弟は何処かおかしい。
誕生日プレゼントとして両親がどこかから連れてきた境遇も若干の違和感を感じるが、決定的におかしいと思ったのは3歳を過ぎた頃からだ。
今でも覚えている。
というか、忘れられないというのが正しい。
そのときの俺は5歳くらいだったが、あまりに衝撃的過ぎて忘れられないでいる。
たどたどしい言葉遣いで俺に必死に着いてきていた弟は、ある日突然小難しい話し方をするようになった。
何処から得たのかわからない知識は勿論のこと、語彙も爆発的に増えていた。
トラックに轢かれそうになったことが境となっているのではないかと俺は睨んでいるが、確かめるすべはない。
そんな弟に負けないように、と表現すると恥ずかしいが、まあ、自分なりに努力した。
その結果である俺は、自分ではひどく小賢しいと思えるような成長をしてしまったのだから然もありなん。
どんな方向に頑張ったらこうなってしまったのか、首を傾げてしまうような変化を遂げた。
もしかしたら弟とともに楽しんだアニメや小説、ゲーム、映画などといった娯楽が悪かったのか。
過去に戻れるならもっと善人然とした成長を望むが、無理だろう。
弟は今のままでいいのだと言ってくれるが、釈然としないものを抱いてしまうのだ。
小学校に入学して、幾人かの友人と過ごすようになってからも弟にあまり変化はない。
アニメやゲーム、漫画に小説、サブカルチャーとか呼ばれるような娯楽に一日のほとんどを費やしているようだった。
不健康だろうと思い、祖父とともに、趣味のゲートボールをやるから一緒にどうだろうかと誘ってみたが、答えは芳しくなかった。
では、道場で身体を動かしてみるのはどうかと思ったが、やはり変わらずだった。
娯楽もそうだが、ちらりと零すように言った「魔法」とやらで忙しいそうだ。
そんな出不精な弟だが、世話になっている道場の弟弟子的な位置づけにいる竜也と、その双子の姉のなのはが遊びに来た際には打って変わって喜んだ。
同世代と遊べることに歓喜したのだろう、「でかした!」と何度も叫んでいた。
そのうち弟は丸太を武器にしそうだなと思った。
高町の双子と交流したすぐ後に弟も道場に通いたいと言ってきた。
何か思うところがあったのだろうか。
俺は弟を連れて数回ほど道場に通うようになったが、すぐに一人で通う生活に戻った。
弟が訓練のキツさに通うのを諦めたためだった。
めげそうになる度に励ましたり、魔法とやらがうまくいかないという愚痴を聞いたり、兄弟子である恭也さんが怖いだとかいう弱音も聞いた。
なんとか供に道場に通いたかったが、断念した。
結局、弟はなのはがいるときだけ来るようになった。
弟曰く、イレギュラーも気になるが、ヒロインこそ最も興味が湧くからなんちゃら。
今日も彼は平常運転だった。
俺と竜也が必死に動いている間も、弟はなのはに話しかけ続け、右手を宙に彷徨わせている。
そして、それに恭也さんが射抜くような視線を送っていた。
兄の威厳を保つことはできなかったが案外、悪くないのかもしれない。
弟が道場に顔を出すようになってから半年が経ったある日。
朝の基礎トレーニングを終え、汗を拭っていると小さな声が聞こえた。
俺を誘導するかのようだった。
導かれるように声を辿って丘を登り、林をかき分けると、子供と猫が倒れているのを見つけた。
1人と1匹は全身が襤褸のように汚れており、子供に至っては金髪がくすんだかのように精彩を欠いていた。
死んでいないだろうなと内心でひやひやしながら近づくと、子供が俺の首に手をかけてようとしてきた。
反射的に殴り倒してしまった。
気絶したのか、動くそぶりをまったく見せない。
死にかけだったところに止めを刺した可能性が胸で渦巻く。
埋めるべきか……。
悩んでいると、そばにいた猫が四肢を震わせながら立ち上がって言葉を話した。
どうやら保護してもらいたいらしい。
猫が言葉を介すことの驚きと殴り倒した罪悪感で、連れ帰ることに決めた。
俺よりも小柄とはいえ、力の抜けた人間を運ぶのはかなり苦労するのだと学んだ。
あとは猫の名前はリニスということも。
最近の猫は喋るのかと聞くと、「使い魔だからです」と返された。
よくわからんなぁ、と呟く俺を余所に弟は訳知り顔でうなずいていた。
子供のほうは名前がないらしい。
素体は「アリシア」という少女らしいが、肉体を強めるために少年になったとか。
俺には戸籍とか問題ないのだろうかとよくわからないことばかりだが、表情を引き攣らせていた弟にはわかるのだろう。
兄なのに知らないことばかりで純粋に悔しいと思う。
名前がないと不便なので、こちらで便宜的に付けておくことにした。
胸元にかけられた錆びたタグに刻まれた『U-9』からユウくんというのはどうだろうかと提案。
製造番号とかそういった管理用の数字な気がしないでもないが、問題ないに違いない。
目覚めた少年とのやり取りの結果、名前はユウになった。
俺の弟と違って、何処か頼りなくておぼつかない。
だが、それがいい。
ぶっちゃけ、ユウくんのほうが可愛いし構いたくなる。
弟は俺のことを名前で呼ぶうえに、あまり関わろうとしてこない。
しかも自分のことは自分でやってしまうので面倒を見るようなこともない。
やはり兄としての意義が感じられるユウくんを可愛がってしまうわけだ。
そもそも弟からの扱いが悪いし。
おすすめのアニメを一緒に見るかゲームするか、もしくはなのはがいなければ俺は空気に近い扱いだ。
感じた優先順位としては
『なのは>リニス>その他可愛い女性>>>ルビコン河>>俺>男>ユウ』みたいな感じだろうか。
ただの女好きじゃないですかー、やだー!!
