実験室のフラスコ(2L)   作:にえる

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ガンツは漫画を読んで、映画を見たくらいです。


原作:GANTZ 無限クレジット・ガンツ1

 

 1回目

 

 気が付いたら黒い球が置いてある簡素な部屋に立っていた。

 くたびれたスーツを着ているサラリーマンの男性がテンパっていて、それをプリン頭のチャラい兄ちゃんが笑っている。

 なんとも落ち着きのない奴らだ。

 とりあえず、部屋から出て外へ向おうとしたが、扉に触れることができなかった。

 どうやら、俺はこの部屋に閉じ込められているらしい。

 

 何の目的があって……みたいなことを考えようと思ったが、俺は頭がよくないのでやめた。

 ヒントが無さ過ぎる。

 とりあえず座って休んでいると、黒い球が光線を出した。

 光線の軌跡は徐々に人間が形作られていった。

 なんぞこれぇ……。

 驚いているとサラリーマンが「君もあんな感じだった」と言い出した。

 なるほど、この黒い球は俺の父さん……いや、母さんか。

 

 現れたのは大学生くらいの男だった。

 俺らを一瞥すると壁を背に座り込んだ。

 困惑している様子は見てとれなかったことから、何か知っているのかもしれない。

 まあ、コミュ障の俺が出来ることは見送ることだけなんですけどね。

 

 次々と黒い球が人間を作り出していく。

 年齢も性別もバラバラで共通しているものは人間であるということくらいか。

 とか思ってたら、猫が転送されてきた。

 共通事項は哺乳類で決定だな。

 

 

 

 

 

 叫ぶ人やキョドる人、その様子に困惑する人、静かに見守る人、寝たふりをする俺と室内が複雑な空気に包まれていると、黒い球から音楽が流れた。

 ライオンズのテーマである。

 野球でもするんですかね、この面子で。

 球体の表面に文字が表示される。

 「お前ら死んだから頑張ってね☆」みたいな内容だった。

 俺以外の騒いでいた連中は死んだという言葉に何か憶えがあるようだ。

 俺は無い。

 寝て起きたらここにいた。

 

 情報を整理しよう思考を巡らせていると球体の表面に写真と文字が映る。

 『名前:スライム星人、特徴:よわい、口癖:「ぷるぷる、ボクわるいスライムじゃないよ」、好物:勇者』とのことだ。

 そして球体が大きな音を鳴らしながら左右に開いた。

 中にはアタッシュケースが入っていた。

 ケースにはあだ名というか蔑称というか、とりあえず名前で割り振られていた。

 それぞれ思い当たる節があるケースを手に持ってみる。

 俺には「俺さん」と書かれていた。

 消去法で余ったやつだが、たぶん俺のだろう。

 もうちょっとアレンジが欲しかった。

 「パープリンヘッド」とか「不倫離婚星人」とか「みくにゃん」とかみたいな個性的なやつ。

 

 各々がケースを受け取ると壁際で目をつぶっていた人が声を挙げた。

 「死にたくなければ中に入っているスーツを着ろ」という内容だった。

 その後の反応は人それぞれである。

 俺は着なかった。

 ピチピチしすぎてなんか嫌じゃん(真顔)

 壁際の人は俺やプリンを見て「馬鹿が」と呟いた。

 なんだそれ、こわい。

 ケースだけ持って行くことにした。

 

 テンパっていたり、状況について行けない俺のような人以外に、壁際の人のように手際がいい人たちもいた。

 その人たちは奇怪な形をした銃のようなモノを持ったり、グリップだけの何かを持っていたりと大忙しだ。

 そして、慌ただしかった室内が落ち着きを取り戻す頃にプリンヘッドのカラメルソースが消えていた。

 徐々にプリン部分も浸食が始まり、最後にはプリンを乗せる器も消えていった。

 「転送」とやらが始まったらしい。

 セイジンを見かけたら逃げろという声を遠くに聞きながら、俺の頭も消えていった。

 

 

 

 セイジンってなんだ。

 ぐう聖とかの聖人だろうか。

 そりゃあ、善良な人物を見かけたら自分の腹黒さに逃げ出したくなるけど。

 冗談だ。

 たぶん、スライムのことを言っているのだろう。

 そんなことを考えていると、夜の街中に立っていた。

 ……もう帰って良いのだろうか。

 

 俺の前に来ていたらしいプリンが男らしく歩いて行く。

 どうやら帰宅するようだ。

 止める理由も無いのでその背を見送る。

 プリンが破裂した。

 ここは電子レンジの中だったのか……!?

 

 驚き、プリンの後を追うが頭の中に調子ずれた音が響く。

 怖くなって下がると音が消えた。

 近づくと聞こえる。

 下がると消える。

 ……進まないでおこう。

 モンスターハンターだったら未知に突撃し、とりあえずモンスターに攻撃するが、俺はハンターでもない。

 そりゃあ、プリンを目指して進んでいたが俺はパティシエでもなんでもない。

 理解できないものからはできるだけ距離を置くのだ。

 

 破裂したプリンを遠くに見ていると気分が悪くなったので側溝にゲロをぶちまけようと屈む。

 青いプルプルしたそれと目があった。

 デフォルメされた雨の滴のような形状は半透明でありながら青一色、巨大な大きくて丸い白目とそれよりも若干小さい黒目は子供が描いたキャラクターのようだ。

 半笑い気味の大きな口は身体の半分を占めていた。

 スライム星人である。

 逃げろという警告を思い出して後ろを向いて、走り出すが足がもつれて転んでしまった。

 

