ソードアート・オンライン 黒の剣士と紅の剣舞士 二人の双剣使い 作:ソーナ
~キリトside~
「キリト・・・・・・レイン・・・・・・大、丈夫?」
「ストレア!」
「ストレアちゃん!」
レインを庇ったストレアの腹部からは須郷の握っている短剣の切っ先が出ていた。
「な、なんだお前は!邪魔をするな!」
「もう、あなたの企みは終わりだよ」
「終わりだと?ふざけるな!この・・・・・・っ!」
須郷はストレアに掴まれてない右手でウインドウを出そうとするが。
「なっ!?で、出ない!?何故だ・・・・・・!何故、僕のウインドウが出ないんだ!」
「ふふふっ。・・・・・・残念だったね・・・・・・もらっちゃった・・・・・・」
「もらった?!お、お前が何かしたのか!?」
「ふふ・・・・・・・。システムコマンド、みんなに掛かってる状態異常を解除。そしてペインアブソーバを10に。さらにID、アルベリヒのレベルを1、ステータスをオールリセット」
「な、なんだと!?」
「大丈夫だよ、キリト、レイン。キリトたちのことは私が・・・・・・守るから」
「ストレア!」
「ストレアちゃん!」
痛みがなくなった俺は、剣が背中から抜き落ちるのを無視して崩れ落ちたストレアに近寄る。
ストレアが崩れ落ちたことにより、動けるようになった須郷はその場から後ずさる。が。
「よくもやってくれたな」
ストレアのお陰で動けるようになったクラインたちが、須郷の逃げ道を塞ぐ。
「お、お前ら、近寄るんじゃない!」
「何が近寄るなだ!さんざん好き勝手にしやがって・・・・・・」
「麻痺させられた礼と・・・・・・・」
「キリトに剣を刺した礼をしないとな!」
「っの・・・・・・・!」
須郷は99層の方に逃げていこうとするが。
「逃がさないわよ須郷伸之!」
「ボクらにしたことの礼と!」
「キリトさんとレインさん。アスナさんやストレアさんにしたことの報復は受けてもらいます!」
その行く手をアスナとユウキ、ランが剣を突きつけて塞いだ。
「須郷伸之、あなたにはこのゲームが終わるまで大人しくしてもらいます。決して逃げられるとは思わないことね」
「こ、この低脳どもがぁ!放せ!放せぇぇ!」
クラインたちに追い詰められ、多勢に無勢声を荒げながら抵抗するアルベリヒに一瞬視線を向け、すぐにストレアに移した。
「ストレア!しっかりしろ!」
「なんで!?ポーションや回復結晶を使ってるのにHPが減るのが止まらない!」
抱き抱えるストレアの顔色はかなり悪く、HPはレインが回復してくれるがすぐにHPは減少する。
「くそっ!あの武器に付けられた状態異常のせいかよ!」
ストレアの様子に、俺はすぐ傍に落ちている短剣を見ていった。
「たぶんそうだよ!あれに付与されていたデバフがなんなのか判らないと解毒の手の内ようがないよ!」
「どうすればいいんだ!?」
もう何本目かわからないほど、ポーションをストレアに飲ませるレインが、俺にもポーションを渡して言った。
レインから受け取ったポーションを飲むと、レッドゾーンに入っていた俺のHPがレッドゾーンからイエロー、グリーンへと回復し始めた。
「フィリア、頼む!残ってる回復アイテム全部だしてくれ!」
「わかった!」
「キリトさん、私たちのも使ってください!」
「助かる!」
俺の声にフィリアだけじゃなく、ランも。ユウキやアスナ、シノン、リーファなどすべてのプレイヤーが各々の回復アイテムを渡してくれた。
HPを回復させていると、ストレアが息苦しそうに話した。
「う・・・・・・・うぅ・・・・・・キリト・・・・・・レイン・・・・・・アイツ・・・・・・やっつけた?」
「ああ!捕まえた!ストレアのおかげだ!」
「やったね・・・・・・アイツが持っていたアカウント権限奪ってやったんだ・・・・・・・」
「権限を奪った?」
「うん・・・・・・でも、そんなことしなくてもキリトとレインなら勝てたかな・・・・・・」
「そんなことないよストレアちゃん!ストレアちゃんのお陰であの人を捕まえられたんだよ!」
「ありがとう・・・・・・レイン・・・・・・。あのね・・・・・・アタシ・・・・・・キリトたちに言ってないことがあるの・・・・・・聞いてくれる?」
「ああ・・・・・・」
「うん。聞かせてストレアちゃん」
「アタシね・・・・・・アタシ・・・・・・」
そう区切りを入れたストレアは語った。
「・・・・・・人間じゃないんだ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・っ!?」
「ストレア・・・・・・・やはり君は・・・・・・・」
俺とレインが息を飲み、ストレアは語り続ける。
