・専用機持ち7人が集まって、いっくんシミュレータで遊び始めた
・始まっていきなり箒ENDになった
・箒が泣いた
箒と楯無が戻っていざ再開ということで、シャルロットとラウラの部屋に7人が集って輪を作りシミュレータを起動する。
一夏が箒を見てどうしたかというところからだったが、箒が【何もしない】ことを提示すると、箒の知っている展開が繰り広げられ、先に進んだ。
「あれ? なんかさっきと全然違う。つまらないし」
「これはこれで一夏っぽいね」
「やはりさっぱりわからん。なぜ箒はこんなにも一夏を睨みつけているのだ? まさか私と同じだったのか?」
「ラウラちゃんと箒ちゃんじゃ同じ行動でも内心は真逆な気がするわね」
「真逆? するとこの箒は一夏が好きなのか?」
「はいはい。わからなくてもいいから黙って続きを見ようね」
ラウラが箒の様子に首を傾げている間に映像の方は授業へとシフトする。今は教壇に立つ山田先生が教科書を読み上げているところだ。
「やっぱり山田先生って授業の時は先生って感じがするね」
「でもボロが出るのは一瞬だけど」
鈴の指摘はこの後すぐに現れる。教科書をパラパラめくったり、周囲をキョロキョロしている一夏の異変に山田先生が気づいた。
『わからないところがあったら聞いてくださいね』
『ほとんど全部わかりません!』
『え? 全部……ですか……?』
困ってる。誰の目から見ても困ってる。それもそのはずで今はISの基本となるPICやハイパーセンサーなどの専門用語の確認のようなものだった。ここがわからないとそもそもISとは何かがわかっていないことになる。
止まってしまった授業をどうにかするため、ついに例のあの人が動き始めた。
『織斑、入学前に渡された参考書に目を通したのか?』
一夏の傍まで織斑先生がやってきた。さて、どう答えるか――
「よっしゃ、来たっ!」
「すごく楽しそうだね、鈴」
「シャルロットちゃんは楽しくないの?」
「会長は面白ければなんでも良さそうですよね」
「そうよ」
「やっぱり否定しないんだ……」
選択肢が出揃う。
【読んでもわからなかったんです!】
【読んでません!】
【俺ならぶっつけ本番で大丈夫だ。そう思っていた時期もありました】
【そのときたまたまトイレットペーパーを切らしてしまっていて……】
【中学時代の思い出と間違えて捨てました】
【参考書を読むよりも、撮り溜めしていたアニメを全て見ることを優先しました。後悔はしていません】
【ベッドの下に隠していたのですが、身内の誰かに捨てられてしまったみたいです】
真っ先に声を上げたのは鈴だった。
「中学時代の思い出と間違えて、ってなんで一夏がそんなもん捨てようとしてんのよ!」
「鈴に喧嘩を売ってる……のかも。私じゃないけど……」
「いったい誰が……くっ、匿名なのがここに来て効いてきてるわね」
「全体的に織斑先生に喧嘩を売ってる内容だな。皆は一夏を死なせたいのか? 特に最後の」
「思ったより、言い訳よりも開き直りに傾いてるわね」
「楯無さん……あなたのは言い訳にみせかけた開き直りでいて、かつ織斑先生に責任を押しつけようとする最低な選択肢ですよ」
まともな選択肢はほとんどない。状況的に一夏が完全に不利な中、一夏が選んだ答えは――
『俺ならぶっつけ本番で大丈夫だ。そう思っていた時期もありました』
教室中にスパァンという音が響いた後、一夏は頭を押さえて机に伏す。
『後悔するくらいならば最初から真面目にやっておけ。1週間以内に目を通せ。いいな?』
『はい……』
『織斑くん、私が放課後に教えてあげますから、頑張りましょうね!』
『はい、放課後によろしくお願いします』
一夏が山田先生の補習の提案を受け入れると、山田先生は唐突に頬を赤らめた。
『放課後……ふたりきり……ダメですよ、織斑くん! 先生、強引にされると弱いんですから……それに、私、男の人は初めてで……』
一夏の前で妄想を垂れ流し始める教師を、映像の中と外の全ての生徒が冷めた目で見つめていた。
「これさえ無ければ尊敬できる人なのだがな」
「うーん……悪い人じゃないんだけどね」
「悪いムシだけど……って本音が漏れてるわよ、シャルロット」
「そんなこと思ってないよ!? 勝手に捏造しないでよ、鈴!」
授業が終わる。すると箒以外に一夏に近づこうとするものが現れた。見るからにいいとこのお嬢様であるセシリアだ。
「いよいよわたくしの出番ですわね」
「セシリア……私が思い出せる内容はあまり良いものではなかったと思うぞ?」
過去の自分の登場にテンションを上げるセシリアだったが、当時のやりとりを知っている箒だけはこのテンションが急激に落ちることを予見していた。
一夏に近づいたセシリアの第一声が響く。
『ちょっとよろしくて?』
『へ?』
ただの一言で一夏は身構えた。いや、声色だけが理由ではない。話しかけてきた少女の目はつり上がっていてどう考えても友好的ではないからだ。
そんな映像内のセシリアを見ている観察側のセシリアはキョトンとする。
「これが……わたくし、ですか?」
「そうだ」
「わたくし自身、変わったとは思っていましたが……最初は一夏さんにこんな態度をとっていましたのね」
箒の肯定にセシリアは凹んだ。箒の予想通りの反応だった。
映像内でセシリアが話しかけたところで映像が止まる。予想通り選択肢が来ると全員が考え込んでいると、シミュレータは違う反応を見せていた。具体的には、あのシステムボイスが再生された。
『皆さんが選択肢を考えているところ失礼いたします。システムボイスを担当するしーちゃんです。ちなみに束さまの命名です』
「アンタのことはどうでもいいから何か説明があるならさっさとしなさい」