 いってぇ、と呟くのと体中の骨が砕けているかの音が響くのは同時だった。

 何が起こったのかわからないが、全身が痛い。

 血が口から鼻から、溢れだす。

 なんだこれは。

 痛みに震え、血を撒き散らしながら振り向くとスライムがいた。

 あの間抜けな半笑いが、まるで俺を嘲笑っているかのようだ。

 怖い。

 スライムがコミカルな音とともに跳ねる。

 咄嗟に腕を頭の前で交差させる。

 硬い何かが砕ける音が体内で響く。

 何かじゃない、骨だ。

 俺の骨が砕けた音だ。

 

 激痛に悲鳴を挙げる。

 腕が上がらない。

 それでも跳ねてくるスライム。

 こわい。

 こわい。

 怖い。

 

 上手く呼吸が出来なくて、血を吐くとともに濁った音が出る。

 苦しくてしかたがない。

 涙で視界が滲んでいるのか、痛みで意識が参っているのか、わからない。

 それでもスライムは待ってくれない。

 跳ねたスライムを見て、「これは死んだな」と悟る。

 宙でスライムが爆ぜた。

 

 驚いていると手際のよかった人たちの一人が奇怪な銃のようなモノを構えていた。

 あれは武器だったらしい。

 なるほどなーと納得していると、側溝から幾匹ものスライムが飛び出してくる。

 群れのようだ。

 朦朧とする意識の中で様子をじっと見つめ続ける。

 ピチピチのスーツを着た人物はスライムの体当たりを喰らっても問題なさ気に活動していた。

 砕かれたスライムの欠片が其処ら中を青に染めていた。

 

 

 

 

 

 2回目

 

 目が覚めたら黒い球が置いてある簡素な部屋に立っていた。

 くたびれたスーツを着ているサラリーマンの男性がテンパっていて、それをプリン頭のチャラい兄ちゃんが笑っている。

 まるで先ほどの光景を焼き増ししているようだ。

 他の連中も同様の行動を繰り返していた。

 俺だけが、さっきのことを憶えているようだった。

 

 手際の良い人たちに見習って準備を進める。

 壁際の人の言葉を疑うこともせずに黙々と準備を進め、銃について質問をする。

 俺を殺したスライムを爆ぜさせた銃がXガン、強化版だが取り回し難いのがXショットガン、捕獲用がYガン、グリップから刀身が任意で伸ばせるソード、星人や互いの位置を把握できて不可視化できるコントローラー。

 装備はこんな感じらしい。

 星人を倒さないと帰宅することができないとも説明された。

 とりあえずXガンを持って突入である。

 ……ピチピチスーツだけだと恥ずかしいので、コートを着てマフラーを巻く。

 なんか露出狂になった気分だ。

 

 

 

 プリンを呼びとめる。

 囮にするためだ。

 側溝に突き落とす。

 ピチピチのスーツを着ていると筋力が強化されるようで、プリンを廃棄するのは余裕だった。

 

 *スライムがあらわれた!

 

 銃を撃つ。

 ……何も出ない、と思っているとスライムが爆ぜた。

 タイムラグがあるようだ。

 面倒な武器である。

 スライムのおかわりが現れる。

 一生懸命撃つのだが、ラグが酷くて間に合わない。

 囲まれたら素手で対処したほうが楽なことに気付いた。

 砕けるスライム、体当たりを喰らう俺、食い散らかされたプリン。

 

 スライム3体の割合で俺も1撃を喰らう。

 前回来た増援が来ない。

 延々と続く雑魚バトルに感覚がマヒし、回避をせずに攻撃し続ける。

 するとスーツが「キュウゥゥゥン」という悲鳴のような音を出し、液体が漏れてきた。

 え、スーツがゲロ吐いたの?と困惑しているとスライムの体当たりが腹部に直撃した。

 

 血を撒き散らす俺。

 群がるスライム。

 

 

 

 

 

 3回目

 

 焼き増しなのでカット。

 話を聞くと、スーツには限界があるらしい。

 耐久力が零になると液体が漏れ出して防御性能が皆無とか。

 一応、攻撃力はあるけれど、限界が来たら隠れたほうが無難だろう。

 

 転送、プリンを抱えて離脱。

 飽和攻撃によって圧殺されること間違いなしなスライム戦などやっていられるか。

 喚くプリンを無視して、コントローラーを操作。

 他の人物を探す。

 

 近くの反応へと駆けると、そこにはスーツごとミンチになった人だったものと、スライムの間抜け面をしたクラゲだった。

 離脱を考えていると「ぷるぷる、ボクわるいスライムじゃないよ」とか言い出した。

 キレた。

 一番最初に有無を言わさずに突撃してきたスライムが脳裏を過る。

 Xガンでぎょーんぎょーんする。

 

 「ぷるぷる、ボクわるいスライムじゃないよ」と繰り返しながら爆ぜた。

 こいつにやられた人がいるのにこんなあっさり……と考えていたら、クラゲが再生し出した。

 ぶっちゃけ、気持ち悪い。

 そして半笑いを貼り付けながら「ぼくホイミン。いまはセイジンだけど にんげんになるのがゆめなんだ」とか言っている。

 なんだこいつ、怖すぎる。

 後から恐怖が湧いてきたのか、震えるXガンで何度も撃つ。

 砕けるが、ホイミンとやらはその度に再生を繰り返す。

 

 「ねえ、にんげんをたべたら にんげんに なれるかなあ……?」

 

 

 

 

 

 4回目

 

 クリオネみたいに、足の付け根が開いて食われた。

 あの顔は偽装のようだ。

 なんだあれ、怖すぎる。

 

 XガンとYガンを持つ。

 ホイミンと正面から戦うのはクソゲーすぎる。

 最初のほうに転送されるとプリンとセットになるから嫌だわ。

 球体に後のほうにしてくれとダメもとで頼んでみる。

 プリンの後に最初に増援に来てくれた人が送られていった。

 なるほど、言ってみるものだ。

 

