織斑一夏の劇的チョイス!!   作:ジベた

4 / 4
【これまでの成績(01~02の累計)】
箒:7 ☆1
セ:3 ☆1
鈴:4
シ:2
ラ:4
簪:4
楯:7

【前回のあらすじ】
・セシリアENDになった

【注意事項】
※ネタを全て楽しむためには前話を読んでいる必要があります。覚えていないという方には前話から(もしくは最初から)読み直すことを勧めます。


03 二番目の憂鬱

 セシリアもすっかりと落ち着いた頃にメンバーが着々と集まり、再びシミュレータを囲って座り込んだ。誰もがセシリアに深く聞こうとせず、さっさと続きを始めようとする。第一声はやはり鈴。

 

「で、結局どこからやり直すの? やっぱセシリア登場辺りから?」

「ダメですわ! それだけは勘弁してくださいませ!」

「へ? そこまで顔赤くして拒否られるって思ってなかったんだけど、どゆこと?」

 

 鈴としてはセシリアが可哀想だったからという同情を含んだ好意からの提案だったのだが当のセシリアに頑なに拒まれてキョトンとする。唯一セシリアの内心を把握している箒だけがセシリアの陰で笑っていた。

 話が進みそうになくなったところで出てくるのはラウラ。

 

「やり直すということは前回のセシリアとは違う状況に持って行けばいいのだろう? ならば試合でセシリアが勝てば良いだけではないか?」

「私は賛成よ。皆は?」

 

 楯無がラウラに同意して周りを見回すと全員が頷いた。

 全員の意思が一致したところでシミュレータが起動する。

 

 注文通り、一夏とセシリアが戦闘を開始する場面で始まり、会話もそこそこにセシリアが一夏にライフルの銃口を向けたところで停止。

 

 選択肢が提示される。

 

【イナバウアーでビームを避けながら接近する】

【イナバウアーでビームを避けながら接近する】

【イナバウアーでビームを避けながら接近する】

【イナバウアーでビームを避けながら接近する】

【イナバウアーでビームを避けながら接近する】

【イナバウアーでビームを避けながら接近する】

【イナバウアーでビームを避けながら接近する】

 

 選択肢などなかった。

 

「ちょっと待ちなさい! 皆、どうしたの!? なんで揃っちゃってるのよ!?」

「これってお姉ちゃんのだったんだ……」

「一夏が負ければいいのだろう? 負ける選択肢の提示は私には難しかったから適当に以前のものを選んだだけのこと。イナバウアーとやらが何かは知らんが勝てるとは思えん」

「マト○ックスも捨てがたかったんだけど、あっちは本当に避けられちゃうかもしれなかったからねー」

「一夏さんにフィギュアスケートの知識があるのかは知りませんが興味ありますわ」

「どうせニュースで見た程度の知識だろうから、技の本質も間違えてくれることだろうな。そして一夏にあれの再現はできん」

「ぶっちゃけると面白そうだったのよね」

 

 このシミュレータを始めて以来、初めて楯無が本気でツッコミに回らざるを得なかった。しかし自業自得と言えよう。

 

 一夏の戦闘が始まる。セシリアの初撃に反応して素早く行動に移った。限界まで上体を反らしつつ、前方へと進もうというのである。セシリアの狙いは一夏の胸元。一夏の頭に避けられるイメージが過ぎった。

『バカな!? 当てられただと!?』

 ……イメージだけだった。ふざけているとしか思えないポーズの一夏にセシリアのビームが直撃する。

 これ以降、真面目に戦い始めた一夏だったが健闘むなしく敗北。惜しいところで自滅して終わったのだった。

 

「やっぱり負けた」

「あんなふざけた回避を成功されてはそれこそ困る」

「結局イナバウアーとは何だったのだ?」

「後で自分で調べようね、ラウラ」

 

 何はともあれ7人の狙い通り、一夏はセシリアに敗北する。

 その後、セシリアが譲る形で一夏が1組のクラス代表となった。

 

「ふっふっふ。そろそろよね?」

 

 ようやく辿りついた時期の到来に鈴は目をキラキラさせ始めていた。今まで箒とセシリアは形はどうであれ一夏と結ばれる結末を見せられている。「あのとき、ああすれば良かった」という妄想が現実の足しになるなどとは思ってないが、見て楽しむ分には問題ない。

 

 場面が移る。場所は鈴の思い描いた場所ではなかった。

 グラウンド。まだ4月であるため本格的な実習というわけではなく、実物を見せながらの講義である。

 

「あたしはまだなの……?」

「この授業は1組のみでやっている。もし鈴がいたとしても2組だから――」

「ラウラ、ストップ! それ以上はいけない!」

 

 シャルロットが慌ててラウラの口を塞ぐ。幸いにも鈴の耳には届いていなかった。

 

 授業は進む。

 『折角専用機持ちが居るのだから』と一夏とセシリアに飛行操縦を実演させた。急降下と停止を命じられ、一夏は地面に穴を穿つ。

 

「へぇ、一夏ってこの時点ではこんなんだったんだ。良くあたしとの試合に間に合わせたわね」

「なんだかんだで一生懸命なんだよ。ここにいる皆はわかってると思うけど」

 

 最初の頃の一夏は下手くそで当たり前。今も専用機持ちの彼女たちから見れば大したことのない技量である。それでも今は昔とは違うということが良くわかる映像であった。

 墜落現場に箒が駆け寄る。腰に手を当てて、まだ寝そべっている一夏を見下ろす体勢となっている。

『情けないぞ、一夏! 昨日私が教えてやっただろ!』

 一夏はムッとしつつ思う――

 

「あ、止まった。何を思ったかなんて行動じゃないじゃん!」

「でも選択肢を提示しろってことだし、何かあるんだよ。きっと」

 

【何で俺は苛ついてんだ? 箒は間違ってないのに】

【あんな擬音でわかるか! やっぱり教えてもらうならセシリアだな】

【教えた? ハハハ、またまたご冗談を。箒も言うようになったなぁ】

【何でこんなに態度がデカいんだ?】

【何でこんなにおっぱいがデカいんだ?】

【ローアングルからの下乳……圧巻の一言】

【どうせ失敗するなら箒の胸に飛び込みたかった】

 

「約2名が自己の肯定に必死だな」

「わたくしは間違っておりません!」

「そんなことより、私の胸を皆は何だと思っているのかが知りたい……」

「男の子の夢、じゃないかしら?」

「会長の男の子像は間違ってないかもしれないけど歪だと思います」

「どれが会長かわからなくなってきたんだけど、本当に皆どうしちゃったの?」

「お姉ちゃんはたぶん下ち――」

「簪ちゃん。まさかの正解よ」

 

 鈴が異変に気づき始めたところでシミュレータが再生される。今回は一夏の心の声付きだ。

 

(どうせ失敗するなら箒の胸に飛び込みたかった)

『貴様。何か失礼なことを考えているだろう』

(バレた!? ……わけじゃないな。バレてたら俺は白式のシールドバリアのお世話になっているはずだし)

 

 この展開を見てシャルロットが一言。

 

「もし一夏が普段からこんなことを考えてたら今頃僕は一夏に……」

「はいはい。そういう妄想は自分の番まで待ちなさい」

「今度は自分の番だと言いたげだな、鈴。まだ出てきてもいないぞ?」

 

