ソードアート・オンライン 黒の剣士と紅の剣舞士 二人の双剣使い   作:ソーナ

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HF編 第143話〈世界の終焉〉

 

〜キリトside〜

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

紅玉のライトエフェクトを煌めかせて、片手剣ソードスキル《ヴォーパル・ストライク》の『エリュシデータ・ナイトローズ』を全力で撃ち放つ。今まで誰も破ったことない、ヒースクリフの十字盾を突き破り、一直線にヒースクリフ目掛けて伸びて行く。やがて。

 

「・・・・・・見事だ、キリト君」

 

ヒースクリフのHPは0になった。

そう、ヒースクリフが静かに告げると、ヒースクリフの身体は白く光、やがてその身体をポリゴンの欠片となって消えていった。

それと同時に。

 

 

 

『ただいまより、プレイヤーのみなさまに緊急のお知らせを行います。現在、ゲームは強制管理モードで、稼働しております。全ての、モンスター及びアイテムスパンは停止します』

 

 

 

ゴーン、ゴーン、と重い鐘の音が鳴り響きシステムアナウンスが流れ。

 

 

 

『3月7日、14時45分、ゲームはクリアされました。ゲームはクリアされました』

 

 

 

俺たちの、長かった約2年半のアインクラッドでの日々に今、終止符が打たれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん・・・・・・ココは・・・・・・」

 

ヒースクリフを倒し、システムアナウンスが聞こえそれと同時に俺たちの身体が光り、次に目を開けるとそこは黄昏時の、雲が覆い夕陽を照らすどこかだった。

身体は、紅玉宮にいたのと同じ黒いコートの装備を着て、背中には二本の剣が鞘に収められていた。

 

「まだアインクラッドの中なのか・・・・・・?」

 

そう思って右手を軽く振るが、出てきたウインドウにはたった一文、『最終フェイズ実行中 37%』とだけ書かれていた。それを見て、特にほかに何も無いことがわかるとウインドウを消し辺りを見渡す。そんなとき。

 

「───キリトくん」

 

「っ!」

 

後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。その声は、俺の最も大切な、最愛な人のものだった。声のした後ろを振り向くと、そこには先程までと全く変わらずに、赤いドレスのような紅のコートを着て、腰に俺と同じ二本の剣を鞘に収めてる女の人。レインが立っていた。

 

「レイン・・・・・・」

 

「キリトくん・・・・・・っ!」

 

レインはそのまま俺に向かって飛び込んで、抱きついてきた。

 

「もう!ホント、キリトくんはバカなんだから!」

 

「ば、バカって、あのな・・・・・・」

 

「一歩間違えたらキリトくん、死んでいたのかもしれないんだよ?!」

 

「そ、それはそうだが・・・・・・」

 

レインの言葉に、俺は視線を泳がせる。なにせ、さっきの戦いでかなりの無茶をしたのは自覚してるからだ。

 

「───でも、キリトくんが無事なら、私は嬉しいよ」

 

「レイン・・・・・・」

 

「ところでここは・・・・・・あ」

 

辺りを見渡すレインの視線の先には、ひとつの浮遊している大きな鋼鉄の城があった。しかし、それは下の方から崩壊していた。その城は。

 

「───アインクラッド」

 

俺たちが約2年半の間過ごしてきた浮遊城アインクラッドその物だった。

 

「中々に絶景だな」

 

突如聞こえてきた声の方を向くと、そこには一人の白衣を着た男性が崩壊していくアインクラッドを見て佇んでいた。

 

「茅場晶彦・・・・・・」

 

その人物は紛れもなく、SAOを開発しこの世界をデスゲームにした茅場晶彦本人だった。

 

「現在、アーガス本社地下5階に設置されたSAOのメインフレームの記憶装置で、データの完全消去を行っている。あと10分ほどで、この世界の何もかもが、消滅するだろう」

 

「アインクラッドにいた人たちは・・・・・・?」

 

