ソードアート・オンライン 黒の剣士と紅の剣舞士 二人の双剣使い 作:ソーナ
~キリトside~
《二刀流》ソードスキル、《ジ・イクリプス》27連撃を放ち、膨大な量のHPが無くなった最後のボス。ホロウストレアが消えてのを見て、俺は《ジ・イクリプス》の27連撃目の左突きのままだった姿勢を解き、その場に静かに座り込んだ。
「・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。・・・・・・た・・・・・・倒したか?」
「・・・・・・うん。倒したよ、キリトくん」
息も絶え絶えにして言う声に、俺に背中を預けるようにして後ろに座るレインも同じように息を整えて言った。
この紅玉宮最奥部の部屋のあちこちに、この最後の戦いに挑んだ猛者たちが座り込んでいた。
「ぜぇ・・・・・・ぜぇ・・・・・・もう駄目だぁ!へとへとで・・・・・・立っているのもやっとだぜ。今は第一層のザコイノシシにだって、勝てる気がしねぇ・・・・・・」
クラインは刀を支えにして、床に膝をつき。
「情けないわね。ここまで来たんだから、最後までしゃきっとしなさい!」
「それは、無理だよリズ・・・・・・もう・・・・・・疲労困憊・・・・・・。それにリズだって座ってるじゃない・・・・・・」
「あはは・・・・・・。アスナの言う通り・・・・・・あたしも実のところ、もうぐったりよ・・・・・・」
アスナとリズはヘナヘナと、その場に崩れる。
「ふぅ~・・・・・・。ピナ、おつかれさま」
「くるるるぅ」
「今はあたしがピナの肩に乗って休みたいかも・・・・・・」
ピナは息を整えているシリカの肩に止まって、シリカの頬に頬擦りをしていた。
「さすがに・・・・・・疲れたわね・・・・・・」
「ホ、ホントだよ・・・・・・。剣道の試合よりも、ぜんっぜんキツイ・・・・・・」
シノンとリーファは弓と片手剣を収納し、ポーションでHPと喉を潤していた。ちらほらと、二人と同じことをしている人の姿が見える。
「ラム・・・・・・おつかれ・・・・・・」
「リーザも・・・・・・おつかれさま・・・・・・」
ラムとリーザは壁に背を預けて、互いを労っている。
「お疲れ、姉ちゃん、フィリア」
「あなたもお疲れさまですよ、ユウ・・・・・・」
「うん。おつかれユウキ・・・・・・」
ユウキ、ラン、フィリアはハイタッチをして喜びを分かち合っていた。まあ、声に覇気が無かったのは疲れていたからだけど。
そこで俺はあいつがいないのに気付いた。
「(何処行ったんだあいつ?)」
まさか逃げたわけでもない―――というより、あいつが逃げるとは思えない。そう考えながらホロウストレアが消えた場所を見る。やがて。
「お、おい!ストレアはどうなる!?解放されるんじゃないのか!?」
俺はふとそう声に出した。
ユイの言葉通りなら、ストレアはボスから解放されているはずなのだ。まさか、何かが足りないのかと予感が過るその時。
「あ・・・・・・!キリトくん、見てよあそこ!なにか光ってる!」
レインが今まで、ボスのホロウストレアがいた場所に指を指した。
レインの指の差す先を見ると、そこには人一人分くらいの光る球体があった。
「あの光の中・・・・・・。誰かいるように見えませんか!?」
「ストレア!?」
「ストレアちゃん!?」
シリカの声に、徐々に明確になった光る球体の中を見て俺とレインは立ち上がり光る球体へと向かう。
「おい!ストレア!」
「ストレアちゃん!」
「ん・・・・・・うう・・・・・・。キ・・・・・・リト?レ・・・・・・イン?」
「手を伸ばして!ストレアちゃん!」
「う・・・・・・ん」
レインの伸ばした手に、球体の中から掴んだストレアの手を俺とレインはがっしり掴み、球体から引っ張って球体から引き離す。
ストレアが球体から出ると、球体は小さくなって消えていった。
「ストレア!よかった!元に戻れたんだな」
「・・・・・・ここは?」
「アインクラッド第100層。紅玉宮だよ」
「100層・・・・・・?」
「ああ。最後のボスを倒したよ・・・・・・」
目覚めたばかりでなのか、意識は一応あるみたいだけど処理が追いついてないストレアはゆっくりと周りを見て状況を把握した。
