実験室のフラスコ(2L)   作:にえる

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原作:Fate/Grand Order FGO1

 

 --1

 

 凄く珍しいことに西洋の魔術協会の人がやってきた。

 我が家は外部との交流なんて無いも等しいのだが、一応名前だけ所属している形になっている退魔なんちゃらという組織の紹介からやってきたらしい。

 多分面倒事を回されてきたのだろう。

 で、ごちゃごちゃ言って帰って行った。

 

 ―― 霊子ダイブが出来る才能ある魔術師急募! ――

 ―― 世界を救う英雄になってみませんか? ――

 ―― 家柄、功績、血統は問いません! ――

 ―― 興味のある方は特務機関カルデアにご連絡ください! ――

 ―― 力なき劣等種は死ね! ――

 

 もっと色々と装飾されていたが、要約すると上記の感じである。

 上記の誘い文句に乗った当主が「桐谷家の凄さを外の盆暗どもに見せつけてこいやぁ! 特にあいんつべるんとかいうパチモンは抹殺してこいよおらぁ!」と俺に命令して外国に飛ばしてくれたのが数日前のことである。

 いや、準備期間は半年ほどあったので、その間に魔術刻印とか桐谷特性魔術回路玉をぶち込まれて体調を崩したり、体調を整えるくっそ不味い薬を飲み続けたりしてたけど。

 

 俺の後継ぎとして必須な課題を片付けている間、分家の連中は「面倒事に首つっ込まなくてやったぜ!(ガッツポ」としていた。

 連中は成人までに研究成果が挙がらなかったら魔術回路を引き抜かれて地獄の苦しみを味わうことになるのだが理解しているのだろうか。

 専門とはいえ魔術回路を引っこ抜くのだから、運が悪かったら死ぬかもしれないのでもう少し必死になって欲しいものだ。

 流石に親族が早死にするところを見たい訳でもない。

 まあ、赤子でも無ければ死亡しないくらいには慣れているので安心し切っているのかもしれないけど。

 

 

 

 

 

 人理継続保障機関フィニス・カルデアに来て当然の疑問だが、桐谷家の凄さとかどうやって示せと言うのだろうか。

 当然の事ながら知り合いなんていない。

 ちょろっと小耳に挟んだ会話は、家柄がどうとか権威がどうとか、もう歯が浮いて幽体離脱してしまう。

 

 我が家のアピールポイントなんて海綿動物の寿命くらい家が古くから続いており、良い感じの霊地を保有してて、家に籠って第二、第三要素および第五架空要素について考えたり自分のを弄ったりしている程度だ。

 退魔なんちゃらという組織の末席に名前が載ってるだけで、魔術師たちとの交流もめっちゃ少ない。

 どのくらい少ないかというと、市の行事の芋煮会のほうが知り合いが多いくらいだ。

 血統は滅茶苦茶。

 跡取りは魔術回路がある相手のみと結婚、分家は魔術回路がある相手推奨で自由恋愛も可能と緩い。

 また、桐谷家一のビッチである従姉のような大淫婦が生んだ子供のように育てる親が居ない子は、何処にあるかも知らない家と養子交換も行うので血なんて混ざりまくりである。

 

 魔術だって当主から与えられたテーマに沿って各々が好き勝手に第二、第三要素および第五架空要素へのアプローチを繰り返し、才能があるならそのまま研究者コース、無かったら回路を引っこ抜かれて生きてたらお手伝いコースという格式も糞も魔術師的な情緒も空っぽだ。

 姉なんて才能を認められたので魔術回路を残されており年一で研究を納める義務をこなしつつ市役所に勤めてるし、魔術回路を引っこ抜かれた従兄はひと月ほど痛みに苦しんでいたが今では元気にエロ漫画家をやっている。

 

 うーん……テキトーに自由でアットホームな家だとアピールしておこう。

 

 

 

 

 

 --2

 

 桐谷すげぇアピールしつつカルデアを練り歩いていたら、二人組男女が廊下で寝ていた。

 しかも広い廊下のスペースを贅沢かつダイナミックに使った寝入りっぷり。

 どうにもカルデアに来てからジェネレーションギャップに悩まされつつある。

 これはあれだろうか。

 不良少年少女が駅とかで深夜まで屯っている状態の亜種だろうか。

 ここまで堂々とされると、まるで「魔術師は廊下で寝るのが普通だけど、桐谷さんは寝ないの?」とでも言われているかのような気分だ。

 

 だが、悪くない。

 俺も一端の魔術師であり、極東の一部とは言えども将来的に家を背負う身分だ。

 その挑戦、受けようじゃないか!

 

 

 

 二人組の間に挟まって寝てたら、前髪で目元を隠している眼鏡っ子に起こされた。

 もっと詳しく言うと、二人組がフォウという珍奇な生物に起こされて眼鏡っ子と会話し、その二人組に今度は俺が起こされたわけである。

 眼鏡っ子との会話だが、廊下で寝てはいけないらしい。

 マジかよ! 知ってた!

 普通の魔術師は廊下で寝ないらしく、そこから導き出せる答えは二人組は普通じゃないということだ。

 まあ当然だよな、普通は布団が必要だもんな。

 やっぱ魔術師って常識外ればっかだなぁと呆れていると、レフ教授が現れて状況を整理してくれた。

 

 ・二人組は新入り

 ・一般人枠

 ・名前はさっきまでぐだぐだしていたのでぐだ男とぐだ子

 ・シミュレートの影響で寝ていた

 

 ということらしい。

 なるほどなー。

 まあ、俺は眠くならなかったけど。

 すまない、一般人と違って一流の魔術師で本当にすまない……。

 どうやらカルデアでの身の振り方についてや仕事の説明がこれからあるようだ。

 

 「あ、今こそ桐谷アピールじゃん」と内心で気付いた賢い俺。

 「日本で有名な桐谷家の凄いとこ、聞きたいっしょ?」とドヤ顔で話し始めるも、誰もが浮かない顔である。

 そうだよな、そんなマイナーな家の話なんて聞いてもしょうがないよな……。

 