 

 

 斑模様をしたスライムが爆ぜた。

 5匹ほどで全滅したのか、現れる気配はない。

 あの青いスライムが特殊個体なのかもしれないと思いながらコントローラーを弄る。

 反応が一か所で固まっている場所を見つけた。

 とりあえず向かってみる。

 

 たどり着くと手際の良かった人たちのほとんどが集まっていたが、地面に倒れていた。

 スーツが壊れている人もいて、それらは死んでいた。

 まだ話せる人に聞いてみるが、わからないらしい。

 話を聞くに、急にスーツが耐久力を失い、倒れてしまったようだ。

 コントローラーを弄ると移動している対象を見つけた。

 そちらへ向かう。

 そこには溶けたスライムのような星人がいた。

 緑色の泡が其処ら中に撒かれている。

 Yガンを放つ。

 Xガンだと飛び散ってヤバそうだからだ。

 ワイヤーが飛んで行って溶けたスライムを拘束した。

 が、溶けているせいなのか、ちょっと動くだけでワイヤーが外れてしまった。

 なんて反則……。

 するとスーツが悲鳴を挙げ、液体が漏れ出した。

 そして全身に激痛が走った。

 

 

 

 

 

 5回目

 

 

 

 

 ……たぶん毒かな。

 クソゲーすぎる。

 今のところ把握しているのは

 

 ・スライム:群体。耐久は低い。

 ・ホイミン:再生。耐久は低い。捕食する。

 ・斑模様:雑魚

 ・溶けたスライム:毒。耐久は不明。Yガン無効。

 

 の4種類だ。

 基本的に交戦すると俺が死ぬという特徴を持っている。

 強すぎ笑えない。

 耐久が低いというのが救いかもしれん。

 

 

 

 Xショットガンを持ち出す。

 狙撃が出来るらしいので、敵の射程外から攻撃することにした。

 青いスライムとホイミンは放置だ。

 

 転送されたので溶けてるやつから狙ってみる。

 スライムが飛び散り、周りにいた人たちに降りかかる。

 すると欠片がスーツを貫通して、中身を溶かしていた。

 スーツ無効とか反則すぎだろ……。

 再生する様子はないので別の方向を狙う。

 

 ホイミンは再生を繰り返しながら徐々に迫って齧るというのが行動パターンらしい。

 食い散らかしが酷い。

 というか、頭部しか食って無い。

 脳を喰ったから喋れたのかもしれない、星人には常識が通じないようだ。

 

 

 

 青いスライムは、沢山である。

 プリンと最初の援軍も何故か生きている。

 が、スーツがおしゃかになったようで叫んでいる。

 狙撃しながら援軍に向かう。

 最初に援軍に来てくれた借りを返しておくためだ。

 

 辿り着くころにはスライム塗れになっていた。

 なんとか生きているようだ。

 情報を交換しつつ、息を整える。

 一安心も束の間、スライムの欠片が合わさって巨大なデブスライムとなった。

 頭に乗せている王冠がムカつく。

 

 XガンやXショットガンを連射するが、表面が削れるだけでダメージが入っている様子が見られない。

 最初の援軍の人が「ボス」と呼称していたことから、こいつを倒せば終わりのようだ。

 まあ、倒せる気がしないんだけど。

 援軍の人は何度かミッションに参加しているが、今回は1番キツイらしい。

 ひでぇな、おい。

 

 ゆっくりと迫り来るデブスライム。

 手詰まりに思っていると、突然壁際の男が現れた。

 コントローラーで不可視化していたようだ。

 手を貸してくれるらしい。

 ドヤ顔でロックオン機能の神髄を見せてやると言っていた。

 頼むと言いかけて壁際の人が食われた。

 *ホイミン が あらわれた!

 

 つ、詰んだ。

 

 

 

 

 

 かと思ったが、溶けたスライムの破片でダメージを負っていた人たちが援軍に来た。

 形勢逆転かと思われたが、ホイミンに食われた。

 再生が強すぎる。

 Yガンを当てたらワイヤーを触手で引き千切るというアグレッシブさ。

 引き千切る必要があるということからYガンが有効であるとわかったのが僥倖だった。

 Yガンを当てて、触手を吹っ飛ばす。

 転送が始まった。

 勝った! 5回目完!と行きたいところだがデブスライムが迫っていた。

 

 鈍足だが、威圧感が半端ない。

 逃げ遅れて1人がデブスライムの体当たりに巻き込まれた。

 スーツから液体が漏れる、どうやら一撃で耐久力を失うらしい。

 難易度が高すぎるんだけど、とドン引きしながらトリガーを何度も引く。

 効いているのかてんで分からないのほほんとした顔がムカつく。

 

 もしかして:Yガン と撃ってみるがワイヤーが巻きつく前に千切れた。

 デブ死ね。

 

 未だに何故か生きているプリンが放ったXガンが王冠に命中した。

 すると、デブだったスライムがチビに戻った。

 停滞していた戦線が動いたことから生き残りたちが調子づく。

 「この戦争、我々の勝ちだ!」「別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」「もう何も恐くない」「やったか?」

 

 スライムが砕け、破片が集まりデブと成る。

 またデブスライムがあらわれた。

 クソゲー過ぎんよ。

 

 

 

 側溝から湧き出たスライムの群れとデブスライムに挟撃されて死んだ。

 

 

 

 

 

 6回目

 

 壁際の男にロックオン機能を聞いておく。

 マルチロックに対応しているらしく、ロックオンしておけば銃口は関係ないとか。

 強い。

 というか、最初に教えろよ。

 

 

 

