十二月三十一日、大晦日。午後七時。
「ヤバイ。死ぬ。死ぬ。死ねる」
「都会もんの軟弱が!」
「寒いよ、寒いよ、寒いよー」
「むー、これはちょっとマズイねー」
「この冬一番の寒波だ。仕方あるまい」
僕こと紺野柾木と、遠山耕平ならびに瑞穂、さらに森野早苗に十和田美雪隊員は、南極大陸の昭和基地建設隊よろしく、雪降る多紙山を登っていた。
「むしろ八甲田山の雪中行軍か・・・」
史上最悪の遭難事件が頭をよぎった。百九十九名の死者を出したその事件は、四年前に新田次郎が小説化し、映画化も計画されている。
山道には分厚い雪が積もったままで、さらにその上に新雪が重なっていく。
先頭を行く耕平が、ピッケル隊よろしく雪道を踏み固めて先導する。その後ろに美雪、早苗、瑞穂ちゃんと続き、最後尾の僕は、荷物が満載となったソリを引いている。
「あと五分ぐらいで着くがな」
「どうして分かるんだよ」
「傾斜の感じとか木の位置とかだな。柾木も何年かすれば分かるさな」
街路灯などあるわけもない、雪に埋まった山道。耕平の手にする懐中電灯の細い光だけが頼りだ。
「五分、ね」
僕は空を仰いだ。折り重なった枝々の隙間から、厚く重い雲が足早に流れていくのが見える。荒れる前兆だ。
「急ごう」
僕は結論を出した。
「死むー、もう歩けないよ」
前を進む瑞穂ちゃんが、徐々に遅れだし、僕と並んで歩く形になった。いつも元気いっぱいに見える瑞穂ちゃんだが、この中で一番小柄で華奢なのだ。体力の限界だろう。
「瑞穂ちゃん、こっち」
僕は右手を差し出した。
「よろしくお願いします」
「握手じゃなくて、ソリに乗って」
「えっ」
「あと五分くらい、どうとでも出来るから」
「でも・・・。柾木さんだって重い荷物ひっぱてるのに・・・」
「40kg強なんだろ? 大丈夫だよ」
いつしかの会話を思い出して、笑ってみせた。
「50kg弱かも・・・」
瑞穂ちゃんが恥ずかしそうにうつむく。
「立ち止まっている方が辛い。早く」
「・・・お願いします」
そういうと瑞穂ちゃんは、ソリの後ろにちょこんと腰掛けた。ずっしりと手綱に重さが伝わってきた。
「うっ」
「や、やっぱりわたし、がんばるから」
「いくよ」
暗いので必死な顔をしているのはバレないはずだ。こういう余裕のないところは悟られたくない。
その分、男の子の矜持ってやつを見てよ。
僕は、一歩一歩踏みしめるようにソリを引き始めた。
「柾木さん・・・、あのですね」
「うん?」
声を出す体力すら惜しみたい気分だったけど、瑞穂ちゃんの声に応じた。
「わたし―――」
「―――柾木っ! お前に瑞穂はやらんぞ!」
「お前を『お義兄さん』って呼ぶのはごめんこうむるね」
まったく、十和田家といい遠山家といい、この手の話が好きだね。
「で、瑞穂ちゃん。何か言った?」
「何も言ってません・・・。あっ、いえ、乗せてもらったお礼にわたし、柾木さんのお嫁さんになってあげてもいいですよぅ」
「「なっ!」」
僕と耕平、絶句。
「瑞穂。私と命を賭して争う覚悟は出来ているのか?」
「あはは、美雪は正室だから、わたしは側室で」
「ををー、瑞穂ちゃんが新機軸を導入ですか。それじゃ、わたしも側室で。三号さんでいいよ」
「柾木さんは嬉しいですよね?」
「ハーレム、ハーレム」
いや、この流れはまずい。下手に応えれば、美雪が杖代わりに使っているクビキリ丸の餌食になってしまう。
「うむ。それならばいい」
「「ええっ!」」
僕と耕平、美雪の発言にまたしても絶句。
「なんだ、私はそんな狭量な女ではないぞ。柾木が私を一番愛していて、どこが帰るべきところかわかっていてくれていたらそれでいい」