 ラウラの指摘は尤も。まだ授業から他の場面に移らず、武器の展開についての講義が始まっていた。

『織斑、武器を展開してみろ。それくらいはできるようになっただろ?』

 一夏に武器を出すよう織斑先生が指示を出す。一夏も武器の出し方くらいはわかっているつもりだった。要はイメージさえ固めればいい――

 

「何故このタイミングで一時停止が来る? 我々に何を提示しろというのだ!?」

「これまた自由度の高いお題ねぇ」

「お姉ちゃん……大喜利じゃないよ?」

 

 一夏が武器を呼び出す際のイメージが提示される。

 

【雪片弐型、展開(オープン)

【まずは鞘をイメージしろ。俺の左手に確かにあるのだと騙せ。あとは想像(創造)された刀を抜き放つのみ】

【己の弱き心ごと斬る。悪鬼羅刹を滅す無敵の刃】

【天高く血塗られた我が手を掲げ、勝利を導く剣を掴む】

【戦士は剣を手に取り、胸に1つの石を抱く……形在るものを断つ、煌々たる刃。鋭く、決して折れぬ神の遺産】

【輝くような銀は色に反して柔軟性に富み、さらりと風に揺らされる。黒い拒絶の蓋を開けてみれば、宝石箱から転がり落ちたような金色(こんじき)のクリスタルがその存在を主張する】

【織斑、抜刀!】

 

「……お前たちは一体、何を呼び出そうとしている!?」

「ごめん、お姉ちゃん……厨二病大喜利だった」

 

 ラウラは呆れ、簪は自分が甘かったのだと涙した。

 

『くっ、呼び出せない』

『何をしている、織斑! 雑念が入りすぎだぞ!』

『すみません……』

 結局、一夏が雪片弐型を展開するまで10秒かかった。

 

「まさかの選択肢、全否定とはね」

「どれを選んでも結末は同じだったってことかな?」

「なーんだ。ラウラみたいに単刀直入なのもダメだったんじゃない」

「装備の名前だけで展開できるのが普通ではないのか……」

 

 なお、現実に一番近かったのは鈴、次点は箒だったりする。約1名はそもそも雪片弐型を指してすらいない。

 

 授業が終わる。箒とセシリアが現実との違いを観測することは特に無かった。

 日が変わった朝のこと。一夏がおはようとクラスメイトの挨拶をして教室に入るとこんな声がかけられる。

『織斑くんは転校生の噂聞いた?』

 一夏は首を傾げる。4月の半ばという時期に転校生というのが釈然としない。

『なんでも中国の代表候補生なんだってさ』

 

「キターっ!」

「すごく嬉しそうだね、鈴」

「――このときの鈴は、後に自分が盛大にイジられることになるなどと夢にも思っていなかった」

「箒ちゃん? その不穏なナレーションは何……?」

 

 転入してきた代表候補生についての噂話をしているとセシリアと箒も話の輪に加わり始める。

 話は次第に転入してきた代表候補生のことからクラス対抗戦へと移った。

『デザートフリーパスのために頑張って!』

 賞品に釣られてではあってもクラスメイトたちから声援が送られる。賞品には興味のない一夏だったが彼女たちの熱意に水を差すような真似はしない。

『専用機を持ってるクラス代表は1組と4組だけだから、きっと勝てるよ!』

『おう』

 一夏は軽く返事をした。

 

「そういえば簪はクラス代表だったのだな」

「え、と……そうなんだけど、実は……あの日、会場に行ってないの」

「し、仕方ないよ。肝心の専用機がまだ組み上がってなかったんだし――」

「しかし訓練機で出場する気すらもなかったということになるな」

「ラウラは一言多いよ!」

「アンタら黙ってなさい!」

 

 雑談を始めた皆に鈴が喝を入れる。それもそのはず。

 

『その情報、古いよ』

 シミュレータに新たな登場人物が姿をみせていた。入り口を占有するようにドア枠にもたれかかり、腕を組んでやたらと偉そうにしている色々と小さい少女がいた。鈴だ。

『2組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単に勝てるとは思わないことね』

 一夏は鈴のことを知っている――

 

「さあ、やって参りました! 恒例の選択肢タイム!」

「ちょっと、箒!? アンタ、キャラ変わってない!?」

「ここまで数多くの喜劇と悲劇を生んだIS学園における初対面の一言。一夏が何を選ぶのか見物ですねぇ、解説のセシリアさん」

「わたくしですか? えーと、“おっぱい”が出てこなければ喜劇も悲劇もないと思いますわ」

「無難な一言、ありがとうございます。そろそろ選択肢が出揃うようですので注目しましょう」

「いや、だからどうしちゃったのよ、箒?」

 

【とりあえず『おっぱい!』と叫んでおく】

【とりあえず『ちっぱい!』と叫んでおく】

【『何も変わってないな』と鈴の頭を撫でくり回す】

【再会を喜ぶ】

【見なかったことにして皆との談笑を続ける】

【酢豚の約束を思い出す】

【『かなりまな板だよコレ!』と喜びの舞を踊る】

 

「ムッキャーっ!」

 

 鈴が奇声をあげ、箒がニヤリと笑みを見せた。

 

「うむ。鈴が楽しそうで何よりだ」

「良かった。鈴が喜んだのならば私も嬉しい。これで私の順番が回ってきても安泰というものだ」

「ラウラ……今の箒が言うことを真に受けちゃダメだからね?」

 

 シミュレータが動き出す。

 一夏は鈴を指さして叫んだ。

『ちっぱい!』

 

「キエエエアアアア!」

「鈴が壊れた!? 鈴、落ち着いて! りーんっ!」

 

 シャルロットが精神をどこかにやってしまった鈴を必死に呼び戻そうとする傍らで楯無が冷静に発言する。

 

「“おっぱい”もあったのに敢えて“ちっぱい”を選ぶ。流石ね、一夏くん」

「お姉ちゃん……流石に今回は残酷だと思う。……私も人のこと言えないけど」

 

 一夏が『ちっぱい』と叫んだ教室はシーンと静まりかえっていた。1組の生徒たちは箒を除いて動けずにいる。

 そんな中、ゆらりと動く影がひとつあり。ドアから離れた“それ”は『あははは』と乾いた笑みを浮かべ、左右に揺れながら一歩一歩一夏の元へと歩む。

『いっぺん死ねぇ!』

『ゲフッ』

 一瞬のうちに一夏の懐に潜り込んだツインテールの悪魔は華麗にアッパーを決めた。ふわりと浮かび上がる一夏の体は受け身もとれずに床へと落下。倒れ伏す一夏を鈴と箒がゲシゲシと足蹴にする。

 

「なぜ私まで加わっているんだ?」

「許せなかったのだろうな。臨海学校以前の箒は一夏を自分の理想どおりに仕立て上げたがっている」

「まさかラウラが解説するなんて……でも、ラウラは現在進行形で人のこと言えない」

「うっ」

 

 心当たりがあったのか、簪の指摘はラウラだけでなくセシリアとシャルロットの胸にも刺さった。

 

 一夏を踏みつけて溜飲が下がった鈴はハァハァと息を切らせつつ2歩ほど離れる。

 ちなみに箒はまだ一夏を踏みつけていた。

 

「何をしているんだ、私!?」

 

