--1
『オマエは運がいいぜ! このラプラス様に案内してもらえるなんてよ!』
拾ったスマートフォンからノイズが混じったダミ声が上機嫌な笑い声。
心細さを感じていた所に、陽気とも図太いとも取れる声を手放せず持ち歩いていた。
ラプラスと名乗った何か(本人曰くネット内に存在できる悪魔の一種らしい)のナビゲートを頼りに、こうして夜の廃墟を迷う事無く進めていた。
クラスの連中に無理やり放り込まれた肝試しという名の……。
『いじめられっ子、夜に歩き回るってか!? 笑えるぜ!』
「うるさいな……。イジメられてないから……」
弱々しく黙れと付け加えると、何が面白いのかラプラスは再び汚い笑い声を響かせた。
何処までも暗い廃墟だった。
闇の中に何かが潜んでいそうで、それが音によって近寄って来るかもしれない。そう考えると背筋が震える。
『おいおいおい! 何をブルってんだよ! 楽しくいこうぜ! オマエは今日は死なないからよ!』
「今日? 今日はってどういう……。人間はいつか死ぬから楽しめって言いたいのか……?」
『それいいな! それで行こうぜ!』
「なあ、いいから少し声を小さくしてくれないか。ビビッてるわけじゃないけど、何かが近づいて来そうだ。……犬とか猫か?」
『安心しな! 単なるゾンビだ!! 複数のゾンビじゃないからぼっちのオマエでも勝てるなんて嬉しくて泣いちまうよな! 楽しくなってきたなあ、おい!!』
「は?」
ラプラスを問い詰める事も出来たはずだが、どうしても暗闇から目を離す事が出来なかった。
何か恐ろしい気配を感じる。
腐った臭い、不快な空気、下がる体温。
纏わりつくような恐怖。
腐りきった人間だった物が姿を現した。
『世界が終わるまでの悪あがきをレクチャーしてやるぜ! ラプラス様に感謝するんだないじめられっ子! 今日からオマエはイジメる側になれるかもなあ! バースデーソングで祝ってやろうか雑魚が!』
恐怖で竦んだ足と思考が逃げる事を選ばせた。
反転して走り出せばラプラスの罵詈雑言が響き渡る。
幸運な事にゾンビの足は遅いようで、振り返れば徐々に遠ざかっているのがわかった。
「なんだあれは! 何! 何なんだよ!」
『ゾンビを知らないのかよ! 若者のサブカル離れは大問題だな! ゾンビすら知らない知識じゃあ崩壊まで生きられないぜ!』
「ゾンビは知ってるよ!」
『じゃあ倒し方もわかるよなぁ! やっちまいな! 腐った頭なんてちょっと固いプディングみたいなもんだぜ!』
「やれるわけないだろ!」
『いいや、やれるね! 何故ならオマエはここで死なないからな! そしてやれないと死ぬ! ラプラス様のいう通りにしておけばもっと楽だったが、オマエならこうすると思ったぜ! テンション上がるよなあ!』
何かを言い返す前に、足が止まる。
さっきと同じだ。
ゾンビから感じた嫌な何かを感じ取ってしまった。
それも複数だ。
『おいおいおいおいおいおい! やるじゃねーか! ゾンビに愛されてんねえ! これから3人だったゾンビを潰せるなんて自己紹介にはちょうどいいじゃねえか! 長所は3人潰した事です! 短所はいじめられてた事です! ってか! 楽しませてくれるじゃねーか!』
吐き気を催す腐った臭い。
湿気とカビを十分に含んだ陰気なそれが、粘つくような空気に変わる。
僅かに発している掠れた声が近づいてくる。
ここは以前旅館だったが、自殺者が出て客足が遠のき廃れた場所だ。
隠れようと思えば事欠かない。
その筈なのに転がっていた工具から目を離せない。
リフォームしようとしたのか、解体しようとしたのか、詳しい話は知らないがそういう動きがあった事だけは知っていた。
『安心しな。ゾンビは殺しても捕まらないんだぜ?』
「……」
『ゾンビどもの服装を見たか? 何かに似てないか? オマエの通っている高校の制服だよな? オマエをここに放り込んだ馬鹿どもは何処に行った?』
「……」
『ゾンビのまま放置は可哀そうだよな。許してくれるって。オマエが救ってやるんだよ』
「……勘違いするなよ。こんなんやらないといけないからやるだけだって」
落ちていた鉄パイプをゾンビの眼窩に突き刺すが、思った以上に柔らかくないプディングだった。
それでも握っている手から力を抜かず両足で踏ん張れば、中身も考えも足りない頭のまま前進するゾンビの力でゆっくりと進んでいく。
将来の夢を聞かれた時、きっとトンネルの掘削に関わる仕事は選ばないだろう気持ちの悪い手応えを感じていると、やがて首が負荷を抱えきれなくなったのかずるりと腐った脊髄とともに抜け落ちた。
『おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい! やっちまったのかよ! そんな簡単にやっちまえるのかよ!』
何が楽しいのか、ラプラスが上機嫌そうな声を挙げていた。
もっと何かあるはずだった。
不安とか恐怖とか。
それがどうだ。
実際は気持ち悪さとか汚さへの嫌悪が強く感じていた。
そうしてぼんやりと迫りくるゾンビを見ていた。
『トシちゃぁん! 才能あるぜオマエ!』
無我夢中だったのか、無意識だったのか。