「おそろしく早い球速、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね」と呟きながらドッジボールをしたり、ドヤ顔で「足音殺すの癖なんだ」とドヤ顔でドッジボールしたり、「代わりに祈る時間が増えた」と感謝のドッジボールをしたり、隣のクラスのはやぶさが「俺が3人分になろう」と3倍速でドッジボールしたり、「おそれるのはこの憎しみが風化することだ」と目を朱く染めてドッジボールをしたりと平凡に日々を過ごしていると、弟とユウくんが小学校に入学する歳になった。
なのはと竜也が私立に進むと話を聞いたのか、弟も同様に私立の小学校に進むのだとか。
通学範囲なので問題ないとは思うが、遠い気がしないでもない。
ユウくんは俺と同じ普通の小学校でいいと言っていたが、弟の例もあるので私立を薦めておいた。
頭がいいし、もったいないからな。
なんて思ってたがユウくんは俺と同じ学校に通うことにしたようだ。
まあ、俺としては一緒に登校できるのでうれしいけど。
朝は弟が先に出て行ったのを見送り、いくらかしてからリニスを頭に乗せたユウくんを連れて登校するのが基本になった。
弟が飽きて使わなくなったルービックキューブを持っていくのも忘れない。
途中で同じ通学路を使っているはやぶさと、その妹のはやてと合流して学校へとぐだぐた向かう。
はやては車椅子なので、後ろ歩きで3人に話しかけつつさり気無く小石などを蹴り飛ばすのが俺の仕事である。
会話をしつつ障害物に気を遣い、手の中ではルービックキューブを操る、俺もなかなか多芸な気がしないでもない。
ちなみにルービックキューブは弟が分割思考という複数の物事を別々に考える思考方法とやらのために購入したものだが、三日坊主となったので勝手に使っている。
ユウくんはルービックキューブが苦手なのか、俺がやっていると嫌そうな表情を浮かべたりする。
話題は俺が素手で魚の内臓を瞬く間に抜き取れるようになったことから小学生の間で大人気のドッジボールにシフト。
はやてはドッジボールに参戦したいのだとか。
マジか。
とりあえず高学年が相手の場合、投げとしては燃える魔球か消える魔球が最低ラインで、回避は背中に目があるレベルじゃないと厳しい気がする。
使っている球は柔らかいぷよぷよのボールだから5mくらい吹っ飛ぶだけだし、防御は気合でどうぞ。
サッカーで男子に轢き逃げ喰らわせてるし、はやても練習すればいけるかもしれない。
すさまじい車椅子テクニックだが、腕力はどうなってるのだろうか。
弟が魔法を家の中で使うようになった。
そして、それに激怒したユウくんと、二人を諌めようとリニスが参戦して、家庭内魔法大戦争が起きた。
俺?