「そうなんだ・・・・・・。よかったね、おめでとう」
笑みを浮かべて言ったストレアに、俺は。
「ストレア・・・・・・。君に謝らなければならないことがある・・・・・・。今まで俺たちの、プレイヤーたちの感情を押し付けて、ごめん」
すべてのプレイヤーを代表して、ストレアに謝った。ストレアがこうなってしまったのは、元はと言えば俺たちプレイヤーのせいなのだから。
「ふふ・・・・・・。謝ったりしないでキリト・・・・・・。レインも、そんな顔しないで・・・・・・。それでも、二人はアタシを助けてくれた」
「そんな・・・・・・。助けたなんて・・・・・・そんなの私たちは・・・・・・」
「助けた・・・・・・。俺はそんなことは出来ていない」
ストレアの言葉に俺とレインは否定した。俺たちはストレアを助けられてないからだ。そんな俺たちの感情を察したのか、ストレアは。
「違うよ、キリト、レイン・・・・・・。ちゃんと助けられているよ・・・・・・。・・・・・・アタシ、このゲームがクリアされてアインクラッドと一緒に消えちゃうことが、すごく怖かった、でも、みんなといると、すごく楽しくて・・・・・・。アタシが消えないために、キリトやレインたちを阻止しないといけないのに・・・・・・。みんなを傷つけたくもない・・・・・・。どうしたらいいか、わからなくて・・・・・・」
「ストレア・・・・・・」
「ストレアちゃん・・・・・・」
「だけど、アタシは自分が消えるよりも、キリトやレインたち、みんなが消えちゃうほうが嫌だったみたい。結局、最後はキリトを助けちゃったもんね」
「すまない・・・・・・」
あの時、ストレアが俺を助けてくれなかったら、恐らく俺はここにいないだろう。あの、須郷が持っていた最凶の武器に刺され、この世界からも現実世界からもいなくなっていたはずだ。そして、レインや
「ううん・・・・・・後悔はしてないよ。キリトが生きててくれて、アタシはすごく嬉しい。胸の奥がね、とても温かいの・・・・・・。プログラムとしては失敗作だけどね・・・・・・。えへへ・・・・・・」
「そんなことないよ!」
「レイン・・・・・・?」
ストレアの言葉を否定するように、レインはストレアの身体を抱きしめて言う。
「ストレアちゃんが失敗作なわけない!だって、ストレアちゃんは私たちみんなの精神を・・・・・・心を癒す
「レイン・・・・・・」
「ああ。ストレア・・・・・・」
「キリト・・・・・・」
「君は失敗作なんかじゃない・・・・・・。ストレアは俺たちの、最高の仲間だ」
ストレアを抱き締めるレインの言葉に続くように、俺もストレアの手を握って断言するように答える。
「・・・・・・えへへ。嬉しいな・・・・・・キリト、レイン。あ・・・・・・」
「どうした?」
「ストレアちゃん?」
唐突に顔を曇らせ、言葉をとぎらせたストレアに俺とレインは声をかける。
「もう限界みたい」
「限界・・・・・・?」
「うん。アタシのデータがメモリから消去され始めてる。・・・・・・そろそろ、お別れね」
「うそ・・・・・・っ!」
「消去!?消去ってなんだ!?」
ストレアの弱々しい言葉に、俺たちは驚愕する。
そんな俺たちに。
「あっ!まさか!?」
「ユイ!?何か知ってるのか!?」
ユイが声を上げた。
「おそらくですが・・・・・・100層のボスと一体化したことによる弊害です。100層ボスの消去中に、カーディナルシステムがストレアさんの存在を発見・認識し。異物として削除しようとしているんだと思います・・・・・・」
ユイの言葉通りなら、つまりストレアは存在を無に・・・・・・いや、無かったことにされてるということだ。プログラムを削除するということは、そのプログラムにとっては死も同然。そして、何も無かったかのようにされるという事だ。
「そんなっ!?ストレア!ストレア!!」
「ストレアちゃん!ユイちゃん、何か手はないの?!」
ストレアの言葉に、レインはユイに聞く。
ユイもどうすればいいのか分からないようだった。
「キリト・・・・・・レイン・・・・・・二人ともそんな顔しないで・・・・・・。アタシはメンタルヘルス・カウンセリングのプログラムなんだよ・・・・・・。二人にそんな顔させちゃったら、カウンセリング失敗になっちゃうよ・・・・・・」
