実験室のフラスコ(2L)   作:にえる

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原作:ヱヴァンゲリヲン新劇場版 ヱヴァンゲリヲン1 あっくん

 

 --1

 

 隕石が落下したことで南極大陸は消滅、南半球の生物の大半が死滅した。

 そこから紛争が起き、ついでに”東京都”に新型爆弾が落下して人類は半分ほど数を減らした。

 とんだディストピアである。

 

 そういった『災害』の翌年に”東京都”の復興は断念し、長野県に”第2新東京市”を遷都。

 数年が経ち、復興も順調に進んだことで次期首都として箱根を中心に”第3新東京市”も建設され、完成後には遷都される予定だという。

 この”第3新東京市”だが、なんと義肢装具士の専門学校が新しく設立されるのだ。

 かつての”東京都”に存在していた義肢装具系の大学や専門学校が寄り合った結果らしい。

 ”東京都”にいた教員などが物理的に蒸発したせいで、ノウハウと経験者を欠落したために、ダメージの大きいというか切り離す必要が出てきたところから人員をかき集めとかなんとか。

 集めすぎて逆に過剰なレベルで潤沢になったという話をネットの掲示板で見かけた。

 進路を決めていた俺はすぐにそこを受験し、受かった俺は建設中の”第3新東京市”に住居を求めた。

 両親が物理的に蒸発したので”東京”なんて好きじゃないが、元は箱根なのでセーフだろうと自分に言い聞かせながら。

 

 

 

 

 

 そこら中で建設が進められている”第3新東京市”だが、人が活動するような区画から優先的に工事が進められているようだ。

 地元よりは少しだけ割高だが、悪くない賃貸料で、学校近くの立地を借りることができた。

 まあ、問題があるとすれば……

 

 「いや~、こんな僻地に首都予定地を作るとか束さんはみんな馬鹿かと思ったけど。どうしてなかなか悪くないね、あっくん!」

 

 近所に住んでた中学生、ああ、進学したから高校生か……。

 まあ、その高校生の束ちゃんが付いてきたことだろう。

 ちゃんと許可を取ったのか両頬を引っ張りながら問い詰めると、俺の所に身を寄せるために進学すると伝えたら家族に普通に見送られたとか。

 キミの家族はちょっと倫理観がガバガバ過ぎでしょ。

 

 あとはシスコンが激しすぎて気持ち悪いレベルのため、出ていくことを妹に伝えたら超喜ばれたと涙目だった。

 ……そのうちいいことあるさ。

 

 

 

 

 

 --2

 

 日中は俺と束ちゃんは学校に通い、帰ってきたら二人でテキトーに遊ぶ生活である。

 束ちゃんと二人で数年前に断念したISを何とか作れないか試行錯誤したが、やはり不可能であると判明。

 まあ、内容はぶっちゃけるとSF小説のようなものだから仕方ない。

 ISを作るとしたら、部品を作る装置を作る設備を作る環境を作る部品を作る装置を作る設備を作る環境を作る必要があるレベルだからなぁ。

 わかりやすく表現すれば、ドラえもんのタケコプターを反重力装置から作るのと一緒である。

 巨大なプロペラを背負うようなパチモンではISを再現できないので、妥協すらできない。

 結局、諦めた俺たちはテキトーに遊ぶことにした。

 

 

 

 束ちゃんが最近ハマっているのは、神経とか筋肉を人工的に作り出す技術だとか。

 再現するととても巨大な人造人間を生み出せる可能性もあるとかないとか。

 すでに実証実験も行われているようだった。

 失った足とか生やせるようになるのかな、と想像したが、巨大化するのは勘弁である。

 

 俺は義肢を機械化させる研究に熱中している。

 人間の動作は電気的な信号によって支えられているのだから、受容する器官も機械でいけるっしょ☆という話だ。

 神経系が上手くいかないことや、感覚のフィードバックが適切に得られないなどと困難にぶち当たっているようだが。

 

 

 

 あとは、いつの日かISを完成させる時のためにシミュレーションを作ってみた。

 ちょっとした一人称のロボットアクション系の同人ゲームとして売り出したら結構売れて小遣いになってくれた。

 

 

 

 

 

 --3

 

 束ちゃんは以前読んでいた論文のように神経や筋肉を作りたいらしい。

 が、残念ながら環境が許さない状況である。

 

 俺も機械化義肢であるオートメイルを作ってみたが、制御系が上手くいかない。

 完成しても試せないしなぁ……。

 

 勿体ないのでブログにアップした。

 評判は結構悪くなく、アフィ収入で懐が潤うという好循環。

 ついでにISの同人ゲームもパワーアップさせ、機動性を高めた。

 ゲーム内の話だが、理想のISの動きに近づきつつある。

 パソコンが少し古いと処理落ちするが、そこら辺は自己責任だろう。

 

 

 

 

 

 --4

 

 全てを機械化するのは諦め、束ちゃんが詳しい神経系などをぶち込む考えにシフト。

 機械化した部位で繊細な機能を必要とする部分に培養した生身で補うものだ。

 とはいえ試作品を作ることは出来ないし、もちろん実証することなど夢のまた夢である。

 論文を漁ると似たような研究をしている人もいるし、実証にまで至っているのだから、俺と束ちゃんもイイ線いっているのではないかと期待してみたり。

 

 ブログにアップすると評判がなかなかいいのだ。

 無駄に技術力のある馬鹿が無駄に頑張っている無駄な研究、みたいな扱いだけど。

 設計図とかシミュレーション、考察などしか載せてないからなぁ。

 あとは外殻である機械義肢の動いている動画とか。

 

 

 

 同人ゲームのISも更なるパワーアップを果たした。

 理想状態の機動に至らないが、対戦モードを取り入れた。

 ネット回線でラグが生じるとか抗議が来たが、知らんがな。

 回線速度は専門の人に電気会社とか通信会社に頼んでくれ。

 

 

 

 

 

 --5

 

 就活をしていると、学校から特務機関NERVという研究組織に推薦された。

 話してみると、学校の成績やブログを顧みて、是非とも来てほしいとかなんとか。

 ……ブログは匿名なんだけどなぁ。

 

 ちょっと怖いが、提示された給料や研究施設に心惹かれる。

 しかも俺と束ちゃんの研究の先駆けのようなモノをやっていた人工進化研究所の後任らしい。

 これはもう、行くしかないな。

 

 帰宅すると束ちゃんにも声がかかっており、俺が入るなら一緒にNERVに入る予定とか。

 ……束ちゃんにまで声が掛かってるとか、ちょっとどころかかなり怖くなってきたんですが。

 

 

 

 ISもバージョンアップを重ね、ついにシナリオモードを搭載した。

 シナリオだが、

 ・技術革命的なISの登場によって既存の兵器は過去の物となり、ISが世界の中心となった。

 ・ISは女性にしか操れないので女尊男卑の世界に移行。

 ・シナリオ主人公は、唯一のIS男性搭乗者となって女尊男卑の世界を駆け巡る。

 ・ヒロインは複数人。

 ・ハーレム的な展開が用意されている。

 という感じである。

 売上は過去最大のヒットだった。

 機能面も当然だが、やはりハーレムの要素が重要だったようだ。

 ストーリーがガバガバすぎぃ!などと叩かれたが、そこら辺はテキトーなんでしょうがないね。

 

 当初の『ISのシミュレーション用』というと目的と随分逸れたことに気付いたのは、売り出してから半年後だった。

 

 

 

 

 

 --6

 

 NERVで勤めることになったが、あんまりやることが無いという現実。

 汎用ヒト型決戦兵器と銘打った人造人間を建造する研究に携わっているが、完成予想図から関節部の負荷などを導くだけである。

 束ちゃんもちょっとしたプログラミングを組んだり、培養した生体組織を組み込むくらいだとか。

 楽だけど、ちょっと物足りない。

 NERVの前身である人工進化研究所に所属したメンバーの大半が移籍してきているとかで、移籍組に重要な仕事が割り振られているからという理由があったりなかったり。

 

 

 

 装甲板によるバランスなどを考慮して外殻部をシミュレートして組んでいくが、指示されたように調整すると出力が落ちる。

 落ちるというか、力が入りにくい構造になっている。

 これは間違いではないのかと提言するも敢え無く却下。

 正しいらしいのだ。

 兵器なのにわざわざ弱くするとか……。

 

 強すぎて操縦できなくなるのを恐れたりとか?