気付けばゾンビはいなくなっていて、最後に立っているのが自分だけだった。
廃墟には何もない。
あれほど怖かった闇から何も感じられなくなっていた。
『ハッピーバースデー! 世界が滅べば他の雑魚よりも遥かに長生きできるぜ! オマエを馬鹿にする連中よりもずっとな! 夜寝る前に、朝起きた時に、昼飯を食いながら、世界よ滅べと敬虔にお祈りしな!』
『この世界で生き残るにはなあ! 才能か環境が必要なんだぜ! オマエは幸運な事に才能がある!』
「いらない……」
『かあー! こいつは最悪だな! 世の中には才能が無くて泣きながら戦ってるやつらもいるってのに! そいつらに悪いと思わねえのかこのクソガキ!』
「うるさいな……」
スマートフォンからぎゃあぎゃあと叫ぶ声。
止め方もわからないまま机に置いたそれは、勝手に妄言を垂れ流す。
それでも捨てなかったのはゾンビの出現によって塗り替わった常識が怖かったせいだった。
部屋の隅、夜の道、誰もいない建物、何も感じない闇、それらの全てが怖かった。
急に何かを感じてしまうかもしれないと思うと、どうしたらいいかわからなかった。
だからスマートフォンを手放せない。
唯一の理解者で、騒がしさで気が紛れることもある。
『別にいいけどな! 戦わなくて!』
「いいのかよ……」
『オマエは死ぬ! このラプラス様は死なない! それだけだからよ!』
「……僕は死なないって言ったろ?」
『あの時は死なないってだけだぜ! 今日は!? 明日は!? 明後日は!? なあ、オマエはどう思う?』
「……別にゾンビに囲まれたって負けないし」
『おいおいおいおいおいおい! 愉快な頭してんなよ! まだゾンビパニックが始まるとでも思ってるんでちゅかあ!? んなわけねえだろ! 悪魔だっつってんだろうが! ゾンビは連中の中でも最弱! 本当に最弱はスライムだが存在が揺らいでる電子の藻屑を引き合いに出した所で意味なんてねえ!』
そうだ、悪魔だ。
最初はゾンビパニックが始まるのかと身構えた。
だが何も起こらなかった。
そうしてラプラスは笑いながら説明したのはこの世界には悪魔がいる事だった。
それを主軸として社会が作られている事も。
『強い悪魔、強い人間、それらが食い物にされてもいいってんなら好きにしな!』
「……」
『ラプラス様も鬼じゃねえ! モチベーションが高まる事実を教えてやるぜ!』
スマートフォンの画面が輝くと、宙に映像が浮かび上がった。
多種多様な時計だが、時が進む物、戻る物、ノイズが混じって表記がブレる物。
そのどれもが時間を刻んでいる。
『崩壊へのカウントダウンだ。今から準備できる事実に泣いて喜ぶんだな。それとも貴重な時間を無為にできる贅沢にむせび泣くか?』
うんざりしながらスマートフォンを手に取る。
この近辺で自由に利用できる異界とやらへの行き方をラプラスが示していた。
インターホンが鳴る。
玄関を開ける。
頭にアルミホイルのような物を巻いた男女の姿。
有難いお言葉とやらを賜り、玄関の扉が閉じる。
残されたのは銀色の帯のような物。
もう誰も帰って来ない。
この家もすぐにでも取り上げられるだろう。
『銀杯かよ! カルトとは笑えるぜ! オマエは頭に巻かなくていいのかあ!? ああ! 全部奪われてるのか! オマエは運がいいぜ! ラプラス様が環境を用意してやるんだからよお!』
ラプラスの言葉に乗せられたわけじゃない。
ただ、やれる事が無かったから。
導かれるように進み始めた。
泥臭く戦う毎日だった。
油断や集中力の乱れから時折訪れる僅かな命の危機だけ。
その日々も終わりを告げた。
悪魔使い専用の掲示板とやらを見て回っている時に。
途中からラプラスが勝手に書き込みを繰り返し、気づけば古臭い井戸があった。
そこではこれまでがお遊びだったとでも突きつけるように、化け物たちが争っていた。
--2
「ざっくりと話しましたが、私たちの要求は先ほど言った通りです」
かしゃんかしゃんと音がする。
一定のリズムで体が揺れる。
湿って澱んだ空気、井戸から感じる暗い闇、宙に漂う奇妙な機械。
「それで返事は? やりますか? やりませんか?」
宙に漂う奇妙な機械からかしゃんかしゃんと音がして、次々と組み上がっていく。
その振動が、恐怖と組み合わさって体を揺らす。
そいつは腰が抜けて地面にへたり込んでいるトシキを見下ろしていた。
小柄で、声の幼さから年下の少女であることはわかった。
確かメシア教と言ったか、そういう連中が着ている白い修道服の姿だ。
その上に、裾が余りすぎて引きずられている黒いコートを羽織っていて、ごちゃごちゃと装飾品で飾られていた。
狐面に隠されて表情は読み取れない。
宗教は嫌いだ。
正しくは、嫌いになった。
『強引すぎねえか鳩女ぁ! こっちのトシキは素人に毛すら生えてないのはわかってんだよなあ! メシアは無辜の民を磔にして火で炙るのが得意ってか!』
「私の領分に土足で踏み入った相手に優しくできるほど私は大人では無いんですよ。サガミさんに頼り切りの子供なのでやれることは少ないのです。私としては説明しただけでも甘いと自分を褒めたいですね。それともラプラスの未来演算はもっと丁寧に説明してもらわないといけない程度なのでしょうか」