「けど!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・そうだな・・・・・・笑わないとな・・・・・・」
「キリトくん!」
諦めたように言う俺にレインは非難するように呼ぶ。
俺はレインの顔を見て目を合わせる。
「・・・・・・!」
俺の言いたいことが分かったのか、レインは歯を噛み締めるような表情をし。
「ストレアちゃん・・・・・・これで・・・・・・いい?」
「どうだ?これでいいか・・・・・」
ストレアに無理やり作ったような笑みを見せる。それを見たストレアは、満足したような表情を見せ。
「うん・・・・・・ありがと・・・・・・キリト・・・・・・レイン・・・・・・。これで・・・・・・アタシの・・・・・・最後のカウンセリング・・・・・・完了だね・・・・・・」
「ストレア!おい!ちょっと待ってくれ!!」
「待って!ストレアちゃん!!」
「さよなら・・・・・・キリト・・・・・・レイン・・・・・・」
そう言うと、ストレアは小さな光の粒子となって消えていった。
俺たちが何もできない中、ただ一人行動に移した人がいた。それは―――。
「ストレアさんっ!!消させないっ!!一人になんか、絶対にさせない!!ストレアさんは・・・・・・。ううん、ストレアはわたしの妹なんだからぁ!!」
「ユイ・・・・・・」
「ユイちゃん・・・・・・?」
ユイだ。ユイは涙を浮かべて目を閉じた。
「・・・・・・・・・・」
ユイが目を閉じて数秒後、目を開けたユイは俺たちの方を見てニッコリと、やり切ったような笑みを浮かべた。
「へへへ・・・・・・大丈夫です。ストレアは、ちゃんとわたしと一緒にいます。今は《わたしたち》が有るべき姿に戻っただけです」
「ユイちゃん、それって・・・・・・」
「また・・・・・・ストレアに会えるのか?」
「もちろんです!わたしが保証しますよ!」
どうやら、ユイはストレアがこの世界から完全に消される前にストレアのデータを自分に移植したようだ。あの時、黒鉄宮地下迷宮のコンソールでユイが消えそうになったとき俺がしたような事をしたみたいだ。
「ありがとう・・・・・・ユイ・・・・・・」
「さあ、パパ!あとはクリアを待つだけですよ!」
「クリア・・・・・・そうか・・・・・・」
「最後のボスを倒して、ストレアを救ったんです。これはもう大団円ですよ!」
「キリトくん・・・・・・これで終わりなんだよね」
「ああ・・・・・・」
レインにそう声を発しようとして、俺は目の前の主のいない玉座に視線を向けた。
「―――いや、まだだ」
「え?」
辺りのみんなが疑問に思っている中、俺は一人のプレイヤーの名を呼んだ。
「そこにいるんだろ、ヒースクリフ」
『『『『『っ!』』』』』
俺がそう呼ぶと、辺りから息を呑む空気が感じられた。そして。
「さすがだなキリト君」
玉座から一人のプレイヤー。ヒースクリフが現れ、そこから下りてきた。
「カーディナルシステムは直ったのか?」
「うむ。無事、元に戻った」
「そうか」
ヒースクリフがいなかった理由は、ボスが倒されると同時にカーディナルシステムを復旧させに向かったからだろう。そう考えながらヒースクリフを見る。
玉座のところから下りてきたヒースクリフは、俺たちと間を空けて言葉を話す。
「さて、まずはこう言おうか。―――クリアおめでとう、実に見事な勝利だったね」
そう、一プレイヤーとしてでは無く、この世界の管理者として言った。そこに俺は。
「さっきの戦いにはあんたもいただろうが」
と、皮肉を混じえて返す。
「ふ。途中からではあったがね」
ヒースクリフも皮肉を混じえて言ってくる。
「それで・・・・・・話してもらえんだよな?あんたが生きてる理由・・・・・そして、何故この戦いに現れたのか・・・・・・これまでの事を洗いざらいすべて話してもらうぞ、ヒースクリフ!」
「もちろんだとも」
俺の言葉に、ヒースクリフは重々しく頷き返した。
「さて、まずは君たちにお詫びをしなくてはならない」
「詫びだと?」
俺の問いにヒースクリフは頷いて返す。