 箒に踏まれたまま一夏は顔だけ上げる。

『やっぱり鈴だった』

『何がやっぱりよ! アンタの確認の仕方はおかしいって!』

 こうして一夏は鈴との再会を果たした。この場は織斑先生の登場により、鈴は強制的に2組に帰らされる。

『鈴の奴……IS操縦者だったのか』

『今のは誰だ? 歯に衣着せぬ言い合いができるような仲なのか?』

 箒は一夏の服に付いている埃を手でポンポンと払いながら質問した。

『まあ、遠慮はしない仲かな』

『ぐ、具体的にはどのような関係で――』

 慌てたセシリアも会話に入ってきたところで邪魔が入る。

『席に着け』

 織斑先生の一言で席に着かざるを得なかった。鈴のことは休み時間にまで持ち越しとなる。 

 

 この場面での主役は鈴のはずだった。

 しかし誰もが彼女の行動ばかり目で追っていた。

 

「箒さん……ちゃっかりしてますわね」

「違うんだ! これは私であって私でない!」

「鈴と一緒に一夏を蹴っておいて、その後、服に付いた汚れを払う出来る娘アピール。これを“マッチポンプ”と呼ぶのだったか?」

「やっぱり篠ノ之博士の血縁ってことなのかな。あの白騎――」

「シャルロットちゃん!? それ以上言っちゃいけない!」

「す、すみません、会長! そんなわけないですよね! アハハー!」

 

 失言しそうだったシャルロットは慌てて訂正した。

 

「……姉さんは関係ない。関係ないんだ」

「……あんなの一夏じゃない」

 

 2名ほど体操座りでいじけているがシミュレータは次の場面へと移っていく。

 

「昼食か。ということは鈴が一夏に接触してくるわけだな」

「そうですわ。わたくしと箒さんはこのときに鈴さんのことを知るわけです」

 

 昼休み。一夏はクラスメイト数名をぞろぞろと引き連れて食堂にまでやってきた。食堂は券売機を採用している。

 さて、今日は何を食べるか――

 

「これってどうでもいい選択肢じゃないかな?」

「私たちにそれを判断する術はない。従うまでだ」

「えーと、箒ちゃんと鈴ちゃん。状況はわかってるよね?」

 

 一夏の昼食選択肢が提示される。

 

【きつねうどん】

【洋食ランチ】

【【回答不能】】

【日替わりランチ】

【ラウラの女体盛り】

【スーパーエナジーゲル3号“どっこらショット”】

【南ア○プスの天然水と博○の塩】

 

「ダメよ、ラウラちゃん。それは夜食にしとかないと」

「そうなのか? やはりクラリッサに聞いただけでは有効な場面がわかりづらい」

「それに、このときの一夏さんがラウラさんのことを知ってるはずがありませんわ」

「やっぱり僕、クラリッサさんにお話(OHANASHI)しないといけないかも」

「どうして誰も水と塩に触れないの……? お昼ご飯だよ……?」

 

 一夏は日替わりランチを選択。そもそも一夏は毎日違うものを食べたいため、基本的に日替わりランチを食べている。

 料理が来るまでの待ち時間にラーメンを持った鈴が現れる。なんだかんだで鈴も混ざって空いているテーブルへと移動した。食事を始めてから一夏と鈴は互いに質問責めにして、周囲の1組生徒は置いてけぼりとなる。

『一夏。そろそろ説明してほしいのだが』

『そうですわ! まさかとは思いますが、この方は一夏さんの恋人でいらっしゃるの!?』

 鈴が動揺混じりに返す。

『べ、別に一夏と付き合ってなんか――』

『付き合ってるわけないって。ただの幼馴染みだ』

 一夏の力強い否定にセシリアはひとまず安心し、鈴は不貞腐れる。

 箒は“幼馴染み”という単語に反応。箒の疑問を察した一夏が一緒にいた時期について解説を始めていた。

 

「改めて思うけど、一夏って特定のこと以外には察しがいいよね」

「そういえば私は一夏の前だと上手く話せないことが多かったな。一夏はそんな私の言わんとすることでも察してくれる。……特定のこと以外は」

「あ、箒が帰ってきた。鈴は……そっとしておこう」

 

 鈴の紹介も済み、鈴がどんぶりを持ってごくごくとラーメンのスープを飲み始める頃。彼女は一夏にある提案をする。

『ISの操縦、見てあげよっか?』

 そっぽを向いているが視線だけは一夏を見つめる。歯切れの悪い提案を聞いた一夏は――

 

「鈴? 選択肢だぞ?」

「さっき、回答不能だったけど大丈夫なのかなぁ」

 

 選択肢が提示される。

 

【『それは助かる』と鈴にお願いする】

【『それよりも4組のクラス代表について教えてくれないか』と情報収集】

【『箒に教えてもらう』】

【『セシリアに教えてもらう』】

【『生徒会長に教えてもらう』】

【『残ったスープをくれ』とねだる】

【【回答不能】】

 

「皆、自分のことで必死だなぁ」

「なるほど。そういうことだったのね」

 

 シャルロットが感想を告げたところで楯無が何かに気づいて頷いた。

 

「鈴? 生きてるか?」

「……あんなの一夏じゃない……あんなの一夏じゃない」

「ダメですわ、聞こえていないようです。どうしましょう?」

「これほどまでショックだったということか。シミュレーションの中の鈴とは大分違うな」

 

 まだ立ち直っていない鈴を箒とセシリアが本気で心配し始めた。

 そこへ簪も加わる。

 

「たぶんだけど、IS学園での生活が鈴の抱えてるコンプレックスを大きくしちゃったんだと思う」

「どういうことだ?」

「箒、セシリア、シャルロット、お姉ちゃん、果ては山田先生と比較してれば憂鬱にもなるよ。一夏は鈴のスタイルを良くないと思ってるみたいだし……」

 

 皆が目を離している隙にシミュレータは先に進む。

 一夏は鈴に頼もうとしたが箒とセシリアに止められ、鈴は引き下がった。

 その後、鈴のいないところでIS操縦の訓練をし、一夏は箒とともにピットにまで戻ってきた。セシリアは別のピットのためいない。

『あー、さっさと汗を流したい! なあ、箒。ものは相談なんだが……』

『まさか一夏! 私と一緒にシャワーを浴びたいだなどと不埒なことを――』

『あ、うん。勘違いで竹刀を取り出すのはマジで勘弁して』

『それで、相談とは何だ?』

『シャワーなんだが――』

 一夏が相談を切り出してる最中に入り口のスライド式ドアが開く。そこに立っている人物に気づくことなく、一夏は話を続けた。

『俺が先に使ってもいい?』

『私は構わないぞ』

『サンキュー、箒』

『では私は先に行く。また後でな、一夏』

 箒がピットから立ち去る。既に開いていた入り口に立っている人物の脇を通り抜けた。

 一夏が箒を見送っているとようやく立ち尽くしている人物が誰かに気づく。

『あ、鈴じゃないか』

『一夏……今のどういうこと?』

『ん? さっきの箒との話か? いつもは箒が先にシャワー使ってるんだけど、俺が使えるシャワーが寮の部屋くらいにしかないからさ。今日は先を譲ってもらったんだ』

『シャワー!? いつも!? 寮の部屋ぁ!? もっとあたしにもわかるように説明しなさいよ!』

 一夏が素直に答えると鈴が詰め寄る。一夏は鈴の知らないであろう情報に思い至って付け加えた。

『俺と箒は同じ部屋なんだよ』

 

「また出た。一夏は……要らないところで察しがいい」

「同感だが簪からそんな言葉を聞けるとは思わなかったぞ」

「今の場面、選択肢が来るかと思ったんだけど外れみたいね」

 

 一夏は鈴に事情を説明する。気まずいことは間違いないシチュエーションだが、見ず知らずの相手ではないから助かっていると告げる一夏。それを鈴は自分でも大丈夫だと受け取る。