『おいおいおい! トゲがあるじぇねえか! 嫉妬か!? 聖女になる器が泣くぜ!』
「お判りいただけていない様なので一度だけ言いますね。私は嫌悪しています。素人がヤタガラスの異界に飛び込ことも、電霊が私の未来に横入して来たことも、それを許されるかもしれないことも、全部苛立っています。そして私の方が圧倒的に強いです。いいですか。私が甘えたらサガミさんは許してくれます。いえ、許すも何も、私が正しいと判断してくれます。これは神託を受けるまでもありません。覆しようのない蓋然性を含んだ事象に繋がります。地雷原をバカみたいに踊るなら爆発させてあげますが」
『……』
「ご理解いただけたようですね。それで、やりますか、やりませんか」
『はっ、それこそ何のために連れてきたと思ってやがる。やれるよなトシキぃ』
少女の頭上に漂う奇妙な機械からかしゃんかしゃんと音がして、組み上がったはずのそれは次々と砕けていく。
自身の手に握られたスマホから電霊・ラプラスの叫び声に鈍っていた意識が醒める。
拾ってから勝手な事ばかりするコイツがずっと鬱陶しいと思っていたが、今だけは助けになるようだった。
宗教は嫌いだ。
正しくは、嫌いになった。
嫌いな相手からの言葉を断りたかった。
だが同時に、ラプラスを信じたくもあった。
「僕は」
かしゃんかしゃんと音がして、砕けた部品が再び組み上がっていく。
その音を聞きながら、トシキは自身の声が震えている事に気付いた。
この場のあらゆるものが怖かった。
悲鳴をあげながら逃げたかったし、誰かに縋りたかった。
異形の悪魔を殴り倒す女性、大型の銃器を軽々と振り回す青年、目の前の少女すら、そして真っ暗闇に浮かぶ井戸。
転がっている頭に巻かれている銀色の呪具、アルミホイルにも似たそれを見れば情けない姿を晒すのは嫌だった。
恐怖に負けない黒い感情がトシキを動かそうとしていた。
「いえ、無理しなくてもいいですよ。死ぬことが魂の救済となる人々もいます。私はそれを残念だとは思いませんし、逆に薦める事も少なくありません」
「……」
「心のままに生きて幸せになれるのは一握りだと思います」
少女は不満を抱いているのだろうか、そう感じ取れる冷たい声音。
同時に突き放そうとしているとも。
やってもいいし、やらなくてもいいと少女は言う。
どちらを選べばいいのだろう、トシキにはわからない。
わからない事しか起きていない。
ラプラスを拾った時から、ずっと理解が追い付いていなかった。
わからない事だらけの中で一つだけわかる事もある。
それはトシキの目的への道のりをラプラスが導き出している事だ。
「戦いは努力や才能で片付きます。でも心は違う。絶望的に合わない人もいます。何もかも忘れて平和な日常に戻る方が幸せな場合も多くあります」
「……戻りたい日常なんてもう無いんだよ」
「そうなんですか。大変ですね。それでは戻りたい日常が無い事を忘れて日常に戻るのはどうでしょうか? これで平和な日常を取り戻せますね」
『テメェ、人の心とか無いのか鳩女』
忘れて戻ったところでトシキには何も残っていない。
友達はいない、家族もいない、金だって無い。
宗教に嵌った両親は、気付けば頭にアルミホイルを巻いた姿になって全てを差し出した。
家も、金も、家族すらも。
怖くなって逃げなければトシキも差し出されていただろう。
宗教に狂った風聞のせいで親交を深めてくれる相手はいない、これまでの学生生活を孤独に過ごさなければならなかった。
馬鹿にされ、イジメられる日々しか知らない。
当然頼れる相手もいないし、頼り方も知らない。
その折に、ラプラスと出会った。
「……やるよ。僕はやれる」
ラプラスだけがトシキの目的を最優先として物事を判断してくれる。
だから少女の提案に乗ることにした。
それに、戻れる日常はもう無いのだから進む事しかできない。
「そうですか。……前言撤回しても問題ありませんが」
『未練がましいな! 諦めな! トシキはやるって言ったぜ! ピジョン! 鳩は選べるのか! 鳩は運べるのか! 認めないならサガミを呼べ!』
「いいえ、いいえ。認めましょう。私は未来を受け取る。電霊は未来を識る。それだけの事です」
かしゃんかしゃんと音がして、組まれた部品がばらばらに砕け散っていた。
トシキは自身のやる事を頭の中で繰り返す。
何処までも暗い井戸が見えた。
明瞭とは言い難い視界が井戸までの距離を測り、簡単だと判断している。
決して冷静とは言えない思考が本当に出来るのか、疑問を何度も投げかける。
だがこれが復讐に繋がるのだとラプラスは導いた。
だからやる。
別に復讐したいわけじゃない。
全てを失って、それでも残ったやれる事が復讐だった。
『待て、鳩女。オマエに神託を与えてるのは何モンだ? 主は本当にまだいるのか? その”
「安心してください。ちゃんとした神様ですよ。ただちょっと誰もが知っている形では無いだけです。確定した過去と現在を元にした、その延長線上に存在する神は今ここに座す事ができるでしょうか。そうなったら神話は何処にあるのでしょうか。つまりそういう話です」