「まったくもってありがたいお言葉だけど、僕には愛人をこさえる器量はないよ」
「おや? 二股かけてる柾木くんのセリフとは思えないねー」
そこ突っ込まれると弱いなー。でも、本来の性格だと、美雪としろ様の両方に、しかも同時に惹かれることはないはずなんだ。
「ねぇ、みんな。俺も側室が欲しいんだけど」
耕平がおずおずと手を上げるが、
「お断りだよー」
「正室もいないくせに」
「遠山の塩基配列は、後世に残さないほうが良いのかもしれんな」
「俺は人権を要求する!」
早苗、瑞穂ちゃん、美雪による容赦ない返答。僕はそれに笑いながらも、心の中では首をかしげていた。
僕なんかより、耕平の方がずっと人間としてまともだ。思いやりはあるし、ユーモアもある。顔だって悪くない。なのに、どうしてか女の子が側にいない。不思議だ。
「おっ、見えたで」
先頭を行く耕平が、横に三つ並ぶ鳥居を見つけた。多紙山の中腹にある多紙神社は、この鳥居から始まる、真っ直ぐに伸びた石段の先だ。
「最後の関門だね」
僕と耕平はタッチし、ソリ犬の役を交代した。僕はそのままソリの後方に移動し、後ろから押す役に回る。美雪たちは、ソリからあらかじめ小分けしていた荷物をそれぞれ背負って、ソリの負担を軽くした。
雪に埋もれた石段は、ソリを使うことに支障はない。
ぜぇはぉ ぜぇはぁ
極寒の夕闇の中、息を切らせ、大量の汗をかいて参道を上っていく。これを上りきれば神社があり宴会だ。明確なゴールが見えている分、さっきまでより精神的には楽だ。
馬はニンジンがぶら下がっていると走るものです。だから母よ、お小遣いを上げてください。
ガクンッ
斜面から平地に躍り出た。いつのまにか境内に入ったようだ。
山の中腹のわずかに開けた平地にある、拝殿だけの小さな神社。それが多紙神社だ。
「ついたな」
「おつかれー」
「もう動けん」
「はやく、はやく中に~」
それぞれ思い思いに達成感を分かち合う。
「そういえば・・・」
ここに来るのは二回目だ。この町に引っ越してきた初日。紅葉の中を昇ってきて、そしてしろ様に出会った。そして、今日は美雪たちと一緒にここにいる。不思議な感じだ。
多紙神社の御神体は、多紙山そのものであり、しろ様も生き神である。そのため、御神体を収める本殿がない。奈良県にある三輪山の大神神社と同じだ。
そういえば、多紙神社の鳥居は三ツ鳥居だ。三ツ鳥居で有名なのは、大神神社と秩父の三峰神社。そして、三峰神社は『狼』信仰に厚い。
なにやら出来すぎた話だ。
唯一の建物である拝殿の板間は、八畳一間程度の大きさだが、僕ら五人が鍋を囲むには十分な広さだ。梁にランタンを4個吊るして、光源を確保する。
「瑞穂、それはダシを入れすぎではないか?」
板間に断熱マットを敷き、カセットコンロが直置きされている。その上では、土鍋に張った井戸水が沸騰しつつあった。
「昆布味がするぐらいダシを取ったほうが美味しいって」
「せっかく遠山が良いカニを手に入れてきたのだ。味を殺すことは冒涜であろう。遠山が漁師に教わってきたことだ」
「ええ~、美雪はお兄ちゃんの味方するの?」
「カニの分ぐらいは、尊重すべきであろう?」
「そっか。カニを食べ終わるまでは感謝すべきだね」
カニを食べ終わったらどうなるのでしょうか? 怖くて問えない僕がいる。
「手が止まってるぞ」
僕のすぐ横で、耕平が声をかけてくる。今のやりとりが聞こえてなければいいのだけど。
「まっ、感謝されるだけマシってこった」
聞こえていたようだが、耕平は寛大だった。
コンコンコンコンコンッ