もう割って入らないと言っていたシステムボイスさんが突然自己紹介を始めていたがどうでも良かった。鈴が皆を代表して先を促すことでシステムボイスは説明を開始する。
『今回お邪魔した理由は事前に説明を入れた方が良いと判断したからです。今、織斑一夏はセシリア・オルコットに話しかけられています。このまま1対1の会話が繰り広げられることになりますが……このような場合では“織斑一夏が発言をする度に選択肢を提示し、最終的な結果を導いていただきます”』
「つまり、ひとつだけで終わりではなく、連続で何度も選択肢を提示することになるわけね?」
『その通りです、更識楯無。テンポの関係上、制限時間も短いので注意してください。それでは始めます』
システムボイスの時間が終了。ここからは先ほどの続きとなる。まともに返事をしない一夏に対してセシリアは続ける。
『聞いてます? お返事は?』
『あ、ああ。で、どういった用件だ?』
『まあ、なんですの、その態度! わたくしに話しかけられることがどれほど光栄なことか理解してのことでしょうね?』
箒以外の観察者たちが一斉にセシリアを見る。すると彼女は両手で顔を覆い隠した。
「穴があったら入りたいですわ……」
「うわー……ラウラも大概にしろと思ってたけど、セシリアも中々だったのね」
「ラウラが初対面でビンタ。セシリアがこれ。鈴が初対面で顔面グーパンチだったよね?」
「なんでシャルロットがそれを知ってるのよ!?」
「いや、一夏から相談された悩みのひとつに『仲良くなる女子との初対面は喧嘩から始まるのが多い』っていうのがあったんだけど、そのときの具体例として出てきたのが鈴だったんだ」
「くっ! 仲良くなる女子の具体例があたしなのを喜ぶべきか、陰口されたのを怒るべきか、反応に困ることしてんじゃないわよ!」
「僕に言われても……」
「ところで映像が止まってるのだが、選択肢は考えているのか?」
「あ――」
選択肢が出揃う。ここから会話終了まで選択肢、一夏の答え、相手の反応、選択肢のループで繰り返される。
【『俺、君が誰か知らないし』】
【『喧嘩を売ってるんだよな?』と睨み返す】
【『これは失礼しました、お嬢様』と言いながら彼女に跪き、右手の甲に口づけをする】
【『すまない。自分のことで手一杯で自己紹介を聞いてなかったんだ。もう一度頼む』】
【関わっちゃいけない類の人だ、と無視を決め込む】
【とりあえず『おっぱい!』と叫んでみる】
【光栄さを表現するためにトリプルアクセルジャンプを決める】
『おっぱい!』
『な――!? いきなりなんですの!?』
セシリアが胸を両手で隠しながら後ずさる。
【『ご、ごめん! なんでもないんだ。で、何の話だっけ?』】
【『――の何がいいのか俺にはわからないんだよな』】
【沈黙を答えとする】
【『様式美というものだ。気にするな』】
【『すみません。俺の正直さが言葉に出てしまいました。できれば忘れてください』】
【『中学時代の友人の弾って奴がIS学園で会った女性にはこう言えって』】
【『俺にとってそれは女性の象徴。こんな美しいおっぱいに話しかけられるなんて光栄の極みでございます』】
『俺にとってそれは女性の象徴。こんな美しいおっぱいに話しかけられるなんて光栄の極みでございます』
『あなたっ! 本気でおっしゃってますの!? このわたくしを! セシリア・オルコットを体の一部分のみで語るというのですかっ!』
【『いや、そういうわけじゃない!』】
【『今はまだ。他のことはこれから知っていくよ。よろしくな』】
【『セシリア・オルコットさん、ね。俺は織斑一夏だ』】
【『女性は胸だけじゃない。それもそうだな。俺が間違ってた』】
【【提示拒否】(もうやだ、これ)】
【『大きすぎず、小さすぎず。それでいて引きつけてやまない。悪いが俺は前言を撤回するつもりはない』】
【『確かに胸だけというのは失礼だった。君はお尻も素晴らしい』】
『確かに胸だけというのは失礼だった。君はお尻も素晴らしい』
『信じられない。信じられませんわ……』
セシリアは頭を抱えながらブツブツと独り言を続ける。
『男性とは愚かな生き物だと思っていましたがここまでだとは思っていませんでしたわ。初対面の女性に対して礼節のひとつも弁えていないばかりかセクシャルハラスメントだなどと……』
一夏はセシリアの独り言が聞き取れなかった。
『ところで何か用があったんじゃないの?』
『わたくしは認めません! あなたのような人がこのIS学園にいるだなどと断じて認めませんわ!』
セシリアは一方的に言ってのけると一夏の傍から去っていった……。
「ごめん、一時停止して」
鈴がシミュレータの停止を要求すると映像が止まった。突然のことであったのに、他の誰も鈴を咎めようとする者はいなかった。鈴は全員の顔を見回した後で視線を楯無に固定する。
「会長……この状況、なんなんですか?」
「待って、鈴ちゃん。どうして私だけに聞くの?」
「いや、どう考えても会長が原因でしょ。シミュレータの一夏のせいとも言えるけど、選択肢を出さないとああはならないし」
「段々とセクハラ前提になってたから簪が顔真っ赤にして倒れそうなんだけど……」
「そういえばさっき【提示拒否】というものが混ざっていたな」
「だい……じょうぶ…………大丈夫、だから……」
簪は誰の目から見ても無理をしていた。
その簪の様子を見て楯無が弁解を始める。
「ひとつだけ言わせて! 始めたのは私じゃない!」
「会長……残念ですが、弁解しても聞き入れられないと思いますの」