『幼馴染みならいいわけね?』

 鈴が早足で立ち去るのを一夏は黙って見送った。

 

「まずい……思い出してきたぞ」

「どうしましたの、箒さん?」

 

 箒はこの後に起こるであろう出来事を覚えている。まだまだ不安定だった時期の自分がしでかしたことは、できれば見たくないことだった。いくら鈴に挑発されたからとはいえ軽率だった。

 

『部屋変わって』

 鈴が一夏と箒の部屋にやってきての第一声がそれだった。

『ふざけるな! なぜ私がそのようなことを!』

『え、だって篠ノ之さん、男の子と同室なんて嫌でしょ? あたしは平気だから変わってあげようって言ってるんじゃない』

『余計なお世話だ! 出て行け!』

『一夏はあたしの方がいいでしょ?』

 鈴が箒に部屋の交換を迫っていた。

 箒がムキになって言い返すと鈴は箒を無視して一夏に話を振り直す。

 

「うあああ……このままだと一夏に引かれてしまう」

「箒さん……」

 頭を抱えるシミュレータ外の箒を見て、セシリアはなんとなく察した。

 ここから先には彼女の黒歴史があるのだと。

 ちょうどシミュレータは選択肢を求めて一時停止している。

 セシリアは自分の黒歴史が有耶無耶になっていたこともあり、なんとか回避できないかと考えてみることにした。

 

 箒と鈴の2人に見られている中、一夏の選択肢は――

 

【『面倒くさいから箒のままでいい』】

【『間をとってセシリアにする!』】

【何も言わずに寝袋を持って外に逃げる】

【『俺のために争わないで!』】

【『そうか! 俺と鈴が替われば万事解決だ!』とティナの部屋に移る準備を始める】

【『お前たちの思いの強さが知りたい。箒が俺の右手を、鈴が俺の左手を同時に引っ張るんだ。最後に俺の腕を握っていた方の勝ちな』】

【【回答不能】】

 

「色々と予想通りだった」

「この大岡裁きは見てみたいかも……」

「ごめんなさい、箒さん。どうすればいいのか全くわかりませんでしたわ」

 

 一夏はあることを思いついて手をポンと叩く。

『そうか! 俺と鈴が替わればどっちもこの部屋に住め――』

『アホか!』『それに何の意味がある!』

『ひでぶっ!』

 左右から同時にパンチを食らって一夏はその場に崩れ落ちた。

 

「全く。もっと一夏を大切にしないと嫌われるぞ?」

「ラウラ……“人の振り見て我が振り直せ”って知ってる?」

「私も同じだというのか!?」

「うん」

「バカな……たしかに初対面では頬を叩いたが、その後は関節技でじゃれあったり、ナイフをチラつかせたりしかしていない。むしろ私は一夏を鈴の衝撃砲からAICで守っていた。疲れている嫁を労ってやろうと添い寝もしている。私は悪くない」

 

 簪に即答されてラウラは過去を振り返り始めたが問題点を自覚することはなさそうであった。

 

 一夏がダメージを回復させて起きあがる頃になると、箒と鈴の間でひとつの決着がついていた。箒が伝家の宝刀『まずは織斑先生の許可を得てこい』を使用したことにより、鈴は『ぐぬぬ』と悔しがりながらも引かざるを得なくなった。

『篠ノ之箒……覚えてなさいよ!』

『わかったからさっさと出てけ。しっしっ!』

 箒は勝ち誇って鈴を追い出すことに成功した。

 鈴は名残惜しそうにチラチラと一夏を見つつ渋々と部屋を出ていく。

 ここで一夏は動いた。

『箒。俺、ちょっと鈴を部屋まで送ってくわ』

 

 この瞬間に、シミュレータの外でも大きな動きがあった。

 

「え? ちょっと何、この展開!?」

「鈴が復活した!?」

「現金な奴だな。この後の展開次第でまた凹むぞ」

 

 鈴が復帰したところでシミュレータは次へと進む。

 箒の制止を振り切った一夏は廊下に出た鈴を追った。その表情には焦りが窺える。

 

「こ、これは来たんじゃない!?」

 

 シミュレータの外の鈴のテンションが上がる。ここまで一夏の奇行とも言える行動から、箒とセシリアに思いも寄らぬ展開が待っていた。これは自分の番だと期待が膨らむのも無理はない。

 ただし、鈴以外は全員、冷めた目で眺めていた。たしかに一夏にしては積極的な行動だが、前兆となる引き金らしいものがない。具体的にはきっかけとなる選択肢の提示がない。

 

 一夏が鈴に追いついた。シミュレータの中の鈴も外の鈴と同様に目を輝かせている。

『何よ、一夏。やっぱりあたしの方がいいって?』

『いや、そうじゃなくてだな……鈴って、もっと愛想がいい奴じゃなかったっけ?』

 一夏からの思いも寄らない一言に鈴は目を丸くした。一夏は続ける。

『俺の知ってる鈴はちょっと乱暴なところもあるけど、誰とでもすぐに仲良くなれる奴だ。でも今日の鈴はちょっと棘があるっていうか、見ててどっか危なっかしいんだよ。上手く言えないけど』

 鈴は何も言い返さなかった。肯定も否定もしない。

『ねえ、一夏。あたしとの約束は覚えてる?』

 代わりに出てきたのは質問。今日一日、ずっとこの質問をしたくて付きまとっていた。代表候補生として日本にやってきたことすらも、この一点だけが鈴の目的だった。

 鈴とした約束。一夏はこの約束に心当たりがあるだろうか――

 

「ちょっと待って! このままあたしルートに突入じゃないの!? なんでこのシリアスっぽいタイミングで選択肢タイムがやってくんの!?」

「落ち着け、鈴。今までも選択肢がきっかけだったからここで決まるのかもしれないぞ」

「うん、そうかもしれないけど、今のアンタのニヤけ顔をとりあえず殴っていい?」

「そういえば鈴は気づいてないかもしれないけど、この約束が何なのか僕たちは全く知らないんだよね」

「あ……」

 

 選択肢が提示される。

 

【来年も2人で篠ノ之神社へ初詣に行こう】

【週末にテニスをしよう】

【料理の腕が上がったら毎日あたしの酢豚を食べてくれる?】

【いつか男のフリをしなくても良くなったら一緒に服を買いに行ってくれる?】

【この戦争が終わったら結婚しよう】

世界一のIS操縦者(ブリュンヒルデ)に俺はなる!】

【料理が上達したら、鈴が毎日、宅配酢豚を届けてくれる】

 

「アンタら、知らないからってテキトーなこと言い過ぎでしょ! ほとんどあたしに関係ないじゃない!」

「なんか全部が死亡フラグに見えてくる不思議……」

「なぜ中学時代の一夏がブリュンヒルデを目指そうとしてるんだ? わけがわからん」

 

 一夏は1年前のことを思い出して手をポンと打つ。

『ああ! 料理が上達したら――』

『そう、それよ!』

 鈴の目が輝いた。やっぱり一夏は違う。日本にやってくるまでの苦労が報われる瞬間が間もなくやってこようとしていた。

『鈴が毎日、宅配酢豚を届けてくれるってやつか!』

 だがそうは問屋が卸さない。一夏の脳は細部を間違えて記憶していた。これには鈴も唖然とせざるを得ない。

 

