陛下との謁見が終わり私たちの警備隊の名前はイェーガーズと決まった。
某巨人の歌の歌詞に似てるなと思ったのは内緒である。あ、その某巨人の歌を内の警備隊の歌にしてしまえばと名案を思い付いたがイェーガーズのテーマ曲作ったとか言ったらなんか冷たい目で見られそうだからやめておこう。
「あ、ウェイブくん、ほうれん草は一番最後。すぐしなっとなっちゃうからね」
「あ、はい」
「ボルスさん、カタイシダイの解体終わりました」
「うん、ありがとうねミズチちゃん。それにしてもカタイシダイは鱗が硬くて捌くのが難しいとされている魚なのにすごいね」
「確かにすげぇや。俺の地元にもこんなに綺麗に捌ける人そういなかったぞ」
「まぁ、炊事は長年やってたからこれくらい当然ですよ」
現在、私とボルスさんとウェイブはウェイブが持ってきた海の幸を使って料理をしている。
一応、副隊長だけどフレンドリーにいきたい私は普段の口調で接してOKと言ってあるので皆普段の口調で接してくれている。うん、やっぱり堅苦しいよりはこっちのほうが楽で良い。
「じゃあ、カタイシダイの刺身出来たんで運びますね」
「うん、お願いね」
私は皆のもとにカタイシダイの刺身を持って行くとセリューがエスデスと談笑し、クロメは猫じゃらしみたいなものを持ってコロと遊んでおり、Dr.スタイリッシュは執事服に着替えたランに見とれていたりとそれぞれ楽しんでいた。
「隊長はご自分の時間をどう過ごされているんですか?」
「狩りや拷問、またはその研究だな。ただ今は……恋をしてみたいと思っている」
テーブルで広がるエスデス将軍の甘い話に思わず吹きそうになった。恋?あのエスデス将軍が恋だと!?ムリムリ、あんなドS姉の恋人は危険種としては最強ランクに位置付けられている超級危険種に決まっている。
でも、ここで笑ったら殺されると思った私は表情筋を固定して料理をランに渡して、難なくその場から立ち去った。
その後、調理場に戻った私はボルスさん、ウェイブに心配されるほど笑っていた……けれど今回はエスデス将軍は来ない。
ははは、後ろからエスデス将軍が来ると思ってた諸君に言っておく。いつも私がエスデス将軍にバレるわけがなかろう。フラグではないからなと思いつつ調理場に戻る。
「でも、なんか俺ボルスさんが優しい人で安心しましたよ」
「ううん、私…は優しくなんかないよ……」
急にトーンを変えて答えるボルスさんに私はまったくボルスさんほど優しい人そういないぞとため息を吐いた。
ボルスさんは確かに帝国焼却部隊、数々の罪人や伝染病にかかった村々を焼き払ってきたが、それは自分勝手に判断してやったことではなく、命令に従ってやったことだ。
普通の一般人なら命令に従っただけなので罪悪感すら抱かないのが普通だ。そうまるで私がさっき捌いたカタイシダイに罪悪感を感じないみたいに……だが、ボルスさんは罪悪感を抱いている。
その処刑した人々に申し訳ないと思っている時点でボルスさんは優しすぎるんだよね。
「はぁ、そんな気にしなくてもいいですよ。ボルスさんがしてるのは自己評価です。ですが、そんな自己評価が自分の価値を決めるわけではありません。エスデス将軍が帝国最強と認められ、呼ばれるようになったのと同じで自分の価値を決めるのは結局、他人なんですよ。だから、そんなに自分に負い目を感じる必要はありませんよ」
「そうですよ。ボルスさんが優しいのは俺たちが保証しますから」
「二人とも……ありがとう」
マスクで顔を隠されているがボルスさんの表情が少し和らいだように見えたのは恐らく気のせいではないだろう。
まったく私も優しいな……いや、優しいというよりそんな暗い感じで作ったら飯が不味くなるからという理由もあるわけだが、兎に角、元気になってもらえたらそれは何よりだ。
「じゃあ、残りの料理を仕上げちゃいましょうか」
私たちが作った料理でディナーを楽しみ終わり、片付けが終わった後会議でエスデス将軍から回収された帝具の適正を持つ人間を探すための武闘大会を行うと言われる。
武闘大会、それを聞いただけであの初めて武闘大会に出場した出来事を思い出す。