 転送後に出会った斑模様のスライムを撃ち殺す。

 そして、流れでホイミンをYガンで「上」とやらに送る。

 その後にビルに昇り、Xショットガンで溶けたスライムを爆ぜさせる。

 

 スライムに向けて駆けていく。

 結構死人が出ていた気がするが、しょうがないね。

 敵が強いし。

 途中で死んだ人から銃を拝借していく。

 XショットガンとYガンだけだと心許ないし。

 そのうちソードを使う練習をしようかな、と。

 スライムには効きが悪そうだから次回以降だけど。

 

 

 

 青いスライムを片っ端からロックし、トリガーを引く。

 豪快に爆ぜ、デブとなった。

 もう一度引く。

 どうやら、デブが吸収したスライムも個体として識別されているらしく、凄まじい勢いで内部が吹っ飛んだ。

 頭に乗っている王冠を撃つ。

 分裂したのでロックオン。

 デブがまた爆ぜた。

 

 これを繰り返す。

 スライムが群れが側溝から湧いたらロックしてボンだ。

 被害は減ったが、終わる気がしない。

 これはどうやら失敗のようだ。

 

 片っ端からスライムをYガンで捉える。

 それでもデブは変わらずに活動している。

 うぜえええええええ!と叫びながら王冠をYガンで撃ち抜く。

 王冠が「上」へ転送されていった。

 すると、初めてデブの挙動に変化が生じた。

 ぶるぶると震え、爆ぜた。

 スライムが集まってくる様子は無い。

 

 

 まだいるのかとコントローラーを確認するが、現れる気配はない。

 銃を構えていると、プリンのカラメルソースが消えていった。

 ミッションが終了して転送が始まったらしい。

 

 クソゲーがやっと終わるのかと息を大きく吐きながら、転送に身を委ねた。

 

 

 

 

 

 簡素な部屋で随分と減ったメンバーとともに採点を見守る。

 プリンは0点だった。

 青いスライムは得点を持っていないらしい。

 あんな強いのに。

 次々と0点が表示されていく。

 俺の番がきた。

 

 『俺さん 

 

  18点 

  

  もょもと

  ぺぺぺぺ』

 

 肩の力が抜けた。

 もうね、意味がわからん。

 まあ、この球体に意味を求める事自体が間違いなのかもしれないけど。

 床に座っていると猫が膝に飛び乗った。

 癒される。

 

 猫も帰還に成功していたようだ。

 0点だけど。

 むしろ猫がどうやって点数とるんだという話だな。

 

 

 

 

 もう帰っていいのだろうか。

 というか、部屋から出られるのか。

 

 

 

 

 

 

 6回目

 

 あの部屋に鎮座している黒い球は『ガンツ』と呼ばれているらしい。

 死んだ人間をどこからともなく呼び出し、ミッションとして『星人』と戦わせる。

 ミッションはエリアが指定されており、時間も制限されている。

 エリアから出れば脳に埋め込まれた爆弾が破裂して死亡、時間が切れると得点が0点となって部屋に戻される。

 また、無関係の人間に見られても死ぬとか。

 

 ルールとしては人間と『星人』のバトルロイヤルが基本のようだ。

 勝つと再び部屋へと戻され、採点が始まるという。

 もちろん死ねば部屋に戻ってくることはできない。

 このサイクルが無限に続くのかといえばそうではなく、100点を得ることで解放されるらしい。

 

 つまるところ、100点まで溜めなければゲームは終わらない。

 

 

 

 ミッションが終了すると部屋から出られるようになった。

 その際、スーツや武器は持ち出しても良いらしい。

 欠点は一般人に見られると死ぬとか。

 とりあえずソードだけ借りていこうかと思ったが、スーツのアシストなしだと重すぎる。

 仕方なしに一通り持ち帰ることにした。

 

 プリンの兄ちゃんは先ほどまでの戦いを思い出したのか、手を震わせながらスーツ一式を手に持って帰って行った。

 ミッション前よりも人数の減った、帰還したメンバーがぽつぽつと帰っていく。

 観察していたが、猫は帰る様子を示さない。

 扉を閉めるにしても、こいつが出ていってくれないと困る。

 放置するわけにもいかないし。

 

 先に俺が痺れを切らして立ち上がり、外へと向かう。

 どうしてだか、猫は俺の後に付いてきた。

 都合がいいのでそのまま帰る。

 やはり猫は付いてきた。

 

 

 

 ときどき思い出したようにスーツを着て、深夜の森で武器を扱う。

 Xガンも練習したいのだが、爆ぜる音がよろしくない。

 木を敵に見立ててソードを振り回していたのだが、ある日木を切らない様にと看板が立てられたことから素振りしかしていない。

 うまくいかないものだ。

 

 日中は学校へと、通ってテキトーに過ごす。

 星人との戦いを思い出すと日常の平和具合は暇すぎる。

 手に汗握る戦いを望んでいるような、でも怪我や死亡は勘弁したいような。

 複雑だ。

 

 

 

 部屋で漫画を読んでいたら背筋が凍るような奇妙な感覚に陥った。

 猫が奇声をあげている。

 スーツを手に持って、猫を抱える。

 転送が始まった。

 

 部屋に着くとすでに見知らぬ人々がいた。

 新しく補充されたのだろう、新しい顔しかいない。

 説明しようかと思ってやめる。

 どうせ死んだら無意味だし、必要なときがきたら教えるとしよう。

 

 着替えてくると奇異の視線に晒された。

 露骨に嫌悪感を現している者もいて、先は長くないだろうと思わされた。

 前回の生存組も転送されてきていた。

 軽く挨拶を交わすと入れ替わりで奥の部屋へと向かった。

 

 続々と増えるコスプレスーツたちに新入りのSAN値は0に向かいつつあるようだった。

 

 

 

