ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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出来ました

少し一人称と三人称が混じっているかもしれません



望んだもの

 

 

「…きて」

 

 ふわふわと微睡むような温かさだった。周りからはガヤガヤとした騒ぎ声が聞こえるが、いつもの事だ。あと少しだけこの微睡みの中に居たい。そう思い意識を無理矢理闇の中へ沈み込ませようとする

 

「もう…どーして、ふて寝を決め込むのかな?」

 

 ゆさゆさと体を揺さぶっていた人物は聞こえるような溜息を吐いてきた。恐らく呆れた顔で言っているのだろう。だが、こっちだってこのまどろみは得難いものなのだ。呆れているお前だって知っているだろうと返事をするように寝息を立てる

 

「…zzz」

 

「まーた分かりやすい事を言って…はぁこのまま起きなかったら」

 

 このまま起きなかったらなんだというのか。徹底抗戦を決め込む自分に向かって最終通告を放った

 

「今後もう宿題を見せないよ」

 

「はい今起きました!」

 

 宿題を見せて貰えないのはマズい!飛び上がるように机から顔をあげるとそこには…

 

「おはようコウスケ」

 

「……はよ、南雲」

 

 呆れた顔で、でもちょっぴり笑っている親友の姿があったのだった。

 

 

 

 

 

 

『……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーんで朝のHRまで寝ようと思うかなぁ」

「んなこと言ったって徹夜でゲームをしていたに決まってるじゃん」

 

 口を尖らせながら親友の非難めいた視線を受け流す。眠い物は眠いのだ。大きく欠伸をすれば呆れて肩をすくめるハジメ。軽く伸びをしながら周囲を見渡せば、そこはいつもの教室でいつものクラスメイト達だった。

 

 欠伸をする、読書をする、机に突っ伏す者もいれば、友達と昨日のテレビで盛り上がる者もいる。いたって何でもない日常の一コマだった。

 

「ふわぁ~そういう南雲は今日は遅刻寸前じゃなかったな。どったの?」

 

「どったのって…君に言われて治す様に心がけているんだよ。『遅刻ギリギリは推薦に響く』て言ったのはコウスケじゃないか」

 

 そう言えばそんな事を言ってたのをを思い出すコウスケ。あんまりにも遅刻寸前を繰り返すので今後に影響が出ると苦言を言ったのだ。

 その力説が通じたのか今では遅刻ギリギリをすることは少なくなった。そんな雑談をしていると男子生徒が一人扉を開けて教室に入ってきた 

 

「おっ?お前らもういたのか」

 

「ウィーっス清水」

 

「おはよう清水君」

 

 入ってきたのは自分達と同じオタクである清水幸利だった。寝癖をロクに治さないまま同じように眠そうにコウスケ達へ近づいてくる清水。コウスケとハジメと清水は近くの席でいつも誰かの周りに集まってはくだらない雑談をしているのだ。

 

「なんだその眠そうな顔は、目開いてんのか?」

 

「そりゃブーメランだ。そんな事より昨日のアニメ見たか?」

 

「見た見た。あの戦闘シーン良かったよね」

 

「それよりもヒロインの赤面シーンが良かった。やっぱ女の子は恥じらいがあってこそだな」

 

 雑談の内容は主にゲームはアニメなどのサブカルチャーだ。いつもアニメの感想や議論を交わしゲームの考察や攻略を言い合う。それがコウスケ達の会話だった。 

 

 そんなコウスケ達に非難や奇異の視線を送るクラスメイトはいない。()()()()()

 

「そう言えばコウスケと清水君は宿題ちゃんとやった?」

 

「問題なし。ゲームは面倒なものを片付けてからだ」

 

「マジかよ…っと 俺の方は…」

 

 鞄を漁り昨日先生から言い渡された宿題のプリントを漁る。ガサゴソ、ガサゴソ。中々目当てのものは見つからない。

 

「あれ?おかしいな……」

 

 宿題はいつもすぐに終わらせていた。忘れるのが怖いわけではない、減点されるのが嫌なわけではない。授業中に指摘されクラスの皆の中で恥をかくのが嫌だったのだ。

 

 一度そんな記憶がある。宿題を忘れ先生に軽く叱責を食らった。それだけだったのにクラス全員から笑われたのだ。

 きっとなんでもない事だったのだろう。たまたま隣の人間が笑っていたからつられて笑った人間がいたのだろう。そんな事は理解できるのに…それが酷く辛かった

 

