ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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遅くなりました
ごゆっくりどうぞ―


気楽な道中と悪辣な罠

 

「まぁ、動かないんだからこうなるよねー」

 

「グギャギャャヤ!!」

 

 先ほどまでは壮絶だった攻撃が、時間がたつにつれて弱弱しくなっていく眼前のトレントを見てハジメはそうつぶやいた。

 

 装備品を無事回収し、樹海の最奥にて明らかに周囲の木々とは異なる巨木を発見したハジメ達。その巨木がいきなり暴れ始めたのだ。

 ここでハジメとユエがさっさと終わらせようとしたところ清水とノインの任せてほしいと頼み出たので承諾。今清水とノイン以外の仲間は休憩を取っている

 

「流石に任せっぱなしは…な」

 

「少しでも経験は稼いでおきたいところです」

 

 鞭のようにしなる枝、刃物のように鋭い葉、砲弾の木の実、地面から咲く槍の根。その事如くを短槍一本で防ぎ受け流し、背後にいる術者の清水を守り抜くノイン。

 

「ふむ、中々頑丈ですね」

 

 集中砲火を受けるノインだったが実に涼しい顔で攻撃を枝を防ぐ。呟くのは目の前の敵に対してではなく今自分が振るっている獲物短槍に対してだ。南雲が錬成し作り上げたその槍は振り回し易く、頑丈さが想像以上だった。先ほどから魔物に対して振るっている物の未だに刃こぼれや強度が損なわる事は無かった

 

 ノインが攻撃を防いでいる間に清水は闇魔法を使い黒い靄を発生させる。動けずにいたトレントは黒い靄に包まれてしまった。

 

「『猛毒』!『脱力』!『腐蝕』!『錯乱』!まだまだ行くぜ!」

 

 清水の得意魔法、闇魔法は、相手の精神や意識に作用する系統の魔法で、実戦などでは基本的に対象にバッドステータスを与える魔法と認識されている。

 しかし清水はこれに飽きたらず、身体異常…相手の身体に直接影響をおこなえる魔法なども組み込むことにしたのだ。

 

 その清水の魔法によってトレントは徐々に生命力を失っていく。瑞々しかった葉は枯れていき、枝は垂れ下がりいまにも折れてしまいそうだ。根は腐ってゆき、大木と言っても差し支えなかったその幹は内部から嫌な音を立ててひび割れていく。

 

「えぐいな…あの靄、普通の魔物だったら何とかして避けて被害を減らそうとするけど、根を張るから動くこともできやしない」

 

「…だから魔法を直に受ける。使い方を考えれば清水の魔法はとても脅威」

 

「うぅむ 確かにあの様な魔法は妾も苦手じゃ。何せ直接的な魔法しかできぬからのぅ」

 

「クゥゥ」

 

「そうだね。あれが清水が選んだ戦い方。僕達にはなくて、僕達では考え付かないやり方…うん、なんだやればできるじゃないか」

 

 ハジメの目にはノインに守られながらも魔法を連発する清水の姿がある。その姿はがむしゃらで、しかしウルの町の時とは全く違って

何とも輝いて見える。他のクラスメイトをねたんでいた割には清水もちゃんと強かったのだ。誰かが可能性を指摘していなかった、ただそれだけだった。

 

「グギャギャ!!アッキョウ!」

 

「分かっているってばちゃんと認めているよ。それよりも応援するのは良いけど邪魔しないようにね」

 

 生命力にあふれて居たトレントは今やもう見る影もなく腐っていた。ノインが防御の構えを解き投げ槍の姿勢に入った。どうやらこの階層はもう終わりの様だ。 

 

 新しく加わった、成長著しい清水とそつなく役割をこなすノインを眺めながら、ハジメはこれから先の試練について考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレントを問題なく倒し、入り口となった洞に入り魔法陣で転送されたハジメ達。莫大な光で視界を塗りつぶされハジメ達が転移した場所は最初と同じ樹海だった。

 

「ここは…って俺戻ってる!?」

 

「ティオさんの言った通りコウスケも白崎も戻ってるな」

 

「白崎さん大丈夫?」

 

 あたりを見回し次いで自分の手を見て叫ぶコウスケ。先ほどまで短く小さな緑色の肌だった手足はいつもの自分の姿に戻ってた。首と体をひねりながら確認しても問題はなくまた服も着たままだった。ホッと一息するコウスケの横ではハジメが同じように自分の身体をペタペタ触っている香織に気遣うように話しかける