あれは現在からかなりの前の出来事、私がまだ武官になるってことすら考える前……私の故郷が北の異民族に襲われて壊滅し、たまたま生き残った私たちが狩猟生活で暮らしていた頃にエスデス将軍が賞金も出るそうだし、武闘大会に出てみないかと言われて賞金が出るならと武闘大会に出たのだった。
武闘大会に出るということは私たち以外にも強者が出場するということと少年バトルマンガ的な発想をして、相手が強かったらすぐに降参しようと考えていたが一回戦の相手を蹴り一発で瞬殺してしまい拍子抜けしてしまった。
しかも、この大会で一番の優勝候補をだ。私は楽そうで安堵していたんだが戦いを求めていたエスデス将軍はつまらなそうな表情をしていた。
だが、エスデス将軍の準決勝の相手のその頃の私と同じくらいの黒髪を結った女の子が強かった。強かったがすぐに降参してしまった。恐らく強かった故の降参であろうが私との決勝戦前にそれはやめてほしかった。なぜなら、めちゃめちゃ機嫌が悪くなっているから。
「ミヅチ、お前絶対に降参はするなよ」
「ハイハイ、降参はしませんよ」
石畳を敷き詰めたバトルフィールドで対面していた私は恐い顔をして言うエスデス将軍に私は苦笑を浮かべて答える。
だるかったがやらないとどうせこの武闘大会が終わった後にも続きだと言って勝負を仕掛けてくるだろうから仕方ないと思って闘いに挑んだ。
「はじめっ!!」
審判の声と共にエスデス将軍が急速で私に急接近し、ラッシュをかけるが私はそれをエスデス将軍の僅かな隙が見えるまでいなしていき、その僅かな隙を見つけた時に石畳をエスデス将軍に向けて蹴り飛ばした。
この大会では武器の利用は禁止されているが誰もフィールドを利用してはいけないとは言っていない。
蹴りによって細かく割れた瓦礫がエスデス将軍の元に飛散し、その隙をついて攻めに転じる。だが、エスデス将軍はそれでも楽しんでいるような笑みを浮かべながら私の攻撃を最小限の動きで回避して、間合いを取ってきた。
「石畳を飛道具にするとは流石だな」
「それを難なく防いだ姉さんが言いますか? まったくだから姉さんとは戦いたくないんですよ」
「私はお前と戦うことは好きだけどな」
そう軽口を叩きながら私とエスデス将軍との闘いを再開し、それから一時間以上経って流石に身も心も疲れた私はギブアップ宣言をして武闘大会はエスデス将軍の優勝で終わり、その夜、帝都の郊外にあるキャンプでエスデス将軍と共に夕食を作っていた。
「はぁ、疲れた」
「まったくあんなことで疲れるとはお前も情けないな。私はほとんど疲れてないぞ」
「はいはい、姉さんは人間型超級危険種だから疲れてないのは知ってましたよ。まったく危険種限定の武闘大会に出た方がいいんじゃないですか?」
普通に私は冗談で言うとエスデス将軍はふと考えて、それも面白そうだなと言っていたのを聞いて、マジかと若干引いてしまった私は悪くない。
「どうも」
そんなところに珍しく訪問者が現れた。キノコを持ったエスデス将軍と準決勝で闘った相手である黒髪の女の子が笑顔で訪ねてきたのであった。
「そうか……そういうことか。武闘大会という生易しい場所でなく夜の荒野でとことん戦いたいんだな」
「うーん、残念だけど違うわ。貴方と友達になりにきたの。一緒にお食事でもどう?」
「すぐに降参する奴を友とする気はないぞ」
「まぁ、そう言わないであげてもいいと思うんですけど」
「ミヅチは黙ってろ。これは私とアイツの問題だ」
「はいはい」
頑固なんだからとエスデス将軍の側にいた私は呆れ気味で耳だけ傾けながら料理を作っていくとドゴーンと破壊音が鳴り響き、何事だと思ってその音のした方を見るとあの黒髪の女の子が大岩を粉砕していた。
「私たちの年頃でここまでできる女の子ってそういないでしょ。話が合うと思わない」
「ちょっと料理の前で……」
私が最後まで言う前にエスデス将軍が立ちあがり、声をあげて自身の背丈の七、八倍ありそうな大岩を飛び蹴りで粉砕した。
「どうだ、私の方がすごいだろ」
「そうね、流石だわ」
「……戦闘意欲を削ぐ奴だな。岩を壊したくらいで強さは計れないとか乗ってこいよ」
「あの~姉さん」
その時、私はどういう顔をしていたのだろうか。笑顔を作ってたと思うが料理の前に土煙を起こした張本人に包丁を持ってぶちギレていた。
「料理の前で土煙を起こすって私はおかしいと思うんですよね~。なんか言い訳でもありますか?」