 ライオンズのテーマが流れる。

 カブレラが結構好きだったなと思いながら映し出された情報に目を向ける。

 『名前:きょじん星人、特徴:よわい、口癖:「ママ」、好物:人間』とのことだ。

 ライオンズだから巨人を倒せとか、そういうわけでは無さそうだ。

 球体に描かれている星人の絵は目がイッた醜悪な人間のようだった。

 

 死にたくなければスーツを着ろ、と伝えているのを眺めながら猫にスーツを着せる。

 とりあえず今回の方針として、コントローラーでステルスしながら弱点を見つけることにする。

 囮も多く補充されているので都合が良い。

 

 武器の種類と総数が少ないんだよね、みたいな話をしつつ吟味。

 とりあえずYガンを猫の背に括っておく。

 みんなXガンやソードが好きらしく、余ったのはXショットガンだった。

 あの情報だけでは判断が付かないが、必要となれば現地で調達するし問題ないはず。

 

 猫があまり離れない。

 しょうがないのでガンツに猫と一緒に送るように伝える。

 そして、転送が始まる前に猫を頭に乗せ、不可視状態になっておく。

 出会い頭に攻撃されたら不意打ちで死ねる自信がある。

 ざわつく新人を無視して転送が始まった。

 

 

 

 転送先は一帯が廃墟となっているビル群だった。

 月明かりのみというのは怖いモノがある。

 悲鳴が聞こえた。

 野太い声なので男だろう、女だとしても可愛いのはいなかったので囮決定だが。

 壁を蹴りながら廃ビルを登り、屋上へと向かう。

 未だに聞こえる悲鳴に苛立った。

 

 屋上から声のした方向へXショットガンを向け、スコープを覗く。

 補充された壮年の男性が、巨大で醜い顔に齧られていた。

 なんぞこれぇ……。

 

 観察を進める。

 今回の星人は巨大なタイプのようだ。

 10mはあるだろうか。

 と、思ったら小型の星人も現れて男性を齧り出した。

 喰い散らかされている。

 それでも死んでいない人間の丈夫さに呆れてしまう。

 叫び声が轟き、それにつられるように他の星人も集まって来た。

 

 人間ほどの大きさの2m前後、ちょっと大きく5m前後、見上げる必要があるだろう10m前後、と星人のスケールの予測を立てる。

 情報に『好物:人間』とあったように人間を喰うようだ。

 音に敏感なのか、叫び声を呼び水に集まって来た。

 かなり離れた位置に陣取っているが、砂糖に群がった蟻のような数でうんざりする。

 

 

 

 他に何かないだろうかとスコープ越しに見渡す。

 壁に隠れている補充人員を見つけた。

 珍しくスーツを着ている。

 なかなか従順だなと笑みを浮かべながら、星人の付近を撃つ。

 地面が爆ぜる音に反応する星人どもを徐々に囮へと誘導する。

 星人の動きに囮は悲鳴をあげたのか、一気に集まって来た。

 一斉に群がるが、まだ生きているようだ。

 

 確認されている攻撃方法は掴むか噛みつくだけだが、スーツの耐久性でも十分防げる程度のようだ。

 Xショットガンで片っ端からロックオン、そして引き金を引く。

 星人たちは醜い肉片を巻きし、囮を汚した。

 

 どうしてなかなか悪くない。

 遠距離から一方的に削れば数が多くても……ん?

 先ほどの攻撃でどこかしらの部位が欠けた星人たちが囮へと群がりはじめた。

 たぶん死んだであろう、立ちあがらずに転がっている星人は2、3匹といったところか。

 見てわかる違いは体格、欠損部位くらいか。

 転がって動かない星人はどれも2mほどで、頭部を丸々失っていた。

 2m前後の星人には腕や肩が吹っ飛んでも難なく活動し、再生を始めていた。

 さらに巨大な星人ともなると、頭部が欠けていても元気に走り回っている。

 

 考えられるのは、

 1.頭部そのものが弱点

 2.個々によって弱点が異なる

 3.再生できる個体がいる

 

 1の場合は星人が大きければ大きいほど厄介だ。

 首から上を刈り取ってみて検証する必要があり、再生するようだったらガンで潰さなければならない。

 その場合は頭と体のどちらから再生するかも観察しなければ。

 どちらからも生えてきて本体と成り得るなら作戦の見直しも必要だ。

 

 2の場合は1よりも遥かに面倒で、転がっている星人の死因がたまたまとなる。

 個々の持つ弱点を割り出さなければダメージを与えても再生されてしまう。

 また、巨大な星人が身体の内部に弱点を持っていた場合など最悪である。

 スキャンしたが特に違いはなかった。

 

 3が最も楽だ。

 再生が先ほど確認した速さと変わらなければ、一番余裕だろう。

 この場でロックオンしてトリガーを引き続ければいいのだ。

 たぶん、ないだろう。

 

 とりあえず1を試しつつ、探っていく必要がある。

 騒ぎを聞きつけて生き残りのメンバーも集まって来た。

 彼らが注意を引きつけている間は好きにやらせてもらうとしよう。

 

 

 

 

 

 様子見かつ狙撃の結果、やはり頭部以外は再生するようだ。

 頭部でも頭頂部は再生するようで、首回りが弱点と推測した。

 他のメンバーの戦闘を眺めていると、ソードなどの攻撃範囲が狭い武器で首を斬っても再生することがわかる。

 首回りを周辺の肉ごと斬り飛ばしたり、Xガンで消し飛ばす、頭だけをYガンで転送が最も有効的だろう。

 防御と再生速度はそれほどでもないのだが、あの巨体は厄介だ。

 Xショットガンを連射しなければ効きが薄く、当たり所が悪いと再生してロックが外される。

 