「セシリアちゃん!? それさっき(『01 幼なじみとの再会』参照)私が言ったことよね!? まさか私を隠れ蓑にして遊んでる輩が紛れ込んでいる……?」
「ところで妙な事態になった現状はどうする? 途中からやり直すのか?」
箒が方向修正の舵取りをしようとしたのだが、すぐにしーちゃん(システムボイス)から返事が来る。
『何かしらの結末を迎えるまではやり直しはダメだそうです』
今回は楯無も含めて重いため息をついた。約1名を除いて、だが。
「ようし、じゃあさっさと続きを始めよう」
「あれ? 箒ってば、いつの間にそんなやる気出してんの?」
「私はいつもどおりだぞ? 少しだけ前向きになっただけだ。やり直すにしても先に進めなければ始まらん」
「それもそうだな。これより先は全員、下ネタを控えるように!」
「ラウラちゃん? どうして私だけ睨むのかな?」
「自業自得だよ、お姉ちゃん……」
ラウラが“下ネタ”などという単語を出してまで全員に念を押した。もちろん誰からも反論は出ていない(従うとは言ってない)。
映像が再開。織斑一夏とセシリア・オルコットが初めて顔を合わせた休み時間直後の授業が始まる。担任の織斑先生によるISの各種装備についての座学の時間なのだが、その前にやることがあると告げた。
『再来週に行われるクラス代表戦に出場する代表を決めなくてはいけないな』
「クラス代表かぁ……そういえばあたし、後から来て無理矢理2組のクラス代表になったんだっけ。今思うと悪いことしたかな?」
「代表候補生かつ専用機持ちの立場を利用してクラス代表の座を強奪するとは……こういうのをゲスと呼ぶのだったか?」
「何ですってぇ! アンタに言われたくないわよ!」
クラス代表という単語から4月頃の記憶を思い出している鈴にラウラがちょっかいをかける。鈴の頭は簡単にヒートアップしてしまった。
「静かになさい。今更どっちの胸が大きいかとかどうでもいいから」
「何が“どんぐりの背比べ”よ!」
「鈴……言ってて虚しくならないの? 私が言えることじゃないけど……」
「うぅ……いいもん。一夏は脂肪の固まりよりも中身を見てくれるもん」
楯無が仲裁(?)に入り、簪のフォロー(?)が入ることで鈴は大人しくなる。というよりもめげてしまった。一同はそんな鈴を置いといて映像に目を移す。ちなみに下ネタを控えろというラウラの言葉はすでに守られていないのだが、その事実にラウラは気づいていない。
映像は一夏が推薦されたところまで進んでいた。他には誰も推薦されず、一夏がクラス代表となるという空気が出来上がりつつあった。
『待ってください!』
ただひとり、待ったをかける生徒がいた。セシリア・オルコットである。
『わたくしは認めません! このような男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!』
このセシリアの言葉を聞いて箒は思う。
「現実のセシリアと全く同じことを言っているのに、このセシリアの言葉にはかなり共感できるな。ここまでは、だが」
「実際はどんな感じだったの?」
「それは――」
「箒さん!? もうそれ以上はおっしゃらないでくださいませ! わたくしが悪かったのです……」
映像の中のセシリアは、いかに一夏が代表として相応しくないかを列挙し始めた。セクハラの事実が発覚する度に織斑先生の出席簿が一夏に振り下ろされる。一夏個人の悪印象が強すぎたため、セシリアの悪態は国の罵倒にまでは発展しなかった。このやりとりを見ていた外のセシリアは胸をなで下ろす。
『――以上ですわ。そもそもクラス代表は実力で選ぶべき。わたくしのことも知らない世間知らずでは勝負にすらならないでしょうね』
言われ放題である。ここまで言われて一夏は――
「選択肢の時間かー。でも、なんだろ? もう皆が何を考えてるのかあたしにはわかんなくなってきてるわ」
「安心しろ、鈴。私も同感だ」
「箒ちゃん? そう言いながら、妙ににやけてるのはどうしてなの?」
選択肢が提示される。
【『じゃあ、俺の強さをお前に見せてやるよ。特等席でな』】
【『お前の言い分だと、人の欠点を並べ立てるだけの人間も代表に相応しいのかが疑問だな』】
【『男とか女とか細かい奴だな。女は強いと思ってる癖にいざとなったらセクハラだって? やり口が陰湿で女々しい。まあ、女だからしょうがないか』】
【『能ある鷹は爪を隠す。俺は実力なんて少しも見せてないのに、何を根拠に言ってるんだ?』】
【『ではその実力とやら、実戦で示して見せてくれよ』】
【『じゃあ、アンタが代表になればいい。俺は興味ないから』】
【『男の子なめんなよ! 決闘だ!』】
『じゃあ、俺の強さをお前に見せてやるよ。特等席でな』
『な……何を言っているのかわかっていますの? このわたくしにISで決闘を申し込むと?』
『そのつもりで言った。さっきは俺の方が悪かったのは認めるが、だからといってお前が俺を罵倒していいことにはならない。もう皆の投票なんかじゃどっちも納まりがつかないだろ?』
『話はまとまったな。1週間後の月曜の放課後、第3アリーナにて織斑とオルコットの試合を行う。各自、必要な用意をしておくように』
そうして一夏とセシリアの決闘で決めるという形でまとまった。
「ふむ。現実で全く同じだったかは不明だが、悪い意味で代表候補生とは思えない腕前でここまで吠えることができるとは、私は驚きを隠せない」
「ラウラ。それってセシリアに言ってるの?」
「そうだが?」
「ひとりずつ籠絡してくんじゃなかったの?」
「……忘れていた。セシリア、今の発言はなかったことにしてくれ」
「それが許されるなら、わたくしがそうしたいですわあああ!」
セシリアの叫びが虚しく室内に響いた。
