迷宮に色んな力を持って挑むのは間違ってない...と思う 作:水凪刹那
「はぁぁぁぁぁっ!!」
『ブォア!』
向かってくる爪を最小限の動きで避ける
興奮するモンスターの攻撃を二回、三回とよけ幅の狭い通路を後方にステップする
挑発するようにかわしつつ移動していけば
しびれを切らしたようにゴブリンが2匹飛びかかってくる
「らぁ!」
空中で自在に身動きの取れる訳では無いモンスターを正面から迎え撃つ。
交差させた双剣を振り払い2匹の腹を切り裂く
魔石に帰るモンスターを尻目に周囲を警戒する
もちろん新手のモンスター...ではなく
『ゲゲェッ!』
俺の頭を覆い尽くすほどの影が急降下してくる
「はぁっ!」
余裕を持って迫るモンスターに回し蹴りを入れ壁に叩きつける
壁にめり込んだのは四本足を持つトカゲ似のモンスター
『ダンジョン・リザード』
ゴブリンなどと同じ低級モンスターだ
「.......そろそろ戻るかな...」
ダンジョン四層でステイタスの上昇具合を確かめていたのだが
予想以上の上昇具合に戸惑いを隠せていない
未だに
「もっと下へ潜れるかな...」
自身のステイタスの上昇に確かな成長を感じ、高揚感を得ながら慢心を抑え込む
ここはダンジョンだ何が起こるかわからない
冒険者になってからはや8日目
ありえない成長を遂げた俺だがそもそもここまで来るのでさえもっと時間のかかるはずなのだ
そしてダンジョンの事を何も知らない俺が無知のままで到達階層を増やすのは危険なことなら、今行けるのは5階層から6階層まで
この前の魔法で破壊し尽くした6階層はダンジョンの自動修復元に戻っているらしいのだが
「んー、進むか...戻るか...」
結局のところ俺は踵を返して一階層に戻った
「そういや、まだ帰ってこないのかなヘスティア様...」
ヘスティア様がパーティに出かけてから既に二日
何日か出かけると言っていたからそこまでの心配はしてないけど
それでも少しさみしいものがある
と、そんなことを考えていれば『始まりの道』と呼ばれる
道を進み地上へと続く大穴を抜けようとした時見慣れない光景が飛び込んできた
それは、深層への遠征時に使用されるもので食料やドロップアイテムなどを収納するものだ
その中の一つからは獣くささが出ていた
と、付近の冒険者の会話を耳に挟む
『今年もやるのか?アレ』
『
『あんな催し良くもまあ飽きずに続けられんな...意味あんのか?』
『パンと見世物であろう...下らない』
この地に来たばかりの俺には馴染みのない単語に首を傾げる
次々と運び出されるモンスター達を周囲の人たちと同じように眺めていた。
「ん?...あ、エイナさん...」
視界の端に馴染みあるセミロングのブラウンヘアーが見えた。
とても整った顔をしている彼女は今は真剣な表情をして恐らく同僚のギルド職員と打合せしていた
「...仕事中...か...」
何をしているのか聞きたかったが
それは、仕事の邪魔になってしまうのだろうから離れていく
それにギルドが関わっているならまぁ、基本は問題ないのだろうと考え。今度シルさんにでも聞いてみようと考えながらギルド本部へ足を進める
ギルドにてアイテム換金を済ませ帰る途中周りを見れば
夕焼けに染まる空と騒がしい街並みに包まれる
ヘスティア様が帰ってきた時用に食材を買って帰ろうと考えて
メインストリートを進み買い物を済ます
案外すんなりと買い物も済ませてしまい手持ち無沙汰になりながらも歩き回っている
「ん?おぉ、アルトリアではないか」
「あ、ミアハ様」
石畳の道を歩き進むと正面から来た人物に話しかけられた
その人はヘスティア様の知り合いで
ここ二日間で知り合った神様ミアハ様だ。
大きな紙袋を持っているところから買い物帰りなのだろう
「こんばんはミアハ様お買い物ですか?」
「うむ。夕餉のためのな。アルトリアは何を?」
「まだ、神様が帰られないのでぶらぶらと時間を潰していたところですよ」
聞けばミアハ様はその日にパーティには出てなかったらしくヘスティア様のその日のことは知らない様子だった
「む、そうだアルトリア。これを」
「え?」
ミアハ様から渡されたのはポーションの瓶だった
所属しているファミリアによってそこの活動方針は変わるのだが
探索系や商業系など、様々なものがある
ミアハ様のファミリアはその中で商業系のポーションなどを取り扱っているものだ
「ミアハ様...?また、怒られちゃいますよ?」
「はははっ...なに良き隣人に胡麻をすっておいて損はあるまい?これからも我がファミリアをご贔屓に頼むぞ?」
そう言ってミアハ様は去っていった
その後ろ姿を見ながら神様にもいろんな方がいるんだなっと考える
家に帰ろうとした時ふと、ショーウィンドウの中を見る。
この辺りでは一回りも二回りも大きな武具店
看板には【Hφαιστοs】という奇怪なロゴタイプ
それは、恐らくオラリオでも有数の武具店を示すファミリアのマーク
「...業物...だな」
それを次々と視ることで蓄えていく
神のものはダメでも同じヒューマンや亜人のものなら簡単に貯蔵することの出来る
まぁ、使うことはないと思うけど