「…ねぇ大丈夫?」

 

「…え?」

 

「目…涙が出てる」

 

 ハジメの驚いた顔で慌てて目元をぬぐったら確かに涙を一滴流していたようだった。清水もこれには驚いたようで心配そうに声をかけてくる

 

「おいおい大丈夫か?」

 

「あ、ああそんな深刻そうな顔をすんなよ。ただ欠伸をしたから涙が出ただけだってば」

 

 慌てて手を振り深刻そうな二人に対して欠伸を一つ。ワザとらしかったがそれで一応納得はしてくれた様だった。

 

 その後難なく宿題は見つかり朝のHRも終わって午前の授業が始まった。

 

 

 

 

 

 

『……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休み。午前の授業が終わった3人は昼食を校舎の屋上で食べることにした。

 

 空は晴れ渡るような青空でぽつぽつとまばらにある白い雲が空の青さを引き立てている。日差しは強くなく時折流れる穏やかな風が涼しくさわやかな場所だった。

 

「ったく、つまんね―授業だった。寝てりゃよかったな」

 

「はいはい、そろそろテスト期間が近いんだからちゃんと授業は受けようねー」

 

 清水は怠そうに午前の授業を愚痴りながら弁当を食べている。家族仲が上手く行ってない聞いて居たが、それはどうやら兄弟関係の様だった。コウスケとしてはわだかまりをうまく解消してほしいところだが…人の家族内に口を出す勇気はなかった。

 

 ハジメの方は相変わらずコンビニで買ったおにぎりを食べている。なんでもない事だがなぜかほっとしている自分がいた。どうしてかエネルギーチャージ食品で昼食を済ませようとするハジメの姿が幻視したのだ。アレではお腹が空いてしまう。

 

「…お?こんな時間でも馬鹿騒ぎしている。ああいう奴らは体力が有り余っているのかねぇ~」

 

 清水が呆れたように運動場を見て見れば、そこには複数人の男子生徒がふざけ合って遊んでいた。ボールを持っている所からサッカーでもするのだろうか。

 

「あはは、僕達ではちょっと難しいね…たまには運動でもしてみる?」

 

「パスだ。そんなことしているよりゲームでもしていた方が有意義だ」

 

「やれやれ清水君は本当に変わらないね」

 

 そんな2人の談笑を聞きながらふざけ合う男子生徒達を見る。いかにもチャラそうな容姿だったが、その顔は年相応に無邪気に笑っていた。仲間と何のためらいもなくはしゃぎ笑いあう。きっと彼らはこの後何かしらやらかして先生に注意されるのだろう。

 

 でもそれは青春の一ページで…それが酷く胸を騒がせる。 

 

「…ねぇ本当にどうしたのコウスケ。さっきから何か変だよ」

 

「…え、あ 何でもないさ、ちょっと羨ましいって…」

 

 後半の言葉は口の中で留まりごにょごにょと呟いてしまった。あまり心配を掛けさせるのもどうかと思い、弁当を掻き込む。ふわふわの甘い卵焼き。マヨネーズが付いたブロッコリー。少し萎びてしまったが好みのウィンナー。そして白いご飯。

 

(……美味いな。いつもと比べて凄く美味い。…こんなに美味かったっけ?()()()()()()()()()()()()()()()…)

 

 いつもとは違う食べ物に首をかしげていると周りを確認した清水が声を潜めるように話してきた

 

「ところで、南雲、コウスケ。お前ら前言ったこと覚えているか?」

 

「ああ、例のアレ?僕は大丈夫。ちゃんっと親から許可はもらったよ。コウスケは?」

 

「アレ?…何だったっけ?」

 

「…お前なぁ。本当に大丈夫か?今日はいつにも増して変だぞ」

 

 心配されてしまった。申し訳ないと思い声を出そうとしたらハジメが清水の話を補足してくれた。

 

「ほら、一緒にコミケに行こうって話だよ。いつか入ってみたいってコウスケが言ってたんだよ?」

 

「だから3人で行くためいろいろ調べていたんだ。思い出したか?」

 

「…ああ、そう言えばそうだったな、すまん忘れていた」

 

 いつか2人の前で話したことがあるのだ。オタクの戦場であり宝物庫であるコミックマーケットに行ってみたいとつい話してしまったのだ。

 無論それは夢物語でかなえられない夢物語だったのだが当の2人がなら一緒に行こうと計画を立て始めたのだ。それがどんなに嬉しく泣きそうになった事か… 

 

