エスデス将軍帰還から二週間後ぐらいの頃、私は現在、お墓参りに来ていた。
あのあと任務中だったエスデス将軍の兵の中枢である三獣士たちが全員死んだのだ。
全く三獣士たちは結局、役に立たなかったな。私の仕事をリヴァはたまに手伝ってくれたけど夜食として持ってくる料理は激マズだったし、ニャウの部屋は女性の皮が飾ってあって薄気味悪いし、書類仕事を手伝わないし、同じくダイダラも書類仕事を手伝わないし、脳筋で私に何度も試合しようってうるさかったし三人とも嫌いだったから逆にいなくなって清々する……なんて言えたら楽だったのにな。
三人とも悪いところがあっても楽しい人たちだったから馬鹿みたいに思い出もあるしやっぱり辛い。
仲間の死は慣れない。それはエスデス将軍だってそうだ。切り替えてはいるが瞳に寂しさを滲み出ていた。
「リヴァ、ニャウ、ダイダラ、お前たちは負けた……。つまり、弱かったということ。仕方のない部下どもめ……仕方ないから私たちが敵をとってやろう」
「ええ、そのときまでゆっくり待っててくださいね」
そのしんみりとしてしまったお墓参りの帰り道、ふと隣を歩いていたエスデス将軍が言葉を繋いだ。
「そう言えば新しい帝具使いの部下は今日、到着か……」
「そうなっていますね」
「大臣曰く六人いるらしいが全員癖が強いか身分の低い者らしい……そこでだ、実力を図るデモンストレーションがしたい」
「はぁ……なんか嫌な予感がするんですが」
エスデス将軍が浮かべる獰猛な笑みを見て、私は長年の経験から冷や汗が流れる。
この人が私にこのような笑みをするときは大体ろくでもない事が起こるときである。
「フッ、お前には…………をしてもらう」
ほら、まためんどくさいことになった。
☆
帝都宮殿内にある塔のような建物に召集を受けた六人の帝具使いとエスデス将軍が集まっていた。
帝具使いの面々を紹介すると帝国焼却部隊の所属の覆面に拘束具を身に纏った内気の大男、ボルス。
帝国海軍所属の黒髪の青年、ウェイブ。
お菓子を食べている帝国暗殺部隊所属の肩にかからないくらいの黒髪に黒いセーラー服を着たマイペースな少女、クロメ。
帝都警備隊所属の両腕が機械化された緑色の髪をポニーテールにした女性、セリューと犬みたいな外見の生物型の帝具魔獣変化『ヘカトンケイル』。
眼鏡をかけ、白衣を着た科学者のオカマ、Dr.スタイリッシュ。
作っている笑顔がどこか胡散臭い金髪の美青年、ラン。
うん、本当に癖が強そうな同僚たちだなと隠れて見ていた私は思う。
それにしてもエスデス将軍が皆の実力を図りたいために私が仮面を着けて賊を演じて帝具使いの六人と戦うなんて正直帰りたい。
だが、帰ったら他の同僚たちに気づかれないようにずっとこちらを見ているエスデス将軍に捕まって拷問コース行き間違いなし……うん、やるしかないか。やるからにはマジで悪役になるからな。
私は手をOKマークにして準備OKの合図を送るとエスデス将軍は不敵な笑みを浮かべて、演技を開始した。
「どうやらここにネズミが一匹迷いこんでいるみたいだな。隠れてないで出てこい」
私はその声を聞いて仮面を着けてエスデス将軍達の前に現れる。
「フフッ、流石はエスデス将軍、私の気配に気づくとは流石帝国最強と呼ばれているだけありますね。でも、私の存在に気づけないとはそこにいる部下たちはまだまだ未熟者みたいですね。その程度の実力で帝都を警備するとは飛んだお笑い草ですよ」
「お前は何者…」
ウェイブが問いかけている間に私は彼の頭を掴んで地面に小さい穴が空くぐらいの威力で叩きつけて、口を押さえながらただただクスクスと笑い声をあげて答えてあげる。
「そう言って答える馬鹿はいませんよ。そんなことを聞くために口を動かしている暇があるのなら体を動かしたらどうですか?私を捕まえられれば幾らでも聞き出せますよ」
「フフッ、いい機会だ。アイツを捕まえてお前達の実力を私に見せてみろ」
「了解です。正義の鉄拳をくらえーっ!!」
物凄い形相になったセリューがコロと共に此方に向かって突っ込んでくるが私は軽くその機械化された腕から放たれる拳を避けて首に手刀を入れて気絶させる。