「宅配酢豚って何!? 酢豚とピザを一緒にしてんの? というか宅配だとあたしと一夏、一緒に住んでないじゃない!」

「鈴の意図はわかった。だが酢豚ではわかりづらいにも程がある」

「いや、その、こう……個性とかインパクトも大切じゃない? 一夏の場合、結構女の子から告白もされてたしさ」

「中学のときの話かぁ。一夏はどう返してたの?」

「それがね。『好きです!』ってストレートな告白を一夏は『隙あり!』と勘違いして両腕を交差させて防御。断るというジェスチャーだと勘違いしちゃった子が泣いて去っていったという……」

「呼び出しのラブレターが果たし状扱いされていたのか……どうしてそんな誤解が生まれたのか、そしてなぜ鈴がそんな話を知っているのか、気になるところは多いな」

「まあ、作り話なんだけどね。いくら一夏でもそれは無いわ」

「そ、そうだな」

 

 鈴は気づいていないが、話を聞いていた6人は今の話を鵜呑みにしていた。あははと表向きには笑いながらも一夏にごめんと謝る内心の声が揃う。

 

 話が脱線している間にもシミュレータは進んでいる。約束を覚えてもらえていなかったショックが大きかった鈴は一夏の頬を叩いて走り去った。一夏が彼女を追いかけることなどできるはずもない。

 その後、2組の代表が鈴に変更となり、一夏と鈴がクラス対抗戦で戦うことが決まった。

 

「ようやくわたくしもついていける内容になってきましたわ」

「つまり、これって現実とほぼ同じ流れになってるってこと?」

「ええ、そうよ」

 

 シャルロットの疑問に鈴はやや不機嫌そうに答える。このままだと箒やセシリアのときのような展開はやってこない。

 所詮はお遊びだと頭ではわかっているつもりだ。しかし、もしもの展開が鈴にだけなかったら、それは現実でも一夏と結ばれる可能性がないことになるのではないか。そう思うと平静ではいられなかった。

 

 シミュレーションは試合当日に移る。喧嘩をしてから一夏と鈴は一言も言葉を交わしていない。鈴の知っている現実よりも深刻な状況になっていた。

 その理由はなんだろうか。鈴は頭に血が上っていた当時の自分を振り返ってみる。

 一夏が約束を勘違いしていた。これは今思えば自分にも非があるところ。自分の意図を察した上で全部一夏が受け止めてくれているという甘えがあったのは否めない。それでも裏切られた期待がとてつもなく大きなものに見えていた。

 もう一つあった。それはずっと自分が気にしていること。いつまでも大人になれない自分を象徴するかのような胸の小ささ。それを一夏にバカにされたことが許せなかった。

 一夏は他の男子と違う。そうであるはずなのに……

 今回のシミュレータでは順番こそ違えど2つとも条件を満たしている。しかし、それにプラスアルファされる要素を今の鈴は思いつかなかった。

 

 シミュレータは試合の開始直前となっている。

 アリーナの中央、1対1で向き合う一夏と鈴。

 5mという近距離で2人は言葉を交わす。

『一夏。今謝るなら少しだけ許してあげる』

『何を謝ればいいのかわからないのに鈴が許してくれるはずないだろ? 四の五の言わずに試合で白黒つけようぜ』

 試合の火蓋が切って落とされた。

 

「セシリアのときと違って戦闘の選択肢が来なかったな」

「ラウラは直接は知らないだろうが、この試合は決着がつかない。だから鈴との対決の内容は大勢に影響しないのだろう」

 

 一夏は鈴の初撃を雪片弐型で受け止め、追撃をセシリアから教わった操縦で切り抜ける。セシリア戦から成長した一夏は戦う術を着実に身につけていた。しかし、まだ想定外の事態に対応できるほどではなく、衝撃砲だけは回避することができていない。

 試合は終始、鈴優勢。一夏は鈴に攻撃を仕掛けることすらできていない。あまりにも一方的な状況である。ひっくり返すには力が必要だった。

 一夏は零落白夜の使用を決断する。強すぎる力は思わぬ被害を生む可能性がある。そう理解しながらも――

『鈴。本気で行くからな』

 真剣な眼差しが鈴を射抜く。形勢が傾いても衰えない一夏に呑まれそうになった鈴は顔に動揺の色を浮かべた。

『な、何を言うかと思えば、当たり前のことじゃない!』

 双天牙月を振り回して気合いを入れ直す鈴。どちらが勝つにせよ、次の衝突で決着がつく。

 

 ここで楯無が口を挟む。

 

「“アレ”は来るのかしら?」

「“アレ”って何ですか?」

「転入組の皆も話だけは聞いてると思うけど、無人機のことよ」

「そういえばそのとき会長って何してたんです?」

「……遮断シールドの前で立ち往生してたわ」

 

 当時を思い出して楯無は深く溜め息を吐いた。

 

「あ、やっぱり無人機が乱入してきた」

「話には聞いていたが、タッグマッチのときとは少々形が違うな」

 

 シミュレータの中では状況が動いていた。一夏と鈴が切り結ぶ直前にアリーナ全体を揺らすほどの強力な衝撃が遮断シールドを突き破った。

 隕石の落下すら思わせる一幕。その中心には異形のIS。首がなく、腕が異常に長いモンスターがそこにいた。

『一夏、試合は中止よ! すぐにピットに戻って!』

 混乱して動きを止めている一夏に鈴は必死な形相で通信をとばす。これによってようやく一夏は現状を認識した。ただし、そのまま指示に従わないのが一夏である。

『鈴はどうする気だ?』

『あたしは代表候補生で専用機持ち。あたしにはここで戦う義務がある。でもアンタは違う。早く逃げなさい!』

 鈴を置いて逃げろ。そう言われた一夏は――

 

「選択肢か。だがここで逃げるような一夏を誰もが望んではいない。それは一夏自身もだと私は確信している」

 

 箒が断言する。この場にいる全員が彼女の言葉に頷いた。

 選択肢が出揃う。

 

【『女を置いて逃げられる訳ないだろ!』】

【『だったら俺も専用機持ちだ。戦う理由はある』】

【『ここで逃げたら俺は鈴に謝るだけじゃ済まなくなるんだよ』】

【『義務なんて関係ない。お前一人を置いていくと俺は俺を許せなくなるんだ』】

【『初心者相手に攻めきれない代表候補生が粋がるな! 1人より2人の方がいいに決まってるだろ!』】

【『俺だけ逃げるわけにはいかない! 俺はお前のことが好きなんだ!』】

【『貧乳はステータスだ! 希少価値だ! 失わせてたまるかよっ!』】

 

「……一夏がやる気満々なのは満場一致なのだが、約1名の動機がおかしい」

「会長、そろそろ空気を読むことを覚えましょう」

「待って、シャルロットちゃん。私、今回はかなり真面目なんだけど」

 

 楯無の弁明はスルーされ、全員がシミュレータに集中し始める。

 一夏は逃げない。

『ここで逃げたら俺は鈴に謝るだけじゃ済まなくなるんだよ』

 と穏やかな声で鈴に告げた。これから正体不明の敵と戦うと宣言しているようなものであるのに、あくまで一夏は自然体。面食らった鈴は一夏と対照的に冷静さを失う。

『バ、バカじゃないの!? あたしに謝るとかもうどうでもいいからさっさと逃げ――』

『危ない!』

 鈴が意識を逸らした隙をついてゴーレムが右腕の荷電粒子砲を構えていた。いち早くゴーレムの攻撃を察知した一夏は鈴を抱き抱えてその場を急いで離脱する。間一髪で回避に成功した。