「最初にするのは知ってるかコウスケ?」

「全く持って知らん!」

「はぁ…まずは好きなサークルが参加しているかどうかに、どこでやってるかをちゃんと確認する事」

「ぶらぶらするのはたぶん無理だと思うからね。事前のチェックは必要不可欠だよ」

「ううむ。となると買いたい奴は絞るべきか…交通関係はどうするの?そこら辺さっぱりだけど」

「そこは清水君がやってくれるって。任せよう」

「任せろ。ただし、金を多少使う事を覚悟しておけよ」

「頼む、後は荷物だけど…夏だからな、やっぱ水は多めに持っていた方が良いのか?

「勿論だ。つーか無いと死ぬ。ほかは…南雲の父さんが知ってたんじゃないのか」

「そう言えばおじさん、昔コミケに行ってたんだっけ?」

「あー…うん。そこら辺はまた詳しく聞いておくよ」

 

 ここまで話し終えたら昼休みの終了のチャイムが鳴ってしまった。嫌そうに溜息をつく清水に苦笑しながら後片付けをし、屋上から出ていく。自分が最後尾になる中ふと振り返りさっきまで自分たちがいた屋上を眺める

 

 空は蒼く、太陽は輝いている。その光景にいつになく眩しさを感じながら自分を呼ぶハジメの声に返事をするのだった。

 

 

 

 

『………いつも俯いて生きていたからな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後の授業は眠気との戦いだった。お腹が膨れたのでしきりに出る欠伸を噛み殺し、これまた睡眠を促せる先生の声を右から左と聞き流しながら黒板に書かれていた物をノートに書き写す。周りをこっそり確認すればハジメはうつらうつらと舟をこぎ清水に至っては白目をむいていた。

 

 友人たちの間抜け面に苦笑しながら自分も欠伸を噛み殺す。

 

(眠いもんな… 俺も()()()()()よく眠かった)

 

 周りのクラスメイト達に苦笑しながら、ふとそんな事を考えたコウスケ。自分が考えていた内容に心臓がドキリと音を立て一瞬視界が揺れる。

 

『……もう気付いているんだろ』

 

 頭の奥から響く声にかぶりを振る。どうにかして意識をはっきりさせようと深呼吸を数回。目をきつく瞑り頭の中のノイズをかき消す。

 

『……わかった』

 

 声と共に脳内のノイズが消え、後に残ったのは冷や汗をかく自分といつもの教室内だった。

 

 

 

 

 

『あともう少しだけ…か』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、3人でくだらない雑談をしながら帰路につく。登校するときは大体ハジメと一緒だが下校は清水も一緒なのだ。

 

「俺としてはお前らと一緒に部活に入りたかったんだが…」

 

「ゲームの時間が減るのはやだ」

 

「僕バイトがあるから…」

 

「知ってるよ。無理にとは言わないさ」

 

 部活もまたいいものだ。それが運動部でも文化部でもどっちでも構わない。ただ友人たちと一緒に居られればそれでいい。そんな気持ちが胸の中をある。最も恥ずかしくて誰にも言えないが…

 

 夕暮れの中をのんびりダラダラと歩く。会話の内容は取り留めのない物。近々あるテストに対する愚痴。新作ゲームの予想や考察。深夜アニメの感想。時がたてば忘れる事であっても、中身のない内容であってもそれがいかに掛け替えのないとても大切なものなのかは()()()()()()()()コウスケ自身とてもよく知っている。

 

 だがそんな蜜月の時間は終わりを告げる。

 

「それじゃ、またな」

 

 交差点に差し掛かり清水が軽く手をあげた。コウスケとハジメの家は近いが清水は少しばかり距離がある。ここで別れるのが普通でいつもの事だった

 

「おいおい、またかよお前は」

 

 苦笑する清水。何故かと首をひねれば、目元を指をさされた。指先に濡れるものがあった。また涙が溢れて零れ落ちていた。

 

「あ、あれ、なんでっ?」

 

「はぁ…南雲、後の事は頼んだぞ」

 

「任せて」

 

「さっさと泣き止めよ。それと今度は一緒にゲーセンでも行こうなコウスケ」

 

