ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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どんどん主人公の素が出てくる…


迷宮探索

 

 

あの後、何かと騒ぎながらもこれからのことをハジメと話し合った結果、神結晶の部屋で鍛錬をすることになった。いくら強くなったとしても、油断は禁物、というわけでハジメは錬成の鍛錬と武器の製作、コウスケは魔法の練習と実戦の積み重ねを行うことにした。

 

「とりあえずステータスプレートのことは放置するぞ。あんな物何の目安にもならん!」

 

「本当になんなんだろうね?」

 

(俺が知りたいよ…)

 

 

 その結果、ハジメは遂にとある物の作成に成功した。

音速を超える速度で最短距離を突き進み、絶大な威力で目標を撃破する現代兵器。

全長は約三十五センチ、この辺りでは最高の硬度を持つタウル鉱石を使った六連の回転式弾倉。長方形型のバレル。弾丸もタウル鉱石製で、中には粉末状の燃焼石が圧縮して入れてある。すなわち、大型のリボルバー式拳銃だ。しかも、弾丸は燃焼石の爆発力だけでなく、ハジメの固有魔法“纏雷”により電磁加速されるという小型のレールガン化している。その威力は最大で対物ライフルの十倍である。ドンナーと名付けた。

何となく相棒には名が必要と思ったからだ。ちなみに名前付けでコウスケとお互いに中二病をいかんなく発揮させ、ひと悶着があった

 

「ドンナー?確かロシア語で雷だったっけ?いや~南雲君、中々の中二っぷりですなー」

 

「そっちも変な名前を付けようとしたよね!「こいつの名は、『雷撃丸・極』だ!」とかなんとか!そっちもたいがいだよ!」

 

「えぇーいいじゃねえかよ、名前を付けるってのは大切なことなんだぞ俺もよーかっこいい名前を付けたいもんよー」

 

「それにしたってセンスがないのはどうかと思うんだけど…」

 

 コウスケの方は、魔法の方は全属性適正というあいまいな技能のおかげで難航していた。個人的にはハジメみたいに一つのことを極める方がかっこいいと思うのだ。そのせいでうまいことイメージが決まらず発動するのが難しい。ファンタジーの魔法を発動するとはすなわち

思い込みであると考えているコウスケには中々もどかしいことだった。最も何でもできるのは器用で役に立つので、飲料用の冷水や、体を洗うための温水、体を乾かすための温風などいろいろ便利なのだが…

 技能の方は魔物を食らってもハジメのように魔物の固有魔法は増えなかった。これは、自分はこの世界の正真正銘のイレギュラーなのでこの世界の法則が当てはまらないと思うことにした、すなわち、魔法と同じように自分ができると思ったときに技能が生えるのではないかと考察した。最もハジメに話したら複雑そうな顔をされたが…

 

「思い込みで出来るって…それは流石にないんじゃないかな?」

 

「その考えは分からんでもないんだが…なんというか今一掴みづらいんだよなぁなんか自分の想像力の無さが露呈しているというか、きっかけがないというか…うーん難しい」

 

「案外死にそうになったら思いついたりして」

 

「おいおい、瀕死になってパワーアップって、俺はサイヤ人かよ。ま、今のところはコイツで、ぶん殴っていけばいいしな」

 

 また、ハジメに協力してもらいタウル鉱石で、両手で持つ大槌を作ってもらった。名を『地卿』と名付けた。長すぎず、短すぎずと中々の仕上がりである。重量も程よく重くいざとなったら片手運用もできるように練習中である。ハジメは、ギミックを仕掛けたそうにしていたが割と脳筋思考なコウスケは、「ギミックを使えるだけの頭がないからな」と言い代わりに頑丈さを底上げするように頼んだ。

 

 そんなこんなで準備を整えた2人は迷宮の探索を開始した。ちなみに、この階層最強であるはずの爪熊はハジメがさっさとドンナーで撃ち殺してしまった。アレにかまっていられないということらしい。そんなハジメに変わったなぁと感じながらコウスケも探索を開始する。結果わかったことだが