 

「あ…ハジメ君、私戻っている?ゴブリンの姿になっていない?」

 

「ちゃんと戻っているよ。後遺症も…無さそうだね」

 

「良かったぁ~」

 

 ハジメがしっかりと顔を見て断言したことで安心したのか座り込む香織。ユエがニマニマと笑いながら香織の背中をポンポンと撫でさすりシアは苦笑している。

 

「あのままの姿で試練を受けさせることはないと考えたが、やはり問題なかったようじゃの」

 

「です。このまま足手まといを引き攣れて迷宮に挑めなんて性根が腐ってるにもほどがありますからね」

 

 ティオの考えに賛同するノイン。仲間全員が問題無いようで恐らく次の目的地になる樹海の奥を見る。空間の奥には先ほどと同じ大樹があり中には同じような魔法陣が仕組まれていそうだった。

 

「…あれ?」

 

「?どうかしたのコウスケ」

 

「いや…何でもない」

 

 訝しるような声をあげたコウスケに対してハジメは聞くが問題ないと首を振るとそうかと納得し警戒をしながら歩き始めた。

 

『なぁノイン』

『何でしょうか?』

『此処であってたか?…なんか違う気がするんだが』

『…覚えていないのですか?』

『南雲には偉そうに言ってたけど、原作を見たのはもう2,3年ぐらい前だしなぁ、おまけに後半斜め読みだったし』

 

 コウスケの記憶ではトレントが終わった後は何か違う試練があったような気がしたのだが、ノインは首をふるふると横に振った。

 

『覚えていないのならそれでいいではありませんか、南雲様達と同じように斬新な気持ちで迷宮攻略できますよ』

 

 そう言ってノインは歩きだしてしまった。何かなーと思いつつもハジメ達の後を続いて行ったのだった。

 

 

 鬱蒼と茂る樹海は周囲に虫の鳴き声一つ聞こえない静寂で満ちている。風すら吹いていないので葉擦れの音も聞こえない。ハジメ達が草木をかき分ける音がやけに大きく響いた。

 

(ここは何だったかな?うーん嫌な予感がひしひしと…)

 

 警戒しながらも『誘光』を使いながらハジメ達より前で歩くコウスケ。盾役である自分が前にいれば魔物の襲撃は防げるし何かあっても自分の能力なら頑強だという自負もあった。

 

(しかしこれを使うのも久々だなぁ…前に使ったのは、いつだったっけ?)

 

 自分の技能を思い返しながら苦笑してしまうコウスケ。なにせ戦闘があっても自分が活躍したことが少なくなって言ってるのだ。仲間が増えるたびに自分の役割が無くなっていく。今はもう『快活』は香織がいるため使いどころが無くなっている。

 

(仲間がいるから負担が減る…とでも思えばまだいいのかな)

 

 仲間が増えるたびに、強くなるたびに、自分の必要性を考えてしまうコウスケ。それは普段は考えないようにしている事だった。久々の迷宮で技能を使うという事からふと考えてしまったのだ。

 

 その思考が一瞬の判断を鈍らせた。

 

 ドバァザァァァァァァ!!!

 

「うおっ!?なんじゃこりゃ!?」

 

 ほぼ誰もが反応できない速さでコウスケの頭上から乳白色の液体が振ってきたのだ。バケツ一杯分とも言っていいほどの液体を頭上から浴びたコウスケは咄嗟に元の位置から距離をとる。そのコウスケの距離を取ったのとほぼ同時にハジメたちの頭上から何か水滴が降ってきた

 

「ユエ!」

 

「やってる!」

 

 あまりにも不確かな不意打ちで判断が遅れたがハジメの呼びかけにユエがすぐに『聖絶』で障壁を展開するのと同時にザァアアアアアッと土砂降りの雨がハジメ達を襲い、ユエの張った障壁に弾かれてその表面をドロリ・・・と滑り落ちていく。どう見ても唯の雨ではない。雨であるはずがない。ドロリとしたその粘性もそうだが、そもそもここは閉鎖空間であり空など存在しないのだ。

 

「ああもうべしゃぐしゃだ!」

 

 悪態を一言、顔に付いた乳白色の液体を乱暴にぬぐうとユエの障壁に合わせるようにコウスケは『守護』を使い仲間たちを覆い尽くす結界を張った。

 

「うぉおおっ!?地面からも出てきてんぞこの卑猥スライム!」

 

「なら私が分解します。くれぐれも触らない様に」

 