 肩をパンパンと叩きそう言ってにこやかに去っていく清水。コウスケは別れの挨拶を言おうとするもうまく言葉にできなかった。それから涙が収まるまで数十分時間がかかるのだった。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ本当に大丈夫?」

 

「お、おう」

 

 清水と別れ、涙を見られた気恥しさからどうしてもハジメと会話ができないでいたコウスケ。何とか返事を返すもののどうにも声が上ずってしまう

 

「う~ん 今日は僕の家で泊まる約束だったけど、もし無理なら」

 

「え?今日俺お前の家に泊まる約束だったのか?」

 

 確認するような聞けば返事は溜息だった。今日は溜息やら心配やらされてばかりである

 

「明日が土曜日で学校休みでしょ?だから今夜は徹夜だっ!ゲームをしながら朝日を迎えるぞっ!って言ってたんだけど」

 

「そうだったのか。…うん問題ないよ。お邪魔させてもらってもいいか?」

 

 コウスケがそう頼むとハジメは嬉しそうにうなずいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『もう…いいのか?』

 

「…ああ、あともうちょっとだけ余韻に浸かってからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 南雲家の夕食は豪華だった。事前に行くことを伝えてあったのか、ハジメの母親が手料理によりをかけてコウスケの好物を作ってくれたのだ。

 

「うむ。このハンバーグめちゃ美味っ!」

 

「どんどん食べてねコウスケ君。ほらハジメも」

 

「はいはい。あ、父さんそこのケチャップとってよ」

 

「うん?どうぞ」

 

 南雲家の団欒を心行くまで楽しむコウスケ。その顔には涙の後は見られない。温かい食事の後ハジメは先に風呂へと向かった。コウスケは食器の後片付けを手伝おうとしたがやんわりと断られてしまう。仕方なしにハジメの部屋に向かおうとするコウスケにハジメの母親から声がかけられてきた 

 

「いつもありがとね、コウスケ君」

 

「?なにがですか」

 

「あの子と仲良くしてくれている事」

 

 礼を言われるようなことなのかと首をひねると、ほんの少し顔を陰らせてしまう。

 

「あの子…小さい時から友達が上手くできなくてね。コウスケ君と出会ってから笑顔が増えるようになって…だからありがとうコウスケ君あの子と一緒にいてくれて」

 

「…そうだったらいいんですけど」

 

「いいや、コウスケ君がいてくれたからだ。面倒を掛けるかもしれないけど今後ともうちの息子をよろしく頼むよ」

 

 ハジメの両親からの言葉にコウスケは曖昧な笑顔を浮かべる事しかできなかった。

 

 

 

 

 ハジメの部屋に付いたコウスケ。見回すとゲーム機や漫画がぎっしりと詰まっている正真正銘のオタク部屋だった。

 

「さってと…まずは」

 

 ハジメの部屋に入るなりすぐに机の上にあったパソコンを起動させる。出てきたデスクトップ画面に思わず吹いてしまう。

 

「んっん~セキュリティがガバガバだぞハジメちゃん☆」

 

 手慣れた動作でファイルを漁っていく。すぐにお目当てのものは見つかった。

 

「ほうほう中々のエロ画像の充実っぷり…男の子ですねぇ」

 

 隠してあったハジメ秘蔵のエロ画像を確認したコウスケはすべてをゴミ箱に送り消去してしまう。続いて行うのはインターネットからコウスケがハジメに日頃の感謝を込めて贈るものを探す事だった

 

「えっと、ストレート黒髪美少女モノっと…あったあった。ん~純愛モノをメインとして…」

 

 日頃の感謝を込めてコウスケはハジメに黒髪ストレートで天然美少女のエロ画像をダウンロードしていく。ハジメのパソコンはかなりの高性能で

瞬く間にダウンロードが完了していく

 

「へぇなかなかいいものを持ちで。ならジャンルを手広く増やすか。シチュエーションは悲恋やNTRモノは無しにして…逆レを基本としてにお薬モンに亀甲モンにヤンデレや一日ぶっ通しに時止め…場所は教室は当然として保健室、体育館倉庫に図書室。屋上は…あった。後は…野外とかラブホか?うーん自室にしておこう」

 

 むふふな画像を遠慮なくハジメの秘蔵フォルダにダウンロードをしていく。もしこれが見つかった時ハジメはどうするのだろうか。怒るのだろうか苦笑するのだろうか。どっちで構わないコウスケだった  