「私はただアイツに自分の力を示しただけだ。何を謝る必要があるんだ?」
「お姉ちゃん、今日のご飯抜きでもいいのかな?」
「ほう、やれるものならやってみろ」
「ええ、言われなくてもやってやりますよ」
その言葉によって第二ラウンドが始まり、それが収まるまで女の子は私たちの試合を楽しそうに眺めていた。結果として今度勝ったのは包丁を武器として持っていた私であり、謝らせて勝者の私の意向によってこの女の子と一緒にご飯を食べるということで纏まった。彼女が持ってきた選り取り見取りのキノコを使い、今回の夕食はキノコをメインとした鍋が出来上がった。
グツグツと温かくて美味しそうなキノコ鍋を三人で囲んで食べながら色々と談笑していた。
「そっちは狩猟民族、こっちは殺し屋か。なるほど、その強さ納得だわ」
「あー通りであそこまで強かったのですか。それじゃああのギブアップも納得ですね」
殺し屋とは隠密に人を殺す稼業、要するに目立たなく、無駄な争いを避けて、依頼をこなす必要がある。
あのギブアップもそのような稼業に通ずる思考によってしたものなのであろう。
「私は納得していない。だが、正体を明かした上で持ち込みのキノコを進めるあたりいい度胸している」
「変な細工はしてないわよ。まず、私が食べて見せたでしょ」
「まぁな、私たちは食えないものは匂いや一口目で分かる」
「それにしても今まで食べたことのないような味だけど美味しいわねこの鍋」
「狩猟生活だと毎日ありきたりな食事になって飽きてしまう可能性もありますしね。色々と私たちで意見だしあって工夫しているんですよ」
「ふーん、二人とも仲がいいのね。羨ましいわ」
女の子は羨ましそうな表情を浮かべるがこの戦闘狂姉と一緒にいることは思ったより大変なんだぞ。ドSだし、頑固だし、戦闘狂だしね。でも、嫌いとは思えないんだよね。なんだかんだでこの姉は私を大事にしてくれてるから。
「それでお前はこのあとどう生きるつもりなんだ?」
「稼業を継ぐわ。私暗殺が結構好きだもの」
「そうか、兎に角、私は命のやり取りができる場所がいいな。仕官を持ち掛けられた。確かに狩り場を変えるのも悪くないと思う」
黒髪の少女とエスデス将軍物騒過ぎるだろと一般人的感性を持っている私からしたらかなり引いていた。あ、二人が私のことをじっと見てくる。これは私も言えということなんだろう。まぁ、減るものではないしそんなことしなくても普通に言ったのだが。
「私は兎に角、楽でお金を稼げる仕事に就きたいですね。だから、姉さんの言うように仕官することも悪くないと思っています」
まだ、ブラックだとは知らなかった私は二人にそんなことを言うが、そんな過去の私に溜め息が出そうになってくる。まぁ、それを聞いた少女は妖艶な笑みを浮かべた。
「素敵ね。でも、ついてきてくれる恋人はいるのかしら?」
「いない、そんなものまったく興味ない」
「へぇ、じゃあ、貴女は?」
本当に興味なさそうに答えるエスデス将軍から今度は私に尋ねてくる。エスデス将軍と同じで興味のない私は適当に答えた。
「私ですか?あいにく私も特にはないですね。まぁ、まだ素敵な人に会ってないからでしょうか?」
「へぇ、じゃあ、私がその素敵な人にになってあげようか?」
「え?」
黒髪の女の子がそう言ったかと思うと私の唇に彼女の唇が合わさった。しかも、これは所謂恋人同士がやるようなディープキスであり、思わず動揺してしまった私はそのまま動けないでいるとキレたエスデスの包丁を彼女に向けて突きだした。
「貴様何をしている!?」
「あら、お義姉さんからの邪魔が入ってしまったわね。それじゃあまた会いましょう」
だが、それは髪を掠めるに留まり名残惜しそうな表情を浮かべながら黒髪の女の子はそのまま逃げ去っていった。そのあと、私はエスデス将軍から警戒を怠ったとして大説教という本気でエスデス将軍と闘うわ、ファーストキスを奪われ、説教されるわとかなりの厄日になってしまった。思い出すだけで疲れがどっと込み上げてきた。そう言えば彼女も暗殺者をしていると言っていたがまだ生きているのだろうか。それとも死んでいるのだろうか。いや、こんなこと考えるだけ無駄なことだなとエスデス将軍の話に再び耳を傾けるのであった。