「うん・・・・・・アタシは・・・・・・・《メンタルヘルスカウンセリングプログラム》・・・・・・この世界のプログラムの一つなんだ・・・・・・」
「それってユイちゃんと同じ・・・・・・・!」
「やっぱり・・・・・・そうだったんだな・・・・・・」
「あれ・・・・・・キリトとレイン・・・・・・二人ともアタシのこと気付いていたの?」
「いや、ただの予想だった・・・・・・」
「うん・・・・・・あの人の研究の日とストレアちゃんの頭痛が同じ日に起きたこと・・・・・・それと似たようなことが前。・・・・・・ユイちゃんにあったから」
「そうなんだね・・・・・・」
ストレアは苦笑するかのように軽く笑い続けた。
「アタシはね・・・・・・・ずっと、観ているだけだったんだ」
「このゲームが始まった頃からか・・・・・・・」
「うん・・・・・・・ずっと、暗いところで・・・・・・・一人で観てた・・・・・・・いろんな人の感情・・・・・・・喜びや怒り・・・・・・絶望や悲しみを・・・・・・たくさん」
「ストレア・・・・・・」
「キリトたちが75層で戦っていたときもずっと観てたんだ・・・・・・」
「あの場にいなかったのに観ていたというのは、そういうことか・・・・・・・」
以前。初めてあったときにストレアが言っていた意味を俺は初めて理解した。俺たちのことをずっとモニタリングしていたのなら75層でのことを知っていてもおかしくない。
「うん。だけど、そのとき突然目の前が真っ暗になって、気がついたら、この世界の中にひとりで立っていたの・・・・・・。それからしばらくは記憶もおかしくて・・・・・・アタシ本来の目的も忘れてしまっていて・・・・・・。でもね、唯一憶えていたことがあった」
「それが俺とレイン・・・・・・か・・・・・・」
「私と、キリトくん?」
レインが少し不思議そうに首をかしげると、ストレアは小さく笑い。
「はは・・・・・・さすがキリト・・・・・・うん、アタシは唯一憶えていたキリトとレインのことを捜したんだ。そのあと、次第に記憶が戻ってきて、アタシはこの世界のプログラムとしての役割を思い出したの」
「プログラムとしての役割・・・・・・・?」
「うん・・・・・・それは、この世界の崩壊を阻止しなくちゃならないこと・・・・・・」
「世界の崩壊というのは・・・・・・つまり俺たちがSAOをクリアするということか?」
ストレアの言う、世界の崩壊という言葉を俺は、俺たちが100層に到達しボスを倒してこの世界をクリアするということだと分かった。確かに、プログラムとしてはなんとしても俺たちにこの世界をクリアさせたくないはずだ。世界の崩壊がクリアだとすると、クリアしない、世界の停滞がカーディナルシステムがストレアに与えたプログラムとしての役割なのだろう。
「そう・・・・・・でも・・・・・・アタシには阻止することができなかった・・・・・・。でもね・・・・・・出来なくてよかった・・・・・・。キリト・・・・・・レイン・・・・・・みんな・・・・・・今までありがとうね・・・・・・」
「おいっ!ストレア!ヘンなこと言うな!」
「ストレアちゃん!しっかりして!」
何時もの元気な声ではなく、弱々しい声と言葉に俺とレインは声をかけ続ける。
そんなところに。
「ううっ!!」
突然ストレアが苦しみだした。
「ストレア!ストレア!」
「待ってくださいキリトさん!ストレアさんの全身からなにか黒いオーラみたいなものが出ています・・・・・・!」
ランの言うとおり、ストレアの全身からなにか黒いものが現れた。それはストレアを侵食しようとしているかのようだった。
「なにあれ!?」
「な、なんだこれは!?」
「これは・・・・・・・一体・・・・・・!?」
いきなりストレアの全身を包み込もうとする黒いオーラに俺たちが驚いてる最中も、ストレアは苦痛の表情を浮かべた。
「う、ううっ!!」
「ストレア!」
「ストレアちゃん!」
ストレアを呑み込もうとするオーラを無視して、俺とレインはストレアを放さないというかのように抱き締める。
「キリト!レイン!離なれて!二人まで呑み込まれちゃうよ!」
「キリト!レイン!」
「キリト君!レインさん!」
ユウキやフィリアたちが次々に言ってくるが、俺とレインは頑なにストレアを放そうとはしなかった。
「くっ!!離さない!絶対にこの手は離さないぞストレア!」
「そうだよ!この手は絶対に・・・・・・離さない!」
抱き締めていても、黒いオーラはストレアを呑み込もうとし。
「うわっ!!」
「きゃあっ!」
ストレアの身体が浮き上がったたかと思うと、いきなり衝撃波が俺とレインを襲い、俺たちを後ろに吹き飛ばした。