 攻撃の威力はそれほどでもないようで、何度も齧られない限りスーツの耐久がなくなることはない。

 ただ、齧られることで移動が制限されて、なし崩しで継続ダメージを受けることもあるようだ。

 齧られたまま一定時間が経つまで逃げられないと飲み込まれるようだ。

 飲み込まれると星人が吐き出すかソードで裂かない限り、逃げられない。

 星人が吐き出したスーツ持ちはどろどろに溶かされて人間には決して見えなかった。

 

 ガンツに送り込まれたメンバーと星人が殺し合いによって互いの数を急激に減らしている。

 星人もかなり減ったな、とコントローラーで確認。

 ここよりも離れた位置に留まっていた2つのターゲットを示す光が超速で移動しているのがわかった。

 かなり速い。

 

 ビルの屋上から屋上へ、次々と跳躍して距離を取る。

 コントローラーで確認し、進路から退けた辺りで再びXショットガンを構える。

 ビルを倒壊させながら、弾丸のように一体の星人が戦場に突進した。

 

 

 

 形状が他の星人とかなり違うことが見て取れた。

 皮膚が硬質化しているのか、鎧を纏っているようだ。

 大きさは10~20mくらいで特別大きいというわけでもない。

 見た目だけならそれでいいのだが、星人ともなればそう上手くはいかないだろう。

 

 周りの十把一絡げの星人を片っ端から撃ちながら、メンバーの戦いを観察……できない。

 戦闘を眺めるにはちょっと遠すぎる。

 星人を撃ちながら肉眼で確認できる距離まで近づく。

 

 近くで見た戦闘風景はワンダと巨像をプレイしているかのようだった。

 鎧型以外の星人を駆逐したことで戦いやすくなったメンバーが、足元でXガンを撃ったり、飛び乗ってソードを振るったりしている。

 他の星人とは一線を画す存在のようで、強さは段違いだった。

 人間を見たら突撃するだけの星人とは違い、考えて行動しているようだ。

 思考能力が遥かに高い。

 また、防御力を活かした体当たりが強さを引き上げている。

 飛び乗ったまま体当たりでミンチにされたのか、人間だった肉塊が地面に落ちた。

 

 人間の数が減り、劣勢になりつつある。

 これ以上、新しい情報は得られ無さそうだと立ち上がる。

 強いと言っても硬いだけだ。

 奇襲で仕留められるだろうと予想してみる。

 

 

 

 人間だったモノからソードやXガンを拝借する。

 不可視化がかなり有効のようで、こちらに気付く様子はない。

 集めたXガンやXショットガンで首回りを多重ロックし、引き金を引きまくる。

 ここからダメージが生じる時間差が勝負どころだ。

 ソードを手に持ち、建物の外壁を蹴り、爆発を起こした首筋に一気に迫る。

 飛び散る肉片へと飛び込み、肩へと着地し、両手で構えたソードを振り抜く。

 思ったよりも抵抗が少ないが、伸ばした重量で肩が潰れている。

 勢いそのままに角度を変えて一回転し、頬から首までを斬り飛ばした。

 さらに保険として肩周りをXガンで撃ちまくり、斬り飛ばした首筋をYガンで転送する。

 

 大物を倒した安堵も束の間、もう一体の反応が飛び込んできた。

 見た目は理科室の標本のような筋肉などが剥き出しに見えるが、乳房なども確認できた。

 女性のような体形をしている星人だった。

 雌型というやつだろうか。

 ユニーク個体として識別できそうだ。

 

 雌型の凄まじい勢いのタックルが、鎧型の死骸に直撃した。

 直撃を避けたが響く衝撃には耐えがたいモノがあった。

 地面へと投げ出されてゴロゴロと音を立てて転がる。

 酷い目にあったぜ、と立ち上がれば遮蔽物が何もない広場のような場所だった。

 雌型の星人が正面に立っている。

 ゆっくりとソードを構えるが、雌型は気付いていないようで、すぐに他の生き残りの下へ向かった。

 やはり不可視化が有効の相手らしい。

 

 コントローラーで居場所を確認する。

 マップ上にはいくつかの光点が表示されている。

 数が少ないのは死に過ぎたせいだろう。

 スーツの耐久も問題なさそうだ。

 もうひと踏ん張りだ、と全力で駆け抜けた。

 

 

 

 雌型の首筋目がけて振るったソードは完璧のタイミングで、難なく刃先が進み斬り捨てるイメージすら湧いてくるほどだった。

 が、防がれた。

 雌型の星人が突然手を組んで首裏を隠したのだ。

 弱点だと自ら教えているようなものだが、その他の星人や鎧型を仕留めた時点でバレていると理解したのだろう。

 完璧のタイミングで振るわれた必殺の攻撃が防がれ、弾かれた。

 阻んだ手を傷つけることなく、硬質の音とともに弾かれたのだ。

 会心の一撃を無傷とは、勘弁してほしい。

 攻撃が弾かれ、空中で硬直している俺に、雌型の蹴りが直撃した。

 

 凄まじい速さで景色が流れ、廃墟を揺らした。

 スーツは生きている。

 生きているが、限界は近いだろう。

 それほどの衝撃だった。

 不可視は見えているのかと疑いながら再び接近したが、気付かれなかった。

 直感が冴えている個体のようだ、星人にそういうものがあるのかはわからないが。

 

 転がっていた肉片からソードを拾い上げて両手で握る。

 直感も完璧ではないはずだ。

 手数で翻弄し、隙を突いて弱点を抉る方針に変更。

 スーツの筋力アシストが働くのと同時にソードを2本の振り回す。

 

 

 