 なんだその一昔前のSF映画みたいな展開。

 有りえないか。

 考えがわからんが、指示通りにするのが正しい技術者の姿である。

 まあ、俺が技術者だかは知らんけど。

 

 

 

 

 

 --7

 

 俺たちが作っている人造人間だが、エヴァンゲリオンというらしい。

 縮めてエヴァだ。

 人の始まりであるイヴとか福音だとかの意味が込められているようで、ちょっとおしゃれである。

 このエヴァだが、使徒という敵と戦うために建造されているという話で、世界各地でも作られているようだ。

 人工進化研究所はその基礎実験用だったとか。

 なるほどなー。

 しかし、敵を使徒と呼ぶとかなかなかオサレだな。

 

 使徒に負けると一発で人類全滅らしい。

 

 ……え?

 え?

 糞ゲーすぎじゃね?

 

 

 

 まあ、そんな風な説明を受けたがやはり仕事は少ないわけで。

 忙しい人は死ぬほど忙しそうだが、残念ながら俺と束ちゃんは専門が違うのだ。

 武装を開発するわけでもなければ、プログラミングするわけでも無し。

 そもそもまだコアくらいしか出来ていないらしいので、マジでやることがない。

 

 しょうがないのでNERVのスパコンでISゲーを起動。

 コイツは理想を再現しまくった結果、あまりの演算の重さにほとんどPCでは処理できない困り物だ。

 NERVの超凄いコンピューター様であるMAGIならイケるんじゃないかと束ちゃんと相談の結果、試してみることに。

 NERVのスパコン、というかハイパーコンピューター様であるMAGIは三つの独立したシステムによる合議制が布かれている。

 処理能力を割いてゲームしていいか提案してみると『MELCHIOR』が否定、『BALTHASAR』が承認、『CASPER』が条件付き承認だった。

 ちなみに条件は束ちゃんの相談というか会話というか、そういう女の子の会話的な感じらしい。

 ……人間臭すぎないか、このコンピューター様。

 まあ、いいか。

 接続して起動っと。

 すげぇ!

 量子変換の演算まで綺麗に描かれている!

 やっぱNERVはNO.1だ!

 最先端の研究施設は伊達じゃなかったんだ!

 

 

 

 

 

 バレて上司の赤城博士にガン切れされた。

 で、半年間の謹慎を喰らった。

 やN糞。

 

 

 

 

 

 --8

 

 謹慎だが、自宅待機ではなく海外研修みたいな扱いだった。

 技術提携に近いのかもしれん。

 行き先はアメリカ、ドイツ、中国、旧北極基地である。

 まあ、北極は日本に帰ってきてから幾分か月日は空くけど。

 めんどくさいなぁ。

 

 問題は俺が英語がわからんち^q^なのだが束ちゃんが通訳してくれた。

 やっぱ束ちゃんは良い娘だわ。

 束ちゃんは俺の技術分野にも明るいから安心して通訳を任せられる。

 英語を覚えようかとも思ったが、今後も通訳として行動してもらうことを考えたらやっぱりいいや。

 読めれば良くない?

 あと束ちゃんを独りにするとハイパーコミュ障でヤバいし、同伴させる理由に使わせてもらおう。

 NERVに残したら何人死ぬかわからんし、間違いなく司令は不審死する。

 帰ってきたら司令の首が無くなってて、副指令も謎の老死を遂げてたりしたら怖いし。

 

 

 

 アメリカのNERVは意外と研究が進んでいないようだった。

 日本が最先端で、後発組という印象が強い。

 急いでいるがノウハウが足りていないとかなんとか。

 ある程度までは開示を許可されているが、それもリターンによるとも。

 まあ、各国のNERV同士があまり仲は良くないらしいし、どうにもな。

 

 スーパーソレノイド、S2と呼称される研究結果とエヴァの起動実験のデータを交換した。

 S2は理論が検証で、検証が終われば基礎を積み重ね、数年後には実証実験を行うとか。

 これをやるよりもエヴァを優先したほうがいいんじゃないかと思ったりしたが、まあ、いいか。

 現状では理論通りに作っても起動できそうにないらしく、起動しても止め方がわからんという話だ。

 無から有を生み出す機関で止め方が不明とか危険物すぎ……。

 まあ、起動しないらしいから心配無用ってことだろう。

 去年くらいにS2理論の一部を中国に流出した、みたいな話を聞いたんだが大丈夫かそれ。

 

 

 

 ドイツのNERVは日本よりも少し遅い程度だ。

 人工進化研究所と提携していた研究施設があったらしいので、当然なのかもしれん。

 やはり連携はし難そうだった。

 

 ドイツ滞在中に中国の一部が消し飛んだらしい。

 どうもS2の実験を行ったとかなんとか。

 NERV支部がある北京ではなかったのでMAGIは無事らしいが、中国行きは中止となった。

 見事なフラグ回収を見せてくれたが、俺らが行く前で本当に良かった。

 が、それのせいで代わりとしてドイツの滞在期間が延びたのだが。

 

 ただ、ドイツは完全な戦闘用のエヴァを目指しているとかで俺とも束ちゃんとも技術のシナジーが微妙。

 それなのに日本で研究するよりもやる事が多いという謎。

 むしろプログラミングまで手伝うとかおかしくないですかね。

 ちなみにドイツ版のエヴァは『ヒトよりもケモノのほうが肉体的に強くね?』が根底にある。

 日本は『ケモノの牙や爪を武器にするからヒトのほうがTueeeんだよバーロー』がコンセプトだ。

 どっちでもいいです。

 

 

 

 ドイツNERVで忙しい日々を送っていたが、会話できる相手が束ちゃんと日本から一緒にきた職員だけという現実。

 ちょっとつまらない。

 お前らもっと日本語覚えろよおらぁ!と無茶振りするも惨敗。

 言語の壁は厚く、俺はドイツ語を覚える気が一ミリもないのが敗因だろうか。

 凹んでいたら十歳の少女に慰められてしまった。

 情けないんですけど……。

 

 研究施設に十歳の少女がなぜいるのかと疑問を抱いたが、話を聞けばすぐに氷解した。

 彼女はエヴァのパイロット候補らしい。

 ……お、幼すぎない?

 汎用ヒト型決戦兵器とか完全に名前負けしてるんだけど。

 もっと厳つい選ばれし軍人とかが乗るのかと思ってた。

 究極の戦士的な感じで。

 研究してていつも思うけど、全く汎用じゃないんだよなぁ。

 使徒が現れるのって、彼女が大人になってからなのだろうか。

 

 ちなみに名前はアスカちゃん、日本語がぺらぺらでいい娘だ。

 俺のためなのかドイツ語も聞き取りやすい、やっぱりいい娘なのである。

 ちょっと勝気なのが瑕ってやつか。

 それも魅力的……なのかなぁ。

 俺は日本人なので、もっとお淑やかでナデシコってるほうが好みかな。

 いや、魅力的でアスカちゃんに合ってると思うけどね。

 

 束ちゃんが着物を着てドヤ顔を披露してくれた。

 どっから持ってきたのだろうか。

 

 

 

 

 

 --9

 

 無号機、暴走。

 やっとの思いで帰国したらこれである。

 やってられん。

 そもそもパイロットが乗っていないのに動き出すとかどうなってんだ。

 無人の兵器が廃棄された都市を練り歩くとか都市伝説か。

 汎用ヒト型決戦兵器の銘は変えるべき。

 夢遊病患者初号機とかどうよ。

 

 とりあえず無号機の研究は凍結、無号機自体もデータの吸出しとパーツの剥ぎ取りである。

 で、無号機は封印と相成った。

 エヴァの凍結施設を意図せずテスト出来てしまったが、誰も喜ぶわけがない。

 そもそも封印用の凍結施設ってなんやねん。

 