上層に続く道はなく錬成で無理やり上に道を作ろうとしてもプロテクトが掛かってているのか、それ以上進めないのである。そんなわけでこのオルクス裏迷宮の深部へと2人は進んでいくのであった。

 

 道中はいろんな魔物がいた、暗闇で石化させようとするバジリスク、

 

「どうせ石化させられるのならボディコンを着た綺麗なお姉さんがいいな!」

 

「…?ああ、あの石化の魔眼を持つ人か」

 

タールの中から襲い掛かるサメ、

 

「フカヒレって美味しいのかな?」

 

(高級食材がおいしいとは限らないぞ南雲)

 

毒の痰を出す二メートルもある虹色のカエル、

 

「カエルはおいしいって聞くけど流石に毒持ちは…」

 

「一度お湯で洗ってみるか」

 

なぜか甘い実を落とすトレントモドキ

 

「「……あまーい」」

 

「さてと…南雲分かっているな?」

 

「そっちこそ」

 

「「一匹の残らず狩りつくしてやる!」」

 

まひの鱗粉を出す蛾、巨大すぎるムカデ、

 

「ぁああああああ!駄目!虫は駄目なんだよ!ひぁぁあああ!こっち来るなー!」

 

「ちょっ!僕の後ろに隠れないでよ!」

 

「フィヒヒヒヒ!アッヒャヒャヒャヒャ!」

 

「だからと言って突撃しないでよ…」

 

虫の魔物が出てきた時は、コウスケが発狂して地卿を滅茶苦茶に振り回すという場面もあったが…

 

などなど多種多様の魔物がいた。戦闘は主にコウスケが前衛を張り後ろからドンナ―でハジメが援護するという感じである、まだまだ連携も甘くドンナ―の弾がコウスケに当たりそうになったり

 

「フレンドリーファイアーはゲームの中だけにしてくれ!」

 

「ご、ごめん!」

 

ハジメに魔物が群がりそうになったり、

 

「コウスケしっかりと敵の注意を引き付けて…」

 

「す、すまん!」

 

コウスケの振るう地卿が全く当たらなかったり、

 

「リーチの長さ、間合いの取り方、振るう速度、力の入れ具合、考えることは多い」

 

「何か変なところがあったら言ってね。すぐに改良できるから」

 

神水の消費を抑える為にコウスケの治癒魔法を使うがあまり役に立たなかったり

 

「この水を使えばいいんじゃないの?」

 

「それはそうなんだが、あんまり頼りすぎるともしもの時が怖い、それよりは選択肢を増やしておいた方が良いだろう…中毒が怖いし」

 

それでも故郷へ帰るため2人はあきらめなかった

 

 現在2人は50層で作った拠点で武器の点検、銃技、槌技、錬成と魔法の鍛錬を積んでいたというのも、階下への階段は既に発見しているのだが、この五十層には明らかに異質な場所があったのだ。

それは、何とも不気味な空間だった。

脇道の突き当りにある空けた場所には高さ三メートルの装飾された荘厳な両開きの扉が有り、その扉の脇には二対の一つ目巨人の彫刻が半分壁に埋め込まれるように鎮座していたのだ。ハジメはその空間に足を踏み入れた瞬間全身に悪寒が走るのを感じ、これはヤバイと一旦引いたのである。

もちろん装備を整えるためで避けるつもりは毛頭ない。ようやく現れた“変化”なのだ。調べないわけにはいかない。ハジメは期待と嫌な予感を両方同時に感じていた。あの扉を開けば確実に何らかの厄災と相対することになる。だが、しかし、同時に終わりの見えない迷宮攻略に新たな風が吹くような気もしていた。

 

「さて、どーみても中ボス戦の感じがするが…南雲、準備はどうだ?」

 