 悲しい、としょんぼりしていたら、ぐだ男くんが気を使って「桐谷さんの右肩で浮遊している球体は何か」と質問してくれた。

 「これは『偽魂』という概念武装やで(ドヤッ」と我が家の歴史と魔術回路が詰まった半透明の球体をアピールするも、反応が酷く薄い。

 「魂の解析、翻訳、複製、転写、再生を目的としているんだ!(チラッ」と反応を窺うが、やはり駄目。

 

 こ、これもマイナーすぎなのかぁ……^q^

 

 

 

 気まずい空気を発散させようと、シミュレーションはどうだったかと聞く。

 シミュレートされる英霊が、人によって違うらしいのだ。

 俺は最初、フランス愛に溢れるセイバーとピンク髪のライダー、「ステラァァァ!」と叫ぶアーチャーが召還された。

 まあ、アーチャーは指示する前に「ステラァァァ!」と開幕で叫んで消滅したが、小さな誤差だった。

 補充されたキャスターも少女の姿をしていたのに本になって何処かに消えたが、幻だった。

 ライダーもヒポグリフで敵役の案山子に体当たりして去って行ったが、夢だった。

 再び補充された牛の仮面を被ったバーサーカーである大男は真面目に戦ってくれたのでマジで問題なかった。

 セイバーも何故か騎士の役なのに防御アップしていたのでありがてぇ。

 最終的に、セイバーがタンク、牛がアタッカーとして活躍してくれた。

 

 俺、この仕事向いて無さそうなんだけど……。

 家に帰ってちびっ子たちと一緒に静かに鶴とか織ったり研究したりしたい……^q^

 

 

 

 再び暗い雰囲気となった。

 すまぬ、すまぬ……。

 ちなみに二人組は剣からビームを出す女性のセイバーを見たようだ。

 セイ……バー……?

 

 なんで英霊って美男美女が多いのだろうかとか、シミュレーターだから希望が混ざってるんじゃないかと話しながら、説明会場の扉を開く。

 中には既に他のメンバーがずらっと並んでおり、一番前では責任者っぽい人が苛立った表情を浮かべていた。

 面倒くさそうだと判断し、ぐだ男くんとぐだ子ちゃんを放置してテキトーなところに紛れようとしたが、前に来るように呼び出された。

 ぐぬぬ。

 カルデアの責任者である『おーがなんちゃらーあむにんにに』とかいう偉い方が怒りに顔を歪めながら、何か言うことは無いかと問いを投げかけてきた。

 ……うーん?

 ……あっ!

 

 おーがさん、廊下に布団を常備しておいた方が寝やすいっすよ^q^

 

 

 

 

 

 --3

 

 説明会が始まる前に、烈火とばかりに怒られた。

 レフ教授に教えて貰った時間には間に合っているので、きっと布団が気に入らなかったのだろう。

 魔術師ジョークだったのだが、よく考えたらこのジョークは内輪ネタだったな失敗した。

 まあ、俺の小粋な布団ジョークでオーガさんの感情という導火線に火を灯したのも悪かったのだろう。

 その後のぐだ男くんが「アニムスフィア……?」という俺もよくわからん単語を呟くことで油を注いで火を加速させ、ぐだ子ちゃんの「むにゃむにゃ……」という酔拳で大爆発である。

 俺たちって最高のコンビネーションじゃん^^

 

 連帯責任で説教されたせいか、この場にいる大半の感情が荒ぶり、みんなの魂のボルテージが上がりまくりである。

 このまま行くと各派閥で大戦争が起きかねない状態だった。

 が、空気の読めるレフ教授が場をなんとか修めてくれた。

 と、思ったらオーガ所長が「おめぇら道具だからアタシの指示に従えよヨロシクゥ!」と空気を一切読まない主張でゴリ押し。

 エリート意識の高い魔術師たちから非難轟々。

 所長は人の気持ちが分からないようで可哀そうだ……。

 

 動物園も斯くやと盛り上がる魔術師もどきのチンパンたちに、オーガ所長が「嫌なら高度6000mを歩いて帰れ!」と一蹴。

 これはあれだろう。

 現場の人間と、それに指示する技術者の確執が、後から問題に発展するプロフェッショナル的な展開と予想。

 立ちはだかる問題を、互いにいがみ合いながら解決し、最後には和解するはずだ。

 良い話になりそうだなー。

 

 

 

 ぐだ男くんが罵られたり、ぐだ子ちゃんが張り手で起こされたり、所長が俺の工房である偽魂に敵性判断されかけたりしながら説明会は終了。

 「あー、マジで仕事やりたくねえなぁ」とダラダラと準備していたら、所長から俺とぐだコンビはミッションから外すと告げられた。

 もちろん準備も無し。

 仕事しなくていいんですかヤッター!と喜んでいたら、所長に引きずられてミッションに挑むメンバーを見送ることになった。

 ちなみに眠い眠いと駄々を捏ねていたぐだコンビは、眼鏡が部屋へ連れて行った。

 

 仕事しなくていいんじゃ……と困惑していると、苛立った様子の所長がカルデアについてみっちり俺に講義すると告げてきた。

 要らないです。

 全然要らないです。

 じゃあ逆に俺が桐谷の凄さである……あー、特に思いつかないですけど姉のカレーが美味しい話とかしてあげますよ的なことを返したら、所長は叫び過ぎて血反吐を吐きそうになっていた。

 

 所長に優秀だと判断された魔術師たちがコフィンだとかいう箱に入ったり、俺を嘲ってきたり。

 嘲ってきた連中には「仕事しないと給料がもらえない君たちと違い、俺はいるだけで給料がもらえるんだよハーゲ」と煽る。

 

 血管がブチ切れ直前の所長によって部屋から追い出された。

 

 

 