「ここまで何の説明もしないでいたこと・・・・・・。本当に申し訳なく思ってる。何故そんなことになったのか。そして私が生きている理由を、すべて君たちに説明しなければならないだろう」
そう、言ったヒースクリフはここまでの顛末のことを話した。
「発端は、75層でキリト君と戦っていた時に発生したシステム障害が原因だ。あの時、この世界を管理しているカーディナルシステムに予想外の負荷がかかってしまった。負荷の要因のひとつは、プレイヤーの負の感情によって引き起こされたエラーの蓄積・・・・・・。君たちがよく知っているであろう、メンタルヘルス・カウンセリングプログラム。MHCP試作二号・・・・・・コードネーム《ストレア》。彼女はこの世界のプレイヤーたちがかかえる、負の感情に対処できず、次々とエラーを蓄積していき・・・・・・。やがて抑えきれなくなった、膨大な量のエラーがカーディナルシステムのコアプログラムに流れ込んできてしまった」
「ユイの言っていたとおりか・・・・・・」
ヒースクリフの言葉に、俺はユイが言っていたとおりだったと声に出した。ユイも、ストレアと同じだったからだ。
「そして、負荷の要因のもうひとつが須郷君たちによる、外部からの干渉だ。外部干渉という例外的状況の対応に、カーディナルシステムの処理能力の多くを割かなくてはいけなかった。このふたつの出来事が想定外の負荷を引き起こし、カーディナルシステムの一部が暴走するという結果になってしまった。その結果・・・・・・」
「いまの状態、ということか・・・・・・」
俺の予測した通り、カーディナルシステムの暴走したため俺たちの武器や防具、スキルのエラーが起こり、さらに76層より下層にも転移できなくなったわけだ。
「うむ。さらに、キリト君とレイン君、そしてフィリア君が飛ばされた《ホロウ・エリア》もそれでアクセス制限が解除されてしまったのだ」
「っ!」
予想していたとはいえ、まさか《ホロウ・エリア》の解放もカーディナルシステムの暴走による弊害とは、俺も驚いていた。
そして、俺は―――いや、俺とレインはヒースクリフの発した言葉に息を飲んだ。
「さらに、キリト君とレイン君の二つ目のユニークスキル《シンクロ》。あれは、全十種あるユニークスキルの番外のユニークスキル。本来であれば、プレイヤーには入手出来ないはずのユニークスキル。いや、全スキルをはるかに凌駕するスキル。ならばユニークスキルを超えたスキル、アルティメットスキルと言うべきかな」
ヒースクリフの言葉に俺は。
「アルティメットスキルって・・・・・・随分と安直な名前だな」
そうツッコんだ。レインは微妙な表情をし、アスナたちは苦笑いをしていた。
「それで、なんで俺とレインにその本来入手出来ないアルティメットスキルが現れたんだ?」
「アルティメットスキル《シンクロ》は《ホロウ・エリア》に封印されたスキルでね。《ホロウ・エリア》の解放とともにその封印も解かれたのだろう。《シンクロ》の取得条件は『互いの絆が最高値であることと、全てにおいて最高であること』だ」
「えっと・・・・・・つまり?」
「ふむ、簡単に言い換えると、『結婚していてお互いのことを最も信用・信頼しており、すべてのプレイヤーを超えたスキルを保持している』ということになる」
「それが俺とレインだと・・・・・・?」
「そういうことになる」
『『『『『なるほど~』』』』』
「って!なんで、みんなも同意してるの!?」
ヒースクリフの言葉に唖然とする俺とレイン以外のみんなが納得といった感じに頷いていた。
「それにしても、まさか《シンクロ》の
ヒースクリフも珍しく驚いたというような表情を浮かべて見せる。
「よって、システムの暴走という非常事態により、私は自動的に管理者モードに移行・・・・・・。キリト君との戦いの最中に、あの場から消える形となってしまったんだ。一刻も早く、このことを伝えたかったのだが、その後も不具合の対応に追われてしまってね。こうして君たちの前に出てくるのに、かなりの時間を費やしてしまったというわけだ」
「つまり・・・・・・あのとき勝負はついてなかった・・・・・・」