「心配には及ばない。さきほど、あの場にいたプレイヤーを含め、生き残った全プレイヤー6089名のログアウトが完了した」

 

「・・・・・・死んでいった4000人はどうなる」

 

「どこの世界でも死の定義は変わらない。彼らの意識は永遠に戻ってこないよ」

 

「・・・・・・なんで・・・・・・こんなことしたんだ?」

 

「それは、何故このデスゲームを始めたのか、ということかね?」

 

「ああ・・・・・・」

 

「何故だろうね。私も長い間忘れていたよ。今となっては、何故こんなことしたのかわからないな。フルダイブ環境システムの開発を始めた時、いや、そのはるか以前から私はあの城を・・・・・・現実世界のあらゆる枠の法則を超越した世界を作り出すことにだけ欲してきた」

 

思い返すように、今まさにこの世界から消え行こうとする鋼鉄の城を茅場晶彦はみる。その表情は、小さな子供が夢を描いているようだった。

 

「そして私は・・・・・・私の世界の法則すらも超える者を見ることが出来た。キリト君とレイン君。君たちは私の予想を大きく超え、その結果を見せてくれた」

 

茅場の言葉に少し驚きつつも、レインと共に茅場を見る。

 

「空に浮かぶ鋼鉄の城の空想に私が取り憑かれたのは、何歳の頃だったかな。この地上から飛び立って、あの城に行きたい。長い間、それが私の唯一の欲求だった・・・・・・。私はね、キリト君。まだ信じているのだよ。何処か別の世界にはあの城が本当に実在するのだと」

 

「ああ・・・・・・。そうだといいな・・・・・・」

 

「うん・・・・・・。そうだといいね・・・・・・」

 

俺とレインの言葉に茅場は口角を少しだけ上げ。

 

「君たちがこの世界に来てくれて本当に良かった。私の夢想の中で、君たちは真剣に生きてくれた・・・・・・」

 

「・・・・・・。確かに、この世界はゲームの中だ。だが、それと同時に、俺はこの世界はゲームの中ではなく、もうひとつの現実だと思っているよ」

 

「私も・・・・・・辛いことや悲しいことが色々あったけど、ここは私たちにとって現実世界とかけがえのない、もうひとつの現実世界だと思うな」

 

茅場の言葉に俺とレインはそう返す。俺たちにとってこの世界。SAO───浮遊城アインクラッドはもうひとつの現実世界だと、そう思うから。

 

「・・・・・・そう言ってくれるのか・・・・・・やはり、キリト君、君と最後に戦えて良かった」

 

「ああ・・・・・・俺もだ、茅場晶彦」

 

茅場の言葉に、俺は一人のゲームプレイヤーとして、最強のプレイヤー。管理者としてのヒースクリフこと茅場晶彦ではなく、一人のプレイヤーである茅場晶彦と戦えて本当に良かったと、そう思ってる。

 

「MHCPであるユイ君とストレア君は、君たちの娘だ。創造主として君たちに、彼女たちのことを頼む」

 

「ああ、わかってるさ」

 

「もちろん、そのつもりだよ」

 

「そうか・・・・・・。言い忘れていたな。 ゲーム、完全クリアおめでとう。キリト君、レイン君」

 

茅場のクリアおめでとうに、俺とレインは無言で返す。

 

「さて、私はそろそろ行くよ。また、君たちに逢えることを願ってるよ」

 

そう言って、茅場は白衣を翻してサアッと風に乗って消えた。恐らくこの世界ではない、本当にあの城がある場所に向かって行ったのだろう。やがて、浮遊城アインクラッドは100層紅玉宮もすべて消えていった。残ったのは、この場にいる俺とレインだけだ。

 

「・・・・・・終わったな」

 

「うん・・・・・・」

 

透明な天板の縁に俺とレインは寄り添って座る。恐らく俺たちがここにいられる時間もあと僅かだろう。

 

「そう言えばユイたちは・・・・・・」

 