 ぐだぐだコンビも寝ただろうし、俺も寝ておこうかなと自室へ向かう。

 途中で所長がなんであんなにキレてるのかわからんなぁと首を傾げる。

 婚期が迫っているのだろうか。

 同世代くらいの姉はもっと穏やかなのだが。

 顔とかは似ていないのだけど、何となく似ている気が……無いか。

 まあ、姉は何でも許してくれるので、そのノリで茶化し過ぎた気がしないでもないけど。

 落ち着いた頃に謝っておこう。

 

 軽い足取りで廊下を歩いていると、轟音が響き、大きな揺れが襲ってきた。

 

 

 

 

 

 熱い。

 

 痛い。

 

 あつい。

 

 いたい。

 

 

 

 こわい。

 

 

 

 

 

 

 『――A.D.1994 彷徨腐敗世界 ■■』

 

 

 

 

 

 --1

 

 人類繁栄を約束していた人工の光は立ち消えていた。

 澱んだ炎が天を照らす篝火のように、世界が轟々と燃えている。

 文明の象徴である建物が溶け、人間だったものが黴の如く地面を黒く染めていた。

 ここには何もない。

 

 青年は場所もわからず独りで走り続け、疲れを覚えて歩き、躓いた。

 躓いた先で青年が出会ったのは酷い傷の男だった。

 燃え盛る世界でただ一人生きている男だった。

 

 絶望に喘ぐ男を、青年は背負って歩いた。

 ここには何もない。

 男を治療する道具も、何もかもが。

 人の燃え滓だけが世界を満たす。

 

 青年が何度も「大丈夫だ、大丈夫だ」と男に声をかける。

 生命が希薄となり、脱力を起こしている男の重みが青年の両肩を押しつぶす。

 この重みが青年は怖かった。

 男が死ぬことの表れでもあり、再び暗く深い孤独の闇に飲まれることが、怖かった。

 訥々と力なく呟く男の言葉を辛抱強く青年は聞き続けた。

 何か男の生きる支えとなるはずだと。

 

 ふっと両肩に加わる重さが強く、そしてもう男の力を感じなかった。

 青年が嗚咽混じりに「会うって約束したんだろ!」と叫んだが、返事は無かった。

 留めていた言葉にならない感情が、堰を切ったように青年を襲う。

 世界は赤く照らされているが、何処にも何も無いのだ。

 

 男を背負ってから、死ぬ間際まで続けていた魔術を、諦め悪く行使する。

 魂と肉体は相互に繋がっている、だから魂を直せばきっと、そう何度も試みた。

 壊れた物は創り出せない、無い物は直せない、不完全な魔術を何度も何度も何度も何度も何度も。

 結果は変わらず、男は目を開かなかった。

 

「あ……」

 

 言葉が漏れる。

 苛まれるのは恐怖と孤独、そして無力感。

 

「あぁ……あぁ……」

 

 こんなのは悪い夢だ。

 青年は何度も反芻した思いを抱く。

 調整を間違えた魔術によって夢を失敗したのだ、そう思いたかった。

 全ては幻で、全ては夢で。

 

 終われ、早く終われと必死に何度も願いながら、青年は歩き続けた。

 何かをしていないと、自分を失いそうだった。

 火に焼かれて、全てを無くす。

 黒い影となって忘れられる、そんな恐怖が青年を突き動かし続ける。

 

 

 

 死に体の少年を拾った。

 まだ幼い。

 必死に魔術をかけて、置いて行かないでくれと祈って、見送った。

 

「何が! 何が! 何がぁぁぁ!」

 

 青年は叫んでいた。

 意味のある言葉なんて出てこなかった。

 恐怖から逃れるための悲鳴だった。

 必死の絶叫だった。

 

 一族が積み上げた智慧が、まるで意味のない塵屑であるかのように思えたから。

 自分がちっぽけな紛い物のように感じたから。

 意味なんて無いように思えたから。

 何も見えないから。

 只々叫んでいた。

 

 喉から血が出て、声にならない掠れた音が漏れるようになっても、叫び続けた。

 

 それでも堪らなくなって、青年は何度も地面へと腕を振り降ろす。

 何度も何度も何度も、力の限り。

 そうでもしないと気が狂ってしまいそうだった。

 そうしてでも気を狂わせたかった。

 

 ――殴って、叩いて、圧し折れて

 

 魔術を使おうとした腕が無くなればいい。

 その後は進み続けた足が無くなればいい。

 最後に、考え続ける頭が無くなればいい。

 

 断続的に続いていた骨が折れる音は、袋が液体を撒き散らす音へと変わった。

 それでも振り降ろす。

 

 痛みが生きている証の様で、恐怖が奔る。

 痛みを感じなくなってきて、恐怖が奔る。

 ひゅーひゅーと喉から擦過音が漏れ出る。

 

 避けた喉と、半ば噛み千切った舌から、血が溢れ出した。

 

 怖い。

 熱いのが怖い。

 痛いのが怖い。

 死ぬのが怖い。

 

 潰れた腕を目にして恐怖で頭が可笑しくなりそうだった。

 全身を纏う痛みが怖い。

 

 助けて。

 声にならない掠れた音が漏れた。

 

 

 応えるように、光が灯った。

 焼き尽くすために蔓延る赤と異なる、弱い光だった。

 見惚れることもない、弱すぎる光。

 儚く心細い光。

 一際強く光輝く。

 それがどうしても青年の心を掴んで離さない。

 その一時だけは恐怖を忘れていた。

 

「月から呼ばれるとは思わなかったけど、まあいい。ボクを召喚したんだから力になるよ」

 

 光が消えたその場所で、小さく笑みを浮かべた少女が立っていた。

 何処か人形の様で、人間としての強さを感じさせる少女だ。

 炎に照らされた淡い茶色の髪が、ふわりと揺れる。

 

「クラスは……キャスターみたいだ。よろしくね、マスター」

 

 魔術ほとんど使えないから弱いけど、と呟きながらキャスターが手を差し出した。

 小さく頼りない白い手だった。

 青年、桐谷夕景も自然と手を差し出していた。

 

「あ、戦力にならないからってカスターって呼んだら怒るからね」

 

 

 

 

 

 

 --5

 