 まあ、俺と束ちゃんには関係ないけど。

 司令に信頼されている引き継ぎ組は大変そうだなぁと余裕ぶっこいてたら、俺らも巻き込まれた。

 極秘にされている中枢以外を手伝うことになってしまった。

 

 無号機が暴走した原因から洗い出す必要があるのだが、マジでわからん。

 コアを組み込んだ無号機に電源入れて起動実験をしたら歩き出した、なんて話だからな。

 事前に行った基礎実験やコアのみの起動ではこんなことは起こらなかったのだから意味不明である。

 自律性を伴ったゴーストが宿ったという話のほうがまだ信憑性があるレベルだ。

 

 ブラックボックスとなっている非公開のコアを調べる必要があると報告書が各部署から提出されると、原因の洗い出しは不必要と判断された。

 どういうことだよ。

 統括的なポジションにいる赤城博士を問い詰めたが、色好い返事は返ってこなかった。

 束ちゃんがなんか意地になって松代にあるMAGIを使ってハッキングを喰らわせたが、得られたデータはどれも断片的な物ばかりだった。

 結局、コアは人造人間を動かせるほど凄まじい物は確認できなかったという恐ろしい事実を知ってしまったくらいか。

 ついでに何かが入っているという話がわかっただけである。

 

 

 

 あとはちょっと詰めを誤ってバレた結果、謹慎を喰らって北極での仕事が延びそうってことくらいか。

 やっぱNERVって糞だわ。

 

 

 

 

 

 --10

 

 旧北極基地のNERV基地「ベタニアベース」に出張となった。

 謹慎させといて海外に出張させるとか正気を疑うぜ。

 言語は英語だし、発狂するぞ俺。

 

 この基地だが、エヴァを未だに建造していないのだ。

 各国で建造されているエヴァの情報のフィードバック待ちもそうなのだが、使徒を封印しているらしい。

 無号機を封印した技術はここから来ている。

 で、使徒の解析を重視しているためにエヴァは建造していない的な感じっぽい。

 あとNERV同士が仲良くないのに情報を待っているのも良くないようだ。

 北極に国境は無いから問題ないという考えだが、天然だろうか。

 

 人間絶対殺すマンである使徒の足元にいるのに対抗兵器が無いとかここに勤めている連中は正気じゃない気がする。

 防衛機能などの結界は完璧だと言い張られたが、無号機の暴走時では戦自の兵器を鎧袖一触だったのだが。

 頼むから慢心は止めてほしいなぁなんて思ったり。

 

 とはいえ開発自体は進んでいないわけでもない。

 ちょっとは手を出しているようだ。

 ただ、輸送なども難しいので完成するかわからんって雰囲気だが。

 

 

 

 ただまあ、切り刻んだ第三使徒の研究現場を見て回ったり、エヴァについて話したりするだけなので結構楽な仕事だ。

 第三使徒は永久凍土から発掘されたという話だが、生きているらしい。

 これはもう生命力が高い云々の話ではないな、うん。

 解析も終わっているので使徒自体は封印しているから世界が滅ばない限り出てこれないだろうとかなんとか。

 相手は滅ぼす側なんだけど……。

 

 第三ということは第一、第二使徒はどうなったのかと疑問を抱いたが、NERVが保有しているらしい。

 この組織は秘密が多すぎる。

 そもそも専門学校を卒業したら世界を滅ぼす敵を倒す兵器を作る手伝いをするとか、ファンタジー過ぎないですかねぇ……。

 ゲームみたいにいきなりパイロットになれと言われないだけマシ、なのか?

 

 

 

 北極基地のエヴァの開発はまだかかりそうだな、というのが感想である。

 頭部や胸部、コア、制御系などの研究はかなり進んでいて起動実験まで行けているが、手足まで行くと未知の領域だ。

 頭から離れるほどに、指令の伝達が難しくなる。

 手足が完成するのは何時になるのか俺にはわからないが、やはりかなり時間はかかるのだろう。

 

 

 

 手足が上手くいかなかったらエヴァ用の機械鎧(オートメイル)辺りを考えておく必要もあるかもしれん。

 人造人間だし。

 戦闘して手足を失ってもすぐに生やせるわけでもないし、代替品は必要だろう。

 そこらは追って考えていくって感じか。

 報告書を出したら仕事が増えそうで鬱だ。

 

 楽して生きがいがあって給料も高い仕事をしたいんだが……。

 

 

 

 

 

 

  

 --11

 

 束ちゃんが一生懸命ヘアーカラーリング剤を眺めていた。

 エプロンドレスの上に羽織っている白衣は俺の物なのだが毛染めしたら汚れるんじゃ……まあいいか。

 近所で買って来たらしいが、数えてみたら二十個以上あった。

 そんなに買ってきてどうするんだと問うと、髪の毛を染色するのだとか。

 そらそうだろうけど、二十個は多すぎでしょ。

 「あっくんは何色がいいと思う? やっぱり黒~?」なんて聞いてきた。

 束ちゃんが一番だよと連呼したら「えへへ、やっぱり私のことわかってるね!」と満面の笑みを浮かべた。

 「えへへ」というか「ふへへ」って感じだし、笑顔もだらしなく緩んでいるけど。

 柔らかそうだと頬をふにふにすると凄い喜ばれた。

 

 

 

 まあそんな感じのことを研究室でやってたら赤城博士がぶち切れた。

 仕事はキチンと済ませているのに何故だ。

 

 

 

 

 

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 エヴァの手足の実験を進めていく。

 手足のみを培養し、電気信号を送ってが動くかどうか確かめるのだ。

 全身を培養する案もあったが、無号機の失敗で時間がロスしたので部位ごとに分けることとなった。

 接続して動作が許容できる基準を満たさなかったら、全身培養に切り替えるかもしれない。

 

 とりあえず今は巨大な手をグーパーさせたり、足を膝蓋腱反射させてみたり、色々と追加実験も行っている。

 反射などの反応は無い方がいいのか……?

 ちょっと人間の構造に近づけすぎたかもしれん。

 

 そもそもエヴァはパイロットとシンクロしてなんとかかんとからしい。

 シンクロはエヴァと操縦者の感覚を同調させることで動きや五感をフィードバックさせる的なサムシングだ。

 インダクションモードというプログラミングによる動作補正を優先させる予定もあるから問題ないのかも。

 

 

 

 右手の装甲表面を振動させて赤熱させる案が出たが、すぐさま拒否されていた。

 まあ、そうなるよな。

 パイロットと感覚をフィードバックさせるという話だし。

 

 

 

 

 

 --13

 

 エヴァは生物由来のパーツの割合が多い。

 ぶっちゃけてしまうと、使徒が使われている。

 現在、吶喊工事している初号機は第一使徒の下半身を転用している。

 ちなみに上半身は封印されているっぽい。

 第一使徒由来のエヴァと第二使徒由来のエヴァが存在しているっぽい。

 使徒に対抗できるのは使徒だけ、そういうことらしい。

 まあ、ちょっとした秘密だか何だかだった気がするが、ゲームしようとしてMAGIに繋いだら見つかった情報だから大したことは無いのだろう。

 

 

 

 束ちゃんが昔、エヴァの研究は巨人がいない的な話をしていた。

 先人の足跡が無いという意味だ。

 いや、存在しているが技術が、そうまるで湧いて出て来たかのように出現している。

 論文を書き集めてつなぎ合わせることでわかる不自然さ。

 不自然を積み上げれば、飛び石のように技術が高まっているのが浮き彫りになる。

 技術のミッシングリンクとも呼ぶべきだろうか、そういった物が存在しているようだ。

 技術発展の空白期は使徒由来のパーツのせいなのかもしれない。

 まあ、全く興味ないんだけど。

 夕食時の小話だし。

 

 

 