 全身の至る所を切り裂くが、本命には届かない。

 途中から雌型の星人が防御一択を選択したことも原因の一つだろう。

 こちらが移動するたびに廃墟の壁を蹴る必要があり、砕ける音や残骸で位置が判別されてしまう。

 今はまだ遅れているが徐々にタイミングが合ってきている。

 時間をかければ不可視化であろうと俺が死ぬこともある。

 かなり面倒な星人だ。

 

 足元まで迫り、雌型の体を駆けあがる。

 防御の為に両手が塞がっている今しかできない。

 鎖骨あたりで2本のソードを伸ばし、星人の二の腕を切り裂く。

 何度も執拗に斬り続けることで支えることができなくなったのか、首裏に回していた腕が重力に負けて垂れ下がった。

 好機に浮足立ったが、一瞬で現実へと引き戻された。

 

 噛みつかれた。

 鎖骨に足がめり込むほどソードを使ったので、不可視化が無意味になったのかもしれない。

 だが、無意味だ。

 現状では時間稼ぎにしかならない。

 顎を切り裂いて退避。

 一気に走り抜け、ノーガード状態の首裏へ向けてソードを振り下ろす。

 

 弾かれた。

 

 首裏が、手で防いでいるときのように硬化していた。

 これではソードで切り裂くことができない。

 Xガンで崩すか、周りを大きく切り取ってYガンで転送するか。

 そう考えていると地を揺らし、廃墟を崩しながら、更なる星人が現れた。

 

 でけぇ……。

 

 

 

 星人のおかわりが届いたところでクソゲーっぷりを再確認。

 雌型が必死に耐えていたのは時間稼ぎのためだったらしい、糞が。

 挙動は見かけ通り鈍いが、巨体でカバーしているようだ。

 攻撃範囲の広さと衝撃が厄介すぎる。

 仕切り直しも視野に入れていると、巨大な星人が煙を放った。

 

 スーツが悲鳴を挙げる。

 さきほどの煙で耐久力を失ったようだ。

 毒だろうかと焦りながら距離を取るために走る。

 酷い熱を感じる。

 耐久力を失った際に顔が火傷を負ったようだ。

 毒では無かったことに安心すべきか、スーツが死んだことに絶望すべきか。

 

 コントローラーを確認する。

 光点がこちらへと迫ってきていた。

 雌型だろうか。

 あいつ糞うぜぇ。

 

 

 

 

 

 7回目

 

 死んでないのに部屋へと戻された。

 ミッション前の焼き増し状態だ。

 なぜだろうと思ったが、残り時間が少なかったのを思い出す。

 

 たぶん、俺はクリアしなければ同じミッションを繰り返させられる。

 

 

 

 Yガンを猫に括りつけ、ソードを手に取る。

 接近戦が主体となるソードはあまり人気ではないらしく、2本持って行けることになった。

 1本でも問題ない気がするが、2本あれば2倍お得……無いな。

 不可視化しつつ、転送に身を委ねる。

 

 転送後、最初にやることはコントローラーで位置を確認することだ。

 近場に1人、遠くに確認できる光点はたぶん鎧型や雌型といった星人なのだろう。

 以前、確認したときよりも遥かに移動速度が遅い。

 もしかして戦闘して弱るのを待っていたりするのだろうか。

 そうであるならば、知能は俺が思っているよりもずっと高い。

 まあ、今はそれほど重要ではない。

 それよりも、弱点に気付いていないちっぽけな人間が向かってきたと思って油断してくれれば御の字なのだが。

 雌型は奇襲で最初に駆逐しておきたいところだ。

 学習されて硬化で防御なんてされたらまたタイムアップになってしまう。

 

 

 

 廃墟に投げ出されて戸惑っている学生を拾う。

 中学生くらいだろうか。

 不安なのだろう、質問責めにあってしまった。

 が、無視する。

 首根っこを掴んで全力で移動。

 中学生は泡を吹いているが、優しく運ぶ必要も、もちろん心配する意味もない。

 

 光点が2つ、雌型はどちらか。

 テキトーに勘で選択する。

 敵も勘で戦うのだから、俺も勘に頼ってみた。

 

 

 

 遠方からゆっくりと歩いている雌型の星人を目視する。

 中学生が悲鳴をあげているが無視して接近する。

 気付かれたが構わない。

 星人の顔目がけて中学生を放り投げる。

 餌を与えられた動物のように噛みつく星人、悲鳴をあげる中学生、隙を突いて背後から斬り付ける俺。

 完璧なタイミングだったが、首裏に組まれた手で防がれた。

 やはり直感に優れているようだ。

 

 しかし、無意味だ。

 首裏よりも下、両肩ごと切り裂いた。

 その勢いのまま一回転し、後頭部から頬にかけて真っ二つにして、ダルマ落としのように急所だけを切り抜いた。

 

 ゆっくりと落下する頭部、首回り。

 そして力なく崩れ落ちる巨躯。

 落下の衝撃で真っ二つになった中学生が血袋のように破裂した。

 地に落ちた星人の目と視線が合うが、無視してYガンを急所に撃ちこんだ。

 

 

 

 コントローラーで位置を確認する。

 一か所に星人が集まっているのか、多数の光点のせいで数がいまいち把握しきれない。

 その集まりに向かって高速で移動している光点が1つ、たぶん鎧型だろう。

 俺よりも遥かに速い、これは間に合わないわ。

 

 体力を温存することにした。

 どうせ間に合わないのだから俺がベストな状態で戦いたいし。

 中学生という悲しい犠牲を出さないために、確実に勝たなくてはならないのだ……っ!