 自身を召喚したマスターが静かに眠っている。

 実年齢は成人しているかどうかだろうが、寝顔は幼い少年のようだ。

 涙で濡れた瞳は少し腫れぼったい。

 それを見て、キャスターは少しばかり安心した。

 

 今は穏やかに寝入っているが、起きているときは酷い物だった。

 青白い顔に浮かんでいたの幽鬼のような形相で、乱心したのか腕を潰そうと何度も振り下ろしていた。

 契約するために取った手は、ほとんど失われていて、引きちぎれて裂けた肉と骨が露出していた。

 あまりの痛々しさに拙い魔術で回復を試みると、自身のサーヴァント化による物か、マスターの供給魔力の影響や相性か、生前よりも遥かに高い効果を得た。

 それを見て、マスターはまた発狂するかのように悲鳴を挙げた。

 落ち着くように宥めると、深い隈が刻まれた昏い瞳で「もっと早く来てくれれば」と呟いた。

 それに返すようにキャスターが自身の魔術では少しの傷を治す程度、マスターは奇跡的に相性が良かったためだと伝えた。

 そうすると「もっと俺が魔術を知っていれば。俺じゃなかったら」と呟いた後、何度も謝罪の言葉を口にして、ぷっつりと意識の糸が途切れ、その場に倒れ込んだ。

 寝息を立てていることを確認すると、キャスターは膝を枕にして、そのまま寝かせることにした。

 

「こんな場所で君は何を見たのかな、マスター……」

 

 狂気的な自傷を繰り返し、脅迫行為のように謝罪していたマスターに向けて呟いた。

 

 そこには何も無かった。

 彼方に、爛々と輝く赤い光だけが在る。

 それに照らされているのか、視界に不便はしなかった。

 ただ、黒い世界だけが広がっていた。

 地面はキャスターの嫌いな固くてつるつるした物だった。

 空は何処までも黒い闇。

 何も無いから発狂したのか、何かが見えたから発狂したのか。

 

 答えを知るマスターは昏々と眠り続けていた。

 

 

 

 

 

 --6

 

 目が覚めると凄いすっきりした。

 ここまで回復したのは久しぶりな気がする。

 寝ている間、俺の様子を見守っていてくれたサーヴァントと改めて挨拶する。

 彼女はキャスターという魔術師クラスのサーヴァントらしい。

 サーヴァントというのは、偉人だったり英雄だったり想像上の何かだったりする超贅沢な使い魔的なサムシング。

 キャスターも英雄なのかな、と聞いてみたところ、月で行われた戦争の覇者らしい。

 

 す、すげぇ!

 月で戦争が行われたなんて知らなかったが、単純にすげぇ!

 

 おお、と尊敬の瞳で月の覇者であるキャスターを観察。

 学生服を着たマジモンのJKにしか見えないが、きっと現役時代は凄かったのだろう。

 薄茶の長い髪、意志の強そうな瞳、顔の造詣は整っているが、スタイルは……いや、女性のことは止めよう。

 そもそも俺はあまり女性と付き合いが無かったので、秤に使えるのは姉とか親族のビッチ、ぐだ子ちゃんくらいだ。

 ただ、注釈として月の戦争時には彼女はマスターだったので、本人の能力は大したことないようだ。

 謙遜しているのだろうか、とステータスを確認。

 

 

 Status Menu

 ――――――――――――

  CLASS  キャスター

  真名   岸波 白野

  性別   女性

 身長・体重 160cm 45kg

  属性  中立・善

 

  筋力 10 魔力 40

  耐久 20 幸運 30

  敏捷 10 宝具 --

 

 ――――――――――――

 

 

 ……ポケモンかな?

 まあ、ポケモンだとしても弱いんだけど。

 キャスターにステータスを報告。

 ステータスが10が恐らく最低値らしい。

 最大値は50かと期待したが、多分100超えるんじゃないかというお言葉。

 最大値が100超えるサーヴァントもいるという話だ。

 そしてキャスターは平均18.3という快挙。

 

 俺の場合、サーヴァントのステータスは数字で表記されている。

 キャスターはアルファベットらしく、認識を摺合せると、おそらく20くらいでE相当だとか。

 つまり20毎で1段階ずつアップしていくようだ。

 最大は魔力D、最低はE以下。

 しかも必殺技ともいえる宝具に至っては表記無し。

 

 

 

 ほわあぁぁぁあぁ、きしなみしゃんステひくすぎるよぉぉぉぉ。

 

 

 

 

 他のサーヴァントとかよくわからないのだが、キャスターが普通くらいなのだろうかと聞いてみた。

 真顔で「ない、絶対ない」とだけ。

 絶対ないのか。

 明らかに、キャスターの能力が高すぎて比べるに値しない、という意味ではないだろう。

 キャスターのサーヴァントは、普通のステータスならC以上、得意なステータスならBからEXまであったらしい。

 つまりキャスターは万能サーヴァントだった……?

 キャスターが「ぽじてぃぶ!」と叫びながら、荒ぶる鷹のような謎のポーズをとった。

 ポジティブに考えないとツラいだけだから。

 そもそも戦わなければいいじゃん、という天才的発想。

 

 おちついたー^^

 

「戦いは避けられないんだよマスター。聖杯があるのだから、絶対に」

 

 かなしいつらい。

 

 

 

 

 

 --7

 

 さて、今後どうしたものか。

 瓦礫を歩いて何処かに向かうべきだろうか。

 何処へ行っても、何処にも辿り着けないのだけれど。

 いや、あの天を燃やすような、黒い炎の篝火にはいった事が無いのだが。

 普通はあれを目指すべきなのだろうが、絶対に行きたくない。

 見ているだけで吐き気がする。

 

 俺が瓦礫を避け、焼け残った人間の影を避けて進んでいると、何故か訝しんだ様子のキャスターに質問された。

 何が見えているのかって?