場面が切り替わる。山田先生から寮の部屋の鍵を受け取った一夏は鍵に書かれている番号の部屋の前にまできた。
『1025室……で合ってるな』
ドアに書かれている番号と一致していることを確認した一夏はドアノブに手をかける。鍵はかかっていなかった。事前に一夏の荷物を運び込ませたと聞いていたので閉め忘れなのだろうと一夏は軽く流す。この部屋が自分の住む場所になるのかと内装の豪華さに見とれているときだった。
『誰かいるのか?』
ドアは閉じているのにハッキリと誰かの声が聞こえてきた。一夏の目につくところに人影はない。一夏から見えない場所と言えばベッドの下かクローゼットの中か、もしくはシャワー室の中くらいだった。
『同室のものか。すまないな、シャワーを浴びていた』
髪を拭きながら出てきた人物は、篠ノ之箒だった。
「ねえ、箒? これって知っててやってたとかないでしょうね?」
「私がそのような破廉恥な真似をするはずがないだろう! ……ちょっと待て。なぜ皆一様に怪訝そうな顔をする?」
「だって普通に考えて箒に知らされてないとか考えにくいじゃん?」
「……鈴の言いたいこともわかるが私は本当に知らなかった。いや、そもそも私は何も知らされずにIS学園に連れてこられたのだったな」
シーンと静まりかえる。そうなってから箒が慌てて付け足した。
「いや、別に不満があるわけじゃないぞ? 却って良い結果になったというものだ! 皆に会えたのだしな!」
「何より、一夏くんと再会できたもんねぇ」
「ええ、まあ……」
楯無は意地悪を言ったつもりだったのだが、箒は顔を赤くして肯定する。箒に限らず、誰か一人でも一夏の前で素直になれていたら、きっとこの会も開かれていなかったのだろうが……彼の前ではこの素直な想いが表に出せない娘ばかりだった。
箒が目を逸らしていた間に映像の方は一夏と箒のやりとりを終えてしまっていた。こういった状況では珍しく選択肢の提示がなかったらしい。
「む、いつの間にか終わってしまったか。まあ、私の知っていることばかり起きたのだろう」
「まさか初日の夜からあんな激しいことをしていたなんて、あたしも考えつかなかったわ」
「わたくしとの決闘の前。裏ではこのようなことが起きていましたのね」
「待て。一体何が映っていた?」
「言葉にするのを……躊躇う」
「僕ならもっと優しくできる自信があるよ」
「実に鮮やかな技だった」
「一夏くんも昇天間違いなしだったわよね」
「私は何をしたんだあああ!」
何か結末を迎えるまで、やり直しはできない。
つまり、過ぎてしまった事柄を確認することもできない。
※詳しくは原作を読んでね!
決闘の日。先生2人に連れられて一夏はIS学園第3アリーナAピットへとやってきた。搬入口を封鎖している防壁の扉が斜めにずれていき、奥に見える“白”が姿を現す。このときより一夏の専用機となる白式だった。
「これのせいで……弐式が放置……」
「簪ちゃん? 怖い顔してるけど、まだ気にしてたの!?」
「大丈夫……結果オーライ……」
「簪じゃないけど、こういうのを見せられると複雑な気分よね。あたしらが専用機を手にするまでの苦労を思うとさ」
「そうですわね。誰よりも優秀でなければなりませんでした」
「教官に出会わなければ、今の私はなかった」
「私の場合は諸事情でロシアだからまた大変だったわ」
「僕は代表候補生しながらも男性になりきるための訓練してたっけ……どうしたの、箒? 顔色が悪いよ?」
「気にするな、シャルロット…………気にするな、私!」
箒は声に出して自分に言い聞かせた。自分が専用機を手にした経緯は一夏よりも誇れないものだったがもう昔のままの自分ではないのだと。
話が脱線しているうちにシミュレータの方は一夏とセシリアが対峙する場面にきている。
『最後のチャンスを上げますわ。今、謝るのなら許して差し上げます。あなたもクラスの皆さんに無様な姿を見せたくはないでしょう?』
『それはチャンスって言わないな。戦わずに負けを認める方がずっと惨めだ』
『そうですか。では――』
セシリアがスターライトmkⅢを向ける。
――映像が停止した。
「全然選択肢来ないなと思ってたけど、まさか戦闘で来るなんて」
「素人相手に開幕直後の先制攻撃だなんて大人げないわよ、セシリア」
「獅子はウサギを狩るのにも全力を尽くすものですわ」
「ほう? 私がライオン程度に狩られるとでも?」
「はいはい。ラウラが自分に重ねちゃうぐらいウサギさん大好きなのはわかったから、喧嘩はやめようね」
選択肢が出揃う。
【急いで上に飛ぶ】
【様子見を兼ねて後方に下がる】
【右斜め下前方へと落ちるように移動する】
【左腕の装甲でビームを受ける】
【ビームを刀でズバッと斬る】
【マ○リックスの再現を試みる】
【イナバウアーでビームを避けながら接近する】
「皆、普段は何を考えて戦ってるんだろう? 僕には理解できないよ」
「シャルロット、落ち着け。明らかに変なのは3つだけだ」
「3つ? 2つではないのか?」
「箒の中ではビームは刀で斬れるものなのね……」
「違うのか?」
「…………」
一夏は不意打ち気味のセシリアの攻撃を読んでいた。まともにISを動かしたこともない一夏はまだ飛ぶ感覚を知らない。すぐに移動するために彼が選んだのは“落ちる”ことだった。
『今のを避けましたの?』
ただ落ちるだけでなく、少しずつだがセシリアに近づいている。思ったよりも難しくない、と感覚を得た一夏は飛び方を覚え始めた。
『俺の武器は……刀? これだけかっ!』
飛び道具を持った相手に刀一振りのみで相手をしなければならない。どのようにして戦うべきか?