 

 

 

 

 

 

 

 ハジメが風呂から上がったので自分も風呂に入り上がったらあとはハジメの部屋で思う存分ゲームをするだけだった。

 

「うわっベルセルクだ!」

 

「そいつは俺が引き受ける!ドーンハンマーを探せ南雲!」

 

「あったよドーンハンマーが!」

 

「でかしたっ!」

 

 お気に入りのゲームをハジメと2人で遊ぶ。協力プレイで白熱するのは非常に楽しい。ゲーム画面で操作する筋肉ムキムキマッチョの漢達が遂に敵を打ちのめす。

 

「「いよっしゃクリアー!」」

 

 手をパチンと合わせステージをクリアしたコウスケとハジメ。時間を見るともう深夜の2時だった。フーっと息を吐いて伸びをする。流石に熱中しすぎたのか体からポキポキと小気味の良い音が鳴る。

 

「どうする?このまま続ける?」

 

「うーん。俺はちょっと疲れたからこの先は南雲一人で進んでくれ」

 

「りょうかーい」

 

 ベットに腰かけながらハジメが操作するゲームを眺めているコウスケ。画面ではムキムキマッチョがチェーンソーで敵をバラバラにしてた。その様子を見て次にゲーム画面を見るハジメを見てコウスケはそっと目をつぶった。

 

 楽しい時間だった。美しい時間だった。何よりも大切で…望んでいた世界だった。だがそれももう終わりだ。

 

「…チェーンソーのこうげき。かみはばらばらになった」

 

「なにそれ」

 

「いやいや自称神の糞エヒトもバラバラになるのかなって」

 

「エヒト?なにそ」

 

「…ありがとなリューティリス」

 

 名前を呼ぶと苦笑していたハジメがぴたりと動きを止めた。驚くように目を見開きコウスケを見る。その姿をほんの少し愉快に思いながらコウスケは続けた。幸せな夢、理想の世界を自分から否定する様に

 

「ずっと望んでいた世界だった。くだらないことでふざけ合う友人がいて、一人じゃない世界がほしかった。でも夢物語はもう終わりだ。さっさとここから出てアイツらに合わないと」

 

「…それは駄目だ。あの世界は苦悩と痛みに満ちている。君はここにいるべきだ」

 

「そうだな。アイツらと顔を見合わせたらまたずっと思い悩んでしまうかもな」

 

「だったら!」

 

「でも戻らなきゃ」

 

 追いすがる様なハジメ…を擬態した偽物の頭を撫でる。驚く偽物に精一杯の感謝を込めて笑いかけるコウスケ。

 

「アイツらには俺はもう必要無いのかもしれない。傍にいれば足を引っ張るかもしれない。邪魔なのかもしれない。でも最後まで一緒に居たい。…駄目かな?」

 

 困ったように笑えば、偽物は泣きそうな目で首を横に振った。

 

「…ここは理想の世界です。貴方は独りぼっちではありません。私がそばにいます…私は…貴方が不満を抱くこともない、ずっと一緒に笑っていられる…友達になれます」

 

「そりゃもう俺の都合のいい人形じゃんか。そんなもんはいらないよ …興味が無いかっていえばウソじゃ無いけど」

 

 本音を出しながら肩をすくめれば偽物…リューティリスは力なく俯いてしまった。辺りを見回せば部屋が白く霞んできている。理想世界の終わりが近い。どうすればこの世界から脱出できるものかと考えるとハジメの顔をしたリューティリスが力なく呟いた

 

「…やっぱり駄目ね。幸せな世界を作ってみたけど…受け入れてくれないのね」

 

「望めば望むほど俺の過去とは違いが出てきて辛くなるからな。一種の拷問って奴だな」

 

「はぁ…余計なおせっかいだったわ」

 

「俺が俺である以上、辛い過去を変えることはできないって奴だ。本当は逃げたかったんだけどなぁ…それよりもアイツらと会ったときどんな顔すればいいんだ。特に南雲」

 

 世界が漂白されながらも仲間たちの事で頭を悩ますコウスケにリューティリスは苦笑する 

 

「大丈夫でしょう。貴方が選んだ人たちだもの。きっと何とかなるわよ」

 

「雑!?」

 

 

 あんまりにも勝手な発言にあんぐりしながらコウスケは意識を手放していくのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい…貴方を巻き込んでしまって」

 

 

 

 

 

 




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