 瓦礫、死体、黒いヘドロの地面、希薄な星空、赤黒い巨大な篝火、キャスター。

 

 

 

 あまりに近くで気付かなかったがキャスターは凄いね、サーヴァントだからだろうか。

 構成している核が、強い光を感じる。

 こんなにも小さくて淡いのに、目に焼き付いて離れない程に鮮烈だ。

 もっと見たい。

 もっと奥まで。

 

 祈り、念じ、集中していると、構成している魔力や魂、それを構成している基盤が見えてくる。

 淡いようで力強い光で構成されている基盤、凄まじい熱量が美しい。

 霊体のサーヴァントの元型(アーキタイプ)ともいうべきそれは、霊基と呼ぶべきか。

 ただ、奇妙な点があるとすれば、キャスターはその巨大な霊基と比べるには奔っている回路が少なすぎる。

 小さく纏まっているというのだろうか。

 それは無駄というよりも、霊基の可能性に感じられた。

 

 キャスターに魅入ってしまう。

 素晴らしい。

 こんなにも事細かに魂を中心とした流れを、生涯で見たことがあっただろうか。

 いや、ない。

 人生において、唯一だ。

 死に逝く親族を見送る際に、魂との接続が失われる様子を見たこともあった。

 それを遥かに上回る。

 活きている、その何もかもが言葉にできないほど神秘に満ち溢れている。

 

 サーヴァントというのはこんなにもすべてが美しいのだろうか。

 

 

 

 偽魂(ぎこん)があれば、と悔やまれる。

 今なら数世代先までの研究を終わらせられるかもしれない。

 魂、その形が見える今なら。

 高次元に存在するエネルギーを留める形、魔法の一つ。

 残念だ。

 魔法に興味はないが、この美しさを残せないのが悲しい。

 全ての人に分かち合いたい、自分だけの物にしたい。

 桐谷の家が魔術を研鑽する理由がわかった。

 これほどまでに美しいのなら手元に残しておいて……気付かない内に涙が流れていたようだ。

 

 本物に出会ったとき、深い感動を覚えるというが、まさにこのことだろう。

 素晴らしい。

 本物を知る事、それだけに価値はあった。

 意味はあった。

 

 何もかもが、何もかもが輝いていて……あれ?

 

 

 

 

 

 --3

 

 割れているかのような酷い頭痛で目が覚めると、キャスターに説教された。

 微動だにしなくなったと思ったら突然、血涙を流して倒れたとか。

 ごめんごめんと謝るが、視界が暗いままだ。

 あまりに美しい物を見過ぎて潰れたのだろうか、冗談だ。

 まあいいさ。

 見たくない物が見えなくなるなら、それでもいい。

 目に焼き付いたように霊基は見える、だからどうでもいい。

 

 キャスターが心配して回復させようと頑張ってくれたが、大丈夫だと制する。

 あれが見れたのなら価値はあった。

 俺の魔術回路が勝手に稼働していたのか、火照りを感じた。

 あまりの美しさに再現しようとして、視覚情報を取り入れすぎてオーバーフロウを起こしたのかもしれない。

 足りないのは処理能力か再現性か、器としての強度か。

 おそらく生身では桐谷の悲願は叶わないだろう。

 膨大な魔力で取り出した魂という高エネルギー体を抑え込み、利用するのは不可能か。

 肉体自体が邪魔になる……

 

 思考の坩堝にダイブしていると、キャスターにチョップされた。

 作家系のサーヴァント状態だったらしい。

 よくわからん表現である。

 視覚が戻るかわからないが、当分の間見るのは禁止だと言われ、目隠しされた。

 目隠しにはキャスターの制服の袖を使ったとか。

 男らしいサーヴァントだ。

 

 

 

 そろそろ行こうかと手を繋がれた、引っ張られる。

 先導するキャスターは何処へ向かうつもりなのか。

 

「キャスター、どこに向かってる?」

 

「あっちに赤い光がある。試しに行ってみようかと」

 

「赤黒い篝火なら行きたくない」

 

「赤黒くないよ。赤い光だよ」

 

「……それならいいけど」

 

 どれくらい歩いたのか、不思議と障害物に引っかかることなく歩き進めた。

 本当に何も無いようだ。

 暇だから、思いついた疑問を訊ねてみた。

 

「キャスターって聖杯にどんな願いがある?」

 

 サーヴァントとして召喚できる彼女らは、聖杯に叶えてもらいたい大なり小なりの願いがあるらしい。

 その願いを餌に、召喚に応えさせ、現世で戦わせるというのだから人間というのはホントに……まあ、いいか。

 

「願い? ないない」

 

 繋がっているキャスターの手は、なんの反応も示さない。

 柔らかく、温かい。

 

「でも、サーヴァントとして呼ばれたんだから、ほんの少しでいいから英雄に近づきたいと思ってる」

 

 キャスターは「知ってる? 英雄って強くてかっこいいんだよ」と続けた。

 その声音は茶化すようで、真剣だった。

 

 

 

 

 

 --8

 

 骸骨戦士みたいなのが出たらしい。

 スケルトン的なやつで、RPGだったら雑魚だろう。

 種類は剣、槍、弓の三通り。

 キャスターの魔術である『コードキャスト』でもボコせたのでかなり弱いようだ。

 見えないけど。

 いや、ぼんやりした光が或るなあって程度なら視える。

 キャスターは背格好まで視えるのだから、サーヴァントというのは凄いモノだ。

 見える輝きはいろいろあるけれど、オド、マナ、魂、神秘等の違いはなんとなくわかる。

 

 スケルトンが落とした骨を拾う。

 昏い視界でも、神秘を持ったモノなら見える。

 何故拾ったのか疑問を抱いているキャスターに、方向性の定まった神秘は何かに使えるかもしれないと伝える。

 骨だけでは意味が無いけれど、神秘が内包している素材をいくつか集めれば、パズルのように組み合わせて、新しい素材に作り変えられるかもしれないし。

 まあ、今は無意味なのでゴミが増えたような物だが。

 骨を砕き、中身だけを抽出し、こちらから魔力で形を与えてやれば、空気のように傍にあるのにエーテル体のように何処にも無い、みたいな状態になる。

 荷物も増えないのだから問題ない。

 