『ちょっと、馬鹿! 離しなさいよ!』

『いや、そうはいかない。俺を逃がしておいて、ひとりで敵に向かってく馬鹿を離してたまるか』

 抱き抱えられた鈴は恥ずかしさで暴れる。そんな鈴を一夏は頑なに離そうとしなかった。

 

「あれ?」

「どうした、鈴?」

「なんか……ちょっと違う」

 

 当時のことを細かくは覚えてない鈴だったが、シミュレータの一夏の様子に違和感を覚えた。

 

 ゴーレムの攻撃は収まらない。なおも一夏めがけてビームを放ち続ける。敵の狙いの付け方から一夏はある仮説を立てた。

『コイツの狙いはたぶん俺だ。俺が逃げても追ってくる。だから時間稼ぎに残るべきは俺の方だ』

『はぁ? ふざけたこと言ってないで離しなさい! このままだとやられちゃうでしょうが!』

『いいけど約束してくれ。ひとりで無茶しないって』

『ああもう! わかったから! アンタも一緒に戦っていいからとにかく離しなさい!』

 鈴が一夏の手から離れると、鈴は自らを抱きしめるような格好で距離を取った。そんな鈴の細かい所作を見つめていた一夏が寂しそうに溜め息を吐く。

 

「待って、一夏! そうじゃないの!」

 

 シミュレータの外では鈴が声を荒げていた。疑問符を浮かべたラウラが即座に問う。

 

「どういうことだ? 嫌だったのではないのか?」

「そんなわけない。なんていうか、感触を思い出して浸ってた、みたいな……って言わせんな!」

「なるほど。よくわかった」

「まさかラウラが理解を示した!?」

「クラリッサも似たところがあるからな」

「すごく不名誉みたいに思えるわ……」

 

 なんだかんだで一夏&鈴とゴーレムの戦闘は進んでいく。

 腕をコマのように回りながら振り回し、先端からはビームでも砲撃をしてくる。おまけに装甲は硬い。

 明らかな強敵を前にして数の差はハンデになっていなかった。2人がかりでも突破口は見えない。このままだと2人とも戦闘不能となり、その後の安全は保障できない。

 一夏はどうするべきか――

 

【相手が機械だと割り切って本気を出す】

【零落白夜で逆転を狙う】

【織斑先生の指示を仰ぐ】

【セシリアに連絡を取る】

【鈴と一か八かの作戦を練る】

【鈴を斬りつける】

【レベルを上げて物理で殴ればいい】

 

『鈴、ごめんな』

『えっ……?』

 一夏は鈴の無防備な背中を斬った。この一撃で甲龍の残りエネルギーは大きく減少し、実質的な戦闘不能となる。

 

 突然の一夏の奇行にシミュレータの外ではほぼ全員が口をポカンと開けていた。

 

「え? ちょっとどういうこと? マジでわかんない!」

「そもそも誰がこんな選択肢を出したんだろ? 会長はアレだろうし」

「シャルロットちゃん……そろそろあなたの化けの皮を剥がしてもいいかしら?」

「え? なんのことですか?」

「お姉ちゃん。その話は後にした方がいいと思う」

 

 シミュレータに目を移すと、斬られた鈴は信じられないものを見るような目で振り返っていた。

 何をされたのか理解が追いつかない。鈴は戸惑いの目を一夏に向けるだけしかできない。

『なに……して……』

『お前はもう戦えない。早くピットに逃げろ』

 一夏は乱暴に鈴の肩を掴むとピットの入り口方面へ投げ飛ばした。されるがまま引き離され、鈴はアリーナの地面を転がる。

『何してんのよ、一夏ァ!』

 地に這い蹲る鈴が空にいる一夏に叫ぶ。その声は届いているはずなのに一夏は鈴の方を振り向きもしない。

 たったひとりでゴーレムと対峙する。

 ゴーレムも鈴には見向きもせずに一夏と向き合っていた。

 戦闘が再開される。一夏は零落白夜を発動させて決戦をしかける。対するゴーレムは零落白夜の特性を知っているのか、接近戦を控えて持久戦の構えをみせた。

 鈴はその光景を見守ることしかできない。右手は固く拳を作り、目には悔し涙が浮かぶ。

 一夏の動きは目に見えて良くなっている。ゴーレムの守りを強引に突破して右腕を一刀両断。追撃は躱されたものの一夏の攻勢は止まらない。

 

「あたしが足を引っ張ってた……?」

 

 シミュレータの外で鈴が呟く。

 一夏が自分を文字通りに切り捨てた。

 戦力として必要とされていない。

 それは同時に、自分自体が必要とされていないとも取れてしまう。

 謝ることがわからないと一夏は言っていた。

 それもそのはずだ。仲直りするつもりがないのだったら、謝る意味がない。

 好きの反対は無関心だと誰かが言っていた。それは鈴も否定しないどころか、十分に共感できる。

 鈴の両親が最後にそうなっていたから。

 

「あたしじゃ……ダメなの……?」

 

 消え入りそうなほどの声量。周りの誰も気づいていないだろう。

 鈴は顔を伏せて涙を堪える。弱い自分をライバルたちに見せたくなかった。

 

 鈴が目を背けている間に一夏とゴーレムの戦いは終わりを迎えた。ゴーレムの両腕は切り落とされ、とどめの一撃はコアを串刺しにする一突き。倒すと同時に白式のエネルギーが枯渇し、一夏も戦闘不能となる。

 結果的に圧勝しているように思われるが、その実は綱渡り。保険も何もない戦いであって、千冬が知れば叱りつける内容だ。一歩間違えれば死ぬかもしれなかった本当の戦いだというのに、わざわざひとりで戦うことを選んだのは愚の骨頂といえる。

 それでも一夏にはそうせざるを得ない理由があった。

 

 シミュレータを見ていない鈴の肩にポンと手が置かれる。

 

「鈴さん、顔を上げてください。きっと、悪いものではありませんわ」

 

 セシリアだった。他の5人に気づかれないようにそっと耳打ちがされる。本気で凹んでいると悟られたくない鈴は仕方なく顔を上げた。

 

 

『無事か、鈴!?』

 戦闘が終わった直後、白式が自動で解除された生身の一夏が鈴に向かって走ってきた。

 役立たずとして切り捨てられたはず。なぜ一夏が来たのかわからない。

『何しに来たのよ……』

 不貞腐れた鈴は一夏の顔も見ない。口を尖らせてそっぽを向く。

 一夏は顔の前で手を合わせて頭を下げた。

『ごめん。俺が悪かった』

『謝らなくていいわ。あたしが邪魔だったんでしょ? そうならそうとハッキリ言ってくれれば良かったのに』

 一夏はすぐに否定しない。

 だから鈴の口からは不満と不安が次々と飛び出す。

『あたしがいない方が伸び伸びと戦えてた! それに、あたしがいなければあの幼馴染みと仲良く過ごせてたんでしょ!? あたしのせいで空気が悪くなったからあんなこと言ったんでしょ!』

 胸の小ささはコンプレックスであるが、それが理由で一夏に怒っていたわけではない。

 鈴が気にしていたのは別のこと。箒と言い争った後、追ってきた一夏の一言は思いの外、胸に突き刺さった。

 ――今日の鈴はちょっと棘がある。

 今の自分は可愛くないという自覚はあった。でも嫌な子になってでも自分を抑えるわけにはいかないだけの理由が鈴にはあった。

 

 ……相手が篠ノ之箒だったから。

 