【刀でズガッと突撃して、ババッと斬り捨てる】
【BTによる包囲射撃は視覚となりやすい真後ろや真上、真下などからの攻撃が本命であるため、自分の体勢自体を45度を目安に随時変えながら――(以下略)】
【自分の感覚を信じる】
【セシリアの集中力が削がれるまで回避に専念する】
【いつでも近寄れるというプレッシャーを与えつつも回避を優先する】
【ファーストシフトが完了するまで回避専念】
【ファーストシフトが完了する前に決着をつけようと根性で頑張る】
「あ、そういえばファーストシフト済んでないじゃん」
「見ればわかるものだ。まだまだ甘いな、鈴」
「アンタに言われたくないわよ、箒! アンタ、刀があればなんでもできるとか思ってない?」
「違うのか?」
箒は首を傾げる。
「そこ、不思議そうにしない! もしそうならアンタに勝てる奴なんていないわよ!」
「私はまだ未熟なだけだ。だが真の達人は――」
「たぶんその真の達人とやらは箒の心の中にだけいるのよ……」
鈴は疲れてしまった。
決闘は終始セシリアリードのまま続いていた。かれこれ30分弱、一夏がセシリアの攻撃を避ける場面が続く。
「結局回避専念を選んだわけか。私はこの試合の結果を知らないのだが、どうなるんだ?」
ラウラの質問には箒が答えた。
「一夏がBTビットを次々と落としてセシリアに近づき、セシリアが至近距離で隠し玉のミサイル型BTを発射する。そこでファーストシフトが完了して零落白夜が発動。一夏が攻撃しにいくも零落白夜によって一夏が自滅して負け。そんな流れだ」
試合に動きが見られた。箒の言うように一夏はBTビットの弱点を見抜いて落とし始め、セシリアに接近したところでミサイルを直撃させられる。煙の中から姿を現した白式はファーストシフトを終えていた。
「箒の言ったとおりになったわね。じゃあこのまま一夏が自滅……ってちょっと待って。本当にそうなるの?」
「ならないだろうな。セシリアの開幕先制攻撃も含めて攻撃を避けることができているから、この一夏はエネルギーを温存できている」
鈴とラウラの分析を聞きながら箒は楯無の言葉を思い出していた。
強制的に選択を迫るこのシミュレータでは一夏の根本にある物事を決められない弱さがなくなっている。
避ける、時間を稼ぐという方針を示されたことで、現実にはなかった可能性が生まれていた。セシリアへの攻撃が成立する直前までしか保たなかったエネルギーが少し多いだけで――
一夏の攻撃はセシリアに届いてしまうのだ。
「あ、当たった」
「勝負あり……だな」
一夏が間合いに入ってから決着がつくまでは一瞬だった。
『試合終了。勝者、織斑一夏』
「うわぁ、セシリア負けちゃってるじゃん」
「この時点でのわたくしの未熟さは百も承知ですわ。事実、一夏さんには最後に自滅されたのでわたくしも勝った気などしませんでしたし」
「鈴ちゃん。あまり人をイジってると後でしっぺ返しくらうわよ?」
「あたしは大丈夫。……だと思いたい。いやでもやっぱり何かマズいことしたような気も……」
鈴が自らの行いを思いだそうと頭を捻らせているのをセシリアは黙って見つめていた。
負け。今でこそ数多くの模擬戦を仲間たちと行い、戦績の悪いセシリアは数多くの敗北を重ねてきた。負けても得られるものはあり、それを含めて今の自分がある。今の自分ならば敗北をも糧とすることができる。
だがこのときの自分はどうだろうか。自分の中で勝ち負けのハッキリしなかったあの結末でなければ、織斑一夏個人のことよりも敗北ばかりに目がいっていただろう。そして、それはセシリア個人だけの問題でもなかったはずだ。
シミュレータが続きを映す。
翌日の朝のSHR(ショートホームルーム)。
山田先生からクラス代表が一夏に決まったことを報告する場に、セシリアの姿がなかった。
「セシリアがいないな」
「あれだけの啖呵切っておいての惨敗だから病んじゃったとか?」
「鈴! 思っても言っちゃダメだよ!」
ショックで塞ぎ込んだという鈴の予想の言葉は、映像を眺めているセシリアの耳に入ってもまるで他人事だった。
『あのー! 辞退したいんですが!』
『ダメです。試合をして勝った方が代表になるという約束でしたよね?』
一夏が代表を辞退しようとするも山田先生にきっぱりと断られる。一夏は面倒事を押しつけられるのをため息とともに受け入れた後で、後ろの席を見た。
『ところで、セシリアはどうしたんですか?』
『私は何も聞いてませんけど』
『そうですか……』
セシリアの欠席理由を誰も把握していなかった。
「こういうとき実際に山田先生に連絡がいってないなんてことあるのかな? 寮担当の先生って織斑先生のはずだし」
「まぁ、山田先生は知ってて一夏くんに隠してるでしょうね」
シャルロットの疑問に答えた楯無は意味ありげに目を伏せた。このやりとりを見ていた鈴が何かに気づき「あっ」と口を開けていた。
『あ、あれは!』
その日の放課後、一夏は廊下でセシリアの姿を見つけた。
映像が停止する。