 

 

 スケルトンがぽつぽつと出現するようになってきた。

 なんとなく見えていたが、彼らは此処で死んだ人たちが、地面の泥によって形を与えられているようだ。

 その結果が、低級であろうとも神秘で魂を繋ぎとめられている亡者の軍団。

 怨みなどの感情ではなく、死に気付かなかった姿。

 すべてを砕かれるか、安らぎを祈られるかしないと、その魂は縛られ続けるのだろう。

 

 それはとても悲しいことだ。

 人は自由でなければならない。

 心は休まなければならない。

 魂がいつか疲れてしまうから。

 

 

 

 油があれば良かったのだが、残念ながら持っていない。

 お祈りで終われば良かった。

 それはとても残念なことだ。

 だから、現状では油で印を記せないので、普通に砕くのだ。

 重要なのは、その魂や心が安息できるようにすることだと思う。

 

 繋ぎとめている魂を剥がし、神秘を奪えば形が失われていく。

 調子が良い。

 以前できなかったことが出来るようになっている。

 目覚めて、キャスターを凝視したあとから視界は絶好調だ。

 見えてないけど、視えている。

 

 人を治す魔術は覚えられないのに、こんなことばかり覚えているのだから本当に堪らない。

 

 

 

 

 

 

  

 --9

 

 魂と肉体、生物が活動する上でその二つは密接に関わっている。

 魂が腐れば引かれるように肉が腐り、肉が腐り落ちれば魂は枷から解き放たれてしまう。

 魂が無ければ考えることもできなくなり、ただの葦にも劣る。

 双方を理解しなければ、一方だけでは意味がない。

 満ち足りないのならば、伽藍の器、消えゆく光、そのどちらかしか残らない。

 

 器が無くても留まるように。

 消えない光を灯し続けるように。

 

 そう成るべきだ。

 そう至るべきだ。

 そう造るべきだ。

 

――そう進化すべきだ

 

 

 

 

 

 --10

 

 キャスターに手を引かれ、歩き続ける。

 世界が見えないが、光だけは視える。

 最も強い光源はキャスターで、次いで空に登る篝火だ。

 足元に不安は無い。

 瓦礫は見えないし、キャスターも何も言わない。

 ならば障害物は無いのだろう。

 

 時折、ぼうっと光が灯る。

 あれらの光はスケルトンだ。

 生命を、魂を求めて彷徨っているのだろう。

 失った光を、ひたすらに。

 死後に与えられた仮初の生命とはそういうものだ。

 あれになったときの本能らしい。

 正しい形を取り入れて元に戻ろうとするのか、無意識に恨むのか、ただ光に混ざりたいだけなのか、それとも逝きたいのか。

 

 スケルトンらは、キャスターの腕から飛んでゆく光で打ち消されてゆく。

 亡者としての光は黒い炎のように暗く、魂が啼いている。

 それから解放された魂は、強く燃えるように輝いて、何処かへ消える。

 行き先は星幽界、霊界、天国といったところか。

 

 器を失った魂は世界に留まることなく消える。

 受肉した人間、仮初の肉体と霊体を持ったサーヴァントも、物質の根源であるエーテル体で腐り行く器を与えらえたスケルトンも、平等だ。

 残光ともいうべきエネルギーの放出は確認できるが、魂自体はおそらく一瞬で消えているのだろう。

 消えるというか、移動しているというか。

 移動時間はコンマ秒か、フェムト秒か、それとももっと短いのか。物質界で認識できない速さの可能性も或る。

 そもそも物質界の化学でいう原子のように、オカルトにも霊子という物質があると仮定されている。

 それは時間や空間を飛び越える。

 ともすれば観測するのは不可能か。

 結果だけが残る可能性を考慮すると、そういう魔術または礼装が必要になる。

 魔術では自身の腕によって変動するため、再現性が損なわれる上に精密性、連続性も怪しい。

 礼装を作るには何もかもが足りていない。

 自身の魂を観測装置として利用するというのはどうだろうか。

 形を与えた神秘を持っているが、再びこれから方向性を抜き取り、意味を持たせて同化する。

 ともすれば魂の行方、幽界の彼方への扉を結果として観測できるのではないだろうか。

 扉や道筋さえわかれば、その道程を再現し、新たなアプローチが試みれるのではないか。

 

 それは彼方へと行ってしまった死人すらも蘇らせ、零れた命を拾い上げられるのではないか。

 何度だってそこに行きつく、結局そこが最後になる。

 死した人が脳に焼けついて離れない。

 逝った少年の顔が焼けついて離れない。

 何か考えていないと頭が痛い。

 なんでこんなにも、世界は醜いんだ。

 なんでこんなにも、全てが汚いんだ。

 なんでこんなにも、なにもかもが俺では意味が無いんだ。

 なんでこんなに頑張っているのに何も実らないんだ。

 なんでこんなに

 なんでこんなに

 なんでこんなに

 なんでこんなに

 なんでこんなに

 なんでこんなに

 なんでこんなに

 なんでこんなに

 なんでこんなに

 

 

 

 

 

 

 なんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなになんでこんなに

 

 

 

 

 

 

 

 

 --2

 

 ふぅーおちついた^^

 

 発狂しかけたけど、キャスターのおかげで落ち着いた。

 キャスターにジッと見つめられると魂の照度で余計な思考が振り払えるし、熱量で焦がれるようになるので、かなりの気付けになる。

 サーヴァントってすげぇ!