『アンタは独りだったあたしに手を差し伸べた! 味方がどこにもいなかったあたしにはアンタしかいなかった! ずっと一緒に過ごしてて、段々と惹かれてったのよ!』

 独白は続く。誰も見ていない、戦闘でボロボロになったアリーナの片隅で鈴は声を荒げる。襟を掴まれた一夏はされるがままに鈴の叫びをサンドバックのように受け入れるだけ。

『でもアンタはあたしのことなんて見てなかった! いじめられてたあたしを助けたのも、アンタはあたしにあの子の姿を重ねたんでしょ!? そうだと知らず、アンタは他の男連中と違うって思ってたあたしは馬鹿そのものじゃない!』

 鈴にとっての最大の劣等感(コンプレックス)。それはセカンド幼馴染みと言われていること。自分にとって大切な思い出の何もかもが、一夏にとっては二番煎じでしかない。なんでもかんでも、一番最初には篠ノ之箒の影がちらついている。

 だから自分だけにしかない一夏との絆を欲した。第三者から見ればバカバカしいものかもしれない。それでも鈴には価値あるものだったのだ。

 なのに――鈴の思いは一方通行だった。

『何もかもがあたしの妄想だった。現実を否定したかったあたしの願望でしかなかった。お父さんとお母さんが離婚したときからわかってたのに、お姫様を夢見てさ……本当に馬鹿よね』

 一夏の襟を掴む手が緩む。吐き出す胸の内はもう残り少なく、目に見えて勢いがなくなった。

 もう簡単に振り払えるのに一夏は動かない。顔を伏せた鈴をじっと見つめるだけ。

『そもそもISが出てきてからの世界はイカれてる。本当の愛なんてものはマンガの中にしか残ってない。そんなのを探してたあたしこそが狂ってたのよ……』

 これで終わり。鈴の手は一夏の襟から離れた。

 両親の離婚からずっと抱えてきた一夏への思い。次に会うときに一夏が約束を覚えていてくれれば、鈴は正直になれたはずだった。

 現実は非情である。一夏は鈴の思いを汲み取ることができなかった。

 結果こそが全て。理想を抱き続けてきて自滅した少女の淡い幻想でしかなかったのだ。

 

 ――今、この瞬間(とき)までは。

 

『言いたいことはそれだけか?』

 ずっと何もしなかった一夏の手が動いた。離れていく鈴の両手を素早く掴み取った一夏は力強く引っぱる。思ってもみなかった突然の行動に鈴は反応できず、引かれるままに引き寄せられて一夏にぶつかる。

『痛っ……いきなり何すんのよ!』

『今度は俺の番だ。一言も聞き逃すなよ』

 キッと目を吊り上げて抗議する鈴を一夏は真っ正面から見つめ返す。目と目が合い、気恥ずかしさも相俟って気圧された鈴は二の句を告げずに一夏の言葉を受け入れる体勢となった。

『俺が箒と鈴を重ねてる? そんなわけがないだろ、バカ! いじめられてたのが鈴じゃなくて弾の奴だったとしても俺は同じことをした。その行為に箒は全く関係ない』

『じゃあ、何であんなこと言ったのよ!? アンタは箒と仲良くする理想のあたしを押しつけようとしてたでしょ? あたしの気持ちも知らないで!』

『いつもの鈴じゃないって言ったことか? あれは俺の正直な気持ちだ。もう俺の好きな鈴はいないのかとまで思い込んだ』

『それ見なさい! やっぱりアンタはあたしに理想を押しつけ……へ?』

 反論しようとしていた鈴が途中で固まる。

『鈴は俺に理想を求めてたって言ったよな。でもそれってそこまで悪いことか? 俺だって人間関係に理想を求めることくらいある。鈴にこうであってほしいと思っていることがある。むしろそれが普通だろ?』

『で、でも、あたしにとってあの約束は……』

『実は鈴と喧嘩してからずっと思いだそうとしてた。鈴が何のつもりで酢豚の約束をしてきたのかを考えてた。単純な酢豚じゃないなら言い回しが関係しているはずだって思い至った。味噌汁に置き換えると答えはすぐに出たよ』

 味噌汁の一言で一夏がわかってくれたのだと鈴が察するには十分だった。瞬間的に赤面する鈴。しかしすぐに約束の答えは聞かずに、まずは疑問点をぶつける。

『じゃあどうして、試合の前に言ってくれなかったの?』

『それは別の理由。俺は本気の鈴に勝ちたかった。だから敢えて喧嘩したままでいた』

『何よ、それ。あたしをボコボコにしたかったの?』

『そういうわけじゃない。俺は鈴に自分の強さを見せたかったんだ』

『まともに攻撃できてなかったくせに』

『ぐ……返す言葉もない』

 本気で悔しそうにする一夏。急に子供っぽくなった一夏を見た鈴の口からはフフッと笑みがこぼれる。

 それも束の間。鈴の顔に陰りが表れる。

『でも一夏は強かった。あの無人機をひとりで倒しちゃった。あたしは邪魔してただけだった。一夏に斬られても無理ないわね』

『強いと言ってくれるのは嬉しいけど、そこにも鈴の勘違いがある』

『勘違い?』

『ああ。俺はひとりで勝てた。でもそれはただの結果論で、鈴が居なければ勝てるだなんて思い上がったわけじゃない』

『じゃあどうしてあたしを無理矢理戦線離脱させたのよ? あたしだけでも逃がそうとしたなんて言ったらぶっ飛ばすわよ!』

『……仕方ない。遠慮なくやってくれ』

 拳を握った鈴の前で一夏は目を閉じる。どうしようもないくらいの素直な肯定を前にした鈴は拳を下ろした。

『殴れるわけないじゃない……でも、もし次があったらそのときは許さないんだから!』

『肝に銘じとく』

 一夏と鈴。喧嘩をしていた2人は再び笑い合う。

 ちょうどこのときに遮断シールドが開かれ、外からIS部隊が入ってきた。

 一夏は援軍の部隊に手を振りながら隣にいる鈴にまだ言えていないことを告げる。

『鈴との約束だけど、俺からも言っておきたい。俺が一人前になったら、俺の隣で千冬姉に挨拶してほしい』

『え? それってもしかし――』

 鈴は最後まで言えなかった。一夏が強引に鈴の唇を奪う。

 一夏の顔が離れたとき、鈴は現状を認識できずに惚けていた。

 

 無人機の襲撃によりクラス対抗戦は中止となった。襲撃者の正体は不明のまま、何者かの脅威に晒されたという事実だけがIS学園にのし掛かる。

 しかし、事件の当事者である一夏に重苦しい空気は欠片もなかった。試合が中止となったり、無人機に狙われた事実も小さいこと。彼はあの日の試合でかけがえのないものを手に入れたのだ。

 昔から気の合った女の子と心も通じ合い、共に過ごす日々が続いている。

 辛さよりも楽しさが上回っている今の一夏に敵はない。

 

――IS<インフィニットストラトス> 完

 

 

 映像が止まり、篠ノ之束オンリーのスタッフロールが流れる。

 最後の選択肢以降、見入っていた一同もここでようやく口を開く。

 ただし今回は鈴が最初ではなくラウラだった。

 

「前から思っているのだが、あれは本当に一夏なのか?」

「たぶん一夏だと思う……たぶん」

 

 シャルロットが相づちを打つも、前回と同じく『たぶん』と2回言ってしまうほどには自信がなかった。

 続いて楯無が感想を述べる。

 