そうして、俺はガラス奥のナイフや剣を見つめていった
「あんた、いつまでそうしてるつもりよ?」
「...............」
パーティから既に二日
その期間のあいだ
ヘスティアはヘファイストスに頭を下げ続けていた
ヘスティアからのお願い...【ファミリア】の構成員に武器を作って欲しいという懇願をヘファイストスは切り捨てていた
ヘファイストスファミリアのオーダーメイドとなるとかなりの値段となる
そんなものを友人の好で格安で作るなど言語道断
構成員達が血と汗を流して生み出した武具を軽く扱うような真似をするわけには行かない立場なのだ
「(何があんたをそこまで...)」
ヘファイストスにとってもヘスティアがここまで親身に頼み込むのは初めて見ていた
グータラと過ごしていたヘスティアを追い出して、眷属ができたと報告に来てすぐの子にだ
「ヘスティア...教えてちょうだい。なぜあんたがそこまでするの?」
「あの子の...アルトリア君の力になりたいんだ!」
それは、ヘスティアの心からの叫びだった
「今、アルトリア君は強さを求めている。無差別に撒き散らし強さではなく守り抜くための力を!彼の道は茨の道だ、ボクは...っ一緒に進み事の出来ない!待っていることしか出来ないんだ!だからせめてあの子を助けられるように、手助けのできる力が!あの子の道を切り開ける武器が!」
「ボクはあの子に助けられてばっかりだ!養ってもらうことしか出来ない!あの子の主神なのに神らしいことを何一つとして出来ていない!」
アルトリアが聞けば「そんなことは無い」と答えただろう
だが、ヘスティアは無力だった
大した設備もない拠点で、ご飯を作って待ってあげることも出来ず
そんな自分に対してアルトリアは見放すことなく
必ず守るとまで約束した
「アルトリア君はボクを守るって言ってくれた...それなのに...ボクは何も返せない...悔しいんだ...嫌なんだよ...もう、何もしてやれないのは...」
消え入りそうになる声はヘファイストスに確かに響いた
この偽らざるヘスティアの心を、彼女は認めたのだ
「.....分かったわ...。作ってあげる、あんたの子供にね」
「ほ、本当かい?...」
「あんたがここまで頼み込んできたのに嘘なんてつくわけないでしょ...全く、あんたのそんな頑張りはもっと早くに見たかったわ」
甘やかしすぎだと自分でも思うが
それでも友の心からの頼みを断れるほど鬼ではないし
今のヘスティアになら手を貸すのもやぶさかではないと思ったのだ
それに...
「ここまであんたを変えた子にも会ってみたいわね」
「何か言ったかい?ヘファイストス」
「何でもないわよ、でもちゃんと対価は払うのよ?」
「もちろんさ!アルトリア君の為だボクは身を粉にして頑張るよ!」
うっすらと口角を上げながらヘファイストスは壁に作りつけられた棚へ向かう。
「で?あんたの子の使う武器は?」
「え.....えっと双剣だけど...」
そう、と呟きヘファイストスは紅緋色のハンマーをとる。
次にクリスタルケースの元まで歩むとケースの中から数種類のインゴットを取り出す
「あ!ヘファイストス!ちょっと待っておくれ!」
「なによ?」
ヘスティアは胸元から一枚の紙を取り出しヘファイストスに渡す
それは、アルトリアの設計していた武器...スラッシュ・アックスの設計図だ
「こ、これは...?」
「アルトリア君が考えていた武器さ、あの子の魔法を最大限に発揮させる為の武器...だと思う...」
設計図には刀身から柄にかけて書かれているが
どう見てもまともな考えを持って生み出されるとは思えない
「ヘスティア...あんたの子供...とんでもないわね...」
「そりゃそうさ...だってボクの大好きな人だぜ?」
無駄に胸を張るヘスティアを尻目に
ヘファイストスは穴が開くほど設計図をみる
「ヘスティア?この変形機構って?」
「これはね彼のスキルを応用したものらしい。1つの武器で剣と斧ふたつの特性を併せ持った物...」
「...とんでもない武器ね...」
「あ、これを市販なんてしないでおくれよ!?」
「当たり前でしょ?こんなのまずまともな剣士なら使えないわよ...この紙は作り終わったら破棄するわよ?」
「うん、そうしてくれていいよ。アルトリア君にはボクが説明するから...」
「...となると...魔法伝導率と耐久性の両立...ね」
と、なると材料はミスリルを使用するしかないか...
「さ、ヘスティアあんたも手伝いなさい!忙しくなるわよ!」
「あぁ、任せておくれ!」
「(新米冒険者に渡す1級武器か...)」
そういえば、フレイヤから三日前に無理やり渡された鉱石が...
その鉱石は燃えるように、赤く紅く朱く赫にに輝いていた
違う世界においてその鉱石は
「ふふふ...やっぱりそれを使ってくれるのねヘファイストス...あなたに渡してよかったわ...」
「フレイヤ様...」
「あら、手に入れてきたの?」
「はい...ご命令通り
「そう、なら。そうね...ミアの店に置いておいて?」
「承りました...」
「もっと もっと…あなたの輝きを...あの影との戦い以上の輝きを私に見せて...」