体調悪くて寝転がっていた。
なんか魔法とかダメだわ。
相性悪すぎ。
ゲロ吐きそう。
そんな感じでぐったりとしながら色彩鮮やかな空を眺めていたら魔法の流れ球が直撃した。
あばばばばばばああっばっばばばb
入院ってはじめてだ。
過労のような症状だが、全身が弱っているとか。
原因は不明。
季節の変わり目や学期が変わったことなどによって運が悪く連鎖的に体調を崩したのではないかと診断された。
なるほど、当分は暖かくして寝るとしよう。
リニスとユウくんで人間湯たんぽなので風邪をひく心配はなさそうだけど、油断は禁物ということだろう。
退院した翌日、リニスの提案でゆっくりと魔力の運用方法を学ぶことになった。
俺にも魔法を使うための器官であるリンカーコアがあるらしいが、かなり特殊で外部の魔力を取り込んで体に副作用を起こすのだとか。
先日の魔法直撃もそれのせいで重くなったようだ。
とりあえず取り込んでしまう魔力を体外に排出する練習を重点的に行っていくことにした。
ふおおおぉぉぉ、と練習していると体から魔力が確認できた。
黒く淀んだ色をしていた。
魔力汚いな、と落ち込んでいるとリニスの顔が険しくなっていた。
あまりの汚さに引いたのだろうか。
日課のように体外への垂れ流しを行っていると徐々に俺の魔力が白色に近づいた。
リニスの考察によると魔力が混ざって黒になっていたとか。
なるほど、混ぜれば黒になるのはよくある話だ。
ただ、色が濃すぎる気がするとリニスの眉間に皺が寄っていた。
こわい。
そういえば、魔法を使うための器官であるリンカーコアがあるのだから俺にも魔法が使えるのは道理じゃないだろうかと思った。
で、ユウくんに聞いてみた。
気まずそうに目を逸らされたので頬を軽く引っ張って遊ぶ、よく伸びて手触り最高。
リニスに尋ねると、魔力が低すぎて魔法を使うと倒れるかもしれないと言われた。
ランクとしてはE+からD-くらい。
わかんね。
さらに聞いてみると魔導師としては最低CだがB以上は必要、A以上で優秀、AAでエリート的な感じっぽい。
弟はAA、ユウくんはAAA。
俺ザコすぎぃ!
どうせ魔法を使う機会はないでしょう、とリニスに言われたのであきらめる。
諦めきれないのでいつかは使いたいものだ。
弟に聞こうと思ったが、退院あとはあまり顔を合わせることも少なくなったので意見は得られなかった。
放課後や休みの日中はどこかへ遊びに行き、日が暮れた頃に帰ってきて自室でアニメやゲームを楽しんでいるようだ。
顔を合わせてもユウくんと弟が睨みあって空気が悪くなる。
気づいたんだけど、この二人って仲が悪いんじゃないだろうか。
真顔でリニスに言ったら溜息つかれた。
なぜだし。
魔法や小太刀の才能がないことに落ち込んだり、ユウくんをべろんべろんに可愛がったり、リニスと魔力運用によって体調がよくなって動きのキレがかなり上がったり、竜也に必殺技喰らったり、ゲートボールでヴィータをボコったり、ドッジボールではやぶさに燃えて曲がって加速して消える(?)魔球を投げたりして過ごしていたらユウくんと弟も3年生になった。
竜也に弟はどんな調子か聞いたが、結構ふつうらしく、度々話が合わなくて浮いていることもあるが、運動はできるので一定の地位は築けているようだ。
問題はなのはらしい。
友達が少ない、というかいないレベルっぽい。
竜也と弟がいるじゃないかと思ったが、クラスが違うようだ。
かわいそうだが、俺にできることは特に無さそうだ。
様子見て話を聞くくらいだろう。
それも弟がいないちょっとした時間くらいだけど。
4月、俺は5回ほど怪物に襲われた。
調べると魔法絡みであることがわかった。
さすがにもう無いだろうと油断していたらジュレイモンに突き刺された。
「ぐわぁぁあぁぁぁ^q^」みたいな声をあげて倒れたらしい。
実に恥ずかしい。
まあ、恥を忍んで第三者視点の話を聞いてみると貫通して結構ヤバかったとか。
一番やばいのは家がぶっ壊れたことだと思いますけどね!
あと弟が家出してたことも事件かと思われます!
脇役が主筋に手を加えようとすると大きな対価が必要なんだよ!
『クローンの設定』
開発コード「Unlimited」によって生み出された愉快なクローンシリーズ的なやつ。
たぶん増える。リリカループには本体がインテリジェントデバイスで電池としてクローンの脳とリンカーコアを乗せたやつとか出るに違いない、やったぜ。
スカリエッティ
ジルベルト:素体「リンディ」、闇の書の餌用
ロゼ:素体「グレアム」、闇の書の餌用
ゲシュペンスト:事故により誕生。素体「管理局のエース複数人」「クライド」
弟:素体「古代ベルカ王族」、ロストロギア埋め込み、ロストロギア用の電池(失敗作)
ユウくん:素体「プレシア」「アリシア」、ロストロギア用の電池(試作品)
ギンガ
スバル
エリオ
ヴィヴィオ
弟と生活する→弟がこっそり魔法の練習→廃棄魔力が残留→無意識下でオリ主の魔力が濁る→ループ→日々の積み重ねでオリ主の魔力が真っ黒になる→負のスパイラル