 ISのゲームも更なるバージョンアップを重ね、ついにアーケード版が出ることが決まった。

 ゲーム内ではISが500機以下しか稼働していない設定なので、それに合わせた数の筐体でサービスされるとか。

 設定がガバガバですよと優しく指摘されているのかと勘ぐってしまったぜ。

 タイトルは『IS Vs. IS』だ。

 二対二の対人戦をコンセプトに、ブーストや弾数をゲームっぽくアレンジした。

 同人ゲーのときの無限エネルギーによる高速軌道などは撤廃したが、家庭用が出たらレギュレーションで追加できるようにしてもいいかもしれない。

 ちょいちょいMAGIを使ったので、出来はおそらく他のゲームの頭一つか二つ分は抜きん出ているだろう。

 

 

 

 

 

 バレた。

 謹慎喰らった。

 もう慣れた^q^

 

 

 

 

 

 --14

 

 またしても北極ムーブ。

 NERV本部はマジで鬼畜だ。

 なんでこんな紙装甲の基地で研究しなければならんのだ。

 ブラック過ぎだろ、訴えられないだろうか。

 

 で、今回の仕事は第三使徒を組み込んだ兵器を創れという話である。

 無茶振り半端ないね。

 組み込むということは制御する必要あり、使徒を封印できる呪詛刻印とやらも覚えなきゃならん。

 めんどくせー。

 

 誰だよ、使徒にエントリープラグ刺したやつ。

 乗り込むつもりかよ。

 無駄に成果が出たから俺らに無茶振り来ちゃったじゃん。

 馬鹿かよ死ねよ。

 

 

 

 

 

 仕事量が半端ない。

 エヴァを二機建造、そして第三使徒によるゆりかご創りだ。

 まあ、エヴァ一機はそれほど焦る必要もない。

 普通に作るだけだから問題もない。

 第三使徒から吸い出したデータを転用しとけば一応の体は成せる。

 

 問題はもう一機である。

 従来の手法とは完全に逸脱したタイプなのだ。

 指令先は本部ではなく、さらに上位っぽい。

 なんか用意した素体をベースにエヴァを作れとか。

 えぇー……。

 こんなの俺と束ちゃんでも頭を抱えるわ。

 取り出した素体だが、形状が安定しないのだ。

 いや、ある意味で安定はしているが思った通りに変化しないというか。

 どれだけ手を加えても、同一の形になるんだよなぁ。

 まるでそうなるように組み込まれているような……。

 ……設計図の役割を持つ要素を持っているとか?

 ぐぬぬ、難しい。

 

 第三使徒のゆりかご、これはもうお手上げである。

 まず戦う相手が空にいるため、飛ばないといけないらしい。

 ふざけんな。

 こんな大質量を飛ばすとかどんだけのエネルギーと技術が必要かと。

 あとは使徒とか倒せる感じで云々。

 ふわっとしすぎぃ!

 

 NERVとかいうブラックアンドブラック。

 給料はとても良いのがなんか腹立つ。

 

 

 

 

 

 筋電義肢などの要素をぶち込んだエヴァ用の義手などの起動実験を行いつつ、忙しい日々を過ごした。

 北極NERVのMAGIを利用したISが研究者たちでちょっと流行った。

 北京支部から来たやつが、ストーリーモードで中国出身のキャラの活躍が少ないと文句を言っていた。

 確かに俺も不満だった。一番好きだし。

 ただ、束ちゃんがそこら辺は調整したので文句は彼女に言ってくれ。

 

 代わりにドイツは何故か評判が良かった。

 ロリ眼帯ヒロインなのだが、ドイツをよく理解しているとかなんとか。

 お、おう。

 

 

 

 

 

 --15

 

 日本に帰国して待っていたのは、エヴァンゲリオン零号機および初号機の創造である。

 そう、創造。

 建造ではなくなったのがポイント。

 なんと使徒をコピーして培養した物に装甲を取り付けることになったとか。

 えぇー……。

 テンションがガタ落ちである。

 今までの研究も意味が無いわけではないが、折角進めてちゃぶ台返しとか有りえないわ。

 

 北極でも似たことやらされたというのだからめんどくささが加速度的に高まった。

 あっちは何処からか用意されたコアを変形させたが、こっちはブラックボックスとなっているコアを中心に全身を培養していくのだとか。

 まあ、俺はここら辺は関係ないから良いか。

 

 骨格のバランスや筋肉の総量からある程度の出力を算出し、再び装甲を組み上げる。

 無号機の問題もあるし、ベースは使徒なのでやはり全力は出せないようにしておくべきだな。

 任意で装甲の位置を移動させて、出力が上がるような設定もしてあるけど。

 出力を上げると、筋力を抑えている制御盤が飛び出たりしそう。

 

 

 

 で、素体を使徒っぽいのにしたため、コアをベースに培養したので組み上げていくこととなった。

 脳から脊髄までの神経の中枢を機械化し、外部からエントリープラグというコックピットをぶち込むことで操作が可能、みたいな感じなのが完成図だ。

 態々人間を乗せる必要があるのかと考えてしまうが。

 どうやらエヴァは人が乗らないと動かないらしく、特定の子供にしか動かせないようだ。

 ……とんだ欠陥兵器である。

 捨てた方がいいんじゃないかと思ったが、使徒を見た経験上、エヴァは必要だと理解してしまう。

 

 パイロットは……名前はなんだったかな。

 ハ、ハヤナミ?

 いや、ワシャナミとかそんな感じだった気がする。

 たぶん、外国人なのだろう。

 髪の毛が青かったし、肌も病的に白かったからな。

 束ちゃんに聞いたら「ハヤナンミーレーだよっ!」と自信満々に答えてくれた。

 なるほど、ハヤナン・ミレーさんか。

 悪くない名前だな。

 

 

 

 

 

 --16

 

 エヴァ零号機、完成。

 長かった。

 マジ長かった。

 実験試作機のクセに手間をかけさせてくれたぜ。

 予算を削りまくって作成したレアアース製の部品で拒絶反応が出た時はブチギレそうになった。

 生体適合材料とか探しまくる必要まであった。

 細かい神経(エヴァサイズになれば太さも数十センチメートル単位ではあるが)を組み込んだ際にアレルギー反応が起きた時など発狂するかと思った。

 エヴァの体内を調べる際など、お薬の気分である。

 ドラッグデリバリー(物理)だった。

 

 あとは『IS Vs. IS』がバージョンアップしてNEXTとなった。

 筐体の発展などで、ちょっとだけ理想状態に近づきつつあり、瞬時加速(イグニッション・ブースト)などによる技の途中キャンセルなども取り入れた。

 そのため、劇的にゲーム展開が加速した。

 そしてMAGIを使っていたことがバレて、四課に連行された。

 

 四課はオカリンと愉快なラボメンたちが頑張ってた。

 基本武装はナイフだが、規格を大きくしたいという話があったが、エヴァの手とハンドル部分のバランスがうまくいかないので没となった。

 N2系統の兵器を携行可能とした武器を企画したが、パイロットを顧みて運用は困難であると判断した。

 一応N2ミサイルを発注したが、どうだろうか。

 あとは必殺技としてプラズマ砲的なのを考えているとか。

 荷電粒子化するためのエネルギーが足りないとか、ATフィールドって何?それでマジでチャンバーを生成できんの?荷電粒子砲を地上で放ってまっすぐ飛ぶ?電子の辿るガイドを作れなくない?みたいなことで没。

 山と積もった使えそうにない試作品と予算の浪費となった。

 いくつかは使えそうなのもあったが、本部では許可が出なかったので、外国に情報を送ってみたりした。

 まあ、悪くないんじゃないかな。

 

 問題は起動が上手くいかないことか。

 ハヤナンさんがシンクロが上手くいかず、起動しないとかなんとか。

 そこら辺は関係ない、そっちで頑張ってねとISを製作。

 MAGI使ったら北極送りにされた。

 

 

 

 眉毛が黒いやつはケチ、覚えた。

 

 送り込まれた先の北極のエヴァが全然うまくいってないと言う悲劇。

 二機とも無理に創ろうとするから失敗するんだ。

 そもそもコアを変形させるほうは一応の成果を挙げたし、急いでないので従来のやつを作るべき。

 というか、変形させた方は邪魔だから別の場所に輸送した。

 従来型は手足の動作も不完全、制御も出来ていない、そもそもOSが組みあがっていないという。

 パイロットに、戦闘中にOSを書き換えさせるつもりなのだろうか。

 命の遣り取りの最中にギャグを入れさせる無茶振りかな?