「そういうことになる・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
ヒースクリフの言葉に、俺は声がでなかった。
「それにしても、君たちには本当に驚かされた。須郷君の予測外の動きに対しても、君たちはみごとに対応した。やはり、ゲームの運営には想定外の事態がつきまとうものだな。それが面白いとも言えるのだが」
「当たり前だ!これだけ人間が深く関わる世界ですべてが思い通りになると思うなよ」
ヒースクリフの言葉に、俺はこの二年間の日々を思い返して言う。
「もちろん、その通りだ。しかし・・・・・・私の思い通りになることもある。例えば、ゲームクリアの可否」
「・・・・・・この期に及んで、もしかしてクリアさせないとか言わないよね・・・・・・」
レインのその問いに、ヒースクリフは首を横に振って。
「それは無い」
と断言した。
「これでもフェアプレイを心がけているつもりなんだがね」
「いやいや、自身を不死属性にしてどこがフェアプレイを心がけてるんだよ」
「少なくとも、須郷君のしたような、高位アカウントからの干渉はしてないつもだ。もっとも、私がそのようなことをするとでも思うかね?」
「ないな・・・・・」
ヒースクリフの言葉に、俺はヒースクリフと須郷を比べた。管理者に近いアカウントを使い、自身の野望のためにプレイヤーに虐げた須郷と、俺たちと同じように一からやってきたヒースクリフ。どちらがフェアプレイかと言うと、断然的にヒースクリフだ。
「君たちは間違いなく、100層のボスを倒した。本来の想定とは違う、イレギュラーなボスではあったがね。もちろん、イレギュラーだからといって、君たちの勝利を取り消そうなんてつもりは、まったくない。そもそも、最後のボス戦に途中からとはいえ、遅れたのは私のほうなのだから。あらためて、賞賛を送ろう。クリアおめでとう、勇敢なる者たちよ」
ヒースクリフの賞賛の言葉に俺はクリアした気分にはなれなかった。
「・・・・・・・・・・気に入らないな」
「数々の非礼はわびよう。約束を違えたのは、こちらの責任だ」
「そうじゃない。あんたはさっき、100層のボスをイレギュラーだったと言ったよな」
そう、ヒースクリフはさっき100層のボスはイレギュラーだと言った。ヒースクリフの言う、イレギュラーなボスとは、あのホロウアバターとホロウストレアであろう。ホロウアバターに吸収されたストレアが実体化したのがホロウストレアなのだから、あのボス二体は同一と考えるべきだろう。けど、俺が気に入らないのは、そんなことじゃない。
「100層のボスは私が受け持とうとしていたからな・・・・・・」
「・・・・・・俺たちはこのゲームを───SAOを二年以上プレイし続けてきた。文字通り、命をかけてな。そのゲームのラスボスが、イレギュラーな存在だった、だと?それはプレイヤーに対する、裏切りってもんなんじゃないのか」
俺個人、一プレイヤーとしてゲームクリアは目標であり夢だ。それが、本来のボスとは違う、イレギュラーなボスとなると、俺としてはどうやってもクリアしたとは言えなかった。
「───つまり君は、無謀にもこう言おうというのか?本来のボスと決着をつけさせろ、と」
「・・・・・・いま、思っていることを言えと言われたら、そうなるな。とはいえ、もちろん、みんなを巻き込むつもりは無い。100層のボスを倒したことは間違いないんだ。俺以外の全員をログアウトさせてくれ。その後・・・・・・俺と勝負してほしい」
「・・・・・・・・・・・・」
俺の言葉にヒースクリフは眉根を寄せた。
そこに。
「ちょ、ちょっと、お兄ちゃん!?なに言ってるの!?クリア出来たんだから一緒に現実世界に帰ろうよ!」
スグがそう言ってきた。
「スグ・・・・・・すまない。けど、これは、俺の・・・・・・俺なりのけじめの付け方なんだ。いまここでヒースクリフを倒さずに、ゲームをクリアしてしまったら。俺は現実世界に戻っても、きっとこのままSAOに縛られたままだろう。心をアインクラッドに残したまま現実世界に帰っても、むなしいだけだ」
「ええっ、そんな!?」
「大丈夫。スグより、ほんの少し帰るのが遅れるだけだ。先に帰って、夕飯でも作って待っててくれよ」
