大人しく空の旅を楽しんでいる。

 

「で、カムさん。あのレーザー砲ってかその他もろもろなんだけど説明してくれる?何で身体能力が上がってるのとかその纏ってる蒼い燐光とかさ」

 

 デッキにてカムにあの殺戮劇の全容を聞くコウスケ。ほかのハウリア族は全員フェアベルゲンに先に送った後カムは事情の説明をするために

残ってもらったのだ。

 

「この光の詳細は分かりません。ただ私たちは便宜上『闘気』と呼んでいます」

 

「『闘気』とな」

 

 むくりとコウスケのオタク心が出てくる。隣のハジメや清水も顔は神妙になりながらも目がきらきらと輝いている。

 

「はい、それでなぜ使えるようになったかのかと言うと…実はこの闘気に目覚める前に声が聞こえたのです。コウスケさん貴方の声が」

 

「む?でも話しかけた覚えはないし、そもそも距離が」

 

「そうですね、だからもしかしたら幻聴だったかもしれません。しかしあなたの声が聞こえたの同時期に私たちはこの力に目覚めたのです」

 

「むー俺にそんな力あったっけ?」

 

 頭を抱えてみるが自分にそんな力があったかは思い出せず、うんうん唸ればハジメと清水が合点いったように声をあげた

 

「たしか、僕達のステータスプレートにも変化があったはずだからもしかしたらその延長かも」

 

「オレもお前に助けられてから魔力が上がったからな、多分そんな力があるんだろお前には」

 

「うーん?」

 

 2人に言われればそんな気がするがやっぱり心当たりは無い。そんな様子にカムは苦笑している

 

「もしかしたらですが、以前とは違ってコウスケ殿やハジメ殿はとても明るくなられた。そのことが影響しているのかもしれませんな」

 

 そんな風に締めくくるとカムは朗らかに笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと結局リリィの婚約は破棄になったの?」

「そう…ですね。帝国も今回の騒動で婚約が白紙になってしまうほどのダメージを受けたみたいで」

「良かった。あんな国に嫁がなくて本当によかったね!」

「あの、香織?一応国一つ滅びかけたのですから、もっと言葉を選んだ方が」

「良いのあんな国滅んじゃえば。女の子の恋の方がよっぽど大事だよ?」

「どちらにせよ本当に良かったですぅ!これでリリアーナさんもチャンスができましたね!」

 

 先ほどからすごく楽しそうに会話をしているのはハジメ達一行の女性陣だ。特に香織とシア、ユエの三人はリリアーナの婚姻が白紙になった事にわがことのように喜んでいる。

 

「え、えーっとシアさん?チャンスって一体」

「またまたぁ~そうやって白を切って~…私の口から言わせてほしんですか?」

「リリィもう自由恋愛ができるんだよ。ならもう遠慮する必要なんて一つもないの」

「あの、2人とも何を言ってるんですか?」

 

 2人の剣幕に若干引きながらも尋ねるとユエがずいっと顔を近づけてくる。なぜかいつにもましてユエの無表情が怒っているようにも感じ軽くホラーだ。

 

「リリアーナ。貴方コウスケの事が好きじゃないの?」

「コウスケさんの事を私が?…え?いえいえ?まさか…え?」

「恋する乙女の顔をして気付かなかった…だと」

「ユエ、なぜそこまでショックを受けておるのじゃ」

 

 ユエから指摘されリリアーナの頭の中にコウスケが浮かび出てくる。そのコウスケに助けられたことや話をしたことダンスを踊った事、今までの記憶が蘇る。不思議で変な人だと思った人は色々と表情を変え、そんな変で変わった魅力を持つコウスケはいつしか気が付かぬうちにリリアーナの中で大きくなっていた。

 しかし今まで恋愛のれの字もなかったリリアーナにとってはそれが恋愛感情と言われても首をかしげるしかない。

 

「う、うーん。確かによくコウスケさんの事を思い出しますけど…」

「それが恋って奴なんですぅ!さっさと気づきやがれですぅこのにぶちん!」

「ねぇリリィ無自覚な恋心って駄目なの。ちゃんと自覚しないとダメ。相手の事を知ろうとした行動が逆に相手を深く傷つけて嫌われる原因になるの」

「か、香織?まるで自分が体験したようなことを言うのはどうしてですか?」

「…若さゆえの過ちって辛いね」

「香織!?私が悪かったからそんな悲しそうな顔をしないで!?」

 

 暗く思いつめた表情になっている香織に謝りながらもリリアーナは自分の気持ちを整理する。

 

(私がコウスケさんの事を!?でも確かによくコウスケさんの事を思い出せますし、一番安心できる異性だとは思いますけど…)

 

 自分の感情を整理しようとしてそれでも答えが分からなく、困った顔をすればティオが諭す様にゆっくりと話しかけて来る。

 

「なにも焦る必要はないぞリリアーナよ。きっかけは些細なものかもしれぬ。そうじゃのぅ…あのダンス。お主はコウスケと踊ってみてどうじゃった?」

「…そうですね。あの時は…」

 

 コウスケとのダンス。あの時は皇太子から助けられた礼を言いにダンスを誘ったのだ。ダンスはとても楽しかった。コウスケのおぼつかない足取りに恐る恐ると言った手の取り方。そのどれもが丁寧に扱われていると知って嬉しかった。皇太子に暴行されそうだったので尚更だった。

 

(そしてダンスが終わって…っ!?)

 

 抱きしめられたことを思い出したリリアーナは今更顔から火が出そうなほど真っ赤になった。あの時は自分の未来を悲観していたためそこまで考えてはいなかった。しかし今思えば異性にあそこまで抱きしめられたのは生まれて初めてでしかも

 

(全然嫌じゃなった…寧ろ安心した)

 

 助けたいというコウスケの言葉、行動がリリアーナの心を支えてくれていたのだ。そしてあの行動から察するに、自分は強く想われているのだと気付いた瞬間胸の鼓動が高鳴り、胸が切なくなっていく。

 

「ほぅ…気付いてしまったようじゃのぅ。その甘く切なく蕩けるようなもの、それが恋じゃよ」

「へぇあ!?あ、でもわったし」

「ふっふふ 焦らない焦らない。私達は恋する乙女の味方」

 

 どもる自分の前ではニヤリつくユエ。見渡すと他の女性陣も同じような顔をしている。

 

「恋する乙女の可能性は無限大。でもまだまだ貴女は孵ったばかりのひよっこ。私たちが全力でサポートする」

 

 顔は笑っているが声はどこまでも真剣な声音のユエから逃げるように視線をさまよわせるが遠くにいるコウスケを見た瞬間また顔が赤くなる。そんなリリアーナを女性陣は慈しむ様に見守るのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これで第5章は終わりですね。
長かったーーー
感想待ってます!

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