かしゃんと音がして、組み上がったあまりにも小さく単純な構成をした部品。
それが吸い込まれるように虚空へと消えていく。
トシキはその瞬間が恐ろしかった。
「私は既に役割を終えているんですよ。メシア教の方々には理解できないでしょうけど」
--3
標的のアルミホイルマンの頭を飛ばしたのだが中からシャドウが溢れ出た結果、空に向かって吠える怪獣もどきの暴走体となってしまった。
暴走したペルソナ使いの相手は億劫なのでムカデさんに任せる。
大怪獣大決戦だ。
俺でも勝てる程度だから確実にムカデさんが勝つけど。
そうなると不思議なことにやることが無くなってしまった。
あの人、通常攻撃が百裂突き判定な上に近寄るとその日の気分で巻き込んで来るからな。
敵が強かったら援護するのだが、ガトリング砲の弾が惜しいと思う程度なので任せてしまおう。
今の勢いで射撃しているとすぐ魔力が枯渇しそうだ。
今日は試運転だし、そもそも独力で使う物じゃないからしょうがない。
真面目に運用するなら背負っているタンクにチャクラポッドを充填し、その中に精霊を浸すくらいのリソースが必要だ。
特殊弾をばら撒くよりは安いが、それでも金が湯水のごとく消費されるのでヤタガラスに許可された時くらいしか本気では使えない。
戦闘中に細かいあれそれを俺がやるより電霊がやったほうが1億倍速い。
電霊に頼めばガトリング砲はパーツ毎に分かれ、収納ボックスへと戻っていく。
ピジョンちゃんに任せていた飛び入り参加者の相手はどうなったか確かめるとしよう。
何が起きても問題ない距離に居たので大丈夫そうだとは思う。
「ピジョンちゃん、今どんな感じ?」
「お話は終わりました。やってくれるそうです」
「それは良かった」
ピジョンちゃんはどこかつまらなそうだった。
歯向かってくれたら呪殺して終わるので、そうならないのが不満なのかもしれない。
これが元聖女候補、メシア教って怖いよな。
候補でこれだと聖女ともなるとどうなっちまうんだ。
『おいおいおい! サガミぃ! あんま舐めんなよ! うちのトシちゃんなら余裕に決まってんだろうが!』
男子高校生の”トシちゃん”とやらが持っているスマホから聞こえる大声は生まれたばかりの電霊によくある合成音声だった。
育つと滑らかで人間と遜色ない発声を獲得できる。
俺の電霊はめっちゃ綺麗な声をしている、シャイなので俺としか話したがらないが。
そんなひよっこ電霊の強気とは裏腹にひよっこな持ち主は腰が抜けているようだ。
まあこれからやってもらうことは簡単なので腰が抜けていようとも関係ない。
腰抜けでも簡単に死体にはなれるからな、安心してほしい。
ああ、でもやるなら死んでから腰を抜かしたほうがいいかもしれない。
それなら復活のついでに腰も治る。
「うーん、余裕、余裕か。確かに余裕かも。難しいことをやらせるわけじゃないからね。それで、何のために『井戸』に来たのか聞いた?」
「ヤタガラスに所属したいそうですよ」
「所属するだけならDDS-Netで申請するだけじゃん。幼体だとしても電霊だろ、それくらいわかってると思うんだけど」
『フリーなんてぬりぃ事を考えるわけねえだろうが! こっちは本格的に所属するのが目的だ!』
どうします、とピジョンちゃんから目線で問いかけられる。
フリーでは無く、神奈川に所属したいらしい。
今なら神奈川に所属となるのだが、そうなると誰かしらの後援を得られるからなぁ。
この場合はだと推薦することになる俺だろう、普通に考えたら。
真面目にやる気が無い俺の推薦とか価値が無さすぎて笑えるが、そこの所は流石に理解しているはずだ。
幼体の電霊だから知識足りてないかもしれないが、それはそれ。
「いいよ、別に」
『話がわかるじゃねえか! トシキ! こいつは頭がぶっ飛んでて師匠に向いてるとは全く思えないが崩壊後には心強い味方になるぜ!』
「崩壊後の当てかぁ。それだと役に立たないんだが」
ラプラスが持ち主をヤタガラス所属にさせたがる理由は崩壊対策のようだった。
崩壊とは何かといえば文字通りの事象だ。
予知系統の霊能力者が未来を識ろうとするとある一定の時間までしかわからなくなるとか。
中には断片的なイメージを得られる能力者もいて一様に崩壊を囁くという。
先が見えないなら単純に世界が滅んでると俺は思うが、そういう事象に詳しい電霊や悪魔が平行世界では文明や宗教が一定のラインを超えると頻繁に社会崩壊していると証言しているらしい。
今のところは明確な日時や場所、事件等といった全容は解明されていないが、現在の社会が終わる規模の何かが起きると予見されている。
ヤタガラス内のみならず、世界中でまことしやかに囁かれているのだからとんでもない。
ピジョンちゃんも崩壊の神託を受けたが、適切な行動によって期限が延びる感覚がするらしい。
頑張れば俺たちの死後まで延ばせるんじゃないかってスタンスで最近は活動しているので、崩壊後の社会に向けた備えとかは全く無い。
全国規模で歴史と権威のあるヤタガラスが準備しているので、ご機嫌取りも兼ねて貢いでるし仕事も手伝っている。
「先に行っておくけど俺たちは崩壊を防ぐ派閥に属しているからな。隕石降ったり富士山噴火したりして社会が崩壊しても快適に暮らせる準備とかも当然していない」