「大切な女の子だからこそ自分が斬りつけてでも危険な場所から遠ざけたい、か。愛されてるわね、鈴ちゃん?」

「実際に一夏がこれやったら、あたしは遠慮なく反撃しますけどね」

「あら、結構辛辣。一夏くんも大変よねー」

 

 辛辣と言いつつも楯無は鈴を見てクスクスと笑っていた。傍目にはバカにしてるような笑い方だが何故か鈴は怒らない。

 ――いや、そもそも気づいていない。周りに意識を割く余裕がほとんどなかったのだ。

 

「時期としてはそろそろ僕の番かな?」

「さて、それはどうだろうな」

 

 鈴が終わってシャルロットが次に意識を向けると箒が口を挟んだ。

 否定とも言える内容にシャルロットは口を尖らせる。

 

「それってどういう意味、箒?」

「色々と言いたいことはある。だが今は、時間が迫っているという理由が一番大きいな」

 

 箒が時計を指さす。もう間もなく日の暮れ。窓の外も徐々に暗くなってきている。

 間もなく時間切れだと箒は言う。その理由にシャルロットも思い至った。

 

「そっか。もうすぐ一夏が帰ってくるんだね?」

「一夏がこの部屋に乗り込んでくるとは思えんが、もし見られると皆が困るだろう? それにこんなシミュレータよりも一夏本人との時間の方が大切だ」

「うん、その通りだよ」

 

 全員が一斉にシミュレータとのリンクを切る。夢を見る時間はひとまず終わりということで満場一致した。

 すかさずラウラの確認が入る。

 

「もちろん次もあるんだろうな?」

「一夏が倉持技研に呼び出された上で、この場にいる全員が暇だったらな。あとは姉さんが返せと言ってこなければという条件も入る。私は次もやりたいと思っているから心配するな」

「それを聞いて安心した」

 

 こうして第一回、いっくんシミュレータで遊ぶ会は閉会することとなった。

 箒が本体を回収し、部屋の主であるシャルロットとラウラを残して退室。廊下で解散してそれぞれの部屋への帰路に就く。

 

 鈴も真っ直ぐに自分の部屋に戻るだけのはずであった。

 しかし、廊下を曲がって誰からも見られていないと思った途端に立ち止まってしまう。

 

「何なのよ、あれ……」

 

 鈴は泣いていた。

 ここまで我慢してきたが耐えられなかった。

 自室まで戻り、ティナの前で耐え続けることなどできそうにない。

 

「やはり無理をしていましたか。鈴さんらしいですわね」

 

 ハッとして鈴が振り向くと、そこには何故かセシリアがいた。部屋の方向は全く違うはずである。偶然でないのは一目瞭然だった。

 

「こっそり付いてきてるとか趣味が悪いわよ」

「いえ、堂々とついてきたつもりです。鈴さんが気づかなかっただけではありませんか?」

 

 否定はできない。誰もいないはずと思いこんでいただけと言われればそれまでだった。それくらい、今の鈴には周りが見えていない。

 

「で、何の用よ?」

「鈴さんの感想を聞きたかっただけですわ。どうでしたか?」

「どうしたも何も、荒唐無稽もいいところよ。一夏とあたしが結ばれたって結末も作り話でしかないわ」

 

 鈴の口からはシミュレータの出来を否定する言葉が飛び出てくる。

 しかしながら、その言動はセシリアにとっては想定内のことだった。うんうんと頷きを返す。

 

「では、なぜ泣いておられたのか聞いてもよろしいですか?」

「……目にゴミが入ったのよ」

 

 言い訳をしてもセシリアは返事として受け取らなかった。

 観念した鈴は大きく息を吐きだす。少しだけ正直に話すことにした。言わないと終わりそうになかったからだ。

 

「今のあたしが惨めになったからよ」

「惨め、ですか?」

「シミュレータのあたしはさ、自分の思いが暴走してたってところはあたしそのものって感じだったんだけど、決定的に違うところがあったの」

「少しだけ正直だった。そういうことですか?」

「わかってるじゃない……ちょっと昔話でもしようかしら」

 

 鈴は目元の涙を拭ってセシリアと向き合った。

 これから彼女が話すことはそれほど昔のことではない。

 シミュレータと同じ時間軸で起きていた現実での話。

 

「一夏はさ、現実でも同じ答えに辿りついてたんだ」

「約束の意味ですわね?」

「ええ、そうよ。違ったのはその後。現実のあたしはそのことに正面から向き合えなくて否定しちゃったの。今日見せられたのは、あのとき素直になってたらどうなってたのか、というもしもの話だったかもしれないわ」

 

 最初はこのシミュレータの中で結ばれる自分たちの姿を見れば嬉しいものだと思っていた。

 だが実際に目の当たりにしたのは、理想の一夏だけでは成り立たない結末。

 これまでの自分では到達することのできないもの。

 

「このシミュレータさ……一夏だけじゃなくて、あたしも強かった。本当のあたしは一夏にプロポーズだったのか確認されて否定しちゃうような腑抜け。今のあたしって自業自得なんだって思ったら、急に情けなくなっちゃった……」

 

 少しだけ話すつもりだった。しかし思っていたよりもセシリアに話し過ぎてしまった。もしかしたら、誰かに知っていてもらいかったのかもしれない。

 鈴の思いを聞き遂げたセシリアは鈴の両肩を掴んで目を合わせる。ライバルの弱り切った姿に鞭を打つような真似はせず、真摯に向き合う。

 

「それに気づけたことは大きな収穫ですわ」

「でも、今のあたしじゃ――」

「変わればいいでしょう? 一夏さんに理想を求め続けるのはわたくしも同じです。しかしそれ以上に、わたくし自身にも理想を持たなければいけない。鈴さんも同じ。“前向き”にいきましょう?」

「セシリア……」

 

 鈴は目をゴシゴシと擦る。手を離したとき、鈴の目から涙が消えていた。

 

「一体、誰の受け売りよ、それ?」

「楯無会長ですわ」

「あー、あの人ね。やっぱり悔しいわ。やっぱりあたしらより一歩先を行ってそう」

「ですが負けるつもりなどない。そうですわよね?」

「当然!」

 

 鈴が力強い言葉を返す。もう心配する必要はないと判断したセシリアは自室へと踵を返した。

 このシミュレータはときに自分の見たくない現実をも映し出す。しかし、それを乗り越えてこそ、初めて意味がある。

 まだ独りで立てなくとも、誰かの手を借りてでも再び立てればそれでいい。

 

 一夏のいない休日はひとまずの終わりを迎える。

 だが近い内に次の機会がやってくるだろう。

 

 なぜならば、まだこのシミュレータは真の目的を果たせていない。




 何故か『劇的チョイス』の更新です。大多数の方(片手で数えられる人数)の予想通り今回は鈴ルートです。といってもかなりテキトーに書いてるのであちこちで破綻してそうですが。
 気づけば選択肢部分が前半にしかないという衝撃の事実。書いちゃったので今回はこのままにしますけど、もし次があれば初心に返って選択肢提示をメインにしたギャグにしたいと思います。(だからシャルルートはないかもしれない)
 そろそろ(他作品の)執筆を再開する感じです。なのでこの作品はまた長いこと更新されないでしょう。もちろん今度こそ次話が投稿されない可能性もあります。

【成績】(全10問。重複した選択肢の場合は全員に+1)
箒:1
セ:1
鈴:2
シ:2
ラ:3
簪:2
楯:5☆
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