「手続き後、といったところでしょうか……」
「手続き? いったい何の手続きだ?」
「箒さんにはわからないことだと思いますわ」
選択肢が提示される。
【セシリアに声をかける】×7
全員が一致していた。
『セシリア!』
『織斑さん……』
一夏が呼びかけるとセシリアは一応返事をした。繰り返すが“一応”である。初対面のときにあった棘がなくなっただけでなく、覇気もなくなってしまっていた。
『どうしたんだ? 体調が悪いのか?』
『そうではありませんわ……』
『じゃあどうして休んだんだ?』
『織斑さんには関係のないことですわ』
『そんなことない。セシリアのせいで俺がクラス代表にされちまったからな。クラスメイトを気にかける義務と権利が俺にはあるんだよ』
『だとするならば尚更、わたくしのことは織斑さんには関係ないですわね……』
『え?』
『わたくしはIS学園を去ります。短い間でしたがお世話になりましたわ』
セシリアが丁寧なお辞儀をしてみせる。それには決闘に至るまでの罵倒に対する謝罪の意味も込められていた。突然のことに一夏はまるで反応できない。
『では、ごきげんよう』
セシリアは一夏に微笑みを向ける。学園生活が始まって日が浅いため当然かもしれないが、一夏が初めて見るセシリアの顔だった。頑張って笑おうとしているのに、頬には涙が伝う、そんな悲しい笑顔だった……。
セシリアが去っていく。その後ろ姿に一夏は――
【後を追いかけて彼女の肩を掴む】
【何もできない……】
【『俺が力になる』と提案する】
【『何があったんだ!? 教えてくれ!』ともう一度呼び止める】
【セシリアの趣味が何かを全力で問う】
【『僕は死にましぇん!』と大声で叫ぶ】
【ただ『おっぱい』と叫ぶことしかできない】
選択肢が出揃った瞬間に6人の目が楯無に集中する。
「ふざけないでください! せっかく持ち直してきたと思ったのに台無しじゃないですか!」
「ごめん、あんまりいいネタが思い浮かばなかったの~」
「お姉ちゃん、どうしてここでネタに走ろうと思っちゃったの?」
「簪ちゃんにスラスラと問いつめられるとなんか怖い……」
一夏が動く。映像を見ている者たちのうち半数以上はこの後どう続くのか予想できていた。今まで驚異の選択率を誇る『おっぱい』になるであろうと、ため息混じりで受け入れていた。
しかし……一夏は踏みだそうとしていた足を戻した。口を開いたものの、何も言わずに再び口を閉じてしまう。セシリアは廊下の角を曲がり、彼女の姿は一夏から見えなくなってしまっていた。何もできなかった。
「『おっぱい』が負けた!?」
「驚くところはそこじゃないよ、鈴。まさか一夏が何もしないだなんて……」
『おっぱい』のインパクトのせいでほぼ全員が見向きもしなかった【何もできない……】という選択肢。他に真っ当と思われる選択肢がいくつも並んでいる中、一夏はそのどれも選ばなかった。
セシリアはショックを隠しきれない。この問題はセシリアが代表候補生としての実力を疑問視され、本国に強制送還されるというもの。セシリアの国の問題であるから一夏がなんとかできるだなどと微塵も思っていないのだが、何もしてくれないことが悲しかった。自分が提示した【後を追いかけて彼女の肩を掴む】だけで良かったというのに……。
シャルロットも一夏らしくないことを言及し、全員の顔つきが変わっている。皆、理想の一夏像の他にも一夏の当たり前を網羅した現実の一夏像が存在していた。そのどちらにも当てはまらないシミュレータの一夏に驚きを隠せないのはセシリアだけの問題ではなかった。
――約1名を除いて。
その1名だけは映像の続きを心待ちにしていた。決して自分に好意が向けられるわけではなかったが、彼女の信じる一夏ならばここで【何もできない】ことこそが彼の力になると考えていた。
映像は翌日の朝の教室を映し出す。山田先生がセシリアのイギリス行きを伝える予定のSHRだったが、その日の教室にはセシリアだけでなく一夏もいなかった。
場面が別の場所に切り替わる。IS学園の正門のゲートだ。ここを越えれば外は日本の法律が適用される。セシリアを乗せた車がゲートの前にとまり、警備員がゲートを開き始めたときだった。
車の前方に白いISが降り立った。突然のISの登場に反応し、複数の車から黒服の男たちが降りて銃を構えた。
セシリアが車から降りようとすると隣にいた女性に止められる。セシリアの代わりに出ていった女性が白いISに問いかけた。正体はバレバレ。ISを動かせる男など世界にひとりしかいない。
『織斑一夏くん、でよろしかったでしょうか?』
『ああ』
『そこに居られると私たちが出られないのですが、どういうつもりです?』
『そりゃあ、外に出したくないからな。アンタらはどうでもいいけど、セシリアに出て行かれると困るんだよ』
一夏がそれだけ言うと、車からセシリアが慌てて飛び出してきた。
『なんなのですか、あなたは! もうあなたには関係ないことだと言ったでしょう!?』