美雪たちが野菜を刻み始めた。僕はその脇からサランラップを取ると立ち上がる。観音扉になっている格子に貼り付けるためだ。これでかなりの防寒対策になる。ようは簡易ビニールハウスだ。
もう片方の格子では、早苗が同じようにサランラップを張り始めた。僕も見よう見まねで格子に手を伸ばす。
「しっかし、まぁ」
やりたい放題だ。よく見れば、何度もサランラップを貼り付けてきたのだろう。セロテープの跡がいくつも残っている。
「一応は神様の住みかなのにさ」
僕は苦笑したが、同時に、ふと気になることが生まれた。
「って、耕平」
「なんだよ。寒いんだから早いトコ片付けちまえ」
「ここ、初詣とかないの?」
「こんな小さくて不便なトコに、どこのテキ屋が屋台構えんだよ。参拝客はみんな隣町だ。それに」
「それに?」
「奉られてる神様は、それぞれのご家庭に絶賛戸別訪問中だ」
「あー」
納得してしまった。
ただいまの時間帯、しろ様は多紙町の家々を訪問しては、年越し蕎麦だのお節料理だのミカンだの、色々な料理を食べ歩きしている。わざわざ初詣に行かなくても、神様の方から会いに来てくれるのだ。
しろ様は立派に神様をやっていて、みんなから慕われている。それは素直に嬉しいことだ。
「しろ様が気になるか?」
「まぁね」
耕平は僕の返事を聞くと肩をすくめた。それ以上は詮索しないつもりらしい。本当によく出来た友人だ。僕は心の中で感謝する。
「ほれ、続き」
耕平に促されるまま、僕はサランラップを広げて格子に貼り付けていく。
「ん、ん、んんー」
ぴょんぴょん
「んー、んーっ!」
サランラップを広げた姿勢で、早苗が格子の一番上めがけてジャンプを繰り返す。女の子にしては高い身長の早苗だが、高さという現実は絶対で、ほんの少し足りない。
「俺がやんべ」
耕平が僕より先に助け舟を出す。
「だーめ。右半分はわたしがやるって言ったでしょう」
「届かんもんは届かんだろーが」
「むー。毎日牛乳飲んでるのになー」
「しっかたねーな。っと」
あくまでも自分でやりたがる早苗に対し、耕平は腰を抱えて真上に持ち上げてみせた。
「わー、高い高いー」
「お前、また足が太くなったんじゃないか?」
「嘘はいけませんよー」
「お前に関しちゃ、俺の指センサーは寿司職人級だ」
「グラム単位で見抜いちゃいやー」
「いいから早く。案外きついんだ、この体勢」
僕は手を止めて、二人の様子を見守っていた。一番上の格子にサランラップを張り終え、耕平はゆっくりと早苗を降ろす。
「おしまい・・・。柾木はまだやってんのかよ」
「耕平はそのままでいいと思う」
「はぁ?」
僕も一番上の格子にサランラップを固定する。
何度か言葉の意味を問いただされたけど、僕はいい加減にはぐらかした。
そんな僕らのやりとりに、早苗は微笑んで目を細めていた。
「わひー」
瑞穂ちゃんが奇声を上げて本殿に戻ってきた。外気でビールを冷やすために、外に運び出していたのだ。瑞穂ちゃんの髪の毛は、雪で白くなっていた。
「お疲れさまー。ほら、これで身体を温めて」
土鍋を囲む僕たち。その中で、早苗が手招きして瑞穂ちゃんを隣に座らせる。
「ままっ、お一つどうぞ」
「寒いときにはこれに限りますなー」
くふふ
小さく笑いあい、熱燗(土鍋用とは別に専用のカセットコンロと鍋を早苗が持参)を慣れた手つきで瑞穂ちゃんにお酌する。
二人のやりとりは、とても女子高生のものに見えない。中山競馬場帰りに、西船橋あたりで一杯やってる酒飲みのソレだ。
「それでは」
膝立ちになった耕平が仕切りだす。
「地獄の終業式も終わり、あとは年越しを残すのみとなりました」