 足元から乳白色のスライムが出てきたことに驚く清水とは打って変わって冷静に『分解』を駆使し結界内の侵入者を駆除していくノイン。

 

 さらさらと細かな粒子となって崩れ去っていく乳白色スライム。スライムの典型的な攻撃といえば、その物理攻撃に強い特性を生かして接近し体内に取り込んで溶かしてしまうというものだが、どうやら溶かされる前に完全に排除できたようだ。

 

「うわわわっ!どうするんですかハジメさん!?このままじゃスライムの海に飲まれるですぅ!」

 

 悲鳴を上げるシアだったがそれもそのはず結界の外では今なおスライムが豪雨となって降り注いでいる。このままでは比喩表現無しで乳白所の海となってしまうの時間の問題だった

 

「あー…何とかできるはできるけど…」

 

「歯切れが悪いな、なんだ無理なのか!?」

 

「出来る。でもその代わり障壁をできる人は全員やってくれない?一応僕の方でも配慮はするけど」

 

 ハジメの言葉に疑問を浮かべるものがちらほらいたがすぐに結界を作れる香織、ティオ、ノインはすぐに自分ができる防御魔法をコウスケとユエの障壁に重ね掛けていく。

 

「なんだか嫌な予感がするですぅ」

 

「シアさん、オレもだ…」

 

 香織たちが魔法を使う間、特にすることが無いシアと清水はハジメの作業を眺めていたが、どこかに空間をつなげた円月輪?になにやら丸いものを宝物庫から取り出しては無造作にポイポイ放り投げているのだ。その姿は何故だがすごく悪寒が走り書きたくもない冷や汗が出てきてしまう。

 

「南雲…お前今何を入れているんだ?」

 

「うーん、色々だけど…要は在庫処分?かな」

 

 困った笑顔で話すそのハジメの姿は何でもないような顔をしているが明らかに爆発物や弾頭などを無理矢理押し入れているその姿は非常にマズい。

 

「さてっと 皆、特にコウスケ。これから派手にやるからしっかり頼んだよ」

 

「応!まかせんしゃい!」

 

「…それじゃ ポチっとな」

 

 ハジメが嫌に明るく行ったその言葉の後、仲間たち全員の視界が真っ白になり

 

 爆音とともに、世界が爆ぜた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…お前一体何をぶちまけたんだ」

 

 音共に視界が白くなり目をつぶって両手で耳を防いでいた清水は障壁の外に広がる世界に只々呆然とした。

 

 先ほどまで木々が生い茂り鬱蒼としていた樹海は跡形もなく消え失せ残ったのは草が一遍も残らない荒廃した世界だった。

 あたりには何もない。見渡す限りが荒野が広がり辛うじて原型を残しているのは最奥にある樹の形をした燃え残りみたいな黒い物体だけであった。

 

「ん?取りあえず爆弾を諸々だけど」

 

「いやいやそうじゃねえだろ。一体他に何をぶち込んだんだ」

 

「もう必要性が限りなく薄くなった魚雷と機雷。それに合わせて本来ミフェルニルに搭載する目的だったミサイルをありったけ、後は対軍を想定した空爆用を各種、都市一つ更地にできる予定の迫撃砲の弾、等々etc」

 

「…お前只のテロリストっていうんだぞ、それ」

 

「備えあれば憂いなし!」

 

 やたらとドヤ顔で力説するハジメにげんなりとする清水。ハァと溜息をついて周りを見渡してもそれぞれ呆れた笑いやら平然としていたリなど仕方ないなぁ~という空気が蔓延している。

 

(…ぶっ飛びすぎだろ)

 

 嫌に慣れている仲間たちにいつか自分もこうなるのだろうかと少しばかり遠い目をする清水。ハジメはそんな清水を大して気にも留めず

焼け跡が残っている周りの地面を錬成で整地していく。

 

 仲間たちも同じように障壁を解いていく。が、コウスケ只一人だけ守護を解いた後ボーっと立ったままだった。

 

「…?どうかしたのコウスケさん」

 

 香織が訝しそうに俯いているコウスケの顔を見るとその顔は赤くなっていた。おまけに息も荒く目もどこか焦点が合っていないようだった。

 

「もしかして何か…キャッ!?」 

 

「うわっと!?え、白崎さん?」

 