 

 会議でとりあえずマニュピレータなどの細かい動作などは切り捨てで義手を取り付け、足も無限軌道か多脚に変更してバランスなどは完全にパイロット任せにし、フィードとかフォワードだとかの制御もパイロットにぶん投げである。

 納期だけ守るスタイル(キリッ

 とりあえず動くようにして、追々改修していけばいいなじゃいかな。

 ……使徒が襲来するのって来年くらいらしいのだけれど。

 

 

 

 

 

 --17

 

 帰国して立ち会ったエヴァ零号機の起動実験は失敗に終わった。

 起動したし動いたから成功だとは思うが、制御できなかったから失敗らしい。

 この実験中に重要なことを知った。

 零号機のパイロット、名前がアヤナミレイだという。

 もしかして零号機を起動した際に頭を抱えてぶつかってきたのは、名前が違うことを訴えたかった……?

 

 アヤナミレイが怪我を負い、実験は中止のうえに零号機は無号機と同様に凍結。

 怪我しててもL.C.Lの液体で漂っているだけだからいけるっしょと思ったが、どうやら他の連中は違うらしい。

 まだ実験途中なのに使徒が来たらどうすんだよ(溜め息

 

 しょうがないので完成の目途が立っている初号機の実験にシフト。

 パイロットが必要となる状態なので、新規パイロットもしくは予備を回すように要請する。

 が、なかなか来ない。

 司令に直談判すると、手紙を送ったという謎の返事が。

 息子を呼ぶらしい。

 急を要する今の状態で手紙っておっさん……。

 

 

 

 MAGIを使ってISで遊んだのがバレて謹慎くらった。

 ちょうどいいので、パイロットを直接俺たちが連れてくることにした。

 このままだと何時になるかわからんし。

 善意だ、善意100%。

 司令は言葉に詰まっていたが、早く乗れば訓練もできるし、エヴァに慣れることもできる、起動実験や追加実験も行える。

 良いこと尽くめだ。

 

 とはいえ、個人の意思に委ねるけど。

 司令の息子さんが断ったらアヤナミレイを酷使することになりそうだ。

 俺はどっちでもいいけどな。

 

 

 

 立っているよりも車の運転や俺らの警護をしたほうが楽だろうと、保安部から運転手やらの人員を連れて行く。

 出向いたらビビられたが、非常に心外である。

 束ちゃんがやり過ぎてるんだろう、やれやれだ。

 俺は優しいから普通にお願いしたら頷いてくれた。

 安心だ。

 

 

 

 

 

 断ったら、エヴァ用の義肢の実証実験も予定していたので安心だ。

 代わりはいるからな。

 俺たちにもおまえらにも。

 だから、仲良くしようじゃないか。

 

 

 

 

  

 --18

 

 司令の息子さんをパイロット候補として迎えに、束ちゃんとドライブである。

 運転手は保安部で露骨に顔を逸らしてくれたグラサンだ。

 俺は免許持ってないので有り難い。

 

 起動したエヴァがA.Tフィールドという謎現象を発生させられるというのが過去の実験で明らかになっているから事前にそれの効果を調べるため、パイロット候補を直々に迎えに行っているというわけだ。

 ぶっちゃけ、A.Tフィールドとか謎すぎるんだよなぁ。

 『他人から自己を守る防衛本能』みたいな感じだし、ふわっとしすぎというか。

 

 まあ、生身でも若干発生しているようなので、パイロットの話を断られたらこの保安部の連中でA.Tフィールドを解除してコア化させる実験をしようと思っていたりする。

 ちなみにA.T.フィールドとは『自他を隔てる境界線』のような物だ。

 確固たる自分というものを心の何処かで人は認識しているためにヒトとしての形状を保てているが、無くなると境界を失うのだから結果は……まあ、ね?

 

 君たちの運命は一人の少年に託された!

 なんてね☆

 ああ、心配しなくてもちゃんと許可取るから大丈夫。

 君たちならすぐにでも許可が降りるから翌日には臨床試験に使えるようになる。

 保安部は俺の権限なら6%まで許されてるし、簡単に代えが効くってことは補充も早いから少しくらい無駄にしても……。

 

 って話を伝えていたら運転手の表情が引きつっていた。

 何時もの無表情はどうしたのだろうか。

 束ちゃんが怖いのかもしれない。

 俺がいるから大丈夫だと言ってるのに、やれやれだぜ。

 

 

 

 

 

 エヴァの三人目の適格者について、諜報部から取り寄せた資料を眺める。

 学校の成績は良いが、やや内向的な性格。

 チェロの演奏を五歳の頃から行っていて、趣味は料理などなど。

 読み進めていくほどに俺と束ちゃんとは全然違う人間性だと理解できる。

 まあ、なんとかなるっしょ。

 

 

 

 

 

 --19

 

 学校に直接出向き、司令の息子さんである碇シンジくんを呼んでもらう。

 政府の特務機関です(ドヤァ)とか、司令の息子さんである(キリッ)とか、無駄に言葉を飾り付ければ大抵の人は唯々諾々と従ってくれる。

 もちろん、この学校の校長と教頭もそうだった。

 黒服を並べたのが効いたのかもしれん。

 

 会議室を貸してくれたので、碇くん……だと司令のおっさんを思い出すからシンジくんでいいか、シンジくんを待つ。

 横長で無駄に金が掛かってそうなソファがあったので腰かける。

 束ちゃんはすでに飽きたのか、俺の膝を枕に寝てしまった。

 

 

 

 五分くらいして扉がノックされたので「どうぞ」と声をかけると少年が入ってきた。

 短い黒髪と少し垂れ気味な黒目の中性的な顔立ちだった。

 司令のおっさんの血が混ざっているとは全く思えない。

 まあ、なんだっていいか。

 発汗と瞬きが多い、緊張しているのか。

 突然父親の職場の人間が訪ねてきたとか、廊下に黒服がずらっと並んでいたからため、みたいなことを思考に浮かべるはず。

 やっぱり緊張しているようだ。

 俺には判断が難しい、まあ、いいや。

 

 互いを名前呼びにしようと言う提案の後、パイロットの話を進める……予定だったが、なんとシンジくんは全く知識が無かった。

 手紙は送ったって言ってたよな……?

 持ち歩いていたらしく読ませてもらう。

 ボールペンでぐちゃぐちゃに線が引かれ、破かれていた。

 もうゴミだよな、これ。

 紙の断片を眺めて繋がりのある裂け目を合わせれば修復完了。

 

 で、内容は『サードチルドレンについての情報(検閲の際に塗りつぶされたと思われる黒い線)、その余白に書かれた「来い」の文字、IDカード』だ。

 ……さ、三種の神器かな?

 これだと意味不明だよなぁ。

 一から説明しないといけないようだ。

 頭の片隅で、ドイツからアスカちゃんを呼ぶ予定を組み立てながら説明を始めた。

 

 

 

 説明し終えたらシンジくんは俯いていた。

 話が長かったせいかなと思ったが、父が手紙を送ってきた理由がパイロットにするためという話のせいらしい。

 んー。

 まあ、どうでもいいや。

 シンジくんの父親である司令がどう思っている知らんが、俺と束ちゃんは純粋に来てほしいと思っているよ的なことを伝える。

 

 「来いって言うなら行きますよ」、みたいなことを言い出した。

 そんなこと言ってないから。

 司令も手紙に書いてたけど、来なければ来ないでいいみたいな雰囲気だったからと伝えると何故か俯いた。

 首が疲れたのかな?