「悪くないよ、…まるでパンドラの箱だね、どんな希望が詰まっているやら?」

 

「さてね?案外唯一無二のお宝かもよ」

 

自分達の今持てる武技と武器、そして技能。それらを一つ一つ確認し、コンディションを万全に整えていく。全ての準備を整え、ハジメはゆっくりドンナーを抜きそっと額に押し当て目を閉じる。コウスケは地卿を祈るように持つ。覚悟ならとっくに決めている。しかし、重ねることは無駄ではないはずだ。2人は、己の内へと潜り願いを口に出して宣誓する。

 

「僕は生きて必ず故郷に戻る。日本に、家に……帰る。邪魔するものは打ち砕く!」

 

「(この部屋は…確かに希望がある、だからこそ南雲を死なせない何があっても絶対に!)ああ…帰ろう共に日本へ!」

 

 扉の部屋にやってきた2人は油断なく歩みを進める。特に何事もなく扉の前にまでやって来た。近くで見れば益々、見事な装飾が施されているとわかる。そして、中央に二つの窪みのある魔法陣が描かれているのがわかった。

 

「なんだろうこれ?…こんな式見たことないな」

 

「なら相当古いのかも?」

 

「うーん、仕方ない錬成するか」

 

「あると便利な錬成、様様だな」

一応、扉に手をかけて押したり引いたりしたがビクともしない。なので、何時もの如く錬成で強制的に道を作る。ハジメは右手を扉に触れさせ錬成を開始した。

 

 しかし、その途端、

 

バチィイ!

 

「うわっ!?」

 

 扉から赤い放電が走りハジメの手を弾き飛ばした。ハジメの手からは煙が吹き上がっている。すぐにコウスケの治癒魔法で手を治す。直後に異変が起きた。

 

オォォオオオオオオ!!

 

 突然、野太い雄叫びが部屋全体に響き渡ったのだ。2人はバックステップで扉から距離をとり、武器を構えて先制攻撃出来るようにスタンバイする。

 

「まぁ、ベタと言えばベタかな」

 

苦笑いしながら呟くハジメの前で、扉の両側に彫られていた二体の一つ目巨人が周囲の壁をバラバラと砕きつつ現れた。いつの間にか壁と同化していた灰色の肌は暗緑色に変色している。

 一つ目巨人の容貌はまるっきりファンタジー常連のサイクロプスだ。手にはどこから出したのか四メートルはありそうな大剣を持っている。未だ埋まっている半身を強引に抜き出し無粋な侵入者を排除しようとハジメの方に視線を向けた。

 その瞬間、

 

ドパンッ!

 

 凄まじい発砲音と共に電磁加速されたタウル鉱石の弾丸が右のサイクロプスのたった一つの目に突き刺さり、そのまま脳をグチャグチャにかき混ぜた挙句、後頭部を爆ぜさせて貫通し、後ろの壁を粉砕した。

 左のサイクロプスがキョトンとした様子で隣のサイクロプスを見る。撃たれたサイクロプスはビクンビクンと痙攣したあと、前のめりに倒れ伏した。

巨体が倒れた衝撃が部屋全体を揺るがし、埃がもうもうと舞う。

 

「悪いけど、空気を読んで待っているほど出来た敵役じゃあないんだ」

 

 いろんな意味で酷い攻撃だった。ハジメ達の経験してきた修羅場を考えれば当然の行いなのだろうが、

あまりに……あまりにサイクロプス(右)が哀れだった。おそらく、この扉を守るガーディアンとして封印か何かされていたのだろう。

こんな奈落の底の更に底のような場所に訪れる者など皆無と言っていいはずだ。

 

 ようやく来た役目を果たすとき。もしかしたら彼(?)の胸中は歓喜で満たされていたのかもしれない。満を持しての登場だったのに相手を見るまでもなく大事な一つ目ごと頭を吹き飛ばされる。これを哀れと言わずして何と言うのか。

 