「アスナちゃんたちも、あの鐘の音が鳴り響いたら私と同じで光ったんだ。その後は分からないよ・・・・・・気がついたらここにいたから」

 

「そうか・・・・・・」

 

「ユイちゃんも、同じだったよ。でも、茅場さんの言葉通りなら、みんな現実世界に帰って行ったんだよね」

 

「ああ・・・・・・。ユイのデータは俺のナーヴギアのメモリーに保存されてるから大丈夫だろう。おそらくストレアも・・・・・・」

 

ユイが言った、『私たち』が元の形に戻ったということは、恐らくユイのデータと同じくストレアのデータも俺のナーヴギアのメモリーに保存されているはずだ。

 

「また・・・・・・会えるかな。ユイちゃんと、ストレアちゃん・・・・・・私とキリトくんの娘に」

 

「会えるさ・・・・・・必ず・・・・・・」

 

「そうだよね・・・・・・」

 

「ああ・・・・・・」

 

そう言いながら、俺は現実世界に帰ったらまずはユイとストレアをどうにかする事にした。ユイとストレアにまた会いたいし、それは俺もレインも、みんなも望んでいるから。

 

「あ、そう言えばキリトくんの名前、聞いてないよ!」

 

「名前?」

 

「うん!現実世界での本当の名前」

 

「はは。そう言えば教えたこと無かったっけ?」

 

「そうだよ!」

 

「すまん。えっと、俺の名前は───」

 

「うん」

 

「───桐ヶ谷・・・・・・桐々谷和人。確か歳は16歳だったはず」

 

俺はレインに現実世界での本当の名前を教えた。歳は確かもう誕生日が過ぎているから16歳のはずだ。

 

「桐ヶ谷、和人くん・・・・・・あ、それでキリトなんだ♪!」

 

「ま、まあな」

 

俺のキリトとという名前を一瞬で見抜かれ俺は視線を軽く逸らした。なにせ、俺の名前は『桐ヶ谷和人』の『桐』と『人』を繋げてキリトとという我ながら安直すぎる名前だからだ。

俺の反応に、レインはクスッと笑って。

 

「私の名前は───枳殻虹架。歳は和人くんと同じ16歳だよ」

 

「枳殻、虹架・・・・・・枳殻、虹架・・・・・・」

 

レインいや、虹架の名前を忘れないために声に出して覚える。

 

「レインの───」

 

「虹架でいいよ、和人くん」

 

「あ、ああ。虹架の名前も、『虹』からレインなんだな」

 

「うん♪」

 

俺の言葉に、虹架はえへへ、と笑って頷く。

 

「現実世界に帰ったら・・・・・・真っ先に、君に逢いに行くよ」

 

「私も・・・・・・絶対、和人くんに逢いに行くね」

 

「ああ」

 

「約束だよ」

 

そう言って出してくる小指を俺も小指を返して繋ぐ。

 

「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲~ます♪指きった♪!」

 

虹架の徹底した約束に苦笑が生まれるが、俺は約束を破るようなことはしない。もちろん、それは虹架も知っていると思うけど。

そう思った瞬間。

 

「あ・・・・・」

 

時間が来たのか、俺とレインの身体を白い光が包み込んだ。

 

「そろそろ時間みたいだな」

 

「そうみたいだね」

 

そう言う最中も光は強くなりはじめている。

 

「和人くん」

 

「ん?」

 

虹架に呼ばれ、虹架の顔を見ると。

 

「私、枳殻虹架はキリトくん。ううん、桐ヶ谷和人くんのことを愛しています。今も、これから先も、ずっと・・・・・・」

 

虹架は満面の笑みを浮かべて俺に言ってきた。

 

「俺も、桐ヶ谷和人は、枳殻虹架を永遠に愛しています」

 

そして俺も、答えるようにそう言い返した。

 

「うん♪」

 

最後に俺は虹架と、抱き合ってキスをして───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺と虹架は白い光に包まれてその場から消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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