「キリトさん!」
「レインちゃん、大丈夫!」
吹き飛ばされた俺の身体をランが、レインの身体をアスナが受け止めてくれた。
「すまん、助かったラン」
「いえ・・・・・・ストレアさんは・・・・・・・」
「ああ・・・・・・・・・・・なっ!?」
ランに礼を言い、ストレアの方を見る
ストレアを見た俺たちは驚愕のあまり息を飲んだ。
ストレアが宙に浮かび上がったかと思うと、ストレアを呑み込もうとしたオーラが広がったのだ。そして、その不気味な黒いオーラは何かの形を作り始めた。やがて、そのオーラの端から、
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ううぅ・・・・・・どうなっているんだ・・・・・・さっき倒したばかりなはずなのに!」
そう、ストレアを取り込んだ
「そんな・・・・・・ストレアちゃん!」
「っ!?まさか、コイツに取り込まれた!?」
「うそっ!」
「そんな!」
動揺する俺たちなど眼中に無いかのように、目の前に再び現れた、ストレアを取り込んだボスはフードで隠れて顔が見えない、目の部分を青白く光らせて。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
蜃気楼のように揺らぐと、どこかに消えていった。
「くそっ!待てっ!ストレアを返せ!」
「ストレアちゃん!!」
俺たちの声はストレアを取り込んだボスに届くことなく、ボス部屋に響き渡るだけだった。
第76層 アークソフィア
ストレアがボスに取り込まれて消え去ってから数時間後、俺はアークソフィアにあるエギルの店の2階にある自室にいた。
「・・・・・・・・・・」
「キリトくん・・・・・・」
「パパ・・・・・・」
自室に戻ってからずっと項垂れている俺に、入ってきたレインが心配そうに声をかけてきた。その後ろにはユイもいた。
「レイン・・・・・・ユイ・・・・・・」
「パパ、大丈夫ですか?」
「ああ・・・・・・」
「キリトくん、アスナちゃんがね須郷伸之は簡易牢獄に閉じ込めたって」
「そうか・・・・・・」
「うん。武器やアイテムもすべて取り上げたし、血盟騎士団と聖竜連合が協力して見張ってるから問題ないみたい」
「わかった」
レインからの情報に、俺は気迫のあまりない声で返した。
そこに、俺の隣に座ったユイが話した。
「パパ、ストレアさんのことですが・・・・・・。あの方はやはり、私と同じでカウンセリング用のAIプログラム・・・・・・・《メンタルヘルスカウンセリングプログラム》のようです」
「《メンタルヘルスカウンセリングプログラム》・・・・・・プレイヤーの精神的なケアをコンピューターで出来ないか、考えられて作られた存在・・・・・・だよね」
ユイとは反対側に、俺の隣に座ったレインがそう言う。
「はい・・・・・・このSAOが始まってから人の感情をモニターし続け、わたしと同様にエラーを蓄積してしまっていたようです」
「そうか・・・・・・だからあんなに不安定だったのか・・・・・・」
ユイの言葉に、俺は今までのストレアのことを思い返した。
頭痛や記憶喪失、どれも不安定だった。だが、ストレアはそれを表に出さないで、ずっと俺たちに元気を振るまいていた。
「わたしよりも酷かったんだと思います」
「ユイちゃんよりも・・・・・・?」
「はい。わたしには、パパやママがいてくれたから、眠りにつくことが出来ました。でもストレアさんは、ずっとエラーを蓄積し続けていたんです」
「そんな・・・・・・!」
「そして、トリガーは分かりませんが、ついにストレアさんの中に蓄積させた負の感情が決壊・・・・・・。自分の身を守るために、不完全な形で、記憶を封印してしまったようです」
ユイの言った、ストレアの中に蓄積された負の感情が決壊した理由は恐らく、須郷による外部からこの世界へのアクセスだと思った。75層での出来事がすべての始まりだからだ。そしてそれは、フィリアがホロウ・エリアに跳ばされた事も関与しているはずだ。
「ストレアさんという、安全機構を失ったカーディナルシステムは、膨大なエラーの処理に追われます。その処理による負荷のため、今の異常が起き、継続しているみたいです」
「地震も、データの欠損も、俺たち人間の感情が原因で・・・・・・」
「はい・・・・・・もちろん、それだけじゃなくて外部からによる干渉が最もな原因だと思われます」
「外部干渉という、予期しなかった出来事にカーディナルシステムが急遽そっちに対処し始めたからか」