 サイクロプス(左)が戦慄の表情を浮かべハジメに視線を転じる。その目は「コイツ何て事しやがる!」と言っているような気がしないこともない。

 

「さて、ハジメ悪いけどこっちは俺に譲ってくれ」

 

「わかったよ、あんまり遊ばないでね」

 

サイクロプスと対峙するコウスケ、瞬間唸り声をあげ大剣を振り上げコウスケを押しつぶそうとする。

 

「おせぇよ!」

 

大剣と打ち合わせるように地卿を振り上げる、バキンと音を立て半ばから折れる大剣。思わずといった目で大剣を見るサイクロプス。その隙に地卿を土手っ腹に打ち込む。サイクロプスは、うつぶせに倒れとどめを刺そうと地卿を振り下ろすコウスケ、 しかし、ここで予想外のことが起きた。サイクロプス(左)の体が一瞬発光したかと思うと、その直後、地卿をはじき返したのである

 

「へぇー良いの持ってんな」

 

サイクロプスの固有魔法『金剛』が発動したのである。しかし、気にせず、地卿を思いっきり振り上げサイクロプスを仰向けにしあらわになった目に地卿をたたきつける。サイクロプスの頭部はあっさり粉砕した。

 

「まぁ、こんなところか」

 

「中々の豪快っぷりだね」

 

「脳筋乙ともいう…んじゃ肉は後でとるとして」

 

錬成ナイフでサイクロプスを切り裂き体内から魔石を取り出した。血濡れを気にするでもなく二つの拳大の魔石を扉まで持って行き、それを窪みに合わせてみる。ピッタリとはまり込んだ。直後、魔石から赤黒い魔力光が迸り魔法陣に魔力が注ぎ込まれていく。

そして、パキャンという何かが割れるような音が響き、光が収まった。同時に部屋全体に魔力が行き渡っているのか周囲の壁が発光し、久しく見なかった程の明かりに満たされる。

 2人は少し目を瞬かせ、警戒しながら、そっと扉を開いた。

扉の奥は光一つなく真っ暗闇で、大きな空間が広がっているようだ。手前の部屋の光に照らされて少しずつ全容がわかってくる。中は、聖教教会の大神殿で見た大理石のように艶やかな石造りで出来ており、幾本もの太い柱が規則正しく奥へ向かって二列に並んでいた。そして部屋の中央付近に巨大な立方体の石が置かれており、部屋に差し込んだ光に反射して、つるりとした光沢を放っている。その立方体を注視していたハジメとコウスケは、何か光るものが立方体の前面の中央辺りから生えているのに気がついた。

 近くで確認しようと扉を大きく開け固定しようとする。いざと言う時、ホラー映画のように、入った途端バタンと閉められたら困るからだ。しかし、ハジメが扉を開けっ放しで固定する前に、それは動いた。

 

「……だれ?」

 

 掠れた、弱々しい女の子の声だ。ビクリッとして2人は慌てて部屋の中央を凝視する。すると、先程の“生えている何か”がユラユラと動き出した。差し込んだ光がその正体を暴く。

 

「人……なのか?」

 

 “生えていた何か”は人だった。

 

 上半身から下と両手を立方体の中に埋めたまま顔だけが出ており、長い金髪が某ホラー映画の女幽霊のように垂れ下がっていた。そして、その髪の隙間から低高度の月を思わせる紅眼の瞳が覗いている。年の頃は十二、三歳くらいだろう。随分やつれているし垂れ下がった髪でわかりづらいが、それでも美しい容姿をしていることがよくわかる。

 

 流石に予想外だったハジメとコウスケ(コウスケは知ってはいたがここからでもわかる美貌に固まっていた)

は硬直し、紅の瞳の女の子もハジメ達をジッと見つめていた。

 

やがて、ハジメはゆっくり深呼吸し決然とした表情で告げた。

 

「すみません。間違えました」

 

 

 

 

 




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