 無理やり連れて行くのは駄目だって俺は知っているし、束ちゃんだって知ってるから。

 理解もしているし、完璧だ。

 

 「君がネルフに来て、エヴァに乗りたいかどうかが重要なんだよ。碇シンジくん」

 

 束ちゃんの頭を撫でながら告げる。

 

 「ここにいても誰も君を必要としない、誰も見ない。ずっとそのままだ。誰かの言葉に従うだけになる。ネルフは違う、君を必要としている」

 

 さらさらと赤紫色の髪が、指の間を擽った。

 

 「それに、少なくとも俺と束ちゃんは君のすぐ傍にいて、君を見ていたいと思っているよ」

 

 静かに、ゆっくりと言葉を紡いだ。

 観察対象はずっと一緒に見ているから大丈夫だよって感じである。

 ジッと見られたので見つめ返す。

 ポイントは柔らかく笑みを浮かべること、これで大概の対人は解決する。

 

 

 

 

 

 とりあえず、パイロットを確保できたので一安心だ。

 決断したシンジくんを「偉い子だ」と撫でた。

 ついでに質問は何かあるかと問うと「二人は、その、恋人なんですか?」と赤くなりながら聞いてきた。

 シンジくんは面白い子だわ。

 

 束ちゃんの反応が心配だったが杞憂に終わった。

 というか上機嫌だった。

 名前で呼び合える仲に落ち着いていたし、珍しく気に入ったようだ。

 奇跡ってやつか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヱヴァンゲリヲン3 「YOU ARE NOT ALONE.」

 

 

 

 

 

 --1

 

 シャツを脱ぎ、裸となった白い上半身が外気に晒される。パイロット用に用意されている男子更衣室の空調が上手く働いているのか、寒さは感じなかった。渡された特殊なスーツ、プラグスーツを手に取る。これから碇シンジが搭乗するエヴァンゲリオンやその周りのシステムには必要な物だと説明されていた。スーツの手触りは柔らかなゴムの様で、試しに両手で軽く引っ張ると、よく伸びる。柔軟性に優れているようだったが、手を放せば元の形に戻り、皺ひとつなくなっていた。

 着替えを進め、ダブついたスーツの手首にあるボタンを押す。シュッと空気が抜ける音とともに、プラグスーツはぴっちりと身体を隙間なく覆った。

 シンジは恥ずかしさを感じていた。数日前に十四歳になったばかりで幼いが、羞恥心は覚えている。むしろ人間は歳を経た方が恥を忘れるきらいがあり、幼い方が恥の耐性は低い。ともすれば、内向的な気のあるシンジには、このプラグスーツを着て人目に晒される実験を行うと考えるとどうにも恥ずかしさを抑えられない気がした。

 着替えを終え、脱いだ服を畳み、シンジは己の名前がプレートに書かれているロッカーへと仕舞う。脱いだ時にはシャツは少しだけ汗を吸って湿っていたが、空調で乾いたようだった。

 更衣室を後にし、NERVの廊下へと出る。白く無機質な廊下は温かみの一切が感じられない。この冷たさは、父がトップを勤めているからだろうかとぼんやりと考えた。

 

 「ああ、着替え終わった? サイズは……いい感じだ。資料と写真から判断したけど、どうしてなかなか俺の目も悪くない。何処か不具合とかある? どっか苦しいとか」

 

 「えっと、大丈夫です」

 

 「それは良かった」

 

 白衣を着た徒花アキハが少年のようににこにこと笑いながら、シンジに話しかけてきた。背はシンジよりも二十センチ近く高いが、背中を屈めているので目線は同じくらいだった。雑草のように短く切られた黒い短髪は清潔さを感じさせる艶を放っていて、やや吊り目がちな瞳は弱い輝きを秘めているようだった。小さく頷きながら、上から下までプラグスーツを眺めている。少しだけシンジは恥ずかしさを感じるが、アキハは意に返さずじっくりと観察していた。

 彼の歳は二十六、直二十七になるというが、シンジにはどうにアキハが責任を持った大人の男という印象は抱けなかった。よくて近所のスーパーでアルバイトのリーダーをしている青年程度の責任感だろうか。悪く言えば趣味に目を輝かせる少年、それも幼い子供……。

 

 「ちょっと腕が大きいか……。いや、細くなったのかな。ご飯は食べてる? 栄養の吸収が悪いのかもしれないから良く噛まないとダメだよ」

 

 一分ほど眺めて満足したのかアキハはそう告げると、背を伸ばしながら片手に持っていた外套をシンジに渡した。背に赤いNERVのロゴが描かれた、黒いロングコートだった。小さく礼とともに受け取り、プラグスーツの上に羽織った。生地は薄いが、寒さを凌ぐ目的ではないからだろう。

 

 「それじゃあ実験に行こうか。座ってるだけだから特に何がどうってわけでもないけど……」

 

 無理な姿勢で少しの間いたために凝ったのか、伸びをしているアキハ。背中から小さくぱきぱきと音が聞こえた。それがシンジには少しだけ面白かった。緩みそうな顔をなんとか真面目な表情に固定した。

 アキハがシンジの両頬に手を添え、顔を近づけてきた。シンジと同じ、黒い瞳だった。それは何処までも深いような黒だったが、小さな輝きも持っていた。輝くような闇。

 

 「緊張してる? 心拍が早い。呼吸が浅い。表情筋が硬いし、冷たい」

 

 「その……ちょっとだけ、ですけど」

 

 シンジは小さく呟くように返答する。実験への緊張ももちろんだが、今まで人とあまり接さない生活をしていたことも関係がある。目の前にまで顔を近づけられた気恥ずかしさも強かった。

 

 「なるほどなー」

 

 アキハは頷きながら、シンジの唇に両手の人差し指と親指を添え、ゆっくりと開かせた。

 

 「口も乾いている、緊張が強いようだね。緊張状態としても良いけど、ストレスが異なっているし。どうしようかな……」

 

 シンジは突然のことに驚き、目を丸くしながら「あっ」と小さく息が漏れた。

 

 「ははは、シンジくんは口が小さいね」

 

 恥ずかしさを感じていたシンジは、自分の顔が赤くなるのがわかった。それがまた恥ずかしくて、顔の赤みが強くなっていく。

 

 「顔に赤みが戻って来たね。緊張、ほぐれた?」

 

 恥ずかしがっている気持ちを指摘するような言葉。抑えようとする気持ちと羞恥心、両方の感情がシンジの中で渦巻く。顔が急速に真っ赤になっていく。負の連鎖だった。

 

 

 

 「あらら、真っ赤になっちゃった。どうにも緊張が強すぎるようだね。接近接触が苦手か実験が苦手か、なるほどなー」

 

 

 

 

 

 --2

 

 「これが汎用ヒト型決戦兵器 人造人間エヴァンゲリオン 試験初号機だ。君が乗る予定の機体だね」

 

 紫の鋭角な装甲に覆われた巨大な頭部を背に、アキハが口を開いた。額から一本のブレードアンテナが伸びている。色は紫をベースに、所々に緑の蛍光色が使われていた。

 これで敵と戦うというのだが、どうにも正義の機体にはシンジには見えなくて……。

 

 「なんか悪の組織が使ってそうですね」

 

 つい口を滑らしていた。アキハも開発に関わっていたという話は聞かされていた。気を悪くしただろうかと顔色を窺う。シンジの悪い、とも言えないが、良いともいえない癖だった。自分の言葉に不安になって、紡いだ後で不安になる。育った環境によって付随された癖。それはもう習慣ですらあった。

 だが、肝心のアキハは特に気にしていないようだった。むしろシンジの言葉に力強く頷いた様子から、同じようなことを思っていたのかもしれない。

 

 「だよね。人相悪すぎだとは思ってた。ホントは別の予定だったんだけど……」

 

 アキハが白衣の中から、B4のノートほどの大きさの端末を取り出して操作し始めた。ちらりとシンジが横目で見ると、開発途中の装甲などの写真が写っていた。

 

 「最初の予定は……ほら、これ。どうにも強く反対されてね。外観は他の部署に持ってかれてしまったからなぁ」

 

 端末に写っていたのは、白いウナギのような頭部。真っ赤な唇は弧を描いており、まるで笑っているようだ。むき出しの歪な歯が、不安を駆り立てる。

 