『ひどいな、セシリア。俺を巻き込みたくないのはわかるけど、他人扱いは流石に傷つくぜ?』
一夏はイギリスの要人やSPたちの中を悠然とセシリアの元へと歩む。銃を向けられていようがISを展開している一夏には痛くも痒くもない。
『誰の許可でISを展開しているのですか! いくらIS学園の敷地内でも無許可での展開は禁止されて――』
『緊急時だ。ISを使わないとセシリアを奪えない』
SPたちもISが相手では手が出せない。護衛にISもつけてなく、セシリアは専用機を没収されている。一夏は誰にも邪魔されることなくセシリアの元へとたどり着いて、彼女をお姫様だっこで抱え上げた。
『あなたは何をしているのかわかっているのですか!?』
『わかってるよ。そして、セシリアを迎えにきた人たちが俺たちのことをどう見てるのかも』
一夏に言われてからセシリアが周りを見る。もう誰もセシリアを無理に取り戻そうとしていない。代表の女性が一夏に話しかける。
『君はうちのオルコットをどうしたいのです?』
『え、と。言わなきゃダメですかね? 流石に恥ずかしいんですが……』
『少し待ってください』
女性はどこかに電話をかける。1分ほど待つと女性は通話を終えた。
『話はつきました。我々はセシリア・オルコットの価値を見直し、引き続きIS学園でブルー・ティアーズのデータ収集の任を与えることとします』
女性がセシリアの耳に青いイヤリングを付け直した。
『学園の方には我々の方から連絡を入れておきます。オルコットは学業に戻ってかまいません。それでは失礼します』
車から出てきていた人たちが次々と車に戻り、全車両がゲートの外へと出て行った。その全てを見送ってからようやく一夏はセシリアと一緒に肩の荷を降ろす。
『痛っ! レディの扱いはもっと丁寧にしなさい!』
『わりぃ。でも慣れないことしてたんだから大目に見てくれ』
お尻をさすりながら抗議の目を向けるセシリアに一夏は顔の前で両手を合わせて謝った。セシリアはふてくされた表情を隠さずに言葉を続ける。
『どうしてあの人たちに誤解させてまでわたくしを連れ戻そうとしたのですか?』
『俺は男だからな。泣いてる女を放っておけないんだよ』
『憐れみ、ですか。わたくしも落ちたものですわね。実際、代表候補生でなくなればオルコット家の取り潰しも避けられなかったでしょうし、落ちぶれているのでしょう』
『家の取り潰し?』
『ええ。当主であったわたくしの両親は3年前に事故で他界して、残されたのはわたくしだけ。他には使用人しかいません。家を守るためには地位が必要だったのです』
『それが代表候補生?』
『そうですわ。しかし、もうわたくしは名前だけの代表候補生でしかありません。初心者であるあなたに、それもファーストシフトもしていなかった機体のあなたに1対1で勝てなかったのですから』
セシリアは自分の体を抱きしめる。春の陽気の中、寒さに耐えようとする姿は見ている方が辛かった。
『わたくしの価値を見直す? そんなもの、“世界でただ一人の男性IS操縦者の女”としての価値でしかなく、わたくしの力を認めてもらったわけじゃありません!』
『あー……その、だな』
一夏は言いにくそうに頬をポリポリと掻いた後、ぼそっと呟く。
『それでいいんじゃないか?』
セシリアがキッと睨みつける。一夏は怯まずに尚も話を続ける。
『俺がここにいるのだって俺の実力なんかじゃない。偶然にも俺だけがISを動かすことができた。俺自身の能力には全く関係のない価値だ。でも、だからって俺が何をする資格もなくて、どう努力しても俺自身には何も価値がないだなんてセシリアは言うのか?』
『そんなはず……ありませんわ』
『じゃあ、セシリアもそれでいいじゃん。今は“世界でただ一人の男性IS操縦者の女”でしかなくても、これから変えられる。やっぱりセシリアを代表候補生から下ろさなくて良かったってお偉いさんどもに言わせてやるくらいの気概でやってこうぜ』
一夏が手を差し伸べる。セシリアは躊躇いつつも彼の手を取った。
『まあ、俺みたいな男は嫌いだろうけど、しばらくはフリだけでもいいから仲良くしてくれよ。でないと俺がただの嘘つきになっちまう』
『し、仕方ありませんわね。これもわたくしが代表候補生でいるため……あなたはそれで構いませんの? 何もあなたにメリットがないのでは――』
『いつまでもあなた呼ばわりはやめてくれないか?』
『織斑さん?』
『いや、演技とはいえ恋人になるんだからせめて名前で呼ばないとマズいって』
『そ、そうですわね! ……一夏さん』
この後、一夏はISの無断展開により織斑先生にこっぴどく叱られた。脇でその様子を見ていたセシリアは助けを求める一夏に笑顔だけ向けていたという。
この日より一夏とセシリアの奇妙な関係が始まった。誰に対しても仲が良いところを見せつけた。小細工を労している間にセシリアは陰で特訓をしていた。そうして実力を蓄えた結果、セシリアは代表候補生としての立場を確かなものとする。もう偽物の関係を続ける必要はない。そうなったときにセシリアは自分の思いを一夏に伝えた。その結果は言わずもがなというものだろう。IS学園に唯一無二のカップルが誕生しただけなのだから。