 コウスケが何か異様な状態だったため魔法を掛けようと近づいた香織がいきなりコウスケに突き飛ばされたのだ。突き飛ばされた先は

錬成をしていたハジメが居たので怪我はない。危うくぶつかりそうになりながらも香織を抱きとめたハジメは何があったのかとコウスケを見た。

 

「…チッ しくじったな」

 

 そんなハジメに視線を返すことなくコウスケはドカリと胡坐で座り込む。そのままくしゃりと手で頭を掻くと長い長い息を吐いた。その目が妙に血走っており体から何か妙な圧を感じるハジメ。明らかに何か異常が発生した様だった。

 

「…もしかして、あの液体は…」

 

「ご名答だ南雲、さっきの液体はなんと媚薬だ」

 

「…マジ?って確認する必要もなさそうだね」  

 

 否定してほしかったのだが何よりもコウスケの目が時たま香織が自身に向ける視線と同じなのがハジメの背筋を震え上がらせる。ハジメの腕の中にいた香織が治癒魔法を掛けようとするがコウスケが手を向けて制する。

 

「やめろ…俺に向かって……魔法を掛けようとするな。悪いけどNTは趣味じゃないんだ」

 

 吐く息は荒く、目は情欲に満ちたものに変わっていくコウスケ。その言葉を聞き取ったのかユエとティオが背後に回ろうとするがそれも察知されてしまった。

 

「ハァ……ハァ……ユエ、ティオ無駄だ。お前らが…魔法を…かけるより俺の方が早くお前らを組み敷くことができる」

 

 目の前にいるコウスケがだんだん発情した獣へと変貌していく。そんな嫌な雰囲気だった。自分たちがいるから理性を保てなくなるのではないかと目線でシアはほかの女性陣と離れえるようアイコンタクトするが

 

「シア…背を向けるな。逃げる獲物に飛び掛かりたくなる」

 

「うへぇ」

 

 シアの背中が向けられたら間違いなく飛びかかる自信がある。そう話すコウスケは目がぎらついており実に怖い。

 

 このままでは埒が明かない。そう判断したハジメはできる限りコウスケを刺激しない様に対話をすることにした。

 

「どうする。神水使う?これさえあれば問題ないと思うけど」

 

「…やめとく。それに頼ると屈したみたいで恥ずかしい」

 

「そっか。それじゃ僕達は君がその快楽に耐えられるまで待機すればいいの?」

 

「そうしてくれ。どうにかして…持ちこたえるから………面倒を掛ける」

 

 そういうとコウスケは深く息を吐き目をつぶった。体の中をめぐる抗いたい快楽。それをどうにかしようと精神を集中させるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?男である南雲とオレなら問題ないんじゃないのか?」

「黙れ清水。言いたかぁないが男にだって穴はあるんだぞ」

「!?」

「ケツを出せ。天国へ連れて行ってやる」

「ヒィッ!?」

(うへぇ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生きている以上、性欲とは切っても切れない関係だ。それはコウスケの持論だった。だが今その性欲にむしばまれるとは考えもしなかった

 

(うっぐぐぐ!クソ!クソ!さっきから抑え込んでいるのに止められねぇ!あああああああ今すぐ女とヤりたい!くんずほぐれつしたい!)

 

 表面上は冷静を保っていても内面は荒れ狂う性欲に翻弄されっぱなしだった。こぶしを握り歯を強く噛みしめ抗うがそれでもまだ収まらない

 

(ああああ!!!!俺はどうして気づかなかったんだこんな事があるのなら、いや駄目だ!どうせいった所で誰かが被害に遭ってたかもしれない。だから俺だけで済んだ。そう思うしかない!うぅうううそれにしてもつらい辛いんだよぉ)

 

 息を長く吐く。それだけでも体の中にある熱が逃げていくように感じる。どうにかして精神を落ち着かせなければ、そう考え明鏡止水を試してみる。

 

(…………無理)

 

 が、駄目だった。寧ろ余計なことを考えないようにと考えるだけで卑猥なことが頭に浮かぶ。思い出すのは女性陣達のあられもない姿。 

 初めて会った時の隠せなかったユエの上半身。ボロボロになり下着姿と言い換えてもいい服をまとったシア。乱れた着物で扇情的な姿のティオ。濡れて衣服が体に張り付いた香織。

 

(…綺麗だ。全員綺麗だった。どいつもこいつも顔が整っていて…目を奪われた。気が付かないようにしていたけど、皆、とても美人なんだ」

 