 

 鎧型の星人が到着したらしい。

 コントローラーに表示されている光点が一気に減っていた。

 まるで鎧型の星人というボーリングの球がその他の星人や人間というピンを倒していったようだった。

 ……減った光点から判断すると、他の星人も潰しているのだけれどいいのだろうか。

 

 

 

 交戦している姿が確認できるところまでたどり着いた。

 転がっているガンを肉塊から取り出さないと。

 不可視化の状態なので悠々とハイエナのように星人を刈り取る。

 

 あらかた刈り終えたので、死闘が繰り広げられている場所へ向かう。

 スーツ持ちと鎧型の戦闘である。

 星人の周りを駆けまわったり、廃墟からガンで撃っているようだ。

 対して鎧型は1人ずつ体当たりで潰している。

 徐々に人間は全滅するかもしれない。

 

 まあ、俺には都合がいいのだけれど。

 鎧型は硬いが、生き残っている人間に気が向いているのでロックオンし放題だ。

 XショットガンやXガンを持てるだけ持ってかちゃかちゃと一心不乱に連打し、トリガーを引きまくる。

 幾度も爆ぜたところをソードで切り取り、Yガンで転送する。

 作業に近い。

 

 突然、死亡した星人に戸惑っているメンバーを余所にコントローラーで確認。

 やはり超巨大な星人1体残っているようだ。

 不可視化は解かずにこの場を離れ、廃墟の屋上に待機する。

 ガン系統はあの巨躯には効かないだろうからYガンだけ持って行くつもりだ。

 その代わり、ソードは2本持っている。

 

 

 

 超大型の星人が人間と戦闘を開始した。

 やはり足元からでは勝負にならないようだ。

 避けきれずにスーツの耐久力が削られている。

 息を潜め、機を窺う。

 

 足への集中攻撃で支えきれなくなったのか、崩れ落ちた。

 そして生き残りたちが倒れた背に飛び乗っているが、俺は一気に距離をとる。

 熱攻撃がくるからだ。

 煙が巨大な星人の体から噴き出すと同時に幾人もの悲鳴が聞こえた。

 残り少ない耐久力では耐えられなかったのだろう。

 

 煙、というか蒸気が晴れたのを確認し、屋上を移動しながら距離を詰める。

 眼下に見える生き残りたちは、もう虫の息だ。

 焼きプリンもいる。

 スーツが死んで至近距離で熱を喰らったのだからしょうがない。

 超大型の星人が、とどめを刺そうとしている首裏に向けてソードで切り裂いた。

 難なく刃先が通過する。

 回転して止めを刺そうとするが、蒸気が視界を塞ぐ。

 2発目とか反則だろ……っ!

 

 スーツの耐久力を信じて星人の首裏に着地する。

 すぐにソードを伸ばして後頭部から刈り取る。

 スーツが悲鳴をあげ、穴から液体が流れ出した。

 熱で目を開けるのもツラいが、切り取った部位にYガンを撃ちこむ。

 が、蒸気でワイヤーがどこかへ飛んで行った。

 

 ああああああー!!

 

 

 

 焦りを乗せて、ソードを我武者羅に振り回す。

 何分割にも分かれた首裏の肉から人型のようなモノが飛び出してきた。

 

 今まで静観していた猫が真っ二つにした。

 

 

 ……。

 と、とりあえず勝利だ。

 細かい事を考えるのは無しにしよう。

 転送が始まったことだし。

 

 

 

 

 

 

 簡素な部屋に戻ってきた。

 ガンツの前で待っているのだが、猫以外の帰還者はいなかった。

 たぶん、俺が戦闘したときの蒸気で死んだのだろう。

 惜しいやつらを亡くしたぜ(棒読み)

 

 

 

 チーンと気が抜ける音ともに採点がはじまった。

 1人と1匹しかいないのでなんか虚しい気分になった。

 

 『俺さん

 

 

  31点

 

 

  かつをへーちょ級

  

  

  Total 49てん』

 

 人がいないと採点が早いな。

 猫は10点だった。

 超大型は10点分ということか。

 あれで10点か……。

 20点とかきたら初見の場合は無理ゲーな気がしないでもない。

 ああ、全滅しても補充されるから関係ないのか。

 ホント、人間に全く優しくないルールだ。

 

 

 

 

 

 

 




――ミッション1

スライム(0点)耐久:最低 攻撃:最低 特徴:無限供給 有効:全属性

ぶちスライム(1点)耐久:最低 攻撃:最低 特徴:スーツ無効攻撃 有効:全属性

バブルスライム(2点)耐久:最低 攻撃:最低 特徴:広範囲への猛毒、死亡時の自爆、スーツ無効攻撃 有効:Yガン以外の銃攻撃

ホイミン(3点)耐久:最低 攻撃:低 特徴:無限再生、捕食(スーツ無効) 有効:触手に隠れている口、Yガンによる捕獲

キングスライム(8点)耐久:大 攻撃:大 特徴:王冠(本体)によってスライムが集合した星人、無限再生、ガン耐性 有効:Yガンによる王冠の捕獲、物理による王冠の破壊



――ミッション2

通常の巨人(各1点)耐久:最低 攻撃:最低 特徴:再生 有効:全属性 弱点:首裏

雌型(10点)耐久:低 攻撃:低~中 特徴:再生、硬化、直感 有効:ソード 弱点:首裏

鎧型(10点)耐久:中 攻撃:低~中 特徴:再生、硬化Lv.2 有効:ソード 弱点:首裏

超大型(10点)耐久:高 攻撃:低~中 特徴:再生、超高熱の蒸気 有効:ソード 弱点:首裏



弱点は後頭部からうなじまでの1m10cmの部位が激しく傷つけられることですが、体格が大きい巨人はガン系統では表面の肉しか削れないという欠点もあったり。
Yガンで捕獲せずにうなじの辺りのみを摘出すると、中の人が硬化するという糞ミッション。
体温はかなり高温なので、囮となった新入りは生焼けとなりました。

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