――IS<インフィニットストラトス> 完
恒例である篠ノ之束オンリーのスタッフロールが流れる。ここまで黙って見ていた一同。もう声を出していい雰囲気となっての第一声はやはり鈴だ。
「あれ……誰?」
「たぶん、一夏だと思う。たぶん」
シャルロットが答えるも、たぶんと2回言ってしまうくらい自信がなかった。
「途中まではセシリアちゃん退場ルートだと思ってたのに、まさかの大逆転ね」
「逆転はいいけど仲が進展しすぎてこれ以上のシミュレートが無駄扱いになってるのは果たしてグッドエンドと呼べるのかなぁ?」
「簪ちゃんが錯乱して饒舌になってる!?」
「お姉ちゃん、ひどい……」
更識姉妹がじゃれ合ってる横ではラウラがセシリアの肩をポンと叩く。
「私には良くわからなかったのだが、泣くほど嬉しかったのか?」
ラウラの問いにセシリアは答えられない。涙がポロポロとこぼれ落ち、ひゃっくりが止まらず、言葉をまともに発せなかった。そんなセシリアの様子を見て箒が手をパンパンと叩く。
「良い区切りだ。ひとまず休憩にしよう」
再び休憩の時間を取ることにした。鈴が真っ先に外の空気を吸いに飛び出していき、ぞろぞろと他の皆も続いた。セシリアは落ち着くまで残ることにした。その隣には箒が座り、2人で留守番をすることとなる。
しばらくセシリアの泣く声だけしていた。時間とともにセシリアは落ち着きを取り戻し、そろそろいいかと箒が動く。
「どうだった? あのシミュレータは?」
「あれが一夏さん……だったら素晴らしいことでしょう。でも、夢でしかないのです。きっと現実の一夏さんはわたくしをオルコット家の令嬢でイギリス代表候補生だとしか思っていませんわ」
「それは一夏を侮辱しているな。私が代わりに怒るぞ?」
「怒ってください。箒さんの怒りには正当性がありますわ」
怒れと言われて怒れる人間の方が少数派だろう。箒は多数派だった。
「聞いていいか? 子供みたいに泣いてしまった理由を」
自分もシミュレータによる夢を見せられ泣いてしまった。自分の場合は現実の一夏の想いを決めつけたことで、自分を追い込んでしまったことによるものだったが、セシリアはどうなのだろうと聞きたくなったのだ。
「価値、という言葉が重かったのですわ」
「具体的には?」
「わたくしは自分の価値を“オルコット家”ありきで考えています。代表候補生はその手段でしかありません。手段を失い、オルコット家をも失えば、わたくしはわたくし自身の価値を見失ってしまいます」
「それが怖いんだな」
「はい。シミュレーションとはいえ、そうなるであろう光景を見せつけられるのはきついものでした。そんなところに一夏さんがやってくる。あの状況ではわたくしと過ごした時間もほぼ無いのに、全てを失おうとしているわたくしを一夏さんは助けました」
「そうだな。私の期待したとおりの一夏だった」
「きっと映像の中のわたくしよりも、見ていたわたくしの方が嬉しかったのです。わたくしが自分の価値だと信じていたものを気にかけず、これからのわたくしの価値を見ようと、わたくし自身を見てくださったことが嬉しかったのです」
「それがどうして現実の一夏がお前を肩書きでしか見ないことにつながる?」
「わたくしの弱さ……ですわね。今のわたくしは一度として肩書きを失っておりません。ですから、いざわたくしが何もかもを失ったとき、一夏さんがわたくしをどう見てくださるのか、不安で仕方ないのです。悪い方向にばかり考えてしまうんです」
セシリアの不安は箒も共感できた。箒も一夏が自分に向ける好意を疑い、いつまで経っても素直な自分を出せずにいる。だから箒はセシリアに言ってやることにした。
「だからこそ、このシミュレータを使うんだ。やがて来る“いつか”の日のために自信と勇気を持とう、セシリア」
「箒さん……」
箒の言葉を聞いてしばらく考え込んだセシリア。
考えがまとまった後で顔を上げると、スッキリした笑顔を見せていた。
「先ほど箒さんがおっしゃっていた“前向き”ですわね」
「ああ。楯無さんの受け売りなのだがな」
「会長が? 1年というのはやはり大きな経験ですのね」
セシリアもまた、シミュレータの見方が変わった。これが今後のシミュレーションにどのような影響をもたらすのだろうか。
一夏のいない休日はまだ続く。
まさかの更新。シリアスな文章を書いていると無性にふざけたことを書きたくなるんです。『劇的チョイス』は気の向くままにふざけた会話を書いているので楽しいですね(人様に見せられる出来になるとは言ってない)。
他の執筆が息詰まったり、気晴らししたいときなどに書くものなので、相変わらず更新するかどうかすらも未定となっております。ご了承ください。
【成績】(全9問。重複した選択肢の場合は全員に+1)
箒:5☆
セ:1
鈴:1
シ:2
ラ:3
簪:2
楯:3