 「流線型にして攻撃を逸らし易く、また装甲をシンプルにしつつ白くすることで塗る手間を格段に省く。なかなか機能美に溢れていたんだけど」

 

 「今の初号機がいいです」

 

 「そうか」とちょっと残念そうだったが、やはりアキハは気にした様子は無かった。シンジは彼になら少しは無理を言ってもいいのではないかという思いを抱き始めていた。

 ついで。反対した方々に万来の拍手を送りたい気持ちでシンジは胸がいっぱいだった。アキハのデザインは、利便性を追求し続けたために敵味方という概念一切を超越したような凄味があった。一言で纏めるなら「センスが皆無」だろうか。

 当初の予定であった白ウナギを見たあとに初号機を見れば、なかなかカッコいいデザインだと気付く。鋭角さは、あの白い悪魔を忘れようとしたためかもしれないが、それが雄々しく頼もしい。

 

 「まあ、初号機は今日は関係ないけどね」

 

 アキハが白衣を揺らしながら歩き始めた。ここに来たのはついでだったらしい。初号機が小さく鳴くように、目が光った気がした。寂しいのだろうか。シンジはちょっとだけ、エヴァが好きになっていた。

 

 

 

 初号機と別れ、五分ほどで辿り着いた研究室には、アキハと同様に白衣を纏った研究員やNERVの制服を着た職員などが待っていた。機械で構成されている巨大な細長い筒が、部屋の中心に鎮座しており、色とりどりなコードによって様々な機械と繋がっていた。

 シンジは己の鼓動が早くなるのを感じた。多くの人に見られることもそうだし、プラグスーツでの恥ずかしさもあった。だが、緊張の大半を占めているのは未知への恐怖だった。

 見知らぬ物に乗り込む。それが怖い。初号機を見せられた今でも、やはり怖かった。

 

 

 

 

 

 --3

 

 

 

 エヴァを操縦するコックピットやパイロットの生命管理の役割を兼ねているエントリープラグ内のシートにシンジは腰を下ろした。背もたれが動き出し、腰や背中などに負荷のない角度に調整された。

 最初は暗かったプラグ内が、光が灯ったように明るくなった。内部には研究室の様子が見て取れる。透けているのだろうかと思ったが、全天モニターとして映し出されているだけだと告げられた。真剣に機械と向き合っている人もいるが、ジッと見つめている人もいる。やはりシンジは恥ずかしさを感じていた。

 

 「実験用のプラグだけど、本物と同じだから差異は無いと思うけど。まあ、初号機の起動が終われば専用のプラグで実験することになるから、これは今日だけってことで我慢してよ」

 

 プラグ内で何らかの機器を弄っていたアキハがシンジに告げた。鼻歌でも聴こえてきそうなほど、声音は明るい。シンジの気持ちと比較すれば、能天気ですらあっただろう。

 よし、と絵心いったとばかりの言葉を漏らした後、アキハはプラグから出て行った。実験が始まるのだろう。鼓動が高まった。

 

 「これを頭に付けるから。インターフェイス・ヘッドセットって名称なんだけど、エヴァの操縦って感覚をパイロットと同調させる必要があってね。で、その時のアンテナみたいな役割をするから」

 

 A10神経との接続がA.Tフィールドと強く関連しているから、ともアキハは続けながら、シンジの髪に流線型の白い髪留めのような物を取り付けた。触れられた場所が少しだけくすぐったい。

 

 「じゃあ、束ちゃん。お願いね」

 

 プラグ内の壁面がディスプレイとなっているのか、タバネの顔が映し出された。兎の耳を象ったカチューシャが楽しそうに揺れ、眠たげな垂れ目も今は眦を下げて笑みを浮かべていた。

 

 『おけおけ、L.C.Lを注水するからね! あとシンジくんはあっくんの話を聞いてね!』

 

 タバネの返事のあとすぐ、ゴボゴボとプラグ内がオレンジ色の液体で満たされていく。冷たくも、温かくもない液体だった。不思議な匂いが充満していた。

 

 「うわっ、何ですか!? タバネさん!? アキハさん!? なんですかこれ!!」

 

 事前に説明の無かった事柄に、シンジは驚く。そもそもNERVに関して、きちんと説明を受けられたことが数えるほどしかない。何もかもが不鮮明。

 それでもここに来たのは……。

 

 「説明してないっけ、ごめんね。これはL.C.L.ってやつでLink Connected Liquid?とかいう液体ね。同調接続用液体みたいな意味だけど、まあ、正式名称はどうでもいいか。この液体は衝撃を和らげたり、酸素を供給したりと働き者でね。コイツで肺を満たすことで液体中でも溺れないし、むしろ地上で活動するよりも酸素の吸収効率がいいから」

 

 「あの肺で満たすってまさか……」

 

 「深呼吸するみたいに取り込めばいいらしいよ。不安? ほら、手を繋いであげるから頑張ってみようか」

 

 シンジの手に重ねるように、大きな手が添えられた。

 

 「が、頑張ってみます」

 

 「うん、君は良い子だ」

 

 にこにことしたアキハがそう言いながら、L.C.Lで濡れた手でシンジを撫でた。髪の毛が湿るのも気にならなかった。NERVに来たのは、誰かに褒められたかったから……。

 

 

 

 

 

 「あの、アキハさん。深呼吸したらいいらしいって言いましたよね」

 

 「言ったよ」

 

 胸部まで液体に使りながらシンジは問うように呟き、アキハも律儀に返事を返す。

 

 「らしいって言うのは、その……」

 

 「うん? らしいって言ったのは、そう聞いたから。俺も初めてなんだわ。何事も体験しておこうってね」

 

 NERVに来たのは短慮だったかもしれない、シンジは小さくそう思った。

 

 

 

 

 

 --4

 

 『ノイズが強すぎます! 先輩、どうしたら……』

 

 『ノイズって何の話……何で注水してるの!? ちょっと篠ノ之博士、操作は止めなさい! ああ、もう! 私の話は聞いてないし聞く気もないわよね! そうよね! 徒花博士は!? 篠ノ之博士を止めさせて!』

 

 『徒花さんはプラグ内です……』

 

 『プラグ内!? なんで!? 何をやっているの!?』

 

 モニターに映ったNERVの制服の女性と白衣を着た金髪の女性が叫んでいる。問題が起きたのだろうか、シンジは不安になってアキハに視線を向ける。だが、本人はそれらを意に介した様子はない。

 

 「束ちゃん聞いた? 博士だってよ。初めて呼ばれた気がする」

 

 『うん聞いてたよ! どうせならあっくんに呼ばれたかったよ!』

 

 「え、そう? 篠ノ之博士、調子はどうですか」

 

 『順調だよ! 適正者以外が乗ったらノイズがものすごぉく混同するって結果が出たね! あ、でも他人行儀だからやっぱり何時ものがいいかな~』

 

 怒っている金髪の女性、反してにこにこと笑顔を絶やさない二人。気まずさに、シンジはなんだか身が縮こまるような思いだった。

 

 『聞いてるの!?』

 

 「うぇーい」

 

 『うぇーい』

 

 うぇーい、大人なら許されない返事だ。社会経験の乏しいシンジにもわかる。当然ながら、金髪の女性が青筋を浮かべているようだった。

 

 『ああっもう! マヤ、いいから取り返して!』

 

 『駄目ですせんぱぁい……』

 

 『緊急停止は!?』

 

 『全く信号を受け付けてくれません……』

 

 『まさかまたMAGIを勝手に……!? 実験は中止よ! 聞いてる!? 二人とも、中止しなさい!』

 

 「うぇーい」

 

 『うぇーい』

 

 うぇーい。シンジは考えるのを止めた。

 

 

 

 

 

 「んっ! ごはっ! 肺から吐き出すのが難しいな、これ……」

 

 アキハがげほげほと嗚咽を繰り返しながら、L.C.Lを肺から吐き出す。シンジはすぐに余分な液体を吐き出し、残りは吸収できていたので、余裕があるのかアキハの背を摩る。