「コンビニとか便利ですもんね。スーパー銭湯に行けば24時間お風呂に入れます」
「ピジョンちゃんはよくわかってる。そう。便利なんだよ。俺は日中は店で色々な飲食を楽しめて、24時間気軽に買い物できて、電車で好きな所にいける今の社会が至上だと思っている。行き届いたライフライン、簡単に入れる風呂、ちょっと悪魔とかを小突くだけで過ごせる快適な生活を手放す気は全くない。軽く旅行に行った先の小さな山に登ったりして、その時にすれ違った見知らぬ人とのちょっとした気軽な挨拶ができる日常が好きなんだよ。そのためなら色々やれる」
言葉通り今の生活を維持できるなら結構やれる。
悪魔や人間がどれだけ死のうと構わないし、沢山殺すのもちょっと嫌だなってくらい。
妥協することは出来ない。
悲しいことに俺にはリーダーシップみたいな物が欠けているし、ピジョンちゃんも同様だ。
俺は生み出せないし作れないので、事前に準備したからといって崩壊後に現代の快適な生活を再現できるとは到底思えない。
俺が望む娯楽を含んだ衣食住は国単位で有機的に機能して今の社会を続かないと手に入らない。
音頭を取る才能があっても再現できないだろうから無くてもいいか。
『はっ、好きにやってろや』
興ざめとでも言いたそうなラプラスの声だが、持ち主はそうでもないようだ。
俺の言葉に理解を示すように小さく頷いていた。
平凡な日常が一番だよな。
ぶっちゃけ戦いとか強さを求めるなら魔界に落ちればいいし、神を讃えたければ死んで天国に行けばいいんじゃねえかな。
なぜ自分だけでやらないのか。
周りに見せつけて認めて貰わないといけない程度の自信しか無いのだろうか。
「どうする? 自己紹介しとく?」
「私はさっきしましたよ。彼はトシキという名前だそうです。十の四季を司る名だとか」
「十の死期……? 10回死ぬってこと?」
「季節の四季です」
「そうなんだ。十の四季……うん?」
そもそも十の四季ってなんだよ。
こんな少ない文字数だけで平気で矛盾するの凄くないか。
司るってのもよくわからない。
名前って難しいんだな……。
『要らねえよ! さっさとしな! トシキもそう言ってるぜ!』
「俺とはまだ一言も喋ってないんですがそれは」
ラプラスの言葉に十の四季を司る少年”トシキ”がギョッとしていた。
なんだ?
俺とはしゃべりたくないのか? とダル絡みしてもいいが、本人は状況をよくわかっていないのにそんなことしたら可哀そう。
それはそれとして可哀そうだが、俺が事細かにフォローすることでもない。
今の所は俺の予定に割り込んで来た迷惑な他人でしかないのだから。
むしろこれからやる事を考えたら知らないほうがいいんじゃないかな。
気づいたら終わってた、みたいな。
ガンダムでコロニーに毒ガスを撒く部隊も知らずにやったじゃん、そんな感じ。
「まあ、名前なんて何でもいいか。どうせヤマキタになるんだから。穴埋めしたかったからちょうどよかった」
『おいおいおいおいおいおい! 待て待て待て! トシキのレベルはわかってんのかよ!』
「たったの5、ゴミめ」
『わかってんならまだ早いのもわかるよなあ! おい!』
「ハッピーバースデー、ヤマキタってこと?」
『ちげぇぇぇ! 話を聞けやボンクラがぁ!』
「必死じゃん。どしたん? 話聞くよ? 遠慮しないで?」
『話を聞く前に事実を見ろぉぉぉぉ!!』
ウケる。
聞けって言ったからちゃんと聞こうとしたらキレられた。
秋の空並みに複雑な乙女心だ。
それにしても必死な電霊ってなんかレアだなぁ。
他のラプラスみたいに傲慢になれよ。
傲慢すぎて俺の電霊が結構食っちまったけど。
「そのアルミホイル頭を井戸に放り込む。そしたらその術式に対して呪い返しが発動して相手は死ぬ。こいつは大役だなぁ。ヤタガラス内でも名を襲名した実力者しか任せられない。あと返す呪詛は相手への感情で強まったりするからなんか良い感じの因縁があると尚良し。……新しいヤマキタが該当しててちょうどよかった」
うんうん、と頷きながらアルミホイル頭を投げ渡す。
この任務で重要な頭パーツだ、無くすなよ。
しかしロボトルだったら敗北宣言される状態でも動けるんだからペルソナ使いって凄いよな。
新しいヤマキタがこれから誕生するのだが、ちょっと能力がショボい。
後でレベルは盛るけど、特技が無さすぎる。
ちゃんとしたダークサマナーなら殺した人数とか数えてるので、それで威圧できたりするんだけど。
ラプラスだけだと色違いのコロトック程度の貴重さ、つまりちょっと珍しいくらいだ。
『テメェ、正気か? 管理地を与えるんだぞ?』
「期待の現れ、本気だよ」
期待と言えば先代のヤマキタは弟子を育ててたっけ。
俺が頭を吹っ飛ばしてムカデさんにボコられてこれから死ぬ。
意識したら打撃音が聞こえてきたな。
聞こえますか、先代ヤマキタさん。
俺たちから貴方へのレクイエムです。
しょうもないなことを考えながら、俺の電霊が”トシキ”のプロフィールを纏めてくれていたので流し見していた。
これからやることと、やりたいことがばっちり噛み合っている。
ヨシ!