「恐らくは・・・・・・。そしてAIの本能とでもいうべき、カーディナルシステムを保持しようとする感情。世界を守るという使命、つまり自分自身を生きながらえさせようとする、『消えたくない』という気持ち・・・・・・。それと、パパたちにも消えてほしくないと言う、相反する気持ちを制御しきれずに、苦しんでいたみたいです。アルベリヒ・・・・・・須郷伸之の実験による、被験者の苦しみもカーディナルシステムに過度の負荷を与えた可能性があります。そして、さらにそれはストレアさんにも影響を与えて・・・・・・」
「この世界を維持させるために・・・・・・ストレアちゃんは、たった一人でずっと苦しんでいたんだね・・・・・・」
「ああ・・・・・・」
「・・・・・・でも、それならなんで私やキリトくん、みんなをストレアちゃんは助けてくれたんだろう」
「・・・・・・それは・・・・・・」
「・・・・・・仲間だからだ」
レインの言葉に俺は躊躇うこと無く告げた。仲間だからこそ、ストレアは苦しみながらも俺たちをいつも助けてくれたんだと思う。
「仲間だから・・・・・・うん、そうかもしれないね」
「それで、今のわたしのシステム権限でできる限りの調べたことなのですが・・・・・・。現在、ストレアさんはパパたちの言う最終ボスのアバターに取り込まれている状態です」
「つまり、まだストレアは消えてない・・・・・・」
「はい。須郷から奪ったアカウントの権限・・・・・・。それが、ストレアさんの抱える負の感情によって暴走・・・・・・・。それにより、パパとママが倒したはずの、ボスのアバターが再び再構築され、そこにストレアさんが引きずり込まれた形になります」
「ストレアはあの時、須郷が使った武器によってHPを奪われていったが・・・・・・」
回復アイテムを使っても消すことができなかった状態異常について、ユイに聞く。
「不幸中の幸いでしょうか・・・・・・。取り込まれたことによって、特殊な状態異常はキャンセルされたみたいです。ストレアさんのIDは、間違いなく現在でも生きているというステータスになっています。ボスアバターを倒す事が出来れば、アカウント権限の暴走も収まり、ストレアさんを解放できるはずです」
「そうか・・・・・・よかった・・・・・・もう一度会うことができる・・・・・・」
須郷によって付けられた、ストレアの状態異常がキャンセルされたと聞いて俺は安堵した。
「はい!必ず!」
「キリトくん、よかったね!」
「ひとまずこれで最悪な事態は免れた、と言うわけだが・・・・・・。ユイ、今ストレアのIDと言ったが、そもそもなんでストレアは俺たちと同じ、普通のプレイヤーと同じに見えていたんだ?カーソルだって、フレンド登録だって、俺たちプレイヤーのそれと何ら変わらなかったぞ」
本来、プログラムには無いはずのID。ユイはともかく、NPCやこの世界を制御するカーディナルシステムに直結しているシステムはすべて俺たちプレイヤーとはちがう。しかし、ストレアは《メンタルヘルスカウンセリングプログラム》であるにも関わらず俺たちプレイヤーと同じIDを持ち、カーソルやフレンド登録も同様だった。
「恐らくですが、登録だけされていた未使用のIDに上書きする形で、この世界に構築されたのではないかと思われます。ストレアさんの持つ、IDの登録日と、初めてログインした日が二年も空いているので」
「なるほどな・・・・・・IDを作っておいて、プレイしなかったヤツのデータに乗っかった形になったのか」
ユイの言葉に、ストレアの謎がわかった。
「それで・・・・・・ストレアちゃんはどうしたら助けられるのかな?」
「可能性があるのは、ストレアを取り込んだラスボスのアバターを倒すことだ。ストレアのIDが無事という事は、まだ完全にストレアはラスボスに取り込まれた訳じゃない。なら、ストレアを取り込んだ大本を叩いて、ストレアを切り離せば助けられると思うんだ」
「ユイちゃんはどうかな?」
「はい、わたしも現状考え得る方法のなかでは、パパの案が最も可能性が高いと思われます」
「そっか・・・・・・なら、キリトくんの案に掛けるしかないね」
「はい・・・・・・。今回はイレギュラー中のイレギュラーなため、なにが起こるかわかりません。わたしも引き続き、ストレアさんを助けられる方法がないか調べてみます」
「わかった。頼むぞユイ」
「はい!」
ストレアを救出する。そしてまた会う、ということを決意して俺たちはみんなのいる1階に降りた。みんなにストレアのことを説明するためだ。
集めたアスナたちにストレアのことを説明したそのあと、俺たちはストレアを助け出すという確固たる思いを胸に、翌日からの攻略に思いを震わせた。
現在の最前線 第99層
残り 2層