「地獄の通知表だったのは、君たち遠山兄妹だけだろう」
「・・・わたし、絞められた」
「・・・潰れそうだった」
ぼかされた何かを問わないのは、友としての優しさだと思う。
「こわかったよう」
「こわかったです」
「よしよし」
二人の頭を撫でてあげた。
「酒が不味くなる。暗い話は慎むがよい」
「そ、そうだようね。過ぎたことは思い出してもしょうがないよね、ね?」
瑞穂ちゃんは、すがりつくような調子で同意を求めた。
「と、とにかく。ワタクシ遠山耕平が乾杯の音頭を取らせていただきます」
「何に対して?」
「決まってるだろうが。一年を無事に過ごせたことと―――」
みんなが、僕にコップを突き出す。
「―――柾木が、俺たちの仲間になったことを祝して」
突然のことに、僕は言葉を上手く紡げない。
「あれれー? もしかして、照れてるのかなー」
「うん」
「おぉを、真正面から切り返しましたよ、この少年は」
早苗が満足そうに微笑んだ。
美雪が僕の方に寄りかかる。
耕平が親指を突き上げる。
瑞穂ちゃんがカニを睨んでる。
悪くない。悪くないね、これは。多少の照れくささも、青春っぽくていいじゃないか。
「それでは」
「乾杯」
チンッ
綺麗な音がする。
「ありがとう」
僕はガラスの音に合わせて、感謝の言葉を混ぜる。だって、照れくさいじゃないか。
「でだな、魚探に映る怪しい影に、俺はピンッときたね。沈没した千石船の残骸だと」
「仙石船? きっとすぐに左に傾いて沈んだんだねー。日本沈没ってー」
「千石船だ、千石! 江戸時代のどでかい貿易船だって。お宝満載だでよ」
「はむはむはむはむ、ほむほむ」(注:カニをほおばる瑞穂ちゃん)
「お酒のおかわりはー?」
追加の熱燗を作っていた早苗が、耕平のお猪口に継ぎ足す。
「おお、分かってくれるか。でだな、俺の脳みそで科学が飛び出してきて、学術的な真相究明をしろって言いやがって、こっちは一攫千金のトレジャーハンターだってのによ」
「もはやバラエティーじゃないねー。あ、耕平くんってば、ちょっと手伝って」
「ほむほむ、ずびびびぃー」(注:甲羅に日本酒を注いで、カニ味噌ごとすする瑞穂ちゃん)
「森野、徳利回収したぞ。で、クライマックスで発見するかと思いきや『シーユーネクスト』って時間切れよ。お前たちのためにカニを優先してやった結果さ。つまり、お前たちは俺サマのカニに対して敬意を払え!」
「はいはい、感謝感謝。それじゃ、ハマグリを鍋に入れるよー」
「まてっ! それは三重県産のハマグリだ! そんなもん食ったら死ぬぞ! この売国奴めっ! って! 俺のカニ味噌!」
「げふぅー」(すでに三匹目の瑞穂ちゃん)
「なんだ、その満足そうなツラ! ものわかりの悪い妹に、兄の偉大さを見せつけてあいたたたたたたたったっ、ハサミが、ハサミが!」
「ほむほむ」(無言でカニのハサミを耕平の頭に突き刺す瑞穂ちゃん)
土鍋をはさんだ向こう側は、三人がいつもに増して賑やかだ。
で、こっち側の僕と言えば―――
「―――私を構成する成分に『柾木分』というのがあるのだが」
ねち、と。
「柾木分は毎日補充しないとダメになってしまうにも係わらず君は終業式から向こう一度も一度も一度たりとも私に顔を見せてくれなかったし私が意を決して電話しても電話に出もしない。なに、電話のベルに気が付かなかったというのかそんなもの分かれ念力と愛の力で」
ねちねちねちねちねちねちねちねち、美雪の恨み言が止まらない。
きゅっ
またしても美雪は、お猪口に満たされた熱燗を一口で空にする。
「酌だ」
「はい」
僕は既に無条件降伏の道を選んでいた。