「トシキ。君に魔法の言葉を授けよう」
俺がそう告げると、この場にいる者は三者三様だった。
お面の上からでも上機嫌だとわかるピジョンちゃん、演算をしようとこちらにちょっかいを出して悉くやり返されているラプラス、生首を持って立ち上がるトシキ。
あとガチャが回したくなったので他人の才能で疑似的に試してみる俺。
「とても苦しい時や死にそうな時、どうしても先に進みたいならこう言うんだ。『ペルソナ』ってね」
ぱっちーん☆とウインクする。
ラプラスが騒ぎ出したが無視する。
新たな自分は死地でこそ見出せる……かもしれない。
臨死体験は超常の力を与えることもある、全く期待できない能力を吹き込もうとしたわけではない。
才能の片鱗とかそういうのは感じないけど、上手くいくこともあるだろう。
ペルソナ召喚に失敗したら蘇生させるし、暴走してシャドウ化したらムカデさんが処分してくれる。
ペルソナ使いなら勝手は違うが強くなりやすいので今後の役に立つかもしれない。
飛ぶ鳥を落とすってワケで、一石何鳥だろうか。
「あとはアルミホイル頭の生首を抱えて井戸に飛び込むだけ。実に簡単だ。”必殺の霊的報復兵器複合呪詛
トシキは重大さを理解していないのか、顔を青くしつつ震えながらもやる気を見せてくれている。
反してラプラスは『テメェ……』とだけ言って言葉を詰まらせる。
ラプラスはどんなものかわかっていなかったのだろう。
わからない物は演算出来ないからな。
俺の電霊は未来予知出来るほど演算能力は高くないが、情報については電霊内でも随一らしい。
電霊にも相性や力関係がある。
なるほど、よくできている。
「呪い返しが上手くいけば同じ呪具を使っている連中を簡単に皆殺しにできる。欠点は飛び込んだら死ぬってことくらい」
生首を投入すればいいからそもそも飛び込む必要もないし。
でも因縁とかあったほうが威力は上がるらしいから、飛び込みによってなんかいい感じになって欲しい。
使用する上では他にも気を付けないといけない点は多々あるが、ここで彼らに説明することでもない。
都市伝説や妖怪といった負の伝承を纏めた呪詛的な存在となった井戸の怪物。
感染する致死の呪いそのものだが見たり知ったりするだけでも呪殺されてしまうので、使用後に生きて帰る場合は無効化して忘却措置が必要と手間がかかる。
再使用の際には復元措置が必要だし、使い勝手がいいかと問われると否定するしかない。
敵の頭数を減らすのに使いやすいので俺は好きなんだが、ヤタガラス内では殆ど使われていない。
そんなに強くないけど重罪となった異能者が放り込まれる場所って感じらしい。
とりあえず上手く生首をタッチダウンしてくれたら信徒のアルミホイル族は殲滅できるので、そこで今回は手打ちだろうか。
今日はもう仕事終わりかな、と考えていると依頼が追加された。
ゲートパワーが高まって横浜の高校が魔界に沈みつつあるようだ。
横やりが入らないように動かないといけなくなった。
人生って上手くいかないよな。
ペルソナの力で井戸に飛び込んだトシキを見ながら俺はそう思った。
--4
あ銀杯教は銀蠅に由来する、と先代に教わったのはいつの日だったか。大戦の折、船で盗み出した缶詰を涙ながらに食べた銀蠅行為が忘れられず組織の名前になったらしい。敵国との戦いの末に船は沈み、大海に揺られながら月を見上げていた先代が立ち上げた。その時、先代は超常の力に目覚め、海を泳ぎきって生き延びた。暗い海と孤独はただ復讐を誓わせた。あ
銀杯教は貧しい者たちのための教えを布教している。貧しい者とは金銭的に貧しい者だけではない。才覚なき凡人にこそ門戸を広げている。才ある者たちはたった独りきりであろうともその手にあらゆる富を得る。成功して貧しい者から奪い盗る。だからこそ、先んじて摘み取り、奪うのだ。平等のためだ。幸せになれる者が憎い。
ゆらぎはその才能を見込まれた。女の身でありながら人一倍力があり、言葉は容易く人を操り、もう一つの人格は魔を宿す。銀杯の教えを拡げるのにそう時間は掛からなかった。教えから呪具を作らせ、力を拡大させるのも片手間であった。
あ
銀杯は月を模した呪具が与える狂気に身を委ねることで力を発揮した。人格の破壊によって漏れ出す力は命と引き換えに爆発的な火力を誇る。何よりもゆらぎ自身が月に吠え
違う。思考が滑る。
思い出せ。自分がやるべきことを。強い意志が肉体を励起させる。
突然現れたかのように佇む狐面の男から距離を取ったのは、ある種の反射でもあった。
焦りからか力の配分を誤り、床に亀裂を作り、足跡が刻まれた。
「なあ、それって楽しい?」
狐面が言う。
何を指しているのか逡巡し、しかしすぐに切り捨てる。すでにここは戦場だ。悠長に構える余裕はなかった。
緊張からか忘れていた物事が頭の片隅に蘇る。
信徒たちが次々と倒れる中での襲撃は、守られるべき自分にまでその矛を届かせていた。