そうスグに朗らかにいつも通りに言う。
これは俺のやりたい事だから。ヒースクリフという本来のボスを倒したいから、みんなを巻き込む訳にはいかないと。そう思って言うと。
「・・・・・・・・・イヤ」
「スグ?」
「お兄ちゃんとまた離れ離れになるなんて、ぜったいにイヤ!お兄ちゃんが残って戦うなら、あたしだってそうする!!」
「なに言ってんだ!」
突然のスグの否定の言葉に俺は驚愕する。さらにそこに乗るようにクラインとシノンが。
「俺も乗るぜ、キリ公。本当のラスボス倒してアインクラッドに、ケリつけよーや!」
「私も乗るわ、この決着。ケリをつけなきゃならないのは私も同じなの」
「クライン!シノン!みんなの命まで危険にさらす必要はない」
振り返って二人に向かって言う。そこにさらに。
「あたしだって、このゲームにはアンタと同じだけのプレイ時間を費やしてきているんだからね。ここでしっかり終わらせないと、費やした時間が無駄になるような気がする。一緒にケリつけようよ」
「あ、あたしも残りますっ!キリトさんを残して、自分だけ帰るなんて出来ませんから!!キリトさんと一緒に現実に帰るんです!」
「リズ・・・・・・シリカ・・・・・・」
「わたしも一緒に戦うよ!他の人と比べて、キリトたちと過した月日は短いかもしれないけど・・・・・・わたしはキリトとレインから色んなことを学んだの。その中でも一番大切なことが・・・・・・困難に立ち向かうための強い心なんだから!」
「フィリアまで・・・・・・」
「わたしも残るわキリト君。みんなを置いて、一人だけログアウトするって言うのは嫌だもの。最後まで、みんなと一緒に戦うわ」
「アスナさんの言う通りですね。私も残ることに賛成ですよキリトさん」
「ええ。俺たちだって、キリトと同じ思いですから。一緒にこの世界のケリ、つけましょうよ」
「アスナ・・・・・・リーザ・・・・・・ラム・・・・・・」
「やれやれ、保護者としてオレも付き合う必要がありそうだな」
「オレっちも残るぜキー坊」
「エギル・・・・・・アルゴ・・・・・・」
次々と上がる声に戸惑っていると。
「まったく・・・・・・何時もそうですよキリトさん。自分勝手で、周りのことなんて気にしないで、私たちが思っていることを無視して進めるんですから」
「ホントだよキリト。ボクたちもさ、この世界に蟠りを残したくないんだ。だから、ボクたちも残って戦うよ」
「ラン・・・・・ユウキ・・・・・二人まで・・・・・・」
俺の行動は全てお見通しだ、と言うような目で幼馴染みの姉妹が言ってきた。適わないな、と二人に思っていると。
「キリトくん」
「レイン・・・・・・」
レインが俺の目の前に立った。
「キリトくん、私も残るからね。この世界に虚しさを残したくないし、本来のボスを倒したいんだ。私も・・・・・・ううん、ここにいるみんな、キリトくんと同じ気持ちなんだよ」
レインの言葉に、ここまで戦ってきた攻略組のみんなを見る。
リンドさんをはじめとしたすべてのプレイヤーが、その言葉に頷いて、その目にはみんな同じ感情が篭っていた。
「みんな・・・・・・」
「それに、キリトくんは負ける気なんて微塵もないんでしょ?」
「ああ」
「なら、大丈夫。私たちはキリトくん、君に全てを託すよ!」
つまり俺にヒースクリフとの戦いを全て任せるという事だ。
レインの言葉に俺は、目を閉じて、意識を集中させて。
「ありがとう、みんな」
決意の篭もった目でみんなを見る。
そして、俺はヒースクリフの方に向き直り、背中の双剣。『エリュシデータ・ナイトローズ』と『ダークリパルサー・ユニヴァース』を抜き放つ。
「ふ・・・・・・人の意思というものは本当に面白い。私は、この光景が見たくて、SAOを作り上げたのかもしれないな」
「その、あんたの作ったこの世界を、今ここで俺が・・・・・・いや、俺たちが終わらせる!」
「―――よろしい。ではかかってきたまえキリト君。正真正銘のラストバトルを始めよう!」
「ああ!いくぞ、ヒースクリフ!」
いまここに、あのときの戦いの決着の―――正真正銘、この世界のラストバトルの戦いの火蓋が切られた。