 

 「あっくん、タオル用意しといたから!」

 

 「ありがとー。シンジくんもありがとね」

 

 「いえ……」

 

 字面だけならば和やかな会話だった。問題は、金髪の女性である赤木リツコ博士が怒気を浮かべていることか。だが、そんなことはアキハにもタバネにもどうでもいいようで、無視したまま会話を続けている。

 その背に隠れるようにオペレーターの伊吹マヤが体を隠しつつも、少しだけ顔を覗かせていた。

 

 「……二人とも、何故あんなことを?」

 

 会話はリツコの一言から始まった。会話かどうか、シンジには少し怪しかったが。

 

 「何故? 一体どういう意味で?」

 

 アキハがとんと分からないとでも言うように首を傾げた。タバネも同じようにリツコへと視線を向ける。タバネが時折見せる、無機質な瞳に晒されたマヤは「ひっ」と小さく漏らして去っていった。

 

 「……今日はシンクロテストの予定だったはずだけど、何故アナタもプラグ内にいたのかと聞いています」

 

 「予定を変更して、間に異物を噛ませた際のノイズ観察にしたからに決まってますが?」

 

 アキハは「何言ってんだコイツ」と言わんばかりの呆けた表情を浮かべている。その腹立たしい表情がリツコの神経を逆なでる。ついでにタバネも浮かべている。憎さ二倍だ。

 

 「……なぜ予定を勝手に変更したので?」

 

 ああ、アキハは頷いた。本当にわかっていなかったのか、わざと煽っていたのか。シンジにはわからない。わからないが、リツコが怒っているのは手に取るようにわかった。

 

 「被験者であるEVA初号機専属操縦者の碇シンジくんが極度の緊張状態にあったため、予定を変更しました」

 

 「……緊張はどのような状況でも生じますが」

 

 「衆目に晒された状態でのストレスと、戦闘によるストレスとは異なると考え、今回の実験は慣らしと理解に当てましたが。最初なので体験すること、それのみを目的にしました」

 

 「お分かりですか?」と締めくくった。肩を大げさに竦めるアクションまでおまけした。憎さが二倍の二乗で四倍、さらにタバネも無駄なほど見事にシンクロしていて怒りはさらに二乗の十六倍だ。普通の人間ならブチギレるだろう。

 

 「……計画は配布されてある通りに進める話でしょう」

 

 「変更しました。計画通りいかないのが人生です。いや、大変ですよね」

 

 「……他の研究員や技術者、職員も迷惑を被りましたが」

 

 「この程度は我慢すればいいでしょう。すでにシンジくんはこんなわけのわからない物に乗るのを我慢しているのですから」

 

 にこにこと笑顔を浮かべるアキハ、タバネ。対するリツコは必死に自制し、理性を総動員している。間に挟まれたシンジはちょっと泣きたかった。

 

 「……それは詭弁でしょう?」

 

 「それを言うなら計画だって詭弁でしょうよ、あの杜撰なやつ。完全な後出しじゃないですか。シンジくんが来るまで実験開始は未定だった。で、来たら計画書が渡され、その日の内に実験開始とか。突然組んだとしか思えないんですけど」

 

 雲行きの怪しい会話から逃れようと、室内の人員は静かに部屋を出ていく。部屋の隅ではマヤが体を震わせながら、健気にも待っている。が、タバネの視線で出て行った。

 

 「子供のために大人が我慢する、当たり前のことでしょうに。緊張している子供がいたら、何とかするのが当然だと理解していますが?」

 

 表情が曇っていくリツコとは対照的に、表情を変えずにこにこと笑いながら「もしかして……」とアキハ続けた。

 

 「赤城博士は人の気持ちがわからないのですか……」

 

 アキハの言葉に続くように「可哀そう……」とタバネが漏らした。気の毒そうな、憐れみとも取れるその表情を浮かべる二人は、まさしくNERVでも他人を理解していないコンビだった。科学的に精神を理解することには長けているが、コミュニケーションに必要とする精神感応能力は枯渇し、同情という感情は存在していない。

 そいつらに可哀そうなどと言葉を投げかけられた。リツコは自らの脳内の血管が怒りによって千切れる音を聞いた気がした。理性のリミッターが吹っ飛び、怒りのままに振る舞おうとしているリツコにアキハが待ったをかけた。

 

 「それに……何か勘違いしていますが、我々はお願いする立場なのですよ。ヒトが撒いたゴミの撤去、その手伝いを個人に押し付けているのですから」

 

 シンジの頭を優しく撫でる、その姿は何処か慈愛すら感じさせた。この二人が人の心を理解しつつあるのではないか、そのために振る舞ったのではないか、リツコにその思いが芽生える。確かに大人には迷惑をかけた、だが、シンジにはどうだ? 誰も目を向けなかった少年が救われたではないか。

 リツコは自らの思考を停止させ、怒りのままに動こうとしたことを恥じる思いだった。

 

 「なので、初めに健康診断を。そしてエヴァについては少しずつ慣らしていくこと、詳しい説明を行うことを提案します」

 

 「それが望みってわけね」

 

 「妥協案です、一応は保護責任者なので。本音としては百機くらいスーパーソレノイドを暴走させて、月面と地下ごとゴミを消し飛ばすか、外宇宙に射出したいところなので実行してもいいかなって思ってますよ。インパクトに耐えたのでこれくらいしないと……」

 

 「明日から健康診断を行いましょう」

 

 

 

 

 

 

 「ところで、MAGIを使ったのも……」

 

 もしかして、と期待が強まる。誰かの心のために、アキハとタバネが持たなかった動機だ。二人が互いのために見事な連携を見せるが、それ以外の一切は行ったことはない。指示に従うだけ、それも面倒そうに。

 しかし、今は二人が獲得したかもしれない。ヒトに知恵の実を与えたという蛇のように狡猾で、甘美な誘惑を唆すようなこの二人が。そう思うと今後の人間関係にも変化が……。

 

 「あ、普通にゲームに使いました」

 

 ……リツコはドイツのパイロットとも交流していたことを思い出していた。実験の一部だから、それが答えなのかもしれないと己の優秀な頭脳は導き出した。認めたくない現実だとも。

 

 「徒花、篠ノ之。三日間謹慎だから。シンジくんは健康診断からにしましょう、二人がいなくても問題ないわ」

 

 その事実に苛立ちを覚えた自分は随分と人間らしいのだなとリツコは内心で驚いた。

 

 

 

 

 

 --5

 

 三日間の謹慎を喰らった^q^

 ゲームしただけなのにやっぱネルフって糞だわ。

 

 確かシンジくんは料理が趣味だったはず。

 歓迎の意を込めて用意してもいいが、みんなで作った方が好ましいだろう。

 俺も束ちゃんも作れるし、一緒に作ろうかとスーパーに向かう帰り道。

 今日はよく頑張ったねとシンジくんの頭を撫でた。

 精神の安定が重要なのだ。

 

 

 

 A.Tフィールドの性質上、孤独の方がいいのか?

 でも生と死の揺らぎが強いほうがいい気もするし。

 そもそも孤独が強すぎるとデストルドーが強まりそう。

 それだとA.Tフィールドを張るどころか、解除されそうだわ。

 

 

 




徒花アキハ
なんかの博士らしい。機械と生物を組み合わせたエヴァの脚部パーツで、膝蓋腱反射を再現したことがあるくらいの能力を持ってるお茶目な男性。二十六歳から二十七歳くらい。
開発局二課に所属。MAGIでゲームやって謹慎、外国出張の黄金コンボをかました。

篠ノ之タバネ
なんかの博士っぽい。MAGIを使ってゲームとかやっちゃうお茶目な女性。二十三歳から二十四歳くらい。
技術局一課に所属。MAGIでゲームやって減給、オリ主と離れて仕事しろと言われて保安局や諜報二課から数人の人間を物理的に消した。

碇シンジ
EVA初号機専属操縦者となった十四歳の少年。アキハとタバネが保護責任者となったため、一緒に住むことになった。

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