銀杯教の教祖ゆらぎである自分を前にして、狐面は不気味な程に動かなかった。余裕の現れだろうか。
舌打ちをしたくなる。戦う予定はなかった。潜り込ませた物たちからもヤタガラスが動く予兆は無かった。
幾度となく繰り返した小競り合いで狐面がサガミという名である事、そして大体の力量を把握していた。
銃撃をメインに据えた戦術を取っている。近接で戦っている記録はないが、苦手というわけでは無いだろう。高レベルの存在ともなれば距離等誤差でしかない。それでも僅かな差ながらも不得意である可能性が有り得た。そして幸運な事に自分の適性は近距離だった。負け知らずとも言える天賦の才。相手に不利を押し付け、自分が有利を得て勝つのが異能者の戦いだ。
既存のアナライザーでは分析しきれないレベルを持つ相手だが、しかし、条件さえ整えば自分も同様だった。そして、本拠地の異界である銀杯教の神殿内ならば更に力強さを発揮できていた。
地形による後押し、近接戦の才能、そしてペルソナによる恩恵。迫撃戦ならば分がある。
「楽しいんだろうなぁ」
半ばまで狂気に委ねた自我で、脚力を込める。無防備な背後を取れば、サガミはそう呟いた。
銀杯教の呪具は銀のテープに似ている。それは頭部に隙間なく巻き付ける事で効力を発揮する。
呪具を巻いた信徒を見下ろすと、その頭部が銀の月に見えるだろう。簡易的な月を模す事で満月の恩恵を与えるのだ。与えるのは狂気、そして人格の分裂だ。まるで満月が与える恩恵のようだった。あ
銀杯教の拡大にはペルソナ使いが関わっている。教祖である自分を中心とした一般的な組織構成だが、幹部はみな熟練のペルソナ使いだった。あ歩んできた人生には紆余曲折があった。出会いと別れを繰り返した。組織が揺らぐ物事も幾度となくあった。その度に幹部となった仲間たちと乗り越えた。ペルソナ使いの出会いはタロットカードを模していると言われる。そして惹かれ合うように出会うのだと先代はゆらぎに教えた。自分の人生はタロットカードの全てを揃えていた。苦難の末が今だった。あ
あ異能者との戦いは金が必要だった。悪魔やそのシステムに連なる研究、修行の環境、装備。湯水のごとく必要だった。銀杯教の教えで安らぎを与える代わりに金銭を集めさせるようになったのはすぐだった。富む者から回収すればするほど心が洗われた。家族がいる者、友がいる者、戦える者、幸せな者、孤独ではない者、持っていない物を持っている者。あ持っている者が憎くて奪いたくて奪いたくて奪いたくて
「なあ、何度も楽しいか?」
狐面が言う。
違う。思考が滑っていた。
思い出せ。自分がやるべきことを。強い意志が肉体を励起させる。
突然現れたかのように佇む狐面の男から距離を取ったのは、ある種の反射でもあった。
焦りからか力の配分を誤り、床に亀裂を作り、足跡が刻まれ……足が僅かに引っかかっていた。同じような足跡が幾つか刻まれている。妙だった。
逡巡し、しかしすぐに切り捨てる。すでにここは戦場だ。悠長に構える余裕はなかった。
あ緊張からか忘れていた物事が頭の片隅に蘇る。
信徒たちが次々と倒れる中での襲撃は、守られるべき自分にまでその矛を届かせていた。
銀杯教の教祖ゆらぎである自分を前にして、狐面は不気味な程に動かなかった。余裕の現れだろうか。
舌打ちをしたくなる。あ戦う予定はなかった。潜り込ませた物たちからもヤタガラスが動く予兆は無かった。
幾度となく繰り返した小競り合いで狐面がサガミという名である事、そして大体の力量を把握していた。
銃撃をメインに据えた戦術を取っている。あ近接で戦っている記録はないが、あ苦手というわけでは無いだろう。高レベルの存在ともなれば距離等誤差でしかない。それでも僅かな差ながらも不得意である可能性が有り得た。あそして幸運な事に自分の適性は近距離だった。負け知らずとも言える天賦の才。相手に不利を押し付け、自分が有利を得て勝つのが異能者の戦いだ。
既存のアナライザーでは分析しきれないレベルを持つ相手だが、あしかし、条件させ整えば自分も同様だった。そして、本拠地の異界である銀杯教の神殿内ならば更に力強さを発揮できていた。あ
地形による後押し、近接戦の才能、そしてペルソナによる恩恵。迫撃戦ならば分がある。あ
あ
「得意なんだなぁ」
あ
半ばまで狂気に委ねた自我で、脚力を込める。無防備な背後を取れば、サガミはそう呟いた。あ
あ
あ
あ
銀杯教は
あ あ あ
月 が 見 て い る
あ
あ
思考が滑っていた。
思い出せ。自分がやるべきことを。強い意志が肉体を励起させる。
突然現れたかのように佇む狐面の男から距離を取ったのは、ある種の反射でもあった。
焦りからか力の配分を誤り、床に亀裂を作り、足跡が刻まれ……足が僅かに引っかかっていた。同じような足跡が幾つか刻まれている。妙だった。
何かが起きている。
背筋が凍るような思いで、そしてすぐにアナライザーのログを追う。