 仲間たち女性陣は誰もかれもが本当に綺麗だった。美しかった。目を奪われた。想像以上だった。だからコウスケは無理矢理にでもその顔に慣れようとした。ただの女だと無理矢理考えるように自分を騙し欺いた。

 

(……鏡を見ろよ。って何度も思った。俺の日常では見れない高瀬の花達。空想と妄想の具現化。触れれば崩れ去るような美の結晶。でも彼女たちは生きて動いて…俺を見てくれる。…だから駄目だ。どんなにきれいな物でも、触りたいものでも汚してはいけない 俺が触れてはいけないものなんだ」

 

 そう決意したところで体の方はいう事を聞かない。下半身に血が巡るのをいや応なしに自覚しながら開いた口をぐっと噛みしめる。拳をから血がにじみ出てもお構いなしに握りつぶす。どうせ怪我をしたところで怪我は治せるのだから。

 

(…女の事を考えると駄目だな。なら男…南雲と清水?………アカン。これ考えると俺┌(┌^o^)┐ になっちまう!)

 

 女性陣の事を考えると駄目なのならば男性陣ではと考えたがそれこそ悪手だった。先ほどより息が荒くなり血が巡るのが先ほどよりもさらに強くなってる気がした。

 今胡坐をかいて上半身を俯かせているので自分の下半身事情がばれないだろうというのが救いだった。

 

(ああああ!こんなん耐えられるわけねぇだろ!クッソ!どうすれば……あ、アレをするか?やってしまうかのか?)

 

 身もだえする中で一つの妙案が出てきた。考え付いたのは性欲が思考を掻き散らすのならそれ以上の事を考えればいいのだ。

 しかしそれはコウスケが考える中では諸刃の剣だった。なぜなら今からするのは臭いもののふたを開けるのと同義な事。自己嫌悪に苛まされるのが分かり切っていたからだった。

 

(だが…やるしかねぇ。女を襲うよりは…マシだ)

 

 この試練を仕掛けた解放者に溜息を吐きながらコウスケは心の底にあるドブの蓋を少しだけ開くのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………』

 

(……え?)

 

「…ワリィ もう大丈夫だ」

 

 コウスケが胡坐をかいて性欲に耐えている間に先の魔法陣までの道のりを作っていたハジメは微かなつぶやきが聞こえたので頭をあげた。見れば拳の力を解き目を開けたコウスケはそう一言言って頭を下げていた。

 

「ううん、でも本当に大丈夫?念のため神水飲む?」

 

「あーいや、いらんな。ちゃんと性欲は吹っ飛んだみたいだ」

 

 やれやれと肩をすくめたコウスケは異常がなさそうだった。ホッと一息をして見事試練を乗り切ったコウスケに称賛を来る

 

「良かった。もしもの時は神水をぶっかけようかと思ってたよ」

 

「ははは またずぶ濡れにならなくて良かった。…ん?アレ?何で皆顔を背けているの?」

 

 ハジメは問題なかったが何やら他の仲間たちは微妙に赤い顔をしている。目で追うと視線から逃げるようにこそこそ動き回ってしまう。

 

「…実はコウスケが耐えているときになんだけどさ」

 

「うん」

 

「ちょっと本音が漏れていた」

 

「え”…マジ?」

 

「マジ」

 

 どうやら女性陣について考えていたことが口に出していたらしい。気恥ずかしさで顔が赤くなるが漏れてしまっていたのはどうしようもなかった。ちなみにノインはとても涼しい顔をしていた。手に槍を持っているところからしてもしもの時は力づくで止めようと考えていたらしい。清水は…尻を抑えていた

 

 それから数十分さら休憩を取って、心身ともに休ませた後ハジメ達は魔法陣に向かう事にした。ほんの少し仲間たちがギクシャクしているが無理矢理戦闘にでも入れば収まるだろうというハジメの判断だった。

 

 その後スライムに襲われることもなく順調に大樹の元までたどり着き洞の中の魔法陣へと足を進めた。

 

「どうした南雲。なんか考え事?」

 

「ううん。何でもないよ」

 

 仲間たちが魔法陣へと足を進める中ハジメはチラリとコウスケの顔を見た。その表情はいつもの物と変わりなかった。だからハジメは先ほど聞こえた呟きを聞かなかったことにした。憎悪と殺意が混じったような粘ついた声をハジメは聞かなかったことにするのだった

 

 

 

 

 

 

 

『なぁ…俺にも分けてくれよ…お前の女達をさ』

 

 

 

 

 




ちなみ試練の順番が違うのは仕様です

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