 

 とりあえずキャスター無しであんまり思考の渦に飲まれると頭がおかしくなって死ぬかもしれない。

 勉強になった。

 ただ、魔術の研究って実際考えることばかりで苦悩の坩堝にダイブするから、かなりヤバい。

 キャスターだけ見ておこう。

 キャスター、おまえが俺の光だぁ!みたいな。

 

 とりあえずスケルトンは見えるべきではない、暗闇に引っ張られてしまう。

 地面の濁った輝きを持つ泥も、こころが疲れてしまう。

 昏い空も、魂が汚れてしまう。

 空への篝火は特に駄目だ、何もかもが悲哀に塗れる。

 ……キャスター以外を見たら魂や心が浸食汚染を受けるって地獄かここは(困惑)

 

 

 

 

 

 疲れは無いが、暇である。

 キャスターを見ていれば楽しいが、思考が乾く。

 素晴らしい光景を見て、絵にも写真にも出来ない気分というのだろうか。

 まどろっこしい。

 物足りない。

 

 魔術を使って再現したくなる、礼装で観測したくなる、その霊基を満たしてみたくなる。

 キャスターの霊基は小さく完成されていて、かつ拡張性を持っている。

 魂の枠、その中心に核がひっそりと美しく纏まっている。

 それを埋めた時、きっと何よりも美しくなるだろう。

 しかも、それは自由に組み換えることができ、何度でも形を変えることが出来るのだろう。

 なんて美しい。

 その霊基は一度だって同じ形にならないのに、魂はいつだって普遍のまま熱を灯し続けるのだろう。

 その行く末を見てみたい、己が手で満たし続けたい。

 なんて素晴らしいのだろう。

 

 あっ……。

 

 

 

 

 

 やっべー右目が潰れた^q^

 

 

 

 

 

 --11

 

 外を見たら魂とか心が浸食汚染。

 キャスターを見ていたらその美しさに限界まで魔力行使して目つぶし(物理)

 なにこれ糞ゲーすぎない?

 ちなみに右目が効き目だったらしく、魔力を使い過ぎて潰れてた。

 

 流石にキャスターも呆れたのか、目を潰したままのほうがいいんじゃないかと言ってきた。

 治療って鮮度が大事だし……いや、無くてもいいか。

 魂が記憶媒体なのだから、エーテルで神経を編んで魂にぶっ刺せば態々カスみたいに情報劣化させる脳を通す必要がなくなるし。

 そうなると眼球を形作る必要もなくなるから、外部情報を得る受信機を作ればいいはずだ。

 うーん、いろいろやりたいことが増えたが、ノウハウが無い。

 

 ここに来たときはテンパってて忘れていたが、魂と肉体が相互で補っているわけではないのだ。

 どちらか一方を治せば引っ張られることは無い。

 壊せば引っ張られるのは仲立ちしている精神が健全でなくなるためだろうか。

 俺の知識は第二要素である魂、第三要素である精神、そして第六架空元素の悪魔くらいと、偏っている。

 第一要素の肉体を知らな過ぎる。

 桐谷は第一要素へとリソースを割くのを嫌ったのだが、そもそも精神が鎹となって魂と肉体は繋がっているので、やはり肉体の知識は重要だろう。

 まあ、肉体への理解を深め、エーテルで編む感じになるだろうか。

 理想としては成り損ないな物質であるエーテルと炭素を織り交ぜて疑似的に肉体を作り、神経などの内部器官はエーテルで編むとかどうだろうか。

 概念を与えれば世界が認識してくれそうだ。

 重要なのは、なにを視て、なにを聴き、なにを嗅ぎ、なにを味わい、なにを触れ、なにを意識したのか、それだけだ。

 それが出来るのなら精神で魂を繋ぎとめればいいはずだ。

 時間をかけて魂を複製し、作った器に宿らせれば無限残機とかも出来るかもしれない。

 そう考えるとやっぱ肉体って要らないのか?

 

 あ、肉体は要らないが、肉体の代わりを生み出すために理解すべきってことだろう。

 なるほどなー。

 

 

 

 潰れた目を取り出し、宿っていた”見る”という記録を概念として抽出。

 肉体の末端とはいえ、魂が使っていたのものだ。

 経験の記録が滲んでいる。

 

 こういう何らかの経験が宿るように長年使い、魔力とか悪魔とかが集まる場所に置いておいたりすると付喪神になったりするのだ。

 今回は目玉だから放置しても有り得ないけど。

 使い魔化させたら目玉のオヤジ程度にはなりそうだが。

 

 さて、取り出したこれを……どうしよう。

 礼装を準備できる工房も道具も無かった。

 偽魂があれば良かったが、残念ながら無いのだ。

 残った左眼に宿しておこう。

 

 

 

 あ、めっちゃ見えるようになった!

 色分けされるようになってる!

 三原色から四原色になったくらい良く見える!

 

 そういえば、虫って四原色の世界で生きてるのが多いらしい。

 俺は虫だった……?

 

 

 

 虫と言えば儚い命に意味はあるのだろうかだが結果としてどろにまみれた。月の裏側にある世界が世に言う終末を祈っているのかもしれないが方向性を持つのならばそれはやはりなんらかの意志を受け取っているのだろうが泥にまみれた。それはかの騎士王が祈っているように世界はやり直すべきなのかもしれないしそうではないのかもしれないが結果として世界は泥に塗れた。分かり合うことのない世界に涙を流した男は常に歩き続けて無力感を感じたとしても泥に塗れた世界に意味は無い。憎しみが募った闇の帳は全て黒い泥で世界を浸食するこの大地も黒い泥であり世界を照らす篝火は無力感と絶望と怨嗟と悲哀に塗れて黒い泥が世界を浸食しているだけにすぎない。黒い泥は泥と呼ぶよりももっと高い次元にそんざいすべき力を内包しているが本来は無色であるがそれはまたなんらかによって方向性が曲げられているので世界もともに曲がっている。そのまがった先は騎士王が望んだ国とは反する世界でどこまでも永遠に壊れ続ける地獄のような黒いどろどろとしたせかいなのだ。どこまでもどこまでもどこまでもくろいくろいどろにつつまれてどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもくろいくらいせかいにひかりはなくてどこまでもどこまでもどこまでもくろいくろいどろにしあわせはなくてどこまでもどこまでもどこまでもくろいくろいせかいはえいえんにこわれなおってこわれてどろをまきちらしてせかいをくってのんでたべてとりこんでそれはきっとどこまでもくろいせかいでどこまでもどこまでもどこまでもくろいくろいせかいがつづきどこまでもどこまでもどこまでもくろいくろいどろがせかいをおおいこまでもどこまでもどこまでもこまでもどこまでもどこまでもこまでもどこまでもどこまでもこまでもどこまでもどこまでもこまでもどこまでもどこまでもこまでもどこまでもどこまでもこまでもどこまでもどこまでもこまでもどこまでもどこまでもこまでもどこまでもどこまでもこまでもどこまでもどこまでもこまでもどこまでもどこまでもこまでもどこまでもどこまでもこまでもどこまでもどこまでもこまでもどこまでもどこまでもこまでもどこまでもどこまでもこまでもどこまでもどこまでもこまでも