独自に研究しているそれは、一般的に手に入るCOMPの物よりも遥かに高い性能を有していた。
「お、判断が早いな。この回数でパターンを変えるなんて優秀だ」
感心したような声を無視し、ログを必死に読み込む。
絶句した。
把握できていなかった攻防が繰り返されている。
それも一度や二度では無い。
同様の動きを、二十を超えても完全に繰り返していた。
ハッとして身体を見れば、傷だらけで血が流れ出していた。
しかしそんな記憶はない。
「はい、次」
何気ない言葉とともに、拳が振るわれる。
ログに新たな文字が刻まれた。
<サガミの双手>
<サイコダイブ発動>
―ゆらぎは直前の記憶を消された―
―プレスターン喪失―
<サイコダイブ発動>
―ゆらぎは記憶をランダムに一つ失った―
銀杯教は研究に力を入れている。日ごろからゆらぎは既存のCOMPにデフォルトで入っているアナライザーの性能に不満を持っていた。その理由はレベル50が上限となっているためだ。レベル上限とは現環境の存在強度の最大値を示している、と言われている。つまり現代日本のゲートパワーで生成される異界で得られる練度の最大値と考えた。だが実際はどうだろうか。ヤタガラスに属するライドウや四天王、主要都市に居座る連中は容易くレベル50を超え、アナライザーでは表記がオーバーフローする。限界と銘打ちながらも当然のようにそれを超えるレベルの持ち主が存在する。恐れと同時にチャンスだと捉えた。正確に敵の力量を把握し、同時に自勢力を完全に把握すことが出来る。また、上限を超えた先に本当の力がある事を知った。狂気に身を委ね、月に吠えた時、ゆらぎは真の力を得た。
あ
あ
信徒が次々に倒れていく。余りにも濃い呪いは、幹部を除く人員の悉くを殺しつくしていた。憎悪が渦巻いていた。混乱は少ない。惑う者たちが失われていたからだ。だから自分はすぐに動くことができた。守られるべき玉座を捨て、走り出し、そこにサガミがあ
あ
あ
だから儀式を発動して
月に吠えた
「俺は電霊でCOMPを封じたけど、次はどうしたっけ? 何を考えてた?」
ペ ル ソ ナ
「あー、そうだった。そうだった。熟練のペルソナ使いは便利だな」
狂気が思考を蝕む。
僅かに残った理性で敵を見据える。
これまでの全てを一度捨てる。それが勝機に繋がると月が囁く。
羽化するシャドウを無視して歩むサガミに頭を撫でられて
あ
■■教はあっ
違う違う。ゆらぎの幹部はどうしていたか。幹部はサバトマの儀式によって月の神を強大な存在として強化しようとしていた。信徒が死に耐えていく様子から異常を悟り、迎撃に万全を期すためだった。
「それでシャドウが強かったのか。了解っと」
生に
意味など
「あ、もういいよ。お疲れ様。時間稼ぎしてただけだからこの後はライドウに斬られて回収されて終わりだもんな。……なんか元気そうだし、もう一回斬られるところを思い出してみようか」
無いと
知るg
意識が浮上する。
四肢が奪われていた。
わたしの狂気と妄執、そして神はライドウの一太刀で切り払われた。
様々獣の顔を模した面が浮いていて、わたしを囲んでいた。
繰り返し、繰り返し、わたしの記憶は汚される。
崇高なはずの■■教は既に無い。
いたはずの仲間も消えている。
わたしはなんのために、なぜこんなことを、どうして。
「ええ、はい。もちろん。今から再生します。抽出後は抹消するので……はい、はい。ミサキ様の御心のままに」
サガミがわたしの頭に触れる。
わたしの大切な記憶がかき混ぜられる。
記憶を切り分けられる気持ち悪さに恐怖する。
許可なく思い出す事すら許されない。
あ
徐々に感情も希薄にあ
わたしはあ
あっ
あっ
あ
あ?
わたしの記憶が無造作に蘇って……?
「あ、ごめん。ペルソナ使いの子が増えたからマニュアル用に記憶貰うね。詳細を調べるとだるいから適当にやるから嫌だったら右手を上げて。嫌じゃないんだね。はい、ありがとう」
ぐちゃぐちゃに頭を混ぜられる。
記憶が浮かぶ。
そしてすぐに消える。
大切な思い出だった気がしたのに、その直後に奪われる。
忌まわしい記憶だったはずなのに、その直前に消される。
心に繋がる何かが消えていく。
わたしはこの先どうなるのか。
答えなどないと涙した。
「あ、やべっ。ペルソナ消えたかも。なるほどなぁ。ここを弄ったら消えるのか。おっけー、理解した。……大丈夫です、ミサキ様。たぶんここをこうやれば、再生できるはず」
あっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっ
あっあっあっあっあっあっ
あっあっ
サガミ
対応アルカナ:太陽
サイコダイバー
ピジョン
対応アルカナ:月
ムカデさん
対応アルカナ:星
ヤマキタ
新入りのペルソナ使い。与えられたマニュアルに沿って修行中。イジられキャラ(記憶)
ゆらぎ
抹消済み
銀杯教
抹消済み