「聞いているのかね、君は。私と会わなかったのは、私など必要ないという意思表明か?」
「引っ越してきて初めての冬だからね。忙しかったんだよ」
「毎日のように耕平の家に入り浸るのに忙しかったのか? それとも、アルバイトがそんなに忙しかったのか? 徹夜でのゲームがそんなに忙しかったか?」
「どうしてそれを・・・」
「マミちゃんお義母様がすべて教えてくれた」
気のせいか、母の呼び方が違うような。というか、すべて筒抜けですか、そうですか。
「聞いているのか?」
「・・・聞いております」
「言うことはないのか?」
「ごめん」
「私が欲しいのは説明だ。君も飲め」
お猪口を美雪に差し出すと、表面張力に挑戦するまでお酒を注がれた。
僕は美雪たちに比べて、はるかにお酒が弱い。少しずつセーブして飲んでいるのだが、どうしたものか。
「ややこのことで、私を避けているのか」
分かってるじゃないか。僕は言葉にせずにため息を吐く。
「嫌ならば、どうして言わない」
嫌ではないのだ。不条理に納得できないだけで。命の危険もあるしね。
僕は助けを求めるように、耕平と視線を合わせる。
「うん?」
耕平は、僕の視線に気づいてくれたが―――
「ぐっ」
グッドラックと、親指を上に向ける。どうやら僕は、孤立したようだった。絶望のふちに立たされる。
「君が私を愛していないのはわかっているわかっているんだでも私は君を求めていなくては私がたちゆかなくなってしまっているんだわかるかこの苦しさが。君はただ受け入れてくれればいいのにそれすらままならない何が足りない何が足りないというのだ身体かやはり身体なのだな君は! ああそうかわかったぞ私には知識がないのだなしかし君は私をいくらでも君好みの女にすることが出来るのだぞそれでは不満なのか不満なのだな!」
問いかけているようで、自己完結。何を言っても反論されるのは必至。
僕はお酒のピッチを早める。そうでもしないと間がもたない。
「女の子にあそこまで言わせておいて何もしないなんて、柾木さんはアレでジェントルマン気取りなの?」
「んんー、紺野ジェントル柾木というか、紺野チキン柾木だよねー」
「いやいや、紺野ED柾木で決まりだ」
「病気じゃない!」
誰もかれも好き勝手に言う。だから、僕はお酒に逃げるしかない。
「柾木」
肩にかかる重み。僕に寄り添った美雪のものだ。着物が微かにはだけて、茜色に染まった肌がのぞいている。
「お猪口が空だぞ」
「ああ、うん」
ばかみたいな相づち。僕は満たされていく液体そっちのけで、美雪の肌から目が離せない。
「飲んで」
「うん」
言われるまま、僕は美雪を真似て一息で飲み干す。酒が弱いとか関係ない。
「はい、次はわたしねー」
早苗が、空いたお猪口に追加の徳利を傾ける。
「早苗、私の邪魔立てする気か?」
「雪っちの邪魔なんてしないよー。これを忘れてたから」
空いた手につかんでいた紙袋を美雪に渡す。紙袋は、学校の横にある書店のものだ。
「約束したよね」
「いや、覚えがないのだが―――」
「―――お酒で思い出せないだけ、ね」
「そうだったか。ありがとう」
「後で開けてね」
「おお、いやらしいご本ですな、早苗先生」
「耕平くんってば、すぐにエロなんだから。んもー、やーねー」
「お兄ちゃんって、本当にクズいよね」
「俺は空気を読んだだけだろう!」
何がなんだか・・・
「まぁいい。飲むがよい」
「くっつかれたら、飲みづらいんだけど」
「私は柾木分を補充しているのだ。だから、離れない」
「そうか」
僕はお猪口をあおる様に空けた。こういう時は、酔ってしまうに限る。どうせ、はなっから負け戦だ。ジタバタしても仕方がない。