コロが巨大化して唸り声をあげるが私は気絶したセリューを人質として前に出して、無理矢理黙らせて彼女をコロの方に置いた。
「これで二人目ですね。人質をとる方法でも良かったんですけどそれじゃあまりにつまらな過ぎるのでそれはやめときます。あと、コロちゃんでしたっけ?そこを一歩でも動くと彼女の首が飛ぶことになるので注意してくださいね……っと」
不意を突いたクロメの刀が襲うが私はそれを難なく回避して、その回避した勢いを利用して回し蹴りを畳み込むが小柄な体に似合わず頑丈みたいで本気でないとは言え
うまく受け身をとって攻撃を防いだ。
「へぇーなかなかやりますね。でも、不意討ちはどうかと思いますよ」
「…先に不意討ちをして、人質をとろうとした奴に言われたくない」
「フフッ、確かにそれもそうですね。どちらかが死ぬか生き残るかわからない戦場にルールを求めること自体間違っていますしね。じゃあ、今度は此方から行きましょうか」
私は手負いのクロメに向かって剣を抜いて斬りかかるがクロメはそれを見事にいなしながら隙を伺っている。
やはり帝国暗殺部隊は暗殺以外も戦闘面で優秀だなと思っていると上空からエスデス将軍が無数の氷の刺を出現させて、此方に落としてきた。
「ちょっ……エスデス将軍!?」
数分無数の氷の刺を全部避けきった私は一回ため息をついた後で皆がいる前で演技とかもう関係なく、その氷の刺を降らしてきた張本人にぶちギレた。
「何でエスデス将軍、貴女まで参戦しているんですか!?そんなの聞いてないし、貴女が参戦したら実力を見る前に終わってしまうでしょ!!しかも、やるのならもっと手加減してくださいよ。危うく死んでましたよあれ!!」
「見ているだけでは暇だからな。遂攻撃してしまった。だが、私が参戦しないとは一言も言ってないだろう?それにミズチ、お前があの程度では死なないことはもうわかっている。死なないなら手加減はしているだろう?」
「いくら死なないとしても限度があるわ!!それに死なないとしても当たらなければだから!!当たったら普通に死ぬからぁ!!」
もう素が出て、完全に作っていたキャラが崩壊した私がエスデス将軍が親しそうに話しているのを見て事情を知らない周りの面々はポカーンとした表情を浮かべていた。
☆☆
「ごほん、エスデス将軍の命とは言え先程は皆さんを試すような真似をして申し訳ありません。私の名前はミズチ、この警備隊の副隊長になることになりました。どうぞ、よろしくお願いします」
「いえいえ、私たちのためにわざわざありがとうございます」
私が自己紹介するとセリューが丁寧に感謝を述べる。うん、基本セリューは良い人みたいだな。戦っている時の顔めちゃめちゃ怖かったけど。
「どうだ?私の自慢の部下は強かっただろう?」
「はい、俺なんてあっという間に倒されましたし」
「それはそうだ。ミズチはそこら辺の並大抵の将軍よりも強い。それこそ戦がつまらなくなるほどにな」
「そんなにお強いのに将軍にならないのですか?」
自慢そうに言うエスデス将軍にランが疑問そうに尋ねるが私はあっさりと『ええ』と肯定をする。
将軍になったら軍を新しく率いないといけなくなり、統率するのが大変だし、私は生まれつき転生したお陰か身体能力とかは優れていたけどリーダーとしての器ではないと言うことはハッキリと分かっている。何故なら……
「将軍になるとブラックになりそうで色々とダルいですし……まぁ、エスデス将軍から離れられると思うと全然ありですけど」
「何か言ったか?」
「いいえ、それよりスケジュール的にそろそろ陛下を謁見しに行かないといけない時間ですよ」
「い……いきなり陛下と!?」
「初日から随分飛ばしてるスケジュールですね」
私の声を聞いて周りは驚きを見せるがエスデス将軍の破天荒ぶりに慣れていない限り当たり前の反応だろう。
私も幼いときから色々と振り回されたものだ。二人で内緒に危険種を狩りに行こうとかね。あのときは危険種としては上から二番目に危険とされる特級危険種を狩って持ち帰ったけど『子供が何してんだ!?』っておじさんに二人で拳骨されたっけ。
うん、これから振り回されるであろう皆に同情するしかないな。