 

 

 

 

 

 

 --4

 

 落ち着いた、たぶん。

 俺としては正気なのだが、突然思考が延々と繰り返されてしまう。

 壊れた家電製品感が漂ってて困る。

 回り続ける洗濯機とかなら電源を抜けばいいのだが、俺の場合は電源って魂になるのだろう。

 死ぬのは困る。

 キャスターの美しさを後世にそれとなく伝えることで、魂に関わる研究をしている連中に自慢して羨ましがらせたい。

 

 うーん、頭がバグってる感覚は無いのだが、有頂天になっている感じではある。

 この世界は正負を無視すれば俺にとって満たされている。

 完成しながらも完璧ではないキャスターが隣を歩き、世界は憎悪を含んだ魂で満たされている。

 天へと上る篝火は魂が幽界へと旅立つ様子で、空の闇はアストラルへの扉を決して開かないため、地の泥は行き場を失った魂を迎え入れる死体によって作られた虚構のスープ。

 俺に見えて聞こえる人々の様子は生前の記録、それがアストラルへと旅立てずに憎悪や後悔によって塵屑のような器に移ってしまうのだろう。

 死に逝く人々の記録に手を出しても意味は無く、俺はただ見ているだけだ。

 キャスターには黒く何も無い世界の様だが、俺には儚く醜くて美しい世界が見えている。

 だが素晴らしくは無い。

 一点の曇りもない物がずっとずっと素晴らしく美しいのだ。

 

 そう、美しいというのは……あうっ……。

 

 

 

 

 

 延髄チョップで再稼働させられた^q^

 

 キャスターに、俺が疲労でやばくなってる説を唱えられた。

 まだまだ全然大丈夫だ。

 この世界を視ないなんてもったいない。

 こころが疲れても見るべきだ。

 魂が擦り切れても見るべきだ。

 寝るなんてもったいない。

 記憶しなければ、記録しなければ。

 魂は磨いてこそ輝く、情報を集めてこそ……キャスターの膝枕はやめるんだ、それは俺に効く……!

 

 

 

 

 

 キャスターの魂の照度と熱量の心地よさには勝てなかったよ……。

 

 

 




A.D.1994 彷徨腐敗世界 ■■
全てが狂った世界。
名前を失った世界。
有り得ないことが有り得るし、有り得ることが有り得ない世界線。
騎士王が聖杯を勝ち取り、黒い泥に祈った世界。
この時代に聖杯が願いを叶えたという事象、有り得ることのない望み、聖杯戦争が終わった直後へのマスターおよびキャスターの参戦、それらが全てを曇らせ、矛盾の螺旋を描かせた。
有り得ないことが有り得る世界線。

桐谷夕景
オリ主。なんか死に掛けてるカスマスター。縮めてカスター。
魂の扉を開きつつある。それは星幽界への途。
というか半開きで空けっぱになって繋がっているガバガバ状態。
その肉体は……。
魂を通してその『瞳』は、魂が還ろうとするエネルギーの残光として世界の記録が見えるようになる。
ただしそれらすべては人間にはあまりに過分すぎる情報である。
この世界を視続けるだけ、彼のこころには負荷が掛かる。



カスター
カスのマスターとキャスターコンビなんてカスターで十分。認めてほしくば百倍は持ってこい。

キャスター
月からの使者。なんか色々混ざっているので一人称はボク。
英霊でもなんでもないが、一応魔術師の面が強化されて召喚されている。
ステータスは多分EかD程度。コードキャストが使えるのでマスター自慢の魔術で弄って補ってあげよう。
諦めの悪さ以外は最弱のカスキャスター。縮めてカスター。
一体何はくのんなんだ……。

Status Menu
 ――――――――――――
  CLASS  キャスター
  真名   岸波 白野
  性別   女性
 身長・体重 160cm 45kg
  属性  中立・善
 
  筋力 10 魔力 40
  耐久 20 幸運 30
  敏捷 10 宝具 --
 
 ――――――――――――

※ステータスは20でE相当であり、20毎に1ランク上昇。


神霊・HACHIMAN
戦闘能力が皆無のはずにも関わらず数多の多元世界での培った様々な経験を元に、全てのクラスへと至ることが出来た神霊の一種。
すでに概念と化し、多重次元へと進行を開始している存在。時には転生という手段も用いる多芸者。
学業は国語で学年3位を取っているように得意分野は高いのだが、数学は9点で学年最下位と得手不得手が非常にはっきりしている。
その他、大抵の事はそれなりにこなす事が出来る器用さも持ち合わせている。
趣味は読書で、ライトノベルが主だが一般的小説も読む。
好物は甘いものとラーメンで、MAXコーヒーを愛飲している。
非常に優れた能力によって嫁を貰い、専業主夫として生きることを望みとしながらも、多くの世界では数多の嫁を貰い矢面に立って稼いでいる様子が見て取れる。
ぼっちのため異世界には一人で行き、女性以外の他人と会話をする機会が少なく、名前を正しく呼んでもらえない。また、異世界では敵ですら娶ろうとすることもある。
エミヤやオリ主とは比較的親しくなったが、それでも積極的に話す事は無い。
「理性の化け物」と評してあげたいが、二次創作界では困難。彼の行動は諸氏が感じている通り、理性的な行動ではないから。
別